● 空に巨大な眼球が現れてから数日。 ラ・ル・カーナは、どんどん壊れていく。 世界樹のおぞましき変異はどんどん進行していく。 山野の姿が歪み色や形に変わるのはもとより、生き物の姿も形もどんどん変わっていく。 それは、知性体であるバイデンにも及んでいた。 このまま放置すれば、やがては完全な領域である森すら侵食され、フュリエ達も理性と種の形状を維持できなくなるだろう。 この状況を打開すべく、アークの研究開発室は世界樹の変異を回復させる手段として一つの可能性に思い当たっていた。 それはかねてより研究を進めていたラ・ル・カーナの『忘却の石』の転用である。 『忘却の石』は神秘存在の持つその構成を『リセット』する為のアイテムとされていたが、純度を高めた『忘却の石』と世界樹にリンクする事が可能であるシェルンの能力を合わせればかの存在を構築する要素に潜り込んだ『R-typeの残滓』のみを消失出来るのでは無いかという推論だった。 『R-typeへの強い感情』を持つ時村沙織はこの状況に強行する判断を下す。 この世界からの退却ではなく、可能性への挑戦を。 ● 争いと憤怒の権化であるバンデンの多くは理性をなくし、その誇りをなくし、ただの化け物と成り果てた。 ノーフェイスと化した人間を見慣れてしまったアークのリベリスタでも、その変貌振りは正視し難い。 百鬼夜行とはこのことを言うのだろう。 一体として同じものはいない変異バイデン。 まともにぶつかって勝てる相手ではない。 一体二体ならまだしも、見渡す限りと戦うならば策を講じなければならない。 「ラ・ル・カーナ橋頭堡に攻め入らせる」 リベリスタ達はそういう結論に達した。 彼らをひきつけ、自らを囮とし、死出への吊り橋を渡らせるのだ。 そして一網打尽とした後、橋頭堡ごと殲滅破壊する。 バイデンのための備えだった橋頭堡を、変異体の墓標とするのだ。 「囮、やってくれる奴はいるか?」 ただ走ればいいというものでもない。 時々は攻撃して気を引いたり、向こうの攻撃が届くギリギリで挑発したり。 距離をとっても、向こうから武器が投げつけられたりするかもしれない。 追いつかれて組み伏せられたら、変異体の群れになぶり殺しにされるかもしれない。 そのとき、仲間の為に立ち止まるか、そのままおとりを続けるかは、リベリスタ次第だ。 「命にかかわるかもしれない。それでも行ってくれるか?」 足を止めたら終わりだ。落ち着いて攻撃などしている暇はないだろう。 撃っては逃げ、撃っては逃げしなくてはいけない。 「ありがとう。でも、絶対に死ぬな。こんなことで死んでる場合じゃない。絶対に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月07日(日)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「さてさて敵は多くの異形達。群がるは世界をかつて支えた木、誘い込む場所は人の作りし橋頭堡」 『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)の前では、文字通り常識に羽根が生えて飛んでいく。 今から、変異体バイデンを引き連れて橋頭堡までのデッドレース。 捕まれば四肢を千切られ頭をもがれ、頭の底まで歪んだ化け物の慰み者にされるというのに、あどけない頬に浮かんでいるのは笑みなのだ。 「斬って煽って導いて。さあさあ鬼さんこちら、都市伝説はこちらデス。思う存分踊ろうじゃないデスカ。アハ」 「誇りすら忘れ、ただ本能のままに暴れるか……」 『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)は忍である。 敵陣に飛び込み引っ掻き回して、おびき出すのは忍の華だ。 残念ながら、まともな軍ではなく、行かれた有象無象の百鬼夜行ではあるが。 「きっとこんな終わり方、不本意だと思うんです……」 『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)の平板な口調に、感情が纏わりつく。 精一杯己の心情を伝えようとする彼女の言葉にリベリスタ達は耳を傾けた。 「ならば、せめて華々しく散る場へと迎えてやろうでは御座らんか」 幸成の言に小さく頷く。 「せめて、私達の手で…彼らの神聖な戦いで、最期を迎えさせてあげましょう……!」 そのために橋頭堡では数多のリベリスタがてぐすね引いて今や遅しと待っている。 リベリスタ達の仕事は、百鬼夜行を殲滅することにあらず。 一匹でも多く百鬼夜行を招き寄せ、橋頭堡におびき寄せるかだ。 そのためには、鬼にもなろう、道化にもなろう。 罵詈雑言を唇に、挑発の刃を手に、怒りを共に死、自らを標的としよう。 「命がけの鬼ごっこの始まりか」 『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)は、呼吸を整えた。 「幸い、鬼ごっこの得意な面子だしね」 黒いうさ耳に納得してはいないけれども、今日のところはよきウサギとして走らねばならない。 自己暗示のごとく、 「愛音は囮のうさぎ愛音は囮のうさぎ愛音は囮のうさぎ――」 連呼した『愛の一文字』一万吉・愛音(BNE003975)は、やおら拳を握って立ち上がる。 「愛音が見るものは一つ、世界樹に集う仲間達」 その行く手を阻むモノ達を一網打尽に叩いて潰す。 ちょろちょろ逃がしては効率が悪い。 ハメルンの笛吹がごとく、根こそぎ橋頭堡に連れて行かなくては。 そのための愛音達だ。 「必ず引きつけてご覧にいれるのでございます! LOVE!」 愛音は愛のために戦うのだ。 積み重ねられた符の山から生まれた小鬼の額にも、愛の一文字が浮かび上がっている。 「最後まで誰一人欠けることなく、走りきってみせるよ」 そんな愛音を見やり、綾兎は柔らかな笑みを浮かべた。 「「「じゃ、細かいことは楠神君の言うとーりで!」」」 えぇえ!? と声を上げる風斗に、仲間達は信頼のサムズアップ。 共通認識を一本化したリベリスタ達は、強い。 「でもふーとはえっちで、おんなのてきってきいたの~……」 ぽそぽそと呟き指をくわえつつじと目で風斗を見上げる『くまびすはこぶしけいっ!!』 テテロ ミミルノ(BNE003881)は、警戒心を解いていない。 「誤解だ!」 少年の主張。 そう。風斗はやましいことはしていない。 ただ、ちょっと本人がわからない内に、本人がわからない女心の隙をついちゃっているだけなのだ。 「――わかった。それじゃ、もう一回説明するからちゃんと覚えてくれよ!」 真っ白に変色してしまった前髪に手を突っ込んで無造作に頭をかくデュランダルに、一同は、ハーイとからかい半分の言いお返事をする。 手短に説明した風斗は、肩に愛剣を担ぐ。 「さて、命がけの釣りを始めるとしようか!」 ● 「てーいちにつきしだいの、でふぇんさーどくとりんっ! みんなのぼうぎょりょくあっぷなのぉ!」 ミミルノのそばに立ちいつでもかばえるようにしていた綾兎は、その無邪気な宣言に笑みが漏れる。 「行くよ、ミミルノさん。走るよ!」 「とうそうじゃないのよ、せんじゅつてきてったいなのー!!」 一切の漢字が排他された防御方針表明により、一同の防御姿勢が最適化される。 日頃、ぼそぼそと途切れ気味にしか話せないリンシードの手に拡声器。 大きく吸い込む息。 その様子を、風斗は気が気ではないと見守っている。 何があってもリンシードだけは無事に帰す。 振り絞るのは気力と死力。 そん所そこらの幼女至上主義者の輩とは訳が違う。 生半可の言葉では、狂った鬼をひきつけることなど出来ない。 「バイデンのみなさん……貴方達にまだ戦士としての誇り……理性が欠片でも残っているなら……」 虚ろな目が、うつろな器に剣呑という名の酒が注がれる。 「どうか私の声に耳を傾けてください……! この世界と一緒に腐り果てて死にたいですか……? こちらに……貴方達の求める『闘争』があります……私達についてきてください!」 ごく僅かに残った闘争への渇望が、誇りも何もなくただむさぼりか壊したいという度し難い破壊衝動が、とにもかくにも声を振り絞るリンシードを生贄と認めた。 蠢き出す。 ああ、いつか橋頭堡から見た彼らの進軍は、こんな腐臭に満ちたものではなく、もっと勇壮で美しささえあったというのに。 「戦いを求めたのか……大声に釣られたか……解りませんけど……」 目印に、首から懐中電灯をぶら下げる。 「では……最後までバイデンらしく……戦士リンシード、行きます!」 拡声器を手放し、手には魔力を宿した剣を。 「誇りと心――ひとがひとである為のそれを皆失ってしまったのね」 『帳の夢』匂坂・羽衣(BNE004023)の言葉は、こんな乾いた大地の上でも甘く響く。 「可哀想だと嘆いたってもう戻れないなら、羽衣に出来るのは、終わらせてあげる事だけでしょう」 するすると前に進み出る間に唇に載せる魔法詠唱。 「さ、羽衣と遊びましょう?」 鬼さん、こちら手のなるほうへ。 いらした鬼にはもれなく、雷撃の鎖をプレゼント。 増えた腕が焼け焦げて、増えた頭も焼け焦げて、巨大化した目も鼻も、耳も足も焼け焦げて。 それでも百鬼夜行はとまらない。 彼我の距離をつめながら、一秒一秒が値千金。 足をもつれさせた途端に、明日が遠のく。 白い刀身に赤い線。 剣が振り下ろされるとき、先頭にいた八本腕が斜めに断ち割られ、蠢くバイデンの列の只中に落ち、斬り口から血をすすられ、臓物は食まれ、手足を食い千切られる。 弱さを見せた者は、その場で食われる。 弱肉強食という言葉の典型的サンプル。 胸が悪くなる光景に、それでもリベリスタは耐えた。 恐怖という名の影をまとった幸成の脇をきびすを返したA班が走っていく。 その背中を守る壁として、B班が立ちはだかる。 棒立ちに見える忍者に向かって、異形と成り果てたバイデンが殺到する。 技量がない訳ではない。 幸成の死角から、ありえない角度で遠距離から飛んでくる拳に、蹴り。 変異体の肉体は歪みを代償に強くなったといえるだけの結果をもたらしている。 しかし。 (単調でござる……) そこに戦闘巧者の駆け引きはない。 かつてバイデンが愛した戦闘の愉しみがない。 「斯様な姿と化してまで得た力、この程度のもので御座るか……」 事前に考えてきた挑発の言葉だった。 しかし、腹の底から湧きあがる衝動を抑えきれない。 怒りを覚えるのは、こちらの方だ。 「笑止でござる……っ!!」 口にした雪鳴りでさえ、挑発なのか憤りなのかわからない言葉だった。 そして空気が爆発する。 行方の闘気が爆発したのだ。 「大丈夫。常識の範囲で粛々と刻むだけデスヨ?」 両手にぶら下げた巨大な肉切り包丁。 刃ではなく、重さで叩き斬る。 肉を切って、骨を絶ち。 「万事整ってございます!」 相手が前進してくるのをギリギリまで待つ。 先に動いてはいけない。 先に動いては、どんどん百鬼夜行との距離が縮まり、橋頭堡に駆け込む前に行列に飲まれる。 相手の射撃ではない間合いに後一歩という間合いまで、仲間が十分な距離を稼いだこの瞬間を狙って。 解き放たれる、黒い鳥の符。 怪鳥音を上げて飛ぶカラスが、突出していたバイデンの目玉をえぐって地面にたたきつけた。 「挑発です。挑発でございますとも!」 思ってもいないカラスの行為に、愛音は声を震わせて断言した。 ● 「ここからがこのさくせんのしんこっちょーなのっ!!」 我等が戦闘官僚殿は、あくまで漢字の使用を拒んでいる。 「ちょうはつ、ちょうはつ、ちょうはつなの! つまり、ミミルノのあっぱーゆあはーとがひをふくとこっ!!」 もふもふピンクの隈の着ぐるみ帽子というか、おててもふもふというか、あんよむくむくというか、白いかぼちゃパンツとオーバーニーソの間の絶対領域というか。 てめえ、戦場なめてやがんのか、やるならやるぜ表出なのミミルノのスタイルは、そこにいるだけでバイデンハートをおろし金で逆撫でである。 「どれだけしっかりおとりができるかで、ほかのみんなのたたかいにもえーきょーしてくるのっ!! だからここで、みんなで、しっかりとおとりをつとめるのっ!!」 ピンクの巨大な三つ編みが揺れる。 オレンジ色のくまててが振り回されるたび、ぴょんこぴょんこと跳ね回る。 「みんなっ、がんばろーねっ!!」 両腕振り上げての激励に、戦闘指揮効果を感じちゃう、びくんびくん。 「ほらほら、羽衣はこっちよ? 捕まえてみてよ。みんなみんな、捕まえて壊してしまいたいんでしょう?」 あでやかな、柔らかな、つかんで肉を引き裂けば、きっとさぞかしかわいらしい声で鳴くのだろう。 ただしくバイデンならば、元々合ったバイデンならば、掠めもしない嗜虐心。 きっと目の前の変異体バイデン達は、生まれて初めて腹の底から湧き上がってくる感情と衝動の名前を知らない。 知らないまま、爆炎に吹き飛ばされて、それでも歩みは止まらない。 「お前の母ちゃん、せーかいじゅっ! でございまする!」 乙女としてやってはいけない身振り手振りで、歪んだ世界樹を表現する。 精一杯の挑発行為をして、愛音は一目散に駆け出す。 カラスでの挑発は続けているが、怖くて仕方ない。 片目だけをえぐられた変異体バイデンが、愛音目掛けて突進してくるのだ。 そう仕向けているのは愛音自身なのだが、予想外に怖い。 「数は力。けれど心なき力では愛の壁は貫けないのでございまするよ!」 自ら発した言葉に、愛音は僅かに顔を曇らせる。 もう、心はないのだ。 後ろからついてくる化け物にはもう心はない。 迷いはない。 仲間の邪魔をするものは、一切許しはしない。 それでも、この間まで心を持っていた者が虚ろなモノになったのを目の当たりにするのがどこまでも切なかった。 愛は、心から湧き上がるものだから。 「まだまだ……そっちだって、暴れ足りないでしょ? なら、捕まえてみなよ。……できるなら、ね」 黒い兎と黒いドレスが交錯し、変異体バイデンを翻弄する。 「当たりませんよ……この程度なんですか? 理性も誇りもないバイデンは」 魔力を宿したナイフと剣が押し寄せるバイデンの波を切り刻む。 隙が生じた先頭の一体を、たっぷりと闘気を溜め込んだ風斗の重たい一撃が襲う。 横殴りに重量級を行列の真ん中に叩き込み、その下に数体が下敷きになって、後から来たものの腹を満たすことになる。 「さあどうした化物ども! まさかその程度が全力じゃあるまいな? もっともっと力を出せ! オレを倒してみろ!」 大音声。 不敵にニヤリと笑う様は、実は不器用な赤面症持ちの少年とは思えない。 「下がるぞ!」 呼吸を合わせて下がる。 足並みを乱せば、行列に飲まれる。 それにつられた行列の前進は止まらない。 撃ち殺しても、前に行った奴に獲物を横取りされる。と、遠くから撃って来るものは少ないのは、リベリスタにとって幸いだった。 深追いした者には、次なる兎が待っている。 「さあさあ化け物達、都市無き世界の哀れな人外、ボクはここにいるデスヨ? なけなしの闘争本能とカケラでも残った強者を求める気持ちを糧にかかってくるデス。都市伝説はここにいるデスヨ! アハハハハ!」 変異体バイデンには行方のいうことは半分もわからない。 しかし、嘲笑され煽られていることはわかる。 塊となって飛び掛る偉業の群れの只中に、叩き込まれる地獄の業火球。 体の半分炭と化しても尚止まらない狂奔の徒の頭をぱっくりと西瓜のように割った行方は、包丁から滴る体液を百鬼夜行に叩き付ける。 スペードのJとA。 黒い騎士が黒い穂先で貫く、致命の一撃。 幸成の放つ一撃がまた一匹を脱落させる。 「臆したで御座るか? まだまだこれからで御座ろう……参るがよい!」 ● 足を燃やされ尽くしたその変異体には、もう動くことは出来なかった。 自分をこうした者に報復を。 バイデンの心を持っていれば、自らを倒したものの武運さえ祈っただろうに。 更なる変化を望む。 自分と同じように地べたにはいつくばって死ねばいい。 イマイマシイ。シンデシマエ。 羽衣の向けて、それは必殺の弾丸として放たれる。 指先が必死の狙撃弾として、通常遠距離射程外から飛んでくる。 射手がいたら、それをこう呼んだろう。 「絶対不可避の魔弾(アーリースナイプ)」と。 それは、一撃で羽衣の体力を根こそぎ奪い去った。 (全員無事に帰る事も大事なの) 遠ざかる意識を繋ぎ止める。 (羽衣が走れる限り、羽ばたける限り、誰一人置いて行きはしないわ) 誰一人。 そう、自分自身もその中に入っている。 底辺世界の産物といえども。 恩寵は、常に革醒者と共に存在する。 諦めぬ限り、それはもたらされ、羽衣は自らお命を繋ぎ止めることに成功した。 「後は、全力で撤退することになる……」 荒い呼吸の下から羽衣は、そばに立つミミルノに向かって呟く。 「シードでしっかりたいりょくぞーきょしてるから、すこしくらいえんきょりこーげきをうけてもミミルノはだいじょうぶっ!!」 だから、とミミルノは先に池と橋頭堡を指差す。 もうすぐそこだ。 「だから、ミミルノがしっかりひきつけるのっ!! おとりのうさぎはこうげきがしごとじゃないの! きょーとーほまでおっかけさせるのがしごとなのよ!」 走れ。おとりのうさぎ。 一匹たりとも欠けたりせずに。 罠を仕掛けた砦の中に、脱兎のごとく、一目散に駆け込むのだ。 こんな所で、死んでる暇はない。 ● 橋頭堡の壊れかけた跳ね橋が、リベリスタの到着と同時に巻き上げられる。 「おかえりっ!」 「よくやった、後は任せろ!」 振り返ると、追いすがる変異体の群れは、橋頭堡で待ち受けていた仲間達の攻撃を浴びていた。 リベリスタ達は役目を果たしたのだ。 荒い息の下、負った傷もそのままにリベリスタ達はそこに座り込んだ。 体の傷より、心が磨り減っていた。 回復手段を持ち合わせていない、文字通り自分の地力だけで持ちこたえなくてはならない逃避行は、生きた心地がしなかった。 「皆の衆、生きておられるか……」 幸成が、かれた喉で呟く。 最後は挑発と叱咤激励、誰かの声が途切れるのが何よりも怖かった。 「私……、もしもの……ときは、皆さん……を、後ろに投げようと……思ってました……」 今だから言いますが。と前置きをして、リンシードは衝撃の告白をする。 「ボクは抱えて逃げる気でいたよ。最後まで皆で逃げるって決めたでしょ」 綾兎は、ぜーぜーと喉を鳴らす。 「ボクはまだ踊り疲れてませんよ」 そういう行方が最も傷を負っている。 持ち前の頑健さで昏倒こそせずにすんだものの、ギリギリで急所を外す局面が多かった。ミミルノに足を向けては寝られない。 「とにかく、皆無事でよかったぁ……」 風斗はべたりと突っ伏した。 ずっと緊張していたのだ。 (リンシードには、色々と借りがあるんだ。こんなところで死なせん) 幸い、リンシードはほとんど無傷だった。 それに風斗がちょっとだけ貢献したのは、リンシードには内緒だ。 羽衣は、変異体の何体かと目が合ったような気がしていた。 (心も誇りも、そのかたちさえもすべて失ってしまったあなた達を、羽衣はしあわせにはしてあげられない) 皆の幸せを行動原理にしている羽衣にとって、変異体バイデンもその範疇だ。 (終わりさえ、羽衣の力ではあげられない。許して、なんて言うつもりはないけど) こうしている間にも、板子一枚隔てた堀には簿チャボちゃと激しい水音と断末魔の悲鳴がこだまする。 (でも、せめて眠れるのなら、その眠りが安らかである事を) その生の終わりが痛みと苦しみにまみれたものであろうとも。 (……羽衣が、あなた達の世界を護るから) それは、命を奪った羽衣の誓い。 (後は仲間がやってくれるでございましょう。任せるべきは任せ、愛音はやるべきことを成すのでございまする) 愛の一文字を抱いて戦う少女は束の間の休養をとり、再び立ち上がる。 「世界に愛を示すため! 世界樹に向けて進軍でございまする! LOVE!」 まだ、戦いは終わらない。 おとりのうさぎよ。 戦士に戻り、再び、戦場に出陣せよ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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