四国の上空を覆ったスーパーセルが弾けて消えた。前後して、そこかしこで続いていた騒ぎが徐々に収束に向かっているのを三尋木首領・三尋木凛子は確信していた。 「……さて、おっかない顔の面倒な男だったけど。居なくなってみりゃちった寂しいもんだねぇ」 大晩餐会と銘打たれた裏野部――賊軍主催のこの夜に何が起きたのかを流石の彼女は本能的に理解・確信していたのである。 今夜、この場所に招かれた招かれざる客は自分や逆凪派等だけでは無い。 ある種の復讐に燃えて大田剛伝とのパイプで資金を大量に引き出した恐山然り。 それより何より本気で『正義』に燃える連中がこんな暴挙を見逃す筈は無いのだから。 「あれー、凛子ちゃんじゃん?」 少しだけ考え込んだ凛子を我に返らせたのは聞き知った旧知の男の声だった。 彼女が面を声の方向に向ければ、そこには黄泉ヶ辻の首領・黄泉ヶ辻京介が立っている。 「凛子ちゃんじゃん、じゃないよ。京坊。アンタは何してんのさ」 「俺様ちゃん? ちょっと遊んで来た所だけど」 「……遊んで来たって……よく見たら酷い有様じゃないかい」 眉を顰めた凛子の見た京介は成る程、酷い格好をしている。 自慢のお洒落なジャケットは台無しだし、よくよく見れば大小多数の傷だらけだ。 返り血もたっぷり浴びている彼は凛子ならずとも近付くのを嫌がるだろう。 「……その辺のホテルで着替えておいでよ。うちのが取ってるのがあるからね」 まるで母親のように世話を焼く。それを言えば十回は死ねる事は間違いないが。 「んー、ありがと」 京介はへらりと笑って凛子に応えた。 それから暫く間を置いて――彼女にふと真面目に尋ねた。 「ねー、凛子ちゃん。ヒフミン、どうなったと思う?」 「さあね」 凛子は曖昧に笑って答えた。 「唯、案外アレもこれで本望だったのかも知れないねぇ――」 |