世界を引き裂くその声は誰の魂も震わせた。 その瞬間、フュリエは怯え、バイデンは感嘆し、リベリスタは猛ったのだろう。人ならぬ神の――偶然と呼ぶに呪わしい接近を、運命との遭遇を阻む事の出来る者は居ない。遠く届かぬ神の目も、運命を謀る魔女ですら真なる破滅を前にその先を覗き見る事等出来はすまい。 災厄の訪れは時に残酷に突然である。 かつてのナイトメア・ダウンも、ラ・ル・カーナの落日も同じ。そしてそれはバイデンが寛容を、フュリエが勇気を抱き始めた今日の日をしても何も変わらなかった。 ――おおおおおおおおお―― ソラの裂け目より覗いた血走った眼球は天空より俯瞰する眼窩の世界を一瞥した。人語ならぬ声で何事かを言っているのか。それとも何ら意味を成さない唯の憤怒の声なのか。巨人の見下ろした荒野はグラグラと煮沸し、緑の森は葉を落とし焼け爛れるばかり。 やがて閉じ行く世界の裂け目は幸いに……奇跡的な幸いにして無形なる巨人の影を僅かな時間で遠ざけた。誰しもの全身から噴き出す汗が自分が何に遭遇していたかを告げていた。それがどんなものなのだかを告げていた。 「……世界樹が……!」 フュリエの族長シェルンの顔には珍しい――リベリスタが見た事も無い程の色濃い動揺が浮かんでいた。彼女が見つめる彼方――ラ・ル・カーナの何処からでも間違いなくその姿を確認する事が出来る『世界樹エクスィス』、つまり『この世界そのもの』は…… 蠢き、ざわめき、その身に『喰らってしまった』憤怒ばかりを湛えて……まさに今、その姿を変えようとしていた。『悍ましく恐ろしい世界樹とは全く別の何か』へと…… →<Lost World>シェルンの招待 →ソラに浮かぶ『眼球』 →ラ・ル・カーナの落日 →煮沸する血の荒野 →灼滅する緑の森 →沙織の強行 →世界を飲み干す者(第一ターン) →たかが、そんな疵 →世界を飲み干す者(第二ターン) |