●チャプスイとイレギュラー 『砂上の楼閣』と呼ばれる元フィクサードがいる。 心臓にアーティファクトを埋め込み、父を守る為にアークと戦ったフィクサード。名前を砂小原アキナと言う。 闘い破れて捕縛された後、彼女はアーク所持のマンションで軟禁状態にされていた。指定されたフロアの外に出ることは許されないが、それでもマンションには生活に必要な物資は運ばれる為、元フィクサードにしては破額の扱いである。 これは彼女に更正の可能性あり……と言うよりは、父は死んでアークと闘う理由が消え、更にはアークに対する復讐心も薄いためである。 ともあれ、アキナは軟禁状態である。肉親の死から精神的に不安定だった時期もすぎ、今は未来に向けて何をしようか模索していた。まずは父の墓を作って、それから―― 「――アキナ」 かかってきた声にアキナは思わず持っていた缶ジュースを落としそうになった。それは既知の声。そしてもう聞くことはないだろうと思っていた声。 「お父、さん」 それはアークと闘って死んだ父の声。その姿はアークと闘って死んだ父の姿。 「アキナ、迎えに来たよ」 その仕草、その喋り方。見間違えようはずもない。だから彼女は、 「お父さんは、死にました。私が看取りました」 アークのリベリスタが最後まで彼女を気遣ってくれた。リベリスタの優しさと意思。それがあったから、今こう言える。 「……あなた、誰ですか?」 「あら残念ネ。だまされていたら愛しいお父さんの胸で死ネタのに。このファザコン」 発せられた声は1オクターブ高くなる。父の姿はまるでパズルのように崩れ、一人の女性が再構成される。10代前半の中華系な顔立ちの小さな女性。あどけなく見えるその姿に、アキナは見覚えがあった。 「あなた……『チャプスイ』!」 「ケタケタケタ! 『アンタレス』を返してもらうヨ。『兇姫』様の命令ダ。大人しく返セば優しくシテやるゼ。 それともハードな方がお好みカ? アキナはMだしナ!」 『チャプスイ』は指を鳴らす。天井から粘性の高い液体が垂れてきたかと思うと地面に落ちて変形し、『チャプスイ』が変身したように、アキナの父の姿を模した。半透明でゼリー状に波打っているが、それは確かに父の姿だ。 「……うそ。何で……?」 「ケタケタケタ! お父さんの遺伝情報を頂イテタのサ。迂闊ダッタぜ。 まぁ、簡単に作レルものでもないケドナ。アキナ相手にはちょうどイイダロ? 父に抱かれてイッちまいナ!」 「……っく!」 アキナは砂を操るアーティファクトを発動させ、自らの周りに砂を舞わせる。偽者の父を前に、臆することはない。しかし自分の火力では相手を倒しきれずに、力尽きるだろう。アキナはそれを理解していた。 ●アーク 「おまえたち仕事だ。緊急の」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタたちに向かって言う。 「アークが所持するマンションにフィクサードが侵入する。 目的はアーティファクト。フィクサードの戦力としてエリューションが三体現れる」 「エリューション? フェーズは?」 「わからん。ミステリアスな相手だ」 肩をすくめる伸暁。 「正体不明のフィクサードに正体不明のエリューション。『万華鏡』が捕捉できないわけじゃない。 確実にいえるのはアザーバイドではないと言うことだ。ノーフェイスのようでもあり、Eエレメントのようでもある。とにかくイレギュラーだ」 今までのエリューションにないタイプ。それが三体。能力は何とかわかったが、とにかく気味が悪い。 「戦闘が始まればフィクサードは逃亡する。こいつは隠密と潜入が得意なようだ。相手にする必要はない。影に潜んで観察をしていると思うが、シャイな乙女を相手する余裕はないぜ。 アーティファクト所持者は持ち前の防御力を生かして耐えているが、いずれは力尽きるだろう。そうなればアーティファクトを回収される。そうなる前に撃退してくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月13日(火)23:38 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 砂小原アキナが『イレギュラー』に抱いた感想は何かといわれると『怒り』である。 父は死んだ。リベリスタたちが別れを作ってくれた。いまさら父の偽物が出ても動揺などしない。ただ父の亡骸を悪用されるのだけは許せなかった。 ゆえに、攻勢に出る。火力不足を認識しながら、それでも黙って耐えることだけはできなかった。 「興奮してきたカ? ガードが甘くなってるゼ」 「お父さんを……お父さんを……!」 しかし現実は厳しい。彼女一人ではこの状況を打破できない。 「よう砂小原。相変わらず下劣なヤツに好かれちまって。同情するぜ」 聞き覚えのある声に我を取り戻すアキナ。それは三ツ池公園の時に相対した『三高平の狂拳』宮部乃宮 火車(BNE001845)の声。振り返れば八人のリベリスタが廊下に立っていた。 アキナ一人では打破できない状況。それを打破するために、リベリスタたちは破界器を取り出した。 「誰が下劣カ。面倒ダネ、やっちまいナ!」 『チャプスィ』と呼ばれたフィクサードの命令に従い『イレギュラー』がその身を震わせる。軟体を震わせながら、脊椎動物ではありえないバランスで動き始める。四足歩行のような安定性はなく、飛行するような鋭い形でもない。昆虫のように無駄な機能を省いているわけでもない。何もかもが生物的に『イレギュラー』なのだ。 正体不明のフィクサードに、解析不能のエリューション。未知の相手に臆することなく、リベリスタたちは戦いに挑む。 ● 「えろりさん。逃げてもいいけど、ぱんつおいてけ」 真っ先に動いたのは『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)だ。距離を一気に詰めて『イレギュラー』と『チャプスィ』、そしてアキナに迫る。これで『イレギュラー』がアキナではなくこちらも攻撃対象にしてくれれば生存率が高まる。それを見込んでの特攻だ。 ちなみにえろりとは『えろいろりっ子。もしくはえせろりっこ。あるいは、その両方』だそうだ。命名者、りりす。 「布切れで興奮するのカイ、アンタ? 残念だけど――おわっ!」 「ふん、手土産ぐらいはくれてやるわ」 『チャプスィ』は地面を蹴って後ろに下がろうとする『チャプスィ』を『鋼鉄魔女』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)の魔力の矢が襲う。油断していたのかその矢をまともに受けてよろめく。 「縁があれば返してやるヨ。それまで生キテればナ!」 闇に溶ける様に『チャプスィ』の姿は消えていく。残された敵は『イレギュラー』のみ。 混戦の中から一体の『イレギュラー』が抜けて、廊下に立ちふさがる。リベリスタの足止めになるようだ。残りの二体がアキナに攻撃を仕掛ける。心臓から直接生命力を奪い、体力回復の奇跡を阻害する。 「やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!」 消えたチャプスィを追うことなく『永御前』一条・永(BNE000821)は薙刀を構える。壁を蹴って移動しようとしたが、『イレギュラー』は壁にまで伸びてリベリスタの行く手を阻む。突破は無理と判断して、『イレギュラー』に振り下ろした。逃げたフィクサードに宣告するように高らかと叫ぶ。 「我こそは奥州一条家永時流三十代目、一条永! 往くは阿修羅道、武をもって罷り通る!」 「あのフィクサード、気になるところではありますが今回の任務においては優先度は低い模様」 明神 暖之介(BNE003353)は黒糸を手にマンションの廊下を進む。どんな目的があるのかは知らないが、成すべき事を成そう。眼鏡の奥の瞳が眠そうなものから、鋭く変わる。冷徹な手段を厭わぬ『暗殺者』の顔がそこに浮かんだ。 「父親の偽者を作って襲わせるなんて非道い事をするね」 闇の波動を手のひらに生みながら、『執行者』エミリオ・マクスウェル(BNE003456)は『イレギュラー』を見る。家族を失った経験のあるエミリオには、アキナの怒りがよくわかる。巨大な十字架型ランチャーから放たれた因果律を狂わせる弾丸。それは三つに分かれて『イレギュラー』を包み込んだ。 「アキナさんを死なせるわけにはいかないよね」 『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581)は気で練った糸を振るい、『イレギュラー』の一体の動きを止める。そのまま締め付けてじわじわとダメージを蓄積していく。しかし長くは持たないだろう。でも構わない。わずかでも足止めができるのなら。 「趣味の悪いやり方ね。……ほんと、腹の立つ」 嫌悪の感情を隠すことなく『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は体内のマナを円環させて魔力の流れを効率よくする。親子の感情を利用するフィクサード。その姿はもはや消えてしまったが、いつかはその尻尾を掴んでやるとグリモワールを握り締めた。 『イレギュラー』は攻撃を受けるたびに身を削って弾丸を放つ。それは小さな弾丸だが、蓄積すれば無視はできないだろう。 そして何より『イレギュラー』自身が触手を伸ばして攻撃してくる。前衛を飛び越して、後ろの方に。 「きゃあ!」 「む……!」 アンナとゼルマ。後ろから援護を行なっているものに向けて伸びる半透明の触手。遠心力と速度がエネルギー源。 正体不明の『イレギュラー』。その戦いは他のエリューションとも異なっていた。そんな違和感がリベリスタ達を支配していた。 ● 「んーにしても、コレ。ノ-フェイスとEエレメントの混成物みたいな感じなのかね?」 りりすはそんなことをいい、二対の刃を振るう。リーチの違う業物はりりすの正中線を軸に回転し、その速度で『イレギュラー』を切り裂く。飛び散る液体がりりすの肌を焼くが、気にしてはいられない。 「なんか人工物っぽいし。見た目と違って連携とかキッチリ取ってきそうないめーじがあるね」 違和感の正体は、りりすが指摘したことではっきりする。『イレギュラー』の攻撃は、回復を行なう後衛を狙っているのだ。 一体がアキナを攻撃し、残った二体が触手を伸ばして智夫、アンナ、ゼルマを攻撃しているのだ。回復を行なうものを先につぶす。どちらかというと人間に近い思考。 しかしリベリスタの方針に変更はない。邪魔な輩を退治して、アキナを救い出す。その目的が第一義にあった。ゆえに、攻勢は止まらない。 「胸を張りなさい。貴女が歩んだ道に恥ずべきことなどございません」 元フィクサードのアキナに永が凛とした声をかける。永の周りに稲妻が走る。自らの気を爆発させ、激しい紫電を身にまとう。稲妻は永自身を削りながら、その薙刀に莫大な力を与える。振り下ろされた薙刀が『イレギュラー』の表面を穿ち、大きくその身を削っていく。 「艱難辛苦に遭うてなお信念を貫く――人はそれを、覚悟と申します。 貴女に生き残る覚悟、ありやなしや? あるならばその砂で私たちの援護を」 永の問いかけに答えるように、アキナは手にひらの砂をコントロールして『イレギュラー』に放つ。『イレギュラー』は、その動きが阻害された。そこに火車の拳が叩き込まれる。 「うっとおしいんだよ人モドキがぁっ!」 炎に包まれ燃える拳。それはぶるぶる震える『イレギュラー』に押し込まれ、熱量と打撃をもってダメージを与える。ただ真っ直ぐに突っ込んで、邪魔するものを殴る。右、左、アッパー、そして真上から振り下ろすように。相手の思惑などどうでもいい。今は邪魔するものを叩き潰すのみ。 「砂小原、あとは良い! その為にオレ等が来てんだ! 砂結界で身を守ってオレ等と合流してみせろ!」 「は、はいっ!」 火車の言葉に従い、砂の防護壁を生み出し身を守るアキナ。言葉に従うのは信頼の証。リベリスタが『イレギュラー』を倒してくれると信じて耐える姿勢をとる。 「懐かしいものを思い出すのぅ。砂の技、とはな」 ゼルマはアキナの動きを見て懐古する。それは砂人形を作り、アークと相対したフィクサード。それとはタイプの違う砂の技を見てあの時の戦いを思い出す。それに比べればたかが正体不明の相手など恐れるに足りぬ。 「傷は妾たちが癒す。全力でいけ!」 ゼルマが奏でる歌が戦場に響く。その爪に描かれた紋様が因果を律し、歌に乗せられた魔力を増幅する。歌はリベリスタの傷に触れ、優しく癒していく。 「貴女と同じ名前の友達が居てね」 元気系直情径行突貫娘を思い出しながらアンナは体内で循環している魔力を解放する。解放した魔力を使って存在が希薄な聖神と繋がる。流れ込む意思は人の精神では理解不能な呪文。そのわずか一文を掴みとり、魔力を乗せて解き放つ。 「……私の前で倒れないでよ。それが出来るぐらいにはちゃんと治すから」 『イレギュラー』に阻害されていた回復の加護。その阻害するものすら弾き飛ばすほどのアンナの回復。 「お父様に酷似した姿との事、心苦しいとは思いますが……」 『イレギュラー』の突破は難しいと判断した暖之介は攻勢に出る。その影が揺らめき、鈍器のよう『イレギュラー』を殴打する。彼も父親。愛する家族を持つ者。自分が家族に似たものに攻撃されれば……それを思うと胸が苦しくなる。 「今しばらくご辛抱下さいね」 「これはボクも回復に回った方がいいね」 智夫は度重なる後衛への攻撃を見て、体内の魔力を声に乗せてリベリスタの回復にはしる。回復が本業であるものたちの回復量には追いつかないが、それでも回復の数が増えれば息はつける。時に相手の動きを封じ、時に味方を癒す。智夫は臨機応変に行動することで戦場をコントロールし、リベリスタに有利な状況を作っていく。 「例え父親の姿形を真似てても、結局はそれだけの偽者だから」 エミリオはアキナに向けて告げる。親に代わりはいない。その思いを利用しようとする敵には殺させはしない。手のひらに生まれる光が『イレギュラー』の表面を照らす。そのコンマ三秒後に走る衝撃。その衝撃が『イレギュラー』の体を震わせ、崩していく。しかし、 「時間をかけている余裕はないかな」 『イレギュラー』のしぶとさに驚嘆する。リベリスタ八人分の攻撃を前に疲れやダメージによる影響が『イレギュラー』から感じられない。まるでぶよぶよのサンドバックを殴っているようだ。 どちらが有利とは言い切れない戦局。しかしゆっくりと終局に向かっていた。 ● 勝敗の天秤が揺れた。まずは『イレギュラー』勝利の方に。 『イレギュラー』を殴るたびにゼリー状のものが飛び散り、リベリスタの肌に付着して酸のような刺激で焦がす。また『イレギュラー』自身の触手が、回復を行なうリベリスタに集中して放たれる。 「やれやれ。妾に運命を消費させるのを恥と思えよヌシら」 「倒れてなんかられないわ!」 回復を行なっていたゼルマとアンナが触手の攻撃を受けて膝をつく。運命を代償に意識を留めて、自らを含めた回復を続ける。 「その首もらったよ。首って言うのがあるかは知らないけど」 りりすの二刀が『イレギュラー』を両断する。自らを回転するように無銘の太刀で切り裂き、逆回転の動きでリッパーズエッジで反対側から切り込んだ。『首』に相当する部分が切り裂かれて地面に落ちる。 「何これっ!?」 智夫はアキナの視界からその姿を隠そうとして身を乗り出し……驚愕する。崩れ落ちた『イレギュラー』が溶解しているのだ。細胞の一つ一つが内側から爆ぜてドロドロになる。まるで炭酸の泡のように弾けて『イレギュラー』だったものは消えていく。原型どころかそこに何があったかすらわからなくなる。 「詮索は後です!」 永は二体の『イレギュラー』に攻撃を受けているアキナの元に向かう。『桜』と銘打たれた薙刀を低く構え、距離をつめる。刃を突きつける瞬間に、全身の筋肉を突き出した。姿勢は正しく、しっかりと足を踏みしめ、薙刀と自らを一体化させて突き出した。柔道の『崩し』の要領で相手を引きよせ、一気に押した。 「はあああああああああ!」 裂帛の一撃。それと同時に吹き飛ぶ『イレギュラー』。それはアキナを囲んでいた存在が吹き飛んだことを意味する。 「アキナさん、下がってください」 エミリオはアキナに指示を出すと、自らのオーラを使って自分自身を傷つける。痛みでよろめきながら、その痛みを呪いの力に変えて『メメント・モリ』の弾丸につぎ込んだ。テコの原理で十字架型ランチャーの銃口を『イレギュラー』に向ける。自らの傷を相手に与える呪いの弾丸。それはエミリオを傷つけながら相手も傷つける諸刃の技 (傷付いた分だけ敵にお返しすれば良いだけだしね) 追い詰められながら、しかし冷静にエミリオは相手と自分を見据える。とにかくアキナ救出は成った。後は『イレギュラ』を倒せば―― 「きゃ……っ!」 アキナに襲い掛かる触手。防御しながらの移動ではあまり距離を離せず『イレギュラー』の触手の範囲内。砂の防壁を突破してアキナを狙う。 「狙いはあくまで砂小原さんのようですね」 暖之介は眼鏡の奥から『イレギュラー』を見る。行動はまるで一つの意思で統一されている。任務第一。そのためには自分のみを守ることは次とされる。これではまるで暗殺者のようだ。かつて冷徹な暗殺者であった暖之介は、『イレギュラー』の行動が理解できる。思いながらブラックコードを『イレギュラー』に絡みつかせて、動きを拘束する。 「自らの命を厭わないとは。本当に何者なんでしょうかね、こいつは」 「僕の興味があるのは『何者』よりも『何故』ってトコだけど。ま……如何でもイイか」 何故。つまり理由。何故こんなものが存在するのか? 神秘の存在であるエリューションとノーフェイスの混合物。明らかにありえない存在。りりすは虚ろな瞳で相手を見ながら、ゆらりと動く。しかし切りかかる寸前には目にも留まらぬ速さで刃が走る。 「攻めはオレ等に任せときなぁ!」 火車は拳を燃やしながら、手を顔の位置に持っていく。『イレギュラー』を握りつぶすように拳を握る。拳を包む炎が本人の意思に呼応するように、さらに大きくなった。瞳を閉じて、心の中で戦友の名を呼ぶ。それは砂小原アキナ捕縛に関わった者達。彼らの顔を思い浮かべ、瞳を開けた。 「アイツ等が救ったモン救えねー……ってんじゃ、みっともなくてしょーがねぇんだよ!」 地面を蹴って火車が走る。『イレギュラー』の懐まで迫り、体重移動をしながらのワンツーパンチを叩き込む。深く踏み込み、力の限りに拳を振るう。赤く燃える炎が熱く、そして握られた拳が硬く叩き込まれる。 拳の炎が引火して炎上する『イレギュラー』。それは自壊するように炎の中で崩れて落ちた。 「よぉ……どうだ? 強え足場がありゃ立派な楼閣なんじゃねえの?」 背中越しに砂小原に問いかける火車。三ツ池公園のときは下種の護衛だったが、パートナーが良ければ『砂上の楼閣』は一級品のガード役になる。リベリスタ達は、笑顔でその言葉を肯定した。 返事とばかりにアキナはリベリスタの傷を癒す。時間が戻るように傷が塞がっていく。 残る『イレギュラー』はあと一体。 しかしリベリスタたちは負ける気がしない。気力を振り絞り、破界器を繰り出した。 そして―― ● 最後の『イレギュラー』が力尽きる。他の二匹と同じように痕跡一つ残さず細胞単位で崩れて消えた。 「手がかりは、手に入れられそうにありませんね」 崩れ去った『イレギュラー』を前に肩を落とす暖之介。証拠隠滅なのか元々そういう生物なのか。 「人間らしい感情もなかったし。ホント、なんだったんだろう?」 戦闘の最中、智夫は『イレギュラー』の感情を探っていたが、何も感じられなかった。空白の心。意思統一されながら、しかし心はなかった。 「帰って主にお伝えなさい。いずれ六道が辻にて相見えましょう、と」 永は『チャプスィ』が消えた廊下に向かって、薙刀を構えて告げる。残心。戦い終わっても戦う姿勢を崩さぬこと。その姿勢に怯えたのか、返事はない。だが言葉はきっと伝わっただろう。 「……で、なんだったの、アイツら?」 一息ついたところでアンナがアキナに問いかける。アイツら、というのは『チャプスイ』と『イレギュラー』のことである。アキナはその問いに首を横に振った。 「この敵……『イレギュラー』のことはわかりません。ただ『チャプスイ』は六道所属のフィクサードです」 七派フィクサード組織の一つ、六道。自らの研鑽と研究に没頭する組織。それが動いているのだろうか。 「奴らの狙いはヌシの心の臓のアンタレスじゃろう。 このままではヌシが狙われる度に駆り出されるはめになるわ。いい加減意地を張らずにアークに来い」 「アンタレスはお前のモンだ。取って壊すも持って利用するも、お前の自由だぜ? 砂小原……お前はどうありたいよ?」 「そうだよ。アキナさん、アークにおいで。僕達はいつでも君の事を待っているから、自分の信じた道を進めば良いと思うよ」 ゼルマと火車とエミリオアキナをアークに誘う。 アキナは心臓に手を置く。父を失い、神秘の世界にいる理由はなくなった。そう思っていた。 だけど、理由はあったのだ。リベリスタに助けられた恩。父に託された意思。そして今、差し伸ばされた手。 彼女は心臓に添えられた手を伸ばし、リベリスタの手を取った。 ● 「回収失敗。『万華鏡』の感度良すぎヨ。貧乳並ネ。 でも戦闘データは取れたゼ。プロトタイプでアレだけ保てば、上々ダ」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|