● アークのリベリスタ達が『ラ・ル・カーナ』に橋頭堡を築き始めてから、早くも半月以上が過ぎた。 拠点の設備は順調に充実しつつあり、常に有事に備えて警戒を続けるリベリスタ達の働きもあって、しばらくは平穏ともいえる日々が続いていたのだが――。 この夜――とうとう“それ”は訪れた。 見渡す限り砂と土ばかりが続く荒野の彼方から、赤き巨腕の戦闘種族・バイデンの一団が姿を現したのだ。これまでの小競り合いとは比較にならぬほどの数で、しかも多数の巨獣を連れている。 警戒にあたるリベリスタがバイデン達を発見できたのは、そもそも彼らに隠れるつもりがないからだ。首領と思われる者に率いられたバイデン達は、統制の取れた動きで陣を敷き、こちらの拠点から少し離れた場所で様子を窺っている。 無論、この沈黙が長く続くはずはない。 遠からず、バイデン達は拠点に総攻撃を仕掛けてくるだろう。 『タワー・オブ・バベル』の能力を有する者ならば彼らとの会話は不可能ではないが、力を好み、戦いを愛する彼らが、大人しく交渉に耳を貸すとは考えにくい。 仮に拠点がバイデン達の手に落ちた場合、彼らが『閉じない穴』を介してボトム・チャンネルに殺到する危険もあり、アークとしてはこれを許すわけにはいかなかった。 幸い、アークのリベリスタ達は以前よりこの日が来ることを予想しており、拠点はある程度の防御力を保持している。 つまり、選択肢は一つ。 バイデン達の攻勢を凌ぎきり、拠点を死守するより他にない――ということだ。 ● 荒野に陣を敷くバイデン達の中に、岩石の塊と見紛う巨獣を連れた一団があった。 彼らは本隊から少し離れており、一気に仕掛ければ合流を許さず叩くことは充分に可能に思えるが、それでも敵陣の只中に突っ込んでいく危険に変わりはない。 しかし、拠点を守ることを考えれば、早いうちに少しでも敵の数を減らす必要がある。 特に、あんな破壊力の高そうな巨獣をむざむざ拠点に近付けてしまうのは避けたいところだ。 相応の実力と覚悟を兼ね備えたリベリスタ達が、この任に当たることになる。 さあ、手を上げるのは誰だ――? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月24日(火)23:20 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 砂と土に埋め尽くされた大地を、十人のリベリスタが走る。 日が落ちてからしばらくの時が過ぎていたが、天に輝く三つの月が地を照らしているおかげで、明かりを持たずとも行動に支障はない。 「異世界の空、不思議な明るさね……」 『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)の声を聞き、『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が空を見上げた。 「三つの月か。ほんとうに異世界ってやつなのね」 前方に視線を戻せば、『憤怒と渇きの荒野』が文字通り地の果てまで続いている。 実りを拒む不毛の大地は、何よりも闘争を求めるバイデンにこそ相応しいのかもしれない。乾いた砂は、流れる血を吸い込んでくれるだろうから。 「――楽しく遊べそうだと思ったのに。 どうにも、こうにも面倒な事になりそうだね。やれやれだよ」 持ち前の鋭い嗅覚で“戦場の匂い”を感じ取る『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が、そう言って肩を竦めた。闘争は望むところだが、純粋にそれを楽しむにはいささか都合が悪い。 何しろ、バイデンの目標はリベリスタがこの地に築いた橋頭堡――現在のところ、ラ・ル・カーナにおける唯一の拠点なのだから。優先すべきはあくまでも防衛であり、戦いはその手段に過ぎない。 「なんか来る時が来たって感じだね☆」 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)の口調はいつも通り明るかったが、彼が胸に秘めた決意と覚悟は、他のリベリスタ達に引けを取らなかった。 橋頭堡はフュリエ達が住む『世界樹の森』をバイデンから守るための砦であり、二つの世界を結ぶ“閉じない穴”を守る唯一の盾でもある。陥落した場合、ラ・ル・カーナのみならず、ボトム・チャンネルまでもが危険に晒されることを、終はよく理解していた。 感情探査で索敵を行っていた浅倉 貴志(BNE002656)が、遥か前方に布陣するバイデンの一団と巨獣の姿を認める。 「彼らもこちらの存在に気付いているようですね」 見晴らしの良い荒野に、身を隠す場所はない。視認が可能ということは、敵からも見えるということだ。幸いだったのは、バイデン達が“外”の人間との戦いに昂るあまり、本隊との合流を考えていないことか。 急行の甲斐あって橋頭堡からは適度に離れており、足場も問題はない。戦場としては手頃だろう。 「あれが噂のバイデン……」 赤き巨腕の戦闘種族を目の当たりにした『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が、低く呟きを漏らす。言葉が通じれば互いにもっと熱くなれるのだろうが、生憎、『タワー・オブ・バベル』の能力を持つ者はいない。 『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が、愛用の改造小銃を不敵に掲げてみせた。 「施設の支援も見込めなさそうな、離れた場所にいる今だからこそ! 叩かなければならない相手なのですよね。燃えるー」 バイデンの一団に従えられた、体表を無数の岩石に覆われた巨大な怪物――『岩石巨獣』を遠目に見て、『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)がぼやく。 「それにしても、あの巨獣は反則だよ」 「岩石巨獣とは以前に戦いましたが、難敵でした」 彼女に答えた貴志が、不意に表情を引き締めた。先日に遭遇した岩石巨獣と異なり、体内に炎を秘めていることはなさそうだが、鉄壁の防御力と、巨体から繰り出される攻撃の威力、石化をもたらす光線は確実に脅威となるだろう。 「光線封じには目を狙うのが良さそうだな。 脚を殺すのは難しそうだけど、岩の隙間ならダメージは入ると思う」 エネミースキャンで岩石巨獣を解析した『銀の盾』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)が、その結果を全員に伝える。迫りくるバイデンの一団については、時間の不足もあって目ぼしい情報は得られなかった。 彼我の距離が縮まる。リベリスタ達は接敵のタイミングを慎重に計り、その直前で自らの力を高めていった。全身のエネルギーを防御に特化させた『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が、バイデンの一団を見据える。思い出すのは、先日の任務に関わる苦い記憶。 「橋頭堡を嗅ぎつけられたのは俺の失態だ。任務の失敗は、任務で取り戻す」 決意を胸に、快は敵に向かって駆ける。 ● 鬨の声が、リベリスタ全員の耳朶を打った。 両者の前衛が、互いに距離を詰める。槍を構えたバイデンの一人に、終が迫った。 「こんにちは☆ 絶対に負けないよ!」 宣戦布告と同時に、手の中のナイフを閃かせる。集中領域から繰り出された音速の連撃が、巨腕の戦士の動きを瞬く間に封じた。 身体能力のギアを上げたりりすが、長さの異なる二刀を携えて敵陣に切り込む。銘無き太刀と、呪われしジャックナイフが、残像とともに鮮血の弧を描いた。 『……、……!』 主将と思われる、大刀を手にしたバイデンが異界の言葉で叫ぶ。 内に秘めしは種族の本能とも呼べる憤怒か、それとも闘争への歓喜か。 「――かかって来いよ」 仁王立ちで主将の行く手を塞いだ快が、バイデンの一団を見渡して低く声を放つ。彼の挑発は言語の壁を越え、槍の戦士二人と、弓の戦士一人を怒りに染めた。 怒りに囚われなかった槍の戦士を貴志がブロックし、攻防自在の構えから掌打を見舞う。辛くも直撃は避けられたものの、荒れ狂う破壊の気がバイデンの屈強な体を内側から揺さぶった。 最も傷が深そうな槍の戦士に向かって、凪沙が走る。バイデンの襲来に際して考える暇はなかったが、体は自然に動いた。素早く間合いを詰め、炎を纏う膝蹴りを叩き込む。 『……!!』 先制攻撃を受けても、バイデン達の士気は収まるところを知らない。血の熱を孕んだ殺気が、空気を激しく震わせてリベリスタ達に届く。 なお高揚して雄叫びを上げる彼らを眺め、ユーニアが口を開いた。 「全部殺す気でいかねーと退きそうにないな」 ならば、同じ流儀で迎えてやるまでだ。相手にとって不足はない。 ユーニアはニニギアの前に立って射線を遮ると、暗黒の瘴気でバイデン達を撃った。 槍の戦士のうち、怒りに我を失った二人が快に殺到し、一人が眼前の貴志に鋭い突きを繰り出す。その隙に、涼子が中折れ式単発銃の銃口を岩石巨獣に向けた。発射された弾丸が、爬虫類を思わせる金色の瞳を貫く。続いて、動体視力を強化した七海が黒白の剛弓を引き絞り、弾丸に穿たれた傷を正確に射抜いた。 主将が大刀で快に打ちかかると同時に、副将と思しきバイデンがリベリスタ達の後衛目掛けて走る。前に立ちはだかったユーニアが、副将の棍を“ペインキングの棘”で弾いた。 「アークの盾、ユーニアだ。守る者の強さってやつを見せてやんぜ」 言葉が通じないのを承知で、副将に名乗る。戦うにあたっての、最低限の礼儀だ。 弓の戦士達が、快を狙って次々に矢を放つ。改造小銃“Missionary&Doggy”を両手に構えたユウが、天に向かって引金を絞った。燃え盛る炎の矢が戦場に降り注ぎ、バイデンと岩石巨獣を焼き焦がす。 初手におけるリベリスタ達の役割分担は、ほぼ完璧に機能していた。 厄介な石化の光線を涼子と七海が封じ、快が複数の敵を引き付けてブロックを要する敵の数を減らす。回復の要となるニニギアはユーニアが守り、残りのメンバーが攻撃に徹して槍の戦士から順に倒す――という流れである。 「来い! そう簡単には倒れない!」 的確な挑発でバイデンの攻撃を自分に集める快が、主将を手招きする。 大刀が唸りを上げた瞬間、彼は自ら前に踏み込み、間合いを奪うことで斬撃の威力を半減させた。肉厚の刃が肩口に食い込み、鮮血が飛沫を上げる。まともに受けていたら、上半身を断ち割られていたかもしれない。 「槍はリーチが長いけど、一度懐に入ればただの邪魔物だよね」 小柄な体格を活かして槍の戦士の死角に潜り込んだ凪沙が、激しい炎とともに肘を喰らわせる。貴志が眼前の敵に土砕掌を叩き込み、その動きを縛った。 岩石巨獣も気にかかるが、まずはバイデンの数を確実に減らすのが貴志の役目だ。 狂ったように暴れる岩石巨獣に、涼子が駆ける。両目を潰したことで石化光線の命中率は激減しているが、視力を完全に奪ったわけではない。凶暴極まりない手負いの怪物を放置することは、あまりに危険すぎた。 大きく回り込んで味方のいない方向に巨獣の視線を誘導しつつ、早撃ちで傷ついたバイデンを狙う。 岩石巨獣が煩げに足を踏み鳴らし、衝撃波で地を揺らした。 「さて、前衛があんなに頑張っているのだから、こちらも張り切って行きますか」 七海が、木菟の因子を宿した右腕で弓を引く。“正鵠鳴弦”の弦が澄んだ音を立てると同時に、無数の火矢がバイデン達を襲った。 リベリスタは戦術でバイデンを大きく上回っていたが、その有利を差し引いてもなお、敵の破壊力は凄まじい。何か一つでも欠けていれば、この時点で何人かが膝を折っていただろう。 「だいじょうぶ、すぐ治すから!」 周囲の魔力を取り込み続けて自らの力を高めるニニギアが、聖なる神の息吹を呼び起こして仲間達を癒す。自分の役割は回復で皆を支え、敵をここで食い止めること。決して、拠点に近寄らせはしない。 淀みなく振るわれる終のナイフが、傷ついたバイデンを追い詰める。続けて繰り出された幻惑の一撃が、槍の戦士を屠った。 後方から戦場全体を視野に収めたユウが、小銃の引金にかけた指に力を込める。 暴れ回る敵の動きも、集中を高めた今の彼女にとってはコマ送りの如くだ。 「撫で斬り塵殺、と行きたい所ですがー」 あくまでも、目的は拠点に迫る脅威を排除すること。バイデンを殲滅すれば、主を失った巨獣を追い払うことは難しくないはずだ。 もっとも、前提条件の時点で容易い話ではないが―― 雨あられと降り注ぐ炎の矢が、さらに一人を地に沈めた。 ● 副将の激しい打ち込みを、ユーニアは盾を翳して受ける。辛うじて直撃は避けたものの、蓄積するダメージは深刻になりつつあった。 「俺がいる限りニニギアさんには指一本触れさせねーよ」 赤く染めた“ペインキングの棘”を突き入れ、血液を介して生命力を奪う。 破壊して奪うだけの連中に、ここで屈するわけにはいかない。 「フュリエは今は弱いけど、お前らよりずっと強くなるぜ。 あいつらは自分以外に大事な守りたいものを持ってるからな」 ユーニアの言葉を侮蔑と受け取ったか、副将の顔が怒りに染まった。 そこに、槍の戦士を全滅させた前衛達が救援に駆けつける。貴志が、破壊の気を帯びた掌打を副将の背に叩き込んだ。 「回復の暇は与えません」 彼の言葉に答えるように、七海が黒白の強弓を構える。麻痺に陥った副将を、呪いの一矢が射抜いた。 バイデン達は状態異常からの立ち直りも早い。だが、その回復力を半減させてしまえばどうか。 動きを縛られた副将に、リベリスタ達は攻撃を集中させる。 その間、涼子はただ一人で岩石巨獣の足止めを行っていた。単独でのブロックが不可能なら、ぴったり纏わりついて苛立たせ、自分を攻撃させるまで。味方を背にしなければ、狙われるのは一人で済む。 岩石巨獣の体当たりが、至近距離から涼子を襲う。全身の骨が砕ける音を聞きながら、彼女は運命を燃やして意識を繋ぎとめた。 ――まだ立てる。まだ、やれる。 麻痺から逃れようともがく副将に、ユウが火矢を浴びせる。気力の消耗は激しいが、七海のインスタントチャージがある限りガス欠の心配はしなくて済む。自分は、ひたすら撃ち続けるのみだ。 副将の全身を包む炎が飛び火したかのように、凪沙の蹴り足が激しく燃え上がる。 「覇界闘士の戦い方、あまり知らないよね」 タイミングを狙い澄ました鋭い蹴撃が、副将の首を刈る勢いで叩き込まれた。 弓の戦士たちも七海の矢に斃され、敵は主将と岩石巨獣を残すのみ。地に伏したバイデン達は、全員が屍と化していた。彼らの闘志は最期まで衰えることなく、戦う力を奪うには息の根を止めるより他になかったのだ。元より、殺さぬよう加減して戦える相手でもないが―― 『…………、……!!』 主将が、決然と声を放つ。同胞の屍を前に退く選択肢は存在しないのだろう。 己の攻撃を幾度となく受けながら、なおも立ち続ける強者――快に向けて、彼は大刀を振り下ろす。 防御も何もかも、圧倒的な力で全てを叩き潰す渾身の一撃。 快は迷わず自らの運命を差し出し、それに耐えた。 「――総力戦だ。なら、全力以上を出すしか無い!」 蛇の印を刻んだ護り刀が鮮烈に輝く。破邪の力に磨かれた刃が、主将の胸板を真一文字に切り裂いた。 ニニギアの詠唱で具現化した癒しの息吹が、仲間達を優しく包んで傷を塞ぐ。 近頃、最愛の恋人がバイデンに似ているとからかわれる場面をよく目にするのだが――正直、一緒にしないでほしいと彼女は思う。頼りがいも男ぶりも、本物には遠く及ばない。 紛い物に、負けるわけにはいかないのだ。 前衛達が、主将を取り囲む。リベリスタの猛攻に晒されながら、主将が吼えた。 『ウォオオオオオ―――ッ!!』 肉厚の大刀が主将を中心に円を描き、激しい風を起こす。 強烈な破壊力を秘めた一刀が、主将を包囲する者達を纏めて薙ぎ払った。 直撃を受けた終とりりすが、自らの運命を代償に立ち上がる。 橋頭堡が落ちたら、もう後が無い。 「絶対に、死守しなきゃ……!」 神速で繰り出される終の連続攻撃が、バイデンの頑強な肉体に傷を穿つ。 口の端から流れる血を拭おうともせずに、りりすが鮫の笑みを浮かべた。 人にも獣にもなれぬこの身は、死を恐れない。退きも、媚びもしない。 「闘争のみが信念なんてのは、何も君らの専売特許ってわけじゃない。 此方も相応のカードきるだけだ」 血に濡れてなお赤く輝く“リッパーズエッジ”を閃かせ、一歩踏み込む。 一瞬にして最高速に達したりりすは、呪われしナイフの一撃を囮に『剣鬼』の太刀を振るった。 奇跡なんてモノは起こすモノではなく、奪い取るモノ。 今はまだ――その時ではないけれど。 「――強く。強く。ただ強く!」 荒野に響き渡る、断末魔の絶叫。 音速を纏った刃が、主将の心臓を貫いていた。 ● バイデンの全滅を見届けた涼子が、傷だらけの中折れ式単発銃を強く握る。 ここまで岩石巨獣の抑えに徹していた彼女は、驚くべきことにまだ立ち続けていた。既に運命(フェイト)を削った涼子を支えたのは、気紛れな運命(ドラマ)の加護。 ――考えることは得意じゃないけど、戦うことはできる。 全身ごとぶつかるように、鉄塊を握り込んだ拳で岩石巨獣を真っ直ぐに打つ。 直後、咆哮する怪物の体当たりが、今度こそ涼子の華奢な身体を砕いた。 駆けつけた前衛達が、彼女に代わって岩石巨獣の前に立つ。 「後は任せて下さい」 巨獣の胴に土砕掌を叩き込んだ貴志が、涼子に労いの言葉をかけた。彼の反対側に回った凪沙が、右掌に込めた破壊の気で巨大な後足を揺らす。 無数の石を弾丸の如く撒き散らす岩石巨獣を眺め、癒しの福音を響かせるニニギアが思わず呟いた。 「岩石巨獣っておいしくなさそうよね……」 そもそも、食べられるのかすら怪しいが。 岩石巨獣の防御力は確かに高いが、まったく攻撃が通らないわけではない。 ならば、一手一手を丁寧に、確実にダメージを蓄積させるまでだ。 己の姿を捉えさせないよう、常に動き回りながら、りりすが音速の刃で巨獣を穿つ。 敵の攻撃が届かぬ距離まで後退した七海が、“正鵠鳴弦”に呪いの矢をつがえた。 「雨垂れ石を穿つ、どっちが効くかな?」 放たれた一矢が、岩石の隙間を正確に射抜く。 柔らかい部分を貫かれた巨獣が、鋭い痛みに悲鳴を上げた。 「バイデンの後詰めとは別方向へけしかけましょうか。 調教された巨獣がまた敵の手に渡るのは面倒です」 頭上から火矢を射かけるユウの言葉に、快が頷く。彼は退路を見せ付けるように巨獣の包囲を解くと、真逆に回り込んで強烈な一撃を浴びせた。 それが決定打となり、岩石巨獣は身を翻す。地を揺るがし、一直線に逃げ去っていく背中を見送った後、リベリスタ達は一斉に息をついた。 「結局こいつらって何者なんだ?」 バイデンの亡骸を見下ろし、ユーニアが呟く。彼らの心を読んで巨獣を操る方法を知りたかったのだが、全員死んでしまったのではそれも不可能だ。 彼の問いには答えず、りりすが主将の大刀を拾い上げる。激戦に晒されたためか、あるいは使い手の膂力を支え切れなかったのか、その刀身には無数の亀裂が走り、もはや実用に耐えない有様だった。記念品として持ち帰るのであれば、それでも構わないだろうが。 「ユーニアくん、庇ってくれてありがとう」 ニニギアが、最後まで自分を守り通したユーニアに礼を言いつつ、天使の歌で全員の傷を癒す。 バイデンの襲来はこれで終わりではない。終が耳を澄ませば、拠点の方角は今も戦いの音に満ちていた。 「急いで戻るよ!」 彼の言葉に頷き、涼子がゆっくり立ち上がる。傷は深いが、この先戦えないほどではない。 ふと空を見上げれば、そこには今も三つの月が輝いていた。 夜が明けたら、一体どんな空が見えるのだろうか。 「ま、勝てればそんなものをながめるヒマもあるだろうさ」 涼子はそう言って、仲間達の後について走り始めた。 ――ラ・ル・カーナの長い夜は、まだ始まったばかり。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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