「結論から言おう。アークはお前達の拘束を行なわない事を決定した」 時村沙織の言葉に相良雪花と蝮原咬兵が息を呑んだ。 正義の味方は伊達じゃない。 善良であればあろうとするだけこの世の中はそれに多くの寛容を求め、善良であろうとする程に時に忍耐を要求するものである。 「意外そうな顔をするなよ。そういう意見が強かったのもある。俺個人としてもまぁ、概ね同意だ。お前達(フィクサード)からすれば確かに意外な事かも知れないが。そういう事もあるのさ、この世の中には」 死地で背中合わせに戦った事実は少なからず、効いているのだろうか。事ここに到るまでに生まれたしがらみは否が応無く結論を『そちら』へ向けた。少なからぬ敵意を堪えても、憎み切れないリベリスタ達が『気のいいお人よし』である事は疑いようも無い事実だが。 「……これから、どうすればいい?」 問う蝮原に沙織は言葉の先を続けた。 「お前達を受け入れるか入れないか、意見は割れたが……微妙な所で様子を見る方が妥当だろうという方が強かった。 戦略司令室の結論は同盟――協力関係の締結に纏まった。 一つ、お前達はフィクサードとしての活動を行なわない。二つ、蝮原、お前を含めた仁蝮組はアークに一定の協力体制を取る事。三つ、まぁこれはお前達の組の気質と雪花お嬢様が『組長』なら無いとは思うが、お前達の『しのぎ』は『しのぎ』として。度を過ぎた反社会的活動は勘弁してくれ、こんな所だな。 将来的にこの関係がどうなるかは様子を見るとして、現時点での結論はこれを受諾して貰おうという事で纏まった訳だ。 お前達も昨日までの敵と手を取って仲良くリベリスタをやるよりは余程そっちの方が動きやすいってモンだろう?」 「時村さん……! ありがとうございます!」 心からの謝意を伝える雪花に沙織はぱたぱたと手を振った。 「辞めてくれ。あんまり真っ直ぐ見られるの、苦手なんだ」 「……う、ごめんなさい。あ、でも私はアークで皆さんに借りを……」 罰が悪そうな顔をした後、思い出したように言いかけた雪花を沙織は片手で遮った。 「それについても考えた。 話を続けるぞ。全体としての結論はそういう形に纏まったが、今回はこれに付帯をつけようと思う。雪花お嬢様本人も含めて、お前達の中でも色々な意見があるだろうしな。 アークはアークで活動したいと望む人間については今回、受け入れる事を考えてる。あくまで任意だ。意に沿わない強制はお互いの為にならないって判断だな」 「じゃあ、私も」 「ああ。お前がそれを望むなら俺はそれで構わない」 瞳を輝かせた雪花に沙織は何時もの食えない笑みを浮かべて応えた。蝮原はというとそんな雪花と沙織を一瞥して無言のまま。 彼は沙織が気遣いだけでそんな提案をしたのでは無い事を分かっていた。同盟関係を提案しているとは言え、お互いは昨日までの敵同士である。蝮原側のアキレス腱である雪花を大義名分を立てた上で平和的に取り込むのはアークにとっての保険である。少女らしい素直な感情を爆発させる雪花本人はこの提案を喜んでいる。 「……組の方は名代になる俺が取りまとめよう。 この三高平ならお嬢を任せるに足る。くれぐれも宜しく頼む」 とは言え、蝮原当人も眉を小さく動かしたものの、これに異論を挟む事はしなかった。廃ビルでの激戦で共感を得たのは決してリベリスタ側ばかりでは無かったという事か。目に入れても痛くない、何としても守り抜かねばならぬと心に決める『お嬢』を他人に任せるのは彼としては本意では無いのだが、凛と決めた雪花に祖父・橘平の姿を重ねた蝮原は『組長』の決定に逆らわない。 「良し、じゃあそういう方向で決めよう。宜しくな、蝮原」 沙織は言ってその右手を差し出した。 「……恥ずかしい真似をするなよ。そんな趣味も無い癖に」 ち、と舌打ちをした蝮原に笑った沙織は小さく肩を竦めて応えた。 「ああ、そうだ。お前には幾らか答えて貰わないといけない事があったな。申し訳ないが、早速協力をお願いするぜ」 沙織の言葉に蝮原は頷いた。 アークの船出を襲った最初の大波は砕けて散った。 しかし、すぐ傍には『闇に紛れた第二の嵐』。 この先に『思いもよらぬ事件』が待ち受ける事等、人心地を取り戻した彼等には予測出来る筈も無かったのだった―― <キャラクター作成時にジョブ『クリミナルスタア』が選択可能になりました!> →蝮原咬兵から取得した情報まとめ |