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「―――」
 言葉は無かった。どちらともなく、だった。この季節にはたくさん現れてくれるという、気の利いた妖精が居て、二人の背中をそっと押したのだろう。
 そうするのが自然であるかの様に。
 そうしないのが不自然であるかの様に。

 二人は素敵な口づけをした。

 軽過ぎず、重過ぎず。
 短過ぎず、長過ぎず。
 淡泊過ぎず、情熱的過ぎず。
 適切な距離感こそが、二人の想いの深さを一層と際立たせた。

「―――」

 やはり。
 そうするのが自然であるかの様に。
 そうしないのが不自然であるかの様に。
 引き寄せられた時と同じように、唇が離れる。通じ合った二人にしか出来ない、神秘の力なんかに頼らなくても出来る、テレパス。

 目が逢った。

 装飾された街路樹が煌びやかに、その横顔を彩る。
 近くには誰も居ない。
 適温に保たれたバー。―――だけれど妙に熱い、その視線。
 やっぱりそこに会話は無い。
 声ならぬ声が、二人の間を去来する。二人はそれを心臓で咀嚼する。
 ……ああ、何て甘い。
 義弘がその眼を見入る。まるで蜂蜜色の満月の様な祥子の瞳を、見入る。

 月には、魔性が宿る―――。

 けれど、こんなに愛おしい魔性になら、進んで魅入られよう。
 この日、彼等を束縛するものは何もない。……何も。
 二人の瞼が自然と閉じられる。再度、引き寄せられていく唇。
 次は―――大人のキスを。
 
日野原 M 祥子(BNE003389)
祭 義弘(BNE000763)
 
担当VC:auau
担当ST:いかるが