●論理(ロゴス) 何故、こうなったのか―― 男は酷く冷めていた。努めて冷静にあろうと心がけていた。 何故、こうなったのか―― 自問を繰り返し答えを探る。 森羅万象、物事には常に理屈が付き物である。 例えば何かが起きた時、起きる時、そこには理由がある筈だ。例えばどんなに理不尽な理由であろうとも、どれ程許せざるものであろうとも、理由は理由なのである。盗人にも三分の理がある、そんな諺が示す通りに納得がいくいかない以前に理由がある。 「……理由がある。簡単じゃあ無いか……」 男は酷く冷めていた。努めて冷静にあろうと心がけていた。 だが腹の底からぐつぐつと沸き上がる吐き気にも似た不快感と怒りは理性的にあろうと考える彼の頭の中をかき乱した。焼けた鉄の杭を耳から無理に捻り込み、脳みそをぐちゃぐちゃと攪拌されているかのようだった。男が男であり続ける為には信じ難い程の労力を必要としている。 理由は何か。 理由は何か。 目の前で何人も死んでいる、理由は一体何なのだ―― 思えば、馬鹿馬鹿しい問いだった。 思えば、彼自身これまで疑問に思った事すら無い事実だった。 エリューションは、討伐するものだ。 簡単だ。理由は一つ。彼等は世界を侵すからだ。 「……そうだ、簡単だった」 泣き叫ぶ子供の頭に刃を突き立てた事がある。 お互いを庇い合う恋人の両方を殺した事がある。 我が子だけはと命乞いをする母親を踏み躙り、力を誰かの為に使おうとする心優しい者も処理してきた。せめて一日待ってくれ、と言った誰かの願いを聞き入れた事も無い。今思えば――お別れ位、言わせてやれば良かったのに。 「……ぐっ、ゲェ……かっ……!」 胸を衝く現実に胃液が一気に逆流した。 血だまりに膝をついた男はびちゃびちゃと吐瀉物を吐き散らし、獣の呻きのような声を上げた。 何て愚かか。今更気付く、なんて。 世界は誰にも公平で、世界は誰にも無慈悲である事に。 最初から、理解すべき事だったのに。唯の一つも例外は無い。例外は無かった事に。 「誰が、死ぬか」 面を上げた男は幽鬼の如き声を紡いだ。 「死んで、たまるか。殺されてたまるか」 こうなったのは、誰の所為? こうなったのは、誰の為? ●情動(パトス) モニターの中に映る映像に声を発する者は居なかった。 最新設備のブリーフィング・ルーム。空調によってコントロールされた地下施設は何時もと変わらない快適な無機質を提供していたが、それに関わらず。じわりと首筋を濡らした汗を自覚した時、リベリスタは言いようのない感情を抱いていた。 「……見ての通りの、仕事」 『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)は重い溜息に似た言葉を吐き出した。特に返事をしなかったリベリスタに彼女は説明を続ける。 「今回の相手は、八巻脩平。ノーフェイスよ」 ノーフェイス、という聞き慣れた言葉が厭な空気を纏っていた。 イヴは敢えてその言葉を選んだのだろう。しかし、それは事実の全てを示していない。 「……唯の、ノーフェイスじゃないだろ?」 「……ん……」 困ったような悲しそうな複雑な顔をしたイヴはリベリスタの言葉に頷いた。 「八巻脩平は元リベリスタの――ノーフェイス。 プロト・アークに参加してオルクス・パラストの人達と幾つかの仕事をこなしてた。 ……その彼が今回、或る仕事でフェイトを失ったの」 それは観念なのか、諦念なのか。そう言うイヴはやや伏し目がちのままだった。 考えるまでも無く彼女にとって彼は直接の知人でもあるのだろう。こうしてブリーフィング・ルームで依頼を伝えた事があるのだろう。ひょっとしたら、今ここで依頼を受ける自分達よりも多くの回数を重ねたのかもしれない、とリベリスタは考えた。 「フェイトを失ったリベリスタはもう運命に愛されてない。 つまり、ノーフェイスになるの。フェイトを失った人が又フェイトを獲得する事は無いし、どうするべきかは――決まってる。 アークのね、派遣したチームが全滅したのは昨日の晩。今度は皆にお願いしたい」 「待てよ」 リベリスタは声を発した。 八巻脩平がフェイトを失ったのは何故なのか。 それは彼が――我が身と運命を賭して誰かの為に戦ったからではないのか。 そうさせたのは他ならぬアークでは無いのか? 理不尽だ。 余りにも理不尽だ。 今、刺客を差し向けられた彼はどんな想いでいる事だろう? 昨日まで笑い合い、助け合ってきた仲間に命を狙われる彼は、どんな虚無を抱えている事だろう。そして彼は、ひょっとしたら未来のリベリスタの姿かも知れないのだ。 「……断っても、いい」 イヴはやや掠れた声でそう言った。 「断っても、いいの」 的の無い腹立たしさを感じたリベリスタにとって救いがあったとするならば、唇を噛み、大きな瞳で彼を見つめるイヴの顔が涙を堪えているように見えた事―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月30日(月)23:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●罪と罰 ――その、渇きに似た感情を、私は知っている気がした。 『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)の視界の先――グラスの向こうに失われた運命が瞬いていた。 日々、多くの神秘に――多くの理不尽に相対するリベリスタ達。 彼女等が触れるのは幸せなストーリーばかりでは無い。耳障りの良い言葉達ばかりでは無い。 恨まれ、呪われ、忌避され、唾棄される。それは事実で、現実だ。例えば滅びを突きつけられた誰かが、終わりを強いられた誰かが。必ずしも終わりをもたらす者(リベリスタ)に感謝をするかと問われれば――そんなモノは笑うしかない幻想なのである。 数限りない断末魔は、怨嗟の声は彼等だからこそ背負う業である。 彼等は人間では無く、エリューションですら無い――フェイト等という理不尽の塊を得た出来損ないなのだから。 秘匿された神秘の世界の中でのうのうと生きる事を許された――神秘を閉じる事を生業とする『裏切り者』なのだから。 「多くのノーフェイスを殺したが自分が殺されるのは御免ということか。実に人間らしい有り方で結構な事じゃな」 「誰の為に生きる。俺は一体、何の為に戦ってきた? お前達は、誰の為に俺を殺す!」 皮肉めいた『傲然たる癒し』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)に向けられた『彼』の怒鳴り声は憤怒と共に後悔に絡め取られた者特有の惨めさも思わせた。 昨日も今日もそして明日も。 リベリスタはこの世界に当たり前のように在り続ける誰かの為に、謂わばその彼等(にんげん)よりも自身に近い同族(エリューション)を狩る。 感謝をされる事も無く、人知れず世界を守る。そう言葉にすれば謙虚なる正義の美徳にも思えるが――見方を変えれば何と惨めで歪な人間味だろうか? 人で在りたいと願う強い情動(パトス)は、総じて薄っぺらな正義という論理(ロゴス)を踏み躙るのだ。 自分は違う。自分はまだ此処に在る事が許される――それは安堵。優越感ではない。優越感ではないが、滅びを強いられる誰かを目にした時。一体どんな人間が『自分ではなくて良かった』と思わずに居られると言うのだろう? 意識している、していないに関わらず。罪の色は心の澱の底で揺らめく。 神ならぬ人の身では人間(ひと)の浅ましさを完全に否定し切る事等出来はすまい。 最期の瞬間を心穏やかに迎える事の出来る――自分の終わりを受け入れる事の出来る人間は居るだろう。 だが、居たとしてもそれは『そうなってみるまでは分からない』。 「――何て、厭な日」 吐息のように呟いた彩歌からしても今日触れる事になった『出来事』は特別な意味を持っていた。 朽ちた洋館に漏れる複数の息遣い、激しい戦いの空気。 「本当に、どうしてこうなったんだろうな」 胸を衝く感情にか、それとも身体を打った衝撃にか。その両方にか『Digital Lion』英 正宗(BNE000423)が呟いた。 (自我があるノーフェイスに、事情があるのはいつだって同じなのだ。 同じのはずなのに。どうして、こんなにも遣る瀬無いのだ) 言葉の前半は胸の中に仕舞い込み。 「いや……それは……考えるべきではないね」 応えるように『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)が云った。 既に始まっている『ノーフェイス』との戦いは最初から激しく厳しいものとなっていたが、そんなもの謂わば余禄に相違無い。 唯の強敵に相対するならば面々がこうまで『傷む』事は無かっただろう。 これは酷く特別で――単純な話なのだ。 運命を失って初めてリベリスタはその立場を『ハッキリと』させるだけ。何でもない今日、アークの要請を受けたリベリスタ達十二人が急行したのはとある山中にある使われなくなった洋館だった。与えられた任務はノーフェイス・八巻脩平を処理する事。その冷徹たる指令には『彼が元々は何であったのか』は委細考慮されていない。 「さて、偉大なる先輩に敬意を表して……か」 静かに嘯いた『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が闇に尾を引く光糸を放った。 「ああ――分かってる。先輩だもの、な」 目を奪う身のこなしに目標を見失った糸を一瞥して、彼は静かに嘯いた。 (理不尽だよね。出来れば戦いたくは無い――だって……) 『通りすがりの女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)は内心を敢えて言葉にはしなかった。 (うまく言えないのですがやるせない…… でも、参加を決めたのは私自身……迷いはありません……全力を尽くします) ……自身の為すべきに疑問等持っていない。何をするべきかを『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)も知っていた。 だが、それでも口にしたら、顔に出したら本気で戦えなくなる――二人が共に抱く言い訳はそう間違っている気はしなかった。 「……まったく、益体もないわね」 全く感傷等その通り。故にこそ今日のドラマは冗長なる悲劇で喜劇なのだった。やや冷淡に呟いた『BlessOfFireArm』エナーシア・ガトリング(BNE000422)が銃口を向けた相手は、つい数日前までの『仲間』だった。唯それだけの事なのだから。 ●罰と罪 ――分不相応を求めれば、必ず代償が付き纏う。 例えるなら、天を目指し翼を折られたイカロスのように。 楽園の林檎を齧った恋人達のように。 自分がその立場だったらと思うと手が震えるけれど―― 「馬鹿ね」 『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)は怜悧な美貌の柳眉をほんの少しだけ下がらせて、 「見て、この手脅えてるのよ。笑っちゃう、笑えすぎて――膝まで笑ってる」 そんな風に言って、言葉通りに笑った。不似合いに笑った。 絡み合う事情、心情は双頭から成る蛇のよう。 「……エリスも……いつか……辿る道かは……わからない」 八巻脩平の否定はエリス・トワイニング(BNE002382)にとって――リベリスタにとっては未来の自分への呪いにもなりかねぬ。 彼女の幼い美貌はその内面のゆらぎを映さない。グリモアールが薄闇の中に光茫を湛え、傷付いた正宗の体力を賦活する。 例外的な『共食い』は当然と言うべきか激しいモノとなっていた。 個々の実力比べをすれば分の悪い事は明白だったが、パーティの編成は十二人から成り、敵は八巻脩平の一人である。 (一点突破は怖いが、経験故に多対一の不利はよく知っているだろう。生き残る事を考えるなら逃げを打つ可能性も十分だ) 鉅の読みは理に叶っていた。 パーティは賢明にも強敵との対決に挑むにあたり手数と役割分担による連携を軸にした作戦を立案した。 「陣形を崩さないように、気をつけて――」 卯月の声を受ける仲間達は脩平を包囲する陣形を取っていた。 前衛達が周囲を固め、中衛の戦力で前後衛のフォローを行なう。後衛は当然支援を重視する構えである。 これは逃走の阻止と死角の確保の両面から道理の選択だったが、状況は必ずしも良いとは言い難かった。 パーティは脩平の完全な包囲には到っていない。彩歌は後方に回りかけたが、事前に練った班編成と予定動作が連携の不備で精彩を欠いたのは痛い。 とは言え、卯月の機敏な戦闘指揮はパーティの戦闘に機動性をもたらしている。 「あたしは自分の道を進んでいたいから、今は――」 胸を衝く何とも言えない感情を今だけは抑え込み、前に立つ『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)が動き出した。 元より到底、手加減出来る相手では無いのだ。する意味も無い。 しなやかな脚を振り抜き、苛烈な蹴撃を繰り出した。距離を離しても逃れ得ない刃の如きその蹴りに脩平は防御の姿勢を取る。 迸る血と強烈な痛みに彼は一層眼を見開いた。 「使われ、戦い、運命を磨り減らして――それを命じた人間に機械的に消されるのが、お前の望みか!?」 「……っ……」 アナスタシアはその言葉に応えない。 「アークが俺の為に何をしてくれた。フェイトを失くした俺に事情の説明をしたか? 納得を待つような素振りをしてくれたか。 救う努力をしてくれたか? 例え先が無いとしても――連中は騙してくれる事すらしなかった。 当然だ。この俺も同じ事。唯、機械的に殺した。殺した。殺した。 待たなかったさ。救わなかったさ。子供を、女を、善人を。全ては――『人間の為だけにある世界を守る為』だ。ハッ!」 目を剥き、歯を剥き、リベリスタを呪う。自身を呪う。 『身勝手』に振舞う脩平の言葉はその実それ程に醜いものでは無い。 唯只管に善良である――我が身を何とも思わぬある意味で『壊れた人間』のみがリベリスタ足るというならば、一体何人が残る事か。 生物の根幹である生存欲求をどんな理屈でも否定出来まい。 「先輩は生きて何が出来るつもりなの……!」 アナスタシアに向いた多重残影による刃の嵐を眉を顰めたレナーテが受け止めた。 堅牢な防具と盾の上からでも身を抉り抜くような一撃に胸元を赤く染めながらも彼女は言った。 「私は私に出来る事を。だから、ゼッタイにやらせはしない!」 必殺に特化した脩平の一撃を受ければレナーテや正宗といった『鉄壁』を誇るクロスイージスも決して気を抜く事は出来ない。 「まだまだ耐えられる。……だが、早めに決めてくれよ、皆」 だが、口元を僅かに吊り上げ、正宗はそんな風に余裕めいた。全身を覆う光のオーラはまさに影を払う闇の中の寄る辺である。 前衛に立ったレナーテと正宗の二人が自身の攻撃を諦め、仲間達のフォローに回った事は確実に奏功していた。 元より技量差は大きい。攻撃能力の低さと防御能力の高さを天秤にかけ、タンカーとしての役割に徹する事を考えたのは見事と言えるだろう。 「ありがと」 声と共に彩歌が動く。彼女のピンポイントは綺麗に脩平の隙を縫う。 本来ならば致命的な猛威を振るったであろう脩平のカルマの鎖による被害も呪縛をものともしない楔の二人の活躍で、恐怖を払う二人の活躍で、限定的なものに留まっていた。 (……とは言え……) 正宗は言葉とは裏腹に内心で冷静に戦況を考えた。 普通の相手ならばアークでも有数の防御能力を持つ正宗が簡単に遅れを取る事は無い。 しかし、今回の相手は言ってしまえば『相性が悪い』。 強固な鎧の隙間から入り込んでくる死の刃は流石の彼でもぞっとする。 色濃く匂う死の気配は『元・ナイトクリーク』の面目躍如といった感。 「……!」 「しっかりして下さいです――!」 表情を引き締めて鋭く気を吐く沙希、『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)も厚い支援で戦線を必死に支えるが、『一撃必殺』の意味を考えれば長引く勝負の或る瞬間が、一瞬で戦線を決壊させる可能性は否めない。 「裏の仕事を組織から受けるなら、イモ踏んで後ろから撃たれないよう考えるのは当然でしょう? アークなんて地雷を隠してすらいない有情設定じゃない」 エナーシアのショットガンが火を噴いた。 見事な精度で放たれた散弾が狙い違わず闇に踊る男の足を撃った。 「己の容量も測れないパラノイアじゃミュータントとして狩られる末路も己の内だわ。今度のリベリスタは上手くやるでしょう――ってね」 「自分を舞台の主役だとでも思ってた? アークにとっては唯の駒よ。貴方も、私も」 やや傷んできた前衛を埋めるように中程からこじりが前に出た。 挑発めいた言葉は敵の注意を引くものであり、 「私は――私でも。『死にたくない、助けて』そう言って泣きながら乞うでしょうね」 ……同時にそれ以上の意味を持っていた。 近接しての連続攻撃に打って出た少女はきつめの双眸に若干だけ揺れた感情の色を乗せ、 「仕方ないじゃない? だって私、少し戦えるだけの女子高生だもの。 お喋りして、誰かを愛して、子供を産んで、その子を愛して……それが出来なくなる。 そんなの厭よ。厭だわ。そこから救ってくれるのなら、誰にでも跪くし、何でもする――でもね」 こじりの手数が脩平の防御を跳ね上げた。 「でもね、アークの人は殺さない。絶対に」 無防備な脩平の体をくの字に折ったのは言葉と共に連なった渾身の一撃だった。 戦いは続く。場に至上の緊張感を漲らせ、言葉にし難い感情を加速させながら。 「俺にはあんたに何を言っていいのか判らん。もしかしたら、言葉なんか要らんのかも知れん。 だが……あんたがいなきゃ、今のアークも三高平も、きっと成り立たなかったんだろう」 顔を歪めた正宗が今一度、攻撃を受け止めた。 「せめて……『元リベリスタ』であるうちに止まっておけ! フィクサードですらなく、自分が自分でなくなってから死にたくないだろう?」 「馬鹿な!」 攻める鉅の言葉を脩平を一蹴した。 「俺はな。『後悔している』んだよ」 言葉は鉅に、こじりに、リベリスタ達の全てに向いているようだった。 「過去の自分を否定するな、とお前達は言う。 綺麗事を。アークにはフィクサードであった者が居ないのか? そんな誰かにお前達は過去を肯定しろと言うのか? 過去ならば肯定出来て、現在はするなと言う。 俺の現在(いま)は俺だけのものだ。俺の原罪(いま)も俺だけのもの。砂の上の塔なんだよ、善悪の――運命の針なんてものはな!」 言葉は圧倒的なまでの同族嫌悪だった。 元より互いに分かるのだ。互いがどう生きてきたか、どう考えてきたかは。 同じ形でありながら、最早決定的に違ってしまった事実が悲しい。 届かない言葉を尽くすのは、せめて……の餞なのだろうか。 向けられた言葉を否定して、高く笑う脩平の顔がリベリスタには泣き笑いのようにも見えていた。 脩平は傷付く。粘り強い戦いを繰り広げてきたリベリスタも消耗に崩れ出す。 だが、それでも。 「運命からの愛を惜しんでいては、君には勝てない、という事かな」 卯月、 「上手くやるって、言ったでしょう?」 エナーシア、 「否定をするのは構わない。でも、過去の貴方は? 何て言ってる? まだ戻れるのよ、なれるの。一瞬だけでも、舞台の主役に」 こじり、 「エニー・セブンにベット、賭けに意味があることに命と運命を賭けるわ」 彩歌、 「私だって死ぬのは怖い。ノーフェイスになるかもしれないのも怖い。 ……それでもっ、ここで退いたら今まで私が倒してきた人たちはなんだったのさ、ってハナシ」 エナーシア、 「先輩が生きたいと思うならそれで良いと思うんです……」 それでも、尚。言葉の先は口にすれば語るに落ちる、それを誰もが知っていた。 泣きそうな顔をした沙希がその運命をこの場に燃やす。 それは脩平自身を目の当たりにして尚、示された決意。 「……っ……」 揺らぐ絶望。揺れる憤怒。 喰らい合う彼等の望む結末がそこになくとも――幕はまだ先にあろうとも。 例え倒し切れずとも、止め切れずとも。この日に意味が無かったとは、誰一人として思うまい。 暗闇の終わりはやがて来る――きっと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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