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王子様は要らない・逃走編


「約束どおり、迎えに来たよ」
 あの日と同じ白い手袋。
 差し出される優しい手。
 幼い日の約束。
 少女は、娘になった。
「迎えに来たよ、お姫様」
 あの日と同じ優しいお顔。
 だけど、あたしは変わってしまった。
 好きな人ができてしまった。
「あなたと一緒に行けないの」

 15歳の誕生日。
 その日は、約束された満月で。
 王子様が、死神に変わる日。


「お父さん、お父さん。魔王が僕をさらいに来るよ」
 アーク本部でゲーテの詩など口ずさんではいけない。
 魔王をぼこる気満々の親がなだれ込んでくるから。
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、正確には、と補足する。
「アザーバイドの王子様が娘をお嫁さんにするため迎えに来る」
 お父さん、そんな駆け落ちみたいなこと許しませんよ!?
 色めきたつ一部のリベリスタを華麗にスルー。
 イヴは、モニターに模式図を出す。
「今から十年くらい前、当時五歳の彼女、お空の向こうから来た王子様と『けっこん』の約束をした。『大人になったらけっこんしようね!』という彼女に承諾した王子様は、君がレディになる頃、迎えに来るねと帰って行った」
 ちょんちょんと模式図に書き込むイヴ。
 イヴは長い長いまっすぐな線を引く。
「時がたつ。王子様の記憶は夢の中にまぎれる。彼女は娘になり、彼氏らしきものも出来た」
 それはあたりまえのこと。
 アリスは穴にもう落ちない。ウェンディも空は飛べなくなる。
 更に引く、大きな弧。
「もうすぐ王子様が来る。約束どおり、彼女がレディになる頃に」
 彼女の心は変わってしまった。
 もう、王子様は要らない。
「不実な『婚約者』は罰せられなくてはならない。王子様は涙に暮れながら彼女を屠る。それが彼の世界では当然の『正義』であり「倫理」」
 王子様を説得するのは容易ではない。
 誇り高く清廉で不倫などありえないと思っている堅物だから。
「かといって、放置も出来ない。王子様は涙を流しながら『不倫相手』も一刀両断。それが彼の世界の『規律』 かといって、王子様を倒すのもあんまり」
 王子自体は非常に善良な存在なのだ。致命的なまでに。
「問題は、この場に彼女がいること。彼女は夢の中の王子様が現実だったのを思い出してしまった。そして、持ち前の誠実さで一緒に行けないと告げようとしている。悪いけど、彼女にそれを言わせない内に、みんなに彼女をさらってもらう。その間に王子様を別チームが元の世界に送り返す。成功すれば、あと百年はこっちに来られない」
 つまり悪いのはリベリスタで、王子が振られたわけではないと。
  王子の面子、大事。
「今回の依頼は王子様たちの外付け強化ユニット『カードの兵隊』と彼女の無事な安全圏への離脱。王子様とその従者は強力だけど、『兵隊』を倒せば倒すほど弱体化する。式神みたいなものだから、この世界で倒してしまって構わない」
 逃走経路はアークで設定するので、彼女を護りながら追っかけてくる兵隊を削れということだ。
「王子様の強制送還は別チームの仕事。みんなはこっちに集中して」
 ふうと、イヴは小さく息をつく。
「御伽噺の王子様の迎えなんて、なかなか素敵な感じではあるけどね」
 数十秒後に、年くった方の室長がブリーフィングルームに駆け込んでくるけれど、本案件にはまったく関係のないことである。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月15日(火)23:08
 田奈です。
 十一月の少年少女は、カードの兵隊もを振り切らないといけません。
 王子様たちの外付け強化ユニット『カードの兵隊』のスペックはこちら。

 スート・スペード×たくさん
  *王子様の強化ユニット
  *ナイトクリーク。
  
 スート・ダイヤ×たくさん
  *騎士の強化ユニット
  *スターサジタリー。
 
 スート・ハート×たくさん
  *僧正の強化ユニット
  *インヤンマスター。
  
 スート・クラブ×たくさん
  *魔術師の強化ユニット
  *覇界闘士。

 <共通特長>
  *耐久性はないです。当たれば壊れます。
  *全部倒すか、王子様と従者が強制送還されてしまえば、完全に無力化します。
  
 そんなひらひら紙製人形チームでお送りします。

「彼女」
 *十五歳の誕生日は満月だから……というフレーズが忘れられずに来てみたら。
 *平均的な十五歳の少女。誠実さがとりえです。
 *速度0。持久力もなし。一般人ですので、リベリスタと同じ動きは出来ません。
 *もたもたしない限り、彼女が致命的な台詞を言う前に彼女をさらえます。
 *彼女の精神的フォローを忘れないようにすると、エンディングの後味がよくなります。
 *彼女が怪我したら、失敗です。常にかばい続けないと怪我をします。

 場所・小高い丘~逃走ルート
 *住宅地の中を駆けずり回ることになります。
 *道幅は精々車がすれ違えるかどうかの道幅です。

 <注意!>
「王子様は要らない・闘争編」との同時連動依頼です。
 時系列上、どちらか片方にしか参加できません。
 闘争か逃走か、どちらか選んでください。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
ウーニャ・タランテラ(BNE000010)
クロスイージス
中村 夢乃(BNE001189)
ホーリーメイガス
アンナ・クロストン(BNE001816)
ホーリーメイガス
月杜・とら(BNE002285)
マグメイガス
百舌鳥 付喪(BNE002443)
インヤンマスター
九頭龍 神楽(BNE002703)
スターサジタリー
那須野・与市(BNE002759)
デュランダル
雉子川 夜見(BNE002957)
■サポート参加者 2人■

テテロ ミーノ(BNE000011)
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)


 小さな、桜の木が植わっているので誰も手を地家ようとしない、遊具も何もない空き地みたいな小さな公園。
 白い扉が開け放たれて、あの日と少しも代わらない王子様が私に手を差し伸べる。
 騎士に長いローブの僧正。フードで顔を隠しているのは魔法使い。
 はるか向こうまで、カードの兵隊が並んでいる。
 フリースにジーパンなんて格好で来た自分に、自己嫌悪。
 いっそ、制服着てきたほうがまだライトノベルっぽかったかも。
『レディになったら、迎えに来るよ』
 あなたはとても誠実。
 でも、五歳の女の子には、それは夢に近すぎた。

 お后になりに来たのじゃない。
「ごめんなさい」を言うために。


 二人の間に打ち込まれる道化のカード。
「ちょっと待った!こっちの話が先よ!」
 ピンクの髪を夜風になびかせ、『深層に眠るアストラルの猫』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)が、少女と王子の間に割って入る。
 突然目の前に現れたウーニャに、少女は目を白黒させる。
(大人になるって悲しい事よね。でも彼女にお別れを言わせるわけにはいかない。世の中綺麗な別ればかりじゃないもの)
 少女の顔を束の間眺め、ウーニャはきびすを返した。
「お取りこみ中悪いけど、こっちにも都合があるの」
 王子をこの場にとどめ置く闘争チームのかぼちゃの馬車が突っ込んでくる。
(月は満ち、光は夜を照らす。さぁ、役者は揃った。雉子川夜見、参戦させてもらう)
「お前を守りに来た。まずは無礼を許せ」
『鬼雉子』雉子川 夜見(BNE002957)は少女を背後に庇い、慌てふためく彼女に承諾も得ずに抱きかかえ、兵隊に向かって名乗りをあげた。
「俺はアウラール王子の騎士、雉子川夜見! 王子達との決闘が終わるまで、姫はこの俺が預かるッ!!」
 青い翼が地面すれすれを滑空する。
 その背を守るように、ウーニャも後に続く。
 背中で、『生まれたときから許婚の王子』の口上を聞きながら。


 いつもの通学路が、さながら迷宮のよう。
 地面すれすれの高速飛行。
 電柱もブロック塀もくるくる回る、錐揉み旋回。
『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)が、光を放って一行を出迎えた。
 届きそうになっていたカードの兵隊の手が地に墜ちる。
「運命があなたに味方したから、助けに来たよぉ~♪」
 水色の翼で、宙をくるりんと回転するとらに、少女は目を丸くする。
「ご無事で」
『ドラム缶偽お嬢』中村 夢乃(BNE001189)が夜見を曲がり角で待ち構えていた。
 彼女が自らに課した仕事は、少女に一筋の傷もつけずに帰すこと。
「は、はね……は、ね……」
 でも、この世界は、おとぎの世界じゃない。
 地面に降ろされた少女を抱きとめた夢乃の足もまた冷たい金属だ。
 11月の空気に冷えたそれに、ひゅっと一瞬鳥肌が立つ。
 ありえない。
「混乱されているでしょうが…隠すより、荒唐無稽でも事実をお伝えしたほうがよいでしょう。あたしの足や、雉子川さんの羽根……今、目の前で起きていること全部、映画の撮影だとでもお思いですか?」
 普段はあらわにしない足をさらしてまで、夢乃は今の異常な状態が現実だと少女に知らせようとしている。
 いいえ。
 いいえ、いいえ。
 こんな大掛かりなことして、あたしをだます人はいません。
 だとしたら、どうしたらいいの。
 感極まって、むせび泣きの声が、のどから勝手に沸きあがってくる。
 目の端からぼろぼろと涙が落ちた。
「どうぞお静かに! このままでは貴女があの王子に殺されてしまいます!」
 まるで、お芝居の台詞。
 泣かないのがいいのはわかる。
 居場所が知れたらまたあのカードの兵隊が追ってくる。
 ホントはこうやって自分に説明している時間に少しでも逃げればいいんだ。
 でもその時間を犠牲にしてでも、何が起きてるか言ってくれてるんだ。
 あたしに起こった出来事だから。
 夢乃の表情はあくまで真剣だ。
 人の生き死にがかかっているとき、守護者たる彼女はふだんのちょっとずれたお嬢さんではない。
「彼の世界では、婚約破棄は死罪。私たちの世界とはルールが違うのです」
「王子様は考え方の次元が違うから、お話しても理解出来ないの~。裏切りが知れたら殺されちゃう」
 とらが嘆きの表情を浮かべる。
「強引に連れ出して悪かった、だが俺達がお前を守りたかったのは事実だ。ヤツの兵隊が引くまでは大人しくしてくれないか?」
 夜見は、頭を下げた。
 どうしてより、ああやっぱりの方がちょっとだけ勝った。
 御伽噺の世界では、命はとても軽くて、裏切りはとても重いから。
「もしあなたが彼と一緒に行けば、あちらで十日過ごせばこちらで百年。もう二度と、家族や友人と会うことはできないでしょう」
「……浦島太郎?」
 夢乃は無言でうなずいた。
 ほんのちょっとだけ王子についていって、ごめんなさいを言うこともできない。
「王子様の事は、あの人達が抑えてくれるから、あなたはあなたの安全を考えて?」
 とらは、くねくねと妖精っぽいポーズのつもりか、コミカルな動きをしてみせる。
「大好きな彼や家族を、悲しませたくないよね?」
 何でそんなことを知ってるのと聞くのも野暮かもしれない。
 手をとって立たせてくれるとらに、少女は涙をぬぐって唇をかみ締め、大きくうなずいた。
「そうと決まれば、一世一代の大逃亡劇!はっじまるよー☆」

 そして、動き出す。
 ウーニャが少女の脇をすり抜け、一行を促す。
「逃げますよ。あたし達の仲間が王子様を扉の向こうに帰すまで。それまで、あなたはあたしが守ります」
 再び抱えあげられた肩越しに見えたのは、カードの兵隊。
 それぞれが獲物を振り回して。
 津波のように襲ってくる。


(……くっそ、面子の中で私が一番硬いってどういう事よっ……)
 口の中で、『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は呟く。
 二つ名の「ソリッド」は、伊達ではないと言うことだ。
 すでに、魔力の泉は滾々と腹の底から湧き出している。
 先行索敵をするウーニャ、脇を過ぎていく少女と夜見、夢乃 を通し、『ゆるリスト』九頭龍 神楽(BNE002703) 、『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)の前に出た。
「まったぎょーさんに好かれて……かわいい姫さんやからしゃーないなぁ、兵隊さんはちょっとわしらと遊んでもらうでぇ」
 神楽は、わしら悪もんやしぃ。と、ゆるい感じで笑う。
「すまんのう。わし、なるたけ当てやすそうなところを選ばんと、なかなか当てられんしのう」
 兵隊をひきつけるため、少し離れた塀の上にちょんと飛び乗った余市は、アンナに申し訳なさそうに声をかける。
 導師服姿の二人に、アンナは覚悟を決めた。
 紙だと言う。
 インヤンマスターが操る式神のようなものだと。
 しかし、身の丈2メートルを超え、真鍮の手足を持ち、槍と盾を持ってのしかからんばかりに迫ってくるモノを、「紙」の一言で片付けてもいいのか?
 今、アンナの手の中にある人を殴り殺せそうな魔道書だって、くくりで言えば「紙」なのだ。
 雪崩れ込んでくる兵隊に、神の威光が降り注ぐ。
「……ここは私達の世界だ。私達の道理を通す権利と義務がある」
 神の威光は、慈悲深き御技。
 死にはしない。
 だがそれだけだ。
 ばさばさと道路に突っ伏していく紙の兵隊を踏みつけて、次の兵隊が押し寄せてくる。
「カードはカードらしく、そこで大人しく山積みにされときぃ」
 神楽が呼んだ雪より冷たい氷の雨が、カードたちの表面にどす黒いしみを作る。
 しなしなと角がよれてくるカードを余市が放った流星の矢が貫き通す。
「思うたより当たらん……しかたないの、わしじゃからの……」
 期待値以上の戦果を出しながらも、そんなことを言いつつ、余市は塀から飛び降りた。


 リベリスタたちは、じりじりと後退し、カードの兵隊を削り落とすことを選んだ。
 それが、宮廷と戦う逃走チームの助けになることだったから。
『食欲&お昼寝魔人』テテロ ミ-ノ(BNE000011)が、守りの結界と小さな翼を一同に与えていた。
 撃つべきものを打ち込んだA班の10メートル先では、B班が集中という名のてぐすねを引いて待っている。
 とらは、機会を待っていた。
 同じ技を使うにしても、できるだけたくさんのカードを巻き込みたい。
 トラの直感を越える何か啓示とでもいうべきものが、その瞬間を指し示す。
 盛大に神の威光を撒き散らす。
 まさしくそのタイミング。
 一世一代の逃亡劇を成功に導くべく、脳内女優フル回転。
 今のモードがいかなるものか、とら本人にしかわからない。
 不安定な心を揺らしながら、次の攻撃ポイントに向けてきびすを返した。
(まさに、駆けずり回る感じだね~。やれやれ、私も歳だってのに)
『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)は、哀れなカードの兵隊を灰に変えるための爆炎を召喚しながら小さく息をつく。
 撃ちだした火球が、密集している紙を盛大に焼く。
『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)は、懐中電灯で照らしながら、すばやく数の確認をすると必要な数の弾丸を効率的にばら撒いた。
 
 少女は、両手で口をぎゅっと押さえ、目をつぶり、地面すれすれを通っている浮遊感からくる気持ち悪さを懸命にこらえていた。
「このっ!」
 月がまぶしい満月なのに、時々顔に影がさすのは、生垣や屋根の上から飛び降りてくるカードの兵隊から、少女をかばうべく夢乃が立ちはだかるから。
 棍棒のマークをつけた兵隊が、夢乃の生身の腹めがけて、真鍮の腕を深々とえぐりこむ。
 ずんと体の底に響いて来る衝撃に、鎧は効かない。
 それでも、夢乃は足を踏ん張った。
 邪魔するものは皆殺しと、何発も夢乃めがけて繰り出される連撃。
 まともに入った蓄積で、体はとうに悲鳴を上げている。
 それでも、夢乃は自らにひざをつくことを許さない。
 運命は、リベリスタの決意に応える。
「彼女をかばうことが、今回のあたしの使命だって言ってるでしょう!? 倒れませんよ!」
 気炎をはく夢乃に、兵隊の攻撃が一瞬よどむ。
 すかさずウーニャが、カードの兵隊の中に突っ込んでいく。
 手の中で踊る道化が、兵隊達を引き裂いた。
「けっこう深いわね。息にするわ」
 青ざめる夢乃の様子を一瞥したアンナが、柔らかな風を吹かせる。
「あの、怪我ひどいんですか。あたしのせいで……」
 ぐしゅ。と涙ぐむ少女に、アンナは、それは違う。と言った。
「貴女は何も悪く無いわね。面子の為に命を奪おうなんて考え方の方が間違ってる。私達の世界の命の価値は、そんなに軽くはないのよ」
 だから、守れる命は守る。守らせて。
 リベリスタたちは、笑顔を浮かべる。
「ね-!! 今、あっちのカードがどさーっと固まってこけたよー!!あれってハートかなぁ!?」
 ミーノが、大きな声を上げる。
 闘争チームの健闘によるものだろうか。
 追っ手の数が減るのはありがたい。
 リベリスタ達は、また注意深く逃走を開始した。 
 

 怖ければ目をつぶっていればいいと言われたけれど、できるだけしっかり見ておきたいと思った。
 鎧と兜をつけた人の手から、雷の鎖が放たれり、炎が巻き上がったり。
 魔法使いってほんとにいたんだ。
 小さな女の子が放った一発だけの矢が、どこまでもどこまでもカードを串刺しにしながら飛んで行った。
 しっかりと抱えてくれた人は、時には体を盾にして守ってくれた。
 青い翼が断ち割られて、全然大丈夫じゃないのに、それでも大丈夫だと言った。
 妖精みたいな女の子は、ひらひら飛びながら、ピカピカ光って、時々きれいな声で歌を歌った。
 金髪の長い髪の人も、おんなじように光って、歌を歌って。
 時々、ぐっと抱きしめてかばってくれた。
 お姉さんがいたら、こんな感じかなって思った。
 着物を着た白い髪の人が髪を投げると、なぜかそこだけずっと雨が降った。
 空気がすごく冷たくて、思わずすくみあがった。
 ピンクの髪の人は、「ちょっと見てくる」と言って、いなくなっては、壁と壁の隙間で待ち伏せしてたり、塀に張り付いてポスターのまねしたり、木の上から飛び降りてくる兵隊を、あっという間に紙吹雪に変えてしまった。
 そして、長い髪の機械の足の人。
 ずっと、ずっと、あたしをかばってくれた。
 ピンクの髪の人が一番たくさん傷を治す紙を貼った。
 金髪のお姉さんも妖精みたいな子も、まず一番最初に傷を見た。
 できたのは、悲鳴をかみ殺すだけだった。
 満月の光の下で見るカードの兵隊はどこまでも恐ろしかった。
 それでも、逃がそうとしてくれる人たちは、みんなみんな真剣に優しかった。


 明けない夜もいつかは明ける。
 無限に思えるカードもいつかは尽きる。
 最後の爆炎を打ち上げた付喪の鎧の下、かろうじて出ている目元は穏やかな光を浮かべて、少女を見ていた。
「迷惑かけたね。家まで送っていくよ」
 今は、ただの紙になった兵隊達、王子達は次元の扉の向こうに送還されたらしい。
「今回は運が悪かったけど、誠実な良い子みたいだしね。守れて良かったよ」
 神楽もあちこち焦げをつくって帰ってきていた。
「悪いなお姫さん。有無言わさずさらってしもて」
 そんなことはないと少女は首を横に振った。
 こんなに一生懸命になってくれた人たちが悪いことなんてない。
 ありがとうございます。このご恩は生涯忘れません。
 深々と頭を下げる少女に、リベリスタたちは嬉しいの半分困ったの半分の複雑な心境だ。
「今見聞きしたことを、黙っていられる自信はおありですか?」
 夢乃はそう切り出した。
 神秘は秘匿されるべきものだから。
 世界が崩界に向かっている昨今、小さなひび割れから何が起こるかわからない。
「黙っていられないと思うなら、忘れたいことだと思うなら、今、おっしゃって下さい」
 忘れさせて上げられるから。
 夜見が、少女に説明した。
「思い出は美しいままにも出来る。今までの戦いは無かった事になり、王子との約束も、誘いを断った時に王子は笑顔でキミに別れを告げた。そんな思い出に塗り替える事だって出来る」
 本当になんて優しい人たちなんだろう。
 少女は、ありがとうございます。と再び頭を下げた。
 そして告げる。
 ありのままを覚えていてもいいですか?
 こんなに傷だらけになってあたしを守ってくれた人たちのことを忘れたくないから、と。
 王子様のことは悲しいけれど、それを忘れたら皆さんのこともなかったことになるのはいやだから。
「黙っているのですね?」
 夢乃は、意識して難しい顔をした。
「……では、この契約書にサインを」
 喋ったらただごとではないぞ、という重々しい雰囲気を演出しながら、夢乃は「いかにもそれっぽい」契約書と筆記用具を差し出した。
 少女はうなずき、署名する。
「王子様の期待に応えられなくても、気にしなくていいの。人は皆、いつか成長するし、大人の女性は、子供服なんて着ないよ。あなたにはもう、童話の国の王子様は必要ないんだから」
 とらが言うのに、神楽も調子を合わせた。
「覚えとくんやったら、それもまた、思春期の思い出やな。その思い出持ったまま、立派なレディになってな。……彼氏と仲よーな」
 ぽっと、少女の頬が朱に染まる。
 その様子を見て、リベリスタ達は皆笑顔を浮かべた。
「向こうも終ったそうです。王子様達、帰ったそうですよ」
 少女に、細かいところまでは告げない。
「満月の君って、わかりますか?」
 電話の向こうで王子がそう少女を呼んでいたと言っていた。
「あたしのことです。王子様は、そうあたしの事そう呼んでくれて……」
 少女は、そっと手の中に顔を伏せた。
 ひっくひっくと小さな肩が震える。
 御伽噺とさよならする日。
 それが今日訪れたのだ。
 少女が顔を上げるまで、リベリスタ達は何も言わずに待っていた。
 ごしごしと濡れた目元をフリースの袖でこすって、少女は照れ笑いを浮かべる。
「もう大丈夫です。ありがとう」
 ウーニャが、そっと家の玄関に向かって彼女の背中を押す。
「もうおとぎ話は終わり。貴女ならこれからもっと素敵なレディになれるわ」
 大きくうなずいて、少女は玄関のドアを開ける。
 明日へと続く、現実のドア。
 背から、ウーニャの指が離れた。
「幸せになってね。おやすみなさい」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 すごく丁寧にじっくりとカードを料理しながら進んでもらっちゃったみたいで……。
 おかげで、闘争チームがすっごく楽をしちゃったぞ! でございます。
 じっくりと言えば、すごく手厚く保護してもらっちゃって。
 リベリスタのほとんどは、優しさでできています。な、ほんわかした気持ちになりました。

 少女は、今夜の事を大事にしつつ、素敵な大人になると思います。
 ゆっくり休んで次のお仕事、がんばってくださいね。