●星に導かれて 夜空のキャンバスに星が輝いていたある日。とある女性が、悩みを抱えながら砂浜を散歩していた。名を小松二美という。 ブレザーに身を包んだ彼女には異能の力があった。しかも、アークでは未確認の電撃の力だ。とはいえ、その能力はそれまで人に向けて使ったことはなく、彼女はその力を忘れて、普通の人として生きようとしていた……ハズだった。 ハズだった、というのには理由がある。彼女の平穏は、つい先日に終ってしまったばかりなのだ。 トラックに轢かれそうになった子供を、能力を使って助けたからだ。それは咄嗟のことだったが、彼女は後悔していない。 しかし、それが不幸の始まりとなってしまった。偶然にも、その光景をフィクサードの組織に見られてしまっていたのだ。 そのフィクサードの組織の名を星魂軍という。主にアーティファクトを狙って活動をする武装集団であり、強盗事件を起こしていた。 星魂軍は二美をスカウトした。それはすぐに断られたが、星魂軍は彼女を脅し、強盗や殺人に協力することを無理強いしたのだ。脅しの内容は、協力しなければ彼女の友人や家族を殺す、というもの。 二美はこの誘いを受けるしかなかった。相手は一人ではない故に、一人倒したところで問題は解決しないからだ。 「では、仕事を伝える」 星魂軍は次に博物館を襲撃するそうだ。手を震わせながら、二美はそれを黙って聞き、頷いた。 そうして頷いた時の、自身の不甲斐なさ。それが、二美の中に強く根付いたようである。握った手の中には、血が滲んでいたという。 力に覚醒したとはいえ、力を隠してきた二美には頼れる仲間も存在しない。途方に暮れて、砂浜を散歩するしかなかったのだ。 「あーあ……。どうしようかしら……」 何度目かも分からないため息をつきながら、二美は自身の不幸を呪う。 その時のことだ。コツン、と足元になにか固い物が当たった。 「……弓?」 どうも、海の方から流れ着いてきたらしい。不思議に思った二美がその弓を手に取ると、力が溢れてくるような感覚を覚えた。強い高揚感すら感じる。 「あ、これなら……!」 二美の目に、光が宿る。この弓さえあれば、あのフィクサードたちを殺せるかもしれない。……そういう発想が出ることに、二美は嫌悪感を覚えるが、それしか方法はないと思えていた。 「みんな、殺すしかないじゃない」 拾った弓――アーティファクトの力自体は単純なもので、強力な弓というだけだ。精神に作用する効果はない。しかし、大きな力を手に入れた時、人はこれまでにできなかったことができるようになると錯覚する。 フォーチュナが見た未来では、二美はフィクサードの一人を逃してしまい、悲劇を見た。その悲劇を止められるのは、リベリスタだけだ。 「……そうよ、やるしかないんだわ」 夜空には、矢座が煌めいていた。 ●力を手に入れたからといってうまくいくとは限らない ここまでの様子をブリーフィングルームのモニターと、用意された資料で把握しながら、リベリスタたちは『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の話を聞いた。 「彼女はこの後、博物館内でフィクサード集団と戦う。でも、一人を逃してしまい、家族と友人を殺されることになる」 俯きながらも、はっきりとした物言いで彼女が起こす事件と結果を伝える。それは、悲劇と言えるだろう。 「未来はまだ確定していない。今からならまだ、戦いに乱入することもできる」 資料によれば、戦いが発生する博物館の場所は把握できたらしい。そこで、リベリスタたちは二美が起こす戦いに乱入し、アーティファクトを回収する必要があるという。 「今回の依頼、第一の目的はアーティファクトの回収。彼女の安否はその次」 とはいえ、放っておけるものではない。リベリスタとして、その悲劇を食い止めることもまた仕事だろう。 「……おねがいするね」 少女らしい不安げな顔を浮かべた真白イヴに対して、リベリスタたちは深く頷いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月17日(木)23:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●救いに向けて、矢は放たれた 博物館前へと向かうリベリスタたちは、慎重に慎重を重ねて動いていた。今回の依頼はデリケートなもの。しかも、急ぎの仕事だ。 アーティファクトの回収。小松二美を助ける。星魂団を逃がさない。三つ同時にこなしつつ、小松二美からも敵意を向けられるかもしれないという可能性まである。 アーティファクトの回収だけが主任務とは言われた。 しかし、それでもやらなければならないのがリベリスタのつらいところ。 「少女の心休まる日々のために、一網打尽にしなくてはならぬ」 今回の依頼に対して多くは語らない『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)だが、その言葉には深い決意が表れている。軍服越しに見える体にも力が入っているのが分かり、進む足もどこか急ぎ足だ。 とはいえ、そこはストイックなベテランのウラミジールだ。その冷静さは失われてはおらず、しっかりとした目的へ向けて、目をまっすぐに据えている。即ち、星魂団の壊滅と小松二美の解放。 「星魂団……か。随分と卑怯な真似をする。御灸を据えてやらねばならんな」 そんなウラミジールと同様までに老成している『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は、コートの下に隠した二刀の剣を握りしめながら、静かに怒りを表現する。家族を助けられない、ということの重さを知っているからこそ、未来を変えなければならない。そう思っているのかもしれない。 「相手の弱みを握って、支配するとは無粋な方たちですね。レディを誘うにはまったく不適切と言わざるを得ません」 その未来を変えるためにも、博物館の館内図を片手に『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)は戦闘論理を組み立てつつ、走る。 (私には彼女が羨ましい。強い力があれば……堂々と大切な人を守るんだって言える) 走りながらマントを靡かせつつ、『脆弱者』深町・円(BNE000547)は母親を守る自分と家族を守る小松に自分を重ねていた。 「だからこそ私は彼女を後悔させたくない。力を使い、人を救った事が間違いじゃないと」 悲痛な叫びともとれる、心の底からひねり出したような声。しかしそれは小さくて、風に消えていく。 円が走る度に眼鏡が揺れて、少し前が見辛い。だけど、それでも前に進まないといけない。どんな困難が待ち受けているのか分からないから、この程度では止まれない。 「家族を人質にとられ、無理やり犯罪に加担させられて情緒不安定なところに、思いもよらぬ強い力であるサジッタアローを入手し、大胆になられていると思います。故に万華鏡で視た未来が、と思われます」 その声を知ってか知らずかは分からないが、ジョンはモノクルを指で直して言葉を続ける。 「わたくしどもとしては、その未来を回避するため、小松様をお助けするだけです」 単純な目的を確認する。それをする為に、リベリスタたちはここに来たのだ。 「バロックナイツ戦のためにアークは構成員絶賛募集中なのじゃ! 戦力アップを目指すのじゃー」 ジョンと同じく単純で分かりやすい目的を挙げる『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)の言葉も、真実味がある。分かりやすいということはいいことだ。それに向かって真っすぐに行けるのだから。 今のリベリスタたちはただ人を助けるために放たれた矢。 放たれた矢が命中するのかどうかは、まだ分からない。 ただ、矢はまっすぐに進む。目標に向かって。 ●二本の矢と…… 博物館内に入ると、リベリスタたちは二手に分かれて行動を開始した。力を持たないが故に逃げるという選択肢を取るかもしれない星魂団に対応するためである。 「俺は逃走防止に専念な。中で無事倒し終わったら俺の出番はないが、成功が目的だし問題もないさ」 その二手とも分かれて独自に行動を開始した雪白 音羽(BNE000194)は見取り図を見ながら、逃走経路に使われそうな場所を探り、屋根裏に上がる。その際、超直感を持つ円に声をかけて、参考になりそうな場所を聞いていた。 闇の中を暗視で進み、目立たないように魔法陣を展開する。 音羽がやろうとしているのは、他の七人が逃がしてしまった時のフォローだ。まさしく逆境とも言えるその瞬間に向けて、音羽は燃えていた。 その熱血を神秘の力に込める。その瞬間が来ないことを祈りつつ、音羽は潜みながら集中を重ねるのだった。 単独行動をとる音羽に通信を繋げっ放しにしながら、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)はB班として動き出す。 虚ろで表情を表さない目は夜の博物館と不思議とマッチし、どこか神秘的で、同時に不気味である。 そんなうさぎであるが、小松に伝えたいことは山ほどある。だからこそ、うさぎは落ち着いて仲間と連絡をし、博物館内に包囲網を作り上げる。 「見つけました。やはり、すでに戦闘は始まってしまっていますね。ですからこそ、私たちの出番なのですね」 うさぎの三白眼が、小松と星魂団の戦場を見つめる。同じく、展示物に隠れながらメアリもその戦場を見つめて状況を把握した。 小松のサジッタアローから放たれる電撃の一撃が何発も飛び交っているが、精神を乱している故に命中していない。これが、星魂団逃走の原因なのだろう。 「では、始めましょう。翼よ……」 翼の加護を使い、『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)は仲間たちに飛行の力を与える。これは、フライエンジェである敵を逃がさないようにするための行動だ。 そして、リベリスタたちは戦いの最中に飛び込む。 「義によって助太刀いたす~」 乱入の際まず使われたのは、メアリの神気閃光だ。強烈な光は乱入者を強く印象付け、小松と星魂団の注意を引いた。もちろん、星魂団へのダメージとショックの能力も効いている。 「フィクサード集団、星魂団だな……リベリスタ、新城拓真だ」 星魂団との戦いに集中するべく、前に出た拓真は両手に持つ剣でバツの字を作ってその先が通行止めであることを示す。 突然の乱入者に混乱をする、元々戦いを繰り広げていた両者。 「わたしたちは貴方と敵対する者ではありません。星魂団を倒し、その力を制御する術を教えに来ました」 「貴女にとって本当の敵はどちらですか。彼らを排除すれば家族・友人に被害はありません」 メアリの神気閃光でショックを受けた星魂団にピンポイント・スペシャリティを放つジョンと、それに合わせてマジックアローを放つことで集中攻撃を仕掛けるルカ。共に、混乱している小松に対して一言を言っていた。 「えっ……。あなたたちは……何なのよ!」 小松は訳も分らぬままサジッタアローを構えて、声をかけて向かってくる何かを撃ち抜こうとする。 そこに、声がかかった。 「自分は君の味方だ」 それは、矢を恐れず正面から近づくウラジミールの声。ウラジミールの眼は小松の眼を真っ直ぐに見ており、その声も耳に届くようにと真摯でハッキリとしたものだ。 「……なにも、わからないのよ!!」 そのウラジミールの真っ直ぐさに当てられて、小松は涙を流しながら矢を放った。混乱した状況に、必死になって回らない頭。空っぽになった頭の中が、そうさせてしまったのだろう。 「簡単に信じる事ができないのも無理はない」 飛んでくる矢を体で受け止め、血を流しながらもウラジミールは止まらない。ただ、手を広げて優しげな笑みを浮かべるだけだ。 「なん、なの……よ!?」 何度も矢は放たれて、回避もしないウラジミールの体に突き刺さる。しかし、矢に込められた力も少しずつ弱くなっていき、ウラジミールに与えられるダメージも少しずつ減っていく。 「まだ伏すわけにはいかない」 それでも、一度限界を迎えてしまい、フェイトを使って立ち上がらざるを得なかった。 「信用出来ないなら信じなくても良い。ただ優先順位を間違えないで下さい! 奴らを一人でも逃がしてはいけない!」 「共通の敵は目の前にいる。まずは問題を片付けないかね?」 星魂団に向けてギャロッププレイを使い、その身を拘束しているうさぎの言葉と合わせて、説得する。まずは、星魂団を逃がさないようにすること。それが、お互いがやるべきことだと伝える。 「私達ではなく、貴女と貴女の大切な物の為に、あの外道共を逃がさない様協力して下さい!」 更に、うさぎが単純な目的を伝える。ただでさえ興奮しているのに、混乱するような状況だ。だからこそ、そんな言葉の方が通じるだろうという判断である。 「あ、うっ……ぐっ。……わかった……わ」 涙を堪えて、その言葉を信じる気になった。目の前で、血を流しながらも自分を説得するウラジミール。それから、星魂団と戦うリベリスタたち。少し冷静になったら、その光景が見えてきたからだ。 (右の相手、背中を向けてる) テレパスの声が、小松に聞こえる。円の余裕がなさそうな、必死な声だ。 「え……?」 (いいから!) 「わ、わかった!」 小松その声に従うと、確かに撃ち抜くにはちょうどいい背中がある。だから、それに向けて弓を放った。 矢の一撃を受けた星魂団の一人は、背中を貫かれて飛行のバランスを崩し、地面に落ちる。 そこに、マントを翻しながら毒針を構えた円が待っていた。 (死ねっ……死ねっ……死ねっ! 早く死んでよ!) 垂れ流される思考と共に、星魂団の一人は体に毒針を何本も受けて、意識を失っていく。 「やべぇ、こいつら強い! お前たち、ここは逃げるぞ!」 「ば、化け物めぇ!!」 損害を受けつつも、星魂団は自分たちより上の敵が出てきたと判断。逃げることを優先して動き出した。しかもフライエンジェであるが故に、飛行による逃げ足も早い。 「悪いが──逃がす心算は微塵もないっ!」 進路を防ぐようにして移動先に滑り込んだ拓真から、疾風居合斬りが連続で飛ぶ。その真空の刃は翼を裂いて行き、一体一体を叩き落して行った。 「ここから先は行かせません」 更に、飛行しているルカも体を張るようにして逃走先に滑り込む。そこから、マジックアローを使って攻撃をしていくのだ。 ルカのオッドアイが光り、どこかぼうっとした印象を与える顔が逆に威圧感を与えるものへと変化していく。 「逃がしませんよ。小松様の未来を助けるためです」 逃げることを感じ取ったジョンもまた、包囲網を作ってピンポイントで攻撃を仕掛けていく。怒りを与えることで、こちらに注意を向けさせようという算段である。 「ぐっ……てめぇぇぇ!」 その算段は成功し、ピンポイントを受けた星魂団は方向転換してジョンに向けて飛びかかってくる。 「キスではありません。うさぎです」 そこにうさぎのメルティーキスが入り、怒りにまかせて突っ込んできた星魂団は倒される。 「逃がしませんぞ~♪」 残った星魂団もメアリの神気閃光を受けてショックを受け、そこを拓真たちに突かれて倒されていく。小松がリベリスタの側に付いたこともあり、それは一方的な戦いであった。 しかし、 「ひ、ひえええー!!」 一人だけ、逃げ足の速い男が戦場から離れて行ってしまう。 「一人、そちらに向かいました。よろしくおねがいします」 AFを使い、音羽に向けて通信するうさぎ。そんな相手が出た時のために、待機していた男がいる。 (ポイントは――そこ!) 「うしっ!」 超直感を持つ円のアドバイスも聞いて、音羽は確認しつつ集中していたものを解き放つ。 「飛んでる上から攻撃されるとか予想外だったかよ?」 音羽の魔法陣から放たれた魔曲・四重奏は逃走中の男に直撃し、その場に倒れさせる。 それ以降、音羽の元にやって来るような星魂団は居なかった。 残りはリベリスタたちが逃がさず処理をすることに成功したからだ。 ●矢の行く先 戦いが終わった後、小松は弓をぎゅっと握りながら怯えていた。これほどまでに強い相手が敵に回ったら、と考えて不安で仕方がないのだ。 「君は……まだ、日常に戻れる。今日あった事を忘れ、そのアーティファクトを此方に渡してくれさえすれば」 ぎゅっと握っている、小松にとっての力の象徴――アーティファクトに向けて拓真が指を向けると、小松は慌てて握りしめる。 「その弓、危険物なんです。冷静さが飛んだでしょう?」 うさぎの言葉は尤もだ、小松もそれには頷く。だけど、心はまだその力を欲している。不安だから。 「平穏を望むなら無用でしょうし……もし別の道を選ぶにしても、安全の為一度検査はさせて欲しいんです」 「私たちはそのアーティファクトを回収するために、ここに来た」 うさぎとウラジミールの言葉は、冷静になった今なら分かる。だから、小松も手の力を少しずつ緩めていく。 「二美さんの家族や友人をも保護して助ける明るい政治力! 切磋琢磨できる仲間! アークはいつでも二美さんを待っておるぞ!」 そこで、メアリが続ける。明るいメアリの声は、不安で固まっている小松の心を溶かしていった。その提案も、魅力的に思える。だけど、それはまた利用されるのではないかという考えにも至って、小松は少し考えた。 「あなたの意思次第です。まあ、メリットは説明しますが」 それを見て、ルカが簡単に説明を加えていく。 「……少し不便にはなるとは思うが。まだ、他にも説明したい事もある。同行、願えるだろうか」 アーティファクトの調査もある。詳しい説明は本部に行ってから、という説明に小松はゆっくりと思考を巡らせていく。手の中には、まだ弓がある。 「疑念を持たれる位ならはっきり言うよ、私はキミを利用したい。……もっと多くの人を、大切な人を守る為に」 戦いの時と同じく、円は必死だ。その必死でまっすぐな言葉を前に、小松は弓に込める力を抜いていき――、 「と……とりあえず、メアド交換しない?」 この言葉で、笑みをこぼして弓を手放した。もはや、この力に固執する意味はない。 「……普通、なんだ。私と一緒で」 リベリスタの説得は小松の心にまで届いた。だから、今はあるのは歳相応の顔。 「いいよ、お話を聞きに行く」 少しだけ疲れが見えるけど、笑顔。 「やったのじゃー!」 任務の完了を祝って、メアリがハイタッチ。恥ずかしそうに、円も手を叩く。 「任務完了だ」 後の処理をウラジミールが引き受け、リベリスタたちは少女らしい表情を浮かべている小松を連れてアークへと向かうのだった。 「正義の味方(こどもたち)は眠った。ここからは大人の時間だ」 ウラジミールは捕えた星魂団に向けて言い放つ。これからは、長い時間が彼らを待っているのだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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