●進撃 ――月は三つ。 それはリベリスタらの世界からすれば明らかな異質なれど、完全世界たるラ・ル・カーナでは当然の景色であった。“異世界は異世界”と言うことか。 されど今宵はそれとは別の意味で様子がおかしい。 月が三つあろうが、どうだろうが構いはしないが――気配がする。 血を求める、野蛮な気配だ。 「フ、ハハハハハ! 進撃せよ、進撃せよ! 進めィ!」 橋頭保より少々離れた地点。 そこに、鼻先の尖った大鰐の様な巨獣に乗り、平地を突き進むバイデン達の姿があった。巨獣の体長は三十メートルを超えており、十のバイデン全てをその背に乗せている。進む先の目標は無論、 「見えたぞ……アレが、アレが我らの闘争の相手! 同族を退けるだけの力を持つ下等種族どもの住処だ!」 リベリスタらの建設した橋頭保だ。 巨獣の歩みはゆっくりと、だが決して止まる事の無い強さを持って橋頭保へと向かっている。 「城など、拠点など小賢しい! 突破せよ! 突き崩せ! 蹂躙せよ! あんなモノ我らに掛ればフュリエ共の柔肌にも劣ると見せつけてやるが良い!」 そして巨獣に乗る一際大きなバイデン――恐らくはこの一団のリーダーだろうか。少々“老練”と言ったイメージを他者に与える、そんな姿のバイデンだ。 長槍片手に橋頭保を指し示せば、同時に巨獣の頭を足で踏みつけ催促する。 ――走れ、進め、あそこまで“衝突”するまで駆け抜けよ。 「勝利を捧げよ! 闘いこそが我らの誉れ! さぁ行くぞ戦士達――開戦だァ!」 鬨が挙がる。 迫る戦の匂いに触発され士気は高く、いずれのバイデンもが待ち侘びる。 さぁ、早く己が役目を賭させろと。 ●迎撃 「おいおいマジかよ……!」 慌ただしく動く橋頭保内にて、遠くに巨獣の姿が見えた。 逆に言えば視認できる位置まで来ているのだ。まずい、このままでは、 「アレと激突するぞ! やべぇ、止めろ! 早く!」 叫ぶ。叫ぶ。 冗談では無い、あんなモノがぶち当たる事になれば防壁とてどうなるか分からない。ここを突破されれば自分達の世界、ボトムチャンネルにも雪崩れ込まれる可能性もある。 いやそれ以前に連中は正気なのか。隠れる気も無く防備の整った拠点への総攻撃。 持てる力全てを出して、とにかく殴る為だけに来ると言うのか。闘争の為に。あり得ない、なんだあれは特攻と同じではないか。そうまでして戦いたいのか。 「――神風だ! 真っすぐ突撃してくるぞ! なんとしても止めろぉ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月29日(日)23:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●開戦 ざわめきは各地にて。数多の激突が繰り広げられている。 それは間もなくここも例外では無くなる。遠目に見える巨獣を『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は見据えて、 「来るわね。全く、どういう環境で育てばあんな生態になるんだか……」 ため息一つ。 見える巨獣は鰐に見えるが、先端が明らかに鋭い。異世界の生物と思えばその形の理由などそれで終わりだが……全ての生物には現在の形である理由は存在する。 それは進化であったり適応であったりあるいは退化であったり――いずれの理由であのような形状を得るに至ったのか興味はあるが、今はそれどころでは無い。 「くっ……大は小を兼ねるって言うけれど……なんでもかんでもおっきければ良いってもんでも無いのよ! そんなにデカい方が良いか――! あ、いや、その、別に他意は無いけれど!」 「ちーちゃん! ちーちゃん! 闘う前から自爆はいけないと思うの! あとそれ余波で私にも誤爆が……あ、いや、私もべ、別に他意は無いけれど……」 『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)と『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)の両名が何故か戦う前から心が痛い。止めるんだ、胸は関係ないだろ胸は! 「さてまぁ――橋頭保に近付かれる前に倒せれば一番幸いなんですけどねぇ」 気を取り直して『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)が背後の橋頭保を一度だけ振り返れば、この戦いの目的を思い起こす。 護らねばならない。ここに彼らを近付けさせるわけにはいかないのだ。 故に――往く。 バイデンを迎撃する為に、リベリスタ達は近付いて来る巨獣の方へと駆け抜け始めるのだ。その一番手を切るのは、 「――蜂須賀示現流、蜂須賀 冴」 身を低くしながら名乗りを上げる『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)だ。 地を蹴り、勢いを付けて彼女は己が身に闘気を漲らせる。 そのまま愛刀に力を集中させ巨獣に真正面から対抗すれば、 「参ります……!」 言葉と共に刀を振り下ろした。 直後に衝撃が鳴り響く。マトモに直撃したのだろう。鰐の身が停止し、さらには五メートル程後退する事と成った。 ――が、逆に言うとそれが限度だった。ノックバックの効果を見越した一撃は本来期待できるであろう距離の半分か、あるいはそれ以下の効果しか得られない。流石に相手の体が巨体すぎるが故の事態だろう。 「ま、全然効かないよりはマシですね。 一度では駄目でも数度当てれば――それで宜しい」 巨大なまんぼう――の様な薄い剣を携えて雪白 桐(BNE000185)が回り込むは巨獣の真横だ。正面より相対するは危険が大きすぎると判断しての事であり、狙うは足。 肉体の制限など知った事では無いとばかりに強化を施せば駆ける。 「ふッ――!」 軽く息を吸い、呼吸を止めて剣で薙ぐ。 さすれば音が響いた。金属と硬い“何か”が当たる音だ。甲高い音を響かせて、その後には重き“何か”が地を引き摺る音が続く。巨獣が横へと“ずらされた”のだ。 「やれやれ、こんな巨大な物をぶつけられては防御壁と言えどたまりませんね」 『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)は巨獣の動きに並走しつつ、頭上に魔力を集中させる。 実際に近付いてみて感じるシュトルムボックの巨大さ。あぁ、これは駄目だ。こんな物をぶつけさせる訳にはいかない。まさしく生きる破城鎚と言えよう。 故に、 「早々に撃破させて頂きます」 頭上の魔力を黒き鎌として具現化させる。右手で掴み取り、即座に円弧の動きを作れば、巨獣の外皮を切り裂いて血が噴出。さらにもう一撃叩き込めば傷口に深くめり込んだ。 「言っても通じないでしょうけれど……えぇ、ここから先には進ませないわ」 さらに『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)が続く。 揚羽蝶の形状を持つ投刃――それを一本、掌の中で遊ぶように回しながら、 「譲る訳にはいかないのよ。 闘い狂いの貴方達にここを、二つの世界の架け橋と成る場所を奪わせてなる物ですか」 腕を鞭の様に振るって投擲した。 そのまま連続させる。二本、三本、四本、五本――目に映る全てを捉えて穿たんと投擲を止めない。空に鋭い線を刻みながら、一本たりと余すこと無くバイデン達へと注ぎこんだ。 だから、 『――ォォォオオオ!!』 雄叫びと共に赤き蛮族が迎撃せんと巨獣より降りてくるのだ。 ●激闘 アウドランは血の滾りを感じていた。 目の前に闘争の相手が居るのだ。直ぐにでも血に塗れる狂乱の戦闘に入れるのだ。 闘いに明け暮れるバイデンとして――これ程嬉しい事があるだろうか。 『さぁ往くぞ同族諸君ッ!! 小賢しい連中を叩き伏せてやるがいい!』 おおッ、と同意の声を張り上げる斧を持ったバイデン達。 弓を持つ者達は巨獣からは下りず、そこから援護する形らしい。降りたのは五体の斧兵とアウドランの合計六体。それら全て戦意高き戦闘狂である。 「ここは通さないよ!」 止めに入るはルアだ。 抜かせない。巨獣を止める為のメンバーには絶対に近寄らせない。ここで敵を止める事が出来ればそれだけ味方が楽になる。それに、 ……仲間を信じてるッ! だから、とばかりに動く。斧を持つ敵に先んじて斬り込むのだ。 踏み込んで、速度に身を任せて連撃へと繋げれば斧の注意を惹きつける。 「巨獣を狙うならなるべく下、外皮の薄い所を狙いなさい! 取り巻きはこちらで片付けるわ……!」 対物ライフル――などという凶悪な物を構え、エナーシアは声を張り上げた。内容は巨獣を見据え、解析した結果である。先程は姿が見えているとはいえ距離があり、夜だった事もあって分かりにくかったが、接近すれば容易かった。 そして放つ。降りてきたバイデンを狙いに捉えて穿たんと、弾幕をもって薙ぎ払うのだ。 『――!』 されどバイデンが吠える。 足りぬ、足りぬと。もっと痛みを、もっと闘争の空気を感じさせよと。 斧を構えて。 斧を振りかぶり。 斧を振り下ろす。 単純な、実に単純なその動きをバイデン達は己が腕力で確かな一撃とする。 「ッ! ま、ったく、時間を取られる訳にはいかないと言うのに……!」 攻を捌いて五月は拳を叩き込む。 先にも述べたように橋頭保に近付かれる前に巨獣を倒せるのが一番なのだが、バイデン達の所為でそう簡単には行かない。巨獣と並走しつつも、拳の行先は巨獣ならず。バイデンだ。 「ですが――他の雑魚と違い、貴方を倒せば“コレ”に命令出来る人はいないのでしょう?」 走りながら桐が紡ぐはアウドランへと、だ。コレと視線を移すは巨獣の横腹である。 確かに居ない。巨獣シュトルムボックへと指示を出せるのはアウドランのみなのは間違いない。つまり、 「死んでいただくのが手っ取り早いって事ですよ、ねッ」 中指を思いっきり立てて挑発の構えだ。 言語はおろか文化まで違う異世界で挑発に繋がるかは微妙な所だったが、ニュアンスは伝わったのだろう。アウドランの表情に僅かだが憤りの感情が張り付いて。 『――フンッ!』 槍が来た。 骨の、しかし鋭い刃としても使用可能なソレが突き込まれてくる。 故に判断は瞬時。槍の間合いに入る為に恐れず桐は踏み込んで、 「……ッ、ぉ、ぉおおお!」 まんぼう君……もとい、剣を槍とぶつけて逸らす。 脇腹に激痛が走った。軌道を逸らしたものの、完全には回避する事は難しかったようだ。 されどこの程度ならば予想の範囲内。踏み込みは止めず、そのまま接近し電撃と共に叩き込んだ。 炸裂する。 「あんたの相手はわたし! 遠くばっかり見てないで、近くを見たらどうなのかなッ!」 壱也も駆けながら、斧に一体意識を集中する。 後衛に近付けさせるつもりは無い。さらには効率的にも倒したい。ならばどうすればいいのか。 考えた結果が、 「これだ、よ!」 大剣を振るえば斧兵は衝撃で、背後へと吹き飛ばされる。 それだけならダメージを除いて大したことは無いが――飛ばされた先が問題だった。 『ガ、アアアアアッ!?』 巨獣が轢いたのだ。シュトルムボックの進行ルート上へと無理やり押し込めばこうなる事は自明の理である。狙ってやるのは巨獣の位置とタイミングが重要と成り難しいものの、決して不可能ではない。 「ではここで、確実に潰しておきましょうか……斬り裂け鬼丸ッ!」 そして巨獣に踏まれたバイデンを見逃さない。 納めた刀を鞘走りで引き抜けば、冴が一刀の元に斬り伏せた。バイデンの血が舞うも彼女は頓着しない。それよりも次のバイデンに集中して撃破すべしという思考に切り替えれば、またすぐに地を蹴った。 「降りて来ていただけたなら結構。須らく撃てる絶好の機会」 「さぁ勝負よバイデン族。私達の闘争を貴方達に見せてあげるわ」 悠月と糾華。片方は雷を、片方は投刃を指と指に挟んで――放つ。 『怯むな! 応戦せよ――!』 同時。アウドランの声が飛べば、巨獣の背に乗って援護する弓矢部隊が一斉射撃で反撃を。 一条の雷と揚羽蝶が舞う中に、矢が相反する方向へと飛び荒べば、双方着弾。雷の音故か轟音が響き渡り、それでもなお止まる者はいない。 状況としては一進一退と言える。見方によっては若干だがリベリスタが押しているかもしれない。 しかし“並走しながら戦闘を続ける”行為も、いつまでもは続かないのだ。 何せ――巨獣がもう間もなく橋頭保直前にまで辿りつこうとしている故に。 ●巨獣シュトルムボック 闘いは終局を間近に控えていた。 どちらが勝つのかどちらが負けるのか。まだどうとも言える状況では無い。 「ならばこそ――勝機をこちらに引っ張り込みます!」 五月が往く。身は傷付き、己が反射の力を用いて奮戦すれど限界は近い。 それでも退かぬ。利き腕に業火を纏わせ周囲のバイデンを一斉に捉えれば、さらなる勢いで燃え散らかせる。 「罠を起動させるわ。 ……巻き込まれない様に気をつけなさい!」 ここで、糾華が声を張り上げた。巨獣の行き先が判明したからである。 それは――橋だ。水辺に落ちて速度が落ちるのを嫌ったのだろうか。いずれにせよルートが分かった以上その場にあるモノを利用しない手は無い。 直後、巨獣の足元で爆発が生じた。罠の一つである地雷だ。 爆発音と共に巨獣の速度が僅かに落ちる。停止こそしなかったものの、歩みが遅くなったのは貴重だ。この隙に、 「心を――読ませて頂きましょうか」 リーディングを用いてアウドランの思考を読み取らんとするは、悠月だ。 そのまま用いたのであれば異世界の者に効果は薄いが、バベルをも所有しているのならば話は別。心中の言語すら読み取り、看破するのは容易い。 と言っても、読み取る事自体はどうでもいい。重要なのは、 『貴様、何をした?!』 アウドランに“読まれた”と言う事を自覚させる為だ。 なお、その心中は飽くなきまでの闘争、闘争、闘争――戦闘狂いの感情と思考が渦巻いていた。あぁ、これは正しくバイデンである。それ以外のなんだと言うのか。 「……ふむ、思考を読まれた程度で逆上するとは器が小さい。成程こんな程度の連中がバイデンと言う訳ですか……矮小にして弱者嬲りしか出来ない、畜生にも劣りますね」 『何をッ! おのれ、我らを侮辱するつもりか!?』 「侮辱はそちらでしょう。実際、なんですか。片手間にあしらって私達を突破しようとでも? 舐められたものですね。自身が常に強者であると錯覚でもしているのですか。井の中の蛙が」 挑発する。実際の評価は内心で行いつつ、バイデン達の言葉で注意を引くのだ。 少しでもその指揮における冷静さを奪おうとして。 『貴様ァ――!』 ただし代償はある。挑発すれば無論その分攻撃が集中するは必然で、槍が太股に穿たれた。機動力を奪おうと言うのか。 「ぐッ……! この程度で、まだ倒れる訳には行きませんッ」 踏みとどまる。運命を燃やして立ち上がれば、再度雷で横薙ぎした。 バイデン達を雷の中へと飲みこんで――しかし巨獣は強化外皮で複数攻撃の雷を弾けばまだ健在。 「仕方ないわね。ちょっと無茶する事になるけど、止めようかしら……!」 あと数歩で橋頭保の橋――の扉へと触れる巨獣。そこへ、横からエナーシアが走り込む。 行かせない。やらせない。最悪でも速度があるままぶつかられてたまるか。 「……ふッ!」 呼吸と共に引き金を絞り上げれば巨獣の先端に直撃。鋭い先端に欠けを生じさせた。 だがそれでも止まらない事は分かっている。だから、跳ぶ。跳んで、割り込み、“壁”と成る。 ――橋にある扉の代わりに自身が肉壁となったのだ。 「ッ――が、ぁ……ぐッ!」 衝撃と言うも生温い痛みが彼女を襲う。 腹に刺さる巨獣の先端を両手で抑え込み全ての体力を庇いに徹して、止めた。コンマ感覚で意識が途切れ、繋がり、途切れ、繋がり――口の端から苦痛と血が漏れる。鈍い痛みは鳩尾を叩かれたかの様に吐き気を伴い、だが、それでも、 「い、たいのよ……さっさと、へし折れて、どきなさいッ!!!」 戦意は失わず――ライフル片手に先端へと銃撃をぶち込んだ。 巨獣が、シュトルムボックが痛みに震えて一歩下がれば、エナーシアは扉を背に座り込む形だ。咳と共に血液が混じって出るのが酷く煩わしい。そこへ止めを刺さんとバイデンが寄るが、 「ここは通さないって言ったのッ!」 ルアが止める。巨獣に攻勢を仕掛けるべきなのかもしれないが、彼女はバイデンを止めた。なぜなら、 「私は――信じてるから」 仲間を。一緒にいてくれる大切な仲間達を。どこまでも信じてるから。 そしてなによりも彼女は親友を信じている。だから、言う。吠える。姿は見えないけれど分かるから。きっと居るんだと。感じているから―― 「――ちーちゃん! 今だよ、いっけえええええ!!」 ●風が吹く 聞こえた。聞いた。聞き遂げた。 聞き間違うなどあり得ない。親友の声だ。応えねば、応えねばならない。バイデンとは仲良くしたいと思っている。しかし駄目だ。今は駄目だ。“わたし”にも護りたい者がいる。応えたい親友が居る。だから、 「行っくよ――!」 吠えて、返す。壱也がいるのは巨獣の真正面。さらに彼女だけでは無い。 桐と冴も居る。一人ではあまり効果の見込めないノックバックだが、三人なれば。 「せぇぇぇのおおおおお!! さがれぇ――――ッ!!」 そう思い――ぶっ叩いてやった。 「合わせます! チェストォ――!!」 ほぼ同タイミングで冴も往き、 「下がって貰います……ここからッ」 駄目押しとばかりに桐もぶち込んだ。 三者の斬撃は重なり巨獣へと。いずれもが同じ効果を見込んだ、上手く行くかは賭けの領域たる策。一人でも命中の度合いが外れれば、最悪徒労に終わっていたかもしれない。 だが、 『な、に――!?』 “終わっていたかもしれない”そんな“もし”の話なぞ意味無き成功を三者は成し遂げた。 巨獣の体が橋頭保の射的距離から大きく外れる。――お見事。 いやそれだけでは無い。この瞬間に偶然にも決着を付けたのだ。 巨獣が、 『――』 その身を痙攣するかの如く一度震わせると、次の瞬間には力無く地に倒れ伏した。 初手より溜めこまれたダメージがここに来て振り切れたのだろう。それにより趨勢はリベリスタ有利に傾く。もはや、バイデンに勝利の目は極小と成ってしまった。 ……だと言うのに。 『……フ、ハハハ……フハハハハハ! よもや、よもやこんな事になろうとはな!』 アウドランが高らかに笑う。敗北なのに、負けなのに。 言葉の意味が分かるのは悠月ただ一人で、それ故に彼女がバイデンの考えに真っ先に気付く。 そうだ、このバイデン達はなんだった。ここへとどんな感じで来ていた。 思い起こせば実に単純。彼らの思考は最初から変わっていない。 「神風……特攻するつもりですか! 勝敗はもうほとんど付いたと言うのに!」 ここまでに残ったバイデン、弓が二、斧が二、そしてアウドラン。 そのいずれもが傷付いていると言うのに突撃してくる。高らかに笑いながら。 ダメージ完全無視の攻撃重視の特攻である。 「それが本懐なのでしょう。倒れるまで戦い続けると言うのが」 近付く斧のバイデンを桐が斬り伏せる。容易い。容易すぎる。命を大事にしない戦い方など。 「……違う。違うよこんなの、こんなのが神風だっていうなら」 ルアが呟く。 こんなものが神風なのか。散りゆくだけの、これを神風と言うのなら、 「私は……“散”らずに“舞”う花風になる!」 『ぉぉおおオオオッ――!』 槍を振りかざし、自身の全体重を乗せたアウドランが襲いかかってくる。 自棄か、あるいはまだ勝てると思っているのかは知らない。 「花風より速いものはこの戦場に存在しない! 死ぬ為に散る神風じゃあ、散ってもなお生きて舞う花風に勝てるもんか!」 ナイフと槍が交差する。槍の穂先がルアの頬を掠めるも、それは浅い傷だ。だからルアは身を前に吹っ飛ばして間合いの内へと入り込みアウドランの首筋へと、突き刺した。 ――致命傷だ。 『ォォ、ォ……』 掠れた声が漏れれば倒れる。 ……風が止んだ。狂気に塗れたバイデン達の特攻は今ここに完全な終了を迎える。 果たして彼らとの闘争の先に何が残るのか――今はまだ不明確なれど、今この場で勝利を得たのはリベリスタ達だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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