●受付天使の我侭 「足手纏いにはなりませんっ なったら、置いていって下さって構いませんっ!」 彼女がそんな我侭を言うのは初めての事で、アークの職員らは皆一様に戸惑ったと言う。 「お願い、します……」 静かに、けれど強固な意志を以って。彼女はただ頭を垂れていた。 多くの人が捕らえられたという先の敗戦以降、ずっと考えていたのだ。 何故、自分は無事なのか。何故、自分は助かったのか。答えは簡単だ。 彼女は射撃手であり、だから彼女はいつだって後方にいた。護られていた。 傷つく事も無く、殿を担う事も無く、誰かの盾になる事も無く。 それは何もおかしなことでは無い。適材適所。人には役割と言う物がある。 何より、こと戦闘能力に限れば彼女のそれは現役のリベリスタ達よりやはり一歩劣るのだ。 であれば、必然。である以上は、当然。 でも、だけど、それでも。 頭で理解出来ていても。心が追いつかない。 捕虜のリストには、彼女にとって良く見知った親しい人達の名も並んでいた。 何かしなくちゃ。何かやらないと。気持ちだけが先走る。心だけが空回る。 答えは、一つだけしか見えなかった。 彼女はリベリスタで。彼女の手には、弓が有ったから。 だから。だから。 だから―――― ●受け継ぐ者達 “外”の者――『リベリスタ』の再来。 其を告げられ、出陣の沙汰が流れた時。彼らは刹那の躊躇いも無しに笑みを浮かべた。 「どうするか? そんな物決まっている」 「我らは、バイデンだ」 彼らにとって、バイデン『ベルゼド』は決して心許せる長では無かった。 彼らにとって、再度襲来した外敵は決して侮れる相手では無かった。 だが最後まで。最期まで、勝利を貫いた狂戦士の生き様と、その亡骸に彼らは感銘を受け。 それと真っ向切って対し、苛烈なる戦士を討ったリベリスタ達を、彼らは好敵と認めた。 そして到った必然の解。死など如何して恐れる程の物か。勝利してこそのバイデンである。 彼らの長が歓喜と共にその命を尽くした様に。戦いに散ってこその戦士(バイデン)であろう。 「バイデンは戦士である」 「戦士は勝利せねばならない」 「敗北するバイデンに意味が在ろうか」 「「無い」」 「「「「「生きるならば勝て! 敗けるならば死ね!」」」」」 故にそれらは、狂戦士の遺志を継ぐ決して折れざる牙。誇り高きバイデンの先陣を切る一迅の槍。 死兵にして狂戦士たる騎兵隊。血ならぬ死の絆で結ばれた一にして群――『ベルゼドの仔』 「出陣する! 我らが誉は勝利に在り! 続け戦士らよ!!」 砂塵を跡に巨獣が猛る。濃密なまでの地の気配に、昂る様に、憤る様に。 嘆きと憤怒の荒野。砂塵舞う戦場に今一度、血風が舞う。 ●野戦~反撃開始~ 橋頭堡“跡”と言うべきだろうか。閉じない穴と直結するリンクチャンネルを潜ったその先。 遠く荒野の彼方に見えるのは、壊れた外壁の残影。その向こうから迫り繰る巨大な獣の影。 「敵影は8。距離は有りますが、外壁が無いので射程を延ばす手段が有りません 何らかの特別な対処をしない限り、巨獣への攻撃は余り有効とは言え無いかもと思いますっ」 フォーチュナ部隊から受けた情報を流布して回る『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005) 先の戦いの焼き回しの様な光景。けれど、集められたリベリスタ達の眼差しは先より遥かに厳しい。 既に退路は無く、捕虜となった仲間達を救おうと思うなら敗北は許されない。 「また、敵部隊も拠点攻略を目的とした以前とは行動が変わって来ると思われます。 真っ向勝負では踏み潰されちゃいますっ! 対応にはくれぐれも気をつけて下さい!」 何より。周囲の制止を振り切ってやって来たと言う“彼女”の瞳には酷く危うい色が見え隠れする。 責任感はある一線を越えると暴走に直結する。その、予兆。 だが一方で、勝たなくてはならない。それもまた事実ではあるのだ。 バイデンの本隊を主力が食い止め、投入されたフォーチュナの予知能力を利用した別働隊が奇襲を仕掛ける。 これがアークのプランである。が、である以上この地点が騎兵に突破されれば本隊の防衛が滅茶苦茶になる。 後方には救護班も控えているのだ。全部隊の戦果がこれからのアークの趨勢に直結する。 「勝ちましょう」 だから。エフィカは敢えて言葉にする。恐れも、不安も抑し殺して強く強く、弓を握る。 「きっと勝って、皆で帰りましょうっ」 強がりでも何でも良い。弦を引く指が震えぬ様に。視線に涙が滲まぬ様に。 追い詰められた獣が牙を剝くが如く――箱舟の反撃が、始まる。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月22日(水)23:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●闘争の論理 砂塵が吹く。荒野の果てに落ちるは巨大な敵影。 「やれやれ……厄介事が多過ぎる」 心底に嘆息する『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が肩を竦めたか。さもあらん。 殊更後が無い、と強調されるこの戦い。けれど果たして彼らの戦場に退いても良い案件等幾つあったか。 その点に於いて普段の業務とこの戦争は何ら変わりは無い。同じ“厄介事”だ。ただし―― 「負け戦もまた面白い――が、最後に勝てばこその意味がある」 爛々と瞳を輝かせる『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)に宿るのは燻る様な熱だ。 戦場の熱が未だ冷め遣らぬ。普段と違う“理由”が其処にはある 「……そうだな。負けたままいるのは気分のいい話ではない、か」 鉅の吐き出す呟きの底に火が灯る。負けっ放しは性に、合わない。 「リベンジだ、今度こそ勝つ。――やるぞエフィカ!」 「はいっ! 絶対に、絶対に、ここは通しませんっ!」 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が剣を抜けば、その後ろで緑髪の天使。 『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)が頷きながら弓を握る。見るから意気軒昂、と言った所か。 「……?」 ただ、何処か。ほんの少しの違和感にツァインが引っ掛かる。どうと形容する事は出来ないけれど…… 「力が入り過ぎてますよ、ほら肩の力を抜いて」 同じ射手である為か。それに気付いたのはツァインだけではない。 『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)から見れば、 彼女は“気負い過ぎている”様に見えた。 「仕事は皆で無事に帰るまでが仕事です。今度こそやり遂げて帰らないとですね」 皆で、の部分にアクセントを置いたヴィンセントの言葉に、普段のエフィカであれば気付いたろう。 けれど、こくこくと頷きながら、彼女の眼差しは巨獣の影から動かない。 「エフィカ」 だから。『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)の声は厳しく、冷たかった。態とらしい程に。 「自分自身の力と役目を見失っているのなら帰りなさい」 驚いた様に向けられたエフィカの眼差しと、アイスブルーの眼が交差する。 人には、出来る事があり、出来ない事がある。得手とする事があり、不得手とする事がある。 それを補い合う為のチームだ。精神の生育に特化した魔術師である所の氷璃の語は、 緑の天使の苦悩を彼女自身知ればこそ、残酷なまでに辛辣に響く。 「い、嫌ですっ!」 「……護られる自分が傷を負わない事が不満? 後方の狙撃手は仲間を護れない?」 人の心を詠む才を持つ氷の瞳と、挙動の不審を見逃さぬ超直観はエフィカの内側を的確に刺す。 言葉無く、ふるりと揺れた翠碧の眼に嘆息一つ。 「ふざけないで」 切り捨てる様なその言。けれど氷璃は見所の無い人間に苦言等贈らない。 「仲間を護る為に貴女の力をどう活かせば良かったか――それを考えて頂戴」 自らを責める前に。己が身の安全を厭う前に。 「良いかな、緑のお嬢さん」 其処に、ぽとりと落とされたのはほんの少し面白がる様な声。 『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が凡庸とした、けれどはっきりと意味を持つ眼差しを向ける。 「“生き恥”なんて恥は無いがね。“心が折れる事”は恥なのさ」 笑う様に、戯れる様に。その意を汲もうとして交差した視線は遠く響く足音に吹き消される。 理由を、ここで探している程の猶予は無い。後はそう、戦いが答えを出してくれるだろう。 ヴィンセントが周囲を見遣り、ぐにゃりと。 当人らの認識の外。バイデン達の視界から9人のリベリスタ達の姿が消えた。 それは不自然極まる光景ではあったが、狂える騎兵である『バイデンの仔』らはそれを斟酌しない。 彼らは即座に眼前数十m前で消えた彼らを無視する事に決める。難しく考える必要は無い。 障害が減るならそれに越した事はなく。 立ち塞がるならば――ただ、踏破すれば良いだけなのだから。 ●復讐の荒野 「君は見掛けによらず頑固なんだね」 隣に並んだ『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)が猫の様に瞳を細める。 「そ、そう……でしょうか」 びくりと過剰に反応する。その動きはヴィンセントが懸念した通り未だやや硬い。 けれど、リィンにとってその馬鹿正直とすら言える真面目さは格好の玩具である。 「それが駄目だと言っている訳ではないよ。流石アークのリベリスタ、美しい精神だ」 くすくすと漏れた笑いに、からかわれたと気付いたエフィカが少し不満気に眉を寄せる。 だが役者が違うと言わざるを得まい。人で戯れるのはリィンの独壇場である。 「とは言え、状況は前回より悪い。その綺麗な肌に傷を負う可能性は格段に高いよ」 それでも……と。重ねられようとした問いは不意に途切れる。 真っ直ぐ過ぎる眼差しは、続く問への答えその物で。 「結構。なら始めよう」 本来なら、対話する間も惜しい。迫る巨獣はその影を彼らの間近まで伸ばしている。 だが意味は有った。意義は有った。 鏡合わせの様に向けられた2つの弓。先端はもう、揺るがない。 巨獣に騎乗する彼らにとって、視界の中に突然進み出てきたその影は、 まるで虚空から飛び出して来たかの様に見えた。 「今回は前回のようにはいかぬぞ!」 構えられた刀状の鉄塊。その小さな影に幾人かは見覚えが有る。 だがその出現は明らかに不審。幾許かの怪訝の色、逡巡こそはほんの僅か。 こと戦いに限定するならば、彼らは暗愚の徒ではない。 先の戦いを経験した『ベルゼドの仔』らは射撃の恐さをよくよく解している。 その証左を示すかのように身を伏せた彼らが唯独り、奇襲に拘る事無く進み出た御龍へと殺到する。 「「「「バイデンに勝利を!」」」」 「来い!!」 振るわれた刃が巨大な足を切り裂くや、先頭を駆けたライナスが姿勢を崩し身を傾ける。 さしも敵とてさる物。バランスを崩す前に身を翻すと振り下ろされるは骨で組まれた大振りの戦斧。 打ち合わされた獲物が火花を散らすや、それらを踏み潰す勢いで矛先を向けた別の騎兵が御龍を吹き飛ばす。 「ま、よくわかんないけど、ここを通しちゃいけないってことでしょ」 更に幻影の迷彩から足を踏み出したのは御龍のみではない。 知覚されないのを良い事に“飛び”出した『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)が振り上げるデスサイズ。 騎上のバイデンからすれば確かに不意を討つ位置より、放たれたるは剛一閃。 「自分の強さに自信があるならそんなのになってないで降りようね」 その一撃は狙い違わずバイデンの1人を乗騎より地へ落す。開かれた戦端、一見すれば順調な滑り出し。 だが、未だ幻影の内側に在るリベリスタ達に走ったのは動揺の色である。 奇襲を狙い待ち構えた者と、奇襲を考慮しつつも迅速に攻めた者。 両者間の認識の齟齬と生まれたタイムラグは後者をはっきりと孤立させる。 「はっ!」 されど、漏れた呼気。元より奇襲等柄では無かったのだと。りりすが猛々しく笑う。 それはそれで構わない。一向に――全く構わない。 「殺し合いは! やっぱ! 白兵だろ! なぁ、あんたもそう思うだろ――!」 駆け抜ける。駆け上がる。空を階とするかの如き曲芸軌道。 巨獣の上まで一刹那で到るや振るわれた双剣。その軌跡以上にその意気に、対したバイデンが応じる。 「良い覚悟だ戦士(リベリスタ)! ならば始めよう――」 「「闘争を!」」 木剣が揮われりりすの刃を押し退ける。圧倒的なまでの狂気が火勢の様に昂る殺意と拮抗する。 勢いのままに跳び下りれば巨獣の操作など歯牙にも掛けずそれを追う。 対した物を全て殲滅すれば勝ちと言う荒々しい戦闘論理。その率直さに鮫が笑む。 「全く……」 好き勝手、と言うべきだろう。荒野の風に当てられたか。真正面からバイデンらと相対す。 その仲間達の様に鉅と、奇しくも氷璃の嘆息が重なって響く。 前線は目論見通り乱戦の体を為して来ているが、予定など有って無いも同然だ。 「仕方無いわね。行きましょう」 鉅が、そして魔術師である所の氷璃までもが前へと踏み込む。 それに反応したライナスの角が両者へ向くも、その進路は味方であるバイデン騎兵と交差する。 混線した動線が巨獣の突進を抑止すると言う乱戦の利。 血で編まれた黒い奔流が旋律を奏でる一方で、鉅の短剣が踊る様に舞う。 「――よお」 他方、奇襲のタネが割れた時点で行動を切り替えたツァインもまた、 巨獣にしがみつき苦労の末にその背へ到る。待っていたかの様に向けられた長い棒。 まるで先の戦いを映す様なその光景。だが、今度は彼らが“挑戦者”だ。 「敗者が懲りずに戻ってきたぜ!」 光芒を宿し振り抜かれる、リーガルブレードが血飛沫を散らし、 対して放たれたバイデンの打突に、ツァインの鎧が軋みを上げる。 「あんなのを受けたらぺったんこになりそうだ」 リィンの放った精密極まる呪いの魔弾が騎上のバイデンを射抜く。 だが、射撃武器への警戒を学んだ彼らはその一撃で落下したりはしない。 後押ししたのはエフィカによるアーリースナイプ。二条の狙撃がまた一騎、制御の危うい巨獣を産む。 「……これは、不味い気がしますね」 方々で巻き起こっているのは望むか望まざるか一騎打ちの嵐。 事前に考えていた奇襲こそ破綻しているにせよ、状況は決して悪くない。 このまま拮抗し続ければ……だが、それで本当に大丈夫なのか。 「僕達は、ここからは一歩も引けない身」 ヴィンセントの憂慮は、けれど事ここに到っては如何ともし難い。 愛用のショットガンを構え、彼もまた幻影の皮膜を超える。 放たれた散弾は荒野へ降り募る血の雨の具現。蜂の巣を突いた様な騒音に狂える戦士達が吼え猛る。 ●戦士の在処 「我は未だいけるぞ、そちらはどうだ!」 「見れば分かるだろう」 背を合わせた御龍の声に、鉅が素気無く言葉を返す。 ヘビーライナスの性質は犀に近しい。正面に立たなければ然程恐れる事は無い。 鉅の想像は概ね正鵠を射ていたが、さてもその巨体。砂塵も障害となり乱戦とあって視線は殆ど通らない。 結果殆どの面々が一対一を余儀無くされた状況下、2人が合流出来たのは幸運以外の何物でもない。 「そうか、ならば止むを得まい」 そして鉅の眼前では気糸の網に絡め取られ身動きが取れなくなったバイデンが転がっている。 この状況、以前の御龍であれば己が戦いを優先しただろう。 だが、バイデンらが学ぶ様に、リベリスタもまた学ぶ。矜持も有ろう、主義も有ろう。 けれど今は勝利が優する。 「勝つのは主らではない――我らだ!」 抗う事を許さぬまま、振り下ろされる鉄塊の音は、止む事なく、繰り返し。繰り返す。 「来いよ。僕は此処にいる」 「このっ、ちょろちょろとっ!」 翻る度、赤く濡れる。体躯、刃、大地、視界の中に朱が混ざる。 りりすとて無傷では無い。だが、彼は明らかに圧していた。相性、精度、そしてなにより――この戦場。 かつて。彼が何を喪ったか。かつて。彼が何を失くし、何を得たか。 緑の天使の瞳に一つの覚悟を見て取った時。 負け続け、這い蹲って生きて来たと嘯く彼が、退くと言う選択肢を捨てた。 「命を惜しむな。刃が曇る」 勝たねばならぬ。その為なら命も要らぬ。狂気で無く、覚悟で以ってその刃は戦士(バイデン)を上回る。 「僕は誰かに守られるのは……もう絶対に、御免なのさ」 しかしこれもまた乱戦の必然。個人の技量に頼る戦いは偏りを産む。 「全く……ここまで厄介だとは、ね」 氷璃の視界は完全に断絶されていた。ライナスの体格は高さだけで4m。 これは飛行していても視線が通らないと言う事を指す。その上動く度に立つ砂煙。 放った式神で戦場全体こそ把握出来ている物の、射線がまるで通らない。 騎手としてのバイデンが全て地に降りている訳では無い以上、一部は意図的に分断されているのだろう。 それを証明するかの如く、一人のバイデンが自ら乗騎を放棄し孤立した氷璃へと跳び掛かる。 「――邪魔よ!」 魔力を削り、血を削り、高精度の黒き鎖がバイデンへと絡み付く。 だが、元より氷璃と狂戦士らとの相性は極めて悪い。 反動で奪われる体力に、騎手を失った巨獣の暴走。狙いも付けぬ突貫まで避ける事は叶わない。 持久戦となった時、何れが倒れる方が早いか。答えは火を見るより明らか。 ぷつりと途切れた癒しの声に、氷璃が僅か唇を噛む。 癒し手とは戦線を担う者。最後まで立ち続けるのが癒す者の闘争である。 「だからさ」 都斗の戦いは、この場の誰よりも大きな比重を持っていると言えた。 「みんなより先に倒れるわけにはいかないんだよね」 だがもしも、其処に陥穽があるとするなら――それは。 「ならば貴様は何故前へ出た? バイデンから逃げ果せると思ったか」 それを認識していたのが彼と、彼の“敵”であった、と言う事。 「それはまあ。これでも一応、デュランダルだし」 自らを戦士と負う。その意気や、良し。 けれど、乱戦に在って彼の反応力は余りに心許無さ過ぎた。振り抜かれた骨の槍が子供の体躯に突き刺さる。 運命を削り、身を翻すも、癒し手を逃す程バイデンらは甘く、無い。 されど、文字通り一進一退の攻勢は半ば誰も望まぬ形で途絶する。 「――――――ッ!!」 鼻を鳴らす様な音を立て、猛り狂うライナス達。バイデンらの制御を離れたそれが半数を超える。 ぶつかり合い、潰し合う。濃密な血臭に混乱した巨獣らのスタンピード。 それに巻き込まれるのはリベリスタばかりでは、ない。 「くっ、時間を掛け過ぎたか……」 「はっどうした? 俺はまだ倒れちゃいねぇぞ……!」 逃すまいと組み付いたツァインに獲物を掴まれたバイデンへ、角を振り翳したライナスが突貫する。 吹き飛ばされた両者、互いに蓄積したダメージは限界に近い。 「貴様もまた、戦に死ぬ戦士か」 それでも尚立ち上がる様にバイデンが問う。それに、応えられたならどれ程気持ちが良いだろう。 一抹過ぎった感傷を噛み締め、それでも彼はこう応えざるを得ない。 「冗談」 死ねない。まだ、こんな所では。 「百の敗戦を生き延び、百一度目に臨む!それが俺の戦士としての在り方だッ!」 唯の一人でも戦線を維持し、その場を勝利に近づける。それが彼の戦いであり。 「……っふ、ははは、ははははは! そうか! それが貴様らの戦いか!!」 その気概は死闘を繰り広げた相手であるからこそ、“狂戦士”の心をも動かす。 それは、完全世界の一端を担う“憤怒の鬼”に訪れた変化の一端であり。 そして同時に、この場での趨勢を決める一つの大きな楔でも在った。 「ツァインさん、無事ですか!?」 2人の間を割く様に、撒き散らされる蜂の弾幕。 支援に割り込んだヴィンセントを見るや大きく退いたバイデンが牙を剥いて笑う。 「ならば預けよう。貴様の首、巨獣の餌とするには惜しい」 このままぶつかり続ければ、互いに潰れる事は疑い無い。 それ程に彼我の実力は拮抗しており、何より戦場にばら撒かれた不確定要素が大き過ぎる。 そして繰り返すでもなく、こと戦いに限定するならば、彼らは暗愚の徒ではない。 「撹乱は果たした、戦士達よ! 体勢を立て直す!」 号砲一下、傷付き倒れても立ち上がる。闘争に命をも賭ける戦士達はけれど自らの愛騎へと退く。 リベリスタ達にそれを追うまでの余力は無く、動けぬ者も1人2人ではない。 けれど此処に、確かに、かつて成し遂げられなかった防衛は成る。 引き分けにも近しい、傷塗れの、泥塗れの途上ではあれ――辛うじて。 「……何とか、凌ぎましたか」 バイデンに弱卒は無く、かくも苛烈なる闘争は続く。噛み締める勝利には、血と、砂の味。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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