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2013年も終わりに近づいた日の事である。 七花の胸も高揚していた。確かに、今日を共に過ごす相手は――異性は――居ない。居たら最高に素敵な一日だったであろう事は違いないが、やっとの事で、あれこれの束縛から解放された一日である。世間が浮かれに浮かれた特別な一日である。愉しまなければ損だ。 そう思って、彼女は前日から喜々として、明日の装飾過多な遊歩道に負けぬ様に衣服を見繕った。決して華美ではないけれど、自分を引き立たせたそのコーディネイトは……、うん、完璧。美味しいケーキも可愛らしい雑貨も待っている。自分をエスコートしてくれる異性の一人でも居れば最高に素敵な一日だったろうけど、うん、何度自問自答しても変わらない。 白銀に包まれた街並みを歩いていく。さくさくと踏みしめる感触が嬉しくて、わざと雪の積もった所を踏みしめてみた。楽しい。これで一緒に楽しみを分かち合える異性の一人でも居れば最高に―――、うん、もうやめよう。 さあ、一軒目のお店。と、思った矢先。 鳴るのは、妙に耳に残る電子音。 発信元は、職場。 ―――ああ、これはまずい。 「……はい、風見ですが」 仕事、である。 たった一人の予定を調整し、折角のお祭り気分を味わっている最中に、よりによって、仕事である。 成るほど、独り身の自分を気遣った神様の粋な計らい―――な訳が無い。もしそうだとしたら、一度その頬を叩かないと気が済まない。 「クリスマス……?」 七海は呟く。その眼は虚空を見つめ、 「……知らない行事ですね」 彼女は、闇の中へと歩いていく。 2013年、12月も終わりの、クリスマスの事である。 |
風見 七花(BNE003013) |
担当VC:榊葛 絢杜 担当ST:いかるが |