「……それで、結論は出たのか?」 今一度、ブリーフィングルームに入ってきた蝮原咬兵は少しの疲労を感じさせる声でモニターの中の時村沙織に声を掛けた。 「焦ってるな。『相模の蝮』が」 「焦らないでか。ここに居る以上は当然の事だ」 「今回の話を判断する上で、まぁ沢山の意見を聞かせて貰ったよ。それは勿論お前達が直接やり合った連中のものも含まれてる。……まぁ、随分暴れてくれたからな。実家も荒らしてくれたのは間違いないし」 「……」 沙織の軽口に蝮原は応えない。 「それで、だ。まぁ、一部からは条件が甘いとかそういう話も出たんだが。例えばお前さんがわざと死んだらbとcはどうなるんだとか」 「先の可能性についてあれもこれも馬鹿丁寧に否定しろと? 砂蛇の動向も俺の命運も知るか。そんなものは不可能な話だろう。話を聞いてくれた事には感謝してるが、最初から可能な限りの譲歩はしてる。お前達が俺達を敵だったと憎むのは当然だが、それは俺達も同じ事だ。現実的に考えて条件aは全ての根幹だ。俺に必要不可欠なのは『アーク』そのものよりも『万華鏡』。場所さえ分かるならそれだけでも構わん。唯、座して砂蛇の次の動きを待つより仕掛けた方が余程可能性が高いからな。条件bは前にも言った通り。むしろお前達の為につけた条件だから不満があるなら受け入れる必要は無い。条件cはこの俺自身がお前達だけに頼るのを危険と思うから。それだけの話だ」 「まぁ、ね」 「これは交渉なんだ。交渉足り得ん言葉は知らんな」 沙織は小さく肩を竦めた。 「交渉ってのは落とし所を見つける事だからね。 まぁ、基準は『アークとしてどちらが得か』の問題だな。 アークも色々忙しい。お前の一派の連中が逆恨みでもして又大暴れしたら正直面倒臭い。どちらに理があるかじゃなく可能性の問題な。『敵』の一部が無力化されるならそう悪い話じゃない事は分かってるさ。 元々、今回の話は偏にお前を信用するかしないかで成り立っている訳だが、……実際の所を言えばリベリスタからもかなりせっつかれていてね。『砂蛇を追撃させろ』って。準備は大体整えてあったんだよ。お前さんの動きに関わらず、ね」 「……」 「だから」 沙織はそこで一度言葉を切って蝮原の瞳を覗き込むように視線を向けた。 「アークは今回の話を受けようと思う。条件b及びcについては又後ほどの検討になるがね。取り敢えず差し迫ったaを拒否する理由は無い。お前の存在に関わらず、どの道相良雪花救出作戦は提案されていたんだ。なら後はお前を敵とするか味方と考えるかで……多数意見が後者なら、まぁ。当然の結論だな」 「有り難い」 「とは言え、一部リベリスタの懸念も分かる。 そこでお前には作戦には参加して貰うが、基本的には別働で動いて貰う形を取ろうと思う。万が一、お前が変な企みの片棒を担がされていたとしても、被害が減るだろうからね。 ……ともあれ、準備は済んでる。これから本当のアークのブリーフィングに案内しよう。妙な事はしてくれるなよ。流石のお前さんでも本部のリベリスタ敵に回して無事で済むとは思っちゃいまいが」 時村沙織は至上の自信家である。 彼は彼自身が判断した事を基本的には疑わない。 「俺も、そこでお前を出迎えよう。 まぁ、短い付き合いか長い付き合いになるかは知れないが、『一応』友軍の長として、ね」 →蝮原の提案 →蝮原会談1 →蝮原会談2 |