● 「は? お前何言っちゃってるんですか? 俺等は同じ学校のクラスメイトなの。わかる? 単に友人同士で金の貸し借りしてるだけ。お前みたいなのが出しゃばる場面じゃないんだよ」 とある町の、とある路地裏、気の弱そうな学生服の少年が1人と、其の少年を取り囲んだ同じ学生服のガラの悪い3人組。 何が起きているかは誰でも判るが、誰もが面倒事だと関わろうとはしない、良くあるありふれた光景。 しかし今回は少し様子が違う。大人しそうな、……悪く言えば地味な男が1人、彼等の間に割って入ろうとしているのだ。 けれどその行動は当然の様に3人組の不良少年には癇に障る行為だ。最初は適当に追い払おうとしていた3人も男のしつこさに、 「ヒーロー気取りとか超うぜぇ……。もう良いわ。こいつからも迷惑料貰おうぜ」 暴力の矛先を変えて男の胸倉を掴みあげる。 だが、それこそが男にとって待ち望んだ瞬間だった。 歓喜の笑みに唇を歪め、男が口にした言葉はただ一言。 「……変身」 『HENSIN』 男の声に続き、電子音声の様な声がはっきりと周囲に響く。 次の瞬間、男の体が光に覆われ……、そう、まるで変身ヒーローの様に、変身ヒーローの様な姿にと変わる。 突然の、ありえない、あまりと言えばあまりの光景にぽかんと口を開けたまま呆然と立ち尽くす3人組。 しかしその放心は、即座に恐怖に取って代わった。 変身した男の一番近くに居た不良少年が、男のパンチを受けてボールの様に吹っ飛び、ぐしゃりと音を立てて文字通り壁の染みと化す。 絶叫を上げ、後ろを向いて逃げ出そうとした不良少年の腹が爆ぜ、背を突き破った男の蹴りが生える。 仲間達の無残な死に様に最期に残った1人は、勇敢にも、そして愚かにも、ポケットからナイフを取り出し男に向けて突き刺した。 だが当然そんな攻撃が変身ヒーローと化した男に通じる筈も無く、ポキリと圧し折れるナイフと、 「パニッシュメント!」 技名を叫んだ男に心臓を抉り出された不良少年。 全ての惨劇が終った後、変身を解いた男は、 「……ちっ、助けてやったんだから礼くらい言えよな」 気を失い倒れてしまった気の弱そうな少年に向かって呟き、落ちていた不良少年の上着をかけて歩き去って行く。 ● 「……此れは既に終った事件。主犯は変身を特殊能力とするノーフェイス『ヒーロー』よ」 集まったリベリスタ達を見回し、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)が口を開いた。 そう、先程伝えられたのは既に終った事件。けれど力を得、はしゃぎ暴走するヒーローが次なる犠牲を求めぬ筈もない。 「次にヒーローが狙うのは、深夜に騒音を撒き散らす20人程の暴走族の集団」 犠牲者の多寡が事件の全てと言う訳ではないのだが、それでも20人は先だっての犠牲者とは比較にならない数である。 恐らくヒーローは、 「そう、恐らくヒーローは前回の事件に味を占めて調子に乗っているわ。彼は自分がノーフェイスである事も知らず、其れこそ本当に選ばれた正義の味方にでもなった心算なのだと思う」 本当に哀れで愚かな存在だ。 「でも油断はしないで。ヒーローの力の根源は、彼の基準でだけど悪を憎む心と、TVとかで見た本物の『ヒーロー』への強い憧れ」 常軌の外の存在であるノーフェイス。愚かであるからこそ、強い感情、強い力を発揮する事もある。 「彼にとって皆は『ヒーロー』じゃないと思う。けれど世界の崩壊を食い止めれるのは、リベリスタである皆だから」 正しい、正しくない、間違ってる、間違っていないではなく、世界を蝕むノーフェイスは排除されねばならぬのだ。 資料 1:ヒーロー フェイズ2に成り立てのノーフェイス。ただし特殊能力を発動すれば戦闘能力は非常に高くなる。特殊能力『変身』と『進化』を持つ。 特殊能力『変身』:特撮風のヒーローの姿に変身し、身体能力、攻撃力、防御力等の全てを大きく上昇する能力。 特殊能力『進化』:イメージした技を実際に使用可能とする能力。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月16日(水)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 冷え込みのきつくなりつつある夜の空に白い息を吐き、ノーフェイスは耳を澄ませて獲物が近づいて来るのを待っていた。 今宵の獲物は暴走族。近隣に爆音で迷惑をかけ続け、人を脅かす彼等は、自らの奏でる騒音によって其の位置を知らせてくれる。 前回とは比較にならない大規模な獲物を狩る緊張に、ノーフェイスの胸の鼓動が加速していく。 思えばこの力に目覚める切欠となったのは、朝のテレビだった。 伝説の殺人鬼の名を名乗るふざけた男が、謎の力でテレビの放送中に出演者達を惨殺した事件。 あの事件に、まだ人間だった頃のノーフェイスは怒りに震えた。何故、悪が蔓延るのかと。 彼の愛するヒーロー達は日曜日に別の敵と戦う事で忙しいらしく、他の曜日の放送には現れなかった。 何も出来ない自分に対する哀しみと、それでも消せない悪への怒りに其の身を震わせた時、彼は声を聞いたのだ。 「君の望む力をあげよう」 不思議な声を聞き、力に目覚める。其れは幾度も妄想し、ずっと憧れ続けたシチュエーション。 無論、行き成りあのテレビの中の大悪人と戦える力が身に付いたとは思っていない。奴は不思議な力を使いこなす最後の敵。 小さな悪からコツコツ潰す。そう言う点で言えば、ノーフェイスはヒーローマニアであると共にゲーム脳でもあったのだ。 そして其の通り、前回悪を潰した際にノーフェイスは自分の中の力が増したのを感じて取った。本当はそれは、単なる進行性革醒現象によるフェーズ移行が進んだに過ぎないのだが、ノーフェイスの中では経験を積んだ事によるレベルアップだと認識されている。 遠くから微かにマフラーを改造されたバイクの奏でる耳障りな音が近付いて来る。 けれどゆっくりと目を開き、準備に入ろうとしたノーフェイスの前に現れたのは、特異な出で立ちをした8人の男女。 「どーも初めまして。悪いがここからは主役の交代だ」 タバコの火を揉み消し、携帯灰皿にしまう『八咫烏』長谷川 又一(BNE001799)の挑発を交えた挨拶が飛ぶ。 其の腰には、目を引く物騒な大太刀がぶら下がっていた。 ● 己を囲む集団の放つその危険な空気と、何よりあのテレビの中の大悪人と同じ神秘の空気に、ノーフェイスが咄嗟に取った行動は、 「変身ッ!」 『HENSIN』 光に包まれ姿を変えていくノーフェイス・ヒーロー。 けれどもし其のシーンを古き良きヒーローを好く者が見たならば言っただろう。一合も交わさぬ行き成り変身は敗北の予兆だと。 だが得てしてヒーローが敗北する回は、序盤の調子は良い物だ。 特に、 「最初に、一つ言っておきます。……ダサいです」 其れが意図的かどうかは兎も角、全力で地雷を踏み抜く相手に対しては、彼が能力をフルに発揮しない理由も無い。 「その仮面、そのスーツ、そのマフラー、古すぎて取り残されてます」 一つ一つを取り上げ、罵倒を重ねる『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)。けれど彼女は気付いているのだろうか? それでは心を折るどころか、怒りを煽る挑発にしかなって居ない事に。 「カッコ悪い正義の味方がカッコいい悪に勝っていいのかー! 恥ずかしくないのですか、そのすが……た?」 嗤い、更に言葉を重ねようとしたエーデルワイスの口から、ごぼりと血が溢れ出す。 憧れるならば悪。悪の美学こそ素敵だと心に秘めるエーデルワイスだからこそ、言わずには居れなかった言葉だったのだろうが、ノーフェイス・ヒーローにはそんな事は無関係だ。 ただ彼女がダサいと切り捨てた仮面の奥で目を真紅の怒りに光らせ、一瞬で距離を踏み潰したヒーローは、エーデルワイスの腹に差し込んだ手を、エーデルワイスの臓物を、握り、そして潰す。 「――――!」 「―――――」 エーデルワイスとて、幾多の死線をくぐり抜けたリベリスタだ。内臓を潰された程度ではすぐさま命に別状はないし、痛みで戦意や意識を手放す事もない。 エリス・トワイニング(BNE002382)が天使の息でエーデルワイスの受けた傷を癒し、更に『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)が強引にエーデルワイスとヒーローの間に体をねじ込み、放ったヘビースマッシュが彼我の距離を作る。 けれど其の行動はヒーローにリベリスタ達をエーデルワイスと同種、つまり完全に悪と見做させるには足る物だった。 投げ掛ける、ヒーローの心を折る為の言葉も怒りに染まった耳には意味を成しては届かない。 それどころか同じ神秘の力を使う悪として、リベリスタ達とテレビの中の大悪人は繋がりのある、言わばあの大悪人を首領とするなら、リベリスタ達は怪人としての役割を、ヒーローの中で振り分けられてしまっていた。 エリスのエネミースキャンが捉えるヒーローは、内側がマグマの様に滾り、ぐつぐつと其の力を変化させていく。 ● けれどリベリスタ達も最初から言葉だけでヒーローを撃てるとは考えていない。 視界を真っ白に染める光が、『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)の放つ、コンセントレーションにより命中率を高められた神気閃光が、ヒーローごと辺り一面を焼き払う。 光の残滓も消えやらぬうちにぶつけられるのは武器にエネルギーを集中させた一撃、リミットオフで自らの限界、言い換えれば安全装置を取り払った『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)が放つメガクラッシュ。 更にはヒーローの動きを、そしてその苦手とする攻撃を読み、僅かに神秘に対する抵抗が低い事を見抜いた『消失者』阿野 弐升(BNE001158)が放つアデプトアクションによる神気攻撃がヒーローを貫く。 エーデルワイスのバウンティショットが、真琴のヘビースマッシュが、リベリスタ達の攻撃が次から次へとヒーローに突き刺さる。 けれど、 「不味い、下がってください!」 超直観で、一見命中している様に見えるヒーローへの仲間達からの攻撃が、実は芯だけは外れており、見た目程の効果を出せていない事と、感情探査で捉えるヒーローの感情が一際大きく弾けた事に警告の声を上げる『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)。 星龍の声にリベリスタ達が一斉に飛び下がり距離を取った次の瞬間、 「ブレイクッ!」 即興で考えたであろうシンプルな技名をヒーローが叫び、リベリスタ達を膨れ上がった真紅の光が包み込む。 まるでメガクラッシュの際に振るわれる武器の様にエネルギーを集中させ、一気に解放され、周囲丸ごとを攻撃する様は神気閃光の如くだ。そして其の効力もメガクラッシュや神気閃光と同じ様に、リベリスタ達を弾き飛ばし、更にはショック状態へと陥らせた。 何より無残なのは、攻撃の余波に晒され破壊しつくされた道路。 だがヒーローは其の破壊行為にもまだ溜め込んだ怒りを発散し切れておらず、ショック状態覚めやらぬリベリスタ達に対して獣の様に飛び掛る。 ● ヒーローの攻撃は熾烈を極め、もし比較的高めのWパワーを持ち、いち早く立ち直った回復手のエリスが居なければ、或いはエリスを庇って耐え抜いた、HPの多いディートリッヒ、クロスジハードやハイディフェンサー、更には高い防御力を誇る真琴、戦術的な視点から我が身よりもエリスを優先して無理をした星龍等が居なければ、リベリスタ達の戦線は崩壊していたかも知れない。 だが彼等の健闘があってもヒーローの攻撃でリベリスタが被った被害は大きく、幾人かは膝を付き、特に序盤のダメージが大きかったエーデルワイス、エリスの代わりに大きなダメージを受け続けた星龍の2人に至っては完全に動かなくなってしまう。 けれどもヒーローは不意に天を仰いで攻撃の手を止めた。 其の音が聞こえて来たのは、丁度其の時。夜を打ち砕く爆音が、次々とこちらに向かって近付いて来たからだ。 ヒーローにとっての既に今夜斃さなければならない敵はリベリスタ達となっている。が、だからと言って、今の自分なら片手間で斃せる悪を見逃す必要も特には無い。 リベリスタ達が暴走族を追い返す為に設置した工事中の看板と赤いコーン。 しかしそんなリベリスタ達の意図等知りはしない暴走族達は、自分達の行く手を遮る、チャチでバリケードにはなりえない看板やコーンを無視、或いはワザと蹴倒し暴走を続ける。 ごく普通の一般人を近付けない為なら、確かに常套とも言える程に良く使われるこのコーンと強結界を組み合わせる手段は有効だが、其れも相手によるのだ。 自分達の行いが世間に迷惑をかける事を理解し敢えてそうしている、もしくは反社会的行為其の物に快楽を覚える彼等は、自分達の走りを止める障害を蹴散らす事に躊躇いは無い。寧ろ寄り目的意識を掻き立てられすらするのだろう。 止まらぬ暴走族にリベリスタ達の顔色が変わる……が、急にバイクの立てる音が止んだ。 暴走族達が止まったのは、リベリスタ達の居る地点からおそよ200m離れた……そう、エリスの手による強結界の張られた境目付近だ。 俺の走りは止められない等と言いつつ看板を蹴倒した彼等ではあったが、彼等の走りにそもそもの明確な目的等なかったのである。 エリスの強結界の効果に抗えず、次々と踵を返して走り去って行く暴走族の面々。 その様に呆然とし、反射的に追いかけようとしたヒーローの頭部に、弐升の全力の攻撃、ギガクラッシュが炸裂する。 雷を纏った改造チェーンソーの高速回転する刃が、ヒーローの仮面を削り、電撃を流し込んで行く。 しかし元より傷だらけの身にギガクラッシュの反動が重なって動きの止まった弐升に対し、ヒーローの苦し紛れの反撃が突き刺さり……エーデルワイスと同じく臓物を潰された彼も地へ沈む。 けれど彼の放った攻撃は確実にヒーローの足を止め、更には感電状態へと陥らせた。 ● 想定外の暴走族達行動に重ね、弐升からの痛手を受けたヒーローは、一時的に怒りを忘れかけていた。 だからこそだろう。一人スキルの使用を抑え、冷静にヒーローの様子を観察していた又一がヒーローの心に潜り込んだのは。 「なぁ、お前さんの正義は、……ただの一度でも感謝されたこと、つまりは誰かを救ったことがあるかい?」 静かに、ふと思い出した事を問うかのように、するりとヒーローの耳に飛び込んだ其の疑問は……、 「貴方自身が憧れたヒーローは今、貴方の姿と見てどう思うでしょうか? 貴方自身が斯くあるべきと思い描いた姿と同じものでしょうか?」 真琴が受け継ぎ、ヒーローにとっての迷いとなった。 更にエリスが昔テレビでみたヒーローを語り出す。昔見たヒーローは格好良かった。そして強いだけでは無く、格好が良かったと。 「貴方には……それが……無い」 エリスは、ただ素直に自分の気持ちを告げた。だが本心であるが故に言葉はトゲとなりヒーローの心に突き刺さった。 「むしろ……力に酔いしれた……悪「違うっ! お前等なんかに俺の何が判る!」 続くエリスの言葉をかき消し、ヒーローの怒号が響く。 だがその言葉の勢い程には、ヒーローの心は強くない。認めたくない、認めれないが、確かにそうだ。自分は力に酔っていた。特別になれたと喜んでいた。テレビの中のヒーロー達は、皆自分の力に苦悩していたのに。 ……でも仕方ないだろう。突然手に入った憧れの力に酔わない訳がないじゃないか。 ヒーローの自問自答は、けれどヒーローに出来た大きな隙を見て取ったリベリスタ達によって遮られる。 「シノギ屋又一、死活打崩候」 漸く見えた心の折れる兆しに、抑えていた技の使用を決めた又一の黒いオーラがヒーローへと突き刺さる。 けれどヒーローの心が折れるまでに出た被害は大き過ぎた。 幾人もの面子を欠いた為、又一に続いて攻撃に出れた者が余りに乏しい。 唯一ディートリッヒがそのタフさを活かして傷付いた体に鞭打ちメガクラッシュを放つも矢張り手数が足りなさ過ぎる。 動揺に付け込んでの攻撃の恐ろしさに、あっさりとヒーローは心を折り、撤退を決めて駆け出した。 其の背に向かい、超直観でいち早く逃走の気配を察したジョンのピンポイントが、次いで真琴のジャスティスキャノンが、逃走防止の怒り付与を狙って放たれるが、其の二つの攻撃もヒーローの体に浅い傷を残すに終ってしまう。 序盤の猛攻に崩壊しかかっていた包囲網をヒーローは突き破り、そして行方を晦ませる。 ノーフェイス・ヒーローは、リベリスタ達に、そして自分の弱い心に、敗北、逃走した。 けれど勝者である筈のリベリスタ達の顔に浮かぶ表情も、また敗北感。 破壊し尽くされた道路を、白み始めた朝の空気が満たして行く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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