●夜に飛来するもの 「流星群って知ってる?」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、手元でなにやら描き始めた。 一筆書きでお星様。 その右に、右肩上がりの斜線を二本引くと、流れ星。 「流れ星。素敵だよね」 モニターにイヴ作流れ星の落書きが映し出される。 「ところが、こうしてこうして……」 斜線の間を横線でつなぎ、右に更に斜線を十本。 「こうなると、全然素敵じゃない。と言うよりかなり迷惑」 いや、無表情で言われても。 というか、それはなに。 「空から、イカが降ってくる。撃ち落として」 モニターに、水生生物のイカが映し出された。 お刺身とかあぶり焼きとかがおいしい、肢が十本のアレだ。 死体が歩き、物がしゃべり、自然現象が擬人化するご時勢である。 イカが空から降ってきても、全然おかしくない。 「E・ビースト。フェイズ1。形状はイカ。空からミサイルみたいに落ちてくる」 予想状況として、山々に囲まれたとある集落の夜間の様子が映し出される。 そこに、さっきイヴが描いたイカの落書きが大量に降り注ぐ。 結果、ただの焼け野原。 映像が子供落書きクオリティな分、余計に怖い。 「放置すると、とある集落に降り注ぎ、住人全員帰らぬ人になる」 モニターに、二文字が映し出される。 『迎撃』 「普通なら無理。でも、あなたたちはリベリスタ。出来る人を選んだつもり」 イヴの言葉に、ブリーフィングルームが一瞬水をうったように静かになった。 「ミサイルイカは、耐久性に欠ける。攻撃が当たれば爆散する。だから、地上に到達する前に全部撃ち落として欲しい」 映像が今度はまともな地域断面図に変わる。 「集落は盆地にある。この山のこのポイントからイカの通過コースまで20メートル未満」 ちょうど岩が張り出しているポイント。『天狗の鼻岩』と地名が書かれていた。確かにそう見える。 「本当なら百人でも二百人でも送り込んで撃ち落したいけど、その場所がない。精々8人。ぎりぎり押し込んで、もう四人。それ以上だと崩落の可能性がある。それ以外のポイントだとイカに有効なダメージを与えられない」 イヴは、更にモニターに情報を出す。 「イカの総数は、約300。1ターンに8匹から10匹射程に入る。飛来時間は約5分間。短い時間だけど撃ちもらしは許されない。集中して事に当たって欲しい。委細はチームに任せる。全てのイカを花火にしてきて」 イヴは、新情報が入ってきた。と付け加えた。 「先遣隊から連絡があった。イカじゃなくて、正確にはコウイカだって」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月17日(火)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●迎撃、用意 日暮れ前。 仕事の前にもれなくロッククライミングがついてくるなんて、聞いていなかった。 断崖絶壁からにょっきり生えている大岩。 ロープを使ってこわごわと足を進める一団がいた。 びょうびょうと下から吹き上げてくる風に、腰に巻いた命綱を思わずチェックしなおす自分がいる。 「うッわ、まじギリギリ」 「本当に崩落寸前まで人員を送り込んだんだな」 「戯け。儂に触れるでないわっ」 おしあいへしあい。押しつ押されつ。 結城・ハマリエル・虎美(ID:BNE002216)、『Gentle&Hard』ジョージ・ハガー(ID:BNE000963)、 『黄昏の業火』アレクサンドル・ヴェルバ(ID:BNE000125) がもつれるように岩の上に降りる。 「気流が荒いな。こりゃ飛びながらはかなり難しいか?」 ここならどうかと目星をつけた岩場の前少し下側の辺りを飛んでみた雪白音羽(ID:BNE000194)は、危うく気流に巻き込まれかけた。 飛びながらでは、墜落しないように気を使いながらになる。 相当のハンデを背負い込みそうだ。 (足場を少しでも広くして、視界を塞がないようにしたいんだがなあ) 虎美は、ランプで辺りを照らしつつ、足場のチェックに余念がない。 確かに12人は問題なく載りそうだが、それぞれの場所に陣取ったら、むやみに動くのは危険だ。余計なものは乗せるスペースがない。 「サモワールは無理ーぃ!」 下からの虎美の声に、炭火で沸かすティーサーバーを持ち込もうとしていた『未姫先生』未姫・ラートリィ(ID:BNE001993)は、甲高い悲鳴にも似た声を漏らした。 「十二人が何杯かお代わりしても大丈夫のを持ってまいりましたのに」 「そんなおっきいの無理! ていうか、その大量の水とか石炭とかどうやって持ってきたの!?」 それ以前に、そのプリンセススタイルでどうやってここまで来た。 二人のやり取りに笑いが漏れる。 そろそろ日が暮れようとしていた。 あるはずのないモノが流れる時刻が近づいていた。 ジョージの右隣に音羽。左隣に疾風。 「にしても、もっとこう、レディにご相伴とは行かなかったンかねぇ?」 撃ち漏らしのない様にと編成された三人は、見事な男祭り。確かに華はない。 チームの半分以上が女性なのに、イカの進行方向の関係上、視界に女性がいない。声しかしない。背中合わせ的にすぐそこにいるのに。 「いや、待機組に不満がある訳じゃぁねェがさ、なぁ?」 そう水を向けても、返事はない。 音羽は制空に手一杯。 「あれか!?」 そういうことは一切気にならない『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(ID:BNE001656)の目に、はるか天空から白い河のように近づいてくる光の粒の群れが見えた。 すでに装備は万全。全員が迎撃準備完了だ。 「……おっと、お喋りはお終いだ。“火薬” がご到着のようだぜ」 ジョージは、吹き飛ばされそうになった帽子をかぶりなおす。 それぞれ準備を進めていたリベリスタは、光が近づいてくるのに撃鉄を起こし、呪文の詠唱を始める。 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(ID:BNE000589)は、マスケット銃と見まごう二つ折りリボルバーを手に天を仰ぐ。 (流星群の様で、確かに幻想的な光景ね。でも、あれは人に害を為す光の軌跡……一匹たりとも地に落とさせはしないわ。) 「来なさい、片っ端から夜空の花に変えてあげる」 どんどん近づいてくる。思わず笑ってしまう結構な加速だ。 消える前に三回お願いを繰り返すのは難しいだろう。 これから、約五分間のトリガー・ハッピー・パーティーの始まりだ。 目標が視界に入ってくる。 白く発光する頭部の下のほうに黒い目が二つ。その先には短い触手が10本。 半透明の姿が群れを成して闇夜を滑空してくる様は、神秘的にさえ見える。 イカだ。まごうことなく、甲イカだ。 全長1.5m。小さくはないが、いてもおかしくはない。 300匹いてもおかしくはない。イカは群れを為すものだ。 しかし、それを断崖絶壁から、空を見上げて観察することになるとは。 海の底なら納得の滑るような動きなのに。 『BlessOfFireArm』エナーシア・ガトリング(ID:BNE000422)は、天蓋を流れる光点が生物の形なのを確認して、嘆息する。 「烏賊流星群……本当になんでもありなのね、エリューションってのは。季節外れの花火大会と行きましょうか」 「ちったぁ俺達の分も残しとけよ?」 後詰のジョージの軽口に、肩をすくめ、わずかに笑みを浮かべる。 「10秒後に第一波!八機!」 分析能力をフルに活用し、観測手として動くことにしたエナーシアの声が飛んだ。 ●射手の競演 ミュゼーヌが放った銃声は一発に聞こえた。 20メートル先で、火花が四つ散った。 「残四機!」 エナーシアはコールして、アームキャノンを連射する。 上がった火花は、三つ。 「残一機!」 射程範囲ギリギリのところで、ジョージのオートマチックが二発火を噴いた。 「もう一丁、イカがかな?」 下手なしゃれに苦笑しながらも、その早撃ちに周りから拍手とサムズアップが送られる。 むやみに撃っても的に当たらなければ意味がない。 チームの半分は集中し、イカの動きを読んでいる。 魔道、射撃の差はあれど、ロングシューターの競演だった。 「第二波、九機!」 一息つくまもなく、コールが飛ぶ。 「はいはいはいっ。私撃つー!」 虎美が手を上げ、負けじとオートマチックとリボルバーの二丁拳銃を披露した。 遠距離攻撃は、飛び道具の独壇場というわけではない。 「残、一機!」 鼻岩の先にすっくと立った疾風は、流れるような構えで集中を高めていた。 「なんて数だ」 その目には、尽きるとも知れない白いイカが鮮明に見える。 途中、仲間達の呪文や銃撃で途切れるが、隙間をすぐ新しいイカが埋める。 「だが一体でも逃さないぞ」 彼の目の前を通過する一体に向かって、空気を切り裂く神速の蹴りを放った。 程なく、身を斬り開かれたイカが失速し、爆散する。 名に恥じぬ、まさしく疾風の技だった。 「あらあら、光って綺麗。でも迷わず黄泉へ送って差し上げましょうね」 未姫の魔炎でイカが爆散するすぐ横で 『重金属姫』雲野 杏(ID:BNE000582)の魔炎が燃え上がる。 その爆煙から飛び出してくる白い尖った頭部に、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(ID:BNE001150) のコインを打ち抜く精密射撃が突き刺さった。 「残三機!」 「逃さないんだから♪」 声を弾ませる虎美の銃弾で、イカの軟らかい身を四散。 「空を泳ぐイカの大群とかなんかこーシュールだよな?」 これで最後と、音羽の魔炎がイカを消し炭にする。 きちんと役割分担の元、ここまで一機の撃ち漏らしもなく済んでいた。 ●ずれる歯車 この作戦を陰で支えているのは、無限のエネルギーを生み出す鋼の体と他人と意識を同調させることが出来る『静かなる鉄腕』鬼ヶ島正道 (ID:BNE000681)である。 流星群が降り始めから三分を越える頃から、それまで行っていた通常射撃もそこそこに黙々とエネルギーを供給する。 景気よく大技が使えるのも、そのおかげだった。 「イカの行動パターンが変わったぞ、注意しろ!」 それまで待機役としてイカの動きをつぶさに観察していた音羽が叫ぶ。 等間隔に流れていたイカが、時々加速と減速を繰り返すようになったのだ。 「残六機!」 連携不十分で薄くなった弾幕から、爆散を免れたイカが流れていく。 「弾幕張るよっ!」 虎美がいざというときの切り札としてとっておいた蜂の巣撃ちを披露せざるを得なくなった。 常識を超えた数の弾丸が、20M先の空気を細切れにする。 「残二機ッ!」 ジョージが撃つ。疾風が蹴る。一機抜けた。 「おっとっ!?」 魔法の矢を放とうとした刹那、気流が変わり、音羽の背中の羽根を巻き込んだ。 撃った力場の矢はイカをかすめた。 抜けたか。と、皆が顔をしかめたところで爆散した。 ラキ・レヴィナス(ID:BNE000216)の今まで練りに練った気合の糸が最後のイカをしとめた。 「ひょっとして、これって結構良い眺めなんじゃねぇか? ……イカだけどな」 次の一団が近づいていた。安堵の息を吐くことも許されなかった。 集中と大技の緻密なローテーションによって支えられている作戦は、少しのずれが命取りとなる。 減らしきれなかったイカを撃ち落すため、やむを得ず大技を使う人数が増える。 ずれたローテーションを補うため、集中に欠ける状態で撃ってもイカの数は減らない。 効率を度外視せざるを得ない状況に、じりじりとリベリスタ達は追い込まれていった。 「こういった仕事は落ち着きと横の連携が重要、慌てずにゆるりと参りましょう? 今までに焦って事態を好転させたことのある人類など存在しないわ」 煮詰まりかけている空気を、図らずもエナーシアがほぐした。 待機組に後を託して、精密射撃で確実に一機をしとめる。 「時々やけに速く落ちてくのがいる。狙い撃つしかないよっ!」 射撃勘と望遠視覚に物を言わせ、虎美が叫ぶ。 心得たとばかりに、ミュゼーヌがサイトに捕らえ、撃ち抜いた。 「そんな大きな的じゃ、この狙撃から逃れられないわね」 吹き上げてくる風にコートをなびかせ、狭い岩場で絶妙のバランスを取りながら鋼鉄のヒールを鳴らした。 ●永遠の数十秒 範囲攻撃するなら密集したところを狙いたい。散開されると、効率が悪い。 ただ流れてくるだけが能のイカも、どこをどう流れるか位の自己制御はできるようだった。 20メートル先を炎の帯で覆うように魔法使い達は呪文を編み、射手は自らの弾丸を流星に変えて、数多のイカを塵芥に変える。 最後の一分間は、たまに出てくる速い動きのものは狙撃ができるものに託し、それ以外は範囲攻撃。点ではなく面で制圧するより他はなかった。 (ううむ、まあ、被害さえ出さねば花火と言うことで済みそうで御座いますね) 正道は眼前を真白に染める光の渦に唸りながらも、せわしなく供給対象を変えながら急場の魔力を注ぎ込む。 大盤振る舞いとばかりに、モニカの長大な銃と虎美の二丁拳銃が無数の弾丸を前方にばら撒き、 それすらもかいくぐるイカを、岩の鼻先で宙を舞うかのような疾風の蹴りと、ジョージの千差万別の銃技と、音羽の魔力の矢が削り落とした。 「次!二十三波、十機!」 一瞬の休みなく詠唱を続けるのどが痛み、唇がひび割れる。 見開いた目の表面が乾き、まばたきしろと体が訴えるのを、無理やり意志の力でねじ伏せる。 体から急速に魔力が失われていく薄ら寒さを背中に感じながら、引きつりそうになる指をなだめて引き金を引く。 日が暮れ急速に下がる気温と興奮で急速に上がる体温の落差に震えが止まらない。 断崖絶壁の崖の上。一際強い風が吹きつける。 目の前の光に気をとられて、一歩足を踏み外せば奈落の底に落ちていく。 耳の奥で反響する、輪唱するようにうねる魔力を喚起する詠唱の声と、炸裂音と、自分の心臓の音。 立ち込める火薬とオゾンと自分のアドレナリンのにおい。 黒より暗い夜の青に、視界を染め抜く赤い爆炎と白い閃光とことさら白く見える自分の獲物。 誰かが弱音を吐いたとたん、全員がだめになる数十秒間。 「5分まであと少しよ、耐えぬきなさい」 ミュゼーヌから仲間を鼓舞する檄が飛ぶ。 最後の光点が消滅したあと、しばらく誰も口が聞けなかった。 「全機撃墜、確認」 エナーシアがようよう声を上げる。 皆無言で、片手を空に突き上げた。 ●夜の底の灯り 仕事の終わりにもれなくロッククライミングがついてくるとも聞いていなかった。 先に登っていった音羽は、念のため下の森に延焼していないか確認してくると言っていた。 「夜空に咲いた無数の花と、それを咲かせた私達の力。大変だったけど、それらが合わさって中々美しい光景だったかも知れないわね」 ミュゼーヌが今はただ墨一色の夜空に目をやり、満足げに呟く。 (……落ちてきたモノの正体にさえ目を瞑れば) 後半を口にせずに、脳裏に先ほどまで撃ち落していた標的を思い浮かべる。 「何を仰る。貴女の美しさには敵いますまい」 ジョージが条件反射的に言うと、何も言わずにわずかに笑む。 女の笑みの底は深い。 いくらかでも読めれば、男も一人前である。 「い、イカが食べたくなっちゃった。お兄ちゃんに電話して、明日の晩はイカ刺しにしてもらおうっと♪」 空気に耐えられなくなったのか、虎美がことさら大きい声でそう言った。 「お茶の支度が出来ましたよ」 崖の上から声がした。 岩の上から見下ろす夜の底には、暖かな色の集落の灯り。 流星は一発も落とすことなく、季節外れの花火を打ち上げて、リベリスタは心地よい疲労を感じながらその場を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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