●前準備 意外と思うかもしれないが、同じ日本国内でも日の出の時間は場所によって異なる。三高平市2012年1月1日の日の出時刻は6:54頃。標準時間の日の出より10分ほど早い。 場所は三高平市で一番高い所……といえばココしかない。遠慮なく使わせてもらいましょう。三高平センタービル。その一室をちょいと借りさせてもらいますよ。何、こいつも一種の慰安ってヤツだ。働くリベリスタを労うと思えば安いもんだろう? 時村財閥さまさまだぜ。 ……え? アーク名義の部屋はあるけど、使うなら申請書書け? 部屋使用上の注意? めんどくせぇなぁ……。 ●初日の出 「皆で初日の出を見ねぇか?」 『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)はブリーフィングルームに集まった人たちに向けてそんなことを言った。 「一年の計は元旦にあり、なんていう立派なもんじゃねぇけどな。年の初めを皆で一緒に祝うっていうのもいいもんだぜ」 なんでも三高平センタービルの一室を夜中から朝まで借りたらしい。東側一面がガラス張りの部屋で、三高平に昇る朝日を一望できるらしい。 「新年の瞬間は大事な人と過ごしてもいいぜ。集合は夜中から日が乗るまでだ。 夜更かし参加になるから、家族にはしっかり断ってからくるんだぜ」 徹は部屋でお酒を飲みながら過ごすらしい。蕎麦とお酒が合うとか熱く語りそうになるのを、自ら口を塞いで止めて、 「ま、初日の出を見たからといって何かが変わるわけじゃねぇ。他の日のお天道様と何か違うのか、っていわれると全く同じもんだ。 でもな、こういうのを美しいと思うのが和の心、ってヤツなのさ」 口を笑みの形に変える徹。そのまま下駄を鳴らしてブリーフィングルームを出て行く。手をひらひらとさせながら背中越しにリベリスタたちに語りかける。 「ま、気が向いたらでいいぜ。よかったらきてくれや」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月05日(木)22:29 |
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●2011/12/31 11:45 「よう、九条の旦那。粋な計らいじゃねェか!」 「おう。錆天の。お前も来たのか。適当にくつろいでくれ」 狄龍が扉を開けて入って来たころには、会場はかなりの数になっていた。声をかけられた徹は人数分の蕎麦を茹でるのに一生懸命だった。 百人近くを収容できる会議室内には、既に料理やお酒を飲んでいるものもいる。 「一年の計は元旦にあり、ってことでやはり初日の出は見ておかないとな」 七味と刻みネギをかけて、ずずっと蕎麦を食べる。義弘は蕎麦を食べ終えると、日本酒を飲み始める。波乱に満ちた一年だが、なんとか一年過ごせた祝いとして酒を飲める人に振舞っている。 「初日の出をアークで迎えるのも良いですね」 振舞われた酒を飲みながら孝平は蕎麦を食べる。飲むよりも食べるほうがメイン。蕎麦に天麩羅を入れて天蕎麦にし、蕎麦湯を蕎麦汁に注いで飲み干す。蕎麦汁に余っていた青葱、ゴマ、わさびや七味の味が味を引き立てる。うん、美味しい。 「ひとりで来るんじゃなかったわ……まこにゃんと一緒に来れば良かったわ……」 ビール片手に愚痴るのは杏。二人組みの男女を見ながら、 「く、どいつもこいつもいちゃいちゃしやがって……。なによ、どうせ年越した瞬間に『よ~し、ヒメハジメだ』『いや~ん』てなもんなんでしょう?」 妄想たくましくても愛する人にはなんだかんだで純な杏は、体をくねくねさせながら体を回転させて『ヒメハジメ』を表現する。10を超えるカップルたちを前に、何か言いたいお年頃。 「過去を振り返るなとは言わねー。だが、過去を引きずりすぎてもいけねー。ま、若いのをからかうのもほどほどにな」 そんな杏の隣でディートリッヒはビールを飲みながら杏を諭す。飲んで騒いで年を過ごす。それが一番だ。今年一年いろいろあった。その区切りだ。もちろん杏が本気で妬んでいるわけではないことぐらいわかっている。 「そういえば、今年はどうだったんだ? アンタ?」 「……ジャックとの戦い、何とか生き延びました」 三ッ池公園の決戦での戦いを回顧し、涙する守夜。蕎麦を食べながらいつ心でもかしくなかったあの状況からの生還を祝う。今この蕎麦を食べれるのは生きているからこそ。仲間の協力あっての死線からの生還。暖かい汁を飲みながら、この瞬間を感じていた。 「みんなで見る初日の出。楽しみだなぁ」 「初日の出というと、昔は夜通し寒稽古をしつつ待っていましたね」 そういえば最近そんな時間はなかったな。貴志はここ忙しかった数年を思い出し、蕎麦を口にする。アルバイトとリベリスタの二重生活のため、ゆっくりとする時間が取れなかったのだ。掛け蕎麦よりも盛り蕎麦の方が好きなので、あつもりで。ネギは多すぎず少なすぎず。持参した自分愛用の七味をかける。 「七味持参か。通だねぇ」 「辛味がとがり過ぎない、マイルドな風味です。どうですか、皆さん?」 興味津々とばかりにリベリスタたちは貴志の七味をかける。 「おそばってなんか苦手なんスよ。うどんはつるっとしてるけれど、なんだかザラッとしてると言うか」 そういっていたイーシェも七味をかけた後の味は、驚いていた。イギリスの時のニューイヤーズパーティとは違う。あの時は寝てしまったが、今日は起きていようと気合を入れた。 「わあ、おそば! あったかくて、おいしいね」 「早起きしたから、お腹空いちゃったね」 同じ布団の中で蕎麦を食べる留吉とニーナ。ちょっとお行儀わるいけど、今日ぐらいは、いいよね? 朝早く起きたニーナを留吉が起こしながら、二人は布団の中でもぞもぞと蕎麦を食べている。 「おソバ食べたら……眠たく……あむあむ、おソバ伸びちゃう……」 うつらうつらとしながらニーナは眠気に耐えている。眠い中朦朧とする意識で何かもふもふしたものを箸でつかみ、口に運んだ。 「ぶにゃっ! ニーナくん!? ねぼけちゃってるのっ?」 「……あれ、留吉のしっぽ、びちょびちょだぁ」 気がつけば留吉の尻尾をつかんで食べていたようだ。 「日本じゃ一年の最初の日の出はめでたい、って言われててな。それで皆こうして見に来てる訳だ」 猛は日本の風習をまだよく知らないリセリアに説明をしながら、蕎麦を彼女に渡す。説明されたリセリアは初の日本の年越しを楽しみにしながら蕎麦を口にした。 「んで、31日に蕎麦を食べるのも諸説があるらしいが、一緒に食べる相手と末永く傍に居たいから、ってのもあるらしいな」 「きっと、家族で一緒に食べたりとかするんですよね、こういうのって……」 こういう区切りを家族揃って過ごしたのは何時が最後だったろうか? 猛の説明を聞きながらリセリアはおもう。いつか養父さんや姉さんと一緒に。それが適うまでリベリスタでいよう。そう思った。 「リセリアが家族の人らに説明すれば良いさ。きっと楽しいぜ?」 こんな言葉が言えるのは自分を助けてくれたあの老夫婦のおかげかな。そんなことを猛は心に思う。そんな当たり前はとても大切なのだ。 「さ、のものも!」 もって来た秘蔵の米焼酎を開けて、鈴は狄龍のコップに注ぐ。その後で自分のコップにも注いで口にする。鼻に抜けるすっきりとした芳香と、舌から滑り落ちる辛味がたまらない。 「つまみの蕎麦は、ちょいと粋じゃねェかな」 狄龍はほかのリベリスタが用意したつまみを肴に酌された焼酎をごくりとやった。喉を焼くようなアルコールの感覚がたまらない。 「ンマいねェ!」 「ねえ、狄龍ちゃん。あたし、こんなおばちゃんやけど、それでも可愛いって思う?」 顔が赤いのはアルコールのせいだろうか? 鈴は狄龍に顔を寄せて問いかける。 「へ? 渡には何度も依頼で世話になってるし、今度から俺トコの会社で働いてくれるって言うし……可愛いかどうかっていわれると、ほれ、あれだぜ、ちょいと待て」 まさかの急接近にあわてる狄龍。コイツは可愛い。あと博多弁って萌え。いやでも待てこのパターンはどこかで経験したぞ。具体的には田奈アガサST版テラーナイトあたりで! 「ン……なんか、とってもイイ気分。だから……。 その腕分解させろやーっ!」 「やっぱりかー!」 狄龍にダイブする鈴。必死に抵抗する狄龍。そんな2011年。 「2011年も終り。最後に楽しむとするか」 鷲祐は日本酒を飲みながら、蕎麦を食べていた。次から次へとわんこそばのように。 「はふふ、旦那が大食いだからたっくさん作ってきたんだよぅ。良かったら摘まんで摘まんで!」 と、アナスタシアはよく食べる鷲祐の分と、そして他のリベリスタたちに分けるためにリュック一杯の重箱を机の上に置く。重量のある食料に群がるリベリスタたち。 「はいっ、あーん!」 「むぐっ」 鷲祐は蕎麦を食べる合間にアナスタシアの箸で渡された昆布巻きを食べる。仲睦まじく食事をする二人。会話は少ないが、二人が互いを意識していることはよくわかる。 「さあ! ユーヌたん! 新年の初めはユーヌたんとやっぱり過ごさないとね! まずは腹ごしらえだよ! 年越し蕎麦を食べないとね! はい、あーんして口開けて! あーん! おいしい?」 「むぅ、子供じゃないんだが。ん、美味しいな。 ほら、お返しだ。あーん」 「ああん、そのふーっと吹き出したその唇がキュートだよ! あーん」 対照的に竜一とユーヌは会話が多い。だからといって逆に愛が少ないというわけでもない。むしろ愛のアピール。 「眠くなってきた? 大丈夫! 毛布用意してるよ!」 「竜一も眠たいなら寝て良いぞ? アラームセットしてるし、無理はするなよ?」 「さあ俺に寄りかかって寝ていいよ! 俺もちゃんと起こしてあげるから!」 言って二人は一緒の毛布に入って眠りにつく。 ようやく静かになった……と思ったら、 「むふふー、ユーヌたんの寝顔は可愛いなあ。見とれて初日の出の時間を逃さないようにしないと」 ユーヌの寝顔を指で突付く竜一。幸せそうにもぞもぞ動くユーヌ。幸せ騒がし真っ盛りである。 そんな毛布を見ながら彩花はもって来た書類にサインをする。 「センタービルの会議室から初日の出を……と思ったのですけど」 仕事が残りすぎていて残務処理である。とにかく終わらせれば初日のでは見れるのだ。てきぱきと書類を処理していく。 「仕事の残った社会人に年末年始もへったくれもありませんからね」 モニカはそんな主に帯同し、仕事を手伝う。彩花のサポートにと書類整理やコーヒー作りに励む。 仕事自体はがんばればぎりぎり間に合う量である。そんな見切りの元だったが、がんばるということはそれだけ体力を使うことであって……。 「うう……ほんの少しだけ仮眠を」 伸びをして疲れた体を癒すために机に倒れこむように睡魔に身を任せる。主のことをよく知るメイドとしては、ここで起こすよりも休ませたほうがいいと判断して毛布をかけて休ませた。あと額に『肉』。 「モニカドリンが……片目がスコープ状のどりんが……うーん」 彩花お嬢様、どんな夢見てるんですか? 「おそらくこんな夢かと。主の初夢まで理解する。モニカはそんなメイドです」 『三(´Φω・`)(´Φω・`)(´Φω・`) 三ヽ(`Д´)ノ』……ホワイトボードにこんな絵を書くモニカ。 「長い間待たせてごめんな、あひる」 長い間。夜鷹が記憶を失い、取り戻すまでの間。夜鷹はその間ずっと妹に会えずにいたのだ。どれだけの間行方不明で待たせていたのだろうか? それを思うといたたまれなくなる。 あひるは首を振り、兄の手をとる。言葉なくともその温もりが今まですごせなかった時間の壁を溶かしていく。ただ静かにこうしているだけで、兄妹は互いの絆を感じていた。 「あひるには辛い思いをさせてしまったね。でも、これからは俺がついている。だから、安心していいんだよ。 それに頼もしい彼氏も居るしな。ありがとう、フツ。あひると一緒に居てくれて」 「お礼なんて水臭いぜ、ニイサン。大好きな相手と一緒にいたいと思うのは、当然のことだからよ。 ニイサンがあひるに会いに、この三高平に来てくれたみたいにな」 フツは夜鷹の手を硬く握り締める。過去は取り戻せない。だけど未来なら。何よりも今、この瞬間握られた手が重要なのだ。 「今年は、兄さんと会えた……とっても素敵な一年。 フツと、たくさん一緒に過ごせた、とってもとっても素敵な一年。 二人共、ありがと。新年も、素敵な一年にしましょうね」 あひるは二人の手を取って微笑んだ。悲しいこともあった。だけど楽しいこともあった。残り少ない一年という時、あひるは微笑んで終えることができる。その事実にさらに微笑んで。 「これからもあひるを支えてやってほしい」 「ああ、3人で支えあっていこうぜ。恋人で、兄妹で、男同士で。 これだけがっちり支え合ってりゃ、絶対崩れたりしねえ。完璧だ!」 握った手は硬く、暖かい。この握手を、彼らは一生忘れないだろう。 ●2012/1/1 0:23 さて、徹が用意した蕎麦以外にもいろいろな料理を持ってきた人もいる。 「もぐもぐむぎゅもぐ、はぐっむおぐもぐもぐもぐ」 鍋の中に猪一頭。アラストールが山で狩ってきた猪だ。ぶつ切りにして、煮立った鍋に放り込むという単純な料理だが、素材が新鮮なら結構いける。内臓は危ないので焼いて食べることにした。適度に串焼きしたものも並べてある。 「むぐむぐむぐ……ごくっそばずずず、はぐっ!」 蕎麦と鍋といろいろ食べながらしゃべっているので、何を言っているのかわからないのが問題だが。 「ヒャッハー、肉だー!」 肉食系女子こと舞姫は自らが用意した高級牛をすき焼きで振る舞いながら、自身も肉を楽しんでいた。 「オレ、鍋奉行やる!」 シャキーンと菜ばしを片手に鍋を支配する終。肉を食べ続ける舞姫 「やーん、お肉が口の中でとろける! おいしー♪」 「あ、そこの肉煮えてるよ! あ、ダメダメ、そこまだ煮えてない!」 「あら京子さん、お肉ばっか食べ過ぎじゃなくて? ほら、白滝食べて、食べて」 「ちょ、まだ肉いっぱいあるから奪い合わないでってか野菜も食べろー!」 「絶対に肉しか食べない。例え私の運命すべてを使い切っても、ね。 終くん……いい男はね、女に特上ロースを譲るもんなんだよ……」 「人の決め台詞をー!」 やいのやいのといいながらも箸は進んでいく。 「えっと……私の手作りですけど、お料理も持ってきましたので、どうぞ召し上がって下さい……♪」 アリスがオードブルや小料理などを詰めたお重を広げる。かわいらしい料理に顔がほころび、酒のつまみにとつまんでいくものもいる。 「こほん、ではわたくしも『スペシャル』なお料理を……あら皆様、そんな遠慮なさらず、どんどん召し上がって下さいまし♪」 アリスに付き添うミルフィも、僭越ながらと手料理を出す。あまりの禍々しいオーラを発する料理に顔は引きつり、死中に活をと恐る恐るつまんでいくのもいる。 あら、どうなされたのかしら? そんな表情を浮かべるミルフィにアリスはノンアルコールのビールを差し出した。 「はい、ミルフィにはこれ。飲みすぎないようにね……♪」 「お嬢様っ、そのノンアルコールビール……わたくしに?」 主からの労いに、感激するミルフィ。これ幸いとばかりにミルフィの料理から離れていくリベリスタたち。 「皆さん。つまみの追加です」 茉莉は茹でた蕎麦を油で揚げたものを持ってくる。食感は揚げ物特有の歯ごたえで十分。塩をふってあるので味も酒にあうものだ。 新しいつまみに殺到するリベリスタたちを見ながら、茉莉は夜空を見る。 「果たして今度の初日の出はどうでしょうね。予報では晴れだといいますが、実に楽しみです」 例え晴れなくても、みんなでこうしてわいわい楽しむのもいいものだ。酒宴を見ながら茉莉は思う。 「日の出が来るまで蕎麦だけでは消化の良い分、腹持ちが悪いです。お汁粉はどうですか?」 真琴は鍋一杯の汁子を作り、みなに振舞う。彼女自身もかなりお酒が入っているはずなのだが、酔った様子はなく平然としたものである。 「元旦の朝にはお屠蘇を飲んで、一年の健康と幸福を祈願するものです。本来ですと、若水で身を清めるのが先にあります」 最も風邪を引きかねないので体の弱い方にはお勧めできかねます。そんな正しい日本の元旦を説明する。このあたりは元とはいえ神社の娘だ。 「お屠蘇は未成年には飲ませませんよ。甘酒がほしいからはあちらへ」 そういって指差す先には桐が水に浸した水盃物も用意していた。 「年明けには付き物ですし、神職の方についでもらえるとさらにいいですね」 いいながら桐は作ってきた御節を机の上におく。人数多いから多段重に大量に作ってきたのだ。 「御節の料理ってそれぞれ意味があるんですよ?」 コタツを用意し、温もりながら桐は御節の説明を始めた。 「これは漢方の部類ですがこの程度なら私が調合致しますよ」 その隣でお屠蘇を用意ている凛子。蘇散、白朮、蜀椒、防風、桔梗、桂皮、陳皮。これらを調合して屠蘇器に入れる。『一人これを呑めば一家病無く、一家これを呑めば一里病無し』……そんな健康思考を信じるものも信じないものも、一杯口にして独特の味を染み渡らせる。 「とりあえず、海老とワカメとネギを入れてくれたまへ。海老は二本という事で一つヨロシク」 「はいはい。エビ天の追加どうぞ」 凛子はコタツでぬくもっているりりすに海老の天麩羅を追加する。りりすはの冬はコタツで始まり、コタツで終わる物。コタツで年を過ごすのは毎年のことだ。ただ今回は少しだけ違った。 「でも、九条君は風流人だとは思っていたけど、マメよな。意外と」 自分の家の外で年を過ごすのはりりすにとっては初めてだった。徹の誘いがなければ家の外には出なかっただろう。りりすに誰かとつるんで何かをするという思考は薄い。 「だから禿げるんだよ。立派にな」 りりすの声に徹が笑ってこたえた。 ●2012/1/1 2:37 「日本酒のことを『蕎麦前』とはよく言ったものだよね。というわけで年末年始もちわーす、新田酒店でーす」 快が蕎麦に合わせた新酒を片手にやってくる。枡やグラスも持ってきている。未成年用に蕎麦湯まで持ってきた。サービスのいい酒屋である。 「酒は気合入れて選んできたよ。蕎麦の風味を殺さないように、クセは少なく香りは穏やか目、辛口ですっと消えて行く綺麗な味わいだ。 蕎麦は期待していいんですよね、九条さん?」 「屋台やってた経験がある程度だから、過剰な期待は禁物だぜ」 慣れた手つきで湯を切って蕎麦をどんぶりに入れる徹。快に鴨蕎麦を渡しながら、酒に口をつける。親指一本立てて味わいを表現した。 「生きて年を越すと言うのは 悪い事では無いな」 雷慈慟は快の酒を口にする。普段は洋酒を飲む彼だが、いい機会とばかりに日本酒に口をつける。 「九条殿、これはいい酒なのか?」 「おう、余計な説明はいらねぇな。酒は言葉じゃなく、舌で理解するもんだ」 「なるほど」 徹の言葉に雷慈慟は再び酒を口にする。確かに言葉は要らない。蕎麦もうまいが酒もうまい。二つが絡み合えばさらにうまい。 「九条はんもどうや? 一個100円にまけたるで?」 さくらが居候している中華料理店のミニサイズの特製肉まんを大量の持ってくる。 「ははっ。もう少しまからねぇかねぇ。財布の紐がゆるむかもしれねぇぜ」 さくらは笑って肉まんを徹に渡す。 「なんてな、冗談や。タダや、タダ。この味が気に入ったらお店に来たってな~」 笑顔で手を振って、店の宣伝をする。同じことを他のリベリスタたちにも行っていた。 「どーせなら皆で飲まねぇか? 俺は無理だけど九条さんが付き合ってくれるって」 ツァインは一人で飲んでいる翠華をつれて、徹のところにやってくる。ツァイン自身は未成年のためお酒は飲めない。そのためジュースを持って徹のところにやってくる。 「あけおめっすアニさん! 一緒にいいっすか?」 「おう。一杯いくか」 蕎麦を作る手を休めて、徹が酒を口にする。 「皆で初日の出を見に来た……ってもソレを口実に騒ぎに来ただけっすけどね」 「アークに来てから、初めてのお正月を迎える訳だし……」 ツァインと翠華がそれぞれの参加理由を口にする。 「どんな理由でも来てくれたのはうれしいもんだ。楽しんでくれや」 ジュースと酒を注ぎながら徹も酒を口にする。 「九条さんに、やぶからぼうに! お願いするのです! 太陽になってもらうのです!」 「いや、こういう理由も予測していたけどな!」 イーリスが徹の頭をぺしぺしとしながらお願いする。お願い? 「初日の出! そんな風習すら! はじめてしったのです! ぜったいみるのです!」 「九条さんの、光る頭を……拝めばいいんですね……?」 リンシードも、蕎麦をもぐもぐ食べながら徹の頭に注目する。 「初めまして、九条さん。……何分、はつひのでを見る、というのは初めてでして……」 「はい! だから予行演習です! なんか! その! それの後ろから、ゆっくり立ち上がって欲しいのです!」 イーリスは机を指差して腕を振りながら頼みこんだ。徹は一瞬「うわー」という顔をしたが立ち上がって机の方に移動する。一旦しゃがんでゆっくりと日の出のように立ち上がった。 「日が昇ったら! 新年の抱負を言うのです! ことしも! いっぱい! たたかいます!」 「これが……はつひので……なむなむ」 かつて人形のように扱われ、常識を知らないリンシードがこういうことに興味を持つようになる。その心境の変化は小さなことでいまだ情緒的とはいえないが、それでもその変化は大きなものだった。いつか道具から少女へとなる日が来るのだろうか? 「うむ、何時見ても見事な御来光じゃのぅ♪」 「だから人の頭をはたくなっての」 瑠琵が太陽の真似事をする徹の頭をぺしぺしとたたく。 「とろろ芋を持って来たのじゃが入れるかぇ?」 「ありがたいねぇ。あっちに卵もあるぜ」 とろろを摩り下ろし、卵を入れて蕎麦を食べる瑠琵。近くの日本酒を手にして。 「どうじゃ一献。酌をしてやろう」 「おう! 美人が淹れる酒はまた違うぜ」 「ふ、酔うた口で口説くつもりかえ?」 蕎麦湯割にして日本酒を飲む瑠琵。ロリロリしているように見えて御年八十一歳。アークの女性を見た目で判断してはいけないのである。 「箸は未だに慣れぬな」 不慣れな箸を使い年越し蕎麦を食べたウラジミールが酒瓶を片手にやってくる。 「共にあの戦いで命を拾ったことに乾杯だ」 「ああ。今ある命に乾杯」 カツン、とグラスが音を立てる。あのときの決戦や、これからのこと。不安要素もあるが今はそれを語り合う時期ではない。ただ二人、静かに酒を飲む。 言葉なく静かに酒を飲むだけで通じ合う。そんな空間がそこにあった。 「はじめまして九条さん。おつまみはどうです?」 亘がつまみのチャーシューメンマを持ってきてやってくる。亘本人は未成年のため甘酒を手にしている。 「九条さんの好きなもの熱くなる瞬間とか教えてもらえませんか?」 「そりゃ酒と喧嘩だろうなぁ。アークとの戦いは不謹慎だけど熱くなれたぜ」 「興味がありますね。私も混ざっていいですか?」 蕎麦とお酒を片手にノエルが話に混じってくる。 「アークにはフィクサードから転向した人は割りと多いですけど、九条さんはどのような心境の変化があったんですか?」 問われて徹は酒を口にする。 元フィクサードがアークにいる理由。人それぞれだが軽い話でもない理由。なのに思いのほか軽く言葉が出た。 「仁蝮組とアークの戦いは知ってるか?」 「伝聞でなら。アークに投降し、拘束を行わなかったため、アークにいるかどうかは自由のはずですよね?」 「仁蝮組の代表たる雪花お嬢様は自らアークに所属したとはいえ、見解を変えればアークの人質だ。 だったらアーク内部にマムシの手駒をおいておいたほうが、仁蝮組としてはいざという時に手が打てる。俺は獅子身中の虫の役割でここにいる――」 冷徹に語る徹。言葉を聴いたリベリスタは一瞬表情を硬くし、 「――だからみんなを集めて、酒で酔わせ殺そうとしているのさ。ほれ、グラス空いてるぜ」 「……脅かさないでくださいよ。冗談ですよね?」 亘が甘酒を注がれながら問い返した。のどがカラカラだ。注がれた甘酒を飲み、のどを潤す。 「さてどうだろうね? お前らといると楽しいって言うのは本当だぜ」 その表情に嘘はない。それもまた、彼がここにいる理由なのだろう。 ●2012/1/1 6:54 「あ、九条さん刺青とか見せてもらえません? 初日の出に合わせてポージングとかしたらかっこいいかなと」 「初日の出に刺青晒すってのは無粋だぜ。太陽のほうがずっと綺麗だ。そっちを楽しみな」 亘の要請を軽く手を振って徹は拒絶する。食い下がろうとする亘の視界に陽光がさした。 「そろそろ時間だな」 予想されていた日の出の時間は近い。翔太はツァインや優希を呼び、窓に近づく。 「んぅ……ユウキ~……やっぱりスイカの方がいいのぉ~? ……シクシク」 優希の背中で眠る陽菜。そのぬくもりを感じながら優希は軽くゆすって陽菜を起こしてやる。 「ん、ふわぁ~あ……みんなあけおめ~~……」 「目に焼き付けておくといい、きっと思い出に残るぞ」 優希の背中でおぶられたまま、初日の出を眺める陽菜。 「ぐわっ、徳高ぇ、ありがてぇ! でも眩しいッ!」 ツァインは輝く太陽とそれに反射する何かに目をふさぐ。 (……俺自身に余裕が出来たのは皆のおかげかね。まぁ、口には出さないが) 翔太はそんな同じコーポレートにいる三人を見ながら心で感謝する。 (正直な話、皆と一緒に居るのは悪くはない。いや、むしろ楽しいってとこだな) 「なーにしんみりしてんだよ!」 後ろから肩を組むように抱きついてくるツァインに翔太は小さく笑みを浮かべて答える。 「別に。太陽の光ってやはり大切だよな、誰もが安心して見れるようにしようぜ」 変わらぬ日の出を大切に。それを守る力があるのなら、守ってみせるのがリベリスタだ。 「初日の出……綺麗なものですね……」 リサリサは昇る朝日を見ながら感慨にふける。毎日と変わらない朝日なのに、今日という日は何か違う気がする。そう思わせる朝日だ。 (今年は……皆さんをしっかり癒せるよう……) 癒し手としての切なる思いだ。 (癒し手として……多くの人が……重傷を……負わないように……頑張りたい) エリスもまた癒し手として朝日に誓う。戦いの中、成功することもあった。失敗するkともあった。傷つくこともあれば、人が死ぬこともあった。だからこそ、今祈る。 (去年は……色々と……有った。アークが……設立され……色々と……事件解決……のため……動いて回った) きっと今年もいろいろいあるのだろう。その中で、どれだけの傷を癒せるのか。 (例年ならば一人生まれたままの姿で、神々しい光を身に浴びるところですが) 紳士の黒はさすがにみんなの前で脱ぐことはしない。今年は大きく腕を広げて陽光を精一杯受け入れる。昇る太陽に向かい、静かに微笑んだ。 この陽光が明日への糧になる。 ジェラルドは一人、皆の輪から離れて太陽を見ていた。金色に輝く日の出と、リベリスタ達の背を眺める。 (これからアークはどれほどその名を、世界に知らしめていくことになるのか) 使徒の一角を倒したアーク。その名声は遠く海外まで響くだろう。重い腰を上げるときかとジェラルドは薄く微笑んだ。 (新たな年はより自分の技を磨き、皆さんの助けになるようにしたいですね) 星龍も静かに朝日を見る。怪我もすれば失敗もする。そんな一年だった。無念の思いを抱えたまま倒れることも。今年はそんなことがないようにしたい。 (そのほうが、酒とタバコが美味いですから) 「日本に来たからには、日本の流儀でこの日を楽しもうではないか」 室内で赤いマントをはためかせてイセリアが過ぎ去った年を思う。決戦。そして酒を飲んだ。福利厚生。そして酒を飲んだ。いろんなところにいき、酒を飲んだり遊んだりした。大変な一年だった。 朝日を前にイセリアは思うがままに、心を無にして脳裏に閃く想いを言葉に変える。剣を握って精神を集中するように、思ったままに心を開放する。 「さむい、ねむい、おなかすいた、さけのみたい」 御節を食べるために戻っていくイセリアであった。 (去年の私とこれから三高平で生活する私の区切りに丁度いいかもしれません) 辜月は朝日を見ながら思う。偶然フェイトを得て、自分の力と向き合うようにアークに所属した辜月。覚醒前と何か変わったかといわれると何もない。 だけどこの日の出に心が洗われる気がした。 「……相棒が優しくありたかった世界はきっと守りますよ」 桐は朝日に誓う。やさしくありたかった。過去形で相棒を語る桐。自分の隣にいた相棒は、今はいない。だからこそ誓うのだ。決意を込めて世界を守ると。 「そういえばアークでの初仕事も日の出を見に行く話だったわね」 エナーシアはあの時は一年後自分がこうなってるなんてまるでわからなかった。たった一年でずいぶん変わったものだと自分でも思う。 (一つ所に定住して毎日のように語り合う人がおり、人間関係に一喜一憂するなんて!) それが心地よい感覚だと思う自分に驚きだ。あらゆる依頼を熟してきたなんでも屋からすれば、平和な一年だった気がする。 初仕事の時とは違う気持ちで昇る朝日をみる。今年はどうなるのかしら、と思いながら何時も通りで一度きりしか無い日の出を待つとしましょう。 「この日の出に誓い今年も全力を以て、この世界のために我が身を尽くすことを誓おう」 ウラジミールは朝日を前に気分を改める。軍帽をかぶり、静かに朝日に群がるリベリスタたちに背を向けて部屋から去る。その誓いは胸の中に。言葉は人のざわめきに消えたが、誓いは心の中で永遠に。 「なむなむ。坊主二人に後光が差してるのぅ」 「あれ、もう一つ、日が……これは一体……あ、照り返して窓に映った九条さんの頭でした……すみません……」 「おぉっ、太陽が、三つ!」 瑠琵、リンシード、イーシェがフツと徹と太陽を見て、三つの日が昇ったと叫ぶ。お前らきちんと朝日みやがれー、とばかりに徹が軽く頭を拳ではたいた。 「あけましておめでとう。うむ、立派な初日の出だな。っという冗談は、何度目かな?」 「九条! 愛しの雷音でござる! 今年も一年よろしくでござると挨拶にきたでござるよ!」 雷音と虎鐵がそんな様子の徹に話しかける。 「おぅ、虎鐵の娘さんか。コーポ周りのときに会ったけどな。今年もよろしく頼むぜ」 「うむ、よろしく頼むのだ。なんともビルを貸しきるとは大胆だ。だが初日の出をこの場でみんなと見るのがとてもうれしい。ありがとう」 「雷音雷音! あけおめでござる! 初日の出でござるよ!! 「ああもう。虎鐵は年が開けたのに煩悩を振り払えていないのか」 「むしろ拙者、これぐらいが普通でござるよ!」 お酒が入っているわけでもないのに、虎鐵のテンションは高い。そのまま二人で初日の出をみる。 「初日の出見れてよかったでござる。今年も一年いい事ありそうでござるな。……ん?」 「……今年はもう、そんなに大怪我しないでくださいね。心配です」 虎鐵の服の裾をぎゅっと握って、雷音が虎鐵にしか聞こえないようにつぶやいた。 「今年も雷音と一緒に色々と見たり聞いたりと楽しむでござる」 そんな雷音に虎鐵は一年の抱負をこめて、すそをつかむ雷音の手を握った。 「年越しも初日の出も、二人で一緒。いつも一緒で嬉しいね」 静は玲の頭をなでながら朝日を見る。玲はガラスに張り付き朝日を待っていたが曙日が目に入ると尻尾を振って喜びを表現した。なでられて静のほうを見て微笑む。 「静さん18歳の誕生日おめでとう! そして新しい2012年の太陽によろしく!」 玲のその笑顔が朝日に照らされてまぶしい。誕生日のプレゼントに玲から渡されたベージュ色のキャスケットをかぶって、日の出前から握っていた手を強く握り締める。 「明けましておめでとう。二人で幸せな一年にしような」 一緒に、同じ場所から、同じ日の出を眺める。そして今年も一緒に歩いていこう。静と玲は互いに手を握り合い、昇る朝日に誓った。 「……寝るなよ?」 龍治はうつらうつらと舟をこぐ木蓮の肩をゆすって起こし、昇る朝日をみた。 「っ危ない危ない、寝るところだったぜ……わあ! 初日の出か!?」 木蓮はゆっくりと上る朝日を楽しそうに見る。綺麗なものだと龍治の服をつかんできゃっきゃ騒いでいる。 「……同じ時を、俺様と一緒に過ごす道を選んでくれてありがとうな。今年も頼りにしてるぜ。……って言わなくても大丈夫か、 なんてったって俺様の彼氏だもんな!」 そして木蓮は横を振り向き、龍治と唇を重ねる。突然のキスに赤面しながら龍治は木蓮を抱きしめる。 「……そちらこそ頼りにしているぞ」 彼女とともに歩く以外の道など考えられない。胸の中のぬくもりをいとおしく思いながら今年も二人で歩いていこうと龍治は誓う。 「……頑張らなきゃだな。戦いも、日常の生活も、両方目一杯!」 木蓮も胸の中、目標を見つけ歩き出す。 「ものませんぱいとはつひので、みるまで……うとうと……ね、ねないもん……」 「まぁ、ずっと起きてりゃそりゃ眠いか」 モノマは眠そうな壱也を後ろから抱きしめる。その温もりと安らぎで寝そうになる壱也だが、朝日が昇り始めるのをみてがんばって目を開ける。 (今年の抱負……モノマ先輩との時間を大切にする) 壱也は今年の抱負を思う。今まで過ごしてきたどんな時間よりも、先輩といる一瞬が、すごく大切だと思う。先日の戦いで先輩と一緒に戦えて、嬉しかった。背中を任される事がこんなにも嬉しいと始めて知った。 (今年の抱負でも作るか。なるべく壱也と過ごす時間を作る事) モノマは心今年の抱負を思う。彼女には心配かけたり寂しい思いもさせちまってるし、何より自分も壱也と一緒に居たい。そして自分を貫くためにも、大事な物を守るためにも強くなる。 無言で朝日を見ながら、似たことを思う二人。 「先輩、今年もよろしくお願いします」 壱也の言葉に、モノマは言葉なく抱きしめた。 「流石に、寒いわね……」 こじりは言って夏栖斗のひざの上に座る。そのまま夏栖斗の温もりを感じていた。 「寒いってことにしちゃおっか!」 夏栖斗はこじりの手をとり、ジャケットのポケットの中で握り合う。指を絡めたりつつきあったりと戯れあう。 実は室内なのであまり寒くもないのだが、それは言わぬが花である。 「私、初日の出って初めてだわ」 「初めて? なら一番綺麗に見える所いこうよ」 言って席を立とうとする夏栖斗を、ここがいいと席を立つことを拒否するこじり。彼のひざ以上の場所なんてないのだから。 「あ! 初日の出。……ん、どうしたの。ずっと下を向いて? 気分でも悪い? 大丈夫?」 昇る朝日をみることなく下を向いているこじりに夏栖斗は心配そうにたずねる。かおをあげたこじりは夏栖斗を見上げた。瞳を細める。まるでまぶしいものを見るように。 「朝日が昇ったら、まず初めに御厨くんを見ようと決めていたのよ」 だって貴方は私の太陽だから。私は貴方の月になれるかしら。 「新年から嬉しいこと言われて、なんか参っちゃうな」 そして二人の唇はゆっくりと重なった。二人の距離がくっつく位の長いキス。 「今年の御厨くんも、柔らかいのね」 初ちゅーもらいました。歓喜する夏栖斗。いろんな始めてを彼女とやっていこうと心に誓う。 「カルナは日の出を見て何を考えてた?」 悠里はカルナと手をつなぎながら日の出を見て、そんなことを問いかける。 「私は──えぇと、そうですね。日の出を綺麗だと思っていた位ですよ」 カルナは思う。いいことも悪いこともいろいろあった一年だ。だけどかけがえの無い仲間達を得れた事は私の中で宝物だ。そして今私の隣に立っている『大切な人』も。 「それで、悠里は何を考えていたのですか?」 「僕? 僕は、そうだね。来年も再来年もその先もまた一緒に初日の出を見たいなって思ってたよ」 悠里は思う。今まで状況に流されてずっと戦ってきた。でも戦う事は好きじゃなかったし、力が欲しいと思った事もなかった。だけど今は違う。大切な人をこの手で守りたいと思う。 (この手に感じる温もりを守りたいから。僕の一番大切な人を失いたくないから。ずっと二人で生きていきたいから) 握った手は離さない。悠里が求めるのはそのための力。 (これからも、ずっと仲間達と歩み、ずっとずっと大切な人の隣に居れますよう) 共に歩いていくための力。カルナが求めるのはそのための力。 ただ互いを思いながら悠里とカルナは昇る朝日に向かい祈っていた。 (こんなんの、何が楽しいんだか……) 俊介は眠気をこらえながら朝日を待っていた。正直なところ、初日の出にあまり興味はない。見ようと思うのもこれが初めてだろう。他の日の日の出と何が違うというのか。 『きっと、綺麗なんだろうなぁ……楽しみー……♪』 などという羽音の言葉でやっては来たが、それ以外のモチベーションはなかった。 「ふわ……俊介、ちょっと……肩貸して……?」 その羽音は眠そうに自分の肩に寄り添っている。これはこれでいい感触だが、早く帰って羽音と遊びた―― 「っておいおい、まじかよ。綺麗じゃん。羽音、起きろ綺麗だぞ!」 俊介は急にテンションを上げて、寄り添う羽音を起こす。 「わぁ、わぁ……っ。とっても、綺麗だねっ」 つられて羽音もテンションをあげる。 「こんなに綺麗な風景を、年の始めに。大切な人と一緒に見れるなんて……本当、素敵なことね」 「まあ、羽音とならどこへでも行くけどね」 「ふふっ。うれしい……ねえ、俊介。今年も、宜しくね……♪」 「おう! 今年も宜しくな! なあ、羽音。また来年も一緒だからな。きっと、来年も此処に一緒に居るからな!」 「……ん……まずい、寝ていた……」 鷲祐は日の出ギリギリまで眠っていた。そこをアナスタシアに起こされる。 「……鷲祐」 「なんだ?」 「来年も……あっ。今年も、宜しくねぃ?」 アナスタシアは鷲祐に抱きついて朝日を見る。手放さないという思いを込めて抱擁の力を込める。 「アナスタシア。今年も宜しくな」 鷲祐は嫁の言葉に答えながら、今年のことをおもう。 (この一年、また新しい戦いが待っている。俺の選んだ道だ。茨など全て踏み越えて走り抜いて見せるさ) リベリスタとして戦うのなら、その道は茨。しかしそれを乗り越えていこうと。 俊介と羽音は朝日の中、うれしそうに話していた。 「初日の出……意識してちゃんと見たのは初めてかもしれないわ」 ティアリアは見る意味があるのかしら、とあまり興味なさげに源一郎に問いかけた。 「興味が無ければ見る事もあるまい。だが我は年が明けた日の出は眺めておくべきと感ずる」 着流しを羽織り、源一郎は答える。 「成る程、神秘的で幻想的。日本人が好きそうな光景ね。 まあ、神秘を扱うわたくし達から出る言葉ではないのかもしれないけれど」 「然り、日本に古来より伝わる風情と言う物だ。神秘を扱う身であろうとも、自然の良さは変わりあるまい」 言ってから源一郎は手を二拍手して、己の願を口にする。 「この初日に、今年も己が道を往く事を誓う」 「そういえば日本人は願い事? 願掛け? とやらをするのだったかしら」 「うむ。願をかけると同時に自らに誓う。今年こうあろうと目標を朝日に立てるのだ」 「古来より太陽は主神扱いする事もあったのだし、悪くはないわね」 ティアリアは源一郎を真似て手を合わせ、口に出さずに祈る。 (今年一年も楽しく愉快に、面白おかしく過ごせますように。なんて。ふふっ) 祈った後、ティアリアは眠そうにあくびをする。帰って寝なおそうかな、と口に手を当てて。 「……一年が終わり、そしてまた新たな年月を迎える……か」 拓真は悠月と寄り添いながら去年を思い出す。楽しい事ばかりであった訳じゃない。しかし様々な任務に赴き、幾多の戦友や──そして、悠月との出会いがあった。 「一年、早かったですね……色々とありました」 オレンジ色の光を見ながら悠月は寄り添う拓真を見る。三高平に来て一年弱。様々な『仲間』に出会った。見送った『仲間』も居た。様々な『敵』に出会い、死を見取った多くの敵もいた。近い目的を抱く人に出会い――拓真と出逢った。 「今年もまた宜しく頼む、悠月。……俺には、君が必要だ」 去年はいろいろあった。拓真はその中で得た答えを口にする。思ったよりも素直に口にできた言葉を受けて、悠月は首肯する。 「はい、今年も……宜しくお願い致します。共に、参りましょう」 見える先には、数え切れない不安がある。見えない不安はさらにあるだろう。 だからこそ、如何なる結果になろうとも…悔い無く歩んでいこう。拓真と悠月は二人寄り添い決意する。 「ったく食べ過ぎだっての」 ランディは年越し蕎麦をたくさん食べて、そのまま寝てしまったニニギアに毛布をかけて、台寄せる。そのまま日の出まで宴を見ていた。 そして日の出のカウントダウンが始まったとき、ニニギアを起こす。軽くキスをして、頭をなでてやった。 「わわっ……!」 「ほら、ニニ。初日の出だぞ」 「わぁ、きれい。ランディ、見て見て、きれい!」 抱き寄せた胸の中ではしゃぐニニギア。ランディの胸にぎゅーと抱きつく。 「今年はいい年になるわ」 その温もりの中、ニニギアは朝日を見て口にする。根拠はないけど、そう思う。 「そうだな、こんな綺麗な物が見れるんならきっと良い年になるさ」 ニニも居るしな。口にはせずにランディはニニギアの髪の毛を手櫛で梳いた。 「ユーヌたん初日の出だよ! 起きて! 起きない子にはイタズラしちゃうよー!」 頬ずりをしてユーヌを起こす竜一。 「ん、もう時間か。しかし暖かいな、もう5分ぐらいこのままで居たいが。悪戯しても良いぞ?」 毛布の中で竜一のぬくもりを感じ、竜一に頭を押し当てるユーヌ。 「そんなこというと人前とか気にせずツンツンしたいけど、日の出見てー! ユーヌたんに負けないぐらいきれいな日の出だよ!」 「綺麗な日の出だ、竜一と共に見れる幸福に感謝だな。おめでとう、今年も一年宜しくな?」 「あけましておめでとう、今年もヨロシクね!」 言って重なる竜一とユーヌの唇。 「んっ、さすがに少し恥ずかしいな。去年より、もっと愛してやるからな?」 キスしながらの合間で会話する二人を、オレンジ色の朝日が照らす。 朱子は思う。あの日以来、こんな気持ちで見る朝日は初めてだ。 悪が憎くて、許せなくて、ずっと戦ってきた。何もかも壊して、たくさんの人を見捨てて……そんな私が幸せになることなんて、無いと思ってた。 後ろを振り返る。そこにいる火車の存在を確認し、体の力を抜いた。 火車は思う。アーク来てからは人数で挑んだり、馬鹿馬鹿しい演技とかしたり、友人も出来た。殴り合いしてる分には毎年別に変わった事は無かった。戦いは日常だったし、殺しもしたし、知ってる奴も何人も死んだ。 前を見る。そこに朱子の存在を確認し、抱き寄せた。 「朱子が近くに居るとよ、結構熱くなれんだオレは。だから側にいろよ」 「うん、側にいる。……一緒にいこう」 火車に頭を寄せて、手を握る。 これからも戦い続けるだろう二人は、寄り添いながら互いの気持ちを確認する。戦場の中、互いに倒れてしまわないように。朝日がそんな二人を祝福するように照らした。 「出会いは変だったけど」 「きっかけはろくなモンじゃあ無かったけどなぁ」 そんな出会いもありますよっ。そっと目をそらす地の文。 櫂に伝えたい言葉がある。鋼児は一年の始まりというこの時期に決意した。 櫂とは出会ってからそんなに経っていない。鋼児も普通の友達として接していたのだ。 『最初は怖い人かなって思ってた。けど……色々知っていくうちに考えが変わって。素敵な人だなって……』 『本当に出会えてよかったって思うの。今、こうして一緒に踊れて凄く幸せで。あぁ、私は鋼児くんのこと本当に好きなんだなって』 そんな関係だったが、クリスマスの日に告白された。 その後、いろいろ考えた。真剣に考えた言葉を伝えるために、櫂を手招きする。 (呼ばれた……『あのこと』なんだろうな) 櫂は手招きされて鋼児のほうに近づいていく。どういう形であれ、いまここで結論が出る。早く答えがほしくもあるし、答えが怖くもある。日が昇る中、鋼児は屈んで櫂の耳に近づき小声で気持ちを伝える。 「恋人つうのに、なってみっか」 小さいけれど、確かに胸に届いた言葉。櫂は胸からあふれる熱い思いを感じながら、ただ思った言葉を口にする。 「鋼児くんと出会えてよかった」 人を遠ざけて、感情も押し込めて。何かを諦めて、それでいいやって思ってた。家族を失い、入った施設からも逃げ、一人で生き抜くと決めて孤独に自らを追い込んだ。 だけど鋼児に出会ってから、どんどん自分が変わっていくのがわかった。これからもずっと側にいられたらどれだけ嬉しいだろうか。 その願いが、かなったのだ。瞳からこぼれる涙に朝日がきらりと反射する。 「……ところで、何で小声なの?」 「……誰かに聞かれたら恥ずかしくて死ぬ。つうか今も死にそうなんだよクソッタレ」 悪人面だけど心はピュアな鋼児は、照れながら櫂の質問にそう答えた。 ●2012/1/1 7:56 「鶏肉サイコー!」 烏頭森は寝袋に包まって、転がっていた。夢の中でおなかいっぱいにチキンを食べているのだろう。 朝日を見ずに寝過ごしたものも少なくない。夜中に騒いでそのまま寝た人は、昇りきった太陽を見てから帰路につく。 「寝過しちゃったよ……初日の出、終わっちゃったの!?」 悟はしぶしぶ撤退作業を開始する。いすをたたみ、机を元の場所に戻しはじめた。 「まわりはずいぶん騒がしかった気がするけれど、結局寝てしまったの。仕方ないかな」 イーゼリットは眠気覚ましにコーヒーを飲みながら、初詣に向かう。ハツモーデがあるなら最後の詣ではラストモーデとか、ファイナルモーデ? 後ミドルモーデとかもあるのかしらん。 「……さて、初日の出も十分に堪能させて貰ったしな」 途中睡魔に負けていたイリアスは、体中の関節を鳴らしながら初詣に向かう。今年もまた激戦が繰り広げられるだろう。恐らくこれまで以上のものが。 「叶うなら……俺の様な、年寄りから先に逝きたい物だがね……」 そこまで言って正月らしくないと気づいたのか、頬をたたいて気分を切り替えた。 「あぁ、もう、やめやめ。初詣に行って、甘酒でもかっくらって帰るぞ!」 ランディはバイクのキーを回す。重低音なエンジンの起動音とともに熱がこもるバイク。ニニギアがその後ろに乗ろうとしたとき、 「どうぞ、ニニ姫様……ってな」 ランディがニニギアの足と肩を抱きかかえて、バイクに乗せる。突然のお姫様扱いに驚くニニギア。 「さーて姫様、行くのは初詣だけか? 今日は何処だって好きなトコに連れてってやるぜ!」 「わぁ、頼もしいわ」 そして二人を乗せてバイクは走り出す。 朝日を見て眠りにつくものもいれば、帰りの足で初詣に向かうものもいる。 今年もよき一年でありますように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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