遂に訪れた決戦の時。 彼方、神話の異世界より出でて恐怖を体現する者達。 此方、運命を捻じ伏せ、従える者。ボトムの抗体たる神への反逆者(リベリスタ)達。 文字通り世界の命運を左右する――然して有難くはないイベントは予想通りに最初から実に無遠慮な盛り上がりを見せていた。 「無事なようで何よりだわ」 乱戦に転戦は当たり前。荒れる戦場で偶然に遭遇した『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)と『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)にそう声を掛けたのは『ラピス・アイズ』シトリィン・フォン・ローエンヴァイス(nBNE000281)その人だった。 怒号と悲鳴、喧騒に包まれた公園内は人心地もない戦場だ。アークとオルクス・パラストの連合軍において鍵を握るシトリィンは十分に温存し、己が出番を待っている状態である。 「調子は……いいみたいね」 「それはそうよ。簡単に負ける訳にはいかないし、ね」 言葉程余裕のある状況でない事は他ならぬ自分自身が知っていたが、シュスタイナは持ち前の勝気を十分に発揮して嘯くように言って小さな肩を竦めていた。言葉は半ばまでは強がりだが、もう半分は本音である。『前菜』に過ぎない場所で躓いていては、本命(ラトニャ)はどうにかなるものではない。やれると思えばやれるものだし、そうでなければそれ相応の結末が待っている事は、些かプラシーボ的な話にもなるが心理学的な根拠もある。 「取り敢えずは蹴散らしたけど。これは、これで漸くぼちぼちなのだわ。 ルークやビショップを取った所でチェスは終わらないのです」 シトリィンはあくまで目標を完全なる勝利に定め、揺らがないエナーシアの言葉に「流石ね、アークもうちの連中も」と賞賛とも対抗とも取れる微妙な笑みを漏らしていた。 「でも、流石に全体は掴み切れていないのだわ。戦況はどうなっているのです?」 「ここまでは順調ね。勿論、私がお喋りしている位だもの。全ては『これから』だけど」 シトリィンの本格的な出番は例の『クトゥグァ』が暴れてからだ。 しかし――成る程、シュスタイナやエナーシアが言うだけの事はある。 純戦力的には不利も予測された決戦は、リベリスタ側の士気を色濃く反映する戦況結果を残していた。アークとオルクス・パラストという日独リベリスタ最強の連合軍は素晴らしい勢いで園内の敵戦力を駆逐せんとしている。エナーシアの言う通りそれは余禄に過ぎないが、これが上手くいかなければ論ずるに値しないのだからまずは順調な滑り出しと言えるだろう。 「あれだけの化け物共が相手でも怯まない、まずは良くやってるみたいね。 まぁ、ここまでは貴女達を買って『想定内』と言わせて貰うけど」 「お褒めに預かりありがとう、かしら」 少しだけ冗句めいたシュスタイナは周辺を見回して呟いた。 「……でも、やっぱりこれからね」 一先ずいい仕事を出来た自負はあるが、敵性反応は未だに少なくない。 厄介極まりない異界の化け物共があとどれ位出現するのかは全く不明である。不滅のラトニャの存在も合わせて、戦えば戦う程、リベリスタ側の余力も削れ落ちるのだから緒戦は全てのあてには出来まい。 「さあ、次を考えませうか」 仕切り直したエナーシアに応え、シュスタイナが頷いた。 凄まじいまでの緊迫感(プレッシャー)が渦巻いている。 如何なリベリスタと言えども、世界の命運をその双肩に背負う機会はそう多くはあるまい。 (全く……でも実際の所、いい気分はしないわね。 これが生きた心地もしない、ってヤツなのかしら) 華やかに勇ましき乙女達は不快な夏の夜に吹き抜ける涼やかな風の如し。 シトリィンは、彼女達程は若くは無いけれど―― 「二百年と少し振りだけど――でもね、今回は只じゃあ済まさないわよ、糞婆。 生憎と、やられたままで済ませる程、私は人のいい女じゃなくってよ――?」 ――同じ女として奮い立たないかと言われれば、全くそんな事は無い。 |