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お嬢様は、清らかなグループ交際を御所望。


「だれか、だれかある!」
「はい、お嬢様」
「この間の次元の方々と、グループ交際がしたいの」
「複数の男女が一緒に交際をする」
「それよ」
「抜け駆け禁止の」
「そうよ」
「二人で抜け出そうぜと事前に打ち合わせしてはいけない」
「そのとおり」
「あくまで清らかな交際!」
「いきなり熱恋だと失恋しかねない。まずはグループ交際から始めてみることにした!」
「ご慧眼です。承りました。しかし、お嬢様、団体ということはこちらの数も向こう様に合わせねばなりませんが……」
「わたし。おまえ。サーヴァント」
「私もで、ございますか」
「それが、執事の役目と、お父様からうかがっている」
「きちんと先代様のお言葉を覚えてらっしゃる。さすがです、お嬢様」
「讃えなさい」
「素晴らしい」
「より情熱的に」
「おどけでない」
「――そういう訳だから、面子の選定をしなさい」
「ですが、お嬢様。ことこの場合の面子には、力量もさることながら属性も大事でございます」
「属性」
「ツーといえばカーな人選が必要でございます。偏りがあっても向こう様に失礼。先様のご希望をうかがった上でということで……」
「BLね」
「耽美でございます」
「お待たせしても悪いわね」
「何、当お屋敷のサーヴァントは可変式でございます。いかような属性にも対応、可でございます」
「着脱可能」
「機能変更、随意でございます」
「バイね」


「――アザーバイドの接待。ここは一つグループ交際に勤しんでもらおうと思う」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、職務に忠実だった。
「……とはいえ、先様にそういう感情はない。そういう感情を催した場合の行動をしてみたいおりがあってもということ。いうなれば、ごっこ遊び」
 左様でございますか。
「ちなみに、お嬢様……名前、人間には発音できない。まあ、ミドルティーン。お屋敷から出たこともないような深窓の令嬢と思ってくれれば……つまり、知識はあるけど、まったく経験を伴っていない。その知識も、とんちんかん」
 早春、リベリスタ達が一対八の変則異種格闘組み手にかり出され、半数が重傷を負って帰ってきたのは記憶に新しい。
「恋愛とそれにまつわる行為を、殴りあうことと思っているのは、相変わらず」
 ちょっと待てぃ。接待ってデートとかじゃないのか。
「燃える想いを拳にこめて、相手のハートに内角をえぐるようにして打つべし打つべし打つべし」
 サンドバックに浮かんで消えるのは愛しいあの方なの。ぽ。
「お嬢様は、非情に頭脳明晰。更にケンポーをたしなまれているそうよ。こちらは武器を使っても構わないし、回復飛ばしてもいい」
 異文化コミュニケーショーン。
「とにかく、お嬢様は、限界まで戦えば満足なさるから。逆に言えば、お嬢様を倒さない限り、延々と続く。魔力をきらさないように」
 モニターに、障害物。その上に旗。
 何、この公式雪合戦会場みたいな場所。
「今回は八対八の陣地戦。自陣の旗を守り、敵陣の旗を奪う。これをお嬢さまが満足なさるまで、延々と繰り返す。むこうはお嬢様と執事が参加確定。召使をこちらの面子に合わせて選抜するって。こちらの出来ることは向こうも出来ると思って」
 ここまでで、なんとなく分かったと思うけど。。と、イヴはえらくまじめな顔をする。
「お嬢様に手加減とかいう概念はない。こちらが戦えなくなるまで交際を続けようとする。更に、あっちの方が実力は上。だから、五体満足で帰れると考えない方がいい。というか、そういう覚悟で望んでほしい」
 お接待とは手加減して戦うことではなく、お嬢様の勘違いを追及せず、淑女に恥をかかせないよう気をつけるということだ。
「戦闘は、本気で当たるように。それが礼儀」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月02日(土)23:46
  田奈です。

 注意!
 この依頼は、友好的アザーバイドとの交流というほのぼのテイストのシナリオではありますが、交流方法の性質上、非常に戦闘不能または重傷の発生率が高くなります。
 死亡判定はいたしませんので、ご安心ください。
 ですが、リベリスタの心身に多大な負担を生じさせる可能性があります。
 参加する際は、各々依頼参加状況をよく鑑た上でのご参加をお待ちしております。
 フェイトは、大事にするものです。

 レッツ、殴り愛。
 陣取り合戦の相手をご所望とも言う。
 そんな、舞踏派にして恋に恋するピュアな乙女なお嬢様のスペックはこちら。

 アザーバイド「お嬢様」
 *メタルフレームなプロアデプトと覇界闘士にソードミラージュのごった煮。
 *あらゆる意味でタフ。WPがありえないほど高い。
 *外見は、メタルスカイの全身タイツ。羽と花で飾られた大きな帽子がチャームポイント。
  お顔は淑女のたしなみで仮面をつけておられます。マスカレイドでございます。
 *攻撃するたびに、勘違いに満ち満ちた恋愛に関する一言をおっしゃいます。
   気合という名の魔力が削れます。(Mアタック相当)
 *それっぽいことを言うと、お喜びになられます。お接待。 

 アザーバイド「執事」
 *メタルフレームなプロアデプトとクロスイージスのごった煮。
 *あらゆる意味でタフ。WPが泣けるほど高い。
 *外見は、非常にほっそりとした燕尾服の老人。
 
 アザーバイド「召使」
 *属性をおもんぱかり、女性には男性、男性には女性をあててきます。
 *リベリスタと同じことが出来るように能力を調整されています。

 場所:特殊空間「回廊」
 *大理石の廊下が延々と続いています。
 *幅30メートル以上。長さ、消失点が発生するほど長いです。
 *足場、人目、明かり、一切気にせず、お接待してください。
 *サイドラインは20メートル。
  真ん中にセンターライン。
  各々の陣地に一人隠れられる程度の壁が三箇所。
  一番奥に旗が立てられています。
  お嬢様の側は、旗の脇に執事がいます。
 *旗は「かばう」ことで、守ることが出来ます。

 お接待詳細
 *全力で戦うこと。戦い方の種類は問わない。
 *成功条件は、お嬢様が満足なさるまで、誰か一人でも残っていること。
  皆のされると、お嬢様は「失恋した」と解釈なさい、今夜は悲しくて安眠できなくおなりです。お接待失敗。
  ガチで。もう一度いいます。ガチで、勝ちにいって下さい。 

 それでは、お嬢様に失礼のないように。
 楽しいお接待タイムを。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
マグメイガス
風芽丘・六花(BNE000027)
ソードミラージュ
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
プロアデプト
阿野 弐升(BNE001158)
クロスイージス
ヘクス・ピヨン(BNE002689)
マグメイガス
ティオ・ココナ(BNE002829)
デュランダル
水上 流(BNE003277)
クリミナルスタア
式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)
レイザータクト
伊呂波 壱和(BNE003773)


 遠い遠い次元にお住まいの、お嬢さまが言いました。
「ボトム・チャンネルの方々と、清らかなグループ交際がしたいの」
 砂の数ほどいる使用人の中から選り抜いて、アークのリベリスタをお待ちかね。
 ならば、全力でお相手するしかありますまい。
「楽しい時間にしましょうね」

 お嬢様の「舞闘会」で華麗に踊る心の準備は出来てるか。
 盛装という名の装備に問題ないか。
 お嬢さまのご期待に応えるべく、最高のグループ交際を。

 骨は拾ってやる。死んで来い!


『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329) は、適齢期である。
「グループ交際という言葉に惹かれて、ソラ先生参上!!」
 鼻息が荒い。
 ソラ先生、今回の「グループ交際」はですね。
「私だって彼氏の一人や二人欲しいのよ? でもなぜか出来ないの。本当に出来ないの。おかしいわよね。こんなに大人の魅力あふれる女性なのに」
 そうですね。ソラ先生は素敵な女性です。
 でも、まだ日本男子から目をそらしちゃいけないと思うんですがどうでしょう。
「合コンも三高平以外で開催するのは参加できないし。三高平のに参加しても子供扱いされるだけだし」
 そうですね。
 ソラ先生の見た目の事情から行くと市外は難しいでしょう。
 そして、合コン適齢期からしてみれば、あなたはガッコの先生です。背徳の香り。
「でも今回は私のこと理解してくれるような人もいるはずよね。超イケメンで優しくて私の命令に絶対服従してくれるような男性希望」
 いえ、国際結婚でも全然構わないです。素性が不確かでもきっと時村さんちがどうにかしてくれますから。
「期待してもいいわよね? うふふふふ」
 だから、ボトム・チャンネルの男に飽きるのは、もう少し先でも全然問題ない!
 先生、お願い、正気に戻って!
 これは殴りあい、合コンじゃないの。
 現実を直視してえええぇ!?
「グループこうさいとかいうのは皆で集まって拳で語るのだー」
『ひーろー』風芽丘・六花(BNE000027)は、まっすぐにつっぱしって、ぶっとばしてごー。
 とりあえず、ソラ先生の幻想をぶっ飛ばした。
 おいでませ、現実。
「楽しいおしゃべりは? いちゃいちゃは?」
 楽しい戦闘会話と、会話のキャッチボールならぬジャブの応酬をお楽しみいただけると思います。
「え? 接待? 殴り愛? あれぇ?」
 戦わなくちゃ、現実と。
「隙とか故意とか遭いとかよくわからんちんなのだー」
 そんな六花でもちゃんと前回お勤めできたから、ボトムチャンネル的なあれはこれっぽっちものぞめないのだー。
「そうだとおもうのだー、たぶんなー、ナノで殴るのだー。これも、ひーろーてきなおしごとなのだー」
 ひらがなはつげんのまま、六花はぐるんぐるんとうでをふりまわす。
 まぐめいがすのまほうはまじっくしんぼるからでるので、うでのつきだしがだいじなのだー。
 六花の能天気ぶりに、ソラ先生の恋愛期待ゲージもしおしおのぷー。
「あぁなんかもうどうすればいいの?」
 仕事すればいいと思うよ?
「まぁ接待は大事よね。やるからには完璧を目指すわ。旗取りに勝ってお嬢様を満足させる。サボるときは全力でサボるけどやる時はやるのよ。私」
 存じております!

『論理決闘者』阿野 弐升(BNE001158)の目が赤い。
 瞳も赤いが、今日は白目も力いっぱい充血している。
 お嬢さまにご心配をかけてはいけません。
 誰か、群体筆頭殿に清涼系目薬を。
「クフ、クフフフ。嗚呼、いや失敬。少々寝不足でして」
 この調子で、ずっと小さく笑っている。
 特別列車がホームに滑り込んでくるのを今か今かと待ち構えている撮り鉄のようだ。
「いやぁ、楽しみで仕方なくてですね。一日千秋の思い、とはこの事を言うんでしょう。素敵なお誘い、これは是非とも本人に礼を言わねばなりませんね」
 目薬差しながら、わくわくどきどきである。
『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)は、隅っこでプルプル震えていた。
 皆には見えていないが、お耳、ペッタン、おしっぽ、ぺったんこである。
(恋や愛は、まだ分からないですね。お嬢様と殴り愛交流できたら、ちょっとは理解できるでしょうか)
 無理じゃないかなー。
 むしろ、そういう肉体言語による恋愛表現なんか、覚えない方が今後の人生幸せになれるんじゃないかなー。
(重傷は怖いですが、拳で語るなら、番長見習いとして、ぜひお手合わせお願いしたいです)
 そう。
 重傷、怖い。
 お嬢様は友好的だが、常に本気なのだ。
 限界ぎりぎりまで戦うのだ。
 怖い。
 だがしかし。
「番長」を目指す者として、お耳と尻尾がぺったんこになろうとも、踏みとどまらなければならない戦場がある!

(確かグループ交際とは複数の男女が集まって交流を深める行事のはず)
『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は、学習していた。
 市内のあちこちで催される懇親行事で食ってるだけという訳ではないのだ。
 俗に言う「砂吐きゾーン」やそれにまつわる知識も、ほんのちょっとくらいは仕入れているのだ。
(……で、今回その具体的な内容は、陣取り合戦(武力込み) ふむ、察するに、これは互いの戦術技量を競う催しですね)
 まったくもって、その通り。
 本日は、次元回廊内でのどつき合い陣取り合戦。否、陣取り合戦に名を借りた平たくどつき合い。
 先日の殴り合いを非常にお気に召されたお嬢様からのラブコールである。
『清らかなグループ交際』
 超訳すれば、「一人づつだとまだるっこしい! 皆まとめて、かかってこい! こっちも全力でどついたる!」である。
 壁や旗は、普通に殴ったらあっという間にお嬢様無双で終わってしまうという前回の反省から、お屋敷の『グループ交際対策委員会』により作られたルールだ。
 「今度の戦場は広くて見晴らしがいいんだね。ばびゅーんとフルスピードで走り回れるね!」
 『ものまね大好きっ娘』ティオ・ココナ(BNE002829)は、前回のビデオを見ていた。
 消失点も曖昧になる次元回廊。
 しかし、移動を終えたリベリスタの目に映ったのは、ジグザグに視線をさえぎる壁だ。
 ただまっすぐ突っ切っていけば、壁の後ろに隠れている敵の格好の餌食となる。
「グループ交際は、恋の駆け引き。抜け駆け厳禁。空気を読みながら、伴侶ゲットだぜ!」
 気がつくと、お嬢さまが腰に手を当て、きりりとお立ちになっている。
 本日のお嬢様は、メタルスカイのボディスーツに大きな帽子にリボンと羽がばいんばいん。
 マスクは無貌が正式な装いです。
 背後には燕尾服に顔の半分を覆う仮面の執事。
 更にその後ろに目元を覆う化面をつけた侍従、侍女、小姓が控えている。
 身分が上がるごとに、生身度が減っていくらしい。
「面子を揃えて待っていたわ!」
「本日は、ようこそお運びいただきまして……」
 まっすぐ言い放つお嬢様に、美しく礼をする執事。
「サーヴァントも完璧な状態よ、もちろん私と執事の補正済み!」
「各個体の能力も出来るだけ皆様に合わせるようにさせていただきました」
「何か知らんけどあたしは変に媚びるよーな男は大っきらいだから、その辺ヨロシク」
『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)も、「お嬢」である。
「獲物のイキは保証する!」
「サーヴァントの選抜におきましては、第五次選考までさせていただいた上、微調整にもそれなりの時間を費やさせていただきました。。皆様のお相手として恥ずかしい者はおりません」
「これ、すなわち幹事の責務!」
「正しい幹事のポーズ」をお決めになるお嬢さまに、桟敷席のお屋敷使用人一同から感動の拍手と啜り泣きまで聞こえてくる。
(お嬢様すげぇ。ますかれいどすげぇ。まぁ、神秘界隈のおじょー様って、大抵すげぇけど)
『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は、サメのような歯をむいてほくそ笑む。
(何にせよ、時は有限。騙る時間を惜しむ程には。それじゃ、恋物語りの始まり始まり)
 それは、無数の殴打で彩られると決まっているのだ。
「ふむ、良く分かりませんが、お嬢様が満足するまで戦って、最後まで立っていればいいんですか?」
『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)が、確認する。
「あ、これはヘクスなりの決まりなので接待でも言わせていただきますね。砕いて見せて下さい。越えて見せて下さい。この絶対鉄壁を!」
 お嬢様は、ふっとお笑いになった。
「攻略至難! 取りにいくわ、フラグを!」

(夫も子供もおる身で接待……背徳の香りが致します)
『水龍』水上 流(BNE003277)は、貞淑な人妻の恥らい。
 問題ありません。
 本日は、あくまで「清らかなグループ交際」です。
 やましいことなど何もありません。
(より強く、より高く、武を修める者の志。理想の己に思い焦がれ、業を磨き続ける)
 ここにいる流は、武人である。
(ならば彼女の言もまた真理。私も魂を燃やしましょう、天へと昇る龍に成らんが為)
 ただ、お嬢様的に翻訳すると、
「より美しく、より気高く、恋を修める者の志。理想の自分に思い焦がれ、恋愛テクニックを磨き続けるわ!」
「……良いでしょう、フロイライン。日夜研鑽した騎士の技と蓄積された戦闘経験をお魅せしよう」 
 アラストールの言に、お嬢さまは恥じらいをお見せになる。
 だって、それは。
「魅了宣言! どうしましょう」
 お嬢様、「ちょっとときめいた乙女のポーズ」
 桟敷席から、感歎のため息が漏れる。
 どうしましょう。
 決まってる。
 殴るのだ。
 恋の証として。

 三千世界の区別なく、「恋」は乙女を強くする!
 野郎や不詳?
 問題は、肉体性別ではない。
 心に乙女が住んでない方は、それなりに。
 

「それでは、ご歓談を!」
 それ、グループ交際違う、披露宴や。
 などと、突っ込んではいけない。
 お接待だから。
 猛然と突っ込んでいく前衛陣。
 ……と言っていいのか、猪突猛進系まぐめいがす六花とココナ。 
「見つけた敵が一人ならマジックミサイル、たくさんいたら魔曲・四重奏で一掃しちゃうよ!」
「目の前に誰か来たら、そいつ殴る!」
 体内魔力回路を派手に回して、六花、「ぱわーあぷ」完了だ。
 五人の侍従と三人の小姓がリベリスタの陣に向かって最奥から駆けて来る。
 お嬢様、二人の侍女は悠然とその背中を見ている。 
「今回の当家サーヴァントの調整に関して補足させていただきます」
 最後陣の執事がメガホン片手にしゃべり始めた。
「皆様十人分の戦闘力とスキルからお嬢様と私の分差し引きましたのち、改めて人数分に分割しております。尚、基本方針は「粘ってこうぜ」。で、ございます。よろしくお引き回しくださいますようお願いいたします」
「遅いよっ!」
 ソードミラージュ張りの速度を誇るティオの四種の魔力の奔流から逃れられない。
 哀れな一人が四つの災難に蝕まれる。
「一掃しちゃうよ! ……あれ?」
 予定では、皆まとめてのはずだったのだが?
 魔曲は、単体魔法だ。
 はい、ここ試験に出ます。
「一人また、恋の蟻地獄に落ちていく……」
 お嬢様、中指の先まで神経の通った悲しみのポーズ。
「だけれど、恋の炎は止まらない。淑女に恥をかかせてはいけない!」
 侍従の一人が動いた。
「青い瞳のお嬢さん、私、識別番号はー134号めの愛をお受け取り下さい!」
 あなたのハートを狙い打ちな精密攻撃!
 パクリ元は、弐升だ。
 ずぎゅんとティオのわがままバディを貫く恋の赤い糸。
 この胸の痛みはなぁに?
 この胸の奥から湧き上がってくる熱い想いはなぁに?
 これは恋?
 いや、違う。
 平たく、痛みとダメージと、BS怒りだ!
 お接待だから、口には出せないけど!
「なにすんのさ~!! もーおこっちゃうよ! あんただけはこの手でたお~す!」
「素敵ね! ツンだわ! あなただけ見つめてるってことね!」
 お嬢様、今のくだりがいたくお気に召したらしい。
「識別番号、は-134号、美味しい次周期のジャムを支給!」
「ありがたき幸せ!」
 あ、使用人ズ、本気だわ。
 福利厚生かかってる。


「お待たせいたしました。お嬢様。本日の恋占い、このように卦が出ております。侍従・小姓への配布も終了いたしました」
 侍女の一人、識別番号まー23号が、深々と頭を下げる。
「『今日のあなたは、とってもモテモテ! タイプが違う人にアタックされて戸惑うかも。自分の直感を信じて! ラッキーアイテムは大きな帽子』 ――完璧ね!」
 お嬢様の「完璧な乙女のポーズ」が炸裂した。
 吟遊詩人なら新たな詩を書き、音楽家も曲を捧げたくなる気高さである。
「御意に存じます」
 第一印象、超大事!
 お嬢様、ご出陣!

 メタルスカイのボディスーツが、放たれた矢のごとく、リベリスタの陣に飛んでくる。
 用意万端、後はお嬢様に拳という名の愛の洗礼を浴びせんとする男性陣より先に、目に付いた奴から殴る精神のまぐめいがすが飛び出した。
「ティオのことかー!」
 六花の叫びは様式美だ。
 激しい攻撃衝動は、倒れた仲間の名前を叫ぶものとなぜか刷り込まれているのだ。
(なぐりあえー、そして河原でゆうひをバックに、『おまえつよいな!』 『おまえもな!』 これでおK)
 実際OKだ。
 前回もそんな感じだった!
「恋は時に盲目!」
「アタイに惚れると、やけどするぜ!」
 実際、六花が詠唱し終え、もはや発動を待つばかりに貯めているのは雷の鎖だ。当たったら、やけどどころか焦げちゃうぜ。ビリビリだ。 
「惚れるようなアプローチを所望するわ!」
 メタルスカイの矢と雷の鎖の激しい激突!
「あわわわわ」
 雷の鎖の威力に、六花の制御が追いつかない。
 うねる鎖は、あさっての方向を薙いで行く。
 ぶっちゃけよう。
 雷の鎖、真正面から避けもせずに突っ込んできたお嬢さまと侍従を華麗にスルー。
「…………これが、『スベる』 私の燃え滾るハートに寒風を吹き込むとは、なんという恐ろしい心理攻撃!」
「……ふはははー。そうなのだー。攻撃なのだー。フェイントなのだー。故意にはそういうものが必要なのだー。知らんけどー。アタイのことがきになってるだろー」
 転んでもただでは起きない、生まれながらの主人公体質。
 体もそうだが、心もくじけない。
 それが、六花だ!
 ……でも、そろそろきちんと詠唱も覚えていこうね。
「アタイは、どこまでも立ちふさがるぞー」
「これが噂に聞くストーカー!?」
「声を大きくはしないのだー」
「声を潜めて、夜道を尾行!?」
「鼻の穴でもないのだー」
「ピーナツを目につっこむ!? なんて大胆なかくし芸!」
 お嬢様との不毛な会話に、六花の体力と魔力はどんどん削れて行く。
「少しなら、お付き合いしてもよくってよ!」
 六花には、お嬢様は「魔性の女」モードでのお付き合いだ。
「ま、まだなのだー」
 むくり。
 主人公たるもの、そう簡単にフェイトに手を出したりしないのだー。
 運命頼みなどしなくても、主人公たる者、「物語」が倒れてはならぬと起き上がらせてくれるのだー。
「まだなの」
「まだ」
「ま」
 運命頼み。
「まだなのだー!」
「まだな――」
 フェイドアウト。


 お嬢さまは止まらない。
「んじゃ、ま。ヤろうぜ。恋に駆け引きなんざいらねぇよな。こっから本番な?」
 お嬢さまの鼻先に現れたりりすは、歯をむき出した。
 笑ったのだ。
「そもそも、僕は避けるとか受けるとか、本当は嫌いなんだよ。スキルだの何だのなんて物は飾りだ。恋に飾りは不要だ。恋は惜しみなく奪う。尊厳さえも踏みにじり」
「恋」の思い出の品だけが、りりすの手に残る。
「ま、ワイルド」
 お嬢様、「たしなみある淑女のポーズ」
「さすがでございます、お嬢様。美女と野獣の対比は、黄金律でございます」
 執事、数十メートルの距離をものともせず、お嬢様への賛辞を叫ぶ。
「讃えなさい」
「機を見て敏」
「より格調高く!」
「ひときわ可憐でございます!」
「その路線で行くわ!」
 可憐な乙女の恋の発露は、顔面へのスナップを効かせた平手打ちのみが許されております。
 腹パン? アリエナイ。
 見た目の年齢12歳から行けばやや高めとはいえ、りりすの背は、ピンヒールのお嬢様より目線は下だ。
 空気がが破裂する音がした。
 痩身のりりすの首がもげて、壁に血花を咲かせる幻視さえ見えた気がする壮絶な平手打ち。
 本人の言ったとおり、避けもせず、受けもせずに、まともに決まったそれ。
 駆け出し革醒者なら命に関わる一撃を浴びて、なおりりすは痛々しく変形した左半面をものともせずに、歯をむき出し、お嬢様に正対する。
 そして、ナイフを振るう手さえ視界から消失する、音速切りの斬撃。
 お嬢様も、避けも避けもしなかった。
 ナイフに伝わる感触は硬質。
 お嬢様の仮面一面に、細かいひびが走った。


 先ほど自己申告があったとおり、雅は媚びた男が嫌いだ。
「お初にお目にかかります。私識別番号す-235と申します!」
「私は、もー985でございます!」
「このたび、皆様との楽しいグループ交際の一翼を担わせていただきます!」
「不束者ですが、よろしくお願いいたします!」
 では、言葉遣いがやたらと丁寧だが、積極的にどつきに来る男はどんな感じなのだろう。
(恋愛だって戦闘だって、ようは相手をノックダウンさせれば勝ちなのよ。何も違いは無いわ)
 いや、略奪婚って訳じゃないから。
 その発想はいかがなものかと思うぞ。
 できればボトム・チャンネルでの恋愛沙汰は、穏便な手段で比喩的ノックダウンを奪いに行っていただきたい。
(グループ交際もそうでしょ? やった事ないけどそうに違いないわ)
 願わくば、雅の勘違いを誰かが正してくれますように。
「恋は劇薬ってな! あたしの魅力に痺れるがいいわ!」
 そんな超強気今時の大和撫子の愛の発露は、まったく平等に、見境なく、彼女の手足が届く全ての範囲を叩いて蹴飛ばし貫き殴って踏みにじる。
 強靭な一撃と、あふれんばかりの殺意――いや、今は愛だ――に突き動かされて行われる凶行だ。
 その暴れっぷりに、本人さえも手足から血を流す。
(お嬢様の相手は基本的に特定の人に任せる。グループ交際で同性が喋る必要ないでしょ)
 雅の視線の先、好き好んでお嬢様の「恋」の相手を務める二人がいた。


 お嬢様の陣、壁に寄りかかるようにしてティオは、肩で息をしていた。
「ようやく、倒れた……」
 ティオのココロを怒りで染めた識別番号はー134号は、やり遂げた男の顔で床に転がっている。
 かくいうティオもボロボロだ。
 ソラの福音召喚の恩恵を受けていたが、なりふり構わず怒りの元に魔法の矢を乱発していたので、すっかり孤立していた。
 すでに恩寵も使用済み。
 お嬢さまと執事が陣を離れたら……と思っていたが、執事が陣を出る様子はない。
「愛は直球一本勝負、全力ストレートで当たって砕けろ!……って、お嬢様用の台詞も用意してたんだけどな……」
 図らずも、ティオのグループ交際はそんな感じで終始することとなった。
「本を読んでて見たセリフだから、意味は分かんないけどね」
 ゆっくりと意識が遠のいていった。
 

 りりすと、どのくらい打ち合っただろう。
 りりすには、ソラから。
 お嬢様には、侍女の一人、の-654号からの肉体治癒を受けているが、二人ともノーガードで打ち合っている為、完全に傷が癒えることはない。
 大技を駆使するりりすと、的確に平手を繰り返すお嬢様。
 魔力の総量が、徐々にりりすを追い込んでいた。
 お嬢様が何かおっしゃるごとに、ごっそりと削れて行く魔力という名の気合。
 お嬢様が魔性の女と自ら名乗るのも過言ではないのだ。
 性的ではない意味で。
(フェイントもへったくれも無く。一撃を叩き込む。叩き込んだ後は、相手の攻撃を待つ。受けず。避けず。耐えるのみ)
 鏡のような回廊に叩きつけられ、頭の芯がぐらぐらする。
(シンプルなのがイイ。お互いに一撃ずつ、叩き込み合って、先に倒れた方が「失恋」するだけだ)
 うっとりするくらいゆっくりとしたスピードで、視界の隅から白くなる。
 気合が抜けていくという奴だ。
(。EP尽きるくらい頑張れば、他の子への義理も果たしたよね。抜け駆けとかにゃならないよな?)
 ホワイトアウト。
 この場から、速やかに退場。 
 担架に載せられてさようなら。だ。
「持てる物は、全部吐き出して、ナンボだろ」
 諦めざる者よ。
 運命が、その萎えた足を立たせよう。
 音もなく、気配もなく、無言で立ち上がるりりす。
「恋の狩人たるもの、獲物に引導を渡すのは、義務!」
 打ち砕かれ表面装甲が落ちているお嬢様の仮面が蛍火のように発光する。
「恋愛思考ルーチンを143から896まで並列処理。ときめきアクシデントの確率が3倍になるように因果律を計算。更なる恋心の表現に努める」
  チーンと、電子レンジみたいな音がした。
「心の壁を取り払うべく、『あなたのハートに直接アタック』開始」
 不意に、お嬢さまの動きが変わった。
 より俊敏かつ華麗な動き。
「この間来た人達の動きを演算に入れてみた!」
 お嬢様もまた、研鑽を重ねているのだ。
「恋する乙女は、怒涛の一手!」
 お嬢様もまた、無傷ではありえない。 
 切り刻まれて、麻痺した五体を意志の力でねじ伏せ、有無を言わせぬ腕力をごく一点に絞り込む。
 それが、恋のお相手への敬意であり礼儀だ。
 りりすのハート――と書いて心臓と読む――にアタック――という名の徹し――を決めたお嬢様。 
「――グループ交際志望だっけ?」
 すでに原形をとどめないほど顔を腫れ上がらせたりりすが呟く。
 粉々になった仮面をかろうじて片手でキープしたからお嬢様の血化粧が施された唇がのぞく。
「これ以上はない第一印象」
 最終的にはタフさが明暗を分けた。
「グループ交際、一は全、全は一。この上なく清らかな交際」
お嬢さまは、「示されるべき覚悟のポーズ」を決められた。 
「これ以上あなたを独占してはマナー違反」
 パラリとまた、お嬢様の仮面の破片が鏡面のような床に落ちた。
「いけません。お嬢様には、お色直しが必要です。タイムアウトを要求します!」
 執事の号令で、あっという間に回廊のど真ん中に天幕が張られ、お嬢様の帽子と仮面が取り替えられた。
「ピットイン、ピットアウトは、最速を目指す!」
 蒸着!
 ざきざきに切り刻まれたボディスーツはそのままだ。
「恋の遍歴をあえてさらすのが、誠意をもったお付き合いの第一歩!」
 指の先まで気合の入ったお嬢様の「潔い女のポーズ」に、全使用人が泣いた。
 

「お友達から、よろしくお願いします!」
「ごめんなさい、まだ認識番号ありません!」
 子犬のような可愛い小姓たちが、リベリスタの旗に殺到する。
 アラストールは、容赦ない。
 小姓の前に立ちふさがり、幅広の刃に鉄槌の気を宿らせ、小姓目掛けて叩きつける。
「攻める恋は、お好きですか?  その愛、受けて立ちます!」 
 壱和が、何度も集中という名の啖呵の言い直しを経て、きりりと小姓に言い放った。
「なんと言うお覚悟!」
「ぜひともお近づきに!」
 この小姓ども、子犬の顔して肉食系!
 壱羽がチワワなら、小姓達は、ミニチュアピンシャー!
「ご趣味は!?」
「拳と蹴り、どちらがお好きですか!?」 
「支援系なんですね。いつかご一緒に演習など……」
 微妙なアプローチトークと共に繰り出される攻撃に、壱和は専守防衛。
 曖昧な笑顔で、首を振るでもなく、振らぬでもなく。
(まだ恋だの愛だのわかりませんから、その気持ち、全力で受け止めます!
怖いですけど、受け止めれるくらいには成長したんですよ)
 初陣から一月足らず。
 せっせと依頼に足を運び、経験をつみ、戦闘官僚の末席に連ねた。
 そして、今。
「えっと。チャームポイントは――」
 予期せぬローキックが炸裂する。
「意外性です」 


「群体筆頭、アノニマスと申します。此の度のお誘い、直接礼を言いたく参上した次第です」
 弐升の熱のこもった瞳を見れば、人は言うだろう。
「彼は、恋をしている」と。
(貴女と語らえるこの時をどれだけ待った事か。存分に楽しみましょう?)
 弐升は自分の番が回ってくるのを、じっと待っていたのだ。
 論理決闘者の名に掛けて、お嬢様の一挙手一投足を全て自らの戦闘思考に刻み付けていた。
 練り上げた戦闘計算結果を、詩歌かを献上するがごとくお嬢さまに叩きつける。
「美しい式だわ」
 お嬢様はうっとりと呟かれる。
「ならば、お返しするのがホワイトデー!」
 つっこんではけない、お接待。
 翡翠色に輝くお嬢様の仮面。
 弐升との間に恋の駆け引きともいうべき、繊細かつ大胆な技巧が積み重なる。
 思考戦闘の使い手同士が指先で探り合うような。
 わずかな動きが次の一手を生み、臨界を迎えたとき互いの体に有効打が叩き込まれる。
 さながらそれは即興での舞踏。
 闘気に酩酊し、耽溺したくなる一瞬だ。
「貴女の言葉、体にも心にもとても響く。とても、とても愉しいです。もっと語らいましょう?」
(嗚呼、殴り愛とはまさにこの事。この気持ち、まさしく愛だ!)
 至福の時間は無数の戦闘式に変わり、二人の間に渦巻いていく。


 侍従、小姓は言うに及ばず、回復の為、侍女も出陣した。
 お嬢様側の陣を守るは、執事のみ。
 たとえ、口実に過ぎないとしても、これが「陣取り合戦」である以上、全力で「勝ち」にいくのがお接待!
「我、水上流が祈り奉る。水龍が霊威、顕現せしめん!」
 吹き上がる水の気配が流れの闘気だ。
 手にした太刀の銘は瀧丸。
 その切っ先を執事に向け、群がらんとする侍従、小姓に言い放つ。
「我が太刀打ちを望むは其方唯一人。邪魔立てする者は我が太刀の露と消えるものと心得よ!」
「ははっ、しかと!」
「お相手仕ります!」
「障害があるほど、恋は燃え上がるもの!」
 お嬢様は、新たな「恋」の形をたいそうお喜びだ。
「でも、私、執事の恋は見たことない」
 お嬢様は、記憶検索に若干の回路を回した。
 弐升が痛打を生む。
「この時間を誰にも邪魔されたくないのです。――貴女自身にさえも」
「――素敵」
 お嬢様は、「感銘を受けたポーズ」をとられた。 

 流自身がわかっている。
 この場にいる誰よりも、流れが神秘を受け入れる器が出来ていないことを。
 招かれたリベリスタの誰と「交際」しても失礼のないよう調整されたサーヴァント。
 つまり、流には全てが強敵ということだ。
 傷を受ければ骨身に響き、操れる魔力も限られている。
 侍従から受けた毒で、目がかすんでくる……。
「しっかりしなよ! 相手にやられてばっかじゃ愛は成り立たねえぞ!」
 凶事払いの光が、流を照らす。
 雅が、流の横に並んだ。
「旗、取りに行くよ」
 それまで中盤で侍従、小姓を蹂躙していた雅が肩で息をしている。
 ソラの治療サポートがあったとはいえ、獅子奮迅の働きだった。
「能力が上だろうがなんだろうが負けるつもりは毛頭無ェ」
 行けと、流の背中を押す。
「恋愛だろーがなんだろーが、あたしが下に立つなんてあっていいはずがねーってのよ!」
 ワールドイズマイン。
 活性化させていなくても、その思いは変わらない。
 そして、自分もその後を追う。
「っつーわけだ、あたしの愛を受け止めれるなら留めてみやがれってーのよ!」
 雅の愛の発露は、無頼の拳。
 まだ動ける侍従が追いすがるのを、ぶん殴る。
 旗まで、後、20メートル足らず。


 「――当家使用人との交際、楽しんでいただけましたでしょうか」
 旗の前にいた執事が、深々とおじぎをした。
「存分に」
「それは、ようございました」
 背後には、侍従、小姓が転がっている。
 流の直垂は、すでに己の血でまだれ染めになっていた。
 つややかな黒髪はほつれ、頬の切り傷が痛々しい。
 今、執事の前に立っているのは、意地だ。
「この私も運命を背負うことが出来たわ……」
 流れの頬に笑みが浮かぶ。
 命の際が見えた境地。
 運命に愛されているという実感。
 恩寵を使い、この次倒れればこの場で再び立ち上がることもないだろう。
 その背後にソラと雅。
 二人とも、傷こそないがその痕跡でボロボロだ。
 今、流がここに立っているのは、ソラが流を癒し、雅が背後を固め、追いすがる侍従、小姓をなぎ払ってきたからだ。
「どうぞ、万全のご準備を……」
「痛み入ります」
 そのままでは及ばない。
 流は息を整える。
 執事に向けると決めた打ち込み、持てる魔力をもってしても後三発。
 最上の一発を撃ちたかった。


「龍、天に昇る――瀧丸!」」
 切っ先に集められた流れの闘気が、竜のあぎとのごとく執事に目掛けて踊りこむ。
 旗の前に陣取っていた執事の足がずずずっと音を立てて後ろに下がった。
「お嬢様、申し訳ありません。私の来周期の美味しいジャムは、三周期先までなしという方向にしていただいてよろしいでしょうか。当家執事としていかがなものかと……」
「今日は楽しいグループ交際。誰かの美点を褒め称えることはあっても、失点をあげつらうことはマナー違反。よって……」
 お嬢様が、「激励のポーズ」をおとりになると、回廊が震えるほどの歓声が沸き起こった。
「何か感じるものがあるならば、自らの『愛』で帳消しにすればいい!」
「まさしくその通りでございます。お嬢様。先代様がお聞きになられれば、どれほどお喜びでございましょうか」
「讃えなさい」
「ご寛容な」
「より前衛的に」
「おじょーちゃま、ちょーいけてるー」
「……前衛は、やめておくことにする」
「ご卓見です。それでは、お客様方。私、誠意をこめまして、皆様方と交際をさせていただきます」
 気配で分かる。
 この執事、頑健。
 容易に攻め込めない。
「それでは、皆様。ごきげんよう」
 破裂音。
 ――を聞いたと思ったとたん、今まで普通にたっていたのが不思議なくらい空気が重い。
 伏した流は起き上がってこられない。
 雅も、震える膝を手で支え、かろうじて立っている状態だ。
「――全力尽くすといったら全力を尽くすの」
 ソラの魔力も残り少ない。
 天使の歌と雷の鎖を駆使していたため、お嬢様との気合が抜ける会話をしていなくても、そろそろ終わりが見えてきていた。
「ソミラとマグメとホリメのごった煮の力、見せつけてあげるわ!」
 ごった煮は、闘いの中で選択してきた結果。
 やるときはやるソラ先生は、おそらくこれで最後の天使の歌を召喚した。


「……お嬢様は当然。執事も油断ならない」
 勘だが。と、アラストールは言った。
「相手の側の戦力が減り、旗に過剰な防衛が必要無いと判断した」
 アラストール、出陣。
 壱和は、小姓と交際中。
 一人は、転がした。
「もう少しお話していたかった。お話できて楽しかったです」
 もう一人には転がされた。
 しかし、ここでおねんねしてしまう訳には行かない。
 運命よ、恩寵をもたらせ!
「愛は拳で語るもの!」
 壱和は、立ち上がり、背お向けかけた小姓に叫ぶ。
「恋とかわからないですが、貴方たちみたいな人は大好きです。思う存分、語らいましょう!!」
 壱和の言葉を聞き逃さなかったお嬢様が、交際中の執事に言い放つ。
「そこの小姓がモテている。侍従見習いに昇進。昇進手続きを済ませなさい!」
「――では、認識番号れー16818番で」
「今日から、そのように名乗りなさい!」 
 お嬢さまから直接お言葉を賜り、小姓は感動の涙を流す。
「はい! お客様、改めまして、私、れー16818番でございます! よろしくお願い致します!」
 16818?
「え、あ、はい」
 壱和は、内心首をかしげた。
 なんで?

「あら、すれ違い」
 良いグループ交際が見られてご満悦のお嬢様が、アラストールの間合いにいる。
 弐升は、息を切らせて、片手を挙げた。
「お嬢様のような淑女を独り占めするのは、罪ですからね」
(嗚呼、時よ止まれ。貴女は美しい……!)
 しかし、時間は止まらない。
 お嬢様のとの珠玉の時間を汚すことは許せない。
 たとえ、それが自分自身であっても。
 全力でかかれないなら、いったん退く。
「フロイライン、人数あわせでは私達の相手には役不足だったようだ。一手ダンスの申し込みをさせていただきたい」
「よろしくてよ?」
 お嬢様が構えようとするのを、アラストールは手で制した。
「しかし、その前に、執事殿にご退席願いたく思うのです」
「うちのはしぶとくてよ? 当家基準攻略難易度、特A! 倒れそうで、攻略できない。いうなれば、デレツン! 実際のところ見たことはないのだけど」
「望むところです、お嬢様」
「そうね。グループ交際だから、私だけハーレムなのもよくないわね」
「御意」 
 お嬢様とアラストールはすれ違った。
「私も、攻略最強難度へ」
「――ご縁のありますように」


「完全鉄壁、破りに来たわ!」
 お嬢様の前にたとふさがるヘクスに、お嬢様は「有言実行」のポーズ。
 蛍火のように輝く仮面は、装甲素通し攻撃へのフラグ……じゃなかった、準備行動である。
「お嬢様、これはグループ交際ですから、2人っきりでこうやって愛をはぐくんでいてはいけないと思いませんか?」
「絶対鉄壁」を軽くスルーされたら、ヘクスのアイデンティティーに抵触する。 
「お嬢様なら平等に愛する事もできるはずです」    
 よって、時間稼ぎの恋愛トークだ。
「えぇ、ヘクスが全部受け止めて差し上げます。お嬢様の愛も執事さんの愛も召使さんの愛も全て受け止めさせていただきますよ? ヘクスは受け身か噛みつくかしか出来ない不束者ですが……今回は一緒に楽しみましょう」
 ふむ。と、お嬢様は沈思黙考。
「絶対鉄壁を迂回するのは、チートルート」
 そういうことです、おじょうさま!
「攻略してこその、ステイタス!」
 まったくもって。
「では、ガードを固めなさい。貴女が攻略できるまで、この恋は止められないわ」
 お嬢様は、完全恋愛攻略計画本編134ページを実行された。


 お嬢様の陣、最深部。 
 流が。ソラが。
 そして、今、雅が。
「なんだかんだいって、ちょっと楽しかった――」
 にやりと笑って、その場に崩れ落ちた。
 その向こうに、執事。
 ふらつく足元と汚れた燕尾服。
 何よりひび割れた仮面が、決して少なくないダメージを被っていることを物語っている。
 それでも、執事は、三人のリベリスタを退けた。
「執事殿。私は勝負として考えれば、貴方が一番油断ならないと考えています」
 アラストールが剣を構えるのに、執事はごく自然に手を体の前で組んだ。
「これは……モテ期到来という解釈であっておりますでしょうか」
「ええ、まったくおどけでないほど」
「あなた様と良い交際が出来れば、晴れやかな気分でお嬢さまの前に立てるのではと期待しております」
「では、ご期待に沿えるよう、全力を尽くしましょう」
 アラストールは間合いをつめた。
「参ります」
 心をこめ、思いをこめて、アラストールは大上段から執事目掛けて愛剣を振り下ろした。


 ヘクスは鉄壁だ。
「まずは、心の垣根を取り払い!」
 お嬢さまは鮮やかな不意打ちを決められた。
 ヘクスの防御加護や自動治癒加護が一気に粉砕される。
「君の本当の心を見せて!」
 そんな心でヘクスの心をかき乱し、ガードを弱める。
 その効果は極微小なものだったが、崩されたことにヘクスの心に動揺が走る。
 それでなくとも、お嬢さまの言葉を聴くと、魔力が削れていくというのに。
 だが、ヘクスは鉄壁だ。
「すごくかたい」
「崩せるものなら……」
 ビン底眼鏡の下の黒い瞳が挑戦的な光を放つ。
 絶対鉄壁の前に崩れ落ちるものを見るのが、ヘクス至福の一瞬なのだ。
「鉄壁を崩す為なら、百晩通う。恋路で手間を惜しんではいけない!」
 お嬢様は生真面目に、ヘクスとの「交際」に邁進する。
 鉄の扉をすり抜けて、徐々にお嬢さまの攻撃の精度が上がってきていた。


「堅牢ですな。隙がありません。下手に攻めるとこちらが手傷を負ってしまいます」
 執事の白手袋に包まれた手が赤く染まっている。
 だが、殴られたアラストールのダメージも相応のものだった。
 執事の攻撃は苛烈だった。
 アラストールの硬い装甲の隙を突いて、徐々にその体力を奪っていく。
 しかし、堅牢なのは執事も同じことだった。
 いや、アラストールの堅牢さとは若干種類が異なる。
 攻撃しても、手応えがない。
 攻めどころをずらされている。
「それにしても痺れますな。これが『雷で打たれるような衝撃』 一目ぼれとはこういうことでしょうか」
「そういうこともあるのですか。ならば、そうかもしれません、執事殿」
 まじめ系勘違いアラストールに、「お接待」は無理だ。
 ゆえに、この発言は本気と書いてマジと読む。
「では、私、あなたにメロメロでございます」
「それは光栄です」
 アラストールは丁寧に礼を言い、再び大上段に剣を構えた。
 好機だった。
「報いなくてはなりません」


 ヘクスが、前のめりに倒れた。
「楽しい時間はあっという間に過ぎていくわ」
 お嬢様、「光陰矢のごとし」のポーズを決められた。
「ああ、そうそう。旗をとらなければ」
 一応陣取りの形式を採用した以上、その形式は尊重されるべきだ。
「お待ちください」 
 ヘクスの声にお嬢様は振り返る。
「ヘクスは、絶対鉄壁は、まだ崩れておりません」
 諦めの悪い者に、恩寵を。
「旗を囮になっても、ヘクスの心を奪ったことにはなりませんよ。ヘクスはまだ攻略されておりませんから」
 お嬢様は、「ちょっとびっくり」のポーズをとられた。
「あの状態から立ち上がるとは、ちょっとまったぁ! な感じ」
 お嬢様は、盾を構えなおすヘクスに向き直った。
「様々な恋に身を任せ、私の行動ハートはあと一つ。てくだも全て使い果たしたから、普通に恋を表現するだけ。それで、この周期の行動は終了」
 お嬢様は、「一か八か」のポーズをとられた。 
「旗をとって終わらせようと思ったけれど、恋に終始するのもまた一興」
 お嬢様は、仮面の下でお笑いになったように思われた。
「さあ、最終イベント。あなたが立っていれたなら、この旗は持っていかない」


 アラストールの剣は、執事を正確に捉えたが、執事はかろうじて踏みとどまった。
 ヘクスの盾は、お嬢様の拳を相殺し、ヘクスはかろうじて踏みとどまった。

 壱和は、小姓改め侍従見習い、れー16818番と「交際」していた
 
 弐升は、再びお嬢さまと存分に戦う為、無限機関に意識を集中させていた。

 お嬢様は、仮面の下で微笑んだ。
「私の力もここまでね。一休みしましょう」

 桟敷席から惜しみない拍手が降り注いだ。


「――お茶がすんだら、後半戦ね」
 お嬢様が、「次はフラグ奪取」のポーズをとられた。
「人数はきちんと調整するから、心配しなくて良いのよ」
『それはもう、タフな方よ』
 リベリスタの耳に、イヴが言った言葉がこだまする。
 いい匂い。
 お茶の支度が出来たようだ。
 ひっくり返っている連中を、どうにかして起こさなければ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 ブロック硬くて、殲滅戦になりました。
 旗とる前に、お嬢様がガス欠。
 こちらも執事が奮戦したから、よしとするかぁ。

 お嬢さまは、いたく満足なさいました。
 文句なしの成功でございます。
 後半戦?
 あっはっは、お嬢さまのエスプリの聞いたジョークですよ、ええたぶん。きっと。
 いや、リベリスタの前に田奈が死ぬので、勘弁して下さい。
 ゆっくり休んで、次のお仕事がんばって下さいね。