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<剣林>苦悶の達磨、闇に往く船

●セリエバと『達磨』
 セリエバ。運命を食らう植物型のアザーバイド。
 数年前に召喚された存在で、それを手にしたものは運命を持つものの天敵となり、またそれを半年ほど世間から隔離することで『運命を代償として願いをかなえる願望機』にもなるといわれている。
『達磨』こと十文字晶はけして異世界の存在に詳しいわけではない。だがこのアザーバイドのことだけは嫌になるほど知っていた。当然だ。被害者だから。
 ベッドに横たわる娘。『一射十炎』と呼ばれるフィクサード。彼女は召喚されたセリエバに挑み、その毒を受けて身動きできぬ身体になった。それ以降、延命処置を施されて何とか生きている。
 その名前を、十文字・菫という。『達磨』十文字晶の実子だ。
 娘がセリエバの毒に犯されてから、遮二無二になってお金を稼いだ。幸運なことに剣林という組織は実力があればいくらでもお金を稼ぐことができる。裏野部のように無軌道に欲望丸出しではなくとも『汚い』仕事はいくらでもある。
 自尊心を棄て、誇りを棄て、自らを血と汚泥で染める生き方。それで得たお金を娘の延命処置に当てる。
 しかし、それはあくまで延命処置。根本の解決にはならず、しかも限界が存在する。そんなことは『達磨』本人とてわかっているのだ。それでも――
「セリエバを召喚してその毒を解明スレバ、そこから毒に対する抗体が作れるゼ」
 六道の人間から投げかけられたのは、娘の命を助けることができるかもしれないという取引。そのために世界を滅ぼしかねないアザーバイド召喚に手を貸せと?

「了解じゃ。何したらええんじゃ?」

 答えなど始めから決まっていた。世界と家族。どちらを取れといわれれば家族を取る。それが『達磨』と呼ばれるフィクサードだった。
 そして十文字晶はセリエバ召喚をもくろむ者と邂逅する。
「はじめまして。『六道第三召喚研究所』のバーナード・シュリーゲンです」
 七派の一つ『六道』でアザーバイド召喚の研究を行なっている研究者だ。体格は研究者らしくか細いものだったが、瞳の奥に宿る『欲』の深さは確かにフィクサードのそれだった。
「ああ、剣林。うん、いいね。よろしく。黄泉ヶ辻の『W00』と呼んでくれたまえ」
 猫背の老人が十文字の体を吟味するように上から下まで眺め、握手を求めてくる。黄泉ヶ辻。気味の悪さと業の深さが濃い組織。目の前の老人もそれを示すかのような存在だった。
 信用などできようはずがない。だが彼らの目的がセリエバ召喚である以上、召喚の瞬間までは手を結べる。十文字はそう判断した。障害や裏切りがあれば全て力づくで押し通す。少なくとも、ここで協力を反故にして娘を見捨てる選択肢は彼にはなかった。
「ワシらはなにしたらいいんじゃ?」
「基本理論と召喚基点のセリエバの枝は確保してあります。
 先ずは後は召喚補助用のアーティファクトを集めてください。そして召喚場所の確保を」
「派手に動けば『万華鏡』に見つかるぞ。それはどうするんじゃ? 『塔の魔女』並の革醒者でも見つけたか?」
「まさか。しかし『万華鏡』には索敵範囲の限界があります。具体的には――海上です」

 ――それから半年。準備を進めてきた計画は、今第一段階が終わろうとしている。
 目標としていたアーティファクトの回収は、ほぼ終わった。大半はアークに邪魔をされて苦汁を飲む結果になったが、それでも成功率が激減するほどではない、といってバーナードがネクタイを締めなおしたのを思い出す。多少は動揺していたが、それを表に出さないようにしている。『達磨』はそう判断した。
「『達磨』さん、準備ができました」
「そろそろ行きましょう。しばらく、陸とはお別れです」
 声をかけてくるのは三人のフィクサード。剣林に所属しており、見る人が見れば戦闘向きだとわかる体格をしていた。
「すまんのぅ。貸しは返すけん」
「そんなの今まで『達磨』さんに助けてもらった恩の一部分にすぎませんよ」
「家族のために命をかける。その恩義を返せる時が来たんです」
 彼らは今回の作戦の為に陸を離れ、海上で活動していた。セリエバ召喚場の足場を構築する為に。
「……すまん」
 巌のような表情は揺らぐことなく詫びの言葉を告げる。しかしその心中を察した『達磨』の部下たちは、静かに笑みを浮かべた。

 計画の第一段階は、もうすぐ終わろうとしていた。
 だがおそらくアークは来る。フォーチュナではない『達磨』だが、その未来は予想できた。
 あるいは、彼自身が止めてほしいのか――

●方舟
「義理と人情はキライじゃないが、だからといって世界を天秤にかけられたら困る。そういう話だ。アンダンスタンド?」
『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。
「最近、フィクサードがアーティファクトを強奪する事件が多発している。主にアザーバイド召喚とその補助の為のアーティファクトだ。それらのアーティファクトはこの港に運び込まれ、その後、海に運ばれる未来が予知された」
「海に?」
「『万華鏡』の予知は日本国内のみという範囲的なリミットがある。そのリミットを超えた場所までアーティファクトを運ぶつもりのようだ。
 もう何隻かの船は出航して、全てを取り戻すのは不可能だ」
「手遅れだって? じゃあどうするんだ?」
「焦るなよ。焦ってリズムを崩すと碌なことにならない。ベストが駄目ならベターと行こう。船を押さえるのが無理でも、情報ならフィクサードが知ってるだろう?
 つまりはそういうことだ。船の護衛とアーティファクト運搬を行なっているであろうフィクサードたちを捕らえて情報を得る」
 モニターに写し出されるのは『万華鏡』が予知したフィクサード達の動き。殿を務める貨物船が写し出される。そして船に続く階段に立つフィクサードの姿。槍を持った初老の男を中人に数名のフィクサードと――大量のEアンデッド。
「一番事情を知っていそうなのはこの槍使いだろう。年季の入ったクロスイージスだ。相手するにはハードな事になりそうだぜ。
 次点でその周りにいるフィクサードたちだ。連中は実際に船を操り、航路を知っている。そういう意味でアーティファクトの運ばれる先を知っている可能性は高い」
 アンデッドはいうまでもないな、と黒猫は言葉をしめる。ここからが本番だ、とばかりに指を鳴らしてリベリスタ達を見直した。
「フィクサードたちからすれば撤退戦だ。リベリスタがなだれ込んでくればアンデッドを盾にして、逃亡するだろう。アンデッドが船からでてくるまでに、何人かのフィクサードを捕らえる必要がある。
 これが失敗すればいきなり何かの悲劇が起きる、という未来は見えない。だが楽観はできないだろう。これはフィクサードが念入りに用意してきたミッションだ。ここで尻尾を掴み損ねれば、後々尾を引くぜ」
 言葉こそ軽薄だが、伸暁のセリフは重いものを含んでいた。可能な限り情報を得る。そのためにはこちらも相応の覚悟が必要になるだろう。
「ま、危なく成ったら逃げることだ。向こうは逃げる立場だから深追いはしてこない。そいつは強みだな。
 頼むぜヒーロー&ヒロイン。軽く悪事を止めてきてくれ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月27日(土)20:09
 どくどくです。
 セリエバ関係の、第一段階終了シナリオです。相応の難易度で行かせて頂きます。
 いや、今まで手をぬいていたわけではないのですがっ!

◆成功条件
 12ターン以内に、フィクサードを二人以上捕らえること。

◆敵情報
・フィクサード(剣林)
 武闘派で知られるフィクサード集団です。個人戦闘力は他七派と比べて突出しており、油断すると大敗を喫する可能性もあります。
『達磨』十文字晶は拙作『<賢者の石・争奪>転ばぬ槍使い』『<剣林>命の価値は? -Stillness-』に。百田イズル、千鳥エイジ、辻万ミナコの三人は『<剣林>死者の船。残る思い』にでてきたフィクサードです。これらの作品を読んでいる必要はありません。この作品単体でも楽しめるようになっています。

・『達磨』
 本名は十文字晶。ジーニアス。五十を超えた老人で『達磨』と呼ばれています。顔は皺くちゃですが身体はがっしりとしています。
『鯨銛』と呼ばれる槍状のアーティファクトを所持しています。物防・神防高め。
「リーガルブレード」「不沈艦」「パーフェクトガード」「絶対者」を活性化しています。

 アーティファクト『鯨銛』
 長さ2メートルほどの巨大な槍です。以下の能力を持ちます。
 1:命中判定時HP50消費することで投擲可能。攻撃範囲を「物遠範」にすることができる。投擲された槍は、すぐに戻ってくる。
 2:150%以上命中時、穂先が広がり相手に食い込む。「呪縛」「出血」「致命」を付与。

・『弾丸言語』百田イズル
 三十四歳の男性。フライエンジェのクリミナルスタアです。『達磨』の娘を助けるために行動します。バレットフィンガーを所持。命中と回避が高め。
「デスペラードミスタ」「B-SS」「血の掟」「スキルマスター」を活性化しています。

・『白蹄三打』千鳥エイジ 四十歳の男性。ビーストハーフ(ブタ)の覇界闘士です。剣林のために行動します。ガントレッド所持。HP高め。
「ハードタンカー」「壱式迅雷」「底力」「格闘熟練LV3」を活性化しています。

・『鬼若姫』辻万ミナコ
 二十一才の女性。ヴァンパイアのデュランダル。十文字への義理により戦います。ハルバード所持。物攻・神攻高め。
「バトラーズアバランチ」「戦鬼烈風陣」「超重武器熟練LV3 」「ウェポンマスター」を活性化しています。

・Eアンデッド(×6)
 フィクサードの命令に従うアンデッドたちです。知性はありません([精神無]状態です)。フェーズは1。
 港には数十ほどいるアンデッドがいますが、殆どが荷物を運んでおり戦闘に参加するのは6体だけです。

 攻撃方法 
 噛み付き:物近単 近くにいるものに噛み付いてきます。

◆場所情報
 夜の港。船に続くタラップの傍に、フィクサードたちとアンデッドは固まっています。
 12ターン後に船の中にいるアンデッド十数体が一斉に船から飛び出して、盾となってフィクサードたちを逃がします。それまでにフィクサードを捕らえて下さい。捕らえる為には戦闘不能にする必要があります。
 港は広く、身を隠す場所はありません。倉庫伝いに15メートルの距離までは近づくことが可能です。
 事前付与等はいくらでも行なうことができますが、その分時間は流れます。それが有利になるか不利になるかは判りません。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
 
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
クリミナルスタア
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
ソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
ソードミラージュ
★MVP
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
デュランダル
紅涙・りりす(BNE001018)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
レイザータクト
アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)

●開戦
「戦闘開始です」
 閃光が走る。『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)の放った光が、フィクサード達の目を焼いた。

「時間は多くありません。後武運を」
『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)の指示と知識によりパーティ全体の火力と防御力を上乗せされたアークのリベリスタが戦場に躍り出る。

「行くぜ、悠里!」
『覇界闘士-アンブレイカブル-』御厨・夏栖斗(BNE000004)と。

「一気に蹴散らすよ、夏栖斗!」
『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が拳を握ってアンデッド掃討に。

「ワリーナ、アンタの相手は私ダ」
『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が『達磨』に。

「わが名はアークの『戦姫』! 来なさい剣林!」
『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)がフィクサードたちを挑発して自らの元に誘い。

「やれやれ。負けられない勝負だ」
『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)がミナコに向かって二刀を振りかざし。

「銃を使える程度の一般人としては、死体が歩いているのは見たくないものね」
『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)が『対物ライフル』を構えてアンデッドに狙いを定める。

「あなたたちを逃しはしません」
『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)が白の魔力を解き放ちアンデッドを凍結させたと同時。

「おとなしく投降をしてくれれば……なんて聞く雰囲気じゃないわね」
『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が黒の魔力でトドメを刺す。
 
「アークか」
 十文字晶が不意討ちをした者達の顔を見て、静かに呟く。神秘の世界では名だたる面々。何よりもこの場で介入してきそうな組織は多くはない。少なくとも、不意打ちを仕掛けてまで彼らを止める組織は。
「『達磨』さん!」
「慌てるな。いつもどおりやりゃァいい」
 いつもどおり。剣林という組織においてそれは実力行使を意味する。歯向かうものに、完膚なきまでの鉄槌を。
 家族を守るもの。世界を守るもの。その戦いの火蓋が切って落とされる。

●アークと剣林
 初手の不意打ちでEアンデッドを集中砲火したこともあり、アンデッドはボロボロになっていた。逆に言えばフィクサードはほぼ無傷である。
「『万華鏡』を掻い潜る手としては素晴らしいものだと思います」
 アルフォンソはそのアンデッドに追い討ちをかけるように鋭い刃を飛ばす。アンデッドの腕からただれた液体が流れ、ゆっくりと体力を奪っていく。サングラス越しにフィクサードを見ながら言葉を続ける。
「『万華鏡』の弱点をつかれた形ですね。アーク最大のアドバンテージをこういう形で回避するとは念の入り用も大したものです」
「真に神の目ならこの程度では掻い潜れないだろう。人造の神の限界といったところか」
「いやはや手厳しい」
 エイジの言葉を柔和な笑顔で受け流すアルフォンソ。そしてすぐに鋭い視線に変わる。
「名立たるフィクサード面々とアンデッド軍団。
 厳しい条件ではありますが、これをクリアーしなければ、このところ頻発している各種事件の解決の糸口はつかめない。心してかからせてもらいますよ」
「させねぇよ。『達磨』さんの娘を救うためだ。ここでリタイヤしてな」
「娘を助けたいトイウ気持ちは人間トシテアタリマエダ」
 イズルのセリフにリュミエールが応じ、高速で『達磨』の周りを疾駆してナイフを振るう。右に左に『達磨』と交差するたびに火花が散り、光の帯が走る。乱舞する光はそのものの判断を狂わせるものだが、『達磨』はそれに動じた様子はない。
 リュミエールが動なら『達磨』は静だ。高速で乱舞する狐の刃を、不動のまま槍で捌く。もちろん完全にとは言いがたい。速度ののった一閃のたびに、十文字の体に傷を刻まれる。
「アンタは人間だ、ソレは人トシテ正シイヨ。デモ、世界は理不尽ダカラナ、私ハ私ノ世界ヲ守ル為に戦う」
「ああ、それでええ」
 短く。『達磨』の望みを絶つと言ったリュミエールに対して短く肯定する。
 しかしそれは彼が止まるという事ではない。肯定した上で乗り越える。そういっているのだ。その意味を含めて槍――『鯨銛』が振るわれる。リュミエールの高速の動きを槍が捉える。
「リュミエール!」
「ダイジョーブダ。長くはモタネーケドな」
「わかった。すぐ行く」
 悠里は『Gauntlet of Borderline 参式』に稲妻を纏わせ、Eアンデッドに対峙する。重心を意識して、息を吐く。稲妻も破界器もこの手の延長。大切なのはこの拳を握ることだけ。何のために拳を握り、この手で何を掴むのか。その答えさえ明確なら、体は自然と動いてくれる。
「気持ちは理解できる。僕も大切な人や家族を守る為に戦っているから」
 大事な人のことを思いながら、悠里は拳を握る。それが悠里の戦う理由。力でもなく名誉でもなく、ただ平穏を求める拳。半歩前に出ると同時に繰り出される拳。それはアンデッドの胸を穿ち、稲妻は荒れ狂う濁流のように周りのアンデッドを巻き込んでいく。
「だからこそ、セリエバの召喚はさせられない!」
「あたりまえだろ、悠里!」
 悠里の背中を守るように、夏栖斗が構える。戦場を注視し、風の動き感じる。ベストのタイミングを見切り、はるか遠くを射抜くイメージで足を振り上げた。放たれた蹴りは空気の槍を生み、ミナコを貫く。
「隙あり、だな」
「なっ!?」
 生まれた隙を舞姫とりりすが攻める。そして夏栖斗は腕に炎を纏わせる。紅く燃える炎が闇を照らし、死者の群れを燃やしていく。紫電が走ったかと思えば紅蓮が。群がるアンデッドは悠里と夏栖斗の拳で次々とただの死体に戻っていく。
「焔と雷の共演ってな、死にたいやつはかかってこいよ。
 って既に死んでるのか」
「キサはそれに雨ものせるわ」
 綺沙羅の言葉と同時に、雨が降り出す。全てを凍らせる氷雨が。それはアンデッドとフィクサード達の体を冷やし、体力を少しずつ奪っていく。降り注ぐ雨の中、彼女は疑問に思って言うことを口にした。
「それにしても未だに不思議。世界を敵に回してでも身内を護ろうって奴らが」
「違いない。愚かだとは思うよ」
 応じたのはエイジ。綺沙羅はブタの姿の覇界闘士に顔を向けて、会話を続ける。情報収集系の愉快犯だった綺沙羅にとって、剣林たちの行動理念は理解しがたいところにあった。
「アークの連中ですらフェイト無くせば元味方であろうと容赦無いし」
「規律を破れば罰が下る。これは創世以来、神々から受け継がれた法則です。ですが罪を犯すのもまた人間」
「人の覚悟にけちをつけるような無粋は言わないけど、受けたからには仕事は全うさせて貰うわ」
「それは助かる。こちらも容赦ができるとは思えませんので」
「創世主は罰を与えるのではなく、罪を許すものよ。神父?」
 言葉と共にエナーシアの弾丸が放たれる。アンデッドとアンデッドの間に生まれたわずかな隙間。その隙間を通してアンデッドの足に弾丸が命中する。衝撃でバランスを崩すアンデッド。全身の神経を研ぎ澄ます。神秘の力を使えない一般人を称するエナーシアだが、けして神秘に抗する術がないわけではない。
「『万華鏡』の届かない海上で準備とは考えたものね」
「わしが考えたんじゃないがな」
「そうだとしても、それを実行に移す行動力は大したものよ。その会場へのチケット、此方にも回して欲しいのよね」
「悪いが、方舟の出航は認められなくてね。世界の終りにはまだ早いらしいぜ」
 言葉と同時にエナーシアの頬を弾丸が掠った。イズルのフィンガーバレットから放たれた弾丸だ。
「おあいにく様。アークは世界の終りから人々を守るために動くのよ」
「ええ。私たちはその為に剣を取るのです!」
 左腕に一尺二寸の黒刃を持ち、自ら誘い出したエイジとミナコの攻撃を塞ぐ舞姫。ミナコのハルバードを身を捻って避けながら、エイジの拳を小太刀で反らす。一瞬の隙を見出して自分の体に喝を入れて、速度を増す。左目に写る光景がスローに流れ出す。
「世界が滅びようと、仲間を救うために……その揺るぎなき信念には、敬意すら感じます」
「だったらとっととやられちまいなぁ!」
 ミナコの一撃が舞姫の体を捉える。気迫を乗せた一撃が舞姫の隙を生み、そこにエイジが拳を叩き込む。膝を曲げて衝撃を和らげるも、ダメージを0にしたわけではない。歴戦の剣士としての勘が、二対一では長くは持たないことを理解させる。だが、
「ですが、今度こそ。今度こそは、止めてみせる!」
 エイジ達と舞姫との戦いは二度目。共に彼らは仲間の為、身内のために戦っている。結果としてそれが世界の敵となっているだけで、仲間を思う気持ちはアークと同じだ。
 だからこそ止めねばならない。その気持ちを認めたまま、その凶行を止める。
「止める? はっ、おまえ達に何ができるっているんだ!」
「セリエバは倒す。達磨君の娘は助ける。んで達磨君を喰う。ついでに世界も守る」
 叫ぶミナコにりりすが迫る。自らの顔を隠すように仮面を被り、嗅覚で戦場全体を把握する。死体の臭いと生者の臭い。仲間の臭い、敵の臭い。視覚のように多くの情報が必要ない。大まかな位置さえわかれば、あとは体が動いてくれる。
「それは理想です。現実はそこまで甘くはない」
「そうやって『何か』のせいにするのかい? 君たちは」
 エイジの言葉に視線だけ向けて応じるりりす。刃と意識はミナコに向けられている。たん、と力強く地面を蹴ってミナコの懐に入る。
 狂人のナイフと鬼人の刀を手にして全身の力を込める。大地を踏みしめ、その力を膝、腰、丹田、胸筋、肩、膝、そして掌に繋げる。自らを一つの武器とかし、生死を問う一撃を放った。
「止めるって言うのはそういうことだよ。その覚悟がなければ引っ込んでおいたほうがいい」
「この一撃は……! 十文字さん、情報が違います!」
「こんな短期間で戦い方が変わるなんて、予想外だ。何があったんだか」
 りりすの一撃を受けてミナコが叫び、エナーシアと銃撃戦を続けるイズルが額に汗を流しながら違和感を口にする。
 エナーシアとは直接戦ったわけではなく、あくまで伝聞だから情報と異なるのは判る。だがりりすは違う。『達磨』はその一撃を受けて、りりすの戦い方を肌で感じていた。あの時は手数で攻める戦法だったのに、今は一撃を重視する動き。
 忘却の石――ジョブチェンジという概念のない彼らにとって、当惑は当然だろう。
「――アークの得た新たな技術なら貴方の娘を救えるかも知れないわ」
 その当惑に重ねるように氷璃が『達磨』に言葉をかける。そのドレスと同色の魔力を練り上げて、アンデッドに放つ。四種別属性の魔力は飛来の途中で爆ぜて分かれ、アンデッドの一群を薙ぎ払う。
「…………」
『達磨』は口を開かない。ただ黙って氷璃を見る。それを無言の催促と受け取ったのか、氷璃は言葉を続ける。
「ねぇ、フィクサード。貴方は娘を救う為に他の家族を犠牲に出来る? セリエバの毒を消す手段がアークにあるとすれば私達とも手を組む?」
「相変わらずアークは節介じゃな。ワシらにそこまでする理由があるんか?」
「父親に其処まで想われている貴方の娘が羨ましいから、よ」
 狂気の実験で生まれた氷璃に『父親』はいない。だから父に思われる娘の気持ちは、感じたことのない愛情だ。言葉では理解できても、その温もりを知らない。故に氷璃は手を指し伸ばす。悪魔と取引をする父娘を救おうと。
 だが十文字はその手を拒否するように槍を振るう。
「たられば、で河岸を変えるわけにはいかん。時間はもうないんじゃ」
「踊らされているだけ。……薄々気付いているのではないですか」
 低温の結界を展開してアンデッドを凍りつかせながら、悠月が問い詰める。極寒の空気は鋭い氷となってアンデッドの足を止める。動きが止まるもの。体力を奪われて地に倒れるもの。それを目視しながら、静かに思う。
(尤も、例えそうだとしても一筋の可能性に縋るのが……人という物なのでしょうけれど)
 愛する者と世界を秤にかければ、あるいは悠月もそう思うかもしれない。だけど彼女は知っている。『達磨』が取引をしているその男のことを。
「バーナード・シュリーゲンに約束を守る気はありませんよ」
 その言葉は六道と黄泉ヶ辻と剣林という三派が手を取り合える唯一の目的を崩す言葉。セリエバの毒を解析するという理由で十文字晶はこの計画に協力している。だがその約束がなされなければ――
「知っちょるわい。そんなこと」
 しかしの返事は肯定だった。肯定してなお、彼らと共に進むと、静かに告げる。
『達磨』は転ばない。静かにリベリスタを睨み、槍を振るう。

●交わる道。そして譲れぬ道。
「何故……? 世界を滅ぼして……御息女をも死なせる御心算ですか」
 問いかける悠月の言葉に、変わらぬ口調で答える十文字。その答えは剣林という組織の有様を端的に語っていた。
「そんなことさせんわい。シュリーゲンが裏切るのなら無理矢理捕まえて従わせちゃる。セリエバがこの世界を滅ぼすのなら、ワシがそれを止める」
「約束を守らなければ力尽く、なんて安易な考えが通じるとでも?」
 氷璃の問いかけにも動揺はない。そんなことも判っているという口調だ。
「通じるじゃろうよ。少なくともシュリーゲンはワシらの『戦闘力』を怖れて引き寄せた。
 知略では劣るが戦略ではワシらが上手じゃ」
 戦略。それは戦いに勝利する術。単純な力押しではなく、勝つために必要な要素を見出すことである。『達磨』という男は単純な力だけで剣林にいるのではない。勝つために必要なことを知っているのだ。
「それでも……僕らはあなたたちを止める。あなたの足を止めることが娘さんを殺すことだと知った上で。
 僕なら、誰かに止めて欲しいと思うから! 誰かが止めないと、絶対に止まれないから!」
 その姿を見て悠里は声をあげる。『達磨』の気持ちは理解できる。勝算の高さじゃない。たとえ蜘蛛の糸を掴むようなことでも、止まるわけには行かないのだ。
 自分を信じて進まなければ、娘の命が消えてしまう。ならば進むしかないのだ。
「それに、セリエバを召喚して貴方が犠牲になったら娘さんはきっと悲しむ」
「そうです! それに六道に頼るだけがセリエバの毒解析手段じゃないはずです!」
「どんな汚いことも出来る覚悟があるならなんで、アークにたよんねぇんだよ! 僕らだったら尽力するのもわかるはずだろう!」
 舞姫と夏栖斗がアークに頼れと叫ぶ。アークの資金力と科学力があれば、可能性は高いと主張する。
『達磨』とてそれは理解はできる。彼らならきっと尽力する。あるいは何かの策を見出せるかもしれない。その可能性と行動力があることなど、何度か矛を交えて充分に知っている。歪夜十三使徒第七位を倒した実力は、けして偶然でもまぐれでもないことを理解している。

「アークだから、駄目なのさ」

 言葉をつむいだのはイズルだった。
「アークが仮にセリエバの毒を解明して――それを俺達のためにに使うという保証がない」
「僕たちが信用できないって言うのか?」
 夏栖斗の怒りの言葉を、イズルは静かに否定した。
「――違う。
 アークはリベリスタ。世界の為に戦う組織だ。世界の害悪になりかねないセリエバの毒を封印する可能性がある」
「そんなこと――」
「仮に毒により崩壊が進行するという結論がでたら? 世界と個人の命を秤にのせれば、おまえ達は確実に世界を取る」
 リベリスタの誰もが絶句する。その言葉を否定することは、できない。してはいけない。それが彼らの掲げる正義なのだから。両方救えるなら救う。命も賭ける。だけど片側しか救えないのなら――
「ヒューマニズムを問う気はない。
 どっちが正しいといえば、正しいのはアークだ。六道や黄泉ヶ辻に従って世界を滅ぼしかねないアザーバイドを召喚するなど、事情を知らなければ正気を疑われるだろうよ」
「失敗は許されないのですよ、方舟の諸君。菫さんの容態は日に日に悪化していく。安全だけど不確実な道より、危険でもセリエバそのものを狙える道をとる」
「こっちの気持ちを汲んでくれて感謝するよ、リベリスタ。だけどあんた達の優しさでは駄目なんだ」
 エイジとミナコがリベリスタの手を拒む。
 それは十文字晶という一人の父親の意見でもあった。
「娘さんを助けたいと思ってるのは僕だって一緒だ」
「ああ。しっちょる」
 悠里の言葉を肯定する『達磨』。
「救える命を救いたいだけなんだ! そのために世界を滅ぼすなんておかしいだろ!」
「ああ。そうじゃな」
 夏栖斗の言葉を肯定する『達磨』。
「そう。それが父親なのね」
「ああ。そうじゃ」
 氷璃の言葉を肯定する『達磨』。
「なら、力ずくしかないのですね」
「ああ。そうじゃ」
 舞姫の言葉を肯定する『達磨』。
「じゃあ、ヤるかい?」
 ――りりすの言葉を、
「ああ、そうじゃな」
 肯定する『達磨』。
 破界器が打ち鳴らされる音が再び戦場に響く。
 言葉は届く。相手に情はある。気持ちだってきっと同じ方を向いている。
 なのに伸ばした手は、繋がることはなかった。

●リベリスタとフィクサード
「最速に憧れ無敵を捨てた。命を賭して――受ケテミロ」
「ワシの二つ名が何故『達磨』か。その最速をもって感じてみるがいいわい」
 リュミエールが高速で迫りナイフを振るう。その動きに合わせて銀のロケットが揺れた。右に、左に、上に、下に。その速度こそがリュミエールの武器。並のフィクサードならそれを見ることすが難しいだろう。
『達磨』はその攻撃に対して、多く動かず対応する。繰り出されるナイフに傷を受けながら、槍を繰り出す。わずか数度の攻防でリュミエールは運命を使う羽目になる。堅牢さとその防御を火力に変える戦い方にリュミエールは体が震えた。
「守ルタメニ世界に喧嘩売ったんだろ? 胸を張レヨお前の意地と決意」
 その震えは恐怖ではない。相手の矜持を感じた心の奮え。リュミエールの速度は衰えるころなく、
「私がお前の正義ト良心の為に、私の信じるモノで砕イテヤルヨ」
 むしろ加速する。最速こそリュミエールの信念。その信念を持って不倒のフィクサードに立ち向かう。
 戦況は『達磨』を抑えているリュミエールが危ういことも含めて、リベリスタの想定どおりに進んでいた。
 ここにいる十人はアークのリベリスタ内でも選りすぐりといってもいいほどの革醒者である。そしてその構成は火力に寄っていた。
「駆け抜けよ雷槍――自身を食らう蛇の如く」
 悠月が生む稲妻が、アンデッドを打ち据えた。ナイトメアダウンの際にはただ両親を見送ることしかできなかった彼女は、今世界を滅ぼしかねないアザーバイド召喚阻止のためにその力を振るっている。
「……あの男の思い通りには、させません」
 バーナード・シュリーゲン。悠月が接した時間はわずかだが、好印象がもてる相手ではなかった。アザーバイド召喚の為に倫理も常識も棄てた男。そんな男の思い通りになど、させはしない。
「そこ、いきます」
 綺沙羅の降らす氷雨がアンデッド達の体温を奪う。綺沙羅はこの戦いのために今までの報告書を読み、そして剣林の行動を何度もシミュレートしてきた。その上で油断なく相手の行動を見やる。
(……時折後衛を見てる。防衛に徹する気なんてない)
 もし剣林が防衛に徹するなら、Eアンデッドは壁として使うだろう。そうすれば低リスクで逃げ切ることは可能だ。だが、彼らはそうしなかった。綺沙羅の出した結論は、
(――こちらの戦い方を見ている。キサたちの情報を引き出してる)
『万華鏡』で予知しているリベリスタと違い、剣林にとってアークの襲撃は不意打ちだ。そして戦いにおいて重要なものは何かと問われれば、綺沙羅は真っ先に『情報』と答える。誰が、どんな攻撃を、どういう優先順位で、どうするか? 時間と戦力を失っても、それが得られるならかまわない。
 先行で一気に攻めるアドバンテージを持つリベリスタが逃げ切るか。あるいはフィクサードたちが差し込むか。その構図が綺沙羅に見えていた。
「騒乱の幕に空いた少しの綻びだろうと、私の祝福は見逃しはしないわ」
 エナーシアの銃がアンデッドたちに叩き込まれる。時に位置を変え、時に足を止め。多数のアンデッドをイズルや『達磨』から盾にするようにしてエナーシアは弾丸を放つ。慣れ親しんだ銃は彼女自身の意識よりも早く動く。
「対したもんだ。『BlessOfFireArms』。
 スケジュールが合えば一曲踊りを誘いたいね。銃声がダンスミュージックだがな」
「構わなくてよ。『弾丸言語』。
 あなたがここで倒れれば時間は沢山できるでしょう。鉄格子越しにいろいろお話しましょう」
 イズルの挑発を毒舌でいなすエナーシア。視線が一瞬交錯し、そして弾丸が交錯する。一瞬後、交錯は乱戦に遮られる。あとに残ったのは互いの体に刻まれた傷跡。
「一気に切り裂かせてもらいます」
 アルフォンソの鋭い一撃が弱っているアンデッドに向かう。放たれた一撃はアルフォンソの意思に従いその軌跡を変えて、アンデッドを刻んでトドメを刺す。
「順調ですね。このまま攻めれば何とかなりそうです」
 順調、と口にしながら油断なくアルフォンソは剣林の動向を見ていた。『達磨』のアーティファクトに巻き込まれないように後衛同士は距離をとり、休むことなく攻撃を続ける。
 アンデッドの全滅はもはや時間の問題だ。それを感じ取った悠里と夏栖斗はアンデッドの相手を止めて、互いの相手に走り出した。悠里は『達磨』に。夏栖斗はミナコに。
「交代するよ」
「スマネーナ」
 傷ついたリュミエールはミナコに向かい、代わりに悠里が『達磨』に拳を向ける。稲妻をたたきつけるのではなく、大地を踏みしめて拳を押し当てて衝撃を伝達させる戦い方。『達磨』の防御を崩す戦い方。
「悪くない一撃じゃ」
「娘さんを諦めろとは言わない。僕が望むのは、誰も悲しまずにすむ未来だから」
「吼えおったな。その拳でどこまでできるんじゃ?」
「どこまでもだ! そのためにできることはすべてやる!」
 そのために今は『達磨』を抑える。少しでもダメージを与え、敵陣を崩す。この拳でつかめるものは全て掴む。そのために力を込めて悠里は拳を突き出した。
「こいつはキツイねぇ……!」
 アンデッドの数が減るにつれてミナコに向かうリベリスタが増えてくる。振るわれるハルバードをりりすの二刀が受けて、捌いていく。
 重量のある武器を真正面からではなく、刀を斜めに反らして反らす。鉄の名を冠する男が使っていた刀はミナコの重い一撃を受けてなお曲がることなかった。その体勢のまま身を捻り、殺人鬼のナイフを横なぎに払う。肉を割く感覚、そして鮮血。
「己に恥じる事が無いならば。笑えばいい。誇れば良い」
「ああ。私は恥じることなんてない。おまえ達を笑って蹴飛ばしてやるさ!」
 ミナコが笑いハルバードを振るう。りりすの刀とぶつかり合い、再び火花が散った。
「『弾丸言語』百田イズル! その弾丸『戦姫』が刀技が全て叩き落してみせる!」
「安っぽい挑発だが、乗ってやるぜ」
 挑発されるままにイズルは舞姫に弾丸を放つ。その弾丸を避けながらエイジに迫り、小太刀を振るった。半身を向けるだけのエイジの構え。単純ゆえに様々な動きが予想される構え。それでも舞姫は恐れずに踏み込んだ。
 エイジの稲妻の拳が舞姫に迫る。その拳を小太刀の柄で小突いて軌道を変えて、その勢いのままでエイジの顎に向かい刃をつきたてる。その一撃を首をひねって致命傷を避けるエイジ。舞姫の黒野刃は、確かにエイジの顎の肉を切り、傷を与える。
「悪くない動きだが、軽いです!」
「あなたのタフネスは織り込み済みです。私一人で倒せずとも仲間が来ればその限りではありません」
「その通りだ。協力すれば落とせない相手じゃない」
 ――衝撃。足に銃弾を受けたと知ったのは思わず膝をついたから。それがイズルの弾丸だと築いたのは、声の主が言葉を紡いだから。
「リベリスタにチームワークがあるように、おれたちにもチームワークはある。
 エイジ、一気に攻めるぞ!」
「神の名に誓って、仲間を守ましょう」
 二対一。挑発により後衛にイズルの弾丸を向かわせないようにしている舞姫だが、その分自分に火力が集中する。運命を燃やして立ち上がるが、その息は荒い。しかし瞳はまだ希望を見ていた。ちらりとミナコと戦う仲間のほうを見る。
「おまえ達がセリエバを召喚しようというのなら、僕たちは止める」
「だろうね。だからこそ手は結べない。私たちは菫さんを助けるんだ」
「……くっそ! あんたたちだって救いたいのに……!」
 歯を噛み締め、拳を握る。全てを救う。それは夏栖斗の願望。英雄願望ゆえの現実の苦しみ。それでも選ばなくてはいけないのだ、と現実は冷たく時を刻む。ミナコと『達磨』を巻き込むように貫く衝撃を放つ。近距離からの衝撃に意識を奪われそうになるミナコ。
「まだ……だぁ!」
 ミナコがハルバードを回転させる。竜巻のように荒れ狂う烈風。ミナコを集中的に倒そうと迫っていたリベリスタがその風に巻き込まれる。
「さすがに効いたかな」
 戦斧槍の烈風に体力を奪われて、りりすが運命を燃やす。虚ろな瞳にミナコを写し、二刀を十字に振り払う。刹那の間隙で迫る生死を問う一撃。
「かっ……ぁ!」
 信じられない、という顔をして地面に倒れるミナコ。
「これで最後ね。安らかに眠りなさい」
 璃氷が四種の魔力を束ねる。独特の詠唱法で魔力を束ねる手順を省略し、魔力を練る工程で体力を奪われ、鋭く研ぎ澄ました魔力。黒く冷たい一撃は最後のアンデッドを塵に帰す。
「娘を救う為なら悪魔にも魂を売ると言うのなら覚えておきなさい。悪魔が齎す救済と貴方が求める救済が同じでは無いと言う事を」
「肝に命じておこう」
 年を重ねた璃氷の忠告を、素直に受け止める十文字。
 地に伏すミナコを除けば、フィクサードは三人。傷ついているとはいえ、リベリスタは十人とも健在である。
 しかし、リベリスタにも不利な部分が無いとはいえない。
 一つは時間。この戦いには制限時間があること。
 一つは相手。剣林という戦闘力。
 戦況は確かにリベリスタに優勢だ。
 だが、まだ油断ができる状況ではなかった。

●逆転の一手
「ここまで、ですか……!」
 イズルとエイジをひきつけていた舞姫が、二人の集中砲火を受けて力尽きる。崩れ落ちる舞姫を確認した後で、エイジはミナコを倒したリベリスタと相対する。そしてイズルは――
「――あっ。イズルが飛びます」
 イズルの動きを注視していた綺沙羅はフライエンジェの翼がはためいた瞬間に皆に警告を飛ばす。しかしそれで彼の動きが止まるわけではない。拳の届かないほどの高さにまで飛び上がる。
「上から撃って来る気ですか? ですが空に浮かんだままでは回避も防御も難しいでしょう。一気に――」
「違う。イズルはそのままこっちに来る!」
 高度を取ったイズルは銃を撃つことなく、前衛の上を越えるように移動して着地した。
 高く跳躍して、着地する。
 イズルが行なったのはたったこれだけの行動だが、リベリスタ達は喉元にナイフをつくつけられたような冷や汗をかいていた。誰が予想できただろうか。後衛職と思っていたイズルが空を飛んで前に出てくるなど。
 移動の為に貴重な時間を割いた上に行動自体も捨て身に見えるが、回避に優れたイズルなら生存の率も高い。
 リベリスタは行動を逡巡するが、急な作戦変更などできるはずがない。どの道、一気に攻めるのみとばかりにエイジに破界器の矛先が向く。
「――ソロソロ、ヤベーゼ」
「キサが回復します。こっちに来てください」
 そしてこのパーティ内で回復担当の綺沙羅の回復手段は符術。その欠点は遠距離まで届かないことだ。故に傷ついた前衛が回復を受けるには、一度下がらなければならない。
「『鯨銛』……! しまった!?」
『達磨』が持っている槍を投擲する姿を見て、夏栖斗がその意図を察する。回復の為に接近していたリュミエールと綺沙羅に『鯨銛』が迫り、爆音と共に二人を傷つけた。既に運命を燃やしていたリュミエールはその一撃で力尽きた。防御力があるとはいえない綺沙羅も、その一撃で激しい傷を受ける。
「……っ! これは……」
「拙い……! 回復に向かえば『鯨銛』で一掃される……!」
「イズルも厄介な場所にいる……!」
 エイジと交戦しながら、リベリスタは悪化した戦況に冷や汗を流していた。回復を絶たれ、体力に劣る後衛サイドに厄介な駒が飛び込んだのだ。
「そういうことだ。侮ったつもりはないのだろうが、読みあいはこちらが勝ちのようだな」
 イズルの弾丸が氷璃に向き、火を吹いた。複数の変調を与える黒の魔術を警戒しての攻撃だ。魔術行使により傷ついていた氷璃はその一撃を受けてよろめいた。運命を使ってなんとか踏みとどまる。
「私のことも忘れてもらっては困りますよ」
「……やれやれ。まぁ、僕の役割はほぼ果たしたかな」
 エイジの稲妻の拳を受けて、りりすが意識を失う。高威力の攻撃を連続して出すりりすは、その分エネルギー切れが早い。エイジはその一撃を警戒してりりすを優先したが、実のところりりすはほぼガス欠状態だった。
「……きゃあ!」
 そしてイズルの銃弾が綺沙羅の肩を貫く。運命を削り踏みとどまるが、次の一撃が耐えれそうにない。
「交代だ、悠里!」
「すまない夏栖斗。だが……!」
『達磨』の攻撃で傷ついた悠里と入れ替わるように夏栖斗が『達磨』の前に立つ。後衛を守るか『達磨』の押さえを優先するか。迷いはあったが『達磨』をフリーにはできない。傷ついた悠里は回復のために綺沙羅に向かいたいのだが、それをすれば狙われることは判っている。歯を軋ませてエイジのほうに向かった。
「おっさん! 世界の平和があんたにとってどうでもいいのはわかってる。
 だけど、セリエバでダメになった世界であんたの娘が守れるのかよ!」
「ならセリエバを倒すだけじゃ。何の問題もないわい。
 侮るな、リベリスタ。娘を傷つけられて助けたいだけとちゃうわい。ワシは娘を傷つけたセリエバを叩きのめしたいんじゃ」
 それは『達磨』の内心の吐露でもあった。娘を思うがゆえの父の怒り。復讐心に似た黒い衝動。巌のような表情が、確かに怒りに歪んだ。
「去ねぃ、リベリスタ。理由はワシが作っちゃる。回復役が倒れれば諦めもつくじゃろう」
『達磨』は槍を回転させ、綺沙羅に向かって投擲する。槍は神秘の力を得て真っ直ぐに綺沙羅に向かい――
「大丈夫です。私が守ります」
 爆風が晴れたその場所には、綺沙羅を庇うアルフォンソの姿があった。使い慣れた盾を手に『鯨銛』の攻撃から仲間を守るアルビノの指揮者。己の非才を知り、その上で自らにできることを模索する者。
「読みあいは、こっちの勝ちのようですね」
 傷の痛みの中、アルフォンソがイズルに向かって笑みを浮かべる。この一手で戦いの流れはリベリスタに流れ出した。
「まだまだ。神は諦めるなと申されました」
 体力が尽きそうになったところでエイジの動きが鋭くなる。追い込まれればその分強くなる彼の闘技。両腕でリベリスタ達の攻撃を受け止め、反らして、そして拳を叩き込む。
「いいえ。もう休みなさいと父が言ってるわ」
 乱戦の間隙を縫うようにしてエナーシアのライフルが動く。コンマ1秒の時間、世界が止まったようなイメージ。周りの風、気温、周りの人間の動き、そして自分自身の動き。銃をしっかり固定して、引き金を引いた。回転して空気を進む弾丸がエイジに吸い込まれるように叩き込まれた。
「まだ……です」
 最後まで戦うことを諦めることなく、『白蹄三打』千鳥エイジは地に伏した。

●終戦。そして新たなステージへ、。
 船の入り口が騒がしくなる。大量のアンデッドがタラップから現れ、戦場に向かってくる。
 戦闘不能の仲間と倒したフィクサードを確保しながら、リベリスタは体勢を整える。
 元々このアンデッドを捨石にするつもりだったのだろう。『達磨』とイズルは躊躇なく移動する。『達磨』は船のほうにそしてイズルは羽根を広げ――
 氷璃はアンデッドと一緒にフィクサードを石化しようとして……タラップにいるフィクサードが石化しない『達磨』しかないことに気付いてやめる。イズルは夜空を飛んで、船とは別の方向に飛び去っていった。
「セリエバの召喚はさせない! 絶対にだ!」
 夏栖斗の言葉に『達磨』は一瞬足を止める。しかし振り返ることなく船の中に消えていった。
 ――そして船は闇の中に出航していく。

 リベリスタ達は港のアンデッドを殲滅した後、捕らえたミナコとエイジに質問した。
「教えてもらいましょうか。あなた達の知っていることを」
 悠月の問いかけに、ミナコはあっさり口を割った。
「セリエバ召喚の情報は胸ポケットの記憶媒体内にあるよ」
「これね。一応聞くけどウィルスとかじゃないわよね?」
「だとしても、キサにかかれば問題ないよ」
 エナーシアが胸ポケットをあさり、黒い記憶媒体を取り出す。綺沙羅がそれを自分の端末を使ってデータを確認する。写しだされたのは日本から離れた海。そこを走る数本の線。そして『POINT-D』と書かれた赤丸の点。
「海図……か?」
「僕見たことあるよ。セリエバを召喚しようとした組織も同じものを持ってた。だけど微妙に形が違う……?」
 別の依頼でセリエバの情報を得ていた悠里はその映像の意味に気付き、そしてその情報との差異に気付く。
「召喚ポイントは複数あるのですよ。海域そのものに魔法陣を描き、巨大な召喚場を形成している」
「私たちが知っているのはその一つさ。ちなみにそこだけを潰しても、セリエバの召喚は止まらないってさ」
 イズルとミナコが情報を補足する。リベリスタは事態に気付いて、二人に問い詰めた。
「つまり……おまえ達が持っている情報だけではセリエバ召喚は防げないってコトか!?」
「ああ。六道のシュリーゲンは情報を分割させることで情報漏えいのリスクを塞いでいる。
 主要ポイントを知っているのは召喚に深く携わっているものたち。あとは私たちみたいに召喚ポイントの一つを教えてもらってるだけさ」
「徹底している……!」
 地団駄を踏むリベリスタ。縛られたまま肩をすくめるフィクサード。
「ようするに、全部のフィクサードから情報を集めればたどり着けるってコトなんだろう」
「ある程度の情報が集まればそこから魔法陣の形を推移することは可能でしょう。
 これからセリエバに対する戦力と物資を輸送する段階にはいります。輸送中の船を捕らえれば情報も手に入るでしょう」
 エイジの言葉にリベリスタたちは顔を見合わせる。
「――方針は決まったな」
「ええ。フィクサードが船に乗って外洋にでる情報を得れば、それを叩けばいいってことね」
「船員はEアンデッドを使役しているらしいから、『万華鏡』でも予知できるかもな」
 やるべきことは見えてきた。何をやるにしても、まずは皆にこのことを知らせなければならない。
「帰ってアークに報告だ!」
 
 闇の中、船は行く。
 リベリスタ達はそれを追う術はなく、闇を照らす光はない。
 しかし、道は見えた。運命を食らうアザーバイドの召喚場。そこに繋がる確かな道を。
 
 さぁ、追撃戦の始まりだ。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 アンデッドが殆ど役に立たなかった件について。なにこの複数攻撃と全体攻撃の嵐!
 抽選とはいえ、火力過多な構成に驚き。
 
 MVPはイズルとエイジをとことんなまでにひきつけた戦場ヶ原様に。命中190のアッパーとか、さすがにどうしようもなく。
 集中砲火を受けることになりましたが、その分後衛に向かう火力を防がれた形です。
 
 セリエバ召喚シナリオにおける第一幕『アーティファクト争奪戦』はこれにて一旦幕引きになります。次のステージまで、ひとまずお別れを。

 それではまた、三高平市で。