「世話になったな。約束通り、 お前達にこの身は任せよう 」 『相模の蝮』蝮原咬兵がそう切り出してきたのは、強敵・黄咬砂蛇を撃破し、相良雪花の救出を終え――一同がアーク本部へと帰還してからの事だった。 廃ビルで行なわれた戦いは余りに壮絶で多くの重傷者が出る激しいモノとなっていた。人心地つきたいのは山々なのだろうが、不器用で或る意味律儀なやくざ者である。取るものも取らず、そう切り出してきたのは彼らしいと言えば彼らしい。 「俺も、マムシに任せるわ」 「アタシも。旦那を一人で捨て置けやしないからねぇ」 蝮原当人のみならず、先の作戦に同行した九条や蘭子、仁蝮組構成員をはじめとした彼に従うフィクサード達もやはり投降に異存は無いらしい。 「……あの、ありがとうございます!」 顔を見合わせた沙織とリベリスタに突然歩み出て深く頭を下げたのは相良雪花である。数奇な運命で革醒を果たし、フェイトを得て。ここぞの所であの砂蛇に一矢を報いた彼女は既に助けられるばかりのヒロインであるとは言い難いが。 「――それから、ごめんなさい!」 そう続けた雪花に沙織は少し困った顔をした。その先が分かっている、分かっているが勘弁してくれという風である。 「咬兵さん達が皆……悪い事をしたのは、もう分かってます。 でもそれはみんな組の為で……ごめんなさい!」 腰を深く折って、頭を上げない雪花の言うのは果たして沙織の想像通りの台詞であった。 (それなら、この後は――) 「どうか、咬兵さんを許してあげて下さい! 助けて貰った私が言える立場じゃない事は分かっていますけど、でも。仁蝮組は――」 雪花は面を上げて沙織の目を真っ直ぐに見据えた。 「――仁蝮組は『私の』組ですから。責任は組長が取るべきだと、思います」 「お嬢!」 叱咤するように声を発した蝮原を雪花は片手で制した。 「私が、これから……リベリスタになって咬兵さんのした事を償います。もう二度とうちの誰にも暴れたりはさせません。ですから、どうか!」 凛としたその居住まいに蝮原は言葉を失っていた。 少女の目は遠い日に見た相良橘平のそれに似て、胸を詰まらせた彼には何を言う事も出来なかった。 「……検討はするさ。これから、じっくりね」 砂蛇さえ射抜いたその双眸から『時村沙織』が視線を逸らした。 流石の彼も、何の言葉も決めかねて。 →蝮原の処遇 |