●Pancake Tower in The Day この多層次元は出来の悪いパンケーキタワーであるとは誰が言っただろう。 平べったく、厚さも不均等で、少しのバランスが崩れれば直ぐに倒れるような不均衡の塊。 その出来の悪いパンケーキの上の端の端、最下層に位置するのが今我々の住む現代である。 この真実を一般人達は知らず、一切が地に付されたまま。 そんな『秘匿された箱舟』の中で、本来ならばその上に乗るバターやシロップである我々は、パンケーキの内容物として、何があろうと常日頃かわらぬ生活を続けている。 そんな、我々の住む次元たる現代に生きるのは、箱舟に住むリベリスタたちもまたおんなじだ。 ――その、忙しくも時としてまた怠情な日常の均衡を破ったのは、一つの次元の歪みだった。 ●The Gate Opened 空間が歪む。どの世界から来たかも分からぬ混沌の門を潜りて、今に降り立つのは自然界の賜物だ。 弱々しくとも風格ある鱗、足腰にはどこか竜を感じさせるしなやかな猛禽の筋肉が付いており、トカゲのそれにほぼ違わぬ肉体についた顎の筋肉の丈夫さは竜を思わせる。 しかし、どこかひ弱な風格さえ感じさせるのは、これを置いてなお未だ未発達な肉体ゆえのものだろう。 これが野に放たれれば、いかなる事になるのだろうか? 想像もつかぬ異型の存在へと成り果てるのか? 未だ直ぐに驚異となるとは夢にも思えぬその存在。されど、放置するにはあまりにも危うい。 数体の群体を持って現れた不均衡を内包するそれは、克明に『万華の鏡』によって映し出されていたのであった。 ●Repair the Strain 鏡に映し出された存在の対処のため、運命に愛されし者達はここに集った。 ここ、カレイドシステムの搭載された、ブリーフィングルームへ。 機械の排熱を冷却するためのエアコンが稼働する、空調のきいた部屋の中――。 「――は虫類の駆除に行ってほしいの」 そう切り出したのは、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001) だった。 彼女はカレイドシステムのヘッドデバイスを取り外し、モニターに手に入れた情報を投影しながら、 周囲に集うリベリスタたちを前に、表情に一切の曇りも出さず言い放つ。 「端的に説明するわ。 場所は白昼のオフィス街の真ん中。人目を避ける手段が必要ね。 結界かなにかが、あるといいかも。 敵はフェイズ1のアザーバイド。異世界から来た自然の動物、『ドラゴンマガイ』。 実力としては2と言っても変わらないでしょうけれど……。幼生で、世界への影響としては1。 攻撃は噛み付きと尻尾。鱗は氷と炎に強いわ。斬撃に対する抵抗力も少しはあるみたい。 個体自体はそれなりだけど、数が地味に多い。 そうね……、3~4体は見積もってもいいでしょうね? 私が見た感じ、何かの幼生であることは何となく分かる……。 完全には分からない、けど――放置しておくと危険ということはよく分かるの。直感だけど。 見敵必殺。発見しだい、撃破して。」 説明の量は適切かつ正確だ。場所もモニターに投影されている。 それ以上のことは求めるべくもないのだと、リベリスタ達は、一斉に現場へと向かいだした。 ――これを序章とも知らずに。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Draconian | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月23日(月)22:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Do Lizard Slayers Dream of Dragon Slayer? ――高層マンションの立ち並ぶ白昼のオフィス街の上空。 四角く切り取られた空と、ビルによって風の無い世界で滞留した空気を翼に浴びて、一人の天使が空を舞う。 ビルの屋上からビルの屋上へ。人目もつかぬどこか別世界の中、紺碧の翼を休め瞳を凝らす一人の天使。 幻覚と戦闘結界により隔絶された世界の中、獲物を探すのは『重金属姫』雲野 杏 (BNE000582)だ。 天使の両手に持たれた一つの双眼鏡は、此度の狩りの獲物である群体を捜索する一助となっている。 高層ビルの林の中、その双眼が群体を捉えたのは、そう時を下らぬ頃だっただろうか――。 (ん? あれは――?) 「――よし、間違いない。見つけたわ…!」 思わず漏れる、誰にも聞こえぬ呟き。 視認したのは合計で、4。彼女はカウントを手早く済ませ、携帯電話に手を伸ばし仲間たちへとコールする。 予言に導かれし戦士たちの行軍の最中、良好な電波の中でこの電通を受け取ったのは、顔立ちの整った獣と人の間の子達だった。 傷もまだ癒えぬ狼の子を始め、現代を生きる者達にとっては聞き慣れ、耳に馴染んだ着信メロディが現代の街に木霊する。 「もしもし、アタシよ。 ええ。バッチシ見つかったわ、全部で4体。携帯のGPSで詳細な位置情報は送るわ。じゃ、早く来てね。」 その発見の知らせを受け、会話のさなかで親指だけ折った形のハンドシグナルを仲間に見せる者が居る。 それは、まだ癒えぬ傷が痛々しい人と狼の間の子、『天翔る幼き蒼狼』宮藤・玲(BNE001008)だった。 その手の形は想定された最悪であり、激戦を知らせるハンドシグナル。 仲間の空気が変わり、どこかスパイシーな緊張が走る。想定内とはいえ、それは心配されたものだったからだ。 そして、数瞬の後に耳に残る、プツッという電話の切れる音が受け手の空気を震わせた。 手練てきたとは言えど、今だ成長途中である彼らの中の緊張はごまかしようのない物だったから。 しかし、それを知ってかしらずか、緊張の糸をより密に張るような、冷酷な言の葉が仲間からまた投げられる。 「――は虫類の駆除、二回目。 ……全く、益体もないわね。」 超直感での探査中にイヤーフックタイプのイヤホンで電通を受け、どこか溜息混じりの毒を吐く女。 この声の主、彼女こそ『BlessOfFireArm』エナーシア・ガトリング(BNE000422)だ。 裏社会で修羅場を潜り続けた猛者である彼女からすれば、このような日々はまだ甘い。 そして、その溜息混じりの毒に、肯定の言葉をぶつける男がもう一人……。 「一理ある。翼がある訳でなし、火を噴く訳でなし。鱗があるだけの、でかいトカゲだな」 冷静な分析に基づいた、『Digital Lion』英 正宗(BNE000423)のその言葉は、ある種の真実を物語る。 確かに、大型なだけのトカゲ退治だ。リベリスタをわざわざ向かわせるような騒ぎとは思えない。 フェーズ1である以上、階位障壁もまたない。武装した他の部隊に向かわせ、適度に片付けてやればそれでもいいはずだ。 しかし、その言葉達に否定形の凛とした声が挟まれたのは、数瞬も要らぬ間のことである。 「……とは言えど、侮っていい相手でもあるまい?」 携帯をしまえばしまったで、視線の先はマーク入りの地図に固定されたままの凛とした声の主。 この騎士こそ『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)。 この騎士からすれば、携帯電話は通話のできる箱に過ぎない。操作の方法もおぼつかぬ有様だ。 そんな騎士にとっては、アナログな地図は見慣れているし、壊す心配もないのでまた気楽なものだった。 投げられた言葉。その内容である指摘もまた、正鵠を得る物で……。 「まぁ、それも確かに。まだ成長しきってないらしいだけ、マシなのかな。」 視線をやや上に据えた状態の英から返るのは肯定の言葉だ。油断できる相手なら、リベリスタは要らない。 それに相づちを打つのは、長髪が美しいオッドアイの乙女だ。 「元のいた世界におとなしく返ってくれると嬉しいのですがそうも言えないでしょうね・・・ 」 『フィーリングベル』鈴宮・慧架(BNE000666)。声の主は、どこか寂しそうな雰囲気を声にはらませる。 それに一つコクリと頷いた騎士は、チラリチラリと前を見ながらまた地図に思慮を向かわせた。 表情は堅物のそれで、真面目な騎士からすればまた不安も蓄積されて大きいのだ。 しかし、そんな不安を内包する凛とした横顔に、問いを投げるもう一人の男が居た。 引き締められた精強な肉体の上半身を誇示するように露出させた、一人のスキンヘッドの男だ。 「お若い騎士さんよ、戦場なんざ隠れられそうな場所や物、足場が確認できりゃなんとかなるもんさ。 そんなに気ィ詰めて戦略練っても、力の無駄ってもんだぜ?」 笑顔で軽く肩をたたきながらも陽気に話すその男の名は、『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)。 その言語にどこか緊張の糸がほぐれたのか、うら若き騎士の表情に、柔らかな笑みが溢れる。 その笑みにつられてか、宮藤ともう一人の仲間もまた、声を連ねた。 「大丈夫だよっ! 皆で戦うんだもの! ひとりじゃないんだしねっ!」 「だよっ♪ たとえ条件が悪くても、皆で頑張れば何とかなるって♪ ソウルくんとぼくで2体抑えるの。だから、サポートと撃破役、よろしくね!」 その声の主は、『素兎詐欺』天月・光(BNE000490)。兎と人の間の子である。 周囲に振り撒かれた笑顔。それに掛け合うように、ソウルもまた言葉を連ねる。 「しっかり暴れてこいよ嬢ちゃん! 背中や死角のカバー位はきっちりやってやらァ。」 「よろしくねっ♪」 明るい笑顔と、仲間の掛け合い。戦場にかける、虹の橋だ。 戦地に行くとはとても思えぬ、どこか楽しい笑顔の輪が、仲間に広がる。 そんな思慮を巡らせれば、時刻は午前10時をそろそろ指す頃になるだろうか。戦地は、もう近い。 ●Yes. It is Because this is 『Lizard Slayers of the Rebellista』. 杏が合流したのは少し時を遡る頃になる。視認した仲間たちの群れを追うように、翼が風をはらんだ。 上空より現れた天使の紺碧の翼が空に溶けこんで映えて美しく見える光景は、戦地への入り口だ。 これを合図にして仲間たちは各々の『幻想纏い』を起動、武装を纏う。 武装が体に入るのは一瞬を要しない。その後、結界の展開、カムフラージュのための幻視の施行が行われた。 この戦闘前の準備たる魔術に加わりながら、正宗は注意の言葉を飛ばす。 「重要な一手間だ、忘れる訳には行かないぞ?」 その言葉に肯定的返答を投げたのは、アラストールを初めとする結界術を持つ者達。 送り出されし強者達は幾重にも幻視と結界の魔術を貼り巡らし、魔術の混成によってこれより起こる血なまぐさい現実を秘匿する。 『それ』は、誰も知りえぬ仮想と現実の狭間で起きねばならないのだから。 幾重にも厳重に張り巡らされ、幻視によって入念なカモフラージュが施された戦場たる現地。 そこは、相応に幅が広いオフィス街の真ん中だった。 ――役者が揃い、太陽のみが見守る死の舞踏は、幕を開ける。 ●Beginning of the Battle with the dragon それは、竜と呼ぶには余りにも小さく、蜥蜴と呼ぶには大きすぎた。 リベリスタの『撒き餌』にすら一切の興味を示すことのないそれらは、リベリスタとの戦いそのものを求めるようにすら見えたのは、錯覚ではないだろう。 その純粋にも戦いを求める姿を前にして、動物の言葉で天月は蜥蜴に問う。 『君たちはどこから来てどこへいくの?』 この問いへの返答。それは、純粋かつ、一つの答えとなるであろう一つの言葉だった。 『来ることもなく、行くことも無し。我々は『大いなる永遠の転輪』に従うのみ。 ――定め、なのだろう? ……参る!』 言い終わるやいなや放たれた、鋭い尾の一撃を全力防御でうけた天月。 それを開戦の合図としてか、リベリスタ達は作戦行動を開始する。 初手は杏のマナサイクルから始まった。魔力の奔流をその身に受けて、体は魔力を纏っていく。 続いて出たのは宮藤だ。目にも留まらぬ亜音速の蹴撃が風を押し出し、大きな蜥蜴のそれである相手に斬撃を浴びせる。 鱗に阻まれ、斬撃としての効果は少ないが、それは確実な威力を持って効いていた。 サポートに回るものも居る。治癒術式を展開し、仲間の再生力を亢進させるのはアラストールと英だ。 英は自らに術式を掛け、それを利用して1体を抑えにかかる。 「出来るだけ時間を稼ぐ。皆、はやいとこ勝負つけてくれよ」 投げられた言葉。 それは、彼の思考を如実に物語る。 盾で尾による一撃を抑え、返す刃で刺突を浴びせて押し返す後ろ姿が、彼の本職を物語るようだ。 次いで動きを見せたのは、エナーシア。彼女はサイドステップでポジショニングを行いながら、集中によってエネミースキャンを試みる。 解析術式の後、網膜に映るそれは、老練なる蜥蜴。 その蜥蜴が竜の神たる『大いなる永遠の転輪』の爪に口付けるビジョンだった。 それは、ある種の転生を示す。このビジョンに彼女は、思わず息を飲む。 ソウルと天月は共に戦場でダンスを踊る。死角をカバーし合いながら、互いに強固な守りを持って。 紛い物のそれは牙を突き立て、尾を持って相手を打ちのめし傷をつけんとするも、亢進された治癒が徐々にその傷口を癒し、止めていく。 「耐え忍ぶっつーのも、兵士にとっちゃあ大事な役目だ。俺はそこそこ、我慢強いぜぇ?」 体が赤き筋を刻もうとも、牙が肉体に喰い込み、服が食い破られようとも。 強固な意志と笑顔の前に痛みは抑えられ、勝利への階は築かれる。 それは、まさしく献身だった。今は、屈む時なのだと、そう告げるがごとき。 耐え続けた。その先にあるのは、栄光だ。――反撃の狼煙が、上がる。 反撃の狼煙。それは、一条の雷撃から始まった。 一条の光となって天を裂き、蜥蜴の一団を貫いたそれは、杏の強大な魔力から放たれたものだ。 雷神の意を借りたかが如き雷の刃が蜥蜴達の鱗を紙のごとく裂く。 雷撃によって生まれる隙。その隙を鈴宮は見逃さなかった。 流水の構えから流れるように叩き込まれる風の刃。蜥蜴の鱗の上からさらに一撃を加えていく。 鱗が削れ、肉体が抉られる。されど、まだ倒れないのはその生命力故だろう。 その傍ら、善戦を続ける陣営の片隅で、うら若き騎士は蜥蜴の一体と真正面の血闘を演じていた。 蜥蜴の巨体を物ともせず、尻尾の一撃を盾で受流し、そこから流れるような強撃の一撃を加えていく。 「―――雄々ッ!!」 気迫と共に放たれた白銀の一条たるヘビースマッシュが、偽竜の巨躯を吹き飛ばしたのはその一瞬の後。 戦闘前、少し弱々しくすら感じた背中は今は跡形も無い。そこにあるのは、凛とした騎士の大きな背中だった。 大きく吹き飛ばされた生物の巨体が空を舞う。響く断末魔、空に響くどこか切なげな、 大きな音と共にその内の一体が地に体を横たえ、息を引き取った。 戦局が、傾く。今までの攻撃で傷を隠せぬ仲間たちの努力に報いるが如く。 その絶命の響きを正宗は背で聞いていた。傷だらけの肉体からの希望の色が、表情に滲む。 「そらそら、お前の相手はこっちだ」 剣でのパリィを織り交ぜ、ハイディフェンサーを生かしての抑えの勤め。 戦局が傾くまでの時間稼ぎだ。勤めは着実に果たす。それがこの男だった。 消耗を重ねる敵に対し、徐々に目的を果たしていくリベリスタ達。 そこに、さらなる決定打が撃ちこまれようとしていた。それは、女の声と共に。 敵への嘲笑を含む女の声が、空に織り交ざる。 「さて、まだBreath(吐息)も吐けないGreenScale(未熟者)たちに鉛玉のBless(祝福)は如何かしら?」 セットアップの済んだ銃によってばら蒔かれる薬莢。飛び交う弾幕が、まるで蜂の死の舞を連想させる。 ――ハニーコムガトリング。銃使いの戦技の現時点における最上級たるそれだ。 蜥蜴たちに刻まれる銃弾の軌跡が、効果を雄弁に物語る。抉られた銃創が痛々しい。 今だ息のある蜥蜴。そこに撃ちこまれたのは……。 「散々暴れてくれたんだ、お返ししてやらねえとな。存分に弾け飛びな。」 ソウルの声と共に響く、重金属の悪魔の稼動音。ヘビースマッシュだ。 大型のパイルバンカーが唸りを上げ、蜥蜴の命の糸を精密に断ち切るまでには、1秒も要らない。 悪夢の杭が肉に喰い込むと共に上がる絶叫と共に地に伏す蜥蜴。残りは、後2体。 傷だらけの群体。彼らの残りの命を断ち切る乙女となったのは何者であっただろうか。 ――それを務めたのは杏とエナーシア、そして宮藤の斬風脚だった。 雷撃と銃弾の雨が、敵のかすかな望みを打ち砕く。後に残されたのは、焦土と蜥蜴の亡骸だけだった。 ●Gonna Get All Some Day 死闘が終わりを告げると共に、周辺の調査を進めるリベリスタ達。 緊張の糸を張りながら、興味の対象としていたのはアラストールだ。 食べられるのだろうか?蜥蜴の肉を食した経験がある騎士からすれば、それも興味の対象だった。 その背後。結晶を粉砕するような、偽竜の進入口であったゲートが閉じられる音が響く。 それは、ソウルのブレイクゲートによる物だ。そして、蜥蜴の傍らではしゃぐ天月の姿もある。 そんな彼女は、勝利の喜びを帰り際につぶやいていた。それは、彼女らしい、素朴な呟き。 「最後は剥ぎとって逆鱗ゲット…うさ?」 任務を果たし、薄傷にまみれた、若き蜥蜴殺したちの帰還が、始まる。 その足取りは、どこか軽いものだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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