●三月 一面が白く凍り付いている。 酷い寒さに凍り付いている。 雪解けも久しい春の風景は嘘のような銀色に閉じ込められていた。 ――クス―― 荒れる吹雪の向こうに佇む彼女のその口角は皮肉に吊り上っている。 耳の奥に、鼓膜の内側に滑り込むような女の笑い声は彼女の含んだものなのだ。一面の雪原に吹きつけるノイズの前で微かな声は届く筈も無かろうに。 奇妙で、不愉快で、官能的。 ――クスクスクス―― 死、そのものであるかのような。 冬枯れそのものを思わせるような――真白い女は。 静寂のみが思いのままに支配したその時間に目を細めるのだ。 元より色を持たぬその酷薄な唇で凍えを抱くその場所に口付けるのだ。 村は冬の時間を取り戻している。 辺りに転がるのは余りにも精緻過ぎる等身大の氷像。 銀色の騒霊を従える冬の女が何処か物憂げな溜息を吐き出せば辺りの気温は三度下がる―― ●討伐依頼 大映しになるモニターから視線を切り―― 「まぁ、見ての通りです。取り敢えずこの被害の方は防げません」 『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)は小さな溜息を吐き、そうリベリスタに切り出した。 「……エリューション・エレメント。そのフェーズ2。識別名『氷精』。凡そ二ヶ月前、アークが交戦した記録が残っていますが、その生き残りがフェーズを進化させて事件を引き起こしたようですね」 「……ああ」 アシュレイの言葉にリベリスタは少し苦く頷いた。 万全を期しても対神秘戦には想定外の出来事が付き物である。それが困難を伴う任務である以上、常に完全なる成功等見込める筈も無いが、失敗した結果がより重篤な事態を引き起こしたという現実は気持ちのいいものでは無い。ある程度の割り切りがリベリスタに必要なのは言うまでも無いのだが。 「『氷精』の進化体――フェーズ3は利便上『女王』としましょう。 この女王は残る二体の『氷精』に加え、新たな二体の『氷精』を創り出しました。彼女は合計四体の『氷精』を従えて、山奥の小さな村を襲撃した訳ですね。この集落の人口はおよそ百に満たない程度。辺鄙な場所ですから神秘が表に出る事はありませんが、小さい被害とは……ちょっと」 アシュレイの言葉にリベリスタは頷いた。神ならぬ人に全てを救う事が出来ないのは必然だ。しかして何も感じないという道理は無い。 「皆さんの仕事は『女王』及び『氷精』を撃破する事です。 彼女達は何を思ってか辺りを『冬に戻している最中』なので、再び動き出す前に片をつける、という訳です。急行すれば間に合うでしょう」 これは繰り返しである。 生まれ方を間違った『命』は誰にも幸せをもたらさない。 それは間違いが無い――厳然たる現実に過ぎないのだ。 「『氷精』の特徴は冷気に強力な耐性を獲得した以外は概ね以前と同じです。体長は五十センチばかり、少女の姿をしていますが意思の疎通は困難。飛行能力を持ち雪と氷に塗れた足場に左右されません。敏捷性に優れ、物理的攻撃に一定の耐性を持っています。但し、耐久力自体には優れません。又、火炎系の攻撃がクリーンヒットすれば優位に事を進められるでしょう」 「『女王』は?」 「或る程度、『氷精』の特徴を引き継ぎますが、こちらはより強力な個体です」 リベリスタに先を促されたアシュレイは言葉を続ける。 「大きさは一般的な成人女性程に進化していますね。人間らしい知性が芽生え、『氷精』達を指揮する事が出来ます。とは言っても『知性が人間らしいだけで、理性や常識が人間らしい訳では無い』ので善悪を語り掛ける事は無意味でしょう。『氷精』に同じく凍気を操りますがこちらはより強力です。やや敏捷性は低下し、飛行能力はありませんが殺傷力と耐久力は向上しています。氷の足場は彼女に優位に働きますが、火に弱いのは同じですね」 状況の悪さはアシュレイの説明が物語っている。 やり残しは確実に片付けねばならない。席を立つリベリスタに彼女は最後の一言を添える。 「防寒対策はお忘れなく。何せ三月のポカポカ陽気は期待出来ませんからねぇ……」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月02日(月)23:00 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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