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Silver Lip Noize Act2

●三月
 一面が白く凍り付いている。
 酷い寒さに凍り付いている。
 雪解けも久しい春の風景は嘘のような銀色に閉じ込められていた。

 ――クス――

 荒れる吹雪の向こうに佇む彼女のその口角は皮肉に吊り上っている。
 耳の奥に、鼓膜の内側に滑り込むような女の笑い声は彼女の含んだものなのだ。一面の雪原に吹きつけるノイズの前で微かな声は届く筈も無かろうに。
 奇妙で、不愉快で、官能的。

 ――クスクスクス――

 死、そのものであるかのような。
 冬枯れそのものを思わせるような――真白い女は。
 静寂のみが思いのままに支配したその時間に目を細めるのだ。
 元より色を持たぬその酷薄な唇で凍えを抱くその場所に口付けるのだ。

 村は冬の時間を取り戻している。

 辺りに転がるのは余りにも精緻過ぎる等身大の氷像。
 銀色の騒霊を従える冬の女が何処か物憂げな溜息を吐き出せば辺りの気温は三度下がる――

●討伐依頼
 大映しになるモニターから視線を切り――
「まぁ、見ての通りです。取り敢えずこの被害の方は防げません」
『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)は小さな溜息を吐き、そうリベリスタに切り出した。
「……エリューション・エレメント。そのフェーズ2。識別名『氷精』。凡そ二ヶ月前、アークが交戦した記録が残っていますが、その生き残りがフェーズを進化させて事件を引き起こしたようですね」
「……ああ」
 アシュレイの言葉にリベリスタは少し苦く頷いた。
 万全を期しても対神秘戦には想定外の出来事が付き物である。それが困難を伴う任務である以上、常に完全なる成功等見込める筈も無いが、失敗した結果がより重篤な事態を引き起こしたという現実は気持ちのいいものでは無い。ある程度の割り切りがリベリスタに必要なのは言うまでも無いのだが。
「『氷精』の進化体――フェーズ3は利便上『女王』としましょう。
 この女王は残る二体の『氷精』に加え、新たな二体の『氷精』を創り出しました。彼女は合計四体の『氷精』を従えて、山奥の小さな村を襲撃した訳ですね。この集落の人口はおよそ百に満たない程度。辺鄙な場所ですから神秘が表に出る事はありませんが、小さい被害とは……ちょっと」
 アシュレイの言葉にリベリスタは頷いた。神ならぬ人に全てを救う事が出来ないのは必然だ。しかして何も感じないという道理は無い。
「皆さんの仕事は『女王』及び『氷精』を撃破する事です。
 彼女達は何を思ってか辺りを『冬に戻している最中』なので、再び動き出す前に片をつける、という訳です。急行すれば間に合うでしょう」
 これは繰り返しである。
 生まれ方を間違った『命』は誰にも幸せをもたらさない。
 それは間違いが無い――厳然たる現実に過ぎないのだ。
「『氷精』の特徴は冷気に強力な耐性を獲得した以外は概ね以前と同じです。体長は五十センチばかり、少女の姿をしていますが意思の疎通は困難。飛行能力を持ち雪と氷に塗れた足場に左右されません。敏捷性に優れ、物理的攻撃に一定の耐性を持っています。但し、耐久力自体には優れません。又、火炎系の攻撃がクリーンヒットすれば優位に事を進められるでしょう」
「『女王』は?」
「或る程度、『氷精』の特徴を引き継ぎますが、こちらはより強力な個体です」
 リベリスタに先を促されたアシュレイは言葉を続ける。
「大きさは一般的な成人女性程に進化していますね。人間らしい知性が芽生え、『氷精』達を指揮する事が出来ます。とは言っても『知性が人間らしいだけで、理性や常識が人間らしい訳では無い』ので善悪を語り掛ける事は無意味でしょう。『氷精』に同じく凍気を操りますがこちらはより強力です。やや敏捷性は低下し、飛行能力はありませんが殺傷力と耐久力は向上しています。氷の足場は彼女に優位に働きますが、火に弱いのは同じですね」
 状況の悪さはアシュレイの説明が物語っている。
 やり残しは確実に片付けねばならない。席を立つリベリスタに彼女は最後の一言を添える。
「防寒対策はお忘れなく。何せ三月のポカポカ陽気は期待出来ませんからねぇ……」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月02日(月)23:00
 YAMIDEITEIっす。
 三月六本目かつ四月分一本目。
 純戦。リベンジ。拙作リプレイ『銀色リップノイズ』をご参照の事。
 以下詳細。

●任務達成条件
 ・女王の撃破
 ・氷精の殲滅

●村
 過疎の進んだ山村。世帯数は20強、人口は100程。全滅。
 山村なロケーションなので建物等の遮蔽物は多いです。辺りは一面氷と雪に閉ざされた銀世界と化しています。めちゃくちゃ寒いです。

●女王
 氷精の一体がフェーズ3に進化したもの。
 成人女性程のサイズ。ヌードに近い美しい女のなりをしています。
 飛行能力を失い、若干敏捷性こそダウンしていますが、凍気を操る能力は大幅に強化されており、基礎耐久性もかなり高くなっています。
 火炎系のバッドステータスが通常の三倍の威力となります。
 以下、攻撃能力等詳細。

 ・冷気完全無効(凍結系BS無効。更に凍結系BSを備える攻撃のダメージを0にする)
 ・冷凍(毎ターン、20メートル以内の対象に冷気によるダメージ。BSではないが冷気無効で無効化可能)
 ・呪氷業雨(神全・氷結・呪い・呪殺)
 ・氷雪乱陣(神域・凍結、氷結・氷像)
 ・EX ポリアフの微笑

●氷精
 サイズは五十センチ程。数は四体居ます。
 半透明の妖精のような姿で何れも美しい少女のなりをしています。
 背中の小さな羽で飛行する事が出来、敏捷性が高いです。
 比較的耐久力に優れませんが物理攻撃には耐性がありますが、火炎系のバッドステータスが通常の三倍の威力となります。掛かればの話ですが。
 又、新たに対冷気能力を備えました。
 以下、攻撃能力等詳細。

 ・冷気完全無効(凍結系BS無効。更に凍結系BSを備える攻撃のダメージを0にする)
 ・散弾呪氷(物範・凍結・出血)
 ・凍気剣(神単・神防無視・呪殺)
 ・銀色リップノイズ(神単・氷像・呪い)


 Hardなりの難関かと思います。
 宜しければご参加下さいませませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
デュランダル
宮部乃宮 朱子(BNE000136)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
スターサジタリー
★MVP
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
ホーリーメイガス
大石・きなこ(BNE001812)
ソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
■サポート参加者 4人■
マグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
プロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
クロスイージス
ミミ・レリエン(BNE002800)

●寒の戻り
 暦も三月を数えれば目に付く風景も変わるというものだ。
 一頃より随分と大きく見えるようになった太陽が見下ろす景色を優しく照らし、春めいた麗らかな陽気を作り出している。
 しかして……
「うわー!」
 今日、『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が足を踏み入れた山は春の穏やかさとは全く異質な冷気に包まれていた。
「寒いさむいさむーい!」
 そう、寒いのだ。コートを着込み、カイロまで持ち込んだ彼女の小さな肩はそれでもぶるぶると震えている。三月の寒の戻りは良くある事だが、下生えに霜の張り付く様を見れば別の理由を探る方が合理的というものである。
「春の訪れを邪魔する……
 冬将軍ならぬ氷の女王には早々に立ち去ってもらわないといけませんね」
 白い溜息を一つ。
「私達で何としても撃退しましょう!」
「うん! 若さと気合で頑張るよー!」
『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)の言葉にアリステアが元気良く頷いた。
 きなこの言う所は実に端的に十四人のリベリスタの現状を示している。
 過ごし易い春の陽気を局地的にシベリアにする『冷気の発生地点』にこそ敵神秘――つまり氷精と女王が居る。
「鬼の件といい今回といい……
 戦場の一般人なんて一円玉よりも安いものと実感させられますね」
 厚手のダッフルコートの前をきゅっと閉めるようにして『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が呟いた。彼女の表情は寒さにも薄い唇の端に上る『お寒い』事実にも変わりはしない。
 しかし、彼女は決して必要以上に冷淡な人間という訳でも無い。
「……まあ、だからこそ守る事に大変難儀するわけですが。
 元々、比較にもなりませんよ。悪い冗談にもなっていません。
 私は一円を落としても無念とは思いませんが、これは……
 ああ、リベリスタもとことん損な商売ですよね」
 ある種の諦念と自嘲を感じさせるその言葉は皮肉屋の冷笑癖を差し引けば存外に豊かな彼女の人間性を感じさせる。
 素直に感情を表すようなタイプでは無い。しかし、誰かの死を全く悼まない程『冷たい』人間でもない。勿論、関わりの無い誰かの死の全てを背負いたがる程『壊れた』人間でも無い。万華鏡が覗く角度で様々な色合いを見せるのと同じように、モニカは少し複雑だ。
「季節は巡るものなのに。黙っていても、また冬は来るというのに。
 時間を逆巻きにしようなんて、全く愚かな在り方だわ」
 氷の嘲笑を浮かべて『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が嘆息した。
「……まぁ、温めて貰う口実が出来るのは良いけれど」
「確かにフェーズ3でこの有様だ。崩界が進んだらと思うとゾッとしないな」
 冷気に目を細め、応える『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)の声は何処か乾いていた。
 リベリスタ達は人死にの後始末をする為にここに来た。
 現在の誰かを守る為では無く、未来の誰かの運命を侵させない為に。
(あの時、確実に倒せていたなら村が滅びる事は無かったね……
 許して貰えなくてもいいけど、ごめんなさい)
『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)が噛み締める苦味は仕損じた仕事への後悔である。
 今日の相手は二度目。
「前回は、こっちの不手際に逃がしちまったが……」
 今回は、そんな事は絶対に許さない。
 言う必要も無い真っ直ぐな決意が『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)から滲んでいる。
 彼を覆う決意はまるで蒼い炎。青い火は温度が高いものなのだ。
「今度こそ、絶対倒すよ」
「この脅威が拡大する前に食い止めなければなりません。
 私はせめて――勝利の一助となるべく励むとしましょう」
「失われてしまった命はもう戻りませんが……せめて、ここで食い止めます」
 終の言葉に源 カイ(BNE000446)、『手足が一緒に前に出る』ミミ・レリエン(BNE002800)が応えた。
(……言い訳も無いし後悔もない。だけど、だから……)
 声を発する事無く前を向く『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)の想いもそう遠いものでは無かろう。深紅の装いに、赤い目、赤い剣――『全滅した山村』に近付く程に強くなる冷気に吹き付けられて靡く赤い髪はまるで消えない炎の揺らめきを思わせた。
「予定通りに。状況を」
「ええ。これ以上の被害は許さない」
 カイに答えた『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)の声には自分に言い聞かせるような響きが混ざっていた。
 それは正義と秩序の為である。自身を此処に送り出した人間の期待に応える為である。何より自分自身の為である――
 二人の目は千里の彼方までをも見通す魔眼である。大きな瞳を一層大きく見開いて、少女が視線を投げた先は彼方。数多い遮蔽が邪魔をする山村の様子とて、彼等にとっては探るも容易い。

 ――幾つもの氷像が、村の中に転がっている。動くものは無い、皆死んでいる――

「……」
 胸の奥からせり上がる不快感を噛み殺し、二人は光景を探る。順に探り、やがて舞い遊ぶ氷精と統べる女王を発見した。
「大体、結論は出ましたね」
 カイは言う。完全に敵を捕捉すれば準備を整える事も可能。パーティの用意した鬼札は、パーティが何ら油断をしてやる心算が無いという証明になる。
「寒村とはいえ全滅」
 両目を閉じ、黙祷するようにして。言葉の意味を噛み締めるように重く『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が呟いた。
「世界に帰属せぬ以上、元より交わらぬ者同士。
 どれ程美しい花であろうとも、斯様に冷たきものなれば。凍れる大輪を散らすに迷いは無い」
 凛とした少女の声はまさに騎士の誓いの如く。
「後方支援はお任せください、しっかり回復していきます!」
 甲冑に身を包んだきなこが胸を張る。
「僕は、ぱんつはいてないおにゃの子に、あまり興味がない。なぜなら穿いてた方がえろいから」
『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が笑っている。
「……ま、力づくで穿かせるってのも、それはそれでソソられるがね!」
「さて、コートが変に見られないから冬が続くのは案外悪くないが……
 暖房費もばかにならんし、凍りつくのは勘弁だな。あの世の片隅ででも勝手に続けて貰うか」
 りりすに続き、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が嘯いた。
「いよいよ、ですね」
 カイの言葉に合わせてガントレットがガチンと鳴る。
 そうして拳と拳を合わせた猛が気を吐いた――
「……んじゃあ、おっぱじめるとするか。今回は前のようにはいかねえぜ!」

●女王と妖精と氷の庭
 かくしてリベリスタ達は『女王の統べる庭園』に踏み込んだ。
 遠距離よりカイ、恵梨香の千里眼、近距離においてはモニカの熱感知を頼ったパーティは理想的な接近を果たし、足場の問題をもクリアするアリステアの翼の加護、きなこの守護結界と共に各々事前準備を整えた上で戦闘に入る事に成功したのである。
「これ等が唯の氷像だったなら、幻想的で美しい芸術品として賞賛された事でしょうに……」
 とは言え、カイの言う通り敵の能力は決して侮れるものではない。
 村中に転がる氷像の数々はその人間の恐怖と断末魔、或いは美しい魔性を目の当たりにした恍惚までを完全に切り取ってその場に残していた。
 女王を中心に吹き荒れた氷雪の渦に近付いたリベリスタ達の体力が大いに削られる。
「少し見ないうちにずいぶん大きくなったね」
 何事も無いかのように佇むのは冷気等超越した朱子位のもの。
「もう一度遊んであげる。私も今度は……『完全』だ」
 十全の準備に加え、雷慈慟の指揮が強く効く局面。
 パーティの戦術は四体の氷精と女王を数に勝る前衛がブロックして縫い止め、主となる女王に先んじて煩い氷精から黙らせるというものだ。支援役になるアリステアときなこ、火砲のモニカ等は可能な限り距離を置きつつ戦う前提。彼女等後衛をカバーする形で動くのがアラストールである。
「女王様お久しぶり☆ オレ達の事、覚えててくれたら嬉しいな♪」
 凍り付く地面をスパイクで蹴り上げて誰より早く終が動き出した。
「一緒にあーそーびーまーしょ!」
『何処かで見た顔だと思ったら……』
 飛び出した終に予想外の声が応えた。
 人間とは元々造りが違う。声帯を持たない女王がどう声を発しているかは知れないが――彼女は人間の言葉で彼の軽口に答えを返した。
『……今度はちゃんと凍らせてあげる……』
 しどけない姿の女王は美しい。
「綺麗になったね☆」
 複雑な思考を持ったが故の綻びはある――終はそう読み、気を引くように笑って言う。
 反応で劣った氷精達が阻むよりも早く女王への間合いを詰め、両手のナイフから音を切り裂く疾き斬撃を繰り出した。
「お嬢さん、君はこっちね!」
 氷精の先を取ったのはりりすも同じだった。
 りりすは手近な氷精に獰猛で貪欲な――鮫のように笑いかけた。
 素早い氷精達はここで敵に反応し、己が敵達に猛烈に襲い掛かってくる。
「おっと、意外と激しいね」
 妖精のような少女の氷の刃が陽の光を跳ね返す。
 閃いた冷たい斬撃を踊るようにステップを踏んだりりすが避けた。
 リッパーズエッジが新たな使い手の殺意に応えて濡れ光る。無骨なる無銘の太刀も又同じ。
「……やらせない」
 宙を滑るように駆ける氷精を受け止めた二人目は朱子だった。
 DIVAの換装は彼女に様々な戦闘形態を与える。彼女は素早さと強力な冷凍能力による殺傷力を持つ彼女達を効率良く阻むには冷気さえ届かない自分が壁となり、要となる事が重要であると理解していた。
「……っ……この程度……!」
 特別な技量を持たぬ朱子はこの時、氷精の攻撃を直撃で受けたがDIVA-Firewallの熱量はダメージを幾らか削ぎ落としている。『喰らっても耐える』前提の朱子は散弾の如き呪氷の礫さえ『絶対的に』弾き散らすのだ。
「早々、自由にはさせられませんからね――」
「全くだ」
 残る二体の氷精をそれぞれカイと鉅、二人のナイトクリークが迎撃した。
 共に自由自在に変形する影、足元から伸び上がる影――影達を従えた二人は辺りに一層の冷気を撒き散らす氷精と激しい攻防を応酬した。
「これで――」
 ダメージを受け、少し態勢を乱しながらもカイが戒めの気糸を伸ばす。
 絡み付かんとする光は寸前で旋回した少女を掠め、痛みを与える。
(出来れば、女王の後ろを取りたい所だが――)
 ちらりと終と攻防を織り成す女王に視線を送った鉅。氷精は笑い声を上げていた。
「チ――!」
 短い舌打ち。彼の放った光の糸の間を氷精は縫うように飛翔した。
 反撃とばかりに近距離から吹き付けられる冷たい吐息にその身体は芯から冷やされ凍り付く――
「二度負けた、って事になったら無様なんてもんじゃねえ……!」
 状況に反応し、横から氷精を殴りつけたのは猛。炎を纏った彼の拳を氷精はハッキリと嫌がった。
「おっと」
 終の相手にしていた女王が重い腰を持ち上げた。
『面倒臭いなぁ、人間って』
 生まれ方を間違った女はリベリスタ達目掛けて氷の雨を叩きつける。
 その威力は、鋭さは氷精達の比では無い――パーティの余力は一撃で大いに損なわれた。凍り付き、呪われて動きを失ったものも多数ある。
(氷に閉ざされた世界って、私たちの戦闘の音しかしない。
 逆に言えば私たちがいなければ音のない静かで綺麗な世界なんだね。
 ……でも、ここには生活の音があったはず。こんな風に雪と氷で閉じ込めちゃって……)
 考えれば鼻の奥がツンと痛む。今は戦いの時と小さく頭を振ったアリステアが涙を堪える。
(そんなの……イヤだよ……
 悪い事をしてない人がもっと犠牲になるのは、絶対に嫌なんだよ……!)
 非業の氷雨を少女が避け得たのは天の加護だったのかも知れない。
 清かな少女のその声は冷たき戦場に温かな奇跡をもたらした。吹き抜けた聖神の息吹は呪いを破り、傷付いた仲間達を賦活する。
「全く、前に出られないのが難ですが――守護は騎士の勤め。
 それが小さき胸を痛めながら冷たき女王に敢然と立ち向かう姫の守護とあるならば申し分あろう筈も無い」
 アリステアに助けられた。
 守るべき少女の顔に『意志』を感じ取ったアラストールが僅かに微笑む。
 柔らかな表情を一瞬後にはまさに凛と引き締めて、彼女は敵を睨み付ける。
「心の剣とエスカッシャンにかけて守るべきを守り、果たすべきを果たしましょう。
 失われた命のせめて代わりに、今ある命を守ろう。この戦いを我、勝利に導くべし――!」
 燦然と戦場を照らす神々しき光はまさに彼女の魂の煌きであるかのよう。総ゆる恐怖を退けるその光が尚も仲間に絡み付いた氷を溶かす。
「今、回復します!」
 氷雪に塗れた戦場にきなこの歌が響き渡る。
「……っ、流石に手強いですね……!」
 きなこが臍を噛む。再三の支援も及ばず状況はそれでも完全では無かったが……
「ウィーン、これから私のターン」
 嘯くモニカは氷の欠片を軽く払い、自動砲を「よいしょ」と構えて腰を落とす。
「開き直りの待機砲撃です。どーん」
 饒舌なメイドの大仰な火砲の噴いた弾幕が凶悪に敵に襲い掛かる。
 大抵の相手はレベルを上げて威力で圧倒すれば何とかなる――殆ど信念。
 耳をつんざく程の轟音をパーティの誰もが実に頼もしく聞いていた。

●激戦の末
「私は悪を『絶対』許さない――!」
 冷気を捻じ伏せ、呪いも悪意も跳ね除けて。
 白い光景に鮮血と炎で赤いコントラストを描く朱子が奮闘する。
 凍える仲間達を冷たき死の腕より救い上げ、楔となって敵が前に立ちはだかる――
 終が女王に傷を刻む。りりすが、カイが、鉅が、猛が得物を振るい敵を叩く。
 アリステアが、きなこが力を尽くす。アラストールが守り、モニカが制圧する。
 氷璃の白い唇が葬送を奏で、恵梨香の炎が復讐する。雷慈慟が失われる余力を引き戻し、ミミは必死の支援を重ねていた。
 氷の庭の戦いは苛烈。
 数に勝るパーティだったが、個の力は敵が勝る。特にフェーズ3を数える女王の猛威は格別でパーティは戦いが続く程に余力を失いつつあった。十全な支援を備えても尚、押してくるだけの魔性がこの敵にはあったのである!
 運命を削り合う戦いは続く。
 女王に果敢に挑んだ終が倒された。氷精の余力を削るも、積み重なる強烈な冷気に体力を削ぎ落とされた鉅が倒された。
 しかして、パーティ側もやられているばかりでは無い。
「何度でも立ち上がりますよ!」
 気を吐いたきなこはまるで折れない。折れていない。
「ま、この位の方がイイんだ。実際」
 凄まじい程の集中力を発揮したりりすの動きが際立った。
 氷精の俊敏を完全に見切り、両の手から高速の斬撃を繰り出す。殺(バラ)した少女のパーツには構わずにりりすは女王に肉薄した。
「男運悪そうよな、君は。
 僕は浮気はしない主義だから安心してイイよ? 惚れた相手は大抵、死ぬけどな!」
 曰く「女の戯れに命かけて付き合うのが、良い男の条件」。曰く「我が身可愛さに退けないね。目の前に、こんな良い女がいるのだから」。
 猛烈に攻め立てるりりすの動きが旗色を変え始めた。
「フェーズ3なんざ、逃しちまったらもっと大きな被害が出ちまう!
 つまり――最初から結論は一つって事だろ!?」
 裂帛の気合を込めた猛の一撃が真っ直ぐに氷精の身体を撃ち抜いた。ごうごうと燃える炎が冷たい世界に熱を点す。
「全くです。放っておく訳にはいきませんからね――」
 傷付きながらもそれを表には出さず、軽く冗句めいたカイが今度こそ目前の氷精を叩きのめした。
「……ッ!」
 倒し切れなかった朱子の前の氷精が逃れようと動き出すが――
「二の轍は踏みません」
 ――元よりそれを視野に入れていたアラストールの反応は早かった。
 鮮烈な十字の光が弱気の氷精をまともに撃ち抜いた。怒りの感情を掻き立てるその一撃に誘われれば、氷精は網の中。
「さあ、かかって来るがいい!」
 何故ならばアラストールは今日『後衛』なのだから。
『この……!』
 猛威を振るう女王も多勢に無勢では分が悪い。
 アリステアがきなこがここが勝負と死力を尽くしている。攻撃力の減少は追い詰められつつあったパーティに少しずつ余力を戻す。
 総ゆる攻撃を跳ね返し続けたアラストールの存在も効いている。消耗した女王が拠るべきは最早自らの切り札しか無く、パーティはそれをさせじと連携する。
 急激に気温が下がる。一帯の冷気を飲み尽くし、その身に溜めた女王は集中攻撃を受けながらも、にぃと微笑(わら)う。
「成る程」
 彼女の『予定』を大幅に変更したのは淡々としたその声だった。
「『そこ』ですか」
『――――』
 女王が視線をやった先にはスコープで自身の口元を凝視するモニカの姿があった。
 彼女の超感覚は戦場の冷気の変動を捉え続けていた。女王の何処が一番冷えているかを知っていた。
 女王が何かを言うより早く、唇が氷の神の微笑の意味を発するよりも早く――彼女の頭は吹っ飛んだ。
 自動砲が湯気を上げている。冗談のように気温はすぐに零下から本来のものに戻っていく。
「やっぱり、死んじゃったか」
 りりすが少し退屈そうに呟いた。
 重い砲を下ろしたモニカは額に浮き始めた汗を拭う。
 彼女が脱いだダッフルコートの裏地には貼るカイロが実に十枚。
「こんなナリでも色合いでも、寒いものは寒いんです」
 言い訳めいた合法ロリは女子の例に漏れず、案外冷え性だったらしい――

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIっす。

 削りが1500位あって久々に本気で辛かったですぅ。
 故にEX連発して削り放棄しているやみです。こんばんわ。
 どうせ一杯書くならEXの方が手間が無いとかアレです、はい。高いけど。
 活劇的に盛り上がる感じで良かったかなーと思ってます。

 一部オープニング情報との齟齬がある部分はありました。
 ……が、大体概ね問題なく良いプレイングだったと思います。
 今回は探索能力が揃っていた上、相手が遊んで(?)いるとオープニングで明言されていたケースなので一律事前準備を認めています。
 認められるかどうかはST次第、状況次第、説得力次第ですので一応そんな感じでお願いします。

 MVPは行動プレイングに加えてエンタメ的要素とキャラ立ちが揃っていたからという事で。
 書き易いプレイングってのはヴィクトリーだよ、少佐。誰だ。

 シナリオ、お疲れ様でした。