● まずい。 忘れてた訳ではないんだ、ほんとだよ。 ただ、あれだ。 いろいろ忙しかったから。 だから、不可抗力だよ。ね、ね、ね! ● 「――なんて言わせない。今年のアークはやる気です」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、モニターにカレンダーを映し出す。 ああ、夏休み。 休み、苦いか、しょっぱいか。 「いろいろ楽しい夏休み。一度は言ってみたい台詞」 固唾を呑むリベリスタ(宿題持ち) 「『宿題? 七月のうちに済ませた』」 やだなぁ、イヴちゃん。 そんな台詞、都市伝説、二次元だけの話だよ? 「今年は、みんなにそう言って欲しい。そんなアーク本部」 壮大な野望だなぁ。 「宿題、出たでしょ?」 聞こえません。 というか、あんなものは九月上旬あたりまでにうやむやのうちにしてしまえばいい代物ですよ? リベリスタのかたくなな態度に、イヴはわずかの時間目を伏せる。 「いろいろみんなに働いてもらって時間を使わせてしまったアークとしても、みんなにきちんと学校の課題を済ませてもらいたい。ぜひフォローをさせてほしい。去年のわれわれに足りないもの。それは――」 それは? 「時間薬!」 言い切った! 「去年は、もう時間足りねえって途中で投げ出した人が多かったからね。今年は、まだ余裕がある内に。出来るところからコツコツと!」 なんか気迫が違う。 「会議室を開放。みんなの宿題消化のお手伝いをする。白紙で提出とかだめ、絶対」 モニターには、端が見えないほど広い部屋に整然と並べられた机と椅子。 学年および主要科目ごとまとめられた参考書。 壁に貼られた星の運行やら、歴史年表やらが、宿題やらせるぞ~という意欲を感じさせる。 うわぁお。 「工作、図画の材料、素材も準備した。絵日記用のお天気記録も確実更新。ゲリラ豪雨もばっちりフォロー!」 うわぁ。 やらせる気満々だよ。 ここに入れられたら最後、持ち込んだ宿題終るまで出してもらえないんだ。そうなんだ。 空気が、簡単な仕事とおんなじだもん。 「みんなでやれば、楽しくできる。目指せ、リベリスタと社会性の両立」 うわ~い、現実はきびしーやー。 「ちなみに、素材とかの提供は、三高平市商工会議所」 いつも、お世話になってます。 「それから、それぞれの所属校に連絡を取って、出された宿題の全貌は把握済み」 なんですと。 「大丈夫。アークは、みんなを見捨てたりしない。みんなあってのアーク。一蓮托生」 でも、代わりに宿題やってくれる方向では、助けてくれないんだよね。わかります。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月30日(月)23:50 |
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● 大会議室は程よく冷房が効いている。 「もぅ! 先生も一緒におさぼりしてはいけないのです! 後もうちょっと頑張ると良いのです! 」 制服に眼鏡をかけたそあらさんのお姉さんじゃなくて、お姉さんなそあらさんにがっくんがっくんゆすぶられるゲームで徹夜明けの高校教師とか、せっかく外見はともかく年上お姉様であるティーチボランティアの麻衣から教えてもらっていたのにいきなり船を漕ぎ出してこちょこちょくすぐられながらも爆睡し続けるワーカホリックDT高校生がいたりする中、「2012年度・夏休みの宿題は七月のうちに」の横断幕が掲げられている。 別に特別講師のリベリスタ達の陰謀なんてない。 (付け焼刃で勉強しても学力とは身につかないもの。それを推し量るにはやはりテストが一番ですね) アルフォンソは夏休み明けの抜き打ちテストの作成に入る。 (付け焼刃で勉強しても学力とは身につかないもの。それを推し量るにはやはりテストが一番ですね) ギャーギャー騒ぎ出す学生を眺めて、にっこり微笑んだ。 「さて、夏休み明けが楽しみですね」 いや、ホントに。陰謀なんて、ない。 着物の少女態、ヤマの教訓。 宿題をする以前の心得。 「白紙の実例その一!終わって一安心と思ったら最後の一押しを忘れて未提出!」 小学生達は、一斉にドリルに名前を書き始めた。 「その二! 色々立て込んで今日は寝て明日だそうと思ったら締め切りを一日間違えていた!」 中学生達は、教科別に提出日をノートの表紙に書き込んだ。 「その三! いざ取り組もうと思ったら、寝落ちで撃沈!」 はっはっは。そのための七月攻勢ですよ? (……提出物の話であるぞ? ホントよ?) 大丈夫だよ。わかってるよ。 ● 「日本人が英語なんて覚えなくても生きていけますわ!」 ナターリャはロシア人だ。 まるで今お店で買って来たばかりのような綺麗な英語のドリル。 世が世なら、敵性言語だ。 「夏休みですのに宿題がたっぷり出る方がおかしいと思いますの。こんなものより学生としてもっと学ぶべきものがあると思いますわ」 正論だね。 「恋にショッピング、ちょっぴりモデルのお仕事。私も暇ではありませんの」 うん。だから義務の時間は圧縮して、君に宿題の呪縛から解き放たれた楽しい一ヶ月のバカンスをプレゼントしたいんだ。 「1P目から問題の意味が全くわかりませんわ。日本人が学ぶ本なのですから日本語で書きなさい! 『()に入る適切なbe動詞を書きなさい』ってそんなの知りませんわ。大体『be動詞』って何ですの!?」 「なるほど、此処は確かに難しいポイントだね」 ロアンは、にこやかにナターリャの横に座った。 「それに、私に命令口調で問うのは失礼ですわよ!」 「でも少し見方を変えてごらん? 日本語で『あなた様のお眼鏡にかないますbe動詞を書いていただけましたら恐悦至極に存知奉ります』とか書いてあったら、帰って不親切だよね。わかんないよね。なんなの、日本語の過剰敬語」 ロアン、何かつらいことがあったの? 笑顔の下に気迫がある。 学習って大事。 「リベリスタとはいえ、やるべき事はちゃんとやらないとね?」 まずは、英文読み込もうか。 二人目のDTは、軽やかなティーチボランティアだった。 (ふふふっ! 宿題を手伝うやさしいお兄さんとして幼女たちのハートをがっちりキャッチだぜ!) うん。竜一のお兄さん力が一人の少女の人生を狂わせる威力なのは、アーク内外に知れ渡っているね。 「さあ、お兄ちゃんと一緒に勉強しようか! くふふふっ! なになに?問題がわからないって? よーしよし、お兄ちゃんが手取り足取り教えてあげよう! ここでくっつき。 ふふー困った子だ 。ここで頬ずりぃ!」 よおし、モーション入り予行練習も完璧だ。 スキンケアで脂も毛穴もきっちり処理済み、触ってごらん、竜ちゃんのほっぺとぅるっとぅるですよ! (あれ? 幼女、実は少ない……?) リベリスタである以上、皆10歳以上。 竜一言うところの幼女が小学生以下であるとしても、なっかなかいないレア。 しかもフリーとなると、厳しいな、現実わ! (まあ、後は自分の大学の課題をこっそり片付けねばな。入学早々に留年の危機とか、笑えない……!) そうなったら、君の妹、「お兄ちゃん授業も一緒だねうふふあはは」言い出すね。多分。 (ウェスティアちゃんは記憶喪失らしいし、折角だから学生生活ってやつを満喫させたい) 悠里はいい人だなあ。爆発とかして欲しくないなあ。 (なので受験勉強のお手伝いを(強制)しに来たよ。勉強嫌がって逃げようとしたからデザートバイキングに連れていくって約束で釣ったけど!) ……容赦なくなったなあ。 ウェスティアは、首を傾げている。 (税金…? 憲法…?なるほどわからん!) それわかんないと、人生の貧乏くじ引くことになるぞ。 (私達はリベリスタだ! 常識に縛られてはいけないと思うな!) 大半を悠里の目を盗んで鉛筆を転がして埋めていく。 しかし、悠里はしゃれにならない勘を働かせた。 「ウェスティアちゃ~ん?何してるのかな~?」 背後から強襲する拳。 「ぎゃー、ごめんなさいごめんなさい!」 覇界闘士のこめかみぐりぐり、脳みそ飛び出る。 「これが今日行く予定の場所なんだけど…。いやー、残念だなー。課題をクリアしないとお預けだからなー」 非常にお高いホテルメイドのケーキバイキング。 べそべそ言いながら、宿題を進めるウェスティア。 (ま、真面目に頑張ってるようだし、ちゃんと連れて行ってあげるつもりだけどね) 悠里は、にっこり微笑んだ。 (去年のこれの次の日から学生になったので初めてなのです……高校生なのですよ?) 昨年のエナーシアは、必殺筆跡鑑定人として、無記名宿題を担任に渡してあげるのがお仕事でした。 (学内出張版の何でも屋で宿題代行はそこそこやってますので問題なしです と、言いたいのですが何なのです。この「読書感想文」?) ある意味、一番めんどくさいです。 『書籍:ウ=ス異本。 感想:いあ! すとらま! すとらま! ふんぐるい むぐるうなふ すとらま! すたばてぃ うがふなぐる ふたぐん』 「SAN値直葬されてしまうが良いです」 教科担当を葬らないように。 高等部の現代文って誰だっけ? 三人目のDTは、働き者だった。 「もしもし経理部? 七緒さんの誕生日の会計なんですけど……室長決済でも無理? 了解、こっちで室長のポケットマネーに回しときます」 快の仕事は、放置することも出来ない有象無象をどうにかすることだ。 「和泉さん、この報告書の分類どうしよう? 報告書名は――『えっちっち』 あ、電話切られた」 こんなセクハラ電話かけるの、新田君は平気だし。 (夏休みだから、ちょっと実家絡みの掛け持ちを増やしててさ。イベントがあれば出店だしたり。ヘルプでバーテンダーやったり) ※新田酒店三高平営業所は、通販・配達・出張販売等の無店舗業務を承っております。 (ちょっとこっちの仕事、溜めちゃってて。レポート? 9月に何とかする) あっはっは。そんなの、ゆるさねえ。(伏線) 「衝撃の事実、チャイカさんは小学校に通っていないのです!」 宿題はない! 「学校に通っていなくても宿題はあるのです。持ち込み業務!」 タブレットPCとにらめっこするチャイカさん(アーク外注)。 やっている事は多種多様な機器類の図面構築。 「周囲に求められている仕様にどれだけ近づけられるか……」 う~んう~んと唸っている。 「忌憚ない助言がほしいのです。専門知識がなくても、ふとしたアイデアで良い物が出来上がる事は多いのです」 がばあっと追いすがられるのを振り払うことも出来ない。子供だし。 「落としていってください。何かアイデアぁぁ……」 「……え、え? 何、かしら?」 茫漠と視線をめぐらせながら、ふらふら歩いていた那雪に突進。 「あぁ、これ……わからない、の? 宿題にしては、意地悪問題、なの、ね……」 いや、それ、宿題違う。 「ここは、こうして……最終的に、コレを使って、そう。……残り、やっつけると、いいんじゃない……かしら?」 勘働きが状況をブレイクスルー。 チャイカが大量のデータを駆使する識者なら、那雪は論理を超越する計算者だ。 「私は予想外に、働いたから……あとは、お昼寝……たいむ。至福、ね……みんなの悲鳴なんて、聞こえないの、よ。ほんと、ねむ……」 チャイカの横で、すやすや眠りだす。 だが、チャイカが詰まるたび、那雪は叩き起こされることになる。 (今年も悪夢の一日がやってきてしまった……) 陽菜の表情は暗い。 (頑張れるだけ頑張ってみよう。え~と、なになに……) 問1・次の英語を日本語に訳しなさい。 He is satisfied with his present job. 受動態と、前置詞withの処理がポイントです。 (……うん、わからない!) 諦め、早! 辞書を開こうとすらしなかった! べふべふとテキストとノートを片付け始める。 「隠れて……なかった……」 エリスが、陽菜の横に立つ。 「机の……下に……隠れてるかと……思った……」 去年の絵日記には、そんな陽菜の様子が描かれていました。 「頭を使ったら疲れたから、今日のアタシの勉強はこれでおしまい。まだ夏休みはいっぱいあるんだし、急ぐことないよね。エリスは?」 「今回も……宿題会の……様子を……絵日記にして……アーク本部に……提出。……宿題? 夏休みが……始まって……早々に……済ませた」 都市伝説、いたこれ。 「とりあえず暇だから、優希と翔太先輩がどんな勉強してるか覗き見しにいこっと!」 翔太の手元には、単語カードが散乱していた。 「宿題ねぇ……見直しぐらいしかないんだよな」 出たな、妖怪都市伝説その2。 「こんなもん普通にやっていれば直ぐに終わるというのに、サボろうとするのがいけないんだぞ。俺は、めんどくさいからすぐに終わらせただけだ。隠れ優等生? それは違う」 できる奴はみんなそう言うんだ。 「……それ、なに?」 「暇だし、なんか面白い暗記張でも作ってみるかなぁって」 表 裏 納豆 WATAKUSI 3DT 快&夏栖斗&竜一 真空管 メルクリィ ゴールデンナイト(他多数) ツァイン 「えーと後はなんだろう、その他問題募集してみる」 なんかない? と言われて、即答していいものか。 「まぁ一応困ってるの居れば手伝いはするよ。あ、俺は一応理数系タイプなんで、他も問題ないけども」 陽菜は先ほどのドリルを開いて、翔太に突き出した。 He is satisfied with his present job. 「……これは、こう。単語、意味引きな。……だから」 答:彼は、現状の仕事に満足しています。 ● 亘は、夏休みを前に一つ賢くなっていた。 「最近思い知らされました。馬鹿では強くなれないんです。えぇ、馬鹿では強くなれないんです!」 大事なことなので、以下略。 (だから今日は最高の機会。宿題? 少ないね、もっとです!) 額に締める鉢巻。 「さぁ、スタディーウォーズの幕開けだ!」 夏休みの宿題:序の口で済ませ、苦手な英語問題は脇に置き、高校から大学までの問題に何度も挑戦しフェルマーの定理でまず自分の日本語能力を見失い恋の方程式を攻める! と結論付け。 勉強の果てに気づく。 (あぁ、そうか。人間って勉強しぎるとさ。頭の中全てが真っ白くなるんだ) 机に突っ伏す亘を現すことわざを答えなさい。 答:過ぎたるは猶及ばざるが如し。 とらは、あははと場違いな笑い声を上げた。 「ていうか、とらが教えてくれって言ったんじゃなかったか? なんでその態度?」 「今朝ね、ダイレクトメールが届いてぇ」 (だからなんで急に話題変えるんだ……) 不安を感じながら、アウラール、アイスコーヒーずずー。 「『新作ブリーフ入れ』って書いてあったの♪ なーんでわざわざ、革の鞄にぱんつだけ入れるのよ~? どんだけぱんつ好きなのよ、ウケル~☆」 「……。……え?」 思わず開いた口からだらだら零れ落ちるコーヒー。 君は、本気の「……。……え?」を聞いたことがあるか? 相手が状況を整理し飲み込み、なおかつ、君に疑問を放つ。 それは君に「冗談だよ~」と言って欲しいのだ。 しかし、君はそんなことは考えも及ばない。 君は、君の致命的な間違いに気がついていないのだから。 「いや、とら……それ、さあ……」 アウラールは、噛んで含めるようにとらに話しかけた。 「えっと、いつも俺たちが依頼の内容をフォーチュナに聞きに行くだろう? その部屋をなんていうか、ちょっと思い出せ」 「えー? ブリーフィングルームでしょぉ?」 「そのかばんのブリーフは、ブリーフィングルームのブリーフ」 「ぱんつとは……」 「語源は関係あるかもだけど、直接的に関係はない」 「……」 無知は、時として君の人生に致命的な黒歴史を作ることがあります。 「……勉強、しよう。な?」 なんか、俺の方が恥ずかしくなってきたよ……と呟くアウラール。 「キャハハ☆ 日本で横文字とか使う意味わかんないしぃ♪」 とら。ぱんつも横文字だ。 ● ルーメリアは、気合が入っていた。 「去年はギリギリやって失敗したけど……今回は、これだけ余裕がある! 野球道具も野球中継も封印した! 今年はやれる!」 そう、ルメはやれば出来る子! 「ねぇ、ジースさん、これ解るー?」 小学生とは思えない難しい問題なのはわかった。 「……何だそれ? 難しいぞ」 習っているのか、習っていないかの判別さえもつかない。 「……ちょっと、聞いてるの、ジースさん!? また牧野さんのこと考えてたでしょ……もう、今は勉強に集中しないとダメなの!」 「ち、違うぞ! 牧野さんのことを考えてたんじゃなくて、この問題のことを……っ!」 「それでー……解る?」 「うーん」 唸るジース。 「むぅ……」 ルメ、がっかり。 「じゃあエルヴィンさんに聞いてみるのー」 エルヴィンは、教員志望。 教育実習の指導案について聞きたいと思ってたんだけど、正規教師は夢の中だし。 (困ったな、教免もってるひと全然いねーや。仕方ない、自力で頑張るか) 「エルヴィンさーん」 ルメが持ってきたのは、大学入試予備校レベルの問題。 三高平の数学は、個別学習です。 できる子のレベルはどんどん上がります。 「OK、まずは一気にやんないで、ひとつずつ順番に解いてみな。……ほら、そこちょっと違ってたろ?」 「さっすがエルヴィンさん、おひげが素敵なの! 見た目ちょっと軟派だけど頼れるね? 」 「はは、素直で真面目なルーメリアも素敵だぜ、んじゃその調子でファイトだ」 ひげを撫でつつ、エルヴィンも自分の宿題にかかる。 「……だーッ!!微分とかさっぱり分からねぇよ!」 ジース、頭ガシガシ。 「ああ、寿々貴。ちょうど良い所に。これ分かるか?」 宿題を差し出しつつ、年上のお姉さんに質問だ。 「習った範囲からって決まってるからね。例題見つつ、順番に進めれば大概は平気。一気にやろうとすると逆に混乱するよ」 柔らかな声が耳朶を打つ。 (ぽわわんとした雰囲気だが、意外と教えるのが上手い) 「……なるほどな。そう解けばいいのか。ありがとな!」 彼女のさらりと肩から流れる長い髪に意識が囚われる。 想起された概念が、別の誰かを想起させる。 ――杏里と宿題をした時の事を思い出す。あの時は二人の距離が近くて…… 脳天に痛打。 「ぎゃぁ! 痛ってぇ?! 何するんだ!」 思わず声が上がる。 問題集を手にむぅっとしているルーメリア。 「今度こそ、牧野さんのこと考えてたのぉ!」 エルヴィンが笑顔で近づいてきた。 「どうした?」 「いやー、何でもないぜ! 」 取り繕う少年に、エルヴィンは意地の悪い笑いを浮かべる。 「ジースは授業サボってたの丸わかりだな。まー仕方ねーか、愛しの彼女のことで頭いっぱいだもんなぁ?」 講義をしようとあがるジースのかをに、問題集を押し付けた。 「……いいから集中しろ、コラ」 「時にエル兄さん」 寿々貴は、まじめな顔をする。 「エルにーって言うとエルニーニョぽいけどあれって娘だよね。どう思いますか」 キリッ。 (その発想は無かった、というか俺年下だよ? つうか、女の子は、ラニーニャ……) ふと思いついて、エルヴィンにはにやりと笑う。 「まあ台風娘は可愛かったよ、彼氏持ちだったけどな」 エレメント関連依頼で出会ったのだが、アークに来て日が経たない寿々貴にそんなのわかる訳もなく。 種明かしは、宿題が終わってからになりそうだ。 木蓮は、恋人の龍治と一緒だ。 (うう、龍治が先生よりこえぇ……!) 「……なあ龍治、ここ分かるか?」 「学のない俺に指導は無理だ。なので、サボらん様見張る役に徹する」 龍治の手には、山と詰まれた任務の報告書。 長期戦覚悟だ。 「う、うぐ。わかったぜ、自力でなんとかする……! あーあ、せめてモルのシャーペンとかあればはかどるのになぁ」 「こら、集中せんか。大学に進学すると決めたのはお前だろう、今日くらい真面目に勉強しろ」 木蓮の視線が天井に向いたのを確認した龍治は、木蓮の頭をわしゃわしゃとかき回した。 「た、龍治に勧められたから頑張るけど、ほんとは進学しなくっても、お前と居れるなら、俺様は……」 耳をばたばた、ピンクのほっぺ、上目遣い。 甲斐性でお読み取りください。 「ならば尚の事進学しろ。お前はまだ物を知らなさ過ぎる。大学で多くの知識を得、多くの事を経験し、多くの人と触れ合う。そうして己の世界を広げるのだ」 そして広がった世界の中から――。 「……共に生きると言う決断をするのは、それからでも遅くはない」 木蓮さんに問題です。 結論を、三十文字でまとめなさい。(配点:今後の人生) 「兎も角、頑張れ。良いな」 龍治は、くしゃくしゃになった木蓮の髪を整えるようなでた。 「……わ、わかった。とりあえずは、頑張る。お、終わったら2人でアイス食おうな! っし、夕方まで粘る!」 木蓮は、猛然とノートと教科書に向かった。 「ぁー、クソ。いっそ宿題とか忘れてプールとかいきてぇ…」 テキストに向き合いながら、シャーペン片手に猛は呟く 「無駄口を叩かず頭を働かせろ。プールは逃げはせんぞ」 優希は、鉛筆をカッターで削りながらハッパをかける 「ぁーはいはい、解ってるよ! 真面目にやってるよ! ……あ、んでこの問題なんだけど、どう解けば良いんだ?」 と、猛は優希に質問。 聞かれれば、優希は丁寧に教えていく。 (まぁ言う程ペースが悪いわけではないだろうかな?) 猛の数式を書き込む手元を見ながら優希はうなずいた。 「ああ、その調子だ。掴みは早いではないか」 「あぁ、成程……そういう事か。案外、教師とか向いてんじゃねぇのか?」 と、猛は軽く笑う。 優希はフリーズ。 猛は更に笑みを深くした。 (此奴とは宿敵として戦いを求めていたはずなのに普通に友人のようである。 そういうのも悪くはない、悪くはないのだが) 優希は、削り終えた鉛筆を片手にセットし、もう一方の手で猛に向かって弾く。 「これぞ、リベリスタの奥義……イレイザー・マキシマム……」 照れ隠しにしてもリベリスタがやると、殺傷兵器だ。 猛はテキストを手に取り、構えてガード。 「…甘いな、その程度では俺のエデンズ・フィールドを抜く事は出来ん」 で、どうなったか。 猛のテキスト半分に、円錐状の穴が開いた。 「終わったら、ラーメン食いに行こうぜ、ラーメン。奢るからよ」 最近美味いラーメン出すとこ見つけたんだよ、と、猛。 「葛木は本当にラーメンが好きだな。喜んで受けておくとしよう」 優希はフッと笑みを返した。 周囲に座っていた学生諸兄は、この場にお腐れ様達がいないことを、この天然な二人が彼女らの欲望エンジンの燃料にならなかったことを、神に感謝した。 (宿題は粛清にも似た響き。何が悲しくて宿題せなあかんのよ) 学生だから。 (うちは引き籠りよ。宿題なんかしなくたって学校行かなければいいのよ) しかし、なんか色々人が来てやる流れに引き込まれてしまった。 でも、一人所在無く座るしかない。 (空気読む事が出来る天使、流石瞑ちゃん。あーあー、こんな事してる暇あったらギャルゲーの一つでもやるのに。実に時間の無駄であるな! ブーブーブー) 机に突っ伏したままの、もごもご独り言。 (うちくらいのレベルになると夏休みの絵日記も今日全部描ける。つーか夏休みにやったギャルゲーを絵つきでどんな内容か、どのキャラを攻略したかとか描くわ! そうよ! それをネットオークションに出品して10万以上稼ぐのを自由研究で出すわ) 妄想乙。 なんとなく手が涼しくなる。 顔をあげると、瞑のゲーム機手にしたティーチボランティアの星龍さん。 「わたしがせんせいです 」という名の紙腕章がまぶしい。 「ちょっと冗談よ。真面目にやるからゲーム返して」 鼻声なのは、ここの冷房が効き過ぎているからだ。 「それじゃ、お手伝いを。多分大丈夫だと思いますよ」 大学生まで教えられます。 「あ、でもマージャンは教えませんよ」 ティアリアも「わたしはせんせいです」の保持者である。 「得意科目は保健体育……冗談よ。世界史、かしらね。でも一通りのことは教えられるつもりよ」 中だるみの午後三時。 アイスクリームのトレイを持って、テーブルを回る。 「余り根を詰めすぎてもダメよ。適度に休憩は入れましょうね?」 智夫の指は、膝からずり上がりつつあるスカートのすそを直している。 (目覚めると、拙者は看護婦(のコスプレ)になっていたわけで。ミラクルナイチンゲール? 拙者智子でござるYO) カウンセリングルーム、行こう。切実に。 (何でもいいから、レポート用紙埋め埋め。判らぬ所は隣の人のを覗き見……) ここで、はたと手を止める。 (おっと、昨年は学年の違う四条殿のノートを写して大惨事だったでござる。今回は同じ学年か(1年かどうか)を尋ねた上で座り……既成事実を作る為ページを埋めるっ) 去年は高3なのに、高2の理央ちゃんのノート写しちゃったんだよ。途中で気づけよ。 でも大丈夫。 ベルカは間違いなく大学部文学部一年生だ。 目の前には、たまりにたまったアレがソレだが。 もはや余計な修辞を弄している猶予も無い。レポートの山だ。 「……」 (シベリア生まれの私には堪える暑さに加えて! 任務ゆえ致し方なしとは言え、さすがにためすぎた!) 目の前のレポート用紙には、タイトルだけ箇条書きされている。 「時村財閥と三高平市の成立に関する考察」 「至上の命題~なぜおやつは食べるとなくなるのか~」 「『邪悪ロリ』の邪悪性を検証する」 ふと視線を上げると、そこに研究対象がいた。 (白紙ダメと言われたら、やりたくなるのが邪悪ロリ。何の恨みもありませんが「わるいこ」として悪いことをするのです! ステータス欄も一文字だって書いてやらないのです! 椅子にしがみついて机にかじりついてでも!) うわぁ、悪い! エリエリ、わるいこ! 「この新雪のような美しい原稿用紙を汚すなんてもはや冒涜だとおもうのですよ。そもそも言葉に出来ない感想だってあるでしょうに、その心の様をどう描写しろというのです?」 熱く激しく机に片足掛けて主張する。 「この程度もできないとは、やる気あるのかおぬし!」 見た目は子供、精神はババア、二人で一人のシェリーが、がっくんがっくんエリエリを揺らすが、エリエリはどこ吹く風だ。 「こどもに多くをもとめすぎなんですよ、それができたらみな一流の小説家なんですよ! むり!」 「今やらずして何時やるというのだ。しっかりせい」 骨の髄が世話好きのシェリーはエリエリに説教モード。 「ふ、ふふふふ……」 二人の様子を見ていたベルカがいきなり笑い出すのに、智夫はびくっと派手におののく。 「ふふはははは!! 私を番号で呼べー! ここから出すなー! ドリンク剤あるだけ持ってこーい!」 「は、はいーっっ!」 (なんだろう、この体に馴染んだ空気) それは君が訓練されたリベリスタだからだよ。 (て、徹夜でやります) 出来そうな気がしてきた。 エリスは今日書いた日記をアークの人に渡した。 ひょっとすると、チェックが快に回ってきたりするかもしれない。 「去年も……ちゃんと……宿題を……やろうと……しない……人が……居た……けれど……今年も……それなりに……居るのかな?」 「どうだろうねぇ」 「来年は……アーク……本部でなく……無人島で……脱走……できないように……した方が……いいかも」 アークの人は、にっこり笑った。 「あはは。とってもいい考えだね!」 戦い終わって日が暮れる。 遅くならないように小学生から順に帰されて、がらんとした会場。 (休憩時間が終わったなら、さて本番) エナーシアさんが立ち上がる。 (お掃除の時間なのだわ。……あの惨状からすると今年も忘れ物チェックからやらないと駄目そうだわねぇ ) お仕事、お疲れ様です。 リベリスタ諸君。 どうか、有意義な夏休みを! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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