●セリエバと『達磨』 セリエバ。運命を食らう植物型のアザーバイド。 数年前に召喚された存在で、それを手にしたものは運命を持つものの天敵となり、またそれを半年ほど世間から隔離することで『運命を代償として願いをかなえる願望機』にもなるといわれている。 『達磨』こと十文字晶はけして異世界の存在に詳しいわけではない。だがこのアザーバイドのことだけは嫌になるほど知っていた。当然だ。被害者だから。 ベッドに横たわる娘。『一射十炎』と呼ばれるフィクサード。彼女は召喚されたセリエバに挑み、その毒を受けて身動きできぬ身体になった。それ以降、延命処置を施されて何とか生きている。 その名前を、十文字・菫という。『達磨』十文字晶の実子だ。 娘がセリエバの毒に犯されてから、遮二無二になってお金を稼いだ。幸運なことに剣林という組織は実力があればいくらでもお金を稼ぐことができる。裏野部のように無軌道に欲望丸出しではなくとも『汚い』仕事はいくらでもある。 自尊心を棄て、誇りを棄て、自らを血と汚泥で染める生き方。それで得たお金を娘の延命処置に当てる。 しかし、それはあくまで延命処置。根本の解決にはならず、しかも限界が存在する。そんなことは『達磨』本人とてわかっているのだ。それでも―― 「セリエバを召喚してその毒を解明スレバ、そこから毒に対する抗体が作れるゼ」 六道の人間から投げかけられたのは、娘の命を助けることができるかもしれないという取引。そのために世界を滅ぼしかねないアザーバイド召喚に手を貸せと? 「了解じゃ。何したらええんじゃ?」 答えなど始めから決まっていた。世界と家族。どちらを取れといわれれば家族を取る。それが『達磨』と呼ばれるフィクサードだった。 そして十文字晶はセリエバ召喚をもくろむ者と邂逅する。 「はじめまして。『六道第三召喚研究所』のバーナード・シュリーゲンです」 七派の一つ『六道』でアザーバイド召喚の研究を行なっている研究者だ。体格は研究者らしくか細いものだったが、瞳の奥に宿る『欲』の深さは確かにフィクサードのそれだった。 「ああ、剣林。うん、いいね。よろしく。黄泉ヶ辻の『W00』と呼んでくれたまえ」 猫背の老人が十文字の体を吟味するように上から下まで眺め、握手を求めてくる。黄泉ヶ辻。気味の悪さと業の深さが濃い組織。目の前の老人もそれを示すかのような存在だった。 信用などできようはずがない。だが彼らの目的がセリエバ召喚である以上、召喚の瞬間までは手を結べる。十文字はそう判断した。障害や裏切りがあれば全て力づくで押し通す。少なくとも、ここで協力を反故にして娘を見捨てる選択肢は彼にはなかった。 「ワシらはなにしたらいいんじゃ?」 「基本理論と召喚基点のセリエバの枝は確保してあります。 先ずは後は召喚補助用のアーティファクトを集めてください。そして召喚場所の確保を」 「派手に動けば『万華鏡』に見つかるぞ。それはどうするんじゃ? 『塔の魔女』並の革醒者でも見つけたか?」 「まさか。しかし『万華鏡』には索敵範囲の限界があります。具体的には――海上です」 ――それから半年。準備を進めてきた計画は、今第一段階が終わろうとしている。 目標としていたアーティファクトの回収は、ほぼ終わった。大半はアークに邪魔をされて苦汁を飲む結果になったが、それでも成功率が激減するほどではない、といってバーナードがネクタイを締めなおしたのを思い出す。多少は動揺していたが、それを表に出さないようにしている。『達磨』はそう判断した。 「『達磨』さん、準備ができました」 「そろそろ行きましょう。しばらく、陸とはお別れです」 声をかけてくるのは三人のフィクサード。剣林に所属しており、見る人が見れば戦闘向きだとわかる体格をしていた。 「すまんのぅ。貸しは返すけん」 「そんなの今まで『達磨』さんに助けてもらった恩の一部分にすぎませんよ」 「家族のために命をかける。その恩義を返せる時が来たんです」 彼らは今回の作戦の為に陸を離れ、海上で活動していた。セリエバ召喚場の足場を構築する為に。 「……すまん」 巌のような表情は揺らぐことなく詫びの言葉を告げる。しかしその心中を察した『達磨』の部下たちは、静かに笑みを浮かべた。 計画の第一段階は、もうすぐ終わろうとしていた。 だがおそらくアークは来る。フォーチュナではない『達磨』だが、その未来は予想できた。 あるいは、彼自身が止めてほしいのか―― ●方舟 「義理と人情はキライじゃないが、だからといって世界を天秤にかけられたら困る。そういう話だ。アンダンスタンド?」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。 「最近、フィクサードがアーティファクトを強奪する事件が多発している。主にアザーバイド召喚とその補助の為のアーティファクトだ。それらのアーティファクトはこの港に運び込まれ、その後、海に運ばれる未来が予知された」 「海に?」 「『万華鏡』の予知は日本国内のみという範囲的なリミットがある。そのリミットを超えた場所までアーティファクトを運ぶつもりのようだ。 もう何隻かの船は出航して、全てを取り戻すのは不可能だ」 「手遅れだって? じゃあどうするんだ?」 「焦るなよ。焦ってリズムを崩すと碌なことにならない。ベストが駄目ならベターと行こう。船を押さえるのが無理でも、情報ならフィクサードが知ってるだろう? つまりはそういうことだ。船の護衛とアーティファクト運搬を行なっているであろうフィクサードたちを捕らえて情報を得る」 モニターに写し出されるのは『万華鏡』が予知したフィクサード達の動き。殿を務める貨物船が写し出される。そして船に続く階段に立つフィクサードの姿。槍を持った初老の男を中人に数名のフィクサードと――大量のEアンデッド。 「一番事情を知っていそうなのはこの槍使いだろう。年季の入ったクロスイージスだ。相手するにはハードな事になりそうだぜ。 次点でその周りにいるフィクサードたちだ。連中は実際に船を操り、航路を知っている。そういう意味でアーティファクトの運ばれる先を知っている可能性は高い」 アンデッドはいうまでもないな、と黒猫は言葉をしめる。ここからが本番だ、とばかりに指を鳴らしてリベリスタ達を見直した。 「フィクサードたちからすれば撤退戦だ。リベリスタがなだれ込んでくればアンデッドを盾にして、逃亡するだろう。アンデッドが船からでてくるまでに、何人かのフィクサードを捕らえる必要がある。 これが失敗すればいきなり何かの悲劇が起きる、という未来は見えない。だが楽観はできないだろう。これはフィクサードが念入りに用意してきたミッションだ。ここで尻尾を掴み損ねれば、後々尾を引くぜ」 言葉こそ軽薄だが、伸暁のセリフは重いものを含んでいた。可能な限り情報を得る。そのためにはこちらも相応の覚悟が必要になるだろう。 「ま、危なく成ったら逃げることだ。向こうは逃げる立場だから深追いはしてこない。そいつは強みだな。 頼むぜヒーロー&ヒロイン。軽く悪事を止めてきてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月27日(土)20:09 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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