●ヤサシキデコレイト 常々思っていたことではあるのだが、この男は地味過ぎるのだ。渋い。ハードボイルド。そう言えば聴こえもいいのだろうが、如何せん幸薄さが全身に滲み出過ぎている。これではいけない。非常にいけない。助けてあげなければならない。よって、これはそう思えばこその行動である。つまるところ、善意以外の何ものでもないのだ。であるからには、何ら遠慮することはない。堂々と胸を張り、事を成そうではないか。夜中に忍び込んでいるのは単にサプライズを装いたかったからでこそこそしているわけではないのである。 鐘がなる。びくりと身体を縮みこませたが、何のことはない。時報である。居間にある時計がなったのだろう。まったく人騒がせな話だが、このオーソドックスさも地味さに環をかけているのだろう。暖炉に、安楽椅子に、重厚な書物。確かに似合う。この男には確かにそれが似合っている。だが違う。そうではない。そうであってはならない。 事を済ませたことで、大きく息をついた。完成だ。我ながら会心の出来。物音。全身が総毛立つ。男の声だが、どうやら起きてきたわけではないらしい。寝言か。人騒がせな。冷や汗を拭って、部屋を出ることにした。物音は立てない。それは夜目と合わせた私の特技である。 玄関をかいくぐり、外へ。夜の空気。殺人鬼の時間ではあるものの、今はそんなことも気にならない。なにせ、自分はやり遂げたのだ。あの男のために。きっと、喜んでくれるに違いない。 伸びをする。深夜に活動したものだから、酷く眠い。帰って寝直そう。今日はいい夢が見れそうだ。 ほくそ笑む。ほくそ笑んでいる。清々しい。晴れやかな気分だ。後先のことは何も考えず、そうして私は、逆貫邸を後にした。 ●マエムキエリミネイト 「さかぬきんが好きかあああああああああああああ!!?」 その日、集まった彼らに向けて。壇上でそのクソ猫、『SchranzC』キャドラ・タドラ(nBNE000205)は拳を振り上げた。その声にあがる。歓声、歓声、歓声。感情の奔流に、行き交う人々は何事かと目を向けたものだが。その中心に立つのがこの猫だと気づけば、巻き込まれぬようにとその場を駆け出した。 「大好きかああああああああああああああああああ!!?」 歓声、歓声、歓声。スピーカー音量をも掻き消す勢いで、彼らは叫ぶ。それは祭だ。そう、今から祭が始まるのだ。 「悪戯してえかああああああああああああああああ!!?」 話が進まないので概要を説明しよう。キャドラが良かれと(本人談)思い『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)の眼帯裏にキャドラマークなるものを書いたのだが、どうやらそれは非常に大切なものであったらしい。こいつはやべえことやっちまった。見つかる前にあれ消さなきゃならない。しかしどういうわけか、朝から逆貫氏が強烈な敵意を自分に向けているせいでひとりではどうにもならないのだという。さらにはリベリスタまで構えてくるという始末。こうなりゃこっちも用意するしかねえ。数だ。戦争は数だよ室長。 そうして集められた結果がこれである。どうしてこうなった。 それぞれに配られるピコペコハンマー。これが今回の武器だ。これ以外には認められない。武具禁止。スキル禁止。人に迷惑かけない。OK? 勝敗条件を定めておこう。向こうが用意したリベリスタを掻い潜り、彼の眼帯を奪えばこちらの勝利。逃げ切られるか、猫がしばかれたら敗北である。 「ニューヨークに行きたいかあああああああああああ!!?」 ルールは理解した。好し。じゃあ始めて行こうか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月02日(土)23:45 |
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■メイン参加者 23人■ | |||||
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●アザムキトルネイド ここを書いていると字数がヤバイので省略。 「タウリン2グラムってどんだけ凄いんだッァアアアアアアアアア!!」 最早その掛け声は意味不明なものと化していたが。それでも、士気は向上する。高まる。高ぶっていく。まあなんだ。多分割と、猫自身も本来の目的を忘れてきている気がする。いいじゃないか。何かこう、日頃溜まったものを吐き出してしまおう。 「はじめちょろちょろあとぱっぱッァアアアアアアアアアアアアア!!」 でも、そろそろ喧しい。 とりあえず始めていこうか。目標、あのマッカーサーの眼帯。敵数八名全員強豪。 では、出陣。 ●サカヌキドライアド 偵察。それは戦術においても非常に重要な位置を占めるであろう役割のひとつだ。戦いというものは常に情報戦。始まってしまえばそれはもう終わっていると言ってもいい。重要なのは開始前なのである。 では、それはどのように行なうべきであろう。地上から。この広大な街中では難しい。地中から。覚醒としてのそれは却下だ。では、どうしよう。決まっている。空中からだ。 エレオノーラが飛んでいる。空から情報を得ている。だが彼女のそれはスキルに依るものではない。天然だ。翼が生えているんだもの。自前だからOK。きっとパンツじゃないから云々と同じような感じだ。 「こちらチェシャ猫Ⅱ、アリスは見えないウサギを追いかけているわ」 その通信を受け取ったチャイカが仲間に合図を送る。ヘッドホンから響くそれは、仲間にも理解できない言語だ。授業で眠気眼に聴いたものとは違うので、英語ではないようだが。 「やー、しゅてっぷくぁるつぃえら! しゅとぶなーちぇつ、すとらつぇぎあ!」 それをロシア語と分からない者たちには、何を言っているのか分からない。でも、なんかかっこいい。外国語ってそういうものだ。 チャイカが腕を振り上げる。それを合図として、リベリスタ達は走り始めた。敵影補足。これより作戦を開始する。 「こちらクィーン、アリス4さんがお城2Fでお茶会を始めました。席の空きは4つです。早めにご参加をー!」 それは日本語だったが、そっちもよくわかんなかった。 考えてみよう。今回の対立は猫とおっさん、つまりはビーストハーフとジーニアスの対決である。獣と人が争い合っているわけで。では、どちらに味方するべきか。アーネストからすれば、答は自ずと知れたものだった。そりゃあアニマル優先である。 相手の居場所はわかっている。目標の傍には向こう側のリベリスタが固まっているようで。どうにも、専守防衛を作戦としているのだろう。 だが、場所がわかっている以上こちらが有利である。ただ逃げまわっていたとしても、こちらには相手の位置が丸わかりなのだ。壁に隠れ、植え込みに潜み、奇襲するべきは今。走る。走る。襲撃する。近接して、ピコハンでどついて。軽快な音を鳴らして。そしてダッシュ。 悪戯をしたいかと問われれば、 「僕は眼帯じじいより、ねこさんに悪戯したい。せくはらしたい」 とのことなので、ならばするしかないのである。せくはらをするしかないのである。もう一回くらい言っとくか。せくはらをするしかないのである。いやらしい行為の後に、ぱんつを履かせるのだ。無理矢理に。無理矢理にだ。 だから報酬としてせくはら券をゲットするために、りりすは敵陣へ向かうのである。カラーボールを投げつけた。コンビニでこれみよがしに置いてるアレだ。着色は囮。本命は進路誘導。細い道にさしかかれば、接近戦に踊り出た。 敵の妨害をすり抜けて、眼帯じじいのトレードマークを奪い去る。一息。だがそこには、ハズレの三文字が。 竜一は、連絡こそ取り合っているものの、仲間にすら自分の位置情報を明かしてはいなかった。これから自分のすることを思えば、警戒心も強くなる。きっと、獅子身中の虫に等しい。逆貫に恨みがあるわけではないが、これも仕事である。涙を堪えよう。いつだって、楽しいことばかりじゃない。悲しみを乗り越えて、男は強くなるのだから。 というわけで足止めを名目に男以外という表現すら生ぬるく抱きついて頬ずりして廻ることでいやんばかりゅーいちくんえっちいとかなんとかしたかったりしたのだが。 そこはほら、周りも理解してくれている。そうか君はつまり(わかっていたけど)そういうやつだったんだな。誰も、突っ込んでくれなかったのさ。 「これより作戦コード【サンプル】を開始します!」 のっけから書く側が迷うことを言ってくれる。これ本当に仮プレじゃないんだよな? な? 亘とルアが走る。どこを。屋根の上を。駆け抜ける。凄いぞ、すり替えておいた人みたいだ。だが。 「ぴゃーーーー?!」 足元注意。人は地面がなければ落ちるものだ。気づいた亘が、林檎が落ちる法則に逆らいその先へで待ち構えている。 「もう……張り切るのはいいですが足元は見なきゃ駄目ですよ」 頭を、ぽふぽふと。ルアに満面の笑み。あれだろ、ほのぼのってこれ6000字書くんだろ。STってスゲェよな。これで笑ってるのが殺人鬼とかなら余裕でハイパー文字数タイム突入するのに。 「ふふ、でも、ここで会えたのは何かの運命ですかね。どうせならアークの最速コンビとして逆貫さんを追いましょうか!」 誰かフォーチュナーがこれを見れば、きっと言うに違いない。なんて勿体無い、なんでこんな馬鹿騒ぎに使ってるんだ。でもあいにくうちにはフォーチュナーいないし関係なかった。 目標捕捉。その手に掴め。それは人と天使の加速劇。 「ルアちゃん、いっけぇぇぇぇぇ!」 「サカヌキさあああんっ!」 掴んだそれを離さない。手に取り、確かめた。だが、違和感に気づく。何かがおかしい。ふたりは、それぞれが手に入れた眼帯を持って顔を見合わせる。それぞれ、が。 何故、何重にも眼帯を。見やれば、はっきりと分かるハズレ印。牛丼好きの王子か貴様。 世の中、変態って居るもので。 「逆貫! 逆貫! 逆貫! 逆貫ぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!! あぁああああ……ああ……あっあっー! あぁああああああ!! 逆貫逆貫逆貫ぅううぁわぁああああ!! あぁクンカクンカ! クンカクンカ! スーハースーハー! スーハースーハー! いい匂いだわぁん……くんくんんはぁっ! 陽立逆貫んの灰混じりの黒色の髪をクンカクンカしたいわぁん! クンカクンカ! あぁあ!! 間違えた!眼孔ぺろぺろしたいわぁん! ぺろぺろ! ぺろぺろ! ぺろぺろ! お肌モフモフ! カリカリモフモフ……きゅんきゅんきゅい!! デコ車椅子の逆貫たんかわいかっt―――」 おまわりさんこっちです。 ステイシーが帰ったのは三日後だったとか。 戦闘において、武器は重要だ。あればあるほど良い。だから、弐升は二刀流用投擲用と大量に得物を用意していた。両手にピコハン。背中に縛り付けた無数のピコハン。腰にもピコハン。かっこいい。 「さて、ヌルリといこう」 俺、戦闘屋。的な格好をしている彼であるのだが、馬鹿正直に突っ込んでいくような真似はしない。他の仲間達が突撃したのを見て、それに紛れるように攻撃を仕掛けていく。投げつけるピコハン。牽制にしかならないが、そこで出来た隙を二刀ピコハンで殴りつける。まあ所詮はピコハン。あっさりと防がれはするのだが。 「馬鹿め、こちらは本命だ!」 ドヤ顔である。囮と思ったか、馬鹿め。的な。結局のところ、特攻なのだ。 烏頭森からすれば。何かと、気に入らなかったのだ。あのハードボイルドを気取った眼帯が。だから、愉快な目にあってもらおう。楽しく、おかしく。そういう目に合えばいいのだ。 戦闘中。交戦中である。見ろ、味方が敵がリベリスタが争っている。争い合っている。狙うは奇襲、あるのみだ。横合いから飛び出して、攻撃を仕掛けるのだ。突然現れたそれに、流石の老兵も驚きを隠せない。一瞬の虚。それは、逃げ切るには致命的な間であった。サイドアタック。ピコハンが、趣味の悪いデコ椅子にぶち当てられる。機動力を奪え。 が、そこはまあほら。おもちゃのハンマーであるからして。そこはそれ、それだけでひっくり返せるほど硬質なものではなかった。 みんな暇よね、と。それは涼子の素直な感想ではあったのだが、すぐにそれを打ち消した。否、これは愛だ。愛。愛なのである。きっと、あいあい。おさるさん。自分に愛などないのだけれど。 ともあれ、猫を勝たせておいたほうが誰にとっても傷は少なそうだ。という建前で行動していこう。あの眼帯に恨みはない。むしろお世話になりました。でも今日は遊びに付き合って頂きます。 戦闘は数である。向こうは8人。こっちは23人だ。なんか一気に増えたな。ともあれ、シンプルな話、手数で押し切ってしまえばいい。作戦云々というのも面倒だ。打ち付ける度に軽快な音。ひっぱたかれる度に轟くハリセン。それは熾烈を極めるほど、なんか微笑ましかった。 基本的に、キャドラは面白いことが好きな刹那主義である。気持ちよければいいじゃない。そういう最悪だ。そんな彼女が現地から遠く離れた場所でのんびり成果を待つなどできるはずもなく、威風堂々と戦場に出てきていた。きっと、自分がやられたら負けという自覚がないのだろう。 「初めての任務で敵がリベリスタだとは思わなかったよ」 「まあそんなこともあるニャ」 猫の横に、真。射撃を得意とする彼にも例外なくピコハンが渡されている。これでどうしろというのだろう、投げればいいのだろうか。 「しかし暇だニャー。こっちに来る風もにゃーし。おしっ」 「うわぁ前に進んでいった……護衛しなきゃだし付いていかないとなぁ」 そうして、戦場はカオスへ。 「HQ、HQ~逃げてるにげてるー、あっちの方向にいったよー」 常に通信状態にある彼らは、情報を共有し合うことでお互いの立ち位置を把握していた。この人数で統率を取るのは難しい。ましてや、個々の性能面に特化したリベリスタである。軍隊行動などできはしない。よって、葬識のように戦況を把握する人員は非常に重要なものであった。 前に出たキャドラを追い、必然的に後衛組も前に出ざるを得ない。それを狙う相手がいれば、葬識が羽交い締めにしていた。女の子相手でも気にしない。この殺人鬼は男女平等です。男だけ殺す殺人鬼とか居てもかなりアレだが。 「はいはい、仔猫ちゃん、避けちゃって、ニューヨークにひあうぃーごー」 猫さん走る。 「よし、逆貫さんをギャフンと言わせてやろう!」 夏栖斗も、快も、ランディも。別に逆貫への恨みがあるわけではない。ただまあ、ら……うん、なんでもないが、ちょっと個人的に思うところがあってあの眼帯ジジイを痛い目に合わせてしまいたいのだ。 作戦コード【S.A.M.P.L.E】。ええい、迷わすな。ぶっちゃけ正面突破。中でもランディの仕事はより明快だ。即ち、突撃して、蹴散らすのみ。圧倒的な数で。超越した人数差で。 「1・2・3! 滅!」 振り下ろされるピコハン。それは幾度の戦いを乗り越えた戦士の膂力を持って振り下ろされる。強打。全身全霊の殺意。 「1・2・3! 斧!」 楽しませてみせろ。そう息を巻くものの、得物が得物だ。大した威力はない。鬼気迫る威圧感とは裏腹に、鳴り響く軽快な音。だが、虚を突くには充分だ。 「よし道は拓けた、行け!」 「よー、おっさん! 年貢の納め時だっぜ!」 夏栖斗がえらいやる気だ。そういえば、唯一フェイト使用の旨が記載されていた。このドタバタ騒ぎで一体どうやったら消費する場面に出くわすのか皆目見当もつかないが、それだけ本気だと言うことなのだろう。まったく、ら……じゃなかった。逆貫はきっととんでもない業を背負っているに違いない。まったく、酷いやつだ。 「眼帯外したとこちょっと見たかったしな!」 それだけ声を大きくしているのだ。その分注目され、攻撃の的になる。しかし、それも夏栖斗の作戦だ。相手リベリスタらの人員数は少ない。そちらに戦力が集中すれば、必然。どこかに隙間が生じてしまう。その空間を、快が駆け抜けた。 「その眼帯、貰ったあああああ!」 走る。手を伸ばす。得物は口に咥えているのだ、両手は空いている。驚愕する逆貫の顔。だが、逃げられない。この距離まで詰めれば、例えデコ車椅子にニトロジェットでも積んでいようが逃しはしない。距離はゼロに。眼帯の紐に指を引っ掛けて、奪い去った。ゲット。そして走り去る。後はこれを猫に届けるだけだ。距離をとって、息を整え。手にしたそれに目を移す。 『ハズレ(はぁと』。 これもか…… ユーヌと、ミリィが、ごろごろしている。ごろごろしている。ごろごろしているということは、ごろごろしているのだ。どこで、戦場で。キャドラの隣で。 「おみゃーら、一体何しに来たの」 護衛護衛。ほら、応援旗とか見えるっしょ。いえーい、うぃーあー護衛。お菓子とジュースをどっさり持って、もそもそごろごろしている護衛。つまんだり、だれたり、食っちゃ寝、食っちゃ寝。 「って、わ……私ばっかり食べてたら駄目ですね。これは皆さんの、皆さんの……」 「ミリィも遠慮しないで大丈夫だぞ? コンビニで新種のアイス買ってみたが、結構微妙だな。チョコミント辺りにしとくのが良かったか。ミリィは何が好み?」 「え、あ! あ、アイスですか。私はシンプルなのが好みなので、やっぱりバニラ……でしょうか?」 「いや、ほんとに。おみゃーら何しに来たの」 もちろん、それは敵にとってこちらの隙でしかない。それを好機と見たか、ハリセン持ってリベリスタがやってくる。 「ほら、やっこさんこっち来たよ!? あちしピンチピンチ!」 しかし、振り向けば帰り支度を始めているユーヌ。そろそろごたごたしてきそうだ。そんな空気を感じ取ったのだろう。結果は、後で誰かに聴けばそれでいい。ミリィにしても同じだった。ひとりでごろごろしていても寂しいだけだ。それなら、帰り道も一緒でいよう。あ、そうそう。 「負けるなー、頑張れー。えいえい、おー! なのです」 「おみゃーら何しに来たのおおおおおおおおおおおお!!?」 逆貫が視線を感じて振り返ると、そこには悪魔が居た。そう、悪魔だ。アレは男性にとって最悪の相手である。同性同士にロマンを抱き、その妄想でこちらを形作る。その名を腐女子。彼女は羽柴 壱也といった。それが、こちらに向けてカメラを構えている。ハンディカム。何をしているんだろう。否、撮影していることには変わりがないのだろうが。何に使うつもりなんだろう。本能的な恐怖に、嫌な汗がわく。何をしてくるわけでもない。ただ、撮られている。 それもそのはずだ、その正体は壱也ではない。それに扮したヴィンセントである。囮というわけだが、しかし他にやることもない。暇なものだ。そうだ、彼女に借りたこれ。中身を覗いてみようか。ちらり……見せられないよ。そっと、デリートボタンを押していた。 何をするわけでもない。ただ、カメラを回している。じー。じーー。怖い。誰も、それに手を出せないでいた。特に男性陣。万が一にも、逆貫とツーショットでも撮られてしまえば。嫌な想像が頭を過る。動けない。決心が、つかない。あちらを見ないようにしよう。攻撃してくるわけではないのだ。そうっとしておこう。下手にやぶ蛇をつつきたい人間はいない。 嗚呼、だが。その隙に。その恐怖の縫い間に。本物の悪魔が忍び寄っていた。這いつくばった死角から、恐怖の根源が。背後より。本物の壱也。偶像でさえ恐怖。それは手を伸ばし。伸ばし。続きはウェブで。 考えてみれば、その通りだったのだ。逆貫が好きかと問われれば、キャドラが好きだと叫び返す彼女。だが、いくら自分に好意を抱いてくれているとは言え陽菜が自分のために奮闘してくれるなど、あるはずもなかったのだ。 彼女は自分の傍を離れない。しょっちゅう悪戯されている自分からすれば、警戒対象でしかなかった。嗚呼、全身の毛が逆立ってる。 しかし、敵は目前だ。こちらの攻勢も有力だが、何せ防御が足りない。追い詰められていることに変わりはなかった。振りかぶられるハリセン、割って入る陽菜。マジか、あちしちょっと感動。 「危ない! キャドラシーーールドッ!!」 「おおおおおおおおおおい!!?」 ばちこーん。 ●エリマキエクテンド 「ごめんにゃーさい」 事が終われば、以外にも猫の反応は素直なものだった。日本の最上級謝罪手段、DOGEZAを持って誠意を示している。あ、後ろからは見ないように。このリプレイが18禁になっちまうからな。 さて、謝るだけ謝った。遊ぶだけ遊んだ。じゃあ、打ち上げにしよう。グラスにジュースを注いで、硬質のそれが打ち鳴らされる。 「キャドラさん、はぐはぐちゅっちゅ」 抱きついて、ぶっちゅり。猫が近くにいる場面では、割とよくある光景だ。だが、それを希望した舞姫の姿は異様である。その横に立つ、ウーニャも同等だった。 「キャドラ参上!」 つけ耳で、つけ尻尾で。バストサイズには残念なほどの差があるはずだから、あの巨乳はきっと大量のパッドなのだろう。偽乳だ。それを理解した男の視線は失望に溢れたものだった。だが、安心して欲しい。これはキャドラのコスプレだ。ということはパーカー一丁だ。下は穿いていない。繰り返す。下は穿いてない。穿いてないんだよ! 薄い本を出そうぜ。エロ同人みたいに……あれ? なんか意味不明なこと書いたな今。 「はい、はぐはぐちゅっちゅ」 キャドラの反応も、いつものことだ。気持ちいいんだからいいじゃない。だが、それがいけなかった。罠である。がっしりとホールドした腕は離してくれず、もがいてももがいても動けない。 「ふははは、動くな-! キャドラさんは、われわれ『ピンクの害獣』が頂いた! 大人しくしないと、キャドラさんに毛糸のぱんつを穿かせるぞ!!」 「にゃ、にゃあんと!? なんて卑劣な! しかしここにはたくさんのリベリスタが居る! あちしを助けてくれる仲間がここに!」 あ、どうぞどうぞ。 「え、助けてくんにゃーの? いやー! 持ち帰られる! 家猫にされる! きっとやらしいことされるんだ! エロ同人みたいに!」 人望って大事。それを見る、『素顔を晒した』逆貫の眼差しも、冷ややかなものだった。だが、気づく。 「あれ……私の眼帯は?」 了。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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