下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






やっぱ鮪は一般釣りに限るよな

●学業信仰
 実験報告レポートNo.9。
 一部内臓の量産に成功。対象の胃、腸、肝臓における部分を切除し、心臓部の養殖を行う。重要機関を除去したことへの延命措置に苦労するも、養殖の発達速度をあげることでその代替とする。結果、採取までの期間を飛躍的に短くすることに成功。これにより、特定材料の大量確保が容易となるだろう。
 欠点をあげるならば、未だ養殖に成功しない素材があること。また、均一の材質を確保できないことなどがあげられる。これらを次の課題としよう。詳細データは以下に添付する。

 提出分をまとめて、一息ついた。成功なんて言っているが、事態は芳しくない。何よりも、均一化がとれぬことが何よりの問題だからだ。出荷、という最終目標が決定している以上、その購買基準を満たさなければこの実験に価値はない。量産、熟成期間の短縮、信仰心の植え付け。そういった課題はクリアしているものの。これでは意味が無い。見た目、色、大きさ。これらが一定の枠内に収まらなければ出荷できる、店頭に並べられるレベルとは言えないためである。
 まったく、消費者はわがままだ。そうは思うものの、要望をクリアしなければ評価は得られない。何より、この研究が自分の将来を握っているのだ。学生身分ながら、企業をスポンサーにまでつけてもらった。今更できませんでしたと帰るわけにもいかない。
 いけないいけない。集中しよう。内臓部位の切除。数日の生命確保が出来ればいい。投薬。膨れ上がり、増殖する眼球部。首から上を対象とするのは初めてだ。上手く行けばいいが。肉膜で包まれると、脈打ち始めた。あとは熟成を待つだけだ。
 夜空を見上げる。真っ暗で、星が点々とするばかり。嗚呼なんて醜いものだろう。早く故郷のそれを拝みたいものだ。

●学業侵攻
「最近、奇妙な急死事件が続発しているの」
 ブリーフィングルームに集まった彼らに向けて、いつもの調子で彼女は言った。
「死因は内臓疾患。失陥って言ったほうが正しいのかな。ともかく、中身がないから死んでいる」
 胃、腸、肝臓。その他人命に関わる内臓器官が切除された急死患者。理由は不明。猟奇的なそれではないかと公的機関が動いていたのだが、今朝の予知夢で事態が一転したそうだ。
 アークはこれをアザーバイドの仕業と断定。その解決のためにリベリスタらを召喚したのである。
「なんだろう、実験? という感じだった。姿は私達に似ていたけど、あれはまったく違うもの」
 抱きしめられた圧力に、うさぎの顔がゆがむ。
「気をつけて。捕まったら何をされるかわからない。絶対、生きて帰ってきてね」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月23日(月)00:20
皆様如何お過ごしでしょう、yakgoteです。

急死事件を引き起こすアザーバイドを打倒して下さい。

※エネミーデータ
肉包ジュリエッタ
・見た目はメガネをかけた女子大生。だが中身は全くの別物であり、身体構造は人間のそれと異なるもの。
・非常に膂力があり、再生力も高い。
・複数の人間に対して体内の構成を、特定内臓を増殖する部位へとすげ替える実験を行なっています。

※シチュエーションデータ
・夜間での行動となり、予知情報での少女が新たな実験体とされる前に戦闘を開始して頂きます。昼間ほど十分ではありませんが、街灯の下、ある程度の光源は確保されています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
ナイトクリーク
黒部 幸成(BNE002032)
デュランダル
宵咲 美散(BNE002324)
クリミナルスタア
アルジェント・スパーダ(BNE003142)
クロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
スターサジタリー
黒須 櫂(BNE003252)

●実験過失
 レポートを読み返して、自分の肌を焼き尽くしてしまいたい衝動に駆られた。取り繕って入るが、こんなもの何も上手くいっていないと公言しているに過ぎない。着眼点を過程にのみ与えられるよう文面に偏りをつけているだけだ。見るともなし、破り捨てられてしまうだろう。

 夜。夜中。夜更け。ごく一般的には自分のテリトリーにてその寝床を温める時間である。つまるところ、平常からすれば非活動的なそれにあたり、屋外における支配権は別のものに取って代わる。殺人鬼、化物、異形。そう呼ばれる忌避の対象だ。
 肉包ジュリエッタ。その手口からして、『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が以前に戦った鍵付マリアを思い起こさせる。余裕があればその名前を出して、聴いてみるのも面白い。嗚呼でも。内心、ほくそ笑む。その前に闘争の時間。楽しもう。存分に存分に楽しもう。
 鍵付。臓腑。前に模報告書は読んだのだけれど。やはり実物は違うのだろうと『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は考える。見た目は人間。見た目だけ。見た目だけは。何をしたいのか知らないし、知りたくもない。知ってはならない。知る由もない。さっさと終わらせてしまうべきだ。
 需要に対して、安定した供給が可能である。それが文明としてひとつの基準であるのだと、『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は思う。その意味では、件の実験者は外れであるのだろうか。まあなに、愛のない搾取は御免被りたい。被虐趣味はないのだ。手加減は、してもらいたくないけれど。
 臓器の養殖。切除して、植えつけて、培養する。そんなアザーバイドが現れるなどと。崩壊レベルが上がってから已来、碌な事件が起こらない。碌な事件というものも想像がつかないけれど。『無形の影刃』黒部 幸成(BNE002032)はうんざりするも、事実は否定できない。必要なのは、これ以上の犠牲を出さぬことだ。
 肉包ジュリエッタ。どうやら、鍵付マリアや臓腑ゲートと同じ類のようだ。今回は実験。相変わらず、理解しがたい連中だ。だが、必要な情報、欲しいだけの情報は既に知り得ている。連中の身体は強靭だ。『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)にはそれだけでいい。それだけで敵として相応しい。さあ、殺し合おう。
 人に似た姿のアザーバイド。であるならば、自分達人間社会に紛れて活動しているのだろうと『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は想定する。それだけであれば良いのだが、実験。実験ときたものだ。目的は知らないが、その為に人を狩るというなら捨ておけぬ。討ち取るより他あるまい。
 体の中身を弄られて、変えられて。吐き気がするものだと『十字架の弾丸』黒須 櫂(BNE003252)は口元を抑えた。実験体。そんなものにされるなど冗談ではない。夜は恐ろしく。皆で無事に帰ることを第一としよう。きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせて。出来ることを、やるまでだ。
 今日は、否、もう明日か。そんな益体もないことを胸中でつぶやきながら、上着の襟を閉じる。冷え込むものだ。風も強い。てのひらに温めた吐息をふきかけた。剣を持つ手が悴んでは、戦士として失格だろう。ひときわ強く吹きつけた風に、身震いする。隙間を渡って行く音が、まるで笑っているかのようだった。

●実験化室
 苛立っている。否。焦っている。この方が正しいか。言語選択を謝るなど、自分もヤキが回ったものだ。教授に聴かれればなんとどやされるか。最近薄毛を気にし始めたあの男を思い出すと、口元がにやけてしまうのがわかる。少し元気が出た。それじゃあ再開するとしよう。あれに背中を押されたようで、少しだけ悔しかったが。

 未来予測からの事前行動。争いごとにおいては規格外の手法であるが、これがアークの強みであれば利用するに吝かではない。何を言いたいかと言えば、つまるところ相手にとっては未知の連続からなる偶然に過ぎぬということだ。次の実験対象を探し求めていたところに、八人の男女。心躍るものだ。ここのところ、不作続きで気落ちしていたのだから。
 よって。リベリスタらは十二全の気概を持って。異界のそれは平然の好機を持って。互いの思惑は交錯せぬまま、そうして殺し合いの泥沼に浸かる。

●実現過失
 気合を入れただけでうまくいくというのなら、この世は苦労しなくていいものだ。否、ここはこの世でもないわけだが。自分の脳ではこれが限界なのだろうか。そんなマイナス思考にも落ちて行く。振り払おう。進退極まっているというのなら、今できることを為すだけだ。

 一瞬だった。ように思う。
 後ろからジュリエッタに向けて発砲したアルジェント・スパーダ(BNE003142)だが、次の呼吸には眼前がそのてのひらで覆いつくされていた。掴まれて、叩きつけられる。脳に衝撃。思考が止まる。脚は狙った筈だった。だが、人間と同じなのは見た目だけ。こちらの法則は当てはまらない。
 腹にきた激痛に、悲鳴をあげた。腸を掴まれている。そうとしか説明できない苦痛によじれ、落ちそうになる意識。未来を消費することで無理矢理にたたき起こしたものの。次には踏みつけられ、心が幕を下ろした。

 もう一度足を振り上げたところに、天乃が背後から痺糸を伸ばした。
「動かない、で」
 糸の毒に強張りながらも、ジュリエッタは拳を振りかぶる。がむしゃらに振り回されたそれを、得物の甲でやり過ごした。受け流したはずが、衝撃が全身を震わせる。重い。まともに受ければ自分など千切られてしまうかもしれない。
 危機感を自身に煽りながら、それでも足を前に。跳ぶ。
「打ち滅ぼせ」
 正面は恐ろしい。横合いから頭部を狙う。取り囲んでしまった以上、いかに上層世界の化物といえど全てに気を回すことなどできないのだろう。黒の衝動は化物の横面に突き刺さると、そのまま突き抜けた。似ているだけとはいえ、人間頭部に穴が空き、貫かれる光景。見ていて気持ちのいいものではない。だが、それだけではなかった。逆再生。飛び散った肉も、露出した骨も、不自然に曲がった首も、全てが逆回しに再生されていく。
 元通り。一瞬、呆けていたのだろう。焦点を定めれば、ジュリエッタが腕を振り下ろしていた。逸らす。逸したつもりでも、肩から腹までを持っていかれている。
「ごめん、下がる」

 天乃が下がるのに合せ、杏樹が牽制を撒いた。傷を負っているのだ、追い打ちをかけられてはひとたまりもないだろう。
 彼女が後退した隙間を、すぐに味方が埋めてくれる。白兵戦の隙間、そこに狙いを定めた。射る。一直線に風を切る光陰が、ジュリエッタの膝に突き立った。手を休めず、続けて打ち込んでいく。肘、首、肩。自分達とは違う生き物なのだと。身体の構造が違うのだと、そう聴いている。だが、駆動の中心となる関節まで違うなんてことはないはずだ。
 だが、杏樹の思惑はいとも容易く振り払われる。突き立った矢に萎縮することなく腕を奮い、大きく踏み込み、ジュリエッタは今もその膂力の限りを尽くしている。戦いながら矢先は排出され、骨肉はおろか袖までも再生してみせた。崩れ落ちるべきでありながら、苦痛に歪むべきでありながら、なんともなしにそうしている。
 一瞬、目があった。背筋が凍る。それは馬鹿にするでもなく、嘲笑うでもなく、敵意すらなく、モルモットを見る科学者の視線そのものだった。

 目を逸した隙を、りりすが逃すはずもなく。ジュリエッタの身体をずたずたに引き裂いた。血に染まるブラウス。肉が見えて、骨が顔を出す。それも一瞬で、これが振り向く頃にはもう元の真白さを取り戻していた。効いていないわけでは、ないのだろうけれど。
 ジュリエッタ。以前戦ったあれの同類。あれにはなんだろう。手加減されていた気がする。容赦無く噛み殺すべき敵対ではなく、労り採取すべき家畜として。許せんね。許せんな。えろいけど。それは素敵だけど。差っ引いても許すまじ。
「ぱんつはいてなさそうだし。僕はろーれぐをお勧めする」
 どこぞの猫ではないのだから。
 切る。切る。何度も何度も何度も何度も。血が飛沫をあげ、赤い肉が飛び散り、骨の奥に赤筋が見えても。切って切って切りまくる。赤い刀身が、色濃さに黒く塗り上げられても。
「判定すっ飛ばして、産地直葬してあげるから覚悟するといいよ」
 傷つけている。傷ついている。死に追いやられ、死に追いやっている。その筈だ。そうである筈だ。それでも綺麗なままの彼女が、どうにも不安を掻き立てた。

 この戦いで、もう何度目の光景か。
 幸成の放った黒い殺意が、ジュリエッタの頭部を吹き飛ばした。人間であれば、確実に絶命しているその有様。それでもこの異層の人間は、そんなことなど何も問題ではないのだというようにこちらへと必殺を振り下ろしてくる。突き出された指に、必死で頭を逆に傾けた。首筋を通り、掠れただけの筈が、皮膚を少しの肉と一緒に持っていかれている。湧き出る自分の赤を押さえつけながら、すれ違いざまに手の甲から肩までを黒刃で引きなぞった。横を通り過ぎた際、その顔は見ないことにしている。今更再生を確認するまでもなく、あの目を見るのも嫌だったからだ。
 振り向いて構えれば、思った通り。もう衣服まで元通り。忌々しい。だが、違和感も同時に感じた。何故追撃がない。これまでであれば、あの傷程度は意にも止めなかったであろうに。
 またも切り結びに展じながら、感じた違和感は光明にも見えた。追撃出来なかったのだとしたら。そこまで再生出来なかったのだとしたら。
 麻痺糸を撒いた。逃亡は認めない、全力で止めさせてもらう。

 下がった味方に、櫂が癒しを贈る。それぞれの傷は深いが、複雑なものではない。幾層にも張り巡らされた類のものではないからだ。一度の殴打を受けたものが、醜い傷跡を残している。膂力。その強烈さが伺えた。傷の塞がった仲間が、また前線へと駆けていく。万全に治癒できたわけではない。だが、それでも剣を抜かなければならない。勝機は見えてきている。ならば、これを逃してはならぬのだ。
 歌を。歌う。歌え。戦士がもう少しだけ戦えるように。願わくば、誰一人膝折らぬように。癒されていく怪我は、ジュリエッタのそれとまるで対照的だ。逆回しで人間のようなものが人間らしいものに戻っていく不自然さ。ぶり返した吐瀉物がそのままの形を取り戻していたかのような違和感。今も飛び散った血が、肉が。嗚呼、戻っていく。肉の包みに向かって。戻っていく。
 湧き上がる気持ちの悪さを堪え、忘れようと腐乱に喉を開いた。歌を。もっと歌を。あんなものから逃れるために、あんなものを打ち倒すために。

「久々だな。この感覚は……」
 強者とは喜ばしいものだ。それを前にする恐怖。危機感。生命が脅かされる感覚すら心地よい。
 意識を、ただ一点に引き絞っていく。細めて。深めて。世界は色と光を失い、この場には自分とそれとしか存在しなくなる。やがては音すらも消え去り、誰も邪魔をしなくなる。自分と、それと。肉包ジュリエッタ。異界の学徒。傷を受けてきた。与えてきた数と同等に、あるいはそれ以上に。斬撃は、銃撃は、魔撃は、射撃は。その中に折り重なっていることだろう。今も頭を吹き飛ばされ、再生が、遅れた。その瞬間、美散は彼女に踏み出した。
「篤と味わえ、我が全身全霊の一撃を――!」
 稲光を纏った雷槍が、ジュリエッタの胸を貫いた。人間であれば心臓の位置。絶命は必須。だがわかっている。理解している。これは別物だ。自分達とは違うものだ。そこに心臓はなく、心臓すら致死に足るとは限らない。猛りを牙に、何度も何度も突いて突いて突き刺した。悲鳴は上がらなくとも。跳ね返る電光が自分に噛み付こうとも。この期に及んで、それの目が未だ自分達に無感だとしても。

 その背に、ユーディスは容赦なく穂先を振り下ろした。
 ぐちゃりと、ごきりと。嫌な音がした。肉の潰れる音と、脊髄の折れた音と。首の骨が顔を出し、背はくの字に折れている。背筋を丸めているのではなく、その真逆に。人間としてあっていい姿ではない。これで生きている筈もない。当然、人間であればだが。起き上がる。何事もなかったかのように。首が折れたままこちらを振り向かれては、流石に嫌悪さで恐怖した。
 漏れる悲鳴を激昂で打ち消して、二度三度と重槍を叩きつけた。折れて。潰れて。ひしゃげて。最早原型をとどめていない。まして、なまじ人間に似ているからこそ前衛的な忌避を持つ。
 それでも、これは立ち上がるのだろう。あと何回。あと何十回。あと何百回。ぐちゃぐちゃに潰されても起き上がるのだろう。それでも終わりは近い。目に見えて再生は速度を落としている。これの限界も近いのだ。
 自分達に似た、それでも全く異なる相手へと。それは脅威だ。いまだって、触れる程度に撫でられるだけでも残酷に等しい。それでも、彼女は勝利を宣言した。
「何処の世界の何方かは存じませんが――ここまでです」

●実現化室
 わからない。わからない。どうしてこの結論だけが結びつかない。成分構成も生成手順も問題はないはずだ。なのにどうして思った結果が起きてくれないのだ。何が足りない、何かが足りない。もう一度だもう一度だ何度も何度も何度も何度も繰り返せわかるまで完成するまで出来上がるまで成り立つまで嗚呼そうだもしかしたら。

 ぼとりと。
 再生したばかりの腕がぐずぐずになって地に落ちた。それにより、誰もが悟る。戦いが終わるのだと。
 ジュリエッタは崩れ落ちた自分の腕を不思議そうに見つめている。まるで、どうしてこうなったのかまるで理解が及ばぬというように。
「鍵付マリアを、知って、る?」
 その呼びかけに、異層の人間は応えない。死を間近にしてなお、こちら側は言葉を交わすに値しない。豚の懇願のようなものだ。たまたま事故で死んだとしても、それに同等性を認めていい筈がない。
 と。
 突然、ジュリエッタが自分の頭部に指を突き立てた。突然の不可解な行動に、誰もが反応できない。頭に植わった指。あれはまさか、脳にまで達しているのではなかろうか。ぐるんと白目を剥いて、だらりと舌を垂れている。嗚呼、頭部が膨れていく。餅のように。風船のように。脳が膨れあがっているのだと、どうしてか確信することができた。それが今や頭骨を侵食し、頭皮を押し上げて外へまでつたおうとしているのだと。
 誰だって、嫌なものを見たくはない。嫌悪感で武器を取った。おぞましくも想像させられたその光景を、現実のものにしてはいけない。誰かが鼓舞に張り上げようとした時、空気が変わった。
 ジュリエッタの身体に穴が開いている。後ろは見えない。闇夜でも分かるほどの黒。何かが這い出でてこれる大きさではない。小さなそれだ。だがそれに、これまで感情を見せなかったジュリエッタの顔が悦楽に歪む。
 穴が心音を立てると、ジュリエッタはそこに引きずられていく。吸い込まれていく。小さな穴に無理やり収まるよう折りたたまれ、捻られ、潰されて。回収されているようだと。なんとはなしにそう感じた。まるで、受け取られているかのようだと。
 ジュリエッタが消えてなくなると、寄生先を失い虚空に浮かんでいたそれも門を閉じていった。カランと、アスファルトに乾いた音。見ればそこには、彼女のかけていた眼鏡が落ちている。
 拾いあげて、丁重に包み込んだ。これひとつでも、何か向こう側がわかれば良いのだが。負傷者に肩を貸して、帰路に着く。気づけば空に満天の星。戦って得たものが、これを静かに眺めていられる世界だと言うのなら。それを勝利と呼ぶのだろう。
 了。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
久々の大根。