下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






孤独の街のNoelle=La Tour

●枯渇少女
 ――冬の冷気に晒されて華奢なその身は凍えるかのよう。

 現代の心象風景は、荒れ果てた野を行くが如しとも云う。
 生きるに必要な以上の十分な物を獲得した豊かな生活は――多数の事例において豊かな幸福を湛える事と同義になろうか。
 六十億分の幾分かで選ばれて幸福な場所に生まれ落ちた誰も、そんな当たり前の幸運には気付かない。生まれ方は選べないのだ、何時の世も。
 孤独な街を一人の少女が行く。
 正確には、一人と一匹。一人と一つ。もう少し言えば、唯の一匹。
 その姿はとても幼い。襤褸を纏った奇妙な少女は、ボロボロに色褪せたウサギのぬいぐるみを抱いていた。北風に吹きさらされる彼女は、一見すれば衰弱し切っているようにも見える。
 長い白髪は、ぼさぼさ。
 骨の浮いた手足、痩せた膝。
 がらんどうにガラス球をはめ込んだような――虚ろな瞳、乾きひび割れて少女らしい瑞々しさを失った唇。
 ……惨めで、無様。そして痛ましい。
 彷徨う少女は、何を見ているのかそもそも何も見ては居ないのか、当ても無く歩を進めていた。一体何時からそうなのか、それは愚問である。何故そうなったのか、何時まで続けるのか。それ等も又、愚問である。吹けば消えてしまいそうななりをしていながら、少女は魔性の活力に満ちていた。

 ――つまり、少女は『余りにも明確に』ヒト為らざる身なのである。

 土気色の手が触れたコンクリートが砂になる。良く見れば、彼女の踏みしめた足跡――黒々と横たわっていた筈のアスファルトは、その場所だけ遥かな時を重ねたように劣化し、色褪せていた。

 ――ケタ、ケタケタケタ――

 孤独の街を、少女は彷徨う。
 当然だ。彼女に近付いた者は物言わぬ屍となる。色褪せて霞んで消える。
 人も動物もモノも。『枯渇』して朽ち果てる。

 ――ケタケタケタケタ!

 ギザギザの歯をむき出してウサギが不気味に哄笑する。
 孤独の街のNoelle=Beranger。
 それは、年の瀬も差し迫る街に降り立った、まさに『災厄』――





■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月14日(土)23:16
 YAMIDEITEIっす。
 お正月のお供に十二月ボス。
 以下詳細。

●任務達成条件
 ・『枯渇姫』Noelle=La Tourの撃破
 ・街に大きな被害を出さない事。

●街
 人口の余り多く無い地方都市。
 その一角にこのフェーズ3は出現しました。
 彼女は現在住宅地近辺を彷徨っていますが、その能力を考えれば長い時間街中に放置する事で大変な被害を発生する可能性は否めません。
 補足時点のロケーションで戦う場合、田舎の道路なので道幅はゆうに三~四メートルあります。三人並んで戦闘する事が可能です。

●『枯渇姫』Noelle=La Tour
 今回の敵。エリューション・フォース。フェーズは3。
 何某かの思念が凝縮したものと思われますが詳細は不明です。
 みすぼらしい少女と、不気味なウサギで一セット。どちらも本体です。
 崩界度の上昇と『閉じない穴』の影響は否めません。
 観測した時点でフェーズ3を獲得している強力なエリューションである為、比較的人目に触れる白昼の街中を彷徨うという危険な状態となっています。
 彼女は自身のテリトリーに踏み込んだ生命や存在を著しく劣化させます。又、触れた生命を圧倒的な威力で『枯渇』させ、自身を賦活する能力を持ち、大変危険です。動きはそう速くはありませんが、鈍重という訳ではありません。DA、CTは高目で麻痺無効の能力を持っています。知性に関しては、比較的単純な為、そこに付け込む余地があるでしょう。
 以下攻撃能力等詳細。

 ・麻痺無効
 ・枯渇領域(特殊域・『枯渇姫』を中心に10M範囲は毎ターン致命付与、及びダメージ)
 ・破滅の左手(神近単・弱点、HE回復、超威力、高CT)
 ・ミギノウサギ(物近単・ショック、出血、流血、失血、超威力)
 ・枯死抱擁(物近単・凶運、石化、崩壊、虚弱、呪殺、超威力)
 ・EX 枯渇庭園(神遠全・???)


 オート致命付与は致命付与→WP判定の順番となります。
 又、呪殺ダメージは攻撃処理時の最後に判定されます。
 ハッキリ言えばHard未満のボスは前菜のようなものです。
 力押しでは、勝てません。
 Normal以上の気合と的確なプレイングを期待しております。
 以上、宜しければ御参加下さいマセ。

参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
覇界闘士
★MVP
設楽 悠里(BNE001610)
クロスイージス
カイ・ル・リース(BNE002059)
デュランダル
真雁 光(BNE002532)
■サポート参加者 4人■
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)

●乾きの日
「閉じない穴の影響が早速出たね。仕事はきっちりこなすとしよう」
 四条・理央(BNE000319)の青い瞳が冷静に細められた。
「――それが、対処療法に過ぎなかったとしても」
 気のせいか、上空から見下ろす街の姿は本来のものよりも無機質に『乾いて』見えたのだ。
「ああ……」
 それが神秘の所為なのか、自身の感情を理由にする錯覚なのかを――『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は未だ知らない。
「一体、どれ程の痛みに塗れ、呪いを浴びて生まれてきたのか――」
 吹き付けた寒風に眉を顰めた快の目線の先に『それ』は居た。
「『枯渇姫』ノエル。如何な思念が具象化したら、こんな災厄が産まれ得るのか……」
「何某かの思念というガ、自分以外の全てを「枯渇」させるとハ、一体どういう者なのダ? どんな想いが凝り固まったものなのダ!?」
『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)、『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)の言葉に快は小さく頭を振った。
「さあね。でも――」
 視線を眼窩の少女から外さない快は遠く届かない言葉を彼女に伝えようとするかのように呟いていた。
 少女が司る渇きもそのままに、風に掠れた小さな、声で。
「君が女の姿をしてるってのは、俺にはセカイの悪意に思えるよ」
 誰もが厭うその様こそ――『枯渇姫』Noelle=La Tour。
「姿かたちは少女でも危険な敵です。気を引き締めていくですよ」
 厳しい口調でそれに応えたのは『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)だった。
 油断無く見据えるその先は、余りに濃密な魔性それそのもの――
 彼女こそが歪みの姫。その周囲は乾き滅び、砂に崩れ落ちている。
 彼女こそが乾きの姫。幾度、現れようとも不敗。その魂は大いに腐敗。何者も彼女を食い止める事等出来なかった――
 彼女こそが空を行く十四人のリベリスタが今日打倒するべき『災厄』であった。
「……っ、我輩はたダ、今年も家族皆、健康で穏やかに過ごせたら良いのダ。
 平凡な毎日を『あたりまえ』と感じられるようニ、『あたりまえでないモノ』を倒すだけ、なのダ――!」
 容易に呑まれれば先に待つ結末等言うまでも無い。
 十分な距離を経て尚、心の奥に侵食してくるような枯渇姫の魔性を気を吐いたカイが振り払った。
「ああ」
 頷いたのは快。
(感傷がないといえば嘘になる、しかしそれでも――)
「……」
「基となるのは……同質の、きっと渇いた何か……
 総ゆる事象に枯れ、総ゆる存在を果てさせていく様は、ある意味で、現代を生きる人の在り様と似ているのかも……
 私達はそれを否定するではなく、乗り越えてゆく為にも――尚更、祓わねばならないのかも知れません」
 長い睫を一瞬だけ伏せた『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)にせよ、白く息を吐き出した悠月にせよ――胸の奥に蟠った感情は似た色を抱いていたのかも知れない。
 確かに彼等の覚えた感情は『正義の味方ならば』道理の合うものだ。
 しかして同時に光の言った通り、姿形等は『正義の味方にとって』枝葉に過ぎまい。
 既に賽は投げられたのだ。不幸にも、彼女が此の世に生まれ落ちてしまった――その瞬間から!
「人気の無い所に出れば良い物を傍迷惑な。産廃処理場辺りお似合いで――お勧めなんだが」
『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の悪態めいた。
「処理作業には丁度良さそうだしな」
 その排除に強い決意を示しているのは間違いないが。
 彼女は強い。同情を向ける暇も無い程度には――唯、強い。
 此の世遍く無数なる生命の悉くが愛されて生まれたと一体誰が保証し得るだろうか。
 それが生まれた事に意味があるとするならば罪の他は無く、それがそこにある意味は何者かに下される罰に違いなかったのだろう。
 北風吹き付ける孤独の街をその少女は彷徨っていた。
 僅かばかりの敷居の向こう――戸の向こうにはそこに住む誰かの笑顔があったとしても。
 現界と異界を隔てるが如きその境界線の先を痩せた膝の少女は知らない。知ろうともしないのだろう。
「兎とか、態々あの世から迎えに来たつもりかね。んなこたしなくても、どうせ近いうちに行くっていうのに」
『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が溜息を吐き、
「――準備を整えましょう」
 Noelleと街を俯瞰した七布施・三千(BNE000346)が静かに言った。
 少年の生真面目なその顔には災厄に何者も殺めさせまいという意志が滲んでいた。
 パーティが空からNoelleを捉え得たのは彼の操る翼の加護によるものである。悠月の千里眼、快のイーグルアイは遥かを見通し、ユーヌの集音装置は渇きの異変を聞き逃さない。りりすの猟犬は少女の纏う死を嗅ぎ取り、光、『臆病強靭』設楽 悠里(BNE001610)の超直観は僅かな異変さえ見逃すまいと観察力を極限までに研ぎ澄ませる。
「さあ、どう出るか――」
 理央が用意するべきは強結界。
「決まっています。全て、誰にも良いように――」
 三千の展開した感情探査が『咎無き何者』も戦場には近付けまいとする決意を示した。
 空から姫を見据えるパーティの狙うのは彼女の誘導。
 住宅地での戦闘を避け、彼女を開けた場所まで――地図と街を確認した中、人気が最も無いと推測される工事予定の空き地まで引き寄せる。
 順路と推測する箇所にロープと立て看板を張り、三千の感情探査と併せて一般人の侵入を未然に防ぐというプランだ。
 戦うばかりに非ず、完全な達成を目指す彼等はある意味で愚直なのかも知れない。
 勝利する事それそのものが困難と言える枯渇姫を前に、それ以上を願う彼等は愚かと謗られるべきなのかも知れない。

 ――されど。

「僕は僕に出来る最大限の事を!」
 悠里の言葉には何一つの迷いも無い。
「頑張ろうね、カルナ!」
「――はい。悠里。きっと、辿り着きましょう」
 唯、凛然と冬の冷たい空気を震わせたその力強い一声にカルナの唇が僅かばかり綻んだ。
「あー、何だ。悠里も彼女見てっしかっこ良くいきたいよな」
 迫る死線に刹那ばかり空気を緩ませた『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が冗句めいた。
「夏栖斗くんとも久しぶりだし、快もいるしね! 絶対成功させよう!」
「不謹慎だけど、こういう場にお前等と一緒なのはわくわくするよな」
「却って心強いよ、頼りにしてる」
 快の言葉に頷く。口の端に薄い笑みを浮かべて夏栖斗は嘯いた。
「可愛らしいお姫様のエスコートなんて心が踊るね――」
 自分を待つのが絢爛なる死の舞踏、崩壊破滅のフルコースなのだとしても。
「――彼女を、絶対に、止めるんだ!」
 降下を始めた少年には何ら関係ない。
 積み重ねてきた戦いが彼を彼として形作った。
『御厨夏栖斗』の名が示す意味、その悉くと等しく潔い。
 少年は恐れを知らない。彼には彼が今すべき事のみが見えていた――

●Noelle=La Tour
 ――凍て付く様な冷たい空気が軋みたわんでひび割れた。
 パーティが相対するのは歪んだ情念。枯渇の姫。フェーズ3を数えるエリューション。
『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)がスキャンしたのは、これまで『狩って』きた神秘と一線を画す強烈なまでの魔性である。
「全く、不出来ばかりのこんな世界さ」
 疾風の如く、空隙を縫う。
 低い姿勢での肉薄を可能とするのはりりすの痩身に眠る信じ難い程の膂力。
 ソードミラージュは戦いに残影を纏う。迎えた死線のみに悦楽し、死線のみにおいて最も際立つ舞踏は少女も望んだ歓喜劇。
 双頭剣の織り成す音速の『斬劇』は、荒唐無稽、疾風怒濤の愛憎殺戮エゴイズム。
「――君が居て、僕が居る。悪趣味な冗談そのもの、だろう?」
 次々と繰り出される刃の瀑布が小柄な少女の華奢な身体を切り刻む。
「食い止める――!」
 連携良く仕掛けたのはその能力を極限まで引き絞り一事に賭けた悠里と、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)である。
「倒すのは、任せたよ!」
 声を張る悠里の反応速度は速さを武器にする舞姫さえも上回る。
 ソニックエッジで縫い止める事叶わぬ敵の動きを、
「――はっ!」
 鋭く吐き出した気と共に繰り出した凍気纏う拳で食い止めんとする。
 決して『動かしてはいけない』敵の手を極限まで自身の奮闘で遅らせる――それが今日の悠里の戦いだった。
「一歩も動かさないぞ!」
 果たして、吠える彼の拳の一撃は威力がやや不足。確かに捉えたとて姫に大きな有効打には成り得ない。されど一撃を受けたその部分より蔦が這う。絡み付く凍気は魔氷へと姿を変え姫に今一度の戒めを与えていた。
「お願いっ!」
「――いきますっ!」
 言葉を受けるまでも無く、小さな白い翼をはためかせた舞姫が少女の頭上より戦太刀を閃かせた。
 まさにそれは戦乙女の風情。速力を武器に、枯渇姫を猛襲する。
「一気に行くぜ!」
「何一つ面白くなさそうな顔だな?
 儘ならないのは楽しいぞ? 渇きにすら――見放されろ」
 悠里の氷に対抗しようとするかのように、夏栖斗の拳に烈火が宿り、ユーヌの自在護符が戦場に白く術式を舞い散らす。
 細い指が極めて高い技量で放つのは誰の運命さえ不吉に占う陰陽術。
「これでっ……!」
 魔術が煌く。
 生を刈り取る漆黒の鎌は悠月の命令を受け、収穫の時を知る。
 斬撃は虚空を切り裂く漆黒の光閃。
「ボクの役割は状況に応じで最適な行動をとってサポートする事です。それが勇者ってものなのです!」
 止まらない。あくまで続く。
 低空を滑るように駆けた光が輝くオーラを従えて続け様にゆうしゃのつるぎを繰り出した。
「ここは攻め手――」
 更に続くパーティの連撃は強大な彼女に打撃を与え続けていた。
「年始早々随分と。私からも砲弾のお年玉を差し上げましょう」
 淡々とした言葉と共に『最後』に『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)の火砲が火を噴いた。
 何せ殆ど敵を動かせてはいない。緒戦は緻密な戦いを意識したパーティの優位に推移していた。
「この調子で、食い止めるのダ!」
(これで済めば、何より『だけど』ね――)
 邪気を払うカイ、守護結界を展開し、適切な支援を次々と繰り出す冷静な理央にそう思わせる程度には。
 予想外に等しい好調な滑り出しを作り出したのは悠里である。特に麻痺耐性を持つNoelleに対しての有効を魔氷拳と読んだ上で、命中と速度を極限まで高め、『先手で阻止し続ける事』に全力を注いだ彼の活躍はめざましい。
 意図と能力が完全に噛み合った武闘は最良至高。強大極まる敵の時間さえ、戦場に縫い止め続けていた。
 少女の身体を中心に荒れ狂う生命枯渇の領域は彼女の行動状態に関わらず近接する前衛達に手痛い消耗を強いてはいたが……
「このまま、押し切れば――!」
「ドライ苺は好きですが、あたし自身が干からびるのは嫌なのです。
 さおりんだって多少ふっくらしてる方が良いと思うのです」
 勇者達の意志を極限に高める十字の加護を従えた三千、そあら、カルナといったホーリーメイガス、加えて言葉の通り『支援もこなす』光、様々な支援に対応力を持つ理央がカバーする事でパーティの消耗と隙を埋めていた。
「油断はせずに!」
 光の声にパーティは元よりと頷く。
 アーク最精鋭とも言えるパーティの素晴らしい連携は勝利の為の見事な棋譜を連ね、戦況を有利な状態に固定し続けていたが、しかし。
 誰もが理解していた通り、枯渇姫はそれで済む程度の相手では無く。決壊は余りに突然で、余りに理不尽に訪れた。
「何度でも氷漬けにしてやる――」
 強く踏み込んだ悠里の拳がすんでの所で空を切る。
「……くっ!」
 続いた舞姫の一撃は枯渇姫の左手に弾き飛ばされた。
 封印は飽きたとばかりに動き出したのは……Noelle=La Tour!
 痩せた左手が伸び、悠里の喉を捕まえた。
「悠里っ!」
 声を上げたのはカルナ。
「あああああああああああああ――!」
 びくりと痙攣に震えた彼が上げたのは耳を裂く絶叫。
 がくりと膝を折った彼からは根こそぎの生命力が吸い取られていた。
「ま、だ……まだッ!」
 戦士の抱く運命が青く燃える。
 戦いはこれからと悠里は至近距離の少女を睨んだ。
「いけないっ!」
 持ち前の反応力を生かし、三千がこれを救援しようと試みるが――

 ケタ、ケタケタケタケタ……!

 まるで壊れた人形のように不自然で不気味な動作を見せた枯渇姫は『最大の難敵』にこれ以上のチャンスを与えない。
 絶叫が、もう一度。捕まえたままの悠里をミギノウサギが食い散らす。
「切り替えを――!」
 快の判断は早かった。
 歴戦のリベリスタ達は瞬時にこの敵の脅威の姿を理解していた。
 確かに驚く程早くは無い。確かに攻撃が当たらない程では無い。彼女の攻撃範囲は限定的で、陣形を組み翼の加護による飛行で三次元的に展開するリベリスタを一度に捉える事は出来ないだろう。『しかし、その効率の悪さ』はまやかしだ。
 枯渇領域より連なる少女の威力は『リベリスタを一撃で落とす』。続け様に繰り出される攻撃には運命をもっても抗いようがない。
 つまり、彼女は常に『最高効率』。狙われれば最後。誰もが一撃で落とされ得る危機に直面しているという事だった。
 だが、快には勝算があった。
(……俺は盾。誰よりも攻撃を受け、誰よりも傷を負う!)
 自分ならば耐えられる。その為に居る自分ならば、Noelleさえ食い止める。
 十秒、二十秒、それ以上も――
「さあ、来い!」
 恐るべき敵の気を引かんと快は鮮烈な正義の光で少女を灼く。
 戦いはこれまでの静かなペースとはまるで違う姿を見せていた。
「ここから先は通さないぜ、枯渇のお姫様――!」
 夏栖斗が気を吐き、倒れた悠里に代わって彼女に凍気の一撃を叩きつける。
 しかして、夏栖斗の一撃は悠里のそれを威力で上回るも、精度に劣る。枯渇姫の自由をこれまで通りに奪うまでには到らない。
「何とか、ここが正念場です……!」
 三千が声を張る。勇気を出せ、ここを凌げと歌を奏でる。
「傷んで居ない筈も無いし、な」
 あくまで敵の不吉を占うユーヌが言う。
 確かに彼女の見立ては正解であった。パーティの怒涛の先制攻撃は、悠里の楔はNoelleに予定通りの戦いをさせてはいない。
 戦いのステージが変わり、削り合いになったとて。『全滅するより早く倒せばそれで済む』のだ。
「っ、相変わらず世界は優しくないし。僕も失格してるけど――」
 直死の抱擁に捕まったりりすが目を剥いた。
「奇跡が尊いんじゃないさ。
 美しいのは、尊いのはそれを為そうとする人の意思。
 この僕に望むべくもないけれど。対価を払って手に入る物があるなら躊躇はないさ――!」
 運命が燃え、影が交錯する。
 りりすの動きは続いたNoelleのトドメさえ避け切った。
 返せない借りなんて、増やすものじゃない――鮫は笑う。獰猛に。
 誰かの悲鳴が重ねて響く。リベリスタの刃は枯渇姫を容易に傷付け、彼女の猛威は暴力的に彼等を叩きのめした。
 良く凌いだ夏栖斗が倒れた。舞姫が倒された。
 決着に向けて止まらぬ加速を見せるシーンに悠月は唇を噛む。
(……が、来る前に……!)

 枯渇庭園が、来る前に。

 パーティの支援能力が敵の性質上限定的になるのは知れていた。
 封じねばならぬ一事を最早リベリスタ達は思い知っていた。
 Noelleの威力が単一に留まらず発動する瞬間こそ――この戦場における最大の危機であると。
「く、おおおおおおおおお……!」
 快がNoelleの二撃(十秒)を食い止めた。代償に傷んだ彼の顔色は悪く、その態勢と運命は失われていた。
 反撃。
「そろそろ、疲れた頃だろうに」
「ここが勝負です――」
 ユーヌの術が奏功する。続け様に閃いた悠月の大鎌をNoelleは酷く受け損ねた。
「仕留めます!」
 光の剣が強かに暴れる少女の影を叩く。
「女の子に化けるなラ、もうちょっと潤ってた方が良いと思うゾ!」
 戦いが平静を失えばカイが前に出るのも必然だった。
 両手の盾から繰り出された重い一撃とて、本来はNoelleを捉えるものではない。
 しかし、ここでもユーヌの楔が物を言う。至上の不運に見舞われた少女は続け様に攻撃を被弾し、怨嗟の声を冬空へと響かせた。

 おおおおおおおお……!

「――見せ場十分作ったでしょう? 冗長な舞台は、飽きられるものですよ」
 モニカの砲弾が絶叫を叩く。
 襤褸を纏った少女そのものが襤褸になる。
 傷み、乾いて、疲れ果て――枯渇の姫に余力は無い。
 しかし、運命は今一度リベリスタ達に試練を強いる。
 少女の纏う鬼気が魔性がこれまでのものと変わっていた。
 決着を求める戦場に、決着を望んだのはパーティもNoelleも同じ。
「来る――!」
「――来ます!」
 理央が三千が同じタイミングで警告を発した。
 大きく目を見開いた二人の視界の中で枯渇の侵食が爆発的に増大する。
 地面を砂に変えながら、効果範囲の何者をも枯れさせながら――それは勢力範囲を拡大した。一瞬で。
 重なる悲鳴。何かが倒れる重い音。
 まともに食えばそれで終わる、色濃い絶望を砕いたのは。
「……この借りは、必ず……!」
 直前で理央が身を挺して守り抜いた悠月の一撃と――
「嗚呼……」
 ――枯渇庭園の中をゆらりと進む白い影。それさえ避けた白い影。

「誰が退こうが、僕は退かない。退くか。退けない。
 何時も。何時でも。何時だって。勝つ時は小狡く勝って。負ける時は浅ましく惨めに負けるだけ――」

 冷え切った砂を踏みしめる、最後のステップ――りりすの傲慢が枯渇姫の首を宙に、くるりと遊ばせた。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIです。

 素晴らしい。文句なし。
 このプレイングで成功出さなかったらクリア不可能でしょう。
 少なくとも私が受けた純戦プレイングとしては最も高級な類です。
 被害者ゼロとかいう余禄もあるので大成功差し上げます。

 プレイングとは『プレイング』と『ステータスシート』の総合であると考えています。MVPは言わずもがな。その為に研ぎ澄ませているのですから当然です。回復手が枯渇姫より早く動けば完璧でしたが、致命がある以上、聖神を使うか二人がかりで行く以外ではこの点は攻略不可能。ハードルが高すぎるのでこれは兎も角、意図的に唯一用意した弱点である魔氷拳の展開を速度230↑、命中150↑にビルドアップして来たのはお見事の一言。
 食い止めていなければ100%負けています。

 ルールをきちんと理解してきちんと展開された最良の手段です。
 まぁ、それでもギリギリなのは敵の強さが酷すぎるからです。
 プレイングのお陰様でめっちゃくちゃノリノリで書けました。
 ありがとうございます。
 
 シナリオ、お疲れ様でした。