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<黄泉ヶ辻>預言者は指し示す/表

●黒屍
「3年か。思ったよりも早かったな」
「……そうだな」
 都内某区。極聖病院内特別治療室。
 過去様々な紆余曲折を経て、現在時村財閥の管理下に有るその施設だが
 例えば超法規的事情からプライバシー保護の側面を度外視したとしても、
 流石に収容している患者の全てを管理組織が把握している訳も無い。
 それが多少特殊な事情を抱えているとは言え、一般で通じる範囲の“唯の患者”であれば尚更である。
 面会謝絶状態を維持し続けるその病室には一人の少女が眠る様に横たわっている。
 腕に刺された点滴は栄養を。体中に設置された検査機器はあらゆるバイタルデータを刻み続ける。
 CBD(chronic brain death)長期脳死患者。
 一般的に一週間程度で心臓が止まると言われる脳死症例の中でも極めて珍しい、
 脳死後1年以上の生存が確認されている個体。少女は3年もの年月をこの白い部屋で過ごしている。
 心臓は今も一定の速度で鼓動を打ち、長期入院の結果痩せ細った身体はけれど成長を続けている。
 何事も無く年月を重ねていたなら、今年で中学校に入学する齢の筈である。
「予定通り、綾芽は搬送させて貰う」
「……なあ、正気か?」
 病室を見つめていたのは黒髪黒目に黒服の筋肉質な男。年の頃は30代後半と言った所か。
 横に並んでいるのはぼさぼさ髪に白衣の男。こちらも精々40に届くか届かないかだろう。
「何がだ」
 黒い男。フィクサード組織“黄泉ヶ辻”に於いてすら奇人として知られる『屍操剣』黒崎 骸が問い返す。
 応じて視線を返すのは一般人である極聖病院第一外科医局長、駿河史郎。
 十年来の友人である二人は、時に衝突し、時に協力し合いながらこれまで友誼を結び続けて来た。
 それが半ば破綻したのが3年前。全ては黒崎の妻と娘が強盗事件に巻き込まれた事に端を発する。

 妻の黒崎 幸、娘の黒崎 綾芽。共に重傷。頭蓋に撃ち込まれた銃弾の摘出手術は困難を極めた。
 当時天才的外科医と方々で賞賛されていた黒崎が当人の強い要望によりこれを執刀するも、
 妻は体力の限界を迎え死去。娘もまた脳死による昏倒状態に陥った。
 技術的に近いレベルであると自負する駿河の目から見ても、手術は決して失敗ではなかった。
 であるならそれは、既に運命だ。現代医学の限界である。
 医療に携わる以上救える者、救えぬ者は確と存在する。その現実に挑戦するからこその医師だろう。
 だが、黒崎の歯車はその辺りから狂い始める。
 勤務していた病院を辞したかと思えばおかしな連中と付き合い出す。駿河もかつて見た事があった。
 顔の半分にピエロの様な仮面を被った胡散臭い男と黒崎が対話している姿を。
 かと思えば娘である綾芽の生命維持を駿河に託し、それきり丸2年以上音沙汰無し。
 悲劇だったのだろう。順風満帆な人生に於ける予期せぬ陥穽だったのだろう。
 だが、それで折れる程温い男であると駿河は思っていなかった。
 毎月必ず振り込まれる入院費用がそれを裏付ける。黒崎は必ず帰って来る。
 誰がそれを否定しようとそれを疑った事は無い。つい、数ヶ月前までは。
 事実。駿河の予測通り彼は帰って来た――変わり果てた。かつての面影すら失くした形で。
 “近々綾芽を退院させて貰いたい”
 2年余りの空白を懐かしむ余地も無く、黒崎は駿河にそう告げる。
 駿河は最初、それが漸く心の準備が出来たのだと思っていた。
 一度脳死した患者が昏睡状態から眼を醒ます事はまず無い。何せ脳は既に死んでいるのだ。
 人は心臓だけでは生きられない。それがCBDの患者となれば蘇生確率は限り無く0。
 それを退院させると言う事は、死を受け入れると言う事と同義である。 
 けれどそうではなかった。彼は言うのだ。漸く準備が整った。
 “これで綾芽を起こしてやれる”と。

「――綾芽ちゃんの脳波は完全に途絶えている。良いか黒崎、彼女は死んでるんだ」
「そうだな」
「死んだ者を蘇生する手段何か有る筈が無い。お前は騙されてるんだよ! 何で分からないんだ!」
「そうだな、反魂も尸解も実例は見た。あれは到底“蘇生”と言える様な物ではない」
 幾ら話せど通じない。駿河には黒崎の言う事が半分も分からない。
 だが、彼が何かおかしな物に憑かれている事は何と無く悟っていた。
 そう。言うなればそれは――死、その物。
「黒崎さん」
 最後の説得を阻むかのように声が掛かる。昨今黒崎と常に共に居る赤いジャンパーを着込んだ少年。
 年齢は小学生位では無いだろうか。酷く大人びた冷めた眼差しが何処か不気味な子供。
「どうだ状況は」
「沙希さんは捕まってるみたい。このままだとずっとそのまま……それに、此処の位置もばれてる」
「――となると、来るか」
 こくりと頷く。まるで見て来たかの様に――否。見て来たのだろう。
 沙希と言うとある施設の管理人を務めていた女の現在と未来を。
 フォーチュナ『預言者』赤峰悠の“預言(プロフェシー)”は非常に特異な能力である。
 彼の見る“預言書”はある特定条件に於ける未来を八割近い精度で的中させる。
「でも、万華鏡はやっぱり強力だよ。だから、外れるかもしれない」
 そう告げる悠の視界に何が映っているのか、黒崎には未だに見当がつかない。
 だが、彼が来ると言うのであれば来ると見るのが妥当だろう。作業を急がせなければならない。
「駿河、直ぐに作業に移って貰うぞ。院内の人間の命は惜しいのだろう。
 悠は予定通りだ。お前にも命の代価分は働いて貰う」
「……うん」
「止める気は、無いんだな」
「無論だ。例え天が、理が、法が、義が、世界が俺を裁くとしても。
 この道を阻む者在らば、死すら踏み越え神をも屠ってみせよう……何人にも、邪魔はさせん」
 深淵宿すその眼差しに、駿河は嫌が応にも理解する。

 言葉で止められる時は、もうとっくに過ぎてしまったのだと言う事を。

●カレイド・ノイズ
「黄泉ヶ辻が動き出しました。至急現場に向かって下さい」
 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)より告げられた言葉は、
 何時もと変わらぬ響きを持って集められた者達の耳に届く。
 アーク本部内ブリーフィングルーム。集められた人数は16名。
 普段の仕事で言う所の2チームに相当する人数を揃えた事がこの任務の重要さを浮き彫りにする。
「都内に極聖病院と呼ばれる6階建ての総合病院があります。
 これを黄泉ヶ辻が襲撃する、と言う未来が万華鏡に映りました」
 昨今閉鎖集団と名高い『黄泉ヶ辻』と矛を交えている彼らに、
 今回与えられた任務は至極シンプルな物。だがシンプルであるから容易いかと言えば答えはNoである。
「以前憑キ鬼事件で皆さんに収集して頂いた情報から、恐らくは“死者の蘇生”の研究。
 その一貫だろうと思われます。院内の入院患者は24名を数えます。
 アークからも2チームを出しますので、どうか極力犠牲を出さない様に黄泉ヶ辻を食い止めて下さい」
 真摯な言葉にリベリスタ達が頷く。一般人を犠牲にした研究を繰り返す件の組織に一矢報いる好機。
 これを逃したら何の為のリベリスタであるのか分かった物では無い。
 元々2つに分けられていたリベリスタ16名。その片側に和泉が向き直る。
「こちらの皆さんには襲撃の妨害を担当して頂きます。
 襲撃者は30名からなるフィクサードの大集団。勿論全員倒す必要は有りません。
 相手も決して弱くは有りませんし、そこまでの余裕は無いと思います」
 告げられた8名が、小さく頷く。続けて、逆側の8名にも別の任務が下されたか。
 理解が浸透するまで一拍空け、和泉の言葉はまだ続く。
 「加えて、現場には過去銀行襲撃の件で交戦した『屍操剣』黒崎 骸。同案件で攫われた赤峰 悠。
 それに、こちらもそれなりに知られたフィクサードです。
 反時村派の政治家、島川公彦議員秘書を勤めている『影狐』無明 和晃の存在が見られます。
 どちらも無名のそれとは比較にならない実力を備えていると思われます。くれぐれも注意して下さい」
 モニターに表示された顔写真を指し示し、説明を終えたか一礼で締め括る和泉。
 だが、異変はその時起こった。

「……あ、れ?」
 ザザ――ッ、と走るノイズ。カレイドシステムと接続されている和泉にだけ見える未来予想図。
 けれどその光景はてんでバラバラである。ある図では黒崎がリベリスタと戦っている。
 ある図ではリベリスタが着いた頃に病院に黒い男の影は無い。
 ある図ではリベリスタ達が逆に襲撃を受けている。ある図では、またある図では。
 無数に分岐する未来。無限大に枝分かれしたヴィジョン。
 それは未来と言う物の本質的に当然の事であっても、アークにとっての当然ではない。
 未来に。運命に。何かの介入が行われている。その事実は逆説一つの答を導き出す。
「――待って下さい皆さん」
 焦った様な和泉の声に、今まさに部屋を辞そうとしていたリベリスタ達が足を止める。
「現場に、フォーチュナの存在が確認されました。それも、かなり独特な」
 告げられた言葉と非常に似た物が、時と空間を挟んだ別所で呟かれたのは何の皮肉か。

 万華鏡と預言書。二つの未来、二つの神の眼。預言者は指し示し、運命は別たれる。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月31日(木)00:18
 62度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 急転直下の『黄泉ヶ辻』より、黒服の男『屍操剣』再臨。
 戦場の酷さは過去最悪レベルです。気合を入れてご参加下さい。以下詳細。

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。

●作戦成功条件
 突入後4分(24ターン)以内に『屍操剣』黒崎骸を撤退させる。

●特殊ルール・Prophecy
 『預言者』赤峰悠の持つフォーチュナ能力。
 過去<黄泉ヶ辻>と付くシナリオへ一度でも参加した事のあるリベリスタは、
 その能力傾向、活性スキル、当シナリオのプレイングに到るまでの全情報を
 シナリオ開始前に把握されている物として扱われる。

●『屍操剣』黒崎 骸
 30代後半。『黄泉ヶ辻』の研究者であり元外科医。
 クロスイージスとデュランダルのスキルを完全に使いこなすある種の天才
 黄泉ヶ辻の幹部候補として名前が挙がる程の実力者。黒髪黒眼に黒服の男。
 戦闘開始後4分が経過すると“憑鬼”と呼ばれる、
 寄生能力を持つ微生物大のアザーバイドを大気中に散布する。
 この行動は特定の例外を除き、受動防御以外が不能であっても行われる。

・保有一般スキル:機器遮断、デュエリスト、不沈艦、ウエポンマスター、技巧派

・領域結界
 A、持続2。黒崎の保有する一般スキル。結界スキルの一つの到達点。
 能力者を中心に半径500m以内の、特定空間からの離脱を阻む結界を張る。
 この結界からは使用者が認めた者以外は決して出る事が出来ない。

・保有戦闘スキル:パーフェクトガード、戦鬼烈風陣、リーガルブレード

・EX 屍操術・序式解放
 破界器『死生剣』の力を利用したEXスキル。
 場に在る死体を操りブロックや障害物に用います。
 1ターン内の最大数は3。このスキルでは、例外的に手番は消費されない。

・保有破界器:死生剣
 黒い大剣。近しい人間を亡くし、その生に未練を持つ者だけが
 所有する事を認められる魔剣。極めて高い殺傷能力を持ち、
 剣を所有したまま死んだ者、剣で殺めた者をE・アンデッド化させる。
 E・アンデッド化した者は制御出来ず、よりフェイトの多い者を襲撃する。
 
●『預言者』
 赤峰悠。7歳。状況判断の出来る聡明な少年。
 『黄泉ヶ辻』と言うよりは黒崎の専属フォーチュナとして行動を共にする。
 戦闘能力は皆無ながらフォーチュナとしては特異な才能の持ち主。

●一般フィクサード
 『屍操剣』黒崎骸と共に病院を襲撃した黄泉ヶ辻のフィクサード30名。
 クリミナルスタア6、スターサジタリー4、覇界闘士4、
 デュランダル4、クロスイージス3、マグメイガス3、インヤンマスター3、
 ホーリーメイガス3。レベル帯は11以上15以下。
 用いる中級スキルは、Lv10制限までの物に限られます。
 表ではこれらの内8名を赤峰悠の預言の元、対リベリスタ用に編成して来ます。

●戦闘予定地点
 極聖病院一階玄関ホール。柱など障害物多数ながら広い空間です。
 光源不用、足場問題無し。院内の人間は全て深い眠りに落ちており、
 病院は定休日。一般人の介入は一切有りません。
 二階以上へ向かうにはエレベーターと階段、非常階段の3ルートが有ります。
 黒崎骸が健在である場合、原則病院内からは出られません。

●注意事項
 当シナリオは『<黄泉ヶ辻>預言者は指し示す/裏』との連動シナリオです。
 表の失敗はそのまま裏の失敗に直結し、裏の行動は表の戦況に影響を与えます。
 以上の点予め御了承下さい。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
★MVP
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)

鈴宮・慧架(BNE000666)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
プロアデプト
ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)

●Count of fortune
「……居ました」
 言葉の意味はそのままだ。千里を見通す源 カイ(BNE000446)の眼にずっと映っていた者が姿を現す。
 黒い巨漢とその配下8名。一合一瞥。両者の会合はそれで全てだった。
 少し離れた場所に赤いジャンパーの少年が佇んでいる。
 奇を衒った事は何も無い。見通しの良い一階ロビー。男はただ“待ち構えて”いた。
「黄泉ヶ辻なんてのは奇をてらった見世物集団だと思ってたけど」
 決して人目に映らず、決して他者に認識されず、けれど常に人の口に上り続ける組織。
 閉鎖集団とすら称される『黄泉ヶ辻』に在って、対する男の在り方は埒外ですらある。
「中々どうして。僕の大好きな“匂い”だ。」
 にまり、と『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が鮫さながらに笑む。
「今回の件、糸を引いているのは貴方ですか?」
 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511) から見ても、それは余りにらしくない。
 話に聞く限りでの黄泉ヶ辻はそんな集団では無かった筈だ。
 例えばそう。こんな――病院1つの入院患者を丸ごと全て誘拐する。等と言う派手な事件を起こす様な。
「いずれにせよその目論見、遠慮なく潰させて貰うとしよう」
 一方で『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)の視線は残酷なまでに冷徹だ。
 りりすの言う通り、奇を衒ってこその黄泉ヶ辻。
 相手が例えば、武を誇る剣林等では無い以上黒崎が足止めに残った事には必ず理由が有る筈だ。
 それを潰すと、明言する。両手に加え携える火縄銃。三肢を以って八咫烏が立ち塞がる。
「良い腕らしいな」
 一瞥した黒崎がかく告げる。牽制か、況や。其は分かり切っていた事。
 『預言者』は指し示す。当然の様に、リベリスタ達の戦力の数割はその手の内を暴かれている。
「魅せてみろ、鴉」
 僅か浮かんだ笑みに、龍治の視線が鋭さを増す。
「憑鬼」
 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が告げたのはその一言。
 それがどんな事件を引き起こしたか。その場に居なくとも聞き知っている。
 例えどんな理由があろうと、それはこの世界には在ってはならない物だった。
 例えどんな危険が待ち構えようと、ここは決して退けない場面だった。

 だからこそ。彼は強靭なる臆病をかなぐり捨て、青さを拳に込め握る。戦う為に、此処に来た。
「あんなモノを、ばらまかれる訳にはいかない」
「それは」
 がらんと。手にした剣は夜闇の様な濁った黒。8人を後背に黒い男が一人進み出る。
「お前達次第だ」
 挙げられる手。構えられる銃口。その数――実に6丁。
「なっ……!」
 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が目を見張る。
 確かに、待ち構える側で有る以上飛び道具を用いて対するは定石である。
 奇策を用いない限り距離を支配するのは“待つ”側だ。先手を取られまいとすれば不意を打つしかない。
 だが、言うは易し行うは難し。一方で飛び道具を主に用いる者は得てして距離を縮められれば脆い。
 その為の前衛・後衛。であれば向けられた銃口の全てがフィンガーバレットで有った事実は何を指すのか。
 “ならず”者であると自負する所の涼子に、分からない筈も無い。
「やっぱり自由には、動かせてはくれない……かっ!」
 敵中6名がクリミナルスタア。極端なまでの偏った構成である。
 けれど道理でもある。預言者が読み解けた敵編成は涼子と龍治の僅かに2人。
 そして集団戦の肝は大抵の場合、如何に回復を断つかである。
 前後衛を神秘物理両面でこなせるクリミナルスタアは決定力にも派手さにも欠ける。
 けれど相手の編成が不透明な場合、これ以上に汎用性のあるクラスは存在しない。
 唯一点。其処に、決定力さえあるならば――放たれるは弾丸による苛烈な洗礼。
「これは……能力を探るまでも無かったかな」
 『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)の防御能力は、クロスイージスのそれに匹敵する。
 十分な集中を重ねられた銃撃の中に在って尚、冷静に観察を続けられるのは
 受ける痛撃の少なさに起因する部分も大きいだろう。
 走った眼差しは敵主力が想定通りのクラスである事を確定するが、
 それ以上に想定通りの敵が後方に控えている事に思わず顔を顰める。そう――6人以外の2人。
(――クロスイージスとホーリーメイガスが居るね。全く、卒の無い事だ)
 奇手かと思えば基本は抑える。その如何にも優等生的な思考にヴァルテッラが毒を吐く。

 けれど戦いの序盤に敵の編成を看破出来た意味は決して小さくない。
 リセリアと悠里、それにカイが視線を交し合う。ホーリーメイガスが居るならまずそれを狙う。
 辿り着く結論。考えることはいずれも、同じ。
 だが、それには立ち塞がるクリミナルスタア6。否、黒崎を含めその数7名。
「いいね……あぁ、ソソラレル――」
 最も速く戦場を駆け抜け最も速く敵と接したのは血鮫のリッパーズエッジ、りりす。
 その道程を妨げた相手に、思いがけずタイミングを崩される。
 相手も相手で動く以上は望む通りに攻める事は適わない。けれど、漏れた声には歓喜が滲む。
「後宮シンヤの忘れ形見か」
 交わる刃は奇しくも赤と黒。爆ぜる様な音と共に叩き込まれた鮮烈な一撃を往なして見せるその技巧。
 幹部候補は伊達では無いか、“都市伝説の刃”と比して劣らぬ刃応えに、けれどりりすの瞳は曇る。
「――でも、哀しいね。その眼」
 間近で組み打つ両者の視線は重なる様で重なっていない。
「僕の事なんか見てない眼だ」
 黒い男の瞳には、この戦いの何一つ映らない。
「そうか。ああ言う事になるのだね」
 武骨な鉄塊を携え敵前衛の一端を抑えるヴァルテッラの口元が歪む。
 共感出来る部分が有るからこそ覚える苦味。同属嫌悪。近親憎悪。
 禁忌に身を浸した者は同じ匂いに敏感だ。死者の蘇生。そんな物を求める人間は決まって――
「愚か者の類だ。私は、君が嫌いだね」
 迸る灼熱の爆炎。燃え盛るそれは周囲のフィクサードらをも纏めて巻き込む神秘の秘奥。
 だが、果たして。その返礼は苛烈である。戦場の各所で放たれる暴撃の嵐。
 相手は時間を稼ぐ気などまるで無いと分かる、無数の大蛇がのたうつ最前線。
「貴方は、その先に何を見るのでしょう」
 周囲の地形の全てを足場に、リセリアが後衛へと斬り込む。
 庇ったクロスイージスと刃を交え、けれど後背の黒い男へと問い掛ける。
 狂気ではない。蛮勇でもない。だが何かが噛み合わない。強いて言うならば――逸脱している。
 一瞬向けられた視線は、ただそれだけを示す。言葉が届く域に、相手はもう居ないのだと。

●Black pain
 流れは素地に勝るリベリスタ優位。だがりりすが黒崎を良く抑えている分をホーリーメイガスが相殺している。
 彼らの作戦に抜けが有ったとしたなら一点。即ち火線集中の失敗である。
「……さあ、回避してみせろ!」
 龍治のスターライトシュートは狙った獲物を外さない。
 だがヴァルテッラと涼子が範囲攻撃を、悠里が複数攻撃を主軸として用いる以上、
 敵もまた巻き込まれぬ為乱戦を目論む。
 そして敵味方が入り混じる場に於いて、射線が通る必要の有る攻撃は著しく制限される。
 一度に撃ち抜ける数の少なさは火力の低下に繋がる。それは同様の攻撃を用いる悠里もまた同じ。
「一人一人はどうとでもなるけど……」
「ええ、組まれると厳しいですね」
 けれど逆に、同じ事がフィクサードらにも言える。
「ヤろう。もっとだ! 力は己のために振るえばいい。そこに他者の入り込む余地など一切ない!」
「タフだな――だが、同感だ」
 五度、六度、打ち込まれる赤い刃と黒い剣。互いを削り合いながらもこの場は黒崎が明確に圧している。
 けれど運命を削り執着を燃やし挑むりりすは尋常のそれではない。
 己の技巧の遥か上を行く一撃を、騙し往なし時に痛み分けに持ち込み半ば単独で抑え込む。
「ちっ、進めやしない!」
 故に、決定力の低さが露呈する。純粋な全体攻撃の持ち主が居ない為に瓦解こそ免れている物の、
 消耗戦の体を為して来たクリミナルスタア達に、だが涼子は奥歯を噛み締める。
 平常で有れば。普通の状況であれば、それで良かった。じりじりと押し込み地力の差で勝利する。
 それで良かったのだ――が。この場には時間制限が存在する。
 時計を見る。突入後100秒が経過。この時点で、敵は“誰一人倒れていない”
 急を擁する戦いに集中を織り交ぜるメンバーが多過ぎた。
 戦術が範囲や複数攻撃を生かす形に整えられて居なかった。
 後衛への攻撃と前衛への攻撃で火力が分散した。理由はある。だが1つ1つは些事である。
 けれど、戦いとは積み重ねだ。後衛に位置するクロスイージスの護りが崩れない。
 ホーリーメイガスの癒しの唄声が止まない。そして――

「ああ――」
 悔しいな、と心から想う。その刃は届いていた。間違いも無く。
 そして彼の反応速度は黒崎の技巧をも凌駕していた。稼ぎ切った2分余りはその生き方の利を証明する。
 だが、唯の一人で届くほど、その黒い巨漢は易い相手ではない。踏み込みと共に放たれた大剣。
 黒剣に宿った破邪の力が輝きと共にりりすの痩身を吹き飛ばす。
 彼は運命に祝福されていた。その命を燃やす選択を認められぬ程度には。けれど、だからこそ悔しい。
 届かない事では無い。倒れる事でも無い。
 ただ彼は未だ、自分を見てくれて居ないのだろうから。
「させませんっ」
 『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)が動き出した黒崎の前に立ち塞がろうと足掻くも、
 前衛が健在であっては動けない。惜しむらくは、
 2分オーバー、タイムリミット。予定通りであれば黒崎を攻めなくてはならないタイミング。
 誰もが対するクリミナルスタアを倒し切れて居ない。
 唯一カイのみが気糸による呪縛で対する相手の動きを封じ、どうにか対する相手を打破出来ていた事。
 それは果たして、幸か、不幸か。
「その手足」
 瞳を細めた黒崎が、言及した内容に一瞬カイの動きが止まる。
 腐っても医者か。滅多に見抜かれる事の無い極小の違和感を察した事に、その眼差しは険しさを増す。
「……止めるつもりは、無いんですね」
「無論」
 叩き込まれる黒い大剣を両手を折り曲げ受け止める。
 これで以って命を落せばリベリスタであれフィクサードであれ生ける屍へと成り果てる。
 その先は何だ。どれだけ犠牲が出る。負けラレ無イだロウ、英雄なラネ。
 耳を付いて離れない切れ切れに嗤う道化の声。そう。此処は絶対に負けられない――のに。
「――っ」
 その一撃は余りにも重い。覚悟でも気持ちでも劣って等いない筈のカイの歩を、退かせる程に。
「そんな、剣に、魅入られたひとが!」
 叩き込まれた無頼の拳。だが消耗を抑えた事が裏目に出る。
 此処は最初から全力を尽くすべき場であったろう。劣勢を知らしめなければ退かせる事等出来はしない。

 相手に此処で死ぬ訳にはいかぬ理由があると――
「だれを、どうして、何を助けられる!」
 知っていたならば、尚更に。
「血塗られた手で救える者など居ないか。欺瞞だな」
「お前のそれは化物を作る技術だ! そんなもので人を死から救えるものか!」
「然り。その通りだ」
 漸く――対したフィクサードを叩き伏せた悠里が叫ぶ。だが、それへの返礼に目を疑う。
 男は。黒崎骸と言うその男は笑んでいた。我が意を得たりと言うかの如く。
「人を人のまま蘇らせる事は不可能だ」
「上階にせよ下階にせよ人は転ざねば蘇生しない」
「化物結構。まさか意志有るそれを厭うまい? 化物(リベリスタ)」 
 絶句する。だが、逸脱するとはそういう事であり――
「愛する者の蘇生など、所詮は己の我侭でしかない」
「妄執だ、凶念だとも。だが」
 ヴァルテッラの糾弾を、そして我が身よ燃えよと放たれる業炎を。
 その身に完全な形で受けながらも黒い狂人は死んだ眼差しを細める。
「それを越えねば天には届かん」
 声に、残されたクリミナルスタア3名。その全てが拳を握る。何故、これほど偏った編成なのか。
 これが理由の、最後の一。振るわれる暴れ大蛇が敵も味方も――既に倒れた仲間をも巻き込んで。
 暴威を、猛威を、傷付いたリベリスタ達に駄目押しの様な一撃を加える。
 であれば、戦闘不能であった彼らの仲間は……どうなったろうか。
「馬鹿な、そんな非道を積み上げて、救われた人が感謝すると――」
「構わん」
 リセリアの刃が対するクロスイージスを穿つ。だが、この時点で3分超。
 後5手で未だ健在な3人のクリミナルスタア。そして、この狂人を止められるか。
「嘆かれようと罵られようと」
 大蛇に頭部を食まれたフィクサードだった者達がぶらりと四肢を下げ立ち上がる。
「それが為せるのであれば」
 不可能だ。奇蹟でも――起こらない限りは。

●Other answer
「どうして」
 けれど。
「――どうして、其処まで人を想う事が出来るのに」
 だから。
「――――どうして、こんな事が出来るんですか。僕には分からない」 
 命を賭すのに、躊躇い等無かった。
「でも、貴方のしてることは間違ってる」
 拳を握り眼を閉ざす。冷たい両の手に感触は無い。けれど胸の奥には強く灯る想いが有る。
 大好きな人が。人達が居る。沢山の人に支えられて此処まで来た。
 だったら、こんな事をするのは我侭だろう。けれど、それでも。
「大切な人に誇れない生き方を、大儀だ何て言葉で色付けて。それで誰が救われるって言うんだ」
 彼――カイはこの場の誰よりも祝福に欠ける。それは即ち、この場の誰より死に近い事を意味する。
 その彼がその運命を天秤に載せる。完全な博打であり――文字通り命の賭けである。
 だが、運命は気紛れである。世界は彼に安易な死を許さない。望むと、望まざるとに関わらず。
「ならば止められるか、お前に」
 振り下ろされたのは黒い剣による致命の一撃。
 渾身と言って良い膂力で振るわれたそれがカイの体躯を裂く。半身を鮮血で染め、けれど眼は揺るがない。
 分かっている。黒崎の護りは強固極まる。生半可な一撃は痛痒すら感じさせない。
 だから。
「カイくん、無茶だ!」
 悠里の声に、けれど振り向く事が出来るだろうか。彼は命を捨てる覚悟すらして来たのだ。
 ならば届く。届けてみせる。猶予は無い、チャンスはただ一度きり。
 踏み込む、一歩。命が削られている事を自覚する。残り多くない祝福を削り耐え凌ぐ。
 もう一歩。手が届くほどの間近。体に刺さった刃は骨をすら断ち切っている。
 けれど、それがどうしたと言うのか。 
「誰もが不幸になる未来なんか、」
 その感触を覚えている。燃える様な、烈火の様な熱い一撃。それを再現する事等出来はしない。
 それでも――振り抜いた手、編まれた気糸は嵐と言うに相応しい質量。
 阻む屍達の動きを完封して余りある。カイの動きはそれで尚止まらない。更に一歩。
 彼我の距離は――正に零。
「僕は認めない――――!」
 叩き込まれた一撃は堅牢にして強固なる城砦の如き防御を穿つ破滅の黒。
 致命の一撃は奏でられ続ける癒しの唄をも阻む。
「――――っ」
 守りを穿つ渾身の一打。如何に強固であれ関係など無い。その一撃、護り等無用。
 だが、その代償は少なく無い。重傷と言うもおこがましい黒の剣による斬撃の跡。
 致死量に等しい鮮血を噴出し、共倒れ同然で崩折れる。

「っ、邪魔だっ!!」
「くそっ、なんで―――っ!!」
 龍治の星灯りの散弾が、悠里の迅雷の拳が、黒崎を含めたフィクサードらの余力を削り切る。
 吹き飛ばされて倒れた同僚を横目に、黒い狂人は既に倒れて動かぬその男を見つめ続ける。
 運命では無い、天命でも無ければ祝福でも無い。それは、紛れも無いただの人間の意地。
「黒崎さん、時間だよ」
 制限時間、4分。それを迎えた事を控えた赤い少年が告げる。
 それは、紙一重の静止。まるで終止符を打つ様なその声に、黒崎が不意を討たれて足を止める。
「……そうか」
 奇蹟の様な極小の確率を縫って放たれた連撃は、黒い男をして重傷と言って良い次元に達する。
「逃がす、か!」
 追い縋った涼子の道程を、護られ続けていたホーリーメイガスが阻止する。
 その間隙に退く黒崎を、けれどカイは追いかけない。
 追いかけられない、と言うべきか。精も魂も尽き果てた残滓。歪曲せずとも尽きかけた命の後。
 それでも――彼は死の危機をほんの僅かの幸運で乗り切っていた。
 だからこそ、交わった視線は偶々か。或いは、必然か。
(貴方は、まだ此処で死んでは駄目)
 何も見ていない様な赤い少年の目が、まるでそう言っている様に。
 ゆっくりと失われ行く意識が完全に落ちる寸前、抱いた感想はけれどまどろみの中に融け。
「――悠、あれは?」
「源 カイって、そこの人達が呼んでたよ」
 その名を音も無く繰り返し、黒い男の瞳が巡る。手元にはこの病院を終わらせる筈だった小瓶。
 けれど、運命はそれを許さない。震える携帯電話。視線を向けた黒崎が状況の変化に瞳を細める。
 動揺の色はなく、けれど。
「止めたければ、追って来い」

 階段を降りてきたもう一つのチームが目の当たりにしたのは、
 勝利したとはとても思えない、色濃い苦渋を浮かべる仲間達の姿。
 辛勝と、言えれば良かった。だが残る無念は惜敗に近しい。支えられたカイの身は余りに軽く。
 かくて預言者は指し示す。次なる舞台の幕開けを。粛々と――淡々と。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ハードシナリオ『<黄泉ヶ辻>預言者は指し示す/表』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

熱の篭もった良いプレイングでした。
が、NORMALでは問題無くともHARD以上では問題になる行為。
と言うのが詰めの部分で出て来ています。仔細は本文中に込めさせて頂きました。
本来であれば敗戦と言う状況をダブルアクションとクリティカルと言う
ウルトラCで引っくり返した源カイさんにMVPを御送りします。
ですが、代償は決して小さくは有りません。死ぬ時は死にます、御注意を。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。