●テレフォン新世界@ほぼ1年ぶりですな RRRRR…… ピッ。 「ハイもしもしメルクリィですぞ。……アザーバイドさんですか?」 だって着信した携帯電話の画面が文字化けしていたから。 斯くして返って来たのは、なんとも陽気な声。 『ハァイもしもし~大当たりデスヨ。君は第@∴*ボトムチャンネルの金属人間フォーチュナだネ?』 「……貴方、チャンネル名『お菓子の世界』のオカシな公爵様ですね?」 『そのト~リ。今、$5*端子でキミに別チャンネルからιΩを媒体に干渉しているのだヨ』 「おぉ、相変わらず色々とスンゴイですな! んで、此度は何用でしょうか?」 『ハロウィンパーティ、またやるんですってネ。調べましたヨ。それでだネ、キミ達のチャンネルでまたパーティしようと思っテ』 「マジですか!」 『マジデスヨ! このやりとりも久々ですネ。それでデスネ、今年はリベリスタ達とちょっくらゲームがしたいのデスヨ』 「ゲーム?」 『ウム……アッしまったデスちょっと後ろに並んでる方が早く代わって欲しそな視線を投げかけてきましたのでボチボチ切りマスネ。場所とかの詳細は後でγ@∴で送りマース☆』 「γ@∴!? あ、ファックスの事ですk――」 ピッ! プーッ、プーッ…… 「……」 フォーチュナは苦笑を浮かべながら溜息を吐いた。そのまま携帯電話をちょっと操作し。 「もしもし蝮原様?」 『……』 「あっ 待って 切らないで ちょっと マジ」 『何だ』 「トリックオアトリートですぞ!」 『寝言は寝て言え』 「そんなこんなでハロウィンですぞ蝮原様 リベリスタの皆々様も貴方様のお越しをものっそい楽しみにしてらっしゃるので来て下さいね! 絶対に!」 『は? お前――』 ピッ! プーッ、プーッ…… 「……実際、複雑だぜ」 ●トリックオアトリートですぞ 「まぁ、アザーバイドっていうのは遍く我々の常識で測れない存在ですな」 事務椅子に座り込んだ『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が冗句っぽく肩を竦めてみせ、先程の出来事を締め括った。 「そんな訳でして、皆々様にはアザーバイド『オカシな公爵』様とハロウィンパーティをして頂きますぞ。彼は去年もいらした御仁でしてね、とっても優しくてとっても良い方ですぞ!」 アザーバイド『オカシな公爵』。 それは上位チャンネル『お菓子の世界』からやって来たおえらいさんである。アークのリベリスタとは度々交流している非常に友好的なアザーバイドだ。 その世界の名の通り、彼はお菓子を自由自在に作り出す事が出来る。然し見た目がグロイ。なのに、この世のものとは思えぬ程に美味しいのだ。 「サテ『ゲーム』の事ですが、公爵からファックスで送られてきた情報によると――」 件の『γ@∴』とはファックスの事だったらしい……というのはさて置き。卓上に置かれるそれ。 どれどれ。 りべれすたの皆様 おひさしぶっりです ね! お世話になっとりやがれです。インド人を右へ!お菓子の世界のオカシな公爵ddddddddす。敬具!! このたびはハロウィーンパーチーとの ですので、私は、Because、お菓子好きかい?うん、大好きさ! ゲームをしませう。 私は大きな大きなお菓子の家を貴方達のチャンネルに建てる事が出来るでしょう。 りべれすたさん達が、このおおきな おおきなお菓子達を食べ尽くすか おなかいっぱいになってしまって ぽんぽんがもちもち こうさーん なのか わくわくなのです。 バイザウェイ…… お う ど ん (かにみそ☆) 「――だそうです」 うん突っ込み所しか見当たらなかった。 「ええとですね、要はオカシな公爵様が大きなお菓子の家を造るそうです。それを食べ切れるかい? っていう、所謂フードファイトですな!」 因みにお菓子の家はほっとくとじわじわ再生しちゃうそうです。でもお腹の中に入れればもう再生しないとの事なので、その辺は安心だ。 「勿論ハロウィンですので仮装もお忘れなく! それから公爵様ががおられる間の崩界加担については問題無いですぞ。そんな短時間じゃ世界に悪影響を与える事はありませんので。 それとバグホールについても、公爵様が『異世界を渡る能力』を持っておられるのでブレイクゲート等は不必要ですぞ。アザーバイドって何でもありですな! サテ――説明は以上です。ハロウィンパーティ、思いっ切り楽しみましょうね!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月07日(水)23:52 |
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●さぁ始めよう幸せハロウィン ハロウィンの夜、リベリスタを迎えたのはお菓子の家。でも世間一般で言う『お菓子の家』とは大分と見た目が違う家。端的に言えば、超グロい。 「う……これがお菓子の家……なのか? 俺が知ってるお菓子の家となんか違うんだが……いや、まぁこういうのもあるんだろう……か」 「おお……これが噂のオカシな公爵の御菓子。見た目と味は聞いていたけれどすごいものだ」 「タダでお菓子が食えるつーから来たんだけどさ……話にゃ聞いてたけど、ちっと予想を越えすぎるグロさだね……」 レン、七海、瀬恋、その目に映るお菓子の家の見た目に思わず零した言葉。「まぁ匂いが悪かないのが救いかね?」と瀬恋は複雑な表情を浮かべる。 「お菓子の家とか一体全体どこの童話の話!? やっべ子供の頃の夢が叶っちゃうよ!」 そう意気込んだ蒼司郎、その眼前に立ちはだかるグロハウス。思わずフリーズ。 (あぁ、でも本当グロいなんだこれなんだこれ……) でも、見た目がグロかろうが美味しいお菓子は正義なのだ! 「えへへ、願いをかなえてほしけりゃお菓子をよこせー♪」 大人っぽくてセクシーでしょ、とランプの精霊仮装で真独楽はぴょこんと前に出た。そして周りの人が遍く見上げているモノへ視線をやると…… 「ふにゃあ……あ、相変わらずスゴイよぉ!」 「うっわ、すっげぇ極彩色だな……しかもでけぇ!」 ウサギ仮装のモヨタと共に目を見張る。 「でもクリスマスの時たべたから知ってる、これ超おいしいんだよね!」 「あぁ、公爵のお菓子は久しぶりだな。去年もすごい見た目だけどうまかったし、今年も食いまくるぜー!」 えいえいおーと盛り上がるそんな彼等の様子を、エナーシアはカメラを手に一望した。臼に乗ったババ・ヤガー、露西亜の魔物の仮装にてオカシな公爵へ御挨拶。 「公爵は御久方ぶりなのだわ」 「オヤ、お久し振りデスネ! 元気してたデスカ」 「それなりに、といったところかしら。それにしても……」 視線の先、件の家。なんか蠢いている。 「昔に何でも屋のお仕事でお菓子の家を実際に建てたことは有るのだけど……随分立派な豪邸ね。お菓子の家っぽくファンシーに可愛い感じに作るのは難しいのだけど中々にやるのだわ」 見詰めるエナーシアの口から漏れたのは素直に感嘆であった。ハルキゲニアやダイオウグソクムシを可愛いという美的感覚――もしかして:美学主義。 「流石は公爵といったところ……、なのでせうか?」 ピースする公爵と一緒にパチリとフラッシュ、カメラに収める食べ始める前の家。これで準備は完了。 「劇的ビフォーアフターにしてやるのだわ!」 右に同じと意気込むのは義弘、甘いものと聞いて。 「ありがとうよ、実はこういうの、ちょっと夢だったんだよ。今日は楽しませていただこう」 公爵へ感謝の言葉を述べ、向き直る家を見るのは好戦的な目。お楽しみイベントとはいえ、これは公爵との勝負だ。見た目はちょっとグロいかもしれないが、そこは美的センスの違いと思って。 「負けてはいけないよな。根性入れて、なおかつ楽しみながら勝負だ!」 「こんだけ人いりゃあ余裕で完食できんじゃね?」 「敵はデッカイほど燃えるでしょ。この時の為に朝ごはんも抜いてきたし……みんなで力あわせて、食べつくすぞぉ!」 お菓子の家に向かう義弘、モヨタ、真独楽。と、その前に真独楽は公爵へと向き直り。 「今日はありがとう!」 「イエイエ! 一緒に楽しみまショウ♪」 「うん! いっただっきま~す!」 わぁいとハシャいで駆けてゆく。蒼司郎もそれに続く。 「ハッピーハロウィーン~お菓子の家を食べつくしますヨ~♪」 あ、やっぱ今の無し。自分の胃は限界突破しない方向で。無理せずマイペースにもぐもぐと。一口齧れば天国だ。 「ふふ……おかし……あまいもの……幸せ……」 七海も公爵へ「頂きます」の挨拶の後、色んな所を食べ歩き。見た目がキツイほど美味しいのか、自分に合うのはどれか、熱を通してみたらどうなるか……然し上半身裸な仮装に赤い外套を羽織っただけなのでちょっと寒い。 「あーこの見た目はアレだけど温かそうなスープみたいなのと熱々の蝋燭どっちがいいかな……」 フラフラ彷徨う一方で、そあらはむぅと唇を尖らせていた。またオカシな公爵か。前に彼のお菓子を食べた時、美味しいけれどなんだかとっても複雑な気持ちになったのを覚えている。 「これはもう、有名童話の可愛いお菓子の家じゃなくてホラーハウスですねぇ。こんなお家じゃさおりんとメルヘンチックラブに過ごせないのです」 そんなこんなで取り敢えず苺味な所を頑張って探すそあらであったが、何分デカイ。これじゃ探している間にお腹一杯になってしまう。どうしたものか――そうだ! 「あたし、目隠しして食べるですよ。あたまいいのです。そうすれば美味しい思いだけできるのです」 そあらさんは出来る女なのです。きゅっと目隠し。ところがどっこい。 「あ」 なんとお菓子の家から遠い所で目隠ししてしまった!だがそあらさんは出来る女だ、大事な事なので二回言うのだ! 「も、もう少し先かしら?」 手探りでうろうろ。と、その時! 「はぅ! 何かにつまづい――」 べちゃぁ! (´・ω・`) 「じわじわ再生するお菓子なんテ、子供の時読んだ漫画のネタにもなってたのダ」 スケルトンインコ仮装のカイはフムと頷いた。確か栗饅頭が増えていくのだ。そして食べきれなくなって最後は宇宙に打ち上げる、という話。 「そうダ! 食べきれなくなったラ、宇宙に飛ばせば良いのダ!」 「何処のナニえもんですか」 「……いやいヤ、そんなもったいない事はしないのダ」 メルクリィのツッコミに手を振り、一緒にお菓子タイム。 「見た目はグロイが味は相変わらず素晴らしいナ~!」 もぐちゅもぐちゅと内臓的なサムシング。スケルトンインコ@内臓入りの出来上がり! 「お菓子の家を食べつくすのです!!」 エーデルワイスは怒涛の勢いでお菓子の家を食べ進める。見た目なんか気にしない、美味しければ許される。体重?体型?そんなものも気にしない、何故ならメタルフレームだから。でも『重い、太る、デブ』は禁句な! 「いいぜ、アンタがうち等がお屋敷を食べきれないと思うなら、先ずはその幻想を以下略!」 アリス仮装のフラウもお菓子の家へと立ち向かう。それにしても食べ物は見た目が大事というが、これを見ていると何とも言えなくなってしまう。 「イヤ、食べるっすけど。食べるっすけどね?」 等と言いながら恐る恐るグロ物体を口の中へ――そして突き抜ける衝撃! 「なん……だと……?」 美味い!(テーレッテレー) 「てーかホント詐欺ってレベルじゃないっすよ、コレ!?」 こんなに美味しいモノがこの世界に在るのか。嗚呼これで見た目が本物のお菓子の家とかだったらどれだけ良かったものか、なんて。お菓子の世界の住人は皆こんな感じの美的センスなのだろうか?取り敢えず限界に挑戦だ。 「な、なんだこれは!?」 ベルカは衝撃を受けていた。 これから 毎日 家を 喰おうぜ? 喰おうぜ? 喰おうぜ……?(←謎のエコー なんかこれこの前も言った気がする。 「まあいいとして、派手にやるではないか! さすが異世界の公爵である」 飽きが来ない。それでいてヘルシィ。でも見た目がグロい。然し美味い。もぐりもぐりと止まらない。ハッと気付いた時には無心に柱のグミ(の様な名状し難いモノ)をもぐもぐしていた。 「この美味さが神秘なのか? それともグロさが神秘なのか……深いな……」 そんなリベリスタ達の様子を咬兵はのんびりと眺めている。と、そこへ声をかけたのはフランケンシュタイン仮装の杏樹。 「Trick or Treat? 甘いもの好きか分からないけど、アルコールなら行けるか?」 「まぁ甘いもんは嫌いじゃねぇな。アルコールは大歓迎だ」 何だ、くれんのか?冗句混じりにそんな言葉を吐いた彼の肩にポンと手を乗せて。「何だ?」そう訊かれる前に、杏樹は咬兵を抱えるや簡易飛行で飛び上がる! 「!? なっ……」 流石の咬兵も予想外だったようだ。上がる高度。空に近く。地面は遠く。夜空の中。皆の様子がよく見える。 「誕生日おめでとう、咬兵」 杏樹が言ったのは祝いの言葉。それから、プレゼントに銃弾のペンダントと、夜空の光景。思い付いたのはこれ位だが、背中を守って貰ったりと世話になった彼の誕生日を祝いたかったのだ。 「咬兵見てると神父さま思い出すな。守れる背中は憧れる」 彼方の夜景に目を細めながら――憧れると同時に、ホッとする。彼は自分の目標だ。 「……あぁ、」 ややあって、手の中の目の中の贈り物に咬兵は声を漏らす。 「こいつぁとんだ『Trick』だな」 苦笑交じりの、溜息。彼なりの感謝、口元を笑ませて。 「貴方の先の一年が、運命と幸福に恵まれますように」 「……ありがとよ」 「くー、やっぱうめえなー!」 でろでろした壁を齧って穴を開けて、モヨタはお菓子の家の中へ。お菓子でできた家具を片っ端からもぐもぐ! 「この黄緑のやつめっちゃうめぇ! お前も食ってみろよ!」 「お、それじゃ頂こう」 モヨタの勧める何とも言えないブツを受け取ったのは義弘、流石に一人で黙々と食べるのも味気ない故に。何事楽しまなくては、そしてその楽しさを誰かと共有出来るともっと良い。 「いただきます」 髪と同色の狼耳&尻尾で狼男の仮装をしたアーサーは手を合わせる。ゲームとはいえ礼儀は大事だ。 然しゲームという名目で死ぬほど美味しいというお菓子を食べ放題なんて素晴らしい、遠慮なく食べて食べて食べまくるとしよう、堪能しようそうしよう。 「御菓子の家っつーか可笑しな家って感じだけどなー」 美味しいけれどこの見た目はどうにか出来んのか、とモノマはもぐもぐもぐ。なので徐に公爵に訊いてみる。 「このお菓子の見た目ってあんたらの所だと一般的なデザインなのかー? 建物とか風景とかも?」 「オォ、私のチャンネルには言葉で説明しきれないぐらいお菓子がいっぱいあってデスネ、どれが『一般的』なのか我々にもナントモ言えんのデスヨ。因みに我々の世界のモノは全てお菓子でできているのデス!」 ナントモ、トンデモ、ビックリ話。 「そりゃ凄ぇな……。こっちだと、こんなんが一般的なのだ」 そう言ってモノマが渡したのは飴玉と、ケーキやプリンと言ったスイーツの写真。 「存じておりますヨ! 皆様からはたくさん教えて頂いたのデス」 曰く、折角だから自分の自慢のお菓子を食べて欲しいのだ、との事。成程なと頷いた。まぁ、見た目グロイけど、思わず蹲るレベルで美味から仕方がない。 「うめーなこれ」 森羅行で無理矢理消化を促そうと試みながら、食べ続ける。 しんらぎょー。もぐもぐ。 りゅーすいのかまえー。もぐもぐ。 しんらぎょー。もぐもぐ。 「いえす、おかしだいすきれっつぱーてぃー!」 ワーイとハシャいで直にコホン、亘はお菓子の家を見ながら久しぶりな公爵へ挨拶を。 「ふふ、御機嫌よう公爵さん。また貴方のお菓子を食べれると聞いて文字通り飛んできてしまいました。えぇ、例え再生してどんな量があろうとも食べきってみせますよ!」 「頼もしいネ! ワクワクさせて貰いマスヨ!」 さぁ頂きます、っとその前に。 「あ、それとですが今日はいつもの新作を持ってきたんです。宜しければ後で食べてください!」 そう言って亘がそっと差し出したのはカボチャのマークの付いた箱だった。中身は青くて球状をしたお菓子。不思議な形状、わぁ~っと喜ぶ公爵に、亘は満足気に微笑んで。さて、それでは自分も食べよう、異世界のオカシに感謝の意を込めて―― 「頂きます!」 一口食べればいつもの様に飛んでいく意識――お菓子が視える。オカシなお菓子が一杯で……まさかあの世界はもしかして……! トリップなう。その一方の快は思案に暮れていた。 お う ど ん (かにみそ☆) (この暗号に俺は心当たりがあるんだ) うどん、みそ、そしてハロウィンに付き物のカボチャ……これらが示す答えはそう! 「『ほうとう』――山梨名物『ほうとう』に間違いない! しかもカニ入りだ!」 謎は全て解けた!そういう訳で快はこのハロウィンでお菓子なフィールドでほうとうを探し始めた。 ――水分少なめで打った平打のうどんは煮込むことによってトロ味を生み、汁をいつまでも熱々のままに保つ。柔らかくほっこりとした味噌の旨味の中に、ホロリと崩れるカボチャの甘み。これらをうどんと一緒に啜る喜び!さらに、旬の茸や鉄砲仕込みの太ネギと、野菜だって楽しめる! 「ああ、温まるなあ……」 もしかして:郷土料理。 「え? お菓子じゃない? 細けぇ事はいいんだよ!」 守護神マジスイーツ()。 (ろうそくも食べられるの? どんな味がするのかな……) 真独楽も思案に暮れていた。抱え上げたお菓子の蝋燭、ユラユラ踊る火。もしかして火もお菓子だったりとか?なんて、ぺろり。直に口を離して、 「……あ゛ぢゅ!! フツーに熱いぃ……だまされたっ!」 「大丈夫かい嬢ちゃん」 真独楽は『女の子』だからお嬢ちゃんで間違っていない。筈。ひーと舌を出す真独楽の頭にポンと手を置き、瀬恋は気の向くままに辺りをぶらつく。そして視界に入ったのは咬兵の姿だった。 「おーっす、マムシのオッサン。菓子食ってる?」 「よう坂本。……本当に喰っても大丈夫なのか、あれは」 「いやー、うめぇのはうめぇんだけどさ」 肩を竦めてみせる。瀬恋自体は食べ物の見た目に拘らない派だが、それでもあの見た目で食欲が湧く者は居ないだろう、と。そんなレベルだ。 「まータダで美味いもん食えるんだからこれぐらいは我慢するよ。あ、その小腸みてーの取って」 「…… ほらよ」 その見た目故に自分で取れと言いたかったが、まぁ。お菓子の家から突き出た謎の小腸めいたものをブチィと引き千切り、咬兵はそれを瀬恋へ投げ寄越す。無頼少女は普通にもぐりとそれを齧る。結構抵抗なく食えるようになってきちまったな、なんて。 「いやでもこれマジ美味いわ。マムシのオッサンも騙されたと思ってしっかり食ったほうがいいぜ」 「……考えておく」 そんな溜息、呟き一つ。 ●フードファイト! 「いや、しっかしまぁ何つーか。こんなアザーバイドだらけなら平和なんだけどなー」 「ま、いろんなアザーバイドがいるってことだよなぁ。僕もできたら敵対するようなアザーバイドは来て欲しくはないぜ」 創太の言葉に頷く夏栖斗。こういうアザーバイドばかりなら、楽というかやり易いとは思うのだけど。 「しっかし。売られた喧嘩は買うしかねぇ! いくら菓子とは言え負けんの癪だしよ! ついでだ御厨! どっちが多く喰うか勝負だ!」 「よっしゃこいよ!」 おおおおおおおお……! ※上記おおおお~はイメージです。本当は黙々とお行儀よく食べてます。 「「……」」 甘いし美味しい、でも食べ過ぎでちょっと苦しい夏栖斗。同じく胃が半分位埋まって来た創太は、 「おーい、御厨おま……」 と、チラッと夏栖斗の様子を窺った、その瞬間。 「こうなったら力尽くだ!」 「ぶふぉっ!?」 創太の口に突っ込まれるお菓子。 「何しやがるこの野郎っ!?」 当然創太は反撃に出る。お菓子を掴んでぶん投げる。 「避けんなよ! 喰いモン粗末にしたらバチあたんぜオラァ!」 「ばーかばーか! ホモ太! ばーか!!」 いつもみたいにぎゃいぎゃい喧嘩――そんな二人の頭にゴズンと落とされたのは、メルクリィのグーパンチだった。 「食べ物で遊んでは……いけませんぞ……?」 「「だってこいつが!」」 「ほほう……」 「「ごめんなさい」」 そんなこんなで黙々もぐもぐタイムスタート。「負けるのは癪」と豪語した創太であったが、なんだか最終的に負ける気はするっていうかもう負けそう。 (それでも負けたくねー!) 頑張れ。メルクリィのサムズアップ。 「公爵様だ~☆ ヤッホー☆ 今年のハロウィンも来てくれるって信じてた! 今年もいっぱい食べるよ☆」 終は公爵のぽんぽんにもちーっと抱き付き御挨拶。お久し振りデスとにこやかなアザーバイド。 「わ~公爵様のお菓子ハウス、ボリュームもモンスター級だけど、見た目もモンスターハウスだね☆」 「フフフー、ちょっと張りきっちゃいマシタ♪」 はい、というわけで。 「第86回! チキチキ☆ベネ研お菓子フードファイト大会ー!! どんどんぱふぱふ♪」 舞姫と終、わぁいとハシャぐよインザハロウィン。 「好きとか嫌いとかはいい……お菓子を食べるんだ!! 最初にギブアップした子には、世にも恐ろしい罰ゲームが待ってるよ?」 「リベリスタの胃袋の凄さを見せつけてくれる!! とりゃー☆」 ナイフを振るってソニックエッジ!食べやすい大きさにカットしてはせっせと食べる! 「あまーい☆ おいしー♪」 それだけではない、食べるお菓子を変えていく事で飽きないように!時折お茶で口の中をリセット!だがそれも水分でお腹が膨れぬよう必要最低限だ! (やりますね……!) ゴクリと舞姫は息を飲む。流石の終だ。だが舞姫にも策がある。 「大食いのコツは、顎の疲労を抑えるために食べ物を細かくすることだって、漫画で読んだような気がしなくもなくもなくもないです!」 立ち塞がる者あれば、これを斬れ! 「ふははははは! 切り刻むなら大得意です! 今宵の黒曜は砂糖に飢えている……」 構える黒曜、繰り出すのは残影剣からのアル・シャンパーニュ!セレブでかわいい舞姫ちゃんは、おちょぼ口でしずしずと召し上がるのよ! ご き げ ん よ う ! 「男には負けられない戦いがある……。例えこの身果てるとも……必ず食べきってみせる……!!」 「この戦いは、絶対に負けられない――この身体(主にぽんぽん)が砕け散るまで、戦い抜く!!」 譲れぬプライド。ぶつかり合う魂。 例え運命を燃やそうとも――必ず、勝つ! 「「おおぉぉおおおおおッッ!!」」 それにしても君達、お菓子でフェイト削ろうとしやんとって><。 ●TEAM R-TYPE、出動! 「なにー! アザーバイドが作ったおかしな家だとー!? これは捨て置けん!」 「戦闘・非戦闘・敵性・非敵性に関わらず! アザーバイドとの接触はR-TYPEの責務なのであります!」 「友好的なアザーバイドも対象なんですよね、我がチーム」 「敵性だろうと善性だろうと、アザーバイドへの対応は我がチームの責務!」 TEAM R-TYPE、しゅつどうー!! 「と、ポーズを決めて参入したはいいとして」 ノアの視線の先には、ブリリアントとその傍に無表情で控えるシスター服のレイ。 「これ真面目に仕事すればするほど貪欲にお菓子にかぶりつく食いしん坊さんっつー流れでありますな。自分は一向に構いませんが!」 という訳でブリリアントの様子を観察。隊長はもぐもぐもぐもぐとお菓子の家を食べていた。けふっ。と息を吐いた。 「なんだこの、なんだ……見た目はアレだが実にうまい……」 「食べられるとはいえ、超常の物質。このグロさは……むしろ生体に近い気がします」 肩を戦慄かせるブリリアントに、レイは淡々と言葉を放つ。 「普段お菓子は一個までって決まりだからなー。今日ばかりは仕事だから! 仕方ない! な、レイ?」 目を輝かせて振り返るブリリアントに、お菓子管理係のレイは小さく溜息を吐いて。今日ばかりは大目に見よう。 「ええ、ええ、ブリリアント。頑張ってお仕事をこなしてください」 「ふははー、自分もこう見えても年頃のおなごでありますし、甘いモノはどちらかと言えば好物であります。たまにはこういうのもいいでありますな!」 「奇遇ですね、私もこう見えて甘党なんですよ。戦闘には大量のカロリーを消費しますからね」 ノアの言葉に応えつつ、レイは拳を以てチョコ(の様に見える名状し難い何か)の壁を砕き、齧る。無表情だがアホ毛がハートマークだ、ご満悦の証だ。 そんなこんなで適度に休憩も挟みつつ、皆で楽しく。 「ふーむ。レイのおっぱいと、このふわふわクリーチャーわたあめとどっちがふかふかだろうか……」 「え? どこを見ているのですかブリリアント? またおっぱいですか? これは食べ物ではありませんよ」 おっぱいとお菓子を交互に見比べ、ブリリアントはお菓子の家を食べ進める。その最中、チームの研究所で見た様な形のお菓子を発見した。なんかこううじゅるうじゅるしてるサムシング。丁度バレンタインの時にブリリアントが作ってしまったアレの様な。 「ふむ、アザーバイドの造形にも共通する物があるのかもしれんなー」 なんて、もぐもぐもぐ。 ●一石二鳥 「今日のご飯です。3食分をここで賄いますので、紅葉と久嶺は覚悟しておいて下さいね」 お菓子の家を前にして、亀仮装のヘクスはキパッと言い放つ。 「うっへ、グロイわね、このお菓子……」 なんか今にも襲ってきそう、と赤の女王仮装の久嶺は顔を顰めては姉の紅葉へ振り返った。 「大丈夫、お姉様? こういうの耐性なさそうだけど……」 「……大丈夫ですか紅葉? かなり酷い事に事になっていますが……」 久嶺は訊かなくてもいいか、なんてヘクスの心の中の呟き。そして当の紅葉――烏の羽を模した着物を身に着けている――は、苦笑を浮かべ。 「気持ち悪いものへの耐性は……まあ、ラ・ル・カーナの世界樹で慣れました。慣れって凄いですよね。 それに駄目だったらヘクスに食べて貰えばいいですよね……うん」 「……」 ヘクス、ノーコメント。 一方の久嶺は咬兵を見かけたので彼へと手を振り挨拶の言葉を投げかけた。 「蝮原さん、ごきげんよう!」 「よう宮代。今日はダチと一緒なのか?」 「あっちにいるのはアタシの麗しのお姉様と、ただの喋る壁よ」 喋る壁って、等と軽く笑い。そんな彼に久嶺は訊ねる。 「蝮原さんって甘い物好きなの……?」 「嫌いではねぇな」 「あ、蝮原さんだって、甘い物くらい、疲れた時とかに食べるわよね……なんかこんなことばっかり言ってる気がする、アタシ、ごめん」 「それぐらい気にすんな、誰にだって印象っつーモンはある」 「そうね……ありがと! さて、アタシもお菓子食べてくるわ! 食費節約のためにがんばらないといけないらしいし……」 踵を返して姉と友の下へ。お菓子の家の中。もぐもぐしながら辺りをうろうろ。 「3食分賄うと言われましたが……流石に胃もたれしそうです、見た目的にも」 「ふむ。お化け屋敷を食べていると思えば別にこのグロテスクさも気にならないですね」 紅葉が持参した魔法瓶入りのお茶を飲みつ、彼女は眉根を寄せる。再生しつつある所はグロすぎるが、気にしないでおこうとヘクスは平然ともぐもぐしている。 と、その最中。 「……久嶺、久嶺」 不意に友を呼ぶヘクスの声。何よ、と久嶺が振り返ったそこには。 「ラヴハート」 心臓っぽいお菓子を咥えたヘクスの姿が! 「うわっ、似てるけど、もう二度と見たくない奴の真似するな!?」 「もうヘクスったら。お仕置きです」 宮代シスターズの反撃。顔を蒼くした久嶺と笑顔のままの紅葉が、ヘクスの口に思いっ切り芋虫みたいなテカテカした虹色のお菓子を捻じ込んだ。 「ストップ謝りますから、紅葉もにこにこしてないでもぐぅ……おいしいですけど、精神にきますね。これ」 なまじ美味しいから何とも言えないヘクスなのでした。 ●天守の子供達 「……例によってわが孤児院は貧乏です。ろくにお菓子もたべられない。お菓子ばかりでは健全な成長はのぞめないのでまあいいか、とは思いますが」 エリエリは妹達の顔を見渡し、手を広げては高らかに言い放った。 「今日ばかりは食べ放題! みためなんてにのつぎ! たべつくしてやるのです! ゆけー!」 ところがどっこい梨音は顰めっ面の蒼い顔。グロ菓子を手にしたまま固まっている。毎度毎度、彼女には孤児院での試練がある――そう、こういった食べ溜めする系のお仕事だ! 「速度系ソミラとしても……水着ロリとしても……食べ過ぎは……職業せいめいにかかわる……かかわるんだけど……なぜか毎回つかまる……」 エリエリにずるずるドナドナされた記憶が脳を過ぎる。その上、 「てがとまってますよりっちゃん! リベリスタはふとらない!」 当の本人から凄まじい偏見台詞を浴びせられたので、是非も無し。なるべく被害を減らしながら参戦だ。 (食べ過ぎでぽんぽんぺいんはじゃあくロリ的に言って恥……) 故にここは工夫が大切だ。見た目がアレすぎるのを率先してがじがじ。皆が手を出し難い物を食べる事で『わたしちゃんと仕事してる』アピールだ! が。 「あれ……なにかなその目は……」 むしゃむしゃもぐもぐ。エリエリが見てる。じっと見てる。 「え……もっと食べろ……にゃー……」 むしゃむしゃもぐもぐ。その傍らで皆にお絞りを配り終えた美伊奈は目を真ん丸にお菓子の家を見渡していた。 「お菓子の家……絵本で読んで、想像した事はあったけど……実際に見ると、本当凄いです……」 さぁそれじゃあ食べさせて貰おう。しっかり手を合わせて丁寧に、いただきます。小さく千切ったお菓子を口に運べば、幸せな味が口いっぱいに広がって。 「……あ、本当に美味しい」 また千切っては一口、おいしい、また千切って一口。 「……あれ、ここさっき食べた様な……」 千切って食べ、千切って食べ。 「そ、そっか……私が食べるのが遅すぎて再生してるんだ……」 漸く気付いた。どうしよう、もっと一度に食べないと。ソワソワ。大きめに千切っては、ちょっと息を呑んで。 「……え、えい!」 赤面しながらも思い切って大きな口を開けて、パクリ。もぐもぐ、ごくり。ほっぺが落ちそうな味。 「……ふふ、何だかちょっと新鮮です」 照れながらも、綻ぶ表情。 一方で。 「はあ、はあ……なんっすかこれは……どう見てもモツじゃないっすかー! な……なんじゃあこりゃああああ!!」 タヱは両手一杯にモツっぽいお菓子を抱えて太陽に吼えてみた。だがこれが美味しい、食感はグミそのもの。 「エリ姐やんに食い貯めしようってんで誘われてきたのはいいものの……とんだホラーナイトでやすよ!」 ハロウィンという事で妖怪仮装だけれど、負けた。何かに。オカシな公爵、侮れん。 「でも公爵って事はお金持ちっぽいっすよね? 山吹色のお菓子もくれたらいいのになー」 「だめですよたえちゃん。公爵はアザーバイドだから、玉の輿したら向こうにいかないといけないから」 「あっ、これはほんとに色は山吹色だけど形はどう見てもモンスターだこれー!?」 「はっ、仕送りしてもらえばおかしたべほうだい……!」 「でもうまい……やめられない……」 邪悪ロリ、流石のフリーダム。 けぷ、とエリエリは息を吐いた。目を瞑ると色んな味がして面白い。 「そろそろおちゃがこわいころですね、みいちゃん?」 「はいどうぞ、姉さん」 美伊奈から手渡されたお茶を一口、エリエリはそれぞれ奮闘している妹達を見る。うん、と頷いた。 「それぞれがんばってるようでねえさんうれしいです」 こどもはこうでないと! ●砂糖より甘い 「お菓子……じゃなくてオカシな公爵じゃないかえ。また来たんじゃな、歓迎するぞよ!」 「オヤ、レイラインさん! お久し振りデス、そちら彼氏さんデスカ?」 「まっ……まぁ、にゃ……」 公爵が返した言葉にレイラインは頬を赤く。傍らのテリーは聞こえていないフリをしていた。ニッコリと公爵が笑う。「それではごゆっくり」と、密やかにその場を離れれば恋人二人。 「……それじゃテリー、一緒にお菓子巡りするぞよ!」 「えっ と これ 喰えんの? 嘘だろおま……」 「え? 見た目がヤバい? まあ確かにアレじゃが、味の方は最高じゃよ!」 「でも食欲わかねーってコレ、マジキモイぜ!」 「ならばわらわでお口直しはいかがかの?」 ぴょこんとテリーの正面に移動したレイライン、その仮装は――所謂彼氏コス。テリーに借りたもこもこコートに、ガスマスクに対抗したホッケーマスクをお面の様に後頭部へと装着して。。 「にゃへへー、こういうのもペアルックって言うのかのう? テリーの服、大きくてあったかいのじゃ……えへへ」 そう言って微笑む彼女にキュンときて、思わずぎゅーっと抱き締めちゃいました。もふもふ。 まぁそんなこんなで一頻りもふもふにゃんにゃんしたら、お菓子とジュースで乾杯と行こうじゃないか。 そう思って、レイラインは一歩を踏み出して。 「っとと、裾が引っかかっ……」 ぐらーりと体勢が崩れて。 「にゃ、にゃぎゃー!!」 お菓子の家にずべしゃー! 「レ、レイライーン!」 「またこのオチかえー!!」 取り敢えず全身がグロ菓子まみれになりました。にゃぎゃー。 「……」 そんな楽しそうなレイラインとテリーの様子を見、竜一はただ黙す。まあいい、今回だけは見逃してやろう。 「俺にとって何より大事なのはユーヌたんだからね!」 南瓜ヒーローは世界で一番のお姫様の為に。むぎゅーと抱きつく竜一に、然しユーヌは常のクール。お菓子の家を見上げている。 「グロ系と聞いたが、意外と愛嬌有る形だな? まぁ、食欲無くす度では青いケーキとかの方が上だな」 生物的なら割と普通に食える。平然と言ってのける。 「うちのお姫様は、なんか、ほんと、グロイのとかこわいの好きだね……」 「別に私はグロとか怖いの好きな訳ではないが、周りに恐がりが多いだけだ」 竜一の思ったとおり、本人は認めたがらないが。まぁ、でも、 「そんなユーヌたんも好きだよ! お菓子より甘いもの食べゆー!」 むぎゅむぎゅはむはむ、よしよしなでなで。 「グロいの食べる? はい、あーん!」 「ん、別に一人でも食べられるんだが」 んでなでされながらユーヌはもぐもぐ。「ほら竜一も」と一緒に甘い甘いお菓子をもぐもぐ。 「菓子より甘いか知らないが、」 嚥下した甘味。顔を寄せて、限りなく零に近い距離で、赤い舌で、彼女は恋人の口の端に付いたお菓子を舐め上げる。 「……綺麗に食べるようにな?」 薄い微笑み。となれば、張り切って格好良い姿を見せたいのが男心というもので。そう、これはお菓子の家を食べ尽くさねばならぬミッション。 「仕方ない、ユーヌたんをデブにするわけにはいかない! 俺に任せろ!」 がつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつ うっ、 ばたり。 「……そんなに張り切らなくても、無理はする気無いんだが。無理して詰め込んでも面白くないしな?」 言わんこっちゃ無い、とユーヌは倒れた竜一に膝枕をし、頭をナデナデ。 「魘されるほど詰めることはないのに、仕方ないな」 そんな所が憎めないのだけれども。いいこいいこ。 「Trick or Treat」 「壱和くん、ハッピーハロウィン」 シスター服の壱和、ゴシックな吸血鬼仮装のロアンがそれぞれハロウィンのご挨拶。然し、とロアンは思う。シスター服は随分新鮮――なのだが何か既視感が。ああそうだ、妹のと似てる。彼に摂ったら壱和も妹の様なものだ、妹か弟か分からないけれど。取り敢えずよしよし。 その手の感触にちょっと照れつつ、壱和は手を構えながら。 「ロアンさんは、悪戯がいいですか? それともお菓子?」 「それじゃあ、折角だし悪戯を――」 「とうっ」 「わぁ!?」 壱和のくすぐり攻撃!笑い転げるロアン。 さてトリックの後はトリートだ。壱和は紅茶クッキーを、ロアンは南瓜クッキーを大事に交換。後で一緒に食べよう、と。 「今日に合わせてコーヒーを持ってきたんだけど……苦いの大丈夫かな? ミルクと砂糖も良かったら使ってね」 「コーヒーは飲めますよ。ちゅ、中学生ですから……頑張る」 ロアンが魔法瓶に入れてきたコーヒーを味わいながら(壱和は苦いのを頑張って我慢しながら)、お菓子の家を見上げてみる。 「お菓子の家なんて作れるんですね。すごいすごい。夢みたい」 「お菓子の家……子供の頃憧れたな。壱和くんはお菓子好き?」 「そうですね。お腹も気になりますが、でも美味しくてつい手が伸びちゃいますね」 お菓子の家の壁をちょっとずつ食べながら、談笑。ロアンはこのグロ菓子が本当に食べられるか甚だ不安であったが、これが存外イケる。神秘って凄いなぁ、そう思って壱和へ振り返って。 「あっ、壱和くん。髪に何か付いてる」 「え、何処に?」 「いいからじっとしてて……芋けんぴ、かな? 髪についてたよ」 カリッ☆ (う……わーーー) すぐ傍に彼のにおい。恥ずかしかったりでドキドキ。なんでか胸がきゅっとした。だがいもけんぴだ。 ●もぐもぐ 「どうかな?」 「いいんじゃねえか」 うさみみに付け羽、アンジェリカは咬兵の前でくるんと回った。ちょっと恥かしいけれど、そう言って貰えて嬉しい。 さてお菓子を食べよう。見た目はアレだが凄く美味しい事をアンジェリカは知っている。楽しみだ。 「公爵様のお菓子、ひさしぶりね!」 アンジェリカと同じかしけんに属するニニギアもふんすと意気込む。お菓子の家。凄まじい色彩と質感、前より更にパワーアップしているような気がする。美味しかった記憶があるのに、それでも怯んでしまいそうな見た目だ 「かしけんの意地を見せないとね」 「そうね、もりもり食べるわ!」 相変わらずの見た目だけど、勇気を出して食べれば、ほら。ビックリするぐらい美味しくって。 「お菓子の家? 廃墟? 塊? なんでもいいわ、おいしいわ」 「やっぱり味は最高だね♪ ニニギアさん、どんどん食べよう!」 幸せいっぱいの顔で、只管食べる。食べる。 その最中、アンジェリカは不意に顔を上げてみた。咬兵が遠巻きから見ていた。目が合った。 「一杯食ってでっかくなれよ」 「……! ま、蝮原さんの馬鹿……!」 乙女心としてパクパク食べているのを見られるのは恥ずかしいのだ。顔を赤くしてお菓子をポイポイ投げつける。 「そ、そのお菓子、食べないと駄目なんだからね……!」 照れ隠し。 その一方、ニニギアはもぐもぐしながら真剣な顔で考え込んでいた。 「うーん、ほんとに、これ、なんなのかしら」 かしけんでこの味をどうにか再現できないものか。だが、駄目だ。『どうやって作るか』どころか『これがなんなのか』も分からない! 「だめだわ。でも、とってもおいしい」 美味しいならいいじゃないか。今は美味しく楽しむ事を考えよう。 「ばいざうぇーい、おうどんかにみそ☆いぇーい!」 晴はこういうワケワカラン系ハイテンションがワケワカランけど超好きだった。 「とにかく! 甘いものはー、別腹ー!」 荒ぶる甘党のポーズ!そんな晴の様子にリノは苦笑を浮かべる。実はそこまで甘味に興味はない彼ではあるが、晴が「参加したいけど一人寂しいなーチラッチラッ」とかしてきたので仕方なく。 「まあ、折角ですから楽しませていただきましょう!」 さてさてお菓子の家を食べ尽くすとか何とか。お菓子の家というからには、さぞや可愛らし…… 「晴君、騙しましたね?」 「見た目多少グロくても甘い=正義!」 「いや何ですかこの超前衛的現代アートっていうかそもそも食物なんですかこれー!?」 「お菓子なんでしょ? ……お菓子なんだよね? だよね! おっけー! それじゃ遠慮なくいっただっきまーす!」 おいしー!ぱねー!おいしー!!なんて感嘆詞を迸らせる晴の様子を暫し窺い、リノも半信半疑でお菓子を一口。 「……案外おいしい……ですが……視覚的にどうも食欲がですね……」 悶々。でも美味しい。不思議。 「にしても晴君、僕は君のその異常な味覚が心配ですよ」 溜息一つ、そして当の本人はちょっとお腹が膨れてきたので、ここで秘密兵器を使用。 「じゃじゃーん! これマイ蜂蜜ね。甘党の別腹を舐めて貰っちゃ困るね! 甘ければ甘いほどオイシイよねー!」 蜂蜜とかシロップドバァ。益々ぐろい。 「君のにも掛けてあげるね!」 「いえ、僕は現状で十分満足ですのでこれ以上の甘み成分は……こらー!」 なんかそれ甘党と違う気がする! 「うっは何コレまじでキモイ!」 「……へえ、随分いいセンスの上物だね」 ゐろはと暁の眼前にはSAN値直葬お菓子の家。そしてゐろはは暁の発言を色々聞き流しつつ、エキセントリックな色の何かをつっついて。 「へー、あでもこの辺とかちょっと可愛くない?」 「で、それはいいんだけどさ。僕食べ物系はダメだって再三言ってるのに、なんでこういう時だけ連れてくるかな……嫌がらせかい?」 「え? ああうん嫌がらせ嫌がらせ。つーか、実験? もしかしたらなんか食える物があるかもしんないじゃん? 的な」 「だろうね……楽しそうだね……」 溜息を吐く彼。しかしまぁ興味が無い訳じゃない。 「いいよねェこのいかにも食欲の減退しそうな明らかに無機質な物体。あと『家を食べる』っていう行為自体も中々琴線に触れるものはあるけど……」 あるけど……視線の先には、「まあアタシは勝手に食ってるけどね」とお菓子の家をもぐもぐしているゐろはの姿。壁に皹を入れて引っ剥がす。と、排水溝の髪の毛的な何かがズルズルズル…… 「う っわ何コレ。いやマジでなんだコレ……」 神妙な顔で、まじまじと眺めて、並の女子なら卒倒しそうなそれをいざ実食。 「……あ、うん普通にイケるわ。うまいうまい」 「おいしいかい?」 「ん? 超おいしい」 「そう、おいしいんだ……」 悪食男にとってはガッカリらしい。 「つか食えって御託はいいから……ホラこのへんとか」 そんな彼にゐろはは落ちていた欠片を投げ渡す。暁はそれを眺めている。ゐろはとお菓子を見比べる。 「食べればいいんでしょ食べれば……」 大きな溜息。一口もぐり。 「どう?」 そんなゐろはのニヤニヤ笑いとは対照的に、暁は明らかに顔を顰めた。 「どうって……甘いよ、あとなんか色々。いや、いいよ、あげる」 「だろうねー。まあいいよ、その分アタシが食うし」 ウマーと楽しそうにお菓子を食べる少女に、少年は再度の溜息を。それから呟きを。 「もう……見た目通りの味ならいいのに」 とんだ変わり者である。 去年のハロウィンと同じ、お揃いで。レンはゴシックスーツ、キリエはゴシックドレス。何となく恥ずかしがっているキリエだが、レンは似合うと思うんだけどな、と呟きを。 「……うん、折角のハロウィンだしね」 そう、今夜はハロウィン。年に一度のお祭り。 「Trick or Treat 楽しい夜を」 「Trick or Treat 良い夜を」 リボンでくるんだキャンディをネックレスにして籠に入れ、仲間達へと配り歩く。お菓子の家と言う名のホラーハウスがある故に、持ち帰れるようフィルム付き。 勿論、フォーチュナの存在も忘れない。メルクリィの元へ、声をかけて。「どうなさいました」と振り返る彼に、レンは屈むよう伝え。 「いつもありがとう」 首にかけるキャンディのネックレス。それから軽いハグ。キリエもスカートの裾を広げ一礼を。 「こちらこそ、いつもありがとうございますぞ!」 楽しい夜をと宴は続く。 そんな最中、レンと歩くキリエはふと気が付いた。 「あれ、レン少し背が高くなったんじゃない?」 「そう、だな。4cm程伸びた。このスーツも少し長かったのがぴったりになっている。まだまだ伸びる予定だ」 「ふふ……それは楽しみだね」 顔を上げれば賑わいの灯火。 (来年はスーツを、新調しないといけないかもしれないな) (来年はかかとの高い靴をはいてきちゃおっかな……?) 思いは胸に、祭りの夜。 ●75893そしてお菓子 「お菓子なのよ!」 年に一度のお祭りだ、楽しげな様子に羽衣の表情にも花が咲く。翼を翻して彼女が降り立ったのは、メルクリィの傍だった。 「初めまして、何時もお疲れ様なのよ。羽衣とお菓子を食べましょう」 「おや初めまして! 勿論ですとも、是非」 「どれがどんな味か、メルクリィはわかる?」 「どれも……これも……何とも説明が付きませんが、美味しい事は確かですぞ!」 言葉の最中にもお菓子の家を遥かに見上げる。可笑しな、可笑しな。その中から、羽衣は一つを指差して。 「羽衣、このピンクの食べてみたい」 「お取りしましょうぞ」 斯くして機械の手から渡されたのは…… 「み、ミミズみたいだけど美味しいのかしら」 うぞうぞっとしているサムシング。成程、説明が出来ないのも納得だ。 でも恐る恐る一口、食べてみれば。 「あ、あれ、美味しい……!」 口いっぱいに幸せな味。見た目からは想像もつかぬ感覚に羽衣は目を見張る。 「じゃあこっちの青いのも、緑のも、色がぐちゃぐちゃなのも、みーんな美味しいのかしら!」 異世界のお菓子、不思議で不思議だ。でも、とっても美味しい。 「そういえば、メルクリィはもう悪戯されちゃったのかしら。たしかシンクウカン、を割られちゃうのよね……?」 痛くない?そう顔を覗き込む彼女にメルクリィは笑みを浮かべ、今日は奇跡的に割られていないと安堵の声。 「とっても怖い悪戯ね!」 「全くですな!」 高い位置にある頭を、宙に浮いてよしよしナデナデ。 「ねえメルクリィ、羽衣すごく楽しい。メルクリィは如何?」 「勿論、私も凄く楽しいですぞ」 よかったぁと笑みを浮かべる。周りで聞こえる皆の笑い声が、嬉しくて幸せで。 「……羽衣、今日遊びに来てよかった」 すごく、しあわせね。 「咬兵……あれ……食べれるのでござる? ってか仮装はしないのでござる?」 「食べれるらしいな。……仮装? やってるじゃねぇか、『蛇人間』」 「それ単に幻視してないだけじゃないでござるかー!」 虎鐵の言葉に咬兵は薄笑う。それは兎も角、だ。眼前のグロ物体。何だアレ。お菓子?食欲が全く湧かないこれが?だが好き嫌いも良くないし…… 「咬兵、こうなったら毒を食わらば皿までな感じで一緒に食べるでござるよ!」 「……待て、お前がヤケで食うのは別に構わんが、何故俺まで?」 「ほら! 一緒に食えば怖くないでござる! よく見ると……美味しそうでござろう……?」 「そうだな鬼蔭、眼科行け」 「クッ……そ、それにもしかしたら咬兵も食べられる甘さかもしれないでござるよ?」 「別に俺は甘いモンが嫌いじゃねぇがよ……それとこれは話が別だろ」 「ぬおおお! 咬兵が! 食べるまで! 拙者は!! 話しかける事を!! 止めないでござるッ!!!」 「おま……」 虎鐵の気迫に流石の咬兵も呆気に取られている。良し、押して駄目なら引いてみろ。 「いや、滅茶苦茶美味しいって言ってるでござるしな。折角でござるし……?」 「……」 咬兵は考えた。ここで「仕方ねぇな」と食べたら、こう、彼に言い負けた気がして何だか気に喰わない。そこで、 「おい」 これ。と、投げ寄越した。包装された小さな箱。 「……あれだ。この前、言ってた奴」 因みに中身はアップルパイ。部下に買いに行かせた逸品。返事の前に踵を返す。まぁそれでも食ってろ、と。 【天井】。非。)<ちょっとべたべたします。 もふもふパンだなキョンシー仮装のまおは、面接着でお菓子の家の天井に居た。食べ物を踏んでしまうのは良くないが、粗末にしないでちゃんと食べるから大丈夫だろう。 という訳で、マスクのパンダ口を外して目に付いたものからもぐもぐ。天井の飾りのキラキラしたサムシングからカキ氷のような味がするのは何とも不思議だ。 さてある程度食べたまおは登ってきた順路を少しずつ戻り、足場にしてきたお菓子もちゃんと食べている。もぐもぐ。 そんな様子からアーサーはオカシな公爵とメルクリィ達へ視線を移す。 「今日は素晴らしい誘いに感謝だ。楽しませてもらっているぞ」 「それは何よりですぞ!」 「しかし、崩界を防ぐためとはいえリベリスタも大変だなぁ」 棒読み台詞、さぁお菓子の家を食べに戻ろう。 「……あっ」 まおのはっとした声。着慣れないもふもふ衣装故か、お菓子の色があちこちべたべたついていた。 「ほわ、これがトリックなのですね。まおは覚えました」 お家帰ったらちゃんと洗わないと。 「……和菓子っぽいのは無さそうだな」 心なししょんぼりと見た目で既に仮装の烏は溜息を吐く。だがおじさんは気が付いた。『オカシな公爵に羊羹とか以外にも和菓子の素晴らしさを改めて享受したら次こそは和菓子ベースじゃねぇか』と。おぉ、我ながらの冴えっぷりを褒めてやりたい。 という訳でお菓子の家は皆に任せ、烏はメルクリィ・咬兵・オカシな公爵に声をかける。アザーバイドを歓待、異文化に興味があるとの事なので日本の侘びと寂びを今回は体感して貰おうと。 「どうぞ」 手際よく。茶筅を使い抹茶を公爵、咬兵、メルクリィに点て。更に甘味としてカボチャ餡を練り込んだハロウィン向けの創作生菓子――ジャック・オー・ランタン風に仕立てた練り切り――を振るまう。作法は二の次、楽しんでくれと。 「……悪くないな」 「ですな~」 「これがワビサビ……なのデスネ!」 そしてこれが我がチャンネルのワビサビデス!そんな声と共に、公爵の指パッチン。烏の手元にグロお菓子がぼぼんと現れる。嗚呼、結局、こうなるのね。 さて勝負と言われて受けない訳にはいかず。今の禅次郎はスモトリ。スモトリなのだ。スモトリだから食べるのも仕事の内なのだ。 然し、だ。 「これは駄目だろ、余りにもグロいだろ。グロが合わさって名状しがたきコズミックホラー的な家になってるぞ」 いあいあ!そういう訳で意を決し、一口。 Wasshoi! 「旨い旨すぎる! グロいのに手が止まらない……!」 わっしょいわっしょい食べまくる。 だが彼を苛むのは、満腹感! 「くっ……ポンポンがモチモチだ……降参するしかないのか、黒星なのか」 歯を食い縛る禅次郎――すると、何処からともなく声が聞こえてくるではないか! 「最後まで諦めるな!」 「下半身から汗をかけ!」 「中途半端は嫌いだから最後までやる」 「母国に帰ってサッカーヤルヨー」 あれは……! 「初代、2代目貴■花! 北■湖関! あと誰だ!?」 「もうお刺身の上にタンポポ乗せる仕事はコリゴリダヨー」 「有難う。やってやるさ! 否やるでごわす! 俺達のハロウィンはこれからだ! いつも通り、ミリィは咬兵の近くでボーっと。唯一いつも通りじゃない所を上げるとすれば、赤を基調にしたゴシックスーツにうさみみ仮装という所。 ハロウィンと言えばやっぱりお菓子!そしてなんと目の前にはお菓子の家! 「私、お菓子の家とか初めてみ……あ、アレ?」 ミリィは我が目を疑った。何度も瞬きをして何度も目を擦った。だけど、目の前にあるのはグロハウスで。 「お菓子の家って……その、もっとメルヘンでふわふわで、あまあまな感じを想像していたんですけど……あ、あれ? ま、蝮原さん、コレって目の錯覚なのでしょうか?」 「錯覚なら良かった、と俺も今思ったところだ」 「……」 見た目のインパクトで凄いダメージを受けそうだ。だがしかし!これしきで負ける戦奏者ではない。 「美味しいお菓子というなら、頑張って食べるのです。女の子ですから!」 「頑張れよ」 「……ところで蝮原さん。少し食べてみませんか?」 「ほほう、『相模の蝮』を毒見係にするたぁ、高くつくぜお嬢ちゃん?」 「べ、別に未だに不安に思ってるとかそんなんじゃなありません……よ?」 本当ですよ、ええ。 「メルクリィさーん!」 「ルア様~♪」 いつもの様に突撃★どっかーん!むぎゅむぎゅ、今日はいつもよりぎゅーっと。それに気付いてか、メルクリィは今日は高い高いではなくルアを優しく抱き上げて。夜は冷える、でもくっつけば暖かい。 ――でも、心の奥底は、寒くって。 「……、」 この時期は少しだけ寂しくなってしまう――いや、『怖くなってしまう』が正解だ。 未だノーフェイスとして追われた記憶はルアの心を苛み、凍て付かせる。もう立てなくなる程の震えが来る事は無くなったけれど、それでも、ハロウィンが来ると思い出すのだ。 暗闇と、仄かに光るランタンの奥から攻撃がきそうで―― 「怖い」 ポツリと零れた、言葉。 「……ルア様?」 驚いた様なメルクリィの声ではっと気付く。いつも以上にくっ付いていた事と、零してしまった心の奥底を。口元を手で押さえれど、放った言葉が戻って来る筈もなく。 恥ずかしい。まだ怖いと思っているなんて。もっと怖い戦場はあったはずなのに―― 「何でもないの、お菓子たべよ?」 されどその気持ちを塗り替えて、ルアは笑う。彼の前では『明るいルア』で居たいから。 「そうですね、一緒に頂きましょう」 メルクリィは何も知らないけれど、進んで知ろうとはしなかった。先の『言葉』も聞こえなかったフリ。彼女には笑顔で居てほしいから。 甘い甘いお菓子を食べる。 口の中に広がる味は、『幸せ』。 ●羊道中 異世界のお菓子。祖母から常々お菓子は控えめにと言われているが、でもなんとかしにいかないといけないしな、と……そんな訳で色々食べながら歩いていると、『見覚えのある』山羊の角が。 「ゲフッ、もう食えねー……」 まるで六匹の山羊を食った狼の様な腹をパンパン叩き、満足げに転がっていたのは山羊混じりの女。爪楊枝で歯をしーしーしている。 (……ノアノア・アンダーテイカー) 陸駆は彼女を『知っている』。彼の持つ『新しい』記憶が強く反応する相手だ。なんて、じっと見ていると目が合った。 「ん? 誰だおめー」 「貴様もお菓子を食べに来ていたのか、僕は神葬陸駆だ」 「なに? かわかぶり? 違う? かみはぶり?」 「神を葬る者だ。墓守とは縁を感じるな……そうじゃない、そう言いたいんじゃない」 「まぁまぁちょっと待てよ、今シュッとするからよ」 言いながらノアノアはもっちりお腹を気合いでスッキリさせ、上体を起こしては胡坐を組んだ。頬杖。じっと見詰める。 「で、何か用かボーズ」 「それは――」 陸駆は逡巡する。泳ぐ視線に、「要領を得ねえ奴だな」と山羊の声。 そうして、ようやっと、陸駆は視線を真っ直ぐに戻して口を開いた。 「……羊が、貴様に伝えたいことがあるらしい」 「羊……?」 言葉と共にノアノアへと手渡されたのは――彼女の妹の『記憶』だった。見開かれる、ノアノアの目。その耳に『彼女』の声が響く。 『ねーちょん、ありがとう、先にいなくなってごめんね。大好きなのよ』 嗚呼。嗚呼、成程なとノアノアは息を吐いた。つまりコイツが。いや、違う、コイツはコイツだ、アイツじゃない。最後に軽く握り締めた記憶を、陸駆へと投げ返す。 「ほらよ、返すぜー」 言葉が終わる頃には返す踵。陸駆の目にはノアノアの背中が映る。 「ああ、そうだ……おいボーズ、私は貴様じゃねえ。お姉さんだバカヤロウ」 振り返って指差して、ヤレヤレと息を吐いて歩き出す。陸駆は遠ざかるのそ姿を具に見る。『彼女』の声は聞こえなかったけれど、伝わった事は信じて。 「はぁ~あ」 遠くなった喧騒、夜空の下、独り言めいた溜息。ノアノアは空を見上げる。 (謝って済むと思うなよボケナス羊め) 首洗ってそっち行くまで待ってやがれ。 ●ごちそうさまでした! 数時間後。 そこには元気に駆け回るリベリスタの姿が! 「もう二度とシロアリの真似なんてしないのです><。」 食べ過ぎで寝ころんだままエナーシアは『アフター』を撮る為にカメラを構える。レンズの向こうには、もうお菓子の家は無い――ゲームは、リベリスタの勝利。見事なものだと公爵の拍手。 「うますぎて一気にがっつきすぎたぜ……もうぽんぽんもちもち……」 「明日からちゃんと走らないと……」 げふぅと大の字のモヨタに、結局一杯食べてしまった梨音。 「ごちそうさまー!」 「ごちそーさまでしたー!」 一方のニニギア、晴はほくほく顔で手を合わせた。 「オカシな公爵、こんな幸せなハロウィンをあんがとな」 「何にせよ、美味しいお菓子どーもっすよ。また機会があったら、こうしてお菓子貰えると嬉しいっすね」 「御馳走様、ありがとう」 「ありがとう! オカシな公爵! 今日という素晴らしい一日をくれて!」 蒼司郎、フラウ、七海、エーデルワイスが公爵に礼を述べる。中でもエーデルワイスは包装したアップルパイを差し出して、 「お土産に私特製のアップルパイをプレゼントするのです!! まだまだ未熟な腕ですが受け取ってくださいですね♪」 今度来る時までに腕磨くですよー、と。笑顔。 「あ、同志ティバストロフだー!」 「おやベルカ様」 「ハッピーハロウィンですぞー」 食後の運動(?)キュッキュと肩のアレ磨き&トリート。 「いつもありがとうございますぞ~」 「なに、これしき気にするな。ところで同志。公爵に、『最後にいっぱい熱いお茶が怖い』とか言ったらどうなるかな」 「ホホウ」 バッチリ聴いていた公爵マジ地獄耳。指パッチンの音が鳴る。リベリスタ達の手元に暖かく芳しいお茶が現れた! 見た目はグロくない。ほっこり、立ち上る香りの何と優しい事か。 お茶を片手に、愉快なハロウィンは夜と共に今暫し続く―― 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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