● お気にいりの帽子、なくしちゃった。 おばあちゃんが買ってくれた、大事な帽子なのに。 風にとばされて、どこかに行っちゃった。 あわてて追いかけたけど、どこにも見つからなくて。 気がついたら、あたしはひとり。 お父さんもお母さんも、どこにもいない。 さっきはあんなに晴れてたのに、今はずっと冷たい雨がふっていて。 すごくさむいし、おなかがすいた。 帽子、どこに行っちゃったんだろう。 お父さんとお母さん、もう帰っちゃったのかな。 さびしいよ。こわいよ。さむいよ。おなかがすいたよ。 ねえ、お父さん。お母さん。 あたしはここだよ。ここにいるよ。 どうして、誰も見つけてくれないの――? ● 「八歳の女の子のE・アンデッドが、山の中を歩き回ってる。 放っておくと一般人に被害が出るかもしれないから、今のうちに倒してきて」 アーク本部のブリーフィングルームで、『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)はいつも通りの淡々とした口調でそう告げた。 話によると、その少女は昨年の晩秋にハイキングで両親と山を訪れ、はぐれて消息を絶ったらしい。コースを外れて道に迷ったのだろうと捜索が行われたが、発見には至らなかったようだ。 足を滑らせて谷にでも落ちたのか、それとも、寒さと飢えに耐えかねて力尽きたのか。 死因ははっきりしないが、とにかく山の中で命を落としたことは確からしい。 一年近くもの間、誰にも見つけてもらえずに野晒しになっていた少女の屍――。 それが、神秘の悪戯で再び動き出し、山を彷徨っているのだという。 「E・アンデッドは水や氷を操るE・エレメントを五体連れてて、自分も雨を降らせたり冷気を撃ったりできる。 詳しくは資料にまとめてあるけど、状態異常つきの攻撃も多いから注意して」 少女の周囲は、彼女が持つ能力によって常に雨が降っている。 ぬかるんだ地面に足を取られるかもしれないし、視界も悪いだろう。 そのあたりも含めて、しっかり対策を考えて――とイヴは言った。 「みんななら、大丈夫だと思うけど。気をつけてね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月20日(月)22:04 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 傾斜の緩い山中を奥へ、奥へと分け入っていくと、ふと周囲の空気が変わった。 「ウー、ガウ!」 素肌に白狼の毛皮を纏ったきりの少女――ルー・ガルー(BNE003931)が、獣の唸り声を上げて立ち止まる。 空には雲一つないというのに、ほんの数歩先では冷たい雨が降り注いでいた。 雨の向こうに、しとどに濡れた少女の姿がおぼろげに見える。虚ろな瞳で立ち尽くす彼女の周りを、氷の鳥が五羽、ゆっくりと飛び回っていた。 「可哀想な……アンデッド……となった……少女……」 エリス・トワイニング(BNE002382)が、屍となってなお山中を彷徨う少女の姿を認めて、ぽつりと呟く。『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)が、両腕で自らの体を抱きながら答えた。 「確かに涼しい……いえ、悲しい冷たい話ですね」 顔を覆う仮面の位置を直しつつ、『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が口を開く。 「祖母からもらった帽子を探しに行ったため、山中で命を落とすとは……」 ――まったく、痛ましいことです。 子を持つ親としての隠しきれない心情が、仮面の奥から漏れた。 赤と黒に塗り分けられた道化の面を手にした『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が、軽く肩を竦める。 「まぁ、よくある『不幸な事故』だったって事なんだろうさ」 人として『欠けている』りりすにとって、E・アンデッドと化した少女の事情は『どうでも良い事』の一つでしかない。 「僕は神様じゃないしな。彼女を生き返らせられるわけでもなし。 感情移入なんざウェイトにしかならないよ」 相手が誰であれ、いつも通りにやるだけ。 それは、アークのリベリスタとして、非のうちようがない正論でもあった。 左右で色の異なる目を僅かに細め、『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)が言う。 「救いのない依頼などアークでは珍しくない。もう慣れはしたがな」 慣れたところで、決して何も思わぬわけではない。 気紛れな運命の悪戯、神秘により引き起こされる悲劇の数々の、なんと残酷なことか。 その思いは、最初も今も変わりはしないのだ。ただ、惑わぬだけで。 「……彼女に……よる……被害の……発生は……防がないと……いけない」 エリスが、自分に言い聞かせるように頷きを返す。 真上からは、夏の日差しが自分達を照らしているというのに。纏わりつく空気は、全てを拒絶する冬の冷たさを孕んでいた。 「暑いのは嫌いですが、ここまで来ると……えっぐし! あちゅー!」 寒さに身を震わせた『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が、大きなくしゃみの後に気の抜けた声を出す。 「ぐすぐす……風邪ひいちゃいそうですねえ」 鼻をすすりながら、ユウは雨に濡れる少女を見た。 あの中をずっと歩き続けている彼女は、どんなに寒く、寂しい思いをしているだろう。 悲劇に幕を引くため、リベリスタ達は戦いの準備を整える。 足場の不利を相殺するべく『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が全員の背に小さな翼を生やすと、京一が指で印を結んで防御用の結界を展開した。 愛用の黒いコートとブーツに身を包んだ『不屈』神谷 要(BNE002861)が、強き意志を支える十字の加護を仲間達に与える。『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)が、止むことのない氷雨を眺めて重く口を開いた。 「少女の悲しみが天より降り注いでいるかの如し」 憐れみを覚えずにはいられぬが、革醒した屍を捨て置くことは出来ぬ。 誇りを胸に、彼は己の運命を引き寄せる。 「無頼が一人、古賀源一郎。――報われぬ少女に救いを与えん」 直後、リベリスタ達は雨の中に飛び込んでいった。 ● 彼我の距離は、約30メートル。 身体能力のギアを上げたりりすが、E・アンデッド目掛けて真っ先に駆けた。雨に視界を遮られようと、獣の鼻は屍が纏う僅かな死臭を嗅ぎ分ける。 倍速で瞬く間に距離を詰めると、りりすは少女の正面に立ち、両手に構えた二刀を閃かせた。 淀みなく繰り出される音速の斬撃が、生前の面影を映した幻を突き抜けて白骨を穿つ。 背の翼を羽ばたかせ、りりすに回復が届く位置まで前進したエリスが、アンテナの如く飛び出た一房の金髪を僅かに揺らした。 エネミースキャンで敵の情報を読み取り、全員に伝える。 「両方とも……物理攻撃の方が……効くと……思う」 エリスに礼を言った後、慧架は「鈴宮慧架、参ります」と名乗りを上げて敵陣へと突入した。 空中を四つ足で駆けるようにして、ルーが後に続く。 後衛の配置を確かめながら全力で歩を進める源一郎の防具を、雨滴が叩いた。 極限まで動体視力を高めたユウの瞳が、雨の中に佇む少女の姿を捉える。 「さむいですよね。ひもじいですよね。 ――もう大丈夫です。すぐお家に帰れますよ」 彼女は周囲の枝に引っかからないよう慎重に翼を操ると、愛用の改造小銃“Missionary&Doggy”の銃口を天に向けた。 魔力の弾丸が雨を切り裂き、燃え盛る無数の火矢となって落ちる。少女の屍が、氷の鳥が、次々に炎に包まれた。 『雨……』 少女の唇から、小さな呟きが漏れる。 彼女は炎を消そうとするかのように氷の雨を降らせると、虚ろな瞳でリベリスタ達を見た。 激しい冷気が渦を巻き、少女の頭上に集まる。 直後、それは凍てつく散弾となってリベリスタ達を襲った。 「ルー、ヒエヒエ、キカナイ」 冷気による影響を無効化するルーは状態異常を免れたものの、源一郎とユウが氷に封じられる。すかさず前進した京一が、邪を滅する光を放って二人の縛めを解いた。 「早く終わらせてやらないとな」 シェリーが、全ての敵を射程内に収めるべく自らの位置を調整する。 自らを中心に展開した複数の魔方陣から、彼女は極限まで高めた魔力を一息に解き放った。 荒れ狂う蒼き雷が戦場を奔り、氷の鳥と少女の屍を次々に貫いていく。 仲間と異なる方向から敵に近付く要が、約20メートルの距離から氷の鳥たちを挑発した。怒りに染まった彼らの一斉攻撃を受けて、彼女の体が凍りつく。後方に待機していたフツが前進と同時に神の光を輝かせ、要を救った。 後衛の配置を肩越しに見たりりすが、少女の側面に回りこむ。 仲間達が氷の鳥を全滅させるまで、E・アンデッドを牽制するのが自分の役目だ。 (できれば、後衛陣から意識をそらしたいところだけどね――) 敵なまともな思考を持っていない以上、おそらくは難しいだろう。その時はその時で、死角から攻撃を叩き込んでやるだけだが。 雨が目に入るのを道化の面で防ぎつつ、音速の刃を振るう。 動きを封じることは叶わずとも、りりすの並外れたスピードはそれだけで強力な武器だ。 少女の視線が、ゆっくりと動く。生気の失われた虚無の瞳が、禍々しい呪いを孕んでりりすを撃った。容赦なく降り注ぐ氷の雨が、リベリスタ達の体力を奪う。エリスが詠唱を響かせ、聖神の息吹で全員に癒しをもたらした。 さらに前進した要が、氷の鳥をブロックしつつ神秘の挑発を放つ。敵の数が多いうちは、彼らの攻撃を自分に集め、後衛が集中して狙われることがないよう努めねばならない。 鳥たちの水鉄砲が、要の黒いコートを次々に撃ち抜く。 彼女が時間を稼ぐ間に、リベリスタ達は攻撃の手を強めていった。 頭上から降り注ぐユウの火矢が、敵だけを的確に貫いていく。眼前を舞う氷の鳥に向かって、慧架が大きく踏み込んだ。 「一気に畳み掛けます」 射撃を得意とする敵に対しては、相手の攻撃を捌いてカウンターを加える普段の戦い方は有効ではない。 無駄な手数を削り、雪崩の勢いをもって打ち破るまで。 攻防自在の構えから繰り出された強烈な一撃が、氷の鳥を墜とした。 後方で指揮を執る京一が、別の一羽を狙って呪符を放つ。鴉に姿を変えた式神が、氷の鳥を嘴で抉った。 『……あたしの帽子……どこ?』 少女の虚ろな視線が、中空を彷徨う。 渦巻く冷気が氷の散弾となり、リベリスタ達を立て続けに襲った。 「待ってろ、すぐに回復するぜ!」 前衛に射線を遮られて被弾を免れたフツが、凍りついた仲間達をブレイクイービルで解放する。 癒し手たちの厚い支援に支えられて、リベリスタ達は順調に攻撃を集めていった。 源一郎のフィンガーバレットが火を噴き、傷ついた氷の鳥を早撃ちで仕留める。 「ルー、エレメント、ナグル!」 氷の爪に輝くオーラを纏ったルーが、眼前の敵に躍りかかった。 頬を掠める水鉄砲に構うことなく、鋭い爪で氷の鳥をバラバラに引き裂く。 一瞬遅れて、色白の肌に赤い血の雫が浮かんだ。 残る二羽と少女の屍を纏めて視野に捉えつつ、シェリーが口を開く。 「悪いな、加減はなしだ。もはや骸なのだからな。妾もそこまでは優しくなれん」 放たれた稲妻が少女の身を貫き、氷の鳥たちをほぼ同時に霧散させた。 ● エリスの詠唱で呼び起こされた聖なる神の息吹が、リベリスタ達を包んで傷を癒す。 慧架が、単身でアンデッドを抑え続けるりりすの元に救援に駆けつけた。 (出来るなら誰一人、大きな怪我を負わせたくないから――) あえてアンデッドの気を惹くように眼前に立ち、流れるような動きで雪崩の一撃を見舞う。 少女の屍が衝撃に揺らいだ瞬間、ユウの火矢と京一の鴉が追い撃ちを加えた。 激しい雨の中を、源一郎が駆ける。道は、己が意志で切り開くのみ。 真っ直ぐに繰り出された拳が、少女を打つ。 攻撃を反射する防御のオーラを纏った要が、一気に少女との間合いを詰めた。 鮮烈に輝く破邪の剣が、屍を覆う幻を切り裂く。 少女の虚ろな視線は、なおも宙を彷徨っていた。 『……お父さん、お母さん……どうして……来てくれないの』 両の瞳から赤黒い涙が流れ落ち、雨がさらに勢いを増す。 『あたしが……悪い子だから……? もう……いらなく、なっちゃったの……?』 死した少女の絶望が、降り続く雨を氷の矢に変えてリベリスタ達を貫いた。 直後、骨すら凍らせる冷気の渦が、弾丸となって飛来する。直撃を受けたルーとシェリーが、運命を削って己の全身を支えた。 辛うじて空中で踏み止まりつつ、シェリーは魔力杖を握る手に力を込める。 神秘がもたらす悲劇の前には、自らの矜持たる魔道でさえも無力だ。 それは、ただ魔道を極めることに執着していた昔の自分には持ちえなかった――今は次第に強くなり続ける、想い。 魔道を極める理由とは何か? 誰かに救いをもたらす機会を、決して逃さぬためだ。 だから、悲劇すらも糧に変えて前に進む。 「今はただ、この不幸に終止符を打つ」 迷いも、躊躇いも。この『破壊の魔女』には――もはや、存在しない。 金の瞳で少女を睨むルーが、低い唸り声を上げて自らの集中を高める。 聖なる光で全員の状態異常を打ち消した京一が、仮面越しに少女を見た。 「お父さんもお母さんも、ずっと探していましたよ」 自らも二児の父親である彼は、幼くして死した少女を痛ましく思うと同時に、子を失った親の悲嘆を我が事のように感じ取っていた。 子供が消息を絶ち、生死すら分からないとなれば、その苦しみはどれほどのものか――察するに余りある。 せめて。少女の両親の代わりに、誤解をといてやりたかった。 今の彼女に、言葉は届かないのだとしても。 「大丈夫か?」 フツが傷ついたシェリーを庇うように彼女の前に立ち、癒しの福音を奏でて仲間達の傷を塞ぐ。 天に向けて愛銃の引金を絞り続けるユウが、燃え盛る炎の矢で少女を狙い撃った。 「ひと肌の温もりには及びませんけど、せめて暖まってから逝って下さい」 全てを焼き尽くす炎が、少女の屍を抱擁する。雨をも切り裂くシェリーの雷が、激しく宙を荒れ狂った。 リベリスタ達は手を緩めることなく、さらに攻撃を加えていく。 「――ガゥ!」 ルーが、自らの傷も顧みずに少女に飛びかかった。 集中で狙いを研ぎ澄ませた氷の爪が、輝くオーラを纏って敵を引き裂く。 一点の曇りもない要の剣が、そこに振り下ろされた。 「アンデッドとして革醒した以上は、討つしかないのですから――せめて、安らかに。 今度こそは、ご両親の元へ帰らせてあげましょう」 自分達に出来ることは、ただ、それだけだから。 音速の連撃で少女を追い詰めるりりすが、死臭に混ざる僅かな泥の匂いを脳裏に刻む。 底なしの虚無を孕んだ屍の視線が、源一郎を捉えた。全身を蝕む呪いに、気合で耐え抜く。 天使ラジエルの書を携えたエリスが、癒しの息吹で彼の背を支えた。 周囲のエネルギーを取り込み続け、それを回復の力に変える彼女が健在である限り、リベリスタ達の布陣に綻びはない。解除しきれない状態異常は、フツのブレイクイービルが払った。 確実にダメージを蓄積させていく少女に、慧架が斬風脚を放つ。 あるべき場所に還すことで、彼女の魂が救われることを祈りたいが――そのあたりは、後方にいる『てるてる坊主』の領分だろう。 続いて、源一郎が蒼穹の拳を少女に叩き込む。 「済まぬが、其のままでは親元に返せぬ故。許されよ」 放っておけば、少女はいずれ両親のもとに辿り着いてしまうだろう。 そのような惨劇は、決して彼女も望んでいない筈だ。 なればこそ――決着は我らの手で。 『……さむ、い……』 ふるりと震える少女に、りりすが銘無き太刀と赤きジャックナイフを一閃させる。 音速をも超えた淀みなき斬撃が、彼女を再び物言わぬ屍に変えた。 ● 屍が崩れ落ちると同時に、降り続いていた雨が止んだ。 ルーが濡れそぼった動物のように大きく身を震わせ、自らの周囲に水滴を散らせる。 慧架が、ふと口を開いた。 「そういえば……行方不明になった時、帽子は発見されなかったんですよね? まだ山のどこかにあるなら、見つけたいです」 リベリスタ達が、同意の頷きを次々に返す。 少女の屍の傍らに、フツが屈みこんだ。 「悪いな、見つけるのが遅くなっちまってよ」 交霊術を用いて、優しく声をかける。 「今から、お前さんの帽子も探してやるからな。どんな帽子か教えてもらえるかい」 半ば独り言のような少女の返答を聞くと、彼は「よし、待ってろ」と少女の頭を撫でた。 「一年近く経ってるし、無理くさいけど……まぁ、サービス残業ってヤツだね」 そう言いつつも、りりすは獣の嗅覚を働かせる。 特に、戦いの最中に嗅いだ泥の匂い――亡骸が最近まで打ち捨てられていたというなら、その匂いを辿れば、少女が力尽きた場所を突き止められるかもしれない。 「僕は神様じゃないからな。出来る事はするだけだよ」 それは、獣として『余分なモノ』を抱えるがゆえの気紛れだろうか。 フツが周囲の木々に語りかけて聞き込みを行う傍ら、リベリスタ達は僅かな手がかりも見逃すまいと慎重に歩を進める。 時折、ユウが背の翼を羽ばたかせ、空中からの捜索も行った。 (大事なお帽子、彼女が家に帰る時に持たせてあげたいですからね) 探し始めてから数時間の後―― 背の高い草をかき分けていた要が、風雨に晒されてボロボロに朽ちた帽子を見つけた。 「これ、でしょうか」 もともとは白かったのだろうが、もはや見る影もない。経てきた時間を考えれば、当然のことではあるが。 ともあれ、リベリスタ達は帽子を携えて少女のもとに戻った。 「スマン、見つけたんだが、転んで汚しちまった。 ――今度、新しいの買ってやるから、許しておくれ」 少女の亡骸に帽子を供えつつ、フツが申し訳なさそうに詫びる。 「あとは、彼女がきちんと家に帰れるようにしたいですね」 要の言葉に、源一郎が答えた。 「両親に知らせるべきか、悩む面も在るが……ずっと知らずにいるよりは良い筈だ」 京一が、迷わず頷きを返す。 「出来ることなら、親元でちゃんと埋葬してもらうのが彼女にとっても一番でしょう」 源一郎はそれを聞くと、少女の傍らに膝をついてそっと語りかけた。 「暖かな親元に帰る時が来た。往くが良い」 エリスが、幼くして死した少女の冥福を祈る。 (もう……二度と……苦しまなくて……済むように) シェリーもまた、膝を着いて目を瞑り、少女の亡骸に手を合わせた。 「魔道が齎す破壊とは、自然へと回帰する為のもの――安らかに、眠れ」 後日談、ということになる。 少女の遺体は結果として両親のもとに帰り、手厚く葬られた。 その後、花や菓子が供えられた墓を訪れた坊主頭の青年が、可愛らしい白い帽子を置いて行ったことを――ここに付記しておく。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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