● 「暑気払いなのだわ!」 薄い胸を張って宣言する『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)、正に夏の日差しのごとし。 明るく活気に満ちた声と笑顔がドヤウザイ。 つまり、夏の日差しの二重重ねである。何が言いたいかと言うと、要するに暑い。そしてウザイ。 合わせてドヤウザ暑い。 「ラ・ル・カーナの事もあって大変ですから、ちょっとした息抜きをしようって話になったんです」 もう帰ろうかなと思い始めたリベリスタ達を引き止めたのは、浴衣姿も涼やかな『運命オペレーター』天原・和泉(nBNE000024)の言葉だった。 ブリーフィングルームで見るには少し珍しい出で立ちに、目を奪われている様子のリベリスタも多い。 「そうそう! この暑い中本当皆ご苦労様なのよ! だからここで暑さのぶっ飛ぶような涼しいイベントをするのだわ!」 ――そう言うドヤ顔の梅子はと言えば、なぜか、どーいうわけか水着姿である。 ブリーフィングルームで見るにはかなり頭が痛いその服装に、眩暈を覚えるリベリスタも多い。 「で、具体的にどんなイベントをするんだ?」 気を取り直したリベリスタの一人が渋々ながらも確認をする。 話を聞く限り梅子は、態度のドヤ暑さはともかくとして、リベリスタ達を労おうとしてくれているらしい。そう考えれば無碍に帰るのも酷い話だろう。態度はウザ暑いが。 「聞きたい? 聞きたい? 聞きたいのね!? そうよね聞きたいわよねー! ふふーんそこまで言うなら教えてあげなくもないのだわ!!」 ……うぜぇ。 後悔とは後から悔やむ事なのだと、改めて思い知るリベリスタ達である。 「肝試し? ノン! 別に怖いわけじゃないけど! 海水浴? ノンノン! 時間がかかるのだわ! もっとお手軽かつ暑気払いの言葉に忠実! そして何より日本らしい和の心がギュギュっと詰まったイベント!」 無駄かつ際限なく上がって行くテンションを前にリベリスタ達は気付いた。 ああ、暑さにやられて何時も以上に梅子(と書いてバカと読む)になってるんだなこいつ。 警戒をよそに、 「納涼! 流し素麺大会なのだわ!!」 「…………いかん、思いの他無難で普通の内容だ」 こいつの状態はもしかしたら非常にやばいんじゃないだろうか、などという謎の不穏さを心に抱いた一部のリベリスタの心情はさて置き、自信満々な梅子の言葉に和泉が補足を添える。 「市内にあるプール施設の広場を借りているんです。だからプールで遊ぶ事も出来ますし、幾つか出店も集まってますから、ちょっとしたお祭り気分も楽しめるんですよ」 なるほど、何一つ和の心の要素の無い水着姿の梅子の出で立ちはそれが理由か。 リベリスタ達は大いに納得し――1秒と経たずに思い至る。 待て納得するな、会場にプールがあるからってこの場での告知に水着着てくる必要は無い。 「だ、だって待ちきれなかったのだわ……」 急にもじもじし始め、両手の人差し指を突き合わせて目を逸らす梅子。 今更恥ずかしそうに頬赤らめる位だったらやるなよ、なんてツッコミは彼女には聞こえない。 「ともかく! せっかく日本にいるのだから、日本の夏を満喫するのよ!」 夏パワー補正なのか、直ぐに復活して力強く宣言する梅子。 ウザいけど言っている事自体は別におかしくない、和泉も笑顔で頷く。 「私もそう思います。そう言えば梅子さんはもともと半分日本人なんですよね。 名前からして和の心が「梅子じゃないのだわ! プ・ラ・ム!」」 梅子がきーきーと喚きながら和泉の言葉を遮る。 「マイネームイズ、プラム・エインズワース!」 和の心どこいった。 既に頭を抱えて帰っている者もちらほら出てきたブリーフィングルームの中、『深謀浅慮』の自信満々の主張は、無駄に明るく暑く響き渡っているのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月02日(木)23:15 |
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● 降魔 刃紅郎は堂々と馬の歩を進める。躊躇ないその歩みは、三高平市民ならば見慣れたものだろう。 ――たとえそこがプール近くの出店だったり、彼の服装が浴衣にマントであったとしても。 「降魔の本家の馬鹿どもは出店など庭でやらせろと言っておったものだ。 市井にて人ごみに紛れ、庶民のように出店を廻るこの雰囲気を理解しようともせん。 ――いやぁこの庶民らしい安っぽい味がたまらぬなぁ?」 かぽ、かぽと軽快な足音を鳴らしながら、馬が、焼きそばや綿飴を食べる刃紅郎の刃紅郎の言葉に頷くように鼻を鳴らす。そしてもぐもぐと口を動かすと、リンゴ飴が刺さっていた割り箸をぷっとゴミ箱にシュートした。勿論、食べたのは馬である。 ……王様、馬が目立ちすぎてまったく市井にまぎれておられません!! 屋台の店主が心のなかで叫ぶことにも気が付かず、刃紅郎は『流しそうめん会場こちら』と書かれた張り紙に目を据えた。馬がぶるる、と首を振り、刃紅郎を見上げる。 「参加せんのかだと? 馬鹿を言うでない。余興は全て王を楽しませる為にあるもの。 彼奴らが我らを楽しませるのを腰を据え見届けようではないか」 どこか呆れたような素振りで、馬が再度鼻を鳴らした。 「え、食べていいんですか? この出店のもの? 全種類?」 「全部食っていいぞ、俺のおごりだ」 鷹揚に頷く武蔵・吾郎に、チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワは最初こそ萎縮していたものの、すぐに目を輝かせ始めた。 すぐさま出店のデータを片っ端から取得し、栄養情報や待ち時間、混雑状況等も含めた買い食いプランを考え始める。チャイカ。データな話が好きなあたりが大人びて見えて微笑ましいと、吾郎はチャイカを暖かく見守っている。 「まずは基本として油物、糖分の多いもの、粉物はなるべく最後にって全部当てはまるじゃないですかー! じゃあ量の観点から……」 どう回ったものかと、一所懸命に頭を巡らせている少女を見て、少し笑う。 「本当に大体当てはまるな。とりあえずかき氷でも食いながら、考えようぜ」 「はい! 計画が決まれば後は実食あるのみ!」 「夏祭りの定番と言えば出店巡りですよね。色々なお店を出ていますからまずは楽しみですよ」 食欲旺盛なリベリスタが多いため、三高平で出店があるときには、食べ物の店が喜ばれがちではある。 そんな中で、小鳥遊・茉莉はあえて金魚すくいから出店めぐりを始めることにしたらしい。 「見ているだけでも楽しいですが、ついつい買って食べたくなりますね」 茉莉の言葉に、石動 麻衣がええ、と頷いた。 「折角、出店が出ているのです。どうせなら、色々な物を買って食べたいですね。 特に――リンゴ飴やわたあめみたいなこんな時で無ければ食べれないもの。 もちろん、買いすぎには注意しないと。お財布にも厳しいですし、何より体重計が怖くなりますからね」 そう言って、麻衣と茉莉、二人の超童顔が顔を見合わせて笑う。 「そうめんも悪くはないが、量を考えれば出店の方がよいだろう。 ……というより、以前流しそうめんをした時に妾より後に流れるそうめんがなかったために、酷いクレームを受けたからな……」 少し遠い目をしたシェリー・D・モーガンは、出店の全制覇を目指して、右の端からすべての屋台に顔を出している。――三高平の誇る胃袋宇宙がまたひとり増えていた。 買い食いをするリベリスタたちを見ながら、高木・京一はふむ、と呟いた。 「どうせなら、屋台をお借りしてやってみたいですね。 ……出す出店は、焼きそばで。それも昔ながらのソース焼きそば。 やはり焼きそばを作る際に良い匂いを出すのは、ソースが鉄板で焼けて周りに立ち込めるときですね。 あの匂いと言うのはたまらないものです。ついつい気になってしまうものです」 見かけた焼きそば屋台でひとパックを買って、割り箸を割る。 ――夢が、焼きそばの匂いとともに広がっていく。 ● レンタルのビーチパラソルを広げ、リクライニングチェアを置き。アルフォンソ・フェルナンテは日光浴。フローズンダイキリを片手に、それをこよなく愛した文豪の著作を読みながら。 「大分熱くなってきたから、こういうのも風情があっていいわよね。でも……凄く非効率的だわ」 流しそうめんへの不満をひとりごち、非効率的な喧騒から離れたティアリア・フォン・シュッツヒェンはプールサイドに腰掛けて、足だけを水に浸す。 「うっかり下の方で待機してたら、上のほうに居る人が満腹になって離れるまで中々食べれないじゃない?凄く非効率的だわ。……でも一口だけ、そうめん食べたいわね。誰か持って来てくれないかしら」 それはちょっと、ずっこいです。 「くわぁー……! そんなじっと見られるのも、恥ずかしいよ……っ!」 また別のプールサイドで、翡翠 あひるの声が上がる。 ちらちら見るより、正面から見た方が、あひるも恥ずかしくないだろう! と焦燥院 フツが主張したことにより、なんだか甘酸っぱい光景になってしまっている。あひるも、フリルのふんだんにあしらわれた水着を着ているのは『ばすとあっぷ効果』を求めてのものらしく。脱ぐと(ぺったんこ的な意味で)すごいと自負のある彼女にとって、それは勇気の必要な選択だったのだろう。 「ウムウム、オレの自慢の彼女だ。最高にかわいいぜ」 「お返しに見返して……!!」 顔を真赤にしたあひるが、満面の笑顔を浮かべたフツの、トランクスタイプの水着姿を見返そうとするも。 (うぅ、笑顔が眩しくて、直視できない……かっこいい……。 フツのこんな格好、見る機会ないから……なんだかソワソワしちゃう……) ああもう、ごちそうさま――。 「夏と言えば。白い肌、青い唇、赤い熱中症――そう、プールね」 「わたしのプリンセスボディー披露なのですぅ ウフ~ン……って、あちゅい! 日焼けする!!」 もしかして水泳苦手なんだろうか、と思われるような宣言をしつつ、白の水着で源兵島 こじり参上。 こじりは焼け付く日差しを鬱陶しそうに手で遮って、色白の肌を護ろうとわたわたするロッテ・バックハウスに声をかけた。 「バックハウスさん、パラソル設置」 「そうですね、暑いからパラソル……ん!? こじり様が設置してくださいよぉ! パシリやだあああ!」 わめきながらもパラソル設置作業を始めるロッテ。なんだか状況的に、白雪姫というよりシンデレラという感じがしなくもない。 「夏だー! 暑いぞ! プールなのだ!! 私のビキニ姿! せくしー!」 「こじりさんこの間買った水着! かわいい~! やっぱ白も似合うね~!」 うっふんポーズでサービスショットな斎藤・なずなと、フリルな花柄のビキニの羽柴 壱也も合流し、女4人で合流――いわゆるひとつの「女子会」である。 「羽柴さんも、とても可愛いわね」 「本当!? わたしも可愛い!? うれし……え? なんで一部だけ見て可愛いって言うの?」 「ええ、水着じゃなくて、ええ、そう、胸が」 その無慈悲な言葉に胸元を軽く腕で隠し、ここは控えめなだけっ! と主張する壱也が慌てて周囲を見回し、目を輝かせてなずなに駆け寄ると、その腕を持ってぶんぶんと振り回した。 「なずなちゃん、頑張ろうね。何がとは言わない!」 「そうだな、ウォータースライダーで思いっきり滑ってもぽろりするものなど無いから大丈夫だ! な! 羽柴! って喧しいわああああ!!」 「大丈夫、小さくても需要はある、はず……! でも来年はっ……! 目指せたゆゆんっ……!」 「これからきっと大きくな……なる……なるんだもん!!」 二人の心に決意の火が灯る。――涙をさそう光景である。 「斎藤さんは暑いの、好きなんじゃない? いつも燃やす燃やすとばかり言っているし」 同じ決意を持ってもおかしくなさそうなこじりなのだが、特に今回気になる要素はないらしい。 「暑いのは嫌いじゃないけど暑すぎるのはお断りだ! でもこーやってプールに入れたりするのはちょっと楽しい! だから私は猛暑を許そう! 寛大な心で!! 遊泳施設を燃やすのも勘弁してやろう!!」 こじりに答えるなずなだが――公共施設を燃やすのは犯罪なので、最初から考慮しないで下さい。 「壱也様、後ろ日焼け止め塗ってあげますぅ! なずな様もこっち来てきて! 塗ってあげる~!」 パラソルの設置を終えたロッテが、二人を呼ぶ。 「ロッテちゃんありがと~! ……? なんかおかしな塗り方されてる気もしないでもない……」 壱也の背中には『哀』、なずなの背には、『肉』と日焼け跡が残るように、丁寧に塗り残される日焼け止め。 「――ロッテ! 日焼け止め塗る手付きが何かおかしくないか! ええい、お前の顔にもいたづらしてやるのだ!! おっぱいって書いてやるう!」 「まあまあ、なずなちゃん……ロッテちゃん、わたしも塗ってあっげるよ~!」 手にしているのが綺麗に焼くためのサンオイルだとは気が付かないまま、壱也はお礼をしようとする。 「わぁい! ありがとですー!」 あ、ロッテも気が付かなかった。 「――折角だし、ウォータースライダーでも行ってみない?」 「行こうスライダー! ポロリしないよう気をつけてね!」 「そうだな、ウォータースライダーで思いっきり滑っても……ってさっきも言ったわあああ!!」 「しっかりストレッチして……ウォータースライダー、4人並んですべりましょ~!」 こじりの誘いに壱也が真っ先に賛同し、なずながノリツッコミを入れた上で、ロッテが3人の背中を押す。 「夏の思い出、楽しいのですぅ!」 「いえーい! 梅子梅子! お前泳げるの?」 「プラムなのだわ! って、泳ぐのは、そ、そりゃあ……」 始まる前にひと泳ぎ、とでも思ったのかプール上を飛び始めた梅子を、御厨・夏栖斗が呼び止めた。 「よし! 泳げるなら競争しようぜ!」 「ほう。勝った方が負けた方に飲み物をおごるという条件ならどうだ?」 「勝ったほうがおごるの!? 負ける気がしないということー!?」 全力で泳いでいたディートリッヒ・ファーレンハイトがそれを聞きつけ、混ざりこんで来た。言い出した賭けの内容に、おもわず突っ込みながらぐぬぬと唸る梅子。――その実、勝とうが負けようが梅子にはジュースをおごるつもりのディートリッヒである。 「ええいわかったのだわ、その勝負受けて立つのだわ、勝ってみせるんだから!」 じゃぶん、と水の中に身を躍らせた梅子を見て、夏栖斗が言葉の爆弾を投げ込んだ。 「ところでおっぱい小さいね。なんで、双子なのにそんなにボディラインは別人なの?」 ………………ぶくぶくぶく。 「ちょっと待って梅子沈んでる! 沈んでる!! 浮上しろー!?」 フェイトの危険(しろいあくまによる)を激しく感じた夏栖斗が、慌てて梅子を引き上げに潜る。 「いや! 正直な意見だろ! 安心しろ! そういう薄いおっぱいが好きな子っていっぱいいると思うよ!」 ぶすくれた表情の梅子は泳げないわけではなく、膝を抱えてわざと潜水したらしい。僕は巨乳派だけど! と余計な一言を付け足した夏栖斗に、鼻から上だけ水から出した梅子がじとりとした目を向ける。それあんたの彼女の前で言ってみたらどうなの、と言いたげな表情に、夏栖斗が気付いたかどうかは別の問題なのだが。 「いやっぁほーーー! 夏と言えば水遊び! 今年もプラムちゃんの水着姿が見られるなんてオレはなんて幸せなんだ! そして今年こそはプラムちゃんの可憐な水着姿を写真におさめてやるぜ!」 カメラを構えたカルナス・レインフォードが、梅子を見つけてテンション高く手を振った。 「暑い日はやっぱり水遊びだよな? それに食べた後はしっかり運動しないと太っちゃうぞー! だから一緒にプールで遊ぼうぜ~、ビーチボールも貸し出してくれるみたいだし水中バレーといこうじゃないか!」 「水中バレーか……」 「あっと、その前にそのセクシーでビューティフルな姿を一枚撮らせてくれないか? プラムちゃんの美を後世に伝えるためにも頼むよ! いや、正直に言うとオレが一番欲しいのでどうかお願いします!」 梅子が少し逡巡した隙に、畳み掛けるように写真撮影を要請しながら流れるような動作で土下座を見せるカルナス。写真くらいなら別に、と言いかけた梅子が思わず動揺した、その瞬間。 「プラム・エインズワース(笑)!! 貴様に決闘を申し込むー♪」 ざばん、とラリアットするかのように烏頭森・ハガル・エーデルワイスが梅子に突撃をかました。 「ご、ごぼがべがぼっ!?」 「梅子沈んでる! 沈んでるって!!」 「ウォータースライダー、こんな高いのね。ちょっとだけ、怖い……」 一番長いスライダーであひるが呟いた言葉を聞き、フツが後ろからしっかり抱きしめるように腕を回した。 「これなら怖くねえだろ、ウム」 「フツ、あひるの事、離しちゃだめよ……! しっかり、捕まえててね……!」 そして二人は水の流れに身を躍らせ――やがて、プールへと滑り落ちた。 「ぷはー! 滑ってる時も楽しいが、この、バシャーンってなった時も楽しいな」 「心臓バクバク……! スリリングなのもあるけど、フツと触れ合ってたから、こんなにもドキドキするのかも……なんて」 「ああ、滑り降りた衝撃で、水着がちょっちズレてるぜ。……なんつってな、冗談だ、ウヒヒ」 ちょっと甘えてみせるあひるに、フツが一瞬だけ表情を変え――慌てる恋人を見て、破顔する。 「もうっ、嘘ついたわね? フツの、えっちっ……! フツだって、水着脱げてる……!」 「なんっ!?」 「嘘だよ、えへへっ」 舌をちょっと出して、笑うあひる。 その後ろ、スライダーの水が合流していく流れるプールを、救命胴衣を着用し水の流れに身を任せ、ぷかりぷかりと劉・星龍が流れていく。 ● 真夏の太陽が起こす陽炎に、負けじと上がる、素麺を茹でる湯気。 引き上げられた手延の丸い断面が、箸に絡んで顕になる。 ――素麺というものの歴史は、西暦より古いと言われている。今や機械で作られることも多くなったこの乾麺の素晴らしいところは、夏バテで食欲がなくなった胃にも受け付けやすいということだろう。この麺に、まさかのエンターテイメント性を加えたものが、流しそうめんである。普段は食べ物で遊ぶと怒られるというのに、このときばかりは子供おおはしゃぎ解禁である。割ったばかりの青竹の臭い、そのくりぬいたばかりの節を、水の流れに身を任せ、時折何か予想もしない箇所に引っかかりながら滑るように流れてくる素麺の白い塊。箸でうまくつかめないことがこれほど楽しいことだと思わせる行事が他にあろうか、いや、ない(偏見)。 閑話休題。 ともかく三高平にて、どこかのお調子者が騒ぎ立てて企画した、流しそうめんが始まろうとしていた。 ● 設楽 悠里の指差す先では、ホースが水を流し出している。 それは竹を流れ、節で跳ねて飛沫を作り、彼らの目の前を流れていく。 「……つまり、この竹をソーメンが流れてくるから、それをお箸で取ってめんつゆに付けて食べるんだよ」 片手に箸を、もう片手にはめんつゆの入った器を手にしたルカルカ・アンダーテイカーは、わかっているのかわかっていないのかよくわからないいつもの顔でふんふんと頷く。 「なるほど、竹を流れてくるのか。 俺はてっきりプールにそうめんが流れているのかと思って、衛生上問題がありそうだと思っていた」 「そいつはちょっと、ノーサンキューだな……」 まだまだ勉強不足だな、と自分に言い聞かせたレン・カークランドに、伸暁がツッコミを入れつつ割り箸を軽く咥え、片手を添えて綺麗に割ってみせる。ルカルカも、伸暁を真似て割った。 流しそうめんの最下流、プールサイドの排水溝に向けられた場所には麺が落ちない為のザルが設置されていたが、 「HAHAHA! さぁみんな思う存分食べるんだよっ!!」 ここで逃したらもう落ちるだけという場所に陣取った丸田 富子の、包容力に溢れた笑顔がそこにあった。 数人のリベリスタが彼女へ向けて一斉にサムズアップし、輝くような笑顔でお富さんもそれを返す。 「浴衣、似合ってるよ。白、涼しげでいいよね。――今年も和泉さんの浴衣姿に会えて良かった」 昨夏に和泉を花火へと連れだしたことを思い返しながら、新田・快が自家製の梅酒を和泉に勧める。 「和泉さんも二十歳になったんだし、良かったら涼をとるのにロックで、どう? お酒ダメなら、自家製の梅ジュースがあるよ。」 「――ふふ、じゃあお言葉に甘えて、ジュースで。まだ仕事が残っているものですから」 和泉は結い髪の飾りを揺らしながら、眼鏡の奥の目を細めて笑みを浮かべる。 ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァが、何やら感慨深気な表情で竹のレーンを眺める。 「流しそうめんか……和の心だな……」 純粋なロシア人にしてシベリアンハスキーなベルカだが、長い日本暮らしの間に和の文化にすっかり馴染んでいる。彼女の教育担当官が純和風な黒柴ビーストハーフ、K教官だったことの影響が大きいのだそうだ。 「彼は良く言っていたよ……。『Q:好みのタイプは?』『A:味噌汁にすれば大体イケる』。 男らしいなあ、教官……。ああ、そうめんも味噌汁につけて喰えばさらに美味いのかなあ……? うへへ、暑いなあ……」 オーバーヒートなう。 ――心は和風に馴染んでも、寒冷地向けの体と脳は暑さに耐えられなかったらしい。 「私、流しそうめんって初めてです。 高速で流れるそうめんをかけた熱い争奪戦……私の腕の見せ所、ですね」 なにやら盛大な勘違いを披露しながら闘志を燃やす、甚平姿のレイチェル・ガーネット。その背後に彼女の兄の飄々とした笑顔を見たような気がして、浴衣姿の翡翠 夜鷹は指を軽く顎に当て、 「レイ、油断してはダメだよ。たまに、もの凄い勢いで流れてくるからね」 ――そのいたずらに乗ることにしたらしい。 「ええっ!? ……わかりました、頑張ります!」 一瞬困惑した後、力強く頷くレイチェルの様子に、夜鷹は唇の端を上げる。 (このまま勘違いさせておくのも可愛い。ふふふ、嘘か本当か分からなくて迷っているレイは可愛いな) 「ゆりこさんの浴衣姿、とってもキレイ! 大人のオンナってカンジで、超セクシー♪」 五十嵐 真独楽が、母のように慕う深町・由利子のよく似合った浴衣姿に拍手する。 高めの位置で結わえた髪は、流しそうめんの邪魔にならず、さらにはうなじの魔力を魅せつけてくる。 「まこ、浴衣って初めてなんだけど……ヘンじゃないかなぁ?」 少しはにかんでいた由利子だったが、真独楽の、自分の姿を気にする言葉に目を丸くした。 「浴衣着るのは初めてなの? ……なんて勿体無い。よく似合ってるわよ」 お転婆なお嬢さん(?)の、少し乱れた着付けを直してやりながら、由利子は真独楽の浴衣姿を絶賛する。 真独楽の浴衣は、白地にピンクの撫子柄、帯は色合いの違うピンクで、ビーズの付いた兵児帯が涼やかに揺れる。 「えへへ、ありがとっ。――こんな格好だからって気は抜けないよね。 しっかり食べなきゃ! ピンクの麺あるかなぁ? ぜ~んぶ集めるの!」 「さあ、まこちゃん……私達の女子力、見せ付けてあげましょうね!」 ぐ、と気合を入れて箸を握る真独楽。由利子は良い場所がないかと周囲を見渡しながら、義手の手首側を開いてマイチョップスティック(!?)を装備した。 「霧島ちゃん流すのは禁止なんだってー残念」 「いや常識的に俺は流さんといて!」 どこまで本気かわからない熾喜多 葬識の言葉に、霧島 俊介は全力でツッコミを入れる。 「太陽が最強なキャッキャッウフフな夏に、なんと、男と一緒……まあいいか」 「夏だよね~夏らしいよねぇ~、でもさー夏って暑いのしんどいよね~」 何やらがっくりと肩を落とした俊介に葬識がだらだらとした世間話を続けていると、俊介が突然はじけた。 「オッキー!!! いやっほうう! この暑い真夏に殺人鬼をお供にソーメンいやっほギャッ!!! なんか突如鼻血止まらん!」 「暑苦しいよね、霧島ちゃん」 血で使い物にならなくなった箸(原因:俊介の鼻に突っ込まれた)を、どうしようかと弄びながら、葬識が上流を見遣った。 「っていうか流れてこないよね~。 誰? 優しさを求めて下流にしたの、優しさなんて流れてこないじゃない」 「ほんとだ、全く流れてこないな! 流れてこないソーメンとか、何が楽しいって言うんだ。俺は下流でおとなしく食ってたいだけなのに!」 もう始まっているはずなのに、何故か全く流れてこないそうめんに、俊介も怪訝そうな表情を浮かべる。 「もういいから霧島ちゃん流れなよ~あとついでに首いいかげん切らせてよ」 「ごめんなさい流さないでくださいトイレ流すくらいに軽く流さないでくださいあと首はだめだっての!」 騒ぐ俊介たちを見ながら、富子は優しい笑みをたたえたまま呟く。 「あの子はほんとに変わっちゃぁいない。そう……出会った時から何も変わっちゃいないからねぇ」 「なんでさっぱり流れてこないのー!!」 「ユーリ、そうめんが流れてこないぞ。まだ始まってもいないのか?」 「確かに全然流れて来ないな……」 徐々に不満の湧き上がり始めた下流。箸を折りそうなほど強く握って騒ぎ立てる梅子を前に、エナーシア・ガトリングが大きく頷き、立ち上がった。 「アークのイベント、特に食べ物関連はある3つの単語で表せるのだわ。 即ち『先手必勝』 『弱肉強食』 『死して屍拾う者なし』。 故に流し素麺なんて行ったのならば結果は火を見るよりも明らかよね。 ――麺は下流まで流れてこない」 エナーシアの横に四条・理央が、カセットコンロと寸胴鍋、大きなザルを、よいしょとばかりに置く。 「これは予想されていた事態。だからムギャオーしてなくても大丈夫なのだわ、梅子さん。 ――これより流し素麺第二発着場、可動を開始するのだわ!」 おおお、と。エナーシアの声の届く限りの、下流に構えたリベリスタからどよめきと拍手が起きる。 「でかした! これであたしもいっぱい食べられ――」 「梅子ちゃん、夏とはいえ、食べ過ぎは大敵だし、食べ過ぎてたらそのままジムなりプールに連行して一緒に追加運動だよ」 「ひっ!?」 理央の刺した釘に、梅子の脳内を過るビリーでブートなキャンプの映像。 「またダイエットしなきゃと騒ぐ前にスタイル維持しようねー」 「ううっ、恐るべしなのだわ、炭水化物……!」 歯噛みしながら、妥協点を探したのか羽を動かしつつ、流れてきた麺を箸で掴もうとする梅子であった。 ところで、例え下流までそうめんが行き届くようになったところで、上流でそうめんが消えていることには変わりがないわけである。 悠里とレンはきょろきょろと周囲を見回し――そして。 「あれは……ルカちゃん?」 「と、アルトリア……か?」 二人が見つけたのは、最上流でどんどこ食べ続けるアルトリア・ロード・バルトロメイと、どんぐりを頬張るリス状態のルカルカのふたりであった。 「うむ、ひんやりとしていて、しかもさっぱりと美味い」 満足そうに食べ続けるアルトリアが、しかし流れるそうめんの全てを取り切っているわけではなく。 「ひい? ふあがひしょーへんはひゃひゃかいひょ、あまへひゃものからひんれいくのひょ」 (訳:いい? 流しそうめんは戦いよ、甘えたものから死んでいくのよ) 問題はルカルカであった。 「ふふふ……僕は前回ルカちゃんと花火に行って学んだよ……」 「どこに行くんだ?」 含み笑いを浮かべて歩き始めた悠里の背に、レンは声をかける。 「(もぐもぐ、ごくん)――設楽とレンに与えるソーメンはこの世にはないのよ。 ……なによ、なんでルカをもちあげるの? 設楽セクハラよ! 訴えてやる」 「話を聞かないルカちゃんには! 実・力・行・使!」 レンは見た。キラキラとした笑顔でルカルカの腰を掴んだ悠里が、「え~い☆」というキラッ☆な感じの掛け声とともに、もぐもぐ羊をプールの真ん中に放り込む瞬間を。 「何が起きたのだ?」 ようやく顔を上げたアルトリアが、すぐ横のスタッフ(そうめん流す係)に声をかけて、事情を聞く。 「――なるほど。レーン自体を増やせばいいと思うが、それはそれで問題か。 使う水の量が倍に増えるしな。なら流す量を増やせば……詰まるか。それに取りづらくなるのだな。 中々難しいものだ」 やれやれと首をふるアルトリアに、君も一因だと突っ込む勇気は、スタッフにはなかったという。 (やばい、ルカ羊だから羊かきってないからおぼれるのよ。水着なんて伊達水着にきまってるじゃない) 哀れ羊はぶくぶく沈む。 ● 「夏の定番の食べ物である素麺は大好きですよ。流し素麺にすることで更に暑さを忘れるようにする工夫。 ――するすると食べれて喉越しが良いからついつい食べ過ぎちゃいそうです」 村上 真琴が、摩り下ろした生姜に葱、ゴマ、ミョウガを入れためんつゆを手にしながら、箸を動かす。 「涼を求める工夫としては良いですね」 真琴の言葉に頷いた浅倉 貴志が、「さっきは七味でしたから……」と、新しいめんつゆにおろし生姜と葱を入れる。様々な薬味を加えることで表情を変えていくそうめんの味を楽しんでいるようだ。 「ふむ、そうめんですか。時期に合っていて良いですね。 ……梅子さんは結構食べ物を引っ張ってきてくれるので好きです」 スーパー特売品(98円)のチューブしょうがを絞りながら、リーゼロット・グランシールが何やら頷いてみせる。その後方で、赤ら顔の藤倉 隆明が箸ではないところに四苦八苦していた。 「ああ! くそっ! うまく食えねぇ!!」 ガスマスクの上からそうめんを食べようとしている姿は、どうみても酔っ払いです本当にありが(略)。 「お、あそこにいるのは。こんにちは、プラムじょ……」 そこまで言って沈黙した天風・亘の脳内状況。イエース、水着グッジョブ! 「? 亘じゃない。どしたの?」 「おっと、申し訳ない。ふふ、いつもそうですが今日は更にエレガント&キュートですねプラム嬢」 疑問符を浮かべて首を傾げた梅子に、亘は慌てて取り繕ってみせる。 「ふふーん! 当たり前なのだわ、あたしはいつでもコケティッシュな小悪魔系よ!」 水着の胸(ないに等しい)を張りながら、梅子の笑顔はどやうざい。 「宜しければ一緒に流し素麺をしませんか?」 「あんたも? いいわよ」 「懐かしいですね、流しそうめん」 あっさりとOKした梅子の隣で、紺色のスクール水着(旧々デザイン)を着た一条・永が流れてきたそうめんをすくいながら笑う。 「プールの運営様も粋なことをなさいます。 夏の日差しの下、流れて箸に掛かるそうめんに子供達が一喜一憂する――今の子達はもっと別の娯楽に行ってしまうものかと思っておりましたが、まだまだ捨てたものではないのですね」 永の言葉に梅子は力強く頷きながら、そうめんをすする。勢いが強すぎてめんつゆが飛び散り、梅子自身の水着を汚すが特に気にしていない、というか気がついていない。 「みんな、どんな遊びだってやってみたいと思ってるものなのだわ。 だったら思いついたはしからどんどんやってみるってのも、楽しそうだと思わない?」 楽しそうなリベリスタたちの様子を見ながら、梅子は嬉しそうに語る。 「かなり前にうどんを食べた事ならあるのですが、こんな風に流れていると何だか涼しげです」 リリ・シュヴァイヤーのシスター服に、水しぶきが時々はねる。二本の棒に悪戦苦闘するリリを見て、彼女に流しそうめんという文化を知ってもらいたくてデートに誘ったという李 腕鍛の、頬の虎ヒゲがぴこぴこと揺れる。 「……リリ殿箸に慣れていないのでござるな。 ペン握るみたいに1本持って、それであとはこの箸をここにとあとは文字書く時みたいにすれば大丈夫だと思うでござるが? どうでござる?」 しばらく、持ち方に挑戦したリリであったが、やがてゆっくりと首を左右に振った。 「ええと……やっぱり駄目でした……腕鍛様は器用でいらっしゃるのですね」 「ふむ……」 腕鍛はひとつ唸ると、流れてきた麺をひょいとすくい、つゆに付けて。 「はい、あーん」 「え? 有難うございます……頂きます」 リリは目を瞬いてから、あーん、に従う。 「冷たくて美味しいです。これなら食欲の無い時も食べられそうですね。 ……腕鍛様と一緒だから美味しいのかも知れません」 「にははは、可愛いでござるな。 箸をちゃんと使えるようになったら拙者の作った中華料理を食べさせてあげるでござるよ」 後半の言葉が聞こえたのか聞こえていないのか、『女好き』はにっかりと笑う。 「はい、ちゃんとお箸を使えるようになったら、是非お料理ご馳走して下さい。 私も今度何かご馳走します。今はカレーぐらいしか作れないのですが……」 そう言いながら、リリは、あることに思い至ってしまった。 (先程の、もしかして、もしかしなくても、口を付けたお箸を……!) 赤くなって黙り込んだリリの様子に、腕鍛が首を傾げた。 「白ゴマとかねぎはどうするでござる? それとも、生姜の方が良いでござるか?」 「こう広い場所で流すそうめんを捕らえるのはちょっと楽しそうかも」 「流しそうめんは初めてですけど、楽しみですね」 ルーメリア・ブラン・リュミエールを誘った伊呂波 壱和が、持参した薬味などを広げ始める。 しょうがにわさび、チェリー。水筒に入れた麦茶、カレー。 「カレー!?」 「カレーも持って来ました」 胸を張る壱和に、つゆに氷を入れていたルーメリアが驚愕の声を上げる。 「いや、カレー好きな人達の真似しなくてもいいんだよ!? そうめんにカレーをつけて食べるわけにもいかないの……」 ……案外美味しいかも知れな、いや、カレーが薄まってしまうしやっぱないな、うん。 「ルメは色つきそうめんが欲しい……見えた、とりゃあ! ……とりゃあ! ……なかなかやるじゃないか、このそうめん…!」 気を取り直して流れてきたそうめんに向かうルーメリアだが、その箸は空振り。 「思ったより取りにくいですね。根気よくチャレンジです」 壱和も同じく、あっという間に流れていくそうめんに向き直り、真剣な目を向ける。 「えいっ、取れた! ……あ。何か得した気分になりますね」 気合とともに繰り出した箸ですくった麺の中に混じる、一本の色付きに壱和は目を細めた。 「はい、どうぞ。あーんです」 「あ、伊呂波さん、色つきくれるの? ありがと♪ あーん!」 素直に口を開けるルーメリアに、くすりと笑う壱和。 「……ゆっくりですね、それに皆さんほのぼの。OK、私騙されてました?」 レイチェルがようやく兄の策略()に気がついた頃には、流しそうめんは滞りなく皆に行き渡り始めていた。 兄への仕返しは帰ってからとしても、ここぞとばかり一緒になって騙してみせた夜鷹には、今お返しのイタズラをするぐらいは許されるだろう。 拗ねたふりをしつつ、竹と夜鷹の体の間に割り込んで、流しそうめんを取る邪魔をしてみせる。 「ぜんぶ私が取っちゃいます」 「レイは食いしん坊さんだね。でも、俺の分は?」 レイチェルのむくれた頬をぷにぷにしながら、夜鷹が声をかける。 「ふふ、欲しいですか? だったらはい、あーん」 「おや? レイが食べさせてくれるのかい? 嬉しいね。あーん……つゆには漬けてくれないのか?!」 「イジワルなひとにはお返しです」 地味にきつい復讐! 「うひょー! イヴたん今日もかわいいよおお!」 そろそろまたイヴたんをかまっていい頃だろう! という謎の宣言を上げた結城 竜一は、ぺたりとイヴの周囲から離れようとしない。 「……暑い……」 「ほらほらイヴたん! そうめん流れてきたよ! キャッチキャッチ!」 「……暑苦しい……」 「え? なに? 流れて取れない? 任せて! 俺がイヴたんの手をぎゅーっと握って一緒にとってあげるよ!」 「それはいらない」 「ええっ!?」 暑さに負けて些かぼーっとしていたイヴに、しかしきっぱりと断られた竜一、『orz』状態。 「そうめん、少し飽きてきたから」 見かねたのか、イヴが言い訳めいた言葉を続ける――と、竜一は目を輝かせて立ち上がった。 「出店でいろいろ買ってくるよ! まかせて! 全部、俺が食べさせてあげるよ!」 「…………」 イヴは遠い空を見上げた。 青くて澄んで、入道雲ひとつ見当たらない。突然の雨による中断とかは、見込めそうもなかった。 ● 「ちょっとした夏の思い出に、なったか?」 吾郎は満腹感で眠気に誘われ始めたチャイカに聞いてみる。 「楽しかったですよ、出店制覇!」 「また誘ってやるからその時はどこか行こうぜ」 チャイカはその言葉に、嬉しそうに笑う。 「ん」 カメラのデータ残量を、エリス・トワイニングは確認する。 今日一日で多くの人の写真を撮ったものだ。 「みんな……楽しそうだった……」 ぱしゃり。 最後に一枚、彼女は無人となった竹のレーンに向けて、シャッターを下ろした。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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