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【千葉炎上】Come Sweet Dead Desire.

●千葉炎上
 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。
 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、
 巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。
 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。
 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。
 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。

●Down Down Down
 鈍色の空、コンクリートに囲まれた四角い空、流れて行くだけのただ暗いだけの雲。
 切り取られた盤面の如き空を見上げれば、湿った独特の風を巻き上げて、消える。
 鋼で作られた人々の足は、黒の装輪を黒の道に擦りつけて風を切っている。
 薄く浮かぶ月は今や赤の片鱗すら見せない、とても綺麗な美しき黄色。
 変わらない。その時が来るまでは、ただ、何も変わらない光景の中だ。 
 千葉県某所。見上げる度、ただ寂寞の念が訪れる。そんな、秋の空を。
 一人の男は、そっとため息とともに見つめていた。
 神秘界隈の裏の門より来る、勧誘の手紙の熱とは全く裏腹の、とても冷たいそれを残して。
 心に残るのは、ただ、壊れていった美しきあの憧れの片鱗だけだ。

(――無限の未来。そんなものに、何の価値があるだろう。
 僕の夢は、あの場所、あの時に最高の輝きを持って終わってしまったというのに。
 美しいあの横顔、あの素晴らしい殺人によって磨かれた、あの靭やかな体。
 僕と彼女が夢見た、最高の素体! 何故、何故伝説になんかなってしまったんだい?

 ――ああ、ジャック。 僕の憧れ、僕の望み、僕の理想。
 美しき倫敦の鮮血乙女<ミスト・ルージュ>。 君は。君はあの時、あの時初めて、『伝説』になった。
 僕は、それを遠くからしか見つめることは出来なかったけれど。
 君は間違い無く憧れだった。 君の美しい死に顔を、望めないのだけがただ、残念だ。
 だから――だから、僕は迎えに行くよ。君のそばに、ただ、居たいから。)

 崩れていく、崩れていく、崩れていく。自分の憧れだったものが、全て。
 ――組織の側からすればそれは重要な『コマ』で有ったのやも知れない。
 しかし、彼らの策謀など男にとってはただの余興に過ぎなかった。
 この男にとって、美しいコレクションを増やすための舞台装置以外の視点など、持ちえるはずもない。
 死こそ万人に訪れる最高の救済。なら、自分はそれをもたらす救済者になろう。
 美しき君の横顔と共に、眠るために。男はただそれだけを望んで、笑った。

 その数刻後だっただろうか、それとも、数日後だっただろうか。その時が訪れたのは。
 黒の服を身につけた仲間達の随伴を合図にして、作戦開始を告げる携帯の着信が、鳴った。
 それと同時、誰かの断末魔もまた、空に消える。

 ――美しき安穏を湛えし都、流血と紅に燃ゆ――

●All hope is None.
 箱舟を支える部下の一光景を覗けば、デスマーチ明けの晴れやかな顔をする者、
 そしてそのままのテンションのままに休暇に出かけて帰ってこないものも散見される。
 鬼の異変よりずっとのことだ。激務に過ぎたのは間違いがあるまい。
 そんな安息の日々の訪れ、戦士の休息を傍目に、鏡の巫女は己の神経を痛みによって漂白していた。
 感覚の暴走が肉体を時々痙攣させる。拷問の如き働きでも、他の者に務まる勤めではないのだ。
 処理する情報の量があまりに多すぎる。それを知るが故の、勤め。
 残酷なまでの現実と、彼女は戦っていた。 ――ヘッドマウントデバイスが、上がる。
 最初に出たのは、悪態だった。慣れていても、辛い。

「……最悪。仕事の量がいきなり増えた。

 ――聞いて。 現在千葉で六つのフィクサード組織が暗躍を続けているわ。
 彼らはそれぞれの目標達成のために合併し、巨大な組織になろうとしている。
 その手始めと成る計画のために、千葉県が作戦目標に指定された。

 計画の内容は、彼らが持つアーティファクト『モンタナコア』による組織の兵力拡大。
 寿命や生命力を代価としてフィクサードを覚醒、強化する能力を持つ代価型の魔道具ね。
 この効果により、現在フィクサード達は小隊規模にまで膨れ上がってるの。
 舞台として統率され、膨れ上がったフィクサードたちの目標。
 それは、『モンタナコア』と同種の効果を持つ魔道具、神秘の一欠片である『セカンドコア』。
 これ以上、彼らを放っておけば広大なエリアが彼らの制御下に落ちるのは明白ね。
 そして、アークに匹敵する巨大組織が誕生する。――これを許しておくわけには行かないわ。

 現在、フィクサード達はそれぞれの土地に散らばってる。
 彼らが合流すれば、間違い無く厄介になるわ。今のうちに、各個撃破の形で撃破しなければならない。
 人払いは協力組織のリベリスタたちにお願いしてある。存分にやって。」

 作戦の大部分を説明するのは、数がないわけではない。
 しかし、水が無いとやはり、辛い物になる。ミネラルウォーターのボトルの蓋が開いた。
 無味無臭の内部の液体を喉に通し、更に続ける。
 手元のデバイスがスクリーンを操作する。 そこに写っていたのは、過去を知るものならば知る顔。
 言い換えるなら、『もう一人のジャック・ザ・リッパー』――。アズライル・ネメクロス。
 そして、その配下に付いた部下数名の姿だった。

「――知ってるヒトからすれば、因果でしょうね。
 作戦目標、『死劇者』アズライル・ネメクロス。並び、フィクサード部下、数名。

 ――『死劇者』アズライル・ネメクロス。
 アーティファクトは二点所有が確認されてる。
 一つは補給系である、『栄光の手』(ハンズ・オブ・グローリー)。もう一つは、手に持つハチェット。
 ――最近の調査で、『レイネイラ』という女性殺人鬼が所有したものと判明。
 以降、『殺人鬼レイネイラのハチェット』と呼称。これは、ヒト型の存在を切ることに特化してる。

 また、彼の部下においては約五名。中級のフィクサードで、強化を中心としたスカウト系。
 こっちは多分問題ない。彼の享楽的な性格からして、統率なんて無理。
 集団指揮持ちがいない限り、各々バラバラに動く。
 だから、基本的には最大の懸案事項はアズライルであることに注意して。

 尚、このフィクサードを撃破しても此処で終わりではないわ。
 強行軍気味ではあるけれど、最後の仕上げとして九美上興和会撃破の任務に継続参加してもらう。
 残存兵力は直ちに現場へ向かい、コアチームと合流して。
 ……幸運を、祈ってる。」

 巫女の瞳が不安に揺れる。しかし、その不安は一時的なそれに終わるだろう。
 あの時と、もうリベリスタは違うのだ。それは、巫女自体が一番理解していた。
 戦場へ歩みを進める有志たちの背を見送る。もう、何度目になるだろう。
 そう、ふと考えながら。英雄たちを、送る。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:Draconian  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月06日(火)00:45
■STコメント
千葉炎上、お楽しみいただけているでしょうか?
ドラコニアンです。懐かしいあの敵ともう一度ワルツを。

■警告
相談期間6日と短めです。要注意。

【後半戦について】
 このシナリオの残存戦力は、コアシナリオ『九美上六代幹部、最終決戦!』へ参戦します。
 その際、PCはその場の空気を読みつつ自分なりに効率的かつ見せ場になりそうな行動を自動で行います。
 なので後半戦に対してプレイングをかける必要は全くありません。
 ですがどうしてもやっておきたいことがある場合は30文字まで特殊プレイングをかけることができます。
 その場合はプレイング最後尾に【後半戦】と記載し、その後ろにプレイングを書いて下さい。
 ただし、その通りに採用されるかどうかはわかりません。

■作戦目標
『死劇者』アズライル・ネメクロスの『撃破』

■戦地
千葉某所。ヒト払い、交通等の問題は全てクリアされています。
障害はありません。

■『死劇者』アズライル・ネメクロス
拙作、<Blood Blood>Adam and Eve of the Necros をご参考に。
西洋系のジーニアス・ソードミラージュ。
アーティファクトを2つ持っています。凶悪なのが揃ってる。

◆所有アーティファクト
・殺人鬼レイネイラのハチェット
ヒトを切ることに特化し、魔力を帯びたハチェット。
これで殺された死体は腐らない。ヒト型の対象に追加の大ダメージを与える。

・栄光の手(ハンド・オブ・グローリー)
屍蝋化した手を蝋燭化したもの。チャージ30を所有者に常時与える。

★所持能力
・ソードミラージュRank2スキルまでを全て習得済み。その内のいくつかを活性化しています。
・ブラッドドランカー:P:出血・流血のキャラクターの数に応じて攻撃力が上がる
・ネクロダンシング:A:遠物複:出血・流血
・EX:エンドレス・ワルツ:A:近物複:極高CT・弱点・流血・連撃・?

■部下
クリミナルスタア、マグメイガス多め。出血・流血のBSを多めに撒き、
上々であれば適度に撤退を行います。

■ワンポイントアドバイス
シナジーと合わさり純粋な強さ持ち。Be Patient.(我慢強く)

それでは、惨劇の宴の上で、お会いしましょう。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
デュランダル
紅涙・りりす(BNE001018)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
スターサジタリー
リィン・インベルグ(BNE003115)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)
■サポート参加者 2人■
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)
クロスイージス
村上 真琴(BNE002654)

●Cry Cry Cry
 ――それは、もう永遠に戻らない時間の針の狭間にあった出来事。
 神秘の門の向こう側にある、一般人が知りえぬ遠い、遠い戦いの記憶。
 今、もう一度あの時の戦いを此処に。在りし日の群像を、今一度重ねて。

 ☆ ★ ★

 赤き月の夜。思い出すに忌まわしくも感じる、あの美しい夜。
 悪魔が嗤う、美しきあの時はもう何処にもない。それは既に過ぎ去った時の中。
 もう、永遠に『君』に会うことも、無い。 寂寞すら、どこか残る残響は、ただ空に溶ける。
 既に消え去った栄光の向こう側。虚構にすら感じる退廃の向こう。
 そこに男は渡らんがため。此度、箱舟をキャストに『2つの月』と罪人(ツミビト)は踊る。

 決められた周波数で発された無線が、黒衣の男たちの狭間で飛んだ。
 風を切る体と同時。骨振動式の無線機から発される音は、指揮を担当する男よりのそれだ。

「Tms-Trems. Tms-Deco-Arc. Trems-Kill. Azr-Thr.」
(ツーマンセル・スリーマンセルで別れる。 ツーマンセルは囮。『連中』を寄せろ。
 本体と成るスリーマンセルでそいつらを潰す。 アズライルは放っておけ。)
「Acc. Gg.」
(了解。 良いゲームにしよう。)

 予め定めておいた略号を用いての短時通信。男たちは既にそれを見越していた。
 所詮コマはコマだ。それ以上の価値も無い。 故に、男たちはどこまでも見捨て、目的を果たす。
 箱舟は、必ず来る。その予感は、最早揺ぎ無いそれだった。
 それを裏付けるかのように、並行してアスファルトを叩く靴の音が、町中に響く。その中で。

「倒せるなら私達を待たずに倒してしまっていいですからね?」

 どこか不機嫌な声が一つ、投げられた。あの日をふと、思い出す。
 嘗て、共に背中を託し。嘗て、共に刃を振るい。嘗て、共に一敗地に塗れた戦友は、もう居ない。
 握る魚を圧延したかのような刃は、あの頃をよく知る己の刃だ。
 あの頃とはもう違う。しかし、そこにあるのは何処までも残る寂寞の念。
 せめて、生きていたら。その思いを、雪白 桐(BNE000185)は心の奥底で抱いていた。
 此処で止めねば、成らないのだ。そして、無念を晴らしてやらねばならないのだと。
 思うが故に歩みは早く、そして確実に、進む。

「ん、OKだよ。 つかさ、言われなくてもやるしね。」

 そして、その思いは声に乗って伝播する。相棒の顔に重なる、兎詐欺の顔が、ふと。
 既に死んだはずの、あの何処までも正反対な奴の顔。どこか、寂しく感じるのはなぜだろう。
 ――しかし、そんなものは今はもうどうでもいい。『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は、
 それを一つの割り切りとして戦列に立つ。意趣返しは趣味ではないのだ。
 自分は一つの暴威としてそこにあればそれでいい。ただ、いつかの借りを一つ、返すだけ。
 そのためだけに。己は血濡れし刃を握る。ただ、一筋の強さを求めて。

 強さを求める者、借りを返す者。思いを擁く者。
 様々な色彩の中にこの男はただ強きを求めてここに立つ。
 求むは闘争、三千世界の猛者(つわもの)を殺し、己の強さの糧とせんがためだけに。
 甲冑よ、我が墓標となれ。男は強さを求め、飢え、鍛え、狩る。
 それが『墓堀』ランディ・益母 (BNE001403)の存在意義だった。
 此度の殺人鬼は飢えを満たすに足る者か否か。 男は其れのみを求め、戦場に立つ。

 銃声が二度、地へと向かって吠えた。着弾した筈のその弾は霊となり、
 己の分身として顕現する。『陰陽狂』 宵咲 瑠琵 (BNE000129)の影人召喚だ。
 如何なる刃であろうと、己の身代わりを以て抑え込めばそれまでの話である。
 乙女は、錬気法による法外なまでの魔術力で影人を生み出し、それを以て守護とする。
 デコイは、多ければ多いほど。 盤面の駒は、戦略の自由を保障していた。
 駒はたくさん、ポーンは腐るほど。チェス盤の上で戦輪が今、転がる。

 燃え滓の処理をするのは箱舟の務めだ。それはもはや仕方のないことなのだろう。
 それは十分わかっている。仕事は黙々と、そして、ただ淡々と果たさねばならないから。
 操り人形のように、乙女――『普通の少女』 ユーヌ・プロメース(BNE001086)は戦列にいた。
 永遠など、もはや骨董品に過ぎない。殺人鬼の時間はとうに終えている。
 ただ、それを告げるためだけに。操り人形(ラグドール)は、戦場へと向かう。

 ――ジャック・ザ・リッパー。思い出せば、今やただ、懐かしい名だ。
 己は、色あせたあの戦いの時を、もう一度踊ることになるのだろうか。
 指を這わせる弓の弦。未熟な己の腕を繰ったあの時を思い出すように。今は、もう違う。
 それを確かめ、実感するようにもう一度、男を梳ろう。そう、男は考えていた。
 男の名は、『大人な子供』 リィン・インベルグ(BNE003115)。星を打ち落とす者の一人だ。
 殺人鬼よ、今一度舞い踊れ。 己の矢で梳られるために。そんなことを考えながら。
 男は、矢の一つを番え、引き絞ったままに歩みを進める。答えを、戦いの中にただ、求めて。

「狂える夜は既に仕舞いだってのによ――。 燃え滓が。」
 
 夜の虚空に、一人の男の独白が漏れる。既に終わった出来事を再燃させるイカレタ夜を。
 もう一度、この地で繰り返そうとする何処までも馬鹿げた狂騒の中での一言だ。
 声帯の主を辿れば、『終極粉砕機構』 富永・喜平 (BNE000939)の物とはすぐわかる。
 この狂騒も考えてみればあまりに浅はかな話だ。所詮男はジャックの片鱗にすらもなれなかった。
 男は少なくともそう判断を下す。何もせず、何も成せること無く、ただ朽ち果てる。
 それがお前の臨界点なのだと。箱舟に在る一人の告死者である男は己の得物を担ぎ、歩む。

「……でも、どこか懐かしいような。そんな気さえ。」

 ――ふと口をついて漏れる独白は、あの狂える夏の日を思い出すようなそれで。
 思い出せば、それは長い話になる。あの暑い夏の苦い記憶は、今や自分にとって一つの力だ。
 逃がすまいと振った刃が空を切った。人参を模したあの剣の感触、腕の感覚がどこか蘇る。
 苦杯をなめたのはもう、一年前だっただろうか。何故、こんなにも鮮明に思い出すのだろう。
 もう、思い出す事もない筈だ。――『境界の戦女医』 氷河・凛子(BNE003330)の独白。
 交錯する運命を断ち切るために。女は、今一度戦場に立つ。

 8者8様の思いが交錯するこの戦場は、狂える夜をもう一度思い出させるようなそれ。
 ただ、違うのは安寧に安寧を重ねる緑の都が赤に染まるという一点のみだ。
 月が嗤う夜にもう一度、あの狂える戦場を。魔性の先にて箱舟は躍る。そして、その先へ行く為に。

 血に酔う男の狂騒劇が幕を開ける。男はただ笑顔のままに、他と己の死を以て完結する。
 一部の部下による火薬の爆轟が悲鳴のオーケストラに華を載せる中。
 アズライルと呼ばれた男は、ただ殺した女の腸を裂いて快活に笑う。
 死は万人に等しく与えられる救済だ。美しき死を美しいままに。男は、ただそれだけを心から願う。
 戦場に入る道すがらの話だ。 五月雨の如くに吹き荒れる、異常を目的とした一撃の中で。
 その紅の香りは、トップノートでツンと鼻腔の奥をついていた。

「一気に潰すぜ、此処で手間取ってる暇はねぇ!」

 咆哮と共に墓掘の放つ暴虐の風が部下を剥いだ。それを幕として、部下との戦闘が群発的に発生する。
 それは、まさしく非対称戦争と呼ぶにふさわしきゲリラ戦だ。
 戦場は魔術の刃(マグスメッシス)と魔曲吹き荒れる地獄と化した。
 部下を一人追いつめ、撃破しようとすればもう一人によるカバーを受ける。
 その状況下、ジワリ、ジワリと削られる体力と精神力が叛逆者たちを襲っていた。
 超反射神経を以てしても、完全な対処が難しい戦略の戦。
 恐怖を払う聖歌と光がそれを払うも、数が飛べばそれは厳しい物が有ったのだ。
 真綿で首を絞められる感覚は、癒し手の力を経てもなかなかにきつい物がある。
 それを思えば、此方と相手の戦力は同等かそれ以上だろう。その中でアズライルを抑えるのだ。
 しかし、戦力差を縮めるべく放たれる雷帝の矢、そして補助員をはじめとする部隊の献身が。
 部下を一人、また一人と押し込んでいく。 それは、希望の階を繋ぐための緩やかなる道だ。
 内臓が内出血と治癒の繰り返しで悲鳴を上げる。その中で、悪夢は唐突に、そして確実に歩み寄る。
 希望の階が繋がる時。コンクリートの林の中に残響が響いた。それは、心情の代弁で。
 嗤うかのような、そんな何処までも冷たいそれが。

「強者の近くなら自分が犠牲にならないとでも安心していましたか?」

 リベリスタが主戦場にたどり着いた時に見たその光景。それは、天鵞絨の舞台の幕。
 現場はまさしく、あの日の再現を思わせる地獄絵図だった。
 男は脳天を割られ、女は腸を引き出された。骸は壁に打ち付けられ、鮮烈なまでの赤を放っている。
 目玉を抉られた死者は死後硬直で顔が引きつり、笑顔のままに死んでいた。
 川のように流れる鮮血。その根源を目で辿れば、そこにあるのは一人の男の笑顔の姿だ――。

「ようこそ、箱舟の諸君。 ――さぁ、始めよう。」

 告げられる歓迎の文句は柔らかい笑顔に包まれるようにして儚く。
 そして、ただ柔らかい。その言葉の最中を以て、放たれた言葉の応酬を以て、火花は散った。
 空を震わせたのは、ヨゴレ者と呼ばれたその殺人鬼の刃を握る者。

「その手、僕にくれよ」

 欲に塗れた、と言えばそれはある種言えているのだろう。しかし、ただ力を求めるならば、
 それは『正しい宣言』である。求めるが故に、乙女は地を蹴り、刃を殺人鬼へと突き立てる。
 そして、それに釣られるように。斧持つ戦鬼も空気を喉で震わせた。

「殺人鬼の斧ね、中々いいモノ持ってるじゃねぇの……。
 だが、俺の相棒とどっちが上かな? ……勝負ッ!」
 
 歴戦の闘将として武を競う者ならば眼前の戦場に滾らぬ筈はない。
 戦鬼たる男は今、己の斧を振るう事への喜びを肉体で感じながら、己の獲物を信じ、振るう。
 それは、始まりを告げる鐘であり、此度の狂える夜の終幕へのカーテンコール。
 どこまでも仄暗く、そして終わり有るかも定かでないグラン・ギニョールの幕開けだった。

 始まりは殺人鬼の斧と血滴る刃の交錯だった。生きるか死ぬかを問うかのような極限の一撃が、
 狂える男の美しくも儚き絶命の刃と重なっては火花を散らす。
 互角にすら見間違う一進一退の攻防。しかし、単騎同士では押される事は否めない。
 そして、男の得意とする流血の一撃は時として守護を超えて癒し手へも飛んでいく。
 黒の狩人の握る処刑者の咆哮が唸りを上げれば、その射撃すらも時として空を切った。
 そこにあるのはまさしく全盛期のジャック・ザ・リッパーと見間違うその戦い振りだ。
 ハチェットにより空に赤の軌跡が描かれた。それは確実に臓腑を抉っていく。
 癒し手の奇跡が時として救いの御手にすら思える惨状だ。残酷にも、時としてそれは焼け石に成る。

「意識をしっかりと持つのです。」
「ああ。 ――しかし、酔漢か。 絡み酒とは質が悪いな?」

 普通の少女と己を嘯く者の声。出血した者の恐怖を払う最中、ふと漏れるその言葉は本質とも取れる。
 狂える男の精神は嗜虐趣味を通り越したそれなのだ。正常にして何処までも狂っている。
 そんな精神状態はこの狂戦の中で充足を成していた。常に流れる血が脳髄に火を灯す。
 灯る焔が、更なる死を求めて斧を首へと伸ばさせる。それを防ぐべく叛逆者の足はビートを刻んだ。
 黒のアスファルト、コンクリートジャングルのシャンデリアが立ち並ぶダンスホール。
 戦いはまさに円舞曲。くるくると回っては目まぐるしく、時に激しく火花を散らす。

「わらわが守り続けている以上、そう易々と踊らせはせぬよ」

 影人による挺身が時として被害を軽減するも、それは時として残余として血の川を作る。
 この戦場に重なるように、何処までも美しき鮮血の宴に添えられるのは赤のロウソクだ。
 雷帝の矢がシャンデリアにロウソクを添える。そして、更なる致命を狙っての狙撃もまた重なって。
 限界を限界で塗り替える、そんな戦いの渦中で。狂える男は笑って告げる。

「――美しいと思わないかい!? こんな素晴らしい日に死ねるなんて!」

 死に酔うかのその喜色は見るものからすればおぞましくすらあるだろう。
 万人に等しく訪れる救済。それは何処までも悲しき別離をまた意味している。
 その事を、男はまた知らない。その事を、ヨゴレの者は強く突く。

「――誰が思うか! 僕は、死も! お前も! 毛程も美しいとは思わないッ!」

 返礼とともに放たれる赤き刃。そして、問いかけるかの如き一撃。
 その一撃が確かに男の肉体を捉える。それを契機として、叛逆者たちの刃が重なる。

「知るかッ! 殺した数なら、こちとら負けて無ぇんだ! 喰らえ!」

 戦鬼たる男の獲物が重々しき一撃を持って放たれ、さらに刃を重ねていく。
 そして、今は亡きその者への思いを重ねるように、魚を圧延したが如き刃も振るわれた。
 限界までリミッターを外して放つ、純粋でイノセントな一撃は。一つの言葉を添えて。
 赤く、そして何処か見覚えのあるその色が、刃とまた重なって見えたのは、虚像。


「――無様。 何時か誰かに救って貰う為に他を救い続けたとでもいいますか?」

 今はもう居ない幻影を己の刃に重ね。思いを継ぐその一振りの刃にすべてを載せて。
 もう一人の鬼神は全てを断ち切るべく振りぬいた。全てを問いかけ、答えを此処に示すために。
 その刃が死劇者の体を過たず割いた手応えが伝わった刹那のことだ。
 もう、幾許も無い事を悟った男は、己の全てを此処に示すことに決めた。
 全てを美しく終わらせる。永遠に美しいままに。そして、憧れとともに消えゆくために。
 その兆候を察し、相打ち覚悟で前に出るのは歴戦の戦鬼だ。
 相打ち覚悟で放つ、問いかけの一撃。それに重ね、狩手によって放たれる手刀の一撃が、
 腕の関節を打ち貫く。しかし、それは完全なる発動を妨げるだけであり、止め得るそれでは消してない。

 永遠の中に生きる者の踊り。四股に刃が滑り込み、関節を繋ぐ筋肉をやすやすと破壊していく。
 己すら傷つけ、そしてそれ以外を絶対に許さないカーレンの赤い靴がカタカタと踊る。
 次に止まるのは己が死ぬ時だけだった。故に。永遠の輪舞曲(エンドレス・ワルツ)。
 余りにも滑らかな殺人の一撃が、瞬く間に腕を、足を、そして最後に首を跳ね飛ばす。
 それは、黒の狩人すらもやすやすと巻き込み、定めに基づいての帰還を強制していた。
 運命に愛されて居なければ、それは明らかなる死を約定したであろう一撃が、雨のごとく降る。
 男もそう長くはない。踊りが先に終わるか、それとも叛逆者の意思が先に通るか。
 運命が賽を振る中で、英雄たちの実力は今、もう一度問いかけられた。

「皆を……支えるために……! 限界を超えて!」

 癒し手もその刃より逃れることは適わない。満身創痍で定めを燃やし、そこに立つ。
 追加で放たれる二条の銀が肉体を梳る。その中で、反逆者達の運命は尚、強い輝きを放つ。
 ヨゴレの者が発した言葉に重なる、赤の一条が男を抉り、紅の柱を描いては消していく。
 そして、さらにそこへ重なるのは、処刑者の咆哮。ショットガンシェルは吐き出された。
 嘯く者の魔道も上乗せとして放たれた。不幸を不幸に上塗って。

「舞台の幕引きだ」
「…三文芝居も之にて閉幕だ、死劇者さんよ。」
「命を惜しむな。刃が曇る」

 元より惜しまぬその男への言葉はどこか己に言い聞かせるかのような言の葉だ。
 己も何処までも惜しまぬ存在。ただ、強く在れればそれでいい。
 かくあるために、己は疾きを捨て、殲手として生まれ変わったのだから。
 そしてそこにさらに重ねるように言葉は拡散、そして収斂する。
 戦鬼たる男が己の斧に言の葉を載せて、最後の一撃とするべく全力を放つ。

「もう夢は終わってんだ、伝説にも成れず、ここで朽ちろ」

 放たれた斧は過たず男の首を切り離す。収斂の先にあるもの。
 それは、笑顔のままに地に伏した男と、撤退した部下の姿――。
 安寧を湛えし都に、再びの静寂が、戻る――。

●Always None.
 箱舟への帰還は未だ成されず。全ての決着は未だ付くこともない。
 これはまだ完全なる決着ではないのだ。仕上げは、残っている。それは、既に通達された事象だ。
 ひとつの終わりとともに戦いはこれから始まり。 そして、終わりへの道筋をたどる。
 戦輪は、未だ回り続ける――。そこに、栄光があるかも知れないままに。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
■STコメント
この度は遅れて大変申し訳ありませんでした……。
これはもう三跪九叩頭する他ありません。大変ご迷惑をお掛けしました。

ご参加有難う御座いました。またのご参加を、お待ちしております。

Result:
※敬称略、重症、戦闘不能含む。
重傷者:宵咲、富永、紅涙、ユーヌ、リィン
戦闘不能者:雪白、ランディ、氷川