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ネコミミ好きですか?

●YES
 幾度もの試行錯誤。トライ、エラー、トライ、エラー、積み上げられる失敗作。
 初めて神秘に触れたその日から、男の人生は一変してしまった。
 不可能だと諦めていた一つの夢。遠き日に見た幻。
 それを追う手段が有ると示されて、それが愚かな事だと分かっていて手を伸ばした。
 苦労は承知の上。どれ程極小の可能性であれ在るのであれば諦める事など出来ぬは人の業。
 けれど世界は決して優しくなど無い。神をも冒涜するその男の所業に相応の罰を下す。
 無数の失敗、無数の挫折、垣間見えた光明は偽り。成功を唆すは悪魔の誘い。
 何度も挫けそうになった。幾度も己が不明を嘆いた。限り無く不可能に近い挑戦。
 特別な才能も運命の加護も無い男にとっては遠過ぎる地平。
 それでも彼は、諦める事だけはしなかった。
 周囲の罵倒から、良心の軋みから、世間の冷たい視線から耐え抜き、己が意地を貫いた。
 であれば、どうして。誰がそれを嘲笑する事など出来るだろう。

 始原の過ちより幾年が過ぎ、十余年がその只管に不毛な繰り返しへと注がれた。
 トライ、エラー。トライ、エラー。技術の粋を尽くし情報を掻き集め魂の大半を注ぎ込む。 
 だが足りぬ。それでも尚足りぬ。命の数割を削ろうと才能と言う名の祝福が足りぬ。
 されどならば覆そう。世界の摂理も文化の道理も己が限界の境地すら。
 血を吐く様な想いと文字通りその身命の一滴まで燃やし尽くす様な苦行。苦闘。苦渋。
 至上の悪路の果ての果て。
「――う……動いた……!」
 男は、遂に辿り着いた。
 それはとある天才に憧れた凡才の意地。唯の人間がその全てを費やして起こした人造の奇蹟。
 世界にすら牙を剥き、条理をすら乗り越えて、勝利を掴んだドン・キ・ホーテ。
 故に、覚悟せよ。其は人間と革醒者。エリューション化と言う最大壁をも凌駕し得る力である。
 対したならばそれが現代を生きる人間である限り、ある種の驚嘆と圧倒的な畏怖からは逃れ得ない。
 其はあたかも天啓を受けた聖人の如くに。時に人は、論理を超える。

 その物品こそはかつて地を統べし神代の宝具。
 名を、NEKOMIMIと言う。

●NO
「確かに御存知ロックでフリーダムなブラックキャット。『駆ける黒猫』とは俺の事さ。
 けれどだからと言って、人が不幸になるのをただ見守るのは趣味じゃない。
 人生はスパイシー&スイート。ウィット&ストイックだよ。
 ヘビーでバイオレンスなセンテンスばかりじゃ俺のソウルは満たされないって訳」
 アーク本部内、ブリーフィングルーム。
 今日も全壊なNOBU節が光る『駆ける黒猫』 将門 伸暁(nBNE000006)であるが、
 その瞳には何処か切なさの様な物が過ぎる。それもその筈。
 モニターに表示されたものはアークの構成員で有れば割と見慣れた物である。
「だからさ、この耳回収して来てくれるかな」
 猫耳だった。
 猫耳ヘアバンドだった。
 360度何処から見ても立派な猫耳だった。しかもぬるぬる動いてる。とても自然な動きだ。
 ヘアバンドとはとても思えない。おまけに色は白だ。白猫耳だ。
 で、だからどうした。
「見て分からないか。破界器だよ、それも極めつけにダーティな」
 けれど、続く伸暁の声は至極真剣である。思い掛けない反応に突っ込んだリベリスタに戦慄走る。
 実はかなりやばい代物なのか。緊張に満ちた空気がブリーフィングルーム内に張り詰め。

「何せ猫好きを魅了してしまうんだからね。アークには多いだろ、猫好き。全く俺も罪な男さ」
 掻き消えた。
 台無しだった。
 何もかもが台無しだった。
「ああ、何か多少俊敏になったりはするみたいだけど、これその物はただの猫耳だ。
 ただ既に猫耳の在るビーストハーフには使いこなせない。耳が4枚になったら気持ち悪いだろ?」
 うるさいよ。だろ?じゃないよ。この無駄にした時間返せよ。金払えよ。
「まあ、うちの開発室長の例にも有る様に、破界器製作者は革醒者である必要は無い。
 で、どうもナイトメアダウンに遭遇した男性が、そういう物がある事に気付いてしまったらしい」
 それはつまり、“神秘の実存”に気付いてしまったと言う事か。
 幸か不幸かはともかくとして、そういう事もまあ、有るのだろう。有るって事で。
「で、この男は大の猫耳フェチだった。それから12年かけて完成させた始めての破界器がこれだ」
 天才、真白智親は10年の月日を費やし万華鏡を完成させ、
 猫好きの凡人は10余年の月日を費やし動く猫耳を完成させた。
 それで良いじゃないか。もうそれで良いじゃないか。勘弁してやれよ。もう許してやれよ。

「出来ればこの男もスカウトしたいらしい。勿論お前達ならクールにこなしてくれるよな?」
 そしてこの無茶振りである。
 説得しろと言うのかそのどう考えても理系コミュ障っぽい引き篭もりを。いやいや無理だって。意味不明だって。
 けれどそんな声は爽やかに微笑むNOBUにはもう――届かない。
 アークのリベリスタ達に安息の日は来ないのである。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月25日(水)00:32
 59度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 戦闘能力とか忘れて偶には頭の中を空っぽにしてみませんか。以下詳細です。

●依頼成功条件
 破界器『動く白猫』の回収

●破界器『動く白猫』
 白い猫耳カチューシャ。岡崎一兵の最高傑作。
 着用した者の思念を感知し、動け、と意識すると動物さながらの自然さで動く。
 ビーストハーフ(猫)及び頭に耳の生えている人間は着用不可。
 装着者の速度と回避は猫並みに向上する。現在は一兵が常時装着中。

●破界器製作者
 岡崎一兵(おかざき・いっぺい)36歳。男性。独身。
 とある古いリベリスタの家系の分家筋。
 ND以来10余年を費やして破界器『動く白猫』を完成させた、
 凡才レベルの破界器製作者(アーティファクトクリエイター)
 無類の猫耳属性。猫耳愛してる。でも対人恐怖症気味。

●破界器『動く白猫・零式』
 岡崎一兵の作った動く白猫のプロトタイプ。
 でかくて重い招き猫の置き物。一兵の研究室内に計6体配置されており、
 一兵を害する行動を取った者に対し目からビームを放つ。
 ビームの威力は非常に高く並のリベリスタなら一撃で戦闘不能になるレベル。
 但しあくまで置き物である為、動く事はない。

●戦闘(?)予定地点
 岡崎一兵の研究室。1Kマンションを改造してあり防音性能抜群。
 但しあくまで一般家屋の為壁とかは割と脆い。お隣さん在住。
 到着時間は自由。神秘の秘匿とかとても大事です。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
ティセ・パルミエ(BNE000151)
クロスイージス
白石 明奈(BNE000717)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
ナイトクリーク
篠崎 エレン(BNE003269)
ナイトクリーク
晴峰 志乃(BNE003612)
覇界闘士
鳴神・暁穂(BNE003659)
ホーリーメイガス
石動 麻衣(BNE003692)

●しゅうげき
 寝転がっていたら電話が鳴った。勿論無視。元より彼に電話に出ると言う選択肢は無い。
 暫くしてぴんぽーんと、玄関のチャイムが鳴った。誰だろう。
 あれか。熱帯雨林か。熱帯雨林からの宅配か。あれ時間指定しなかったっけ?
 こんないきなり来られても風呂入って髭剃らなきゃ出られないって。ああもう、放置放置。
「もしもーし、居ませんかー? あっれ、おかしいなあ」
 声が聞こえた。若い女だ。おいおいおいおい、ちょ、宅配マジふざけんな!?
 普通男の独り暮らしに若い女の宅配員とか無いだろ、無いって、何で!? 何でそんな酷い事すんの!?
 うわ、これは本気で出られないわ。無いわー、いくら何でも無いわー、マジ引くわー
「放置確定って事で」
 殆ど室内に篭もりっ放しで早幾年。人と対面するのに恥を感じる様になったのは何時からか。
 宅配員と対面するなら心の準備が必要である。なので彼は大体最初に来た配達は受け取らない。
 と言うか大体受け取れる状態に無い。時間指定して準備万端整えないと対面出来ない。
「これは仕方ないかなあ」
「うん、仕方無いよね」
「せーのっ」
 ばきんと何かえげつない音がした。え? 何今の。え? 何今の。
 理解が付いて行かない異音。驚いて横たえていた体を起こす。因みに現在真昼間である。
「お邪魔しまーす」
 『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)を筆頭に、
 視線を向けた先。開かれた玄関からどやどや入ってくる女性陣。
 何と女性ばっかり8人。え、kneg?何これ、どっきり?カメラさんどこ?どこなの?
 余りに現実味の無い光景に夢かと思い自分の頬を引っ張る一兵。周囲を見回す一兵。
 その光景は、一言で言うなら腐海の底。
「ぎゃ―――!? らめぇー! こっち来ちゃらめぇえええええええ!!」

 叫ぶ一兵。一人暮らしの男の家へ突発的にお宅拝見とかすると大体こう言う事になると言う好例である。

●こうしょう
「猫、好きなんだ?」
 意外と広い15畳1間。所狭しと並ぶのは猫グッズの数々。
 それらに混ざって良く分からない機械類や目の死んでいる招き猫の置き物が並ぶのは、
 正直なところシュールだと言う他無い光景であるが。
 『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)のそんな第一声に、既に完全に怯えまくった岡崎一兵。
「なに!? おたくら何!? 何なの!? うちには金目の物とか無いぞ!?
 しかも何か猫耳着けてる子とか居るしどう言う事なの!? 誰得!? いや、可愛いよ猫耳可愛いよ」
 パニックに陥っていても猫耳愛は揺るがない。流石と言うべきかアレな人だと言うべきか微妙である。
「えっとですね、自分たちがにゃんの……」
 余りに周囲が猫ばかりだった為か、とりあえず話しを切り出そうとした『鏡花水月』晴峰 志乃(BNE003612)。
 噛み噛みである。台無しである。にゃんとかいちゃった挙句に赤面して硬直である。はい次の方。
「ねーねー、猫耳のお姉さんと一緒に楽しいところに来ない-?」
 棒読みで声を掛ける篠崎 エレン(BNE003269)。セクシー系のお姉さんの呼び掛けである。
 男ならばホイホイついて行きかねないその誘いに対し、けれど一兵の反応は鈍い。
 さもありなん。元々余り外出しない男である。社交性も余り無い。
 であれば彼らが何で自分の家を知りこうしてやって来たのか。不審に思うのは当然であろう。
「……猫耳……」
 いや、単にエレンの猫耳に注意が向く余り聞いていないだけだった。驚くべきはその猫耳愛である。
「猫耳って萌えるわよね!」
 けれどそんな何処かゆるい空気を引き戻すのは『雷を宿す』鳴神・暁穂(BNE003659)
 その異様な剣幕にとりあえず女の子慣れしていない一兵が一歩引く。
「やわらかそうで、ぴこぴこ動いたりして、それが可愛い男のコや女の子の頭に付いてたらもう倍率ドン!
 更に倍ってモノよ! 分かる! 分かるわ! 猫耳は、可愛いのよ!」
 突然語り出す16歳女子1名。テンション上がり過ぎて色々とヤバイ。
 とは言え猫耳には一家言ある身の一兵である。少し考える様な仕草をした上でおずおずと言葉を紡ぐ。
「確かに、可愛い男の子や男の娘、女の子の頭に付いている猫耳は萌える。
 けれど待って欲しい。イケメン成人男性や色っぽい姉さんが着けている猫耳と言うのもそれはそれで
 有りではないだろうか。いや、これによって導き出されるギャップは――」

 以下、20分猫耳トークが続くので暫しお待ち下さい。

「――であればこそ本来人間の持たざる器官であると言う事実がある種の背徳感を刺激し」
「素晴らしいです! そんな素敵なもの、絶対欲しいですわ!
 ええ、是非、同じ猫耳愛好家にして引き篭もりの同士として。
 世間というものはどうも辛いもので、つい部屋に篭もって大好きなものに熱中してしまいますものね!」
 ぐっと拳を握る『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)。
 引き篭もりは皆そう言うんや……と言う、逃避的発言の見て取れる三高平御用達見た目小学生のお嬢さんである。
「でも君、小学校には行きなさい」
「私はこれでも26ですわーっ!」
 残念ながら引き篭もりの研究者だから反社会的だとは限らない辺りが現代の難しさである。
「なるほど、御説確かに承ったよ。初めまして、僕の名前は紅涙りりす。よろしくね」
 形成に不利を見たかそんな対話に『人間失格』紅涙りりす(BNE001018)が割り込む。
 見た感じこそにこやかだが、地雷を踏む事に定評のある鮫ラーである。さてどんな交渉を。
「最初に言っておくけど、僕はねこ耳は嫌いではないが、君のように心血を注ぎ込める程、愛していない」
 はい地雷踏んだー
「な、なんだって―――!?」
 思わず劇画調になって驚いてしまう一兵である。あんな愛らしい物が好きじゃ無い何てまるで理解不能である。
 そんな馬鹿なてめえ人間じゃねえ! あ、人間失格でしたねごめんなさい。
「それを踏まえた上で言おう。僕は君と。君の作品は美しいと思う。
 その作品は君の生き様だ。僕はそれが欲しい。そして君の作品を、これからも見ていたい」
 続く言葉に一瞬たじろぐも、そう言われて悪い気はしない。
 視線こそ逸らす物の着けている白猫耳がぴこぴこと動いている。感情を読み取り動作に反映しているのである。
「だから、そのねこ耳を僕にくれ。あとアークにも来てほしい」
「駄目、無理」
 急転直下過ぎる上物欲丸出しである。流石にこれに応じる程一兵もお人好しではない。
「好きこそ物の上手なれとは言いますが……信念や想いで不可能を可能にするのは凄い事です
 自分はそういうの、素敵だなって思います」
 けれど、続く志乃の言葉に一兵が瞬く。信念や想い。その呼び方は余りに綺麗過ぎて。
 自然とその表情に苦笑いが浮かぶ。この十二年は決して、それほど良い物では無かった。

 別に何か特別な理由や切欠が有った訳ではない。ただ好きだから形にしたかった。
 切欠なんて些細な物だ。一兵は普通の人よりほんの少しだけ、不思議な物が身近だった。
 だから知っていた。それは絵空事では無いのだと言う事を。
 人の想いは、願望は、意地は、執念は、不可能を可能にもし得るのだと言う事を。
 けれど、それは凡人にとって苦行でしかなく――未だ彼は道中に在る。荊の、道中に。
「いや、でも、俺のこれは、そんな大層な物じゃなくて……」
 戸惑う様に言葉を紡ぐ。個人的な欲望だ。欲求だ。それを他人に。
 それも自分より遥か年下の女性に晒すのは、何と無しに憚られた。有り体に言えば気恥ずかしさ、か。
「そんな事ねえよ博士!」
 であればこそ、か。『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)の言葉には、
 そんな陰々とした物を吹き飛ばすだけの勢いがあった。春先の清風の様な、真っ直ぐさが。
「胸を張っていい。博士の10年は結果を出した。博士は間違いなくすごい研究者だぜ」
 見た所未だ義務教育も終えていないだろう少女の言葉に、気圧される。
「いや、そんな。確かに漸く動く様にはなったけれど、まだまだだし」
 人に対し常に自分を卑下してしまうのは、対人恐怖症の気のある人間特有の傾向である。
 それは分かっている。分かっていても止められる物ではない。けれど、同時にこうも思う。
 自分を尊敬していると言う人間に対して自身を下に置く事。それはもしかすると。
「猫好きに悪い人はいないっていうから、いっぺいおじさんもきっといい人だね!」
 太陽の様な笑顔で微笑み、そうと告げるティセの耳が嬉しそうにぴこぴこと揺れる。
 だから分からなくなってしまった。一体何が正しくて、何が間違いなのか。
 けれど少なくとも、この突然の闖入者達に悪意は無いのではないかと。例えばそんな事を。
「――でもいっぺいおじさんはひとつ大きな間違いをしてるよ!」
 とそんな事考えている最中に飛び込んだ言葉に居住まいを正す。あれ、俺何かやらかしたか!?
「猫耳と人耳、どっちもあったらおかしいよ!」
「む、一理ある。でもね、君は確かに愛らしいがだからって人に耳を取れとは言えないだろう。
 まあ、せめて隠していてくれたら嬉しいとは思うが……」
「当然、あたしは猫耳しかないよ?」
「マジで!?」

 岡崎 一兵、本日最大のジェネレーションギャップである。

●ねこみみ
 ぎしりと古普請の床が鳴る。一歩、這い寄る様に四つん這いの明奈が近付く。
 座った姿勢のまま後ろにずり下がる一兵。へたれと言う無かれ、仕方無い。だって研究者だもん。
「猫はかわいい。猫耳は、素晴らしい! そこに理由なんか要らない。ハートがあったかくなるんだから!」
 言ってる事は元気一杯普段の明奈である。彼女の属性は基本元気>快活>女の子と言う比例関係にあり、
 時々残念の枕言葉が付く事だって少なくは無い。その筈だ。その筈なのだが……
「でもね、お願いがあるんだ。その猫耳、ワタシにも付けさせてくれないかな?
 ダメなら諦める。猫耳ともども岡崎さんがアークに来てくれればOK。けど、一度で良いから……」
「ま、待った! 近い! 分かった、分かったから落ち着くんだ!?」
 上目遣いに、声を細め四つん這いで見つめるその姿は、女の子的な意味で色々駄目である。
 対人恐怖症で引き篭もりの三十路中半独身男性には、余りに刺激が強過ぎる。
 と言うか。果たしてなんでこうなった。

「何だったら触ってみます?」
 多分発端はそんなティセの台詞だった様に思うのである。
「それが叶うのなら是非も無し!」
「ん、優しくしてね……にゃ……ぁ……ん……」
 何故か自らOKを出した筈なのに上がる色っぽい甘えた声音。え、何待って、猫耳ってそゆ物なの?
「その……なんて言うんだろう。こういう時何て言ったら良いのか分からないのだけど」
 一兵にとっては死活問題に発展しそうな疑問の眼差しを、どうも違う意味で受け取ったか。
 エレンが何処か困った仕草で頬を染める。口にしようとする言葉が恥ずかしいらしい。
 セクシー系お姉さんも猫耳が付けばこの通り一瞬で可愛い系に。驚くべき劇的ビフォーアフターである。
「私たちと契約して、仲間になってよっ」
 あれ。何か突然ブラック企業の香りが濃厚になって来ましたよ? アークって実はそういう?
「ほら、あんたの猫耳愛を存分に満たし、発揮出来る場所に来てみない?
 彼女とか彼女みたいな天然モノの猫耳美少女が沢山居るわよ?」
 暁穂に指差されたティセとエレンの猫耳がぴくりとはねる。そうと言われては流石に猫耳フリークの一兵である。
 思わず頷いてしまいそうになる自我を、鉄の意志で圧し留める。
「いや、それはまあ、考えてみないでもないけど……」
 それでも強く言い返せないのは相手が女の子であるから。いや、其処に猫耳が有るからである。異論は認めない。
「あ、それと個人的になんだけど」
 けれど暁穂の話はそれで終わりではなかったらしい。にっこり微笑むとこう続く。
「わたし、あんたが作ったその猫耳、素晴らしいと思うわ! ちょっと着けさせてくれない?」
「だ、駄目っ! 駄目だって! これは」
「あ、私も出来ることならそれ、実際に装着して動く様を体感してみたいです。
 猫耳に合う衣装も予め白衣の下に着込んで来たんですよ?」
 別所から声。此方は麻衣。はにかむ様な照れた様な微笑に、一体どんな衣装を着てきたのか期待が高まりまくる。
「いや、でも俺の血と汗と涙の――」
「あ、それ俺も興味あるなあ」
 更に声。何時の間にか距離を詰めていたラヴィアンの声は間近から。驚いた一兵が尻餅を着く。
「ちょ、え、何で?」
 女の子は、柔らかくて愛らしい物だと。そう思っていた時期が私にも有りました。
 けれど座り込んだ一兵を見る少女達の爛々と輝く瞳は、半ば肉食獣のそれにも似て――

「岡崎さん、貴方が作った猫耳は奇跡の品だよ。アークの研究者として、その才能を活かして欲しい。
 こんなステキな猫耳を作れるんだもの。きっと、素晴らしい研究者になれるはずだよ」
 言ってる事は何だか素敵な筈なのに、現役女子高生に迫られると言うシチュエーションだって胸躍る物の筈なのに。
 どうして、世の中はこれほど引き篭もりには非情なのだろう。
「うっ、うっ、もうお婿に行けない……」
 見事に猫耳を奪取したのはまず暁穂である。一瞬の隙を突くその動きの鋭さ、正に電光石火。
 けれどぴこぴこと着けた白猫耳を動かしては感動する様にはあどけなさが垣間見える。
「どう! どうかしら! 動いてる!? 猫耳!」
 見回せばまるであわせた様にぴこぴこ動くエレンとティセの耳。む、どうも今一つ目立たない。
「じゃあ次は私の番ですわね」
「もうどうにでもして……」
 麻衣が勢い込んで白猫耳を着ける傍ら、一兵が微妙に拗ねた声を上げるが、それも長くは続かない。
「白猫と言えば! これ!」
 白衣をはためかせたその下は一体何処から調達してきたのか、白いスクール水着である。
 思わず吹く一兵。何かもう色々とピンチだ。地球が危ない。
「な、何と言う捨て身……さすがにこんな大勢の前で付けるのも恥ずかしいですし、
 等と言っていては駄目だったのでしょうか、それは私も興味が無いでは……」
 悩ましくももじもじと床にのの字を書く志乃。だが如何せん、この場は既に戦場である。
「……何かしら。あれが恥を捨てるって事なのかしら、あ。何か頭痛くなってきたわ」
 エレンの思考が彼岸に旅立っている間も争奪戦は終わらない。
「次ワタシ! ワタシも着けたい!」
 暗黙の了解とでも言うべきか、続け様に麻衣から猫耳を受け取る明奈。
 おおーっ! と本当に意識すると動く猫耳に感嘆の声を上げてみせる。
 とは言え、一兵からしても妙に大人びた女らしさを武器にさられるよりは、
 そうして明るく子供らしく振る舞われる方が気が楽である。まあ、満足したら返してくれるだろう。
 そんな楽観は、けれど現状を未だ甘く見ていたと言えよう。
「じゃあ次は俺! 俺なっ! おおっ、すげーなコレ! マジで動くぜ!」
 最後に渡ったのはラヴィアンである。きらきら瞳を輝かせる姿には歳相応の好奇心が満ち満ちており。
 ああ、自分にもあんな時代があったなあ、と一兵が遠い過去に思いを馳せようとしたその束の間。

「ごはんおねだりのポーズ!」
 上目遣いで下から見上げながら耳ぴこぴこさせにゃーんと鳴くラヴィアン。
「お昼寝中!」
 うつぶせで寝転んで耳ぴこぴこさせにゃーんと鳴くラヴィアン。
「ご奉仕するにゃん♪」
 片手で招き猫のポーズを取りながら耳ぴこぴこさせウインクするラヴィアン。
「何かあざといよっ!?」
 幼くないよ! 綺麗な童心とかどっか行ってるよ! キャラ変わってるよ!
 とんだあざとイエローである。大きなお友達もきゅんきゅんだ。
 比較ノーマル嗜好の一兵が、危うくアーク代表と同じ扉を拓いてしまう所だった。セーフ。
「まあ、色々言ったけど。君の事、好きだから一緒に来ない? って事さ」
 とは言え、結局の所彼は無類の猫好きで、無類の猫耳好きである。
 人は変わらず苦手だけれど、此処まで乞われれば流石に考え込む。
 けれど、それを見ていたティセが、エレンが更に続く。
「いっぺいおじさんもアークに来れば研究いっぱい出来るよ? あたしみたいな人もいっぱいいるしね」
「お願い、その猫耳を回収させて。ついでに私たちと一緒に来て。良いでしょ、ね?」
 別に、自分一人でも研究に支障は無い。それが本音と言えば本音である。
 けれど、もしもそれが誰かの役に立つのであれば。もしもそれが――誰かの笑顔に繋がるので有れば。
 それはほんの少し、素敵なことでは無いだろうか。
「……あの……」
 くい、と引っ張られた白衣の裾。恥ずかしがりの志乃が勇気を振り絞っての自己主張。大博打に出た物である。
 けれど、人が恐い一兵には多分きっと、その位の後押しが丁度良かったのだろう。
「分かった、分かったよ。分かりました。降参だ。何処へなりと連れて行ってくれ」
 両手を挙げる。そもそも、男1人で女8(?)人勝ち目等元より在る筈も無い。
「いえその、自分も、猫耳を――」
「え、そっち?」

●ごじつだん
 回収された猫耳は、結局それを着けられなかった少女に手渡されました。
 ティセとりりすの発案を元に、次は動く尻尾に挑戦するそうです。
 めでたくもあり、めでたくもなし。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
イージーシナリオ『ネコミミ好きですか?』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

非情に愛らしくもツボを突いたプレイングをありがとうございます。
ぐぎぎ、これは勝てん。と言う事で、大成功を贈らせて頂きます。
今後岡崎一兵はアーク所属のへっぽこ破界器製作者として活動予定です。
破界器『動く白猫』は、何処か一兵に似ていた貴女へ。

この度は御参加ありがとうございました。またの機会にお逢い致しましょう。

===================
レアドロップ:「動く白猫」
カテゴリ:アクセサリー
取得者: 晴峰 志乃(BNE003612)