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<剣林>万難を砕き、唯一つの道を往く


 傾斜の緩い山道を、十人のフィクサードが進む。
「山登りにゃ物足りねえな」
 軽口を叩きながら先頭を行く男の背に、長弓を携えた銀髪の男が声をかけた。
「――拳壮。本気で“あれ”の召喚に手を貸す気か」
「今更その話かよ、エフィム」
 振り返った男――空閑拳壮(くが・けんそう)が、僅かに眉を寄せる。
 エフィムと呼ばれた銀髪の男は、虎の鋭さを秘めた僚友の視線を真っ直ぐに受け止めた。
「……正直、俺は気が進まない。“あれ”は危険すぎる」
「んな事ぁ『達磨』の旦那も承知の上だろうよ。
 方法が一つきりだってんなら、そこに賭けるしかねえ。違うか?」
 躊躇いなく言い放ち、拳壮は口元を笑みの形に歪める。
「大事なモンのために、他の全てを切り捨ててでも進む――そういう男は、嫌いじゃねえ」
 予想通りの言葉を受けて、エフィムは小さく溜め息を漏らした。
「相変わらず酔狂な奴だ」
「何だかんだ抜かして、きっちり段取り整えてくる手前に言われたかねぇよ」
「引き受けたからには仕事はする、それだけだ。“あれ”の事は引っかかるがな」
 は、と短く笑い、拳壮は視線を前方に戻す。
 肩越しに、エフィムの声が届いた。
「アークは来るだろうか」
「まぁ、十中八九来るだろ。じゃなきゃ、わざわざ頭数揃えた意味がねえ」
「例のアーティファクトは使うなよ。狙いが狂う」
「いちいち念を押すなよ。何のためにこの面子にしたと思ってやがる」
 拳壮としては、アークのリベリスタと心ゆくまで喧嘩を楽しみたいという思いもあるが――今回は個人の欲求よりも目的が優先する。同行させるメンバーも、それを第一に考えて選抜していた。

 取り立てて、『達磨』十文字晶と親しいわけではない。
 拳壮を動かしたのは、“不倒の槍使い”の名声ではなく、道を貫く男の覚悟。
 体を張る理由など、彼にはそれで充分だった。


「剣林派フィクサードが、アーティファクトを狙って行動を起こしている。
 このアーティファクトを確保、あるいは破壊するのが今回の任務だ」
 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を見て、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は説明を始めた。
「現場は山の中にある小さな祠。アーティファクトはそこに収められている石の神像だ」
 フィクサードより先に祠に辿り着くことは100%不可能だが、急げば祠の少し手前で彼らに追いつける。これを突破し、祠の中にある神像を確保、または破壊しなければならない。

「敵は『空閑拳壮』と『エフィム・イーゴレヴィチ・レドネフ』を中心に合計で十人。
 空閑拳壮は虎のビーストハーフで、格闘戦に強い拘りを持つ覇界闘士だ。
 以前、アークに挑戦状を叩きつけて文字通り喧嘩を売ってきたことがあるが……
 今回は神像の入手を最優先に動いている節がある」
 逆に考えれば、不必要な戦闘や殺戮は行わないということだ。
 目的の遂行が不可能になった場合は、大人しく撤退する可能性が高い。
「エフィム・レドネフはメタルフレームのスターサジタリーで、
 空閑拳壮とは対照的に射撃戦を得意とする。
 戦いになれば、互いに連携してこちらの戦力を削ごうとする筈だ」
 リベリスタとフィクサードが戦う場所から祠まで、障害物は何もない。
 一人や二人が強引に突破したところで狙い撃ちの的になるだけだし、それは敵も同じことだ。
「向こうの出方も考えると、正面からのドンパチで相手の数を減らすしかないだろうな。
 連中を迂回して祠を直接狙えたら楽なんだが、
 時間的にも、人数的にも、そんな余裕はないと思った方がいい」
 リベリスタ側にとって有利なのは、『神像の確保』に拘る必要はないということだ。
 神像を破壊してしまえば、その時点でフィクサード側の目的を潰すことができる。
 壊して良いのかというリベリスタの問いに、数史は思案顔で頷いた。
「詳しいことはわかっていないが、神像は周囲の魔力を増幅する力を持っているらしい。
 戦いに役立つようなものじゃないから、おそらくは何らかの儀式に用いるんだろうが……
 問題は、何でこんな代物を剣林派フィクサードが必要としているか、だ」
 フィクサード主流七派の中でも武闘派と名高い彼らが求めるアーティファクトにしては、どうにも違和感が拭えない。
「ここ最近の情勢を考えると、素直に渡して良いものとも思えないしな。
 連中に持って行かれるくらいなら、壊してしまった方が後腐れがない――という判断だ」

 数史は手にしたファイルを閉じ、顔を上げてリベリスタ達を見る。
「考えることは多いが、任務としては『神像を敵に渡さない』、これだけ徹底すればOKだ。
 どうか、よろしく頼む」
 黒髪黒翼のフォーチュナは、そう言って頭を下げた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月08日(月)22:35
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●成功条件
 アーティファクト『石の神像』の確保あるいは破壊。

●敵
 剣林派フィクサード10名。
 彼らの目的は『石の神像』の入手であり、それが不可能な状況に追い込まれれば撤退します。

■空閑拳壮(くが・けんそう)
 拙作『<剣林>インファイト・フリークス』に登場した剣林派フィクサード。
 (独立したシナリオのため、上記リプレイを読まなくても支障はありません)
 推定年齢20代後半~30歳前後の卓越した武術家で、近接戦闘に誇りを持っています。

 《ビーストハーフ(トラ)×覇界闘士》
 【武器】ガントレット
 【所持スキル】
  ・土砕掌→物近単[物防無][麻痺]
  ・大雪崩落→物近単[ショック]
  ・壱式迅雷→物近複[感電]
  ・獣牙爪印(EX)→物近単[ブレイク][失血][致命]
 【戦闘スキル】絶対者/極錬気
 【非戦スキル】鉄心/集音装置
 【種族スキル】超反射神経

 なお、彼は遠距離攻撃の命中率を大幅に下げるアーティファクト『インファイト・フリークス』を所有していますが、このシナリオで使用することはありません。

■エフィム・I・レドネフ
 両目と右腕が機械化したメタルフレームで、弓を得手とする剣林派フィクサード。
 拳壮の友人で、彼とは対照的に射撃戦に長けています。

 《メタルフレーム×スターサジタリー》
 【武器】ロングボウ
 【所持スキル】
  ・バウンティショット→物遠単[連]
  ・1¢シュート→物遠2単
  ・カースブリット→神遠2単[呪い]
  ・インドラの矢→神遠全[業炎][火炎]
 【戦闘スキル】弓熟練LV3/完璧主義/大錬気
 【非戦スキル】イーグルアイ/熱感知
 【種族スキル】無限機関

■配下
 拳壮とエフィムに従う剣林派フィクサード。
 種族はジーニアスとフライエンジェが半々です。

・クリミナルスタア×3
・クロスイージス×2
・ホーリーメイガス×1
・プロアデプト×1
・レイザータクト×1

●アーティファクト『石の神像』(仮称)
 黒い石で作られた由来不明の神像が革醒したものです。大きさは30cmほど。
 詳しい性能は明らかになっていませんが、周辺に存在する魔力を取り込み、増幅する力があると考えられています(戦闘に影響を及ぼすことはありません)。
 破壊を試みる場合、スキルを用いずともリベリスタの攻撃で簡単に壊すことができます。

●戦場
 人気のない山の中(一般人の対策は不要)。
 切り立った崖の上に小さな祠があり、その中に『石の神像』が収められています。

 祠の手前、約50メートル地点で戦闘開始。
 フィクサード達との距離は約10メートル、事前の付与スキル使用等は不可です。
 (崖の反対側に回り込む時間の余裕は無いものと考えて下さい)

 初期位置から祠まで障害物はなく、射線は通っています。
 (ただし、祠の扉が閉まっているため『石の神像』は視認不可)
 時間帯は日中で、明るさや足場など戦闘の妨げになる要素はありません。

 情報は以上です。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
覇界闘士
浅倉 貴志(BNE002656)
ソードミラージュ
ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)
スターサジタリー
ユウ・バスタード(BNE003137)
ダークナイト
御堂・霧也(BNE003822)
覇界闘士
ヘキサ・ティリテス(BNE003891)
レイザータクト
文珠四郎 寿々貴(BNE003936)
■サポート参加者 2人■
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)


 獣の聴覚が、拳壮に敵の接近を告げていた。
「来たか」
 機械化したエフィムの瞳が、彼我の距離を測る。
「このままでは追いつかれる。祠の手前で迎え撃つぞ」
「あいよ」
 武器を手に、剣林の男達は戦場に駆けた。


 足を止めて身構えるフィクサード達に向かって、『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)が地を蹴る。前方の崖に、小さな祠が見えた。
 あの中にある石の神像――アーティファクトを、敵は欲しているらしい。
「何をするつもりか知らねーけど、なんか嫌な予感がすんなー……」
 兎のように跳躍し、ずば抜けたスピードで一息に距離を詰める。
「とにかく像を渡すわけにはいかねー!」 
 ヘキサは四人の敵フライエンジェの中で唯一射撃可能な武器を持たない一人をブロックし、身体能力のギアを上げた。
 続いて、『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が拳壮に迫る。知った顔を認め、虎の覇界闘士は口元に笑みを浮かべた。
「よぉ、『人間失格』」
 繰り出された音速の二刀を、手甲に覆われた両腕で弾く。火花が散り、金属が擦れる耳障りな音が響いた。
 敵陣に突撃した『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が、心蝕む言葉でフィクサードの半数を怒りに染める。彼女の後を追い、ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)が中央に切り込んだ。
「再会の機会が早いですね~」
「あぁ、まったくだ」
「今回は~、争奪戦で近接オンリーじゃないのが少し残念です~」
「生憎と、喧嘩じゃねえんでな」
 間延びした口調で拳壮と言葉を交わしながらも、二個のチャクラムを自在に操って敵前衛を翻弄する。辛うじて状態異常を免れたフィクサードの一人を、浅倉 貴志(BNE002656)が抑えた。
 可能ならクロスイージスを担当したかったが、現状では、八人の配下のうち『誰がどのジョブか』を見分けるのは難しい。まずは、前衛の数減らしが優先だろう。
 流水の構えを取り、貴志は眼前の敵を見据える。アーティファクトを手に入れ、何をしようとしているのか。
 最近、主流七派の特定の人物、そしてアザーバイドに関わる事件が増えているようだが――
(これもまた、その一件でしょうか?)
 彼らの目的について、『舞姫が可愛すぎて生きるのが辛い』新城・拓真(BNE000644)はほぼ見当をつけていた。
「リベリスタ、新城拓真。剣林のフィクサードに違いはないな」
 名乗りを上げて前進しつつ、拳壮に問いを放つ。
「聞こう。セリエバの危険性を知っていながら、そちらは退く気はないのだな?」
「分かってんなら訊くなよ」
 拳壮の返答は、りりすもろともリベリスタ達を打つ雷撃の武舞。予想は、ここで確信に変わった。
(やはり、セリエバを召喚する為の儀式に必要な物を集めているか)
 何も不思議なことはない。剣林とはそういう人間の集まりだと、拓真は知っている。説得を試みても無駄に終わるだろう。
「ならば……そちらの流儀通りに力で強引に捻じ伏せる!」
 彼は前衛のブロックに回ると、傷だらけの自動拳銃“ブレイドライン”から無数の弾丸を吐き出した。

 やや後方にいた敵フライエンジェの一人が、神々しい光で状態異常を消し去る。直後、ヘキサの前に立つ敵の全身からオーラの糸が無数に伸びた。
「……こいつ、プロアデプトか!」
 急所を狙い撃つ糸をすんでのところで避け、ヘキサが眉を寄せる。愛用の改造小銃を構えた『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が、エフィムに叫んだ。
「エフィム・イーゴレヴィチ! 名の通った撃ち手と聞きます!
 私程度では物足りないでしょうけど、ちょっとお付き合い頂きましょうか」
「やるなら勝手にやってくれ。俺はそこまで暇じゃない」
「んもー、つれないですねー。――では、存分に!」
 天を貫く銃弾が、燃え盛る矢となってフィクサード達の頭上に落ちる。炎に包まれたエフィムが、無言で長弓に矢をつがえた。
 彼の矢に射抜かれた秋晴れの空から、無数の火矢が降り注ぐ。その一射でエフィムの技量を見抜いたユウが、「わお」と声を上げた。 
 仲間達に翼の加護を与えた『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)が、周囲をぐるりと見渡す。遮蔽物に利用できそうな木は、近くにはない。
(流石に今回は逃げ回ってたすけてー とかはできないし)
 敵との射線の間に前衛を挟んで立ち、腹を括る。彼女の脇を抜け、『断魔剣』御堂・霧也(BNE003822)が前に飛び出した。
「大事なモンのために、他の全てを切り捨ててでも進む……か。
 ――確かに其の生き方は嫌いじゃねぇ。一つの男の生き様だかんな」 
 斬馬刀を構えてエフィムに突進する彼を、敵の前衛が阻む。
「嫌いじゃねーが、止めさせてもらうぜ?」
 霧也は暗黒の瘴気を呼び起こすと、それを槍に変えて前方へと撃ち出した。


 両陣営ともに前衛は七人。互いに一人ずつを抑え、敵が祠側に突破するのを防ぐ構えだ。
 まずは眼前の敵を片付けるのが優先と、ヘキサが宙を蹴った。
「走って! 跳んでぇ! ……蹴ッッッ飛ばすッ!!」
 地上、空中を問わず軽いフットワークで跳ね回り、音速の飛び蹴りを浴びせる。彼の両脚を覆う“紅鉄グラスホッパー”が、真紅の軌跡を鮮やかに描いた。
 ユーフォリアの指先で、円刃が踊る。白い翼を羽ばたかせる彼女の姿と、高速で繰り出されるチャクラムの斬撃が、多重の幻となって前列のフィクサード達を襲った。
 しかし、敵もさる者――前衛の一部が混乱に陥っても全体の統制は失われないし、敵の注意を惹こうとするユーフォリアの誘いにも易々とは乗らない。たとえ前列が欠けても、その時は後衛の三人が迷わず壁になるだろう。
「ある程度穴を開けない事にはどうにもなりませんね」
 両腕で“Missionary&Doggy”を構え、ユウが小さく溜息を漏らす。
 フィクサード達は、リベリスタ達の隙を突いて祠に突破しようとは考えていない。逆にリベリスタ達をこの場に留め、足を止めての撃ち合いで戦力を削ろうとしている。下手に戦線が前に伸びた場合、長射程の攻撃で祠、ひいては神像を破壊される可能性があるからだ。
 いずれにしても、先に敵の数を減らした側がアドバンテージを取ることになる。ユウの火矢に続いて、拓真の連続射撃がフィクサード達を次々に捉えた。
 霧也が、己の生命力を糧に暗黒の瘴気を生み出す。
「纏めて薙ぎ払ってやんよ!」
 黒き槍が、彼の周囲に立つ敵前衛を同時に襲った。できれば回復役から潰したいところだが、射線の問題で難しい。火力が分散する危険はあるが、狙える敵を攻撃するより他になかった。

 リベリスタ達は状態異常でフィクサード達をかく乱し、突破の隙を窺う予定でいたが、複数人が回復手段を有している今回の相手に対しては些か相性が悪い。
 だが、それはフィクサード側にとっても同じことが言えた。レイザータクトの挑発で我を失った仲間達を、エリス・トワイニング(BNE002382)が聖なる神の息吹で呼び戻す。常に周囲のマナを取り込み続ける彼女が後方に控えている限り、回復が途切れることはない。
「――まずはそこからだ」
 互いに癒し手に支えられ、膠着する戦況を見ていたエフィムが指示を飛ばす。序盤、数十秒の攻防でリベリスタ側の生命線を見抜いた彼は、即座に弓を引いた。
 硬貨すら貫く一矢が、エリスの胸に突き立つ。クリミナルスタアと思われる三人が、フィンガーバレットから一斉に不可視の殺意を放った。
「まだ……立てる」
 運命を削ったエリスが、天使ラジエルの書を胸に抱いて立ち上がる。効率動作の共有化で仲間のサポートに徹していた寿々貴が、すかさず癒しの福音を響かせた。
 いつも通りの緩やかな笑みを面に湛えたまま、彼女は拳壮を一瞥する。
「体を張る理由を得てしまった達人。やれやれ、たまんないね」
 さして大事なものもなく、拾うことも切り捨てることもしない自分とは、まるで考え方が合わない。
「あれこれ事情はあるんだろうけど、身内でもないのに気にしても始まらないよね」
 今やるべきことは、神像を彼らに渡さない――それだけ。

 銘無き太刀と赤きジャックナイフの二刀を巧みに操り、りりすは拳壮との間合いを取る。強引とも思える大胆さで踏み込んだ拳壮の掌打が、りりすの脇腹を捉えた。
 直撃は免れたものの、荒れ狂う破壊の気に内臓を傷つけられる。血反吐を地に吐き捨て、りりすは声を絞り出した。
「……情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」
 獣にも人にもなれぬ鮫は、それでも『人間』を好む。
 足掻き、もがいて、手を伸ばし――必死に生きるモノが。
「許せない事があるとしたら、それは一つさ」
 音速を超えた刃が、虎の腕に喰らいつく。


 再び集中攻撃に晒されたエリスが、力尽きて倒れる。状態異常の回復手段を失ったリベリスタ達は、一気に苦境に立たされることになった。
 対するフィクサード側は、ホーリーメイガスと二人のクロスイージスで戦線を支え、プロアデプトとレイザータクトの二人で次々に状態異常をばら撒いてくる。
 そうやって時間を稼ぐ間に、エフィムとクリミナルスタア達でリベリスタ側の前衛を一人ずつ狙い撃とうというのだ。
「これは~、ちょっとまずいかもしれませんね~」
 集中攻撃の的になったユーフォリアが、次々に襲い来る射撃を両手のチャクラムで弾きながら口を開く。高速戦闘を得手とし、高い回避力を誇る彼女が守りに徹しているからこそ落とされずに済んでいるが、癒し手の一人を欠いた今は、それでも与えられるダメージが回復量を上回ってしまう。
 確実に攻撃を当てるべく集中を研ぎ澄ませていた貴志が、攻防自在の構えから土砕掌を繰り出した。
 武闘派を名乗るだけあって、剣林のフィクサード達はなかなかに手強いが、それで怯むような彼ではない。
「たとえ、その身が鋼の鎧に守られていても――!」
 体内に浸透した破壊の気が、屈強な男の全身を揺らし、その動きを封じる。
 しかし、それでもフィクサード達の勢いは止まらない。りりすとの戦いに追われる拳壮に代わってエフィムが彼らを纏め、一糸乱れぬ連携で襲い掛かる。
 ユーフォリアの救援に向かおうにも、前衛たちは皆、自分の相手で手一杯だ。必死に攻撃を凌ぐ彼女のしなやかな肢体が、純白の翼が、血の赤に染まっていく。
 仕上げとばかりに放たれたインドラの矢が、ユーフォリアをとうとう炎の中に撃ち倒した。煽りを食らって火矢の直撃を受けた寿々貴が、自らの運命を引き寄せて意識を繋ぐ。
 ヘキサと舞姫――戦い続ける二人の姿が、光を取り戻した視界に映った。
 見知った面々が、最前線で頑張っている。そんなことで体を張れてしまう自分が、少し意外に思えた。
「……いやだなぁ、癖になると体壊しそうだ」
 呟きつつ、癒しの福音で全員の傷を塞ぐ。言葉とは裏腹に、気分は存外悪くなかった。

 状況は、先に数を減らされたこちらが不利。業を煮やしたヘキサが、眼前の敵を飛び越えるようにして高く跳躍した。
「これがウサギの牙だぜッ!」
 素早く宙返りするとともに神速の蹴りを繰り出し、真空の刃を生み出す。
「――喰い千切られろォッ!!」
 風を切る蹴撃が、最も傷ついていたフライエンジェのクリミナルスタアを地に沈めた。自分をブロックしていた敵が倒れたのを見て、霧也がすかさずエフィムの抑えに回る。
 至近距離での戦いはお互い不得手だろうが、やってやれない事はない筈だ。
「よぉ、旦那。手合わせ願うぜ?」
「悪いが、俺は拳壮じゃない」
 愛用の斬馬刀を振るい、暗黒の瘴気を撃つ霧也に対し、エフィムはあくまでも冷静に弓を構える。機械の双眸が、立ち塞がる少年の顔を映した。


 一方、りりすと拳壮は一進一退の攻防を繰り広げていた。隙あらば壱式迅雷で味方を援護しようとする拳壮に対し、りりすは持ち前の観察眼で動きを読み、彼に張り付いて行動を縛る。
「達磨君といい。君といい。僕は、そんなに取るに足りない相手かね?」
 打ち合いながら、りりすは不機嫌そうに拳壮を睨む。何より許せないのは、先日に比べて精彩を欠いた『敵』の表情。それは、己の生き方に対する侮辱だ。そんな相手と、闘りたいんじゃない。
「誰かのため。何かのため。都合が悪くなりゃ、誰かのせい。何かのせい。
 そうじゃないってんなら笑え」

 ――誰に恥じようとも、己に恥じることが無いならば。

 拳壮が、掌で音速の斬撃を受け止める。
「……そうか、俺ぁそんなシケたツラしてたか」
 食い込む刃を流れる血ごと握り締め、拳壮が笑う。
「そいつぁ悪いことしたな、お前さんに失礼ってもんだ。なぁ、『人間失格』」
 虎の瞳には、もはや眼前の鮫しか映らない。
 僅かな迷いをかなぐり捨てた獣の爪が、唸りを上げてりりすに襲い掛かった。


 立て続けに放たれる銃弾や矢が、紅鉄の脚で跳ねる兎を貫いていく。
 フィクサード達は拳壮を除く全員が、武器またはスキルによる遠距離攻撃の手段を有していた。狙いを集中させた時の瞬間火力は、凄まじいの一言に尽きる。
「ちくしょう……!」
 気まぐれな運命(ドラマ)の加護及ばず、ヘキサが地に崩れ落ちた。
 これで、リベリスタ側の戦闘不能者は三人――うち二人が前衛である。
 エフィムが、後方のフライエンジェ二人に祠に向かうことを命じた。賭けにはなるが、全体にダメージが積み重なりつつある現状、像を入手するチャンスは今しかない。
 前に残った六人が、祠に駆ける二人の盾となってリベリスタ達を阻む。全員が躊躇わず前衛に立つのは、剣林らしいと言うべきか。
 リベリスタ達もまた、全力で穴を開けにかかった。
「――確実に、阻止するのみです」
 貴志が、眼前の敵に土砕掌を叩き込む。
 まだ、神像は奪われてはいない。道を開き、誰か一人でも追うことができれば、状況を覆すことは十分に可能だ。
「セリエバを事が済めばその力で倒そうと考える連中だ。ならば、此方もその力とやらに対抗するまで」
 拓真が銃を構え、引き金を立て続けに絞る。
 武人として、強者と刃を交えるは誉れ――互いに振るう武器が銃や弓であろうと、本質は変わらない。
「全力を出し、この戦いに勝利させて貰うぞ!」
 鉛弾が、立ち塞がるフィクサード達の全身を穿った。


「――祠には行かせません!」
 舞姫の的確な挑発が、前を行く二人のうち一人を怒りに染める。もう一人は、彼女の位置からではギリギリ射程に収めることができなかった。
「祠ごと燃やせたら楽なんですけどねー」
 ユウが、ぼやきながら愛銃の銃口を空に向ける。この距離では、30メートル射程のスキルでも届きはしない。
 ならば、道を阻む壁を纏めて焼き払うまで。
 天から降り注ぐ火矢が、傷の深かった三人のフィクサードを同時に沈める。
「今のうちに突破を!」
 残る敵の一人を土砕掌で足止めした貴志が、拓真に叫んだ。全力で壁を駆け抜ける拓真の背を、エフィムが視線で追う。
「させるかよっ!」
 霧也が、自分の体を割り込ませて射線を塞いだ。エフィムは咄嗟に目標を切り替え、至近距離からの速射を霧也に浴びせる。ギリギリで持ち堪えた彼は、的確に急所を狙った矢を力任せに引き抜いた。
「……ったく、この距離でホントに良くヤルぜ。ハッ、面白いじゃねーかよ!」
 赤き魔具と化した斬馬刀が、エフィムの肩口に深く食い込む。血を奪われた銀髪の射手は、運命を用いて己の身を支えきった。
 天使の福音を奏でて仲間達の傷を塞ぐ寿々貴が、りりすと拳壮を横目に見る。
 互いに運命を削り合う獣たちの闘いに、決着が訪れようとしていた。
「負けらんねぇよ。だから勝つ。僕は、全力で『僕』を貫く」
 全身血染めのりりすが、猛き虎に音速の二刀を突き入れる。
「……今日の借りは返すぜ。必ずな」
 倒れるその瞬間、拳壮は澄んだ瞳で『笑った』。

 そして、もう一つの戦いにも幕が下りる。
「この距離なら――当ててみせる!」
 祠に辿り着いた敵が神像を手に取った直後、射程ギリギリから放たれた拓真の弾丸が像を貫いたのだ。
「引き上げだ」
 神像の破壊を確認したエフィムが、低い声で撤退を促す。目的のアーティファクトが失われた以上、もはや戦いを続ける理由はない。それは、リベリスタ達にとっても同じことだった。
「……また戦おうぜ、旦那?」
 怪我人を抱えて踵を返すエフィムに、霧也が声をかける。
「戦場で会うなら、そういうこともあるだろう」
 言葉は至って素っ気なかったが、鋭い眼光を放つ機械の瞳は、霧也と、その向こうに立つユウの姿を真っ直ぐに捉えていた。彼もまた、武闘派たる剣林のフィクサードだ。
「飛び道具でご飯を食べてるモノ同士、積もる話も出来そうですがー。
 ま、向こうもお仕事。こちらもお仕事ですからね」
 エフィムの背中を見送りつつ、ユウが呟く。
 彼の隣には、よろめきながらも自分の足で立ち去っていく拳壮の姿があった。
「また~、どこかで縁がありそうですね~」
 傷ついた身を起こし、ユーフォリアが呟く。おそらく、次も敵だろうが――。

「まぁ、破壊まで持ち込めたし御の字かな」
 フィクサード達の姿が見えなくなってから、寿々貴がふぅと息を吐く。神像の確保は叶わなかったが、この際仕方が無い。
 ヘキサは祠を覗いたが、目ぼしい手がかりは得られなかった。
「これで終わらねーんだろうな……」
 彼の呟きは、この場の全員が抱く思いでもあった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
数史「お疲れさん、無事に済んだみたいで何よりだ。怪我した面子は、どうかお大事にな」

 のっけから拳壮が釘付けにされてしまったおかげで、ほとんど『9対9の戦い+タイマン』という構図になったわけですが……。
 感想としては、バッドステータスによるかく乱に気を取られるあまり、攻撃目標の統一が若干甘かったかな、と。
 全体・複数攻撃で纏めて薙ぎ払うという戦術も有効ではあるのですが、『弱った敵を狙い、数を減らす』という点では単体攻撃の方がより確実です。
 また、速度の高いメンバーでバッドステータス攻めという戦術は、相手に回復手段がない場合は恐ろしく強力ですが、クロスイージス2名・ホーリーメイガス1名を擁する今回の敵構成からすると封殺はなかなか厳しかったと思います。

 こういった一手・二手のロスが積み重なり、結果として序盤~中盤は敵にとって有利な展開になりましたが、終盤の追い上げが凄まじく、最終的にはアーティファクト破壊でリベリスタ側の勝利となりました。
 拳壮とエフィムを始め、剣林派フィクサードたちはこの戦いで大きなダメージを負いましたが、またどこかで皆様と相見えることもあるかもしれません。
 当シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。