● いずこか知らぬが糸屋の娘 姉は十六妹は十四 諸国大名は弓矢で殺す 糸屋の娘は目で殺す ● 「フィクサード――というと本人達は怒るかもしれない。フリーの革醒者。識別名『糸やのいとはん』」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、少し言いあぐねた。 「必殺、ほにゃらら、人みたいな。自分らの正義に基づいて、法に裁かれぬ悪人を倒す――活動をしていると本人は主張している」 イヴにしては、回りくどい言い回しをした。 それ、悪い人じゃないですか? 「彼女のモットーは、非傷不殺。確かに、彼女の手にかかった中で、死んだり怪我をしたりしたのは一人もいない。トラップネストで縛り、神気閃光を自分のフィーリングで回数を決めて撃つ」 ああ、それで。 気糸で縛られても、確かにダメージは発生しないし。神気閃光でなら、絶対死ぬことはないが。 あれ、でも、毒は? 「まず、事故を避けるため、自動治癒の加護をかける」 イヴは深々とため息をつく。 「だから、死にはしない。刑の執行後は、傷は完全に治す。でも死に至る苦痛を治療されながら、延々と受け続ける。その精神的苦痛や絶望は筆舌尽くしがたい。先ほどの説明に補足をすれば、全員重度のPTSDを発症している」 死傷させなきゃいいってもんじゃないよな。 「――と考えて、袂を分けたのが、識別名『糸やのこいさん』」 こちらも、基本姿勢は変わらない。 「こっちは、悪即断。ギルティドライブで、妹の獲物を速攻地獄に叩き落す。本人は、一撃必殺、妹になぶられるのから助ける慈悲とか言ってる」 でも、殺すのはどうよ。 「人の数だけ正義があり、悪がある。人殺しを悪とするなら、私達も悪」 アークは正義の味方ではない。崩界の敵だ。 「今回、アークが彼女らと敵対するのは、利害の不一致。いとはんのターゲットがアークの協力者だから。というより、アークにけんかを売るためにターゲットを選別したといっていい」 場所は、某ビル屋上。 「こいさんも来て、ターゲットに『慈悲をかけ』ようとする。みんなの仕事は、ターゲットの保護。出来れば、『糸や』の撃破。二人は表立って協力し合うことはないけど、身内の馴れ合いで、殺しあうことはない。漁夫の利は狙えないね。展開によっては、敵の敵は味方で、共同戦線張ってくる可能性もある。出来るだけ、歩み寄らせないようにするのは有効。二人とも、年は若いけど、経験は積んでる。単独行動で今までフリーのリベリスタとも渡り合ってる。共闘されると、互いの弱点を補い合って、手に余る」 その辺はうまくやってと、イヴは言う。 「撃破の意味をどう設定するかは、みんなに任せる」 生死を問わず。 イヴは、言外にそう言った。 「でも、ターゲット――西原さんが見てる。アークを信じて、革醒者をアークに連れてきてくれている人が見てる。彼は、アークに来れば革醒した人も幸せになれるって信じてくれてる。そんな人に恥ずかしくない行動を」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月31日(土)21:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「『糸や』とは代々使っている屋号みたいなものですかね」 『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)は、現場に向かうエレベーターの中で話し始める。 「確かに法に裁かれぬ悪を裁くというのはテレビの時代劇では人気のある題材でしたが、それを実践している人の、それも姉妹とは」 まったくだ、と、周囲のリベリスタも頷かざるを得ない。 「ただ厄介な性格のようで。姉は非殺不傷を心がけて、対象者に重度のPTSDを。妹は悪即断で、即座に殺す。そして姉妹はそのポリシーの違いから対立している」 エレベーターのドアが開く。 すでにビルの見取り図は頭に入っている。一気呵成に屋上まで走りきるだけだ。 「西原さんの保護を優先しつつ、出来ることなら姉妹に趣旨換えしてもらいたいものです」 リベリスタ達は、大きく頷き、次々戦場に飛び出していった。 (因果応報、至極道理。なれど、戦場に立つ以上、避けては通れぬ道がある) 『永御前』一条・永(BNE000821)は、最後の階段を駆け上がる。 「戦に善悪などはなし。あるのは思惑と意地と覚悟のみ」 威をもって戦場に立ったとき、正義を語る資格を失う。 殺す者は殺される。 奪う者は奪われる。 騙す者は騙される。 辱める者は辱められる。 行き着く先は裁きの庭。因果応報、それは閻魔様ですらも例外ではない (それでも私は護ると決めた、戦うと決めた。大好きな人達を、大好きな日本を、二度と焦土にしないと決めた) たとえ、正義でないとしても。 ● 「命は地球より重いのに、革醒したというだけで、女子供はもとより、嬰児までもくびり殺す。そんな連中の片棒を担ぐあなたを赦せない」 銀の羽の先がわずかに赤に染まったいとさんの大きな大きな翼が、断罪の天使のようだ。 「私は、アークの正義を信じている」 西原氏は、少女を見上げた。 「あたしも正義を信じてる。まず、人が何より犯しちゃいけないのは、命を絶つことよ。どんな命でも殺してはいけないの。絶対に。だって、皆、土壇場で『命だけは』って言うでしょう?」 天使のような柔らかな笑顔。一途な信念。 「だから、どんな悪党でもあたしは命を獲ったりしないわ。それは、いけないことですもの」 そうでしょう? と、いとさんは小首をかしげる。 「もしもあなたに罪がないなら、あたしの光を浴びても耐えられるはず」 いとさんは、それを裁きの光と言うけれど、けしてそんなものではない。 神の名を冠しているけれど、結局は、使用者が敵と認識している者を傷つけ、衝撃を与え、でも死なせないだけの神秘現象に過ぎない。 だから、いとさんが赦せないならば、痛いに決まっているのだ。 盲信。 ただ、正義を、人の命の尊さを信じ、時には死よりも重くなる尊厳を踏みにじる。 「もしくは、あなたが信じた誰かが助けてくれるかもね」 ● 群を抜いて素早い仁科が、西原をぎりぎりで確保し、いとさんの勢力範囲から全力で遠ざかろうとする。 その瀬を追ういとさんの気糸から西原をかばった『地火明夷』鳳 天斗(BNE000789) は、四肢に痺れと猛然とわきあがってくる毒の気配に、一瞬喉を詰まらせた。 西原をかばって受けた罠の巣に絡め獲られている。 (姉妹の隙を突いて結婚式の新婦のようにキツく抱きしめビルから飛び降りる。[面接着]で速度を殺しながら着地。待機させたSUTでおっちゃん夜のドライブへ。という俺の華麗な計画が! そのまま今日の仕事終わるなら儲けと思ってたのに!) 世の中、そんなに甘くない。 そもそも、いとさんもこいさんも飛べることを忘れてはいけない。 (そうは問屋がおろさないってか、この場合は、糸やか……) 益体のないことしか浮かんでこない。 『熱血系国籍不明』レイシア・アラッカルド(BNE003535)が駆け込んできて、いとさんにマントを翻し、サーベルを叩きつける。 「正義なんていくらでも姿を変える。自分の正義を大切にしたいって気持ちは分かるケド、苦しめたり、殺しちゃいけないと思うんだ」 傷つけたくないという気の迷いが、レイシアの切っ先を鈍らせた。 戦闘杖に押さえ込まれたサーベルが、ぎりぎりと耳障りな音を立てる。 「じゃあ、ほっとけっていうの? そうじゃないよね。君、今あたしに剣を向けてるもんね。じゃあ、君は何で剣を振るってるの?」 「罪のない命どころか、世界が壊れちまう。アーク何とかじゃなく、一人の覚醒者として、って。アークはただ、崩界の敵なんだ」 ふらふらと世界のあちこちを期に向くままに放浪して歩く自由人のレイシアにとって、崩界はあってはならないことだ。 崩界について知らないなら教えるから。と、言葉を継ぐレイシアに、いとさんは柔らかな笑みを浮かべて首を横に振った。 「知ってるわ。運命の気まぐれがなければ、革醒したモノはそこに存在するだけで世界を壊してしまう原因になることも」 ねえ。だからって。と、いとさんは首をめぐらせる。 「命を奪って平気なの?」 『正義を騙る者』桜花 未散(BNE002182)と『愛煙家』アシュリー・アディ(BNE002834)が、仁科から西原を引きつぐ。 ビルの中に対比させ、扉の影に身を潜ませる。 「大丈夫。あの子達がいなくなるまで、あなたのことはあたしがかばうわ。今、なにが起こってるかわかる?」 2mになんなんとする巨漢のオネエに一瞬息を呑むも、アークの協力者である西原は動揺を押し隠して頷いた。 「西原さん本人が強く希望しなければ戦場から離れてもらう」 アディーは、扉の向こうに現れた新しい気配、こいさんに気がついた。 「見たいなら、見ておくといいわよ。神秘や革醒について質問があれば包み隠さず教えあげる。あなたには知る権利がある。もし綺麗事だけしか知らないのなら尚更ね」 西原は、大丈夫ですと、美散に告げた。 「きちんと、存じています。私の息子はノーフェイスになりました。妻は錯乱した息子の手にかかりました。プロト・アークの方が私をたすけて下さいました……」 それ以上は言葉にならない。 「ですから、私は、せめて、恩寵を受けて革醒をした息子くらいの人たちには、革醒したからと言って身を持ち崩してほしくないと、人として生きてほしいと……」 その肩に、美散は手を置いた。 「あなたの優しさは誇るべきものよ。私はそう思うわ」 アディーは、美散に西原を任せ、扉の向こうに――戦場に出て行った。 銃使いとしての本能が、断罪の魔弾が放たれたのを認識する。 いとさんに向けられて、放たれた。 命を以て、罪を償え。 死を強制する、激烈な一発。 いとさんの巨大な翼に、大穴が開く。 「何度お仕置きをしたら、分かってくれるの?」 血がしぶく翼を大きく広げて、姉が問う。 「お前と分かりあうことなんか、金輪際ない」 小さな翼で風を切りながら、妹が答える。 いとさんに迫る孝平の蛮刀が、速度を乗せて叩き込まれる。 切っ先をわずかにそらしたいとさんに、孝平は、 「自分たちはアークのリベリスタです」 と、律儀に告げた。 「何故アークに対して攻撃をするのですか? 僕たちの力を使うべき対象は別に居るのです。人々の命を守るためにその力を使ってみませんか? 僕たちには何よりも大切なものですから」 いとさんは、孝平の顔をじっと見た。 そして言った。 「うそつき」 それとも、君たちにとっては、ノーフェイスの命は、命の内に入らないの? ● 夜空は、裁きの光につつまれる。 リベリスタ達は、西原の保護を第一とした。 そして、「糸や」への説得を優先させた。 そのために、多くの者がまずは武器には手をかけないでおくという選択をした。 天斗に至っては、武具を手にすらしていなかった。 「いと屋」の魔力が尽きるまで、サンドバックになろうとすらしていた。 革醒者の力は、年齢性別を問わない。 どれだけ、神秘を受け止めきれるかだ。 今の天斗の技量では、残念ながら全てを受けきることは不可能だった。 アークのリベリスタが「説得」を試みようとしていることは、二人にも容易に知れた。 しかし、リベリスタにもそれぞれの正義があり、それぞれの考えがある。 己が正義を貫くということ。 それは、様々な立ち位置と対処の違いを白日の下にさらすということ。 「正義か……語るには覚悟がいるよね。私? 語る資格も無いよ。ニートだし」 そう嘯く『名無し』氏名 姓(BNE002967)は、職業詐称である。 閑古鳥が鳴いていようが一応は骨董店を経営しているのだから、ニートとはいえない。 急降下してくるこいさんに、叫ぶ。 「彼は人殺しじゃない。君の姉さんが私達を誘き出す為に用意した囮だ!」 「わかっている。私は、その女は違う! 君たちがどんな存在か見極めるためここに来た!」 そして、姉の『犠牲者』に『慈悲』をかけるため。 「痛みと恐怖にのた打ち回り、人として機能しなくなるほど痛めつけられ、もはや正気に戻ることもかなわない、永劫の苦しみをせめて止めてやろうと思って……」 一瞥して、わずかに安堵の息を吐くのが見て取れた。 「お前たちが確保しているのだな。ならば、問題はその女だけだ!」 『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)は、騎士槍を手に屋上を駆け抜ける。 (わたくしの正義は『世界』を守る事。即ち崩界を阻止する事。それだけです) 守るべきは、命ではない。 世界そのものだ。 それこそが、ノエルの絶対的正義。 極力装飾を廃した槍がノエルの闘気で装飾され、いとさんに向けて空気を貫き通す気合と共に放たれる。 「本当に貴女方はその正義を貫く覚悟があるのかが疑問なのです。何故正義が食い違った姉妹が双方健常でいるのですか?」 がしりと杖で受け止めたいとさんはそれでも踏みとどまりきれずに吹き飛んだ。 大きな翼が勢いを相殺し、かろうじて戦闘体勢を維持する。 姉妹の馴れ合いをつき、弱体化を促そうとしたノエルに、いとさんは目を大きく見開いた。 「『食い違った同士なら、親兄弟でも殺しあえ』ってこと?」 ノエルは頷き、それが覚悟です。と言い切った。 「アークは確かに女子供も殺します。老いも若きも、崩界に与するならば関係はありません。人によっては身内やそれに近い人を殺さなければならぬ事もあったでしょう。正義を掲げるとはつまり、そういう事です」 冷酷な銀騎士は断言する。 「自身の正義に反するものは、例外なく裁かなければならない」 はっ。と、いとさんは鼻で笑った。 「おっかしい。恐山と手を結んでたあんたたちにそんなこと言われたくないわ。それとも偉い人の決めたことは飲まなきゃいけないってことかしら?」 いとさんの表情が鬼気迫る。 「それにしても、なんてひどいことを言うのかしら、アークって――」 低く響く声が、屋上に響く。 「人を殺してはいけないって何べん言ったらわかるの!? 世界が助かるなら、子供を殺していいの? 自分達が助かるためなら、お前の存在は悪だからって、生まれてきた命をためらいなく殺すって言うの!? あたしは、そんなのおかしいと思う! そんなのがあんた達の覚悟なら、あたしはその覚悟を否定する!」 いとさんは、最大限の力で最大限の裁きの光を放った。 数多なす高位世界に数多なす高位存在。 いとさんに共鳴する存在が、その威光を底辺次元に知らしめる。 光の下に身をさらすあらゆるものの心と体を削り取り、死に至る痛みを神経の末端まで染みとおらせ、しかし、決して人を死なせないのだ。 永劫に続く苦痛。鈍る指先が、体の衰えを実感させる。 「君達さ、守る為に戦った事ある? 誰かの命を救った事ある? 君達のやった事でそれを成せた? 生産性が無いのにそれが世の中の為と言える? 奪うだけで責任もとらない。覚悟も無い。 それでも正義と言えるのか?」 運命の恩寵を足がかりに立ち上がる姓に、いとさんは少し苦しそうに微笑んだ。 「あるって言ったら、赦されるの? そんなものが免罪符になるの? 馬鹿にしないで。それが目的だから、殺しても仕方ない?笑わせないで」 ノエルは、槍の突き込み姿勢に入りながら言う。 「アークのリベリスタは様々な葛藤の上で、それでも正義を為しています。だから赦せ、等とは言いません。ですが、貴女方が身内で馴れあうような半端な意志と覚悟で正義を標榜しているならば……腹に据えかねるのです」 対神秘防御に穴があるノエルにとって、いとさんは天敵だ。 急所に受けたダメージは、呼吸するのも痛みを生じるほどだ。 「それは、早い話が『お前は気に食わない。すごく腹が立つから潰す』ってことよね。こういっちゃなんだけど、あなたにあたしの覚悟についてとやかく言われる覚えはないわ」 いとさんは、そう言った。 「「……違う、というのならお相手しましょう。全力で」 「あたしは、殺さない。あたしを殺しに来たリベリスタだって殺さない。絶対に。どんなに剣で切られようと、魔法で射られようと」 にやりと笑って、杖を眼前に構えた。 「槍で貫かれようとも、絶対に」 闇夜に火花が散る。 槍と杖が激しく交錯する。 「何度も『お仕置き』されてるさ。この女を未だに殺せないのは私の腕の未熟さによるものだ」 残念なことだがな。と、リベリスタと共に傷を負ったこいさんは歯ぎしりをする。 いとさんは殺さない。 取り返しがつかない罪を犯した者に、一般人には取り返しがつかない『お仕置き』をするだけだ。 ● 「屍山血河を踏み越え歩む。善悪の矛盾に苦しみ歩む。其は阿修羅道」 永は、刀の鯉口を切らぬまま、こいさんに語りかける。 「私は貴女の覚悟を存じません。私の覚悟、皆の覚悟、お姉様の覚悟、誰かの覚悟……貴女はご存じですか?」 少女は、首を横に振った。 「全てを知っているといえば、嘘になる。私はまだ幼く未熟だ。私のしている覚悟という者が、どれほどのものなのか、十分なのかそうでないのかは自分でも分からない。それでも、どうしても、どうしても赦せない悪がいる」 それは、内側から沸いてくるものだ。 「心が叫ぶ。魂が叫ぶ。それは悪だと」 見過ごせない、一日生かしておけば、十人死ぬような奴がいる。 「いつか私も裁かれるだろうが、そんなことは先刻承知だ。しかし、その女は違う。その女は未来の可能性はもとより、尊厳まで踏みにじる偽善者だ! 私は、そいつと並び立つことは出来ない!」 こいさんは、リベリスタ達を一瞥した。 「お前たちの性根は分かった。お前達は、世界の維持を第一義としているのだな。それゆえ、懐深くあろうとしているのだな。私のような者とも、この女のような者とも共に行こうとしてるのだな――」 「アークは正義でも、悪でも無いんだ。……変な人多いケド」 最後はちょっと小声になるレイシアに、慈しむ様な表情を少女は浮かべる。 「何が正しいか誤りかなど、今際の際に悟れれば僥倖」 永は、そう言って自分の孫より幼い少女を見つめた。 「けれど……共に歩んでくれる人がいれば、智慧に至るかもしれません」 だから、共に歩く道を選んでみてはくれないかと。 少女は、わずかに笑った。 「お前たち個人個人は、善良なのだろう。だが、私にはお前たちのようには出来ない。この世の腐敗を我慢できない。共に居ると、自らが腐ってしまう! わたしはそんなのごめんだ!」 手に握られたフィンガーバレット。 クリミナルスタア。 刑法所の罪を犯すことになっても、内なる道徳律が指し示す罪を見逃すことは出来ない。 少女の小さな手が、強く強く握られる。 「たとえ、悪と呼ばれようが構わない! 腐敗と共に生きなくてはならないというのなら、そんな世界はわたしはいらない!」 だから、アークには行けない。 赦せないものが多すぎるから。 「何が正しいなんてない。でも、彼を自分の喧嘩に巻き込んだのは、正義じゃないわね」 ドアの影からする美散の言に、こいさんはそれは同意だと頷いた。 「たしかに。あの女が後一撃放てば、君たちの離脱が難しくなる。あの女は死なせはしないだろうが、『仕置き』は必ずするからな」 癒し手に欠け、すでに昏倒者を出し、一般人の保護をせねばならない中、これ以上の怪我人を出す訳には行かなかった。 「君とは、うまくやれそうだ。この女を倒して私の覚悟の証としよう。どうか譲ってくれまいか」 ノエルの脇から突っ込んで、自らの姉の腹に零距離射撃を叩き込む。 いとさんの虚をついて、こいさんはもつれ合うように屋上から下に落ちていった。 リベリスタの現場離脱は、別働班の助けも借りて、速やかに行われた。 「西原さん、あの子らを許しますか?」 姓は、ビルから脱出する途中、西原に尋ねた。 「――その答えを出せるまで、少し時間をいただけますか。私はアークの正義を信じています。しかし、だからと言って、それ以外を否定できるほど覚悟はないんです」 妻子を神秘に奪われた男は、そう言って、わずかに首を振った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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