●枯渇少女
――冬の冷気に晒されて華奢なその身は凍えるかのよう。
現代の心象風景は、荒れ果てた野を行くが如しとも云う。
生きるに必要な以上の十分な物を獲得した豊かな生活は――多数の事例において豊かな幸福を湛える事と同義になろうか。
六十億分の幾分かで選ばれて幸福な場所に生まれ落ちた誰も、そんな当たり前の幸運には気付かない。生まれ方は選べないのだ、何時の世も。
孤独な街を一人の少女が行く。
正確には、一人と一匹。一人と一つ。もう少し言えば、唯の一匹。
その姿はとても幼い。襤褸を纏った奇妙な少女は、ボロボロに色褪せたウサギのぬいぐるみを抱いていた。北風に吹きさらされる彼女は、一見すれば衰弱し切っているようにも見える。
長い白髪は、ぼさぼさ。
骨の浮いた手足、痩せた膝。
がらんどうにガラス球をはめ込んだような――虚ろな瞳、乾きひび割れて少女らしい瑞々しさを失った唇。
……惨めで、無様。そして痛ましい。
彷徨う少女は、何を見ているのかそもそも何も見ては居ないのか、当ても無く歩を進めていた。一体何時からそうなのか、それは愚問である。何故そうなったのか、何時まで続けるのか。それ等も又、愚問である。吹けば消えてしまいそうななりをしていながら、少女は魔性の活力に満ちていた。
――つまり、少女は『余りにも明確に』ヒト為らざる身なのである。
土気色の手が触れたコンクリートが砂になる。良く見れば、彼女の踏みしめた足跡――黒々と横たわっていた筈のアスファルトは、その場所だけ遥かな時を重ねたように劣化し、色褪せていた。
――ケタ、ケタケタケタ――
孤独の街を、少女は彷徨う。
当然だ。彼女に近付いた者は物言わぬ屍となる。色褪せて霞んで消える。
人も動物もモノも。『枯渇』して朽ち果てる。
――ケタケタケタケタ!
ギザギザの歯をむき出してウサギが不気味に哄笑する。
孤独の街のNoelle=Beranger。
それは、年の瀬も差し迫る街に降り立った、まさに『災厄』――

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