● 「約束どおり、迎えに来たよ」 あの日と同じ白い手袋。 差し出される優しい手。 幼い日の約束。 少女は、娘になった。 「迎えに来たよ、お姫様」 あの日と同じ優しいお顔。 だけど、あたしは変わってしまった。 好きな人ができてしまった。 「あなたと一緒に行けないの」 15歳の誕生日。 その日は、約束された満月で。 王子様が、死神に変わる日。 ● 「お父さん、お父さん。魔王が僕をさらいに来るよ」 アーク本部でゲーテの詩など口ずさんではいけない。 魔王をぼこる気満々の親がなだれ込んでくるから。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、正確には、と補足する。 「アザーバイドの王子様が娘をお嫁さんにするため迎えに来る」 お父さん、そんな駆け落ちみたいなこと許しませんよ!? 色めきたつ一部のリベリスタを華麗にスルー。 イヴは、モニターに模式図を出す。 「今から十年くらい前、当時五歳の彼女、お空の向こうから来た王子様と『けっこん』の約束をした。『大人になったらけっこんしようね!』という彼女に承諾した王子様は、君がレディになる頃、迎えに来るねと帰って行った」 ちょんちょんと模式図に書き込むイヴ。 イヴは長い長いまっすぐな線を引く。 「時がたつ。王子様の記憶は夢の中にまぎれる。彼女は娘になり、彼氏らしきものも出来た」 それはあたりまえのこと。 アリスは穴にもう落ちない。ウェンディも空は飛べなくなる。 更に引く、大きな弧。 「もうすぐ王子様が来る。約束どおり、彼女がレディになる頃に」 彼女の心は変わってしまった。 もう、王子様は要らない。 「不実な『婚約者』は罰せられなくてはならない。王子様は涙に暮れながら彼女を屠る。それが彼の世界では当然の『正義』であり「倫理」」 王子様を説得するのは容易ではない。 誇り高く清廉で不倫などありえないと思っている堅物だから。 「かといって、放置も出来ない。王子様は涙を流しながら『不倫相手』も一刀両断。それが彼の世界の『規律』 かといって、王子様を倒すのもあんまり」 王子自体は非常に善良な存在なのだ。致命的なまでに。 「問題は、この場に彼女がいること。彼女は夢の中の王子様が現実だったのを思い出してしまった。そして、持ち前の誠実さで一緒に行けないと告げようとしている。悪いけど、彼女にそれを言わせない内に、別チームに彼女をさらってもらう。みんなには応じの足止めをする悪役をやってほしい」 つまり悪いのはリベリスタで、王子が振られた訳ではないと。 王子の面子、大事。 「今回の依頼は強制送還。D・ホールに王子達を放り込んでブレイクゲートしてしまえば、王子の世界で再調整に十日かかる。こっちの世界では約百年。問題ないくらいの時間が過ぎてる」 少なくとも、彼女の人生への影響は極小になる。 「王子様だから、剣を使う。なかなかすばしこいよ。従者も連れてるからそっちも忘れずにね。更にお供も一杯連れてるけど、それは別チームに対処してもらう。みんなはこっちに集中して」 ふうと、イヴは小さく息をつく。 「御伽噺の王子様の迎えなんて、なかなか素敵な感じではあるけどね」 数十秒後に、年くった方の室長がブリーフィングルームに駆け込んでくるけれど、本案件にはまったく関係のないことである。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月15日(火)23:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 小さな、桜の木が植わっているので誰も手を地家ようとしない、遊具も何もない空き地みたいな小さな公園。 白い扉が開け放たれて、あの日と少しも代わらない王子様が私に手を差し伸べる。 騎士に長いローブの僧侶。フードで顔を隠しているのは魔法使い。 はるか向こうまで、カードの兵隊が並んでいる。 フリースにジーパンなんて格好で来た自分に、自己嫌悪。 いっそ、制服着てきたほうがまだライトノベルっぽかったかも。 『満月の君。レディになったら、迎えに来るよ』 あなたはとても誠実。 でも、五歳の女の子には、それは夢に近すぎた。 あたしは、あなたの「満月の君」ではいられなかった。 ● 扉を開けて現れる王子に、『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)の女の子ハート、ちょっとうっとり。 (女の子の従者って…やっぱりメイド?) 赤面しながらも、メイド服着て、エプロン付けて、カチューシャ付けて。 手のブレードナックルが、雰囲気ぶち壊しだが。 (王子様が迎えに来てくれるなんて……素敵……) ほわん……と、上気した自分のほっぺたに気づき、あわててお手手ばたばた。 (じゃ、なくてっっ!! 王子様、可哀想だけど、なんとしても止めなきゃっ) 『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)の女の子ハートは否定的。 (何のフォローもなしに長い間待たせて、思いどーりにいかなかったら斬る! なんて、勝手すぎ! ホントに手放したくないなら、もっと大事にしなきゃ! 王子と姫である前に、男のコと女のコでしょ?) さらにまじまじと見ること、数秒。 (まぁ色々あるんだろーし、根はイイ人みたいだし……それに、イケメンだしっ。キシドー精神にのっとってきっちり戦って、男のコらしく身を引いてもらおうじゃん) へたれでもイケメンだと点が甘くなる。 男子、要チェック! 逃走チームが少女を抱き上げ、背を見せる。 「悪いが姫は渡さない」 豪奢な馬車だった。 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)が、公園の中を疾走する。 馬車に阻まれ、王子達はとっさに少女と逃走チームを追うことができなくなった。 「アウラール王子殿下のおなーりー!」 終は、うやうやしい仕草で馬車の扉を開けて控え、チラッと王子様の顔に視線を走らせる。 (10年も放置してたら忘れられても仕方ないよね。王子様要領悪い) 顔は神妙だが、腹の中は笑いをこらえている。 (はっ……!!? もしかしていろんな意味でいい人っていうのは、いい人どまりって事かな? かな?) 悩める終の脇を通り過ぎ、 『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)が、王子の行く手を阻んだ。 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が、その横に控える。 (アウラール王子に密かな恋心を抱く女性騎士の役やります!揺れ動く乙女心。だけど、騎士として、王子の選んだ姫を助けなくちゃいけない……くっはー、キュンときます♪) 脳内では、すでにコミックス10巻前後に相当するエピソードが積み重なっている。 「幼かった姫は知らなかったようだが、こちらでは婚約者は誕生時親が決める事になっている。つまり、姫は俺のものだ」 そう王子に告げるアウラール。 普段のどこか硬い浮世離れした言い回しが、今日に限っては功を奏している。 (わぁ……本当に王子様だ……じゃ、なくてっ! 依頼を忘れちゃダメだったら、わたし!) 文、パンパンとほっぺ叩いて、気合の入れなおし、 「わたしたちのアウラール王子こそがほんとの王子様なんだから!お姫様はアウラール王子のものなんだもんっ!」 『錆びない心《ステンレス》』鈴懸 躑躅子(BNE000133)も、温かい目で見守りつつ、「その通りです!」と、合いの手を入れている。 なんだか、乳姉弟っぽい。 (むしろ敵役(かたきやく)と言うべきか? 相手のノリに合わせて打ち破れば、こちらの世界自体に遺恨を残す事もあるまい。百年後のリベリスタに苦労の種を残すのも悪いしなっ) 『エリミネート・デバイス』石川 ブリリアント(BNE000479)は、人類文明そのものを信仰している。 今日も明日もあさっても、百年先も千年先も人類文明は継続しているのだ。 いかに崩界の危機にさらされようとも、ゆるぎない。 それゆえ、百年後のリベリスタの存在を疑いもしない。 「そーだそーだ!」 今は、全力で三下っぽい従者を演じるのが使命! やんやの喝采が静まったところで、アウラール王子が口を開く。 「だが、貴様にもチャンスはある、戦って俺に勝て。ただしチャンスは一度きり……姫を愛しているのなら全力でかかってこい」 「なっ! 下層世界の住人の分際で!」 「無礼な」と声を上げる魔法使いを、騎士が制する。 「そっちが横取りしようとしてるんじゃない!」 叫ぶ文に、僧正の火が吹きそうな憤怒の視線。 直撃を受けた文は、亀のように首をすくめた。 王子はまっすぐアウラールをみる。 その心の中を見透かすようにゆるぎない眼差しで。 (俺は大人だから……) アウラールもその目を見つめ返した。 (必要なら、嘘もつく!!) 王子はうなずき、剣を抜いた。 「わが愛、そなたを倒して証としよう」 スルーされたら精神的に死ねると思っていたアウラールは、心のどこかでほっとした。 「しかし、この場に見届け役の満月の君がいないのはおかしい。追っ手を出させてもらうぞ。魔法使い!」 「はっ!」 扉からあふれるカードの兵隊。 「行け! 満月の君をこの場にお連れするのだ!」 風に乗り、地を這い、カードの兵隊は先行く少女を追う。 少女の身は案じられるが、それは逃走チームに任せる。 自分達は、闘争チーム。 ここで宮廷を押しとどめ、扉の向こうに押し戻すための、仮初の宮廷。 ● 七布施・三千(BNE000346)の十字の加護を背に、リベリスタは走り出す。 (迷惑な話ですね。10年間放っておいてフラれたら強硬手段を取るとは) 時の流れの違いの残酷さも、13歳の『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)の手にかかれば、一刀両断だ。 クールな表情のまま、吹き上がる闘気が肉体の檻から解き放たれる。 (小さな頃の約束って恥ずかしいよね。あたしは……あはは、忘れちゃったや。でもさ、みんなだって覚えてないよね?そんなの覚えてるのはギャルゲのヒロインだけだよ) 『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)は、辛辣すぎる15歳。 流れるような身のこなしが、その技をより研ぎ澄ませる。 控えているうちに、体内ギアを切り替えていた終も続く。 奥に控える僧正の元へ。 アウラールと剣を交える王子の元に馳せ参じようとした騎士の行く手を、躑躅子が阻む。 「ふふふ、貴方の忠誠を私がはかってあげましょう~。かかってきなさい」 左の手のひらを広げ、騎士に向かって突き出す躑躅子。 手にしたメイス。 パラディンのごとき女騎士に、自分と同じ匂いを感じた騎士は、剣を抜いて答礼する。 「では、その身に刻むがいい。わが忠誠の一撃を!」 押し寄せるリベリスタの、僧侶は祈り、魔法使いは呪文をつむぐ。 「婚儀の誓約は絶対。死が二人を分かつまで、末永く幸せに暮らしていただかなくてはなりません。それが、世界の秩序です!」 「王子が満月の君を望むなら、その願いをかなえて差し上げる。それが私の忠誠!」 爆炎がリベリスタ達を飲み込む。 きな臭い。たんぱく質が焦げるいやな臭い。 喉の奥を焦がす火の粉の感触と、体が焼け爛れる感触に、戦慄する。 御伽噺の世界は、砂糖菓子でできているわけではない。 神秘に満ち溢れ、それが当たり前に使われる世界。 上位階層の存在。 だから、どうした。 「説法はお国に帰ってからお願いします!!」 終の速度を乗せたありふれたナイフが、僧正を切り刻む。 「あ、うぁっ……!?」 それまで滑らかに彼の口から滑り出していた聖句が途切れた。 尋常ではない速度で切り刻まれた衝撃が、肉体の反応速度を狂わせ、彼を逃げ撃つだけの木偶人形に変えてしまった。 続けざま、舞姫の音速の刃が僧正を襲う。 文の不可視の爆弾が、その背を吹き飛ばす。 全員が、「まずは僧正から」と目標を一致させていた。 ブリリアントは、僧正を孤立させるべく、大剣のような媒介デバイスを振り回し、魔法使いをあらぬ方向に吹き飛ばした。 「なんだとっ!? ……卑怯なっ!」 痺れる舌で、僧正は悪態をつく。 「笑止。10年も放って置き、不実などと、どの口が言いますか」 するすると進み出た冴が、動揺を誘うため、僧正に問答をしかけた。 「愚かな! たかが十年の沈黙と堅忍の行もこなせずして、一国の王妃が務まるか!?」 愛刀「鬼丸」を最上段に構える。 「こちらの世界の事を録に調べもせず、自分の世界の常識を押し付ける。それで誠意などとよくも言えたものですね」 事ここに至っては,もはや問答の余地もなし。 「我が殿、アウラール様の邪魔はさせません。チェストォォォォォ!」 二の太刀はない。 己が体もただではすまない雷の剣にさらに深く傷をえぐられようと、冴は切っ先を鈍らせはしなかった。 僧正は地に伏し、力の源を共にするハートのカードの兵隊も、ただの紙と化した。 ● 三千からもたらされる加護により、翼もたぬものの背にも小さな翼が生え、その足運びを手助けする。 降り注ぐ加護の光が、その身を苛む炎の痛みを引かせていく。 リベリスタは、更に魔法使いに襲い掛かる。 凪沙の放った風の刃が、目深にかぶられたフードを切り裂く。 終が、冴が、舞姫が、己が刃をつきたて、すでに人の限界を超える痛手を負わせても。 魔法使いは立っていた。 ごぼりとあふれる鮮血に黒が混じって地面に落ちる。 「ええい、この程度の術しか行使できぬとは。どれほどのカードが損なわれたのか。口惜しい。もはやこれまで。しかし、王子に貴様らのような禍根を残してゆくこと、許しがたし。道連れとさせてもらうぞ」 黒い血が縛鎖の海となって、リベリスタの四肢に絡み付く。 体中に焼け付く痛み。すでに追っていた傷口が開いて血が止まらない。黒い鎖の海に飲まれていく。 力が抜ける。かつて感じた事のない諦めが心の芯を揺さぶり、今にも座り込んでしまいそうだ。 「従者らしく、ちゃーんとお淑やかに……っておもってたんだけど、やっぱり落ち着かないよぉ」 真独楽の周りを黒鎖が避けていく。 運命の恩寵を権限せし者には、いかなる災厄もしばしその手を退かざるを得ない。 満身創痍。 黒鎖の海をまともに浴びた傷の跡も生々しい。 だが、まだ倒れるときではない。 それを、自分に許してはいない。 「いっぱい暴れて、言いたいコトもいっぱい言っちゃう! やっぱ、まこはこっちの方が性に合ってるよ!」 がら空きの地面を蹴って、褐色の獣が鋼の爪を以って魔法使いに飛び掛る。 頭部を穿つ黒い光が、魔法使いのひざを折らせた。 「お許しください、我が君……」 「なんという事を……」 アウラールと切り結ぶ王子の目からはらはらと涙があふれた。 「そなたらに誓おう。必ず満月の君を、我が霜月二巡り目の王妃とすると……!」 王子の言に違和感を感じたアウラールは、疑問を口にした。 「しかし最下層の者を連れ出して神秘に触れさせれば、革醒し変容するのでは? フェイトを持った人間ならまだしも、姫は一般人。何か方法が?」 王子は、そのようなものはないと首を横に振った。 「互いの間に過ぎる時の流れの異なりは、いかなる者も乗り越えることはできない。満月の君の一生は、私にとってはおそらく十日に満たぬものとなるだろう。もちろん、彼女にもはじめてあった時にその話は告げた」 「なっ」 「それゆえに、我等の間にはゆるぎない愛がいる。私が一日城を空ければ、それは后にとっての十年となろう。ゆえに、娶る前には、こちらの世界での一日、そなたらの世界での十年を置く。それを過ぎた後は、私は真実の愛を彼女の最後の日まで変わることなく捧げよう。私の霜月二巡り目をともに過ごす大事な人だから」 世界が違えば、倫理も違う。 恐ろしいまでに善良な。それゆえ、致命的な。 彼に悪気はない。 もしも真実の愛が二人の間にあるならば、彼女の一生が彼にとっての十日に満たない事などなんの支障になろうか。 生涯、美しいままの彼を独占できるのだ。 そして、老いさらばえようとも、王子は自分だけをただひたすらに愛してくれるのだ。 しかし、満月の君は幼すぎた。 二人の間に、愛は芽生えてはいなかったのだ。 (美しい心を愛する堅物な王子。姫の心が変わってさえいなければ、例え老婆になっていても連れ帰るだろう) この王子なら、老婆になった后も変わることなく愛するだろうと、アウラールは感じていた。 (他人と思えない、だから思う。俺は姫だけじゃなく、王子にもいつか笑ってもらいたい) だから、満月の君を王子には渡せない。 二人とも悲しい思いをする事になるから。 覚悟を決めて、王子とアウラールは切り結ぶ。 速度を乗せた王子の剣は苛烈。 だが、沈まぬ者であるアウラールの守りは堅かった。 「なぜ、そなたは微動だにせぬ!? 我が剣を受け、剣を落とさぬ者などおらぬというのに!」 「俺は王子を買っている。倒れるわけにはいかない」 「満月の君は、よき許婚を持たれている。だが、私とて負けるわけにはいかぬのだ!」 ● 躑躅子が、ちらと騎士の後方に目を走らせ、わずかに騎士から距離を置いた。 「守りを解くか、立ちはだかる者よ! そなたの身がもたぬぞ!?」 沈まぬ者の名は伊達ではない。 躑躅子の左の手が、騎士の切っ先を受け止め、受け流し、致命的な打撃を負わせない。 が、前線で心を折られた仲間があえぐ中、自らの守りをといても彼らに再び立ち上がってもらわねばならない。 騎士の挑発を振り切り、躑躅子から心を安らがせる光が発せられた。 黒い血鎖の濁流を振り払い、リベリスタ達は立ち上がる。 だが、その隙を騎士が見逃すはずもない。 叩きつけられた念球は、躑躅子をも吹き飛ばす会心の一撃だった。 「我が君! 今参りますぞ!」 王子の応の声を聞く前に、騎士は王子の前に身を割り込ませる。 「殿下の・進む・道を・あけろぉぉぉぉぉっ!!」 駆け込んできた凪沙が、練り上げた気を騎士の鎧越しに徹した。 分厚い鎧を素通しにして、骨身に響く衝撃が騎士をひるませる。 「鎧なんて、関係ないってば! あたしの・忠義を・思い知れ!」 撃ち込まれて数瞬、騎士は自分がまともに剣を振れぬほど弛緩していることに愕然とする。 災厄を払おうにも、加護を呼ぶ手印すら満足に結べない。 「我が君ぃ! 臣の忠言をお聞き届けくだされ。御身を支える札どもの数もすでに尽きかけておりまする! 退いてくだされ、退いてくだされぇ!」 もつれる舌で、騎士は主君に呼びかける。 リベリスタとしても、このまま退いてくれるなら、それに越した事はない。 ほんの数瞬の沈黙。 「すまぬ。我が騎士よ。まだ退けぬ」 王子が呟いた。 満月の君への愛ゆえに。 リベリスタ達は、覚悟を決めて、改めて得物を握り直した。 王子の恋を終わらせるには、きちんとした敗北が必要なのだと。 ● 多勢に無勢。 騎士も、程なく沈んだ。 癒しを呼ぶ僧正も、多数の敵を減らす魔法使いも、彼の盾となる騎士もなき今。 恩寵を使ったとはいえ、全員がいまだ臨戦態勢にあるリベリスタ達に、さすがの王子もその膝を折った。 あの後、何も言わずに倒れた王子に、リベリスタ達は駆け寄った。 四人とも息をつないでいる事を確認したリベリスタ達は、扉の向こうに宮廷の面々を放り込む。 D・ホールを破壊してしまうと、そこには木が立っているだけだった。 「今度こそ、似合いの姫を見つけろよ」 アウラールは小さく呟く。 「子供の頃の約束は守らなくてもいいのか? というのはなかなか難しい問題ですよね。こちらでは十年でも、向こうにとっては一日前の約束ですからね」 躑躅子は、わずかに表情を曇らせた。 「ウェンディは夢から覚めて大人になるんだよ、王子様。ピーターパンみたいに戻ってきたりしちゃダメなんだからね」 終が軽い調子で言い、皆に少し笑顔が戻った。 「異世界にお姫様を探しに来ずに……自分の世界で探さないのは何故なのでしょうか」 冴が、ぼそりと疑問を口にした。 「ひょっとして、自分の世界ではおモテにならないのでしょうか」 場に、電流走る。 ……そんな。 まさか。 事情を確かめようにも、すでに次元のかなたに帰してしまった。 「終わり、お仕事終わりですよね!? か、帰ります! 大急ぎで帰って、着替える~!!」 メイド服を着ている事をはたと思い出した文が顔を真っ赤にして、迎えの車に飛び込んでいく。 逃走チームから、無事彼女を家に送り届けたところだと連絡が入った。 「満月の君は無事かぁ」 『なんですか、それ?』 電話の向こうは不思議そうだ。 「王子がね。彼女をそう呼んでたんだ」 アウラールはそう電話の向こうに告げると、大きく伸びをした。 「さて俺も早く帰って安心させてやろう。彼女の喜ぶ顔が見たい」 正面きっての惚気に、アウラールにチームみんなからぺちぺち張り手がプレゼントされた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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