「オマエ、死ぬだろ」 柄の悪い声が私にそんな言葉を投げた。 「オマエ、死ぬぞ。間違いなく、俺が殺してやる。青臭ェ蝮も、俺の邪魔をしたリベリスタの奴等も皆、確実に殺してやる」 埃っぽい臭いの漂う廃ビルの中だ。 生温いコンクリートの座り心地は良いものでは無かったけれど。 「オマエ――何で笑ってられる?」 黄咬砂蛇は感情を堪えるのが大変なのか、顔を少し気色ばませてそう聞いてきた。私はと言えばその言葉で初めて――自分がどんな表情をしていたかを知った。 「……笑ってるのね、私」 「ああ。全て覚悟完了してますって面だ。十五にもならねぇ小娘が生意気な限りだぜ。胸糞悪ぃ。蝮のトコのはこんなのばかりか? え? まさかお前、自分がまだ助かるなんて思ってるんじゃねぇだろうな?」 獰猛な殺意を隠す事無く砂蛇は言った。手にしたナイフで宙を掻っ切る『予行演習』をする彼は誰を見ているのだろうか? 「思ってる」 恐ろしい男だ。怖い男だ。それは間違いない。けれど、泣いて叫んで迎合して――命を乞えば助けてくれる相手でも無い。私は少なくともこの卑怯者を喜ばせたいとは思わなかった。 喧嘩は退いた方が負けるもの。お爺ちゃんも言ってたし―― 「思ってるわ。咬兵さんはきっと助けてくれるもの。それに、リベリスタの人達も。貴方がそうして怒っているのが証明じゃない。貴方は負けないまでも勝ち切れなかったからここに居る。そうして怒る事で今度は絶対に負けないって言い聞かせてるだけじゃない」 私と同じように、とは言わなかった。 恐ろしい男だ。怖い男だ。正直を言うなら、泣き出したい気分だ。でもそれを隠してぐっとお腹に力を入れる。言葉を返さない砂蛇の沈黙がかえって私を不安にさせた。 「……」 「……チッ」 舌打ちを一つ。 「……面白ぇ。この『パーティ』楽に死ねると思うなよ、どいつもこいつも!」 打って変わって砂蛇の声は楽しそうなものになった。 自信があるのか、企みがあるのか私には分からないけれど…… 「知らないの? 『相模の蝮』は伊達じゃないのよ。それに……」 私は信じたい。信じるしか無い。 「……あの、優しい人達も」 →蝮原の提案 →蝮原会談1 →蝮原会談2 |