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I am ”HERO”

●エリューション・フォースの悲哀
 誰がそんな物の存在を望んだのか、脈絡も理由もさっぱり分かりなどしない。
 ただ恐らく、想像上の推論としてこんな仮説を立てることなら出来るかもしれない。
 昨今、日本国の治安は非常な物がある。世には殺人鬼が蔓延り不可解な死者が後を絶たない。
 恐らく犯罪件数は有名無名を問わなければ過去数年の間でも最大を数えるだろう。
 だからと言ってこれと言ってハッピーな朗報が有る訳でも無く、
 景気は相変わらず低迷しており、就職戦線には寒風が吹き荒れている。
 少子化高齢化には歯止めが掛からず年間の自殺者は今年もまた新記録を更新している。
 より良い未来を想像しようにもなかなかそうは行かない。儚くも尊い希望が遠い。
 爽快に、楽しい出来事を。元気の出る、痛快なサプライズを。
 人々の心の奥底の、深く深く。深層心理にそんな想いが根付いていたとして。
 果たして誰がそれを否定出来るだろうか。まあ、とは言えあくまでこれらは全て仮定の仮定である。

 出現したE・フォース。識別名「HERO」
 バッタ系昆虫の外見に、赤いスーツとマフラーを翻し、合計3分間しか戦えない彼は、
 数年前に廃ビルとなった元百貨店の屋上ステージで呆然と佇んでいた。
 彼の胸中には一つの意思がある。正義を為せ、格好良く正義を為せ
 爽快に、痛快に、華々しく、悪を裁く勧善懲悪を為してくれと。
 だが、その意志に従おうにも、彼は自分の力を、力量をこの上なく自覚していた。
 エリューションフェーズ1、E・フォース。識別名「HERO」
 彼は恐らく過去存在して来たあらゆるエリューションの中でも、
 それはもう、圧倒的に、抜群なほど弱かったのである。

●格好良くなけりゃヒーローじゃない
「…………」
 沈黙が重い。余りにも重い。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が困り笑いを浮かべている。
「えっと、皆さんお集まり頂き、えっとその」
 噛み噛みである。それも止むを得まい。こんなエリューション倒せば良いのだ。
 暇なリベリスタでも単独で行ってばしっとやっつければ良いのである。
 だが、そうはいかない。そうはいかない理由が、ある。
「今回出現したE・フォース、識別名「HERO」はフェーズ1のエリューションです。
 何故か異常に成長が遅く、フェーズ2になるまでに恐らく1年以上の月日を必要とします」
 うん、だからそんなの誰かがこう、どかっとやっつけてしまえば。
「ただ、エリューションである以上、世界に悪影響を与える事は否めません。
 何とか消滅させる必要があります。必要が、あるんです、が……」
 如何にも、歯切れが悪い和泉である。さて、また何か厄介な性質でも持っているのか。
 そう考えたリベリスタは実に鋭いと言えるだろう。正しくその通りである。
「このE・フォースは倒しても再度出現します。何度倒しても倒しても
 大凡24時間で復活を遂げます。力押しでは決して消滅しません」
 何だそれは、と言う出鱈目っぷりである。それは討伐不可能に近い。
「ただ、消滅させる手段が無い訳ではありません。その……」
 続く言葉を待つリベリスタ達の前で、和泉はそっと視線を逸らす。

「格好良く。ええっとつまりこのE・フォースが傍目に見て格好良く見える様に、負けて下さい。
 このE・フォースはとにかく弱いです。攻撃、防御、命中、回避、あらゆる部分で最低限です。
 まともな防具を付けていてはダメージが発生しない物と思って下さい」
 それに、負ける。しかも相手が格好良く見える様に。
 普段強く、速く、雄々しく、勝利を求められているリベリスタ達にとって、
 これは中々の難題である。はっきり言ってしまってメンバーによっては詰むのではないだろうか。
「最悪、途中で正義に目覚めて裏切るとかは有りです」
 何か呟いた和泉の眼鏡が光を反射する。それは世間では同士討ちとか仲間割れとか言うのでは?
「いずれにせよ、このE・フォースを消滅させなくては世界に悪影響が及ぼされます。
 何とか、格好良く、華々しく、痛快に見える様にこのE・フォースに負けてあげて下さい」
 和泉のお願いに何とも言えない空気が漂う。だが、話は此処で終わらない。
「それと、このE・フォースは悪を探しに街中へ出て来ています。
 放っておくと子供連れの親子や野次馬がよって来ますが、絶対に犠牲は出さず
 かつ視聴者が居なくならない様にして下さい」

 度重なるフォーチュナ一同の無茶振りにも負けず、
 戦え! 僕らのリベリスタ! 負けるな! みんなのリベリスタ!


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月16日(水)23:32
 41度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 Lv1~3辺りの皆様いらっしゃいませ、今、皆様の力が切実に求められております。
 
●依頼成功条件
 E・フォース「HERO」を視聴者の前で格好良く勝たせる。

●E・フォース「HERO」
 バッタ系昆虫の外見に、赤いスーツとマフラーを翻し、合計3分間(18ターン)しか戦えない。
 フェーズ1、リベリスタで言う所のLv1相当の能力。能力値はフラット。
 必殺技は「HEROキック」と「リベリウム光線」
 必殺技は戦闘中2回までしか使う事は出来ず、
 HP3割以下の相手に対し、より格好良く見える技を選んで使用します。

・HEROパンチ:普通に殴る。微妙に痛い。あんまり格好良く無い。
 物近単。命中減、ダメージ極小
・HEROチョップ:普通にチョップ。痛くない。格好良さは微妙。
 物近複。命中小【追加効果】[ダメージ0]
・HEROキック:必殺技。力学を無視した跳躍から放たれる跳び蹴り。ちょっと格好良い。
 物近単。命中小【追加効果】[ノックバック][ダメージ0]
・リベリウム光線:必殺技。手をエックス字に重ねると出る不思議な光線。そこそこ格好良い。
 神遠範。命中減、ダメージ小【追加効果】[必殺]

●戦闘予定地点
 市外、真昼の繁華街。平日の為特別人が多かったりはしない物の、
 それなりの数の一般人が居る。神秘は出来るだけ秘匿するべき。
 ただし多少の無茶はアークが揉み消します。足場良好、光源不要。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
ジェスター・ラスール(BNE000355)
ナイトクリーク
ジェイド・I・キタムラ(BNE000838)
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
クロスイージス
ステイシー・スペイシー(BNE001776)
クリミナルスタア
李 紅香(BNE002739)
ナイトクリーク
宮部・香夏子(BNE003035)
覇界闘士
白鈴 藍(BNE003075)
インヤンマスター
マリス・S・キュアローブ(BNE003129)

●HERO 対 ワルアーク =地球最後の日=

“子供達を食べちゃうぞ ワッハッハ”
 そう書かれた書簡を見つめ、バッタ頭の怪人はその紙片を握り締めた。
 鼓動の音も聞こえない、生命とは言い難い我が身に在って、けれど震える程に燃え盛る思想が有る。
 正義を為せ――そう、正義の味方は、ヒーローは子供を見捨てぬ物であると。
 故に書簡を握ったE・フォース“HERO”は駆け出した。赤いマフラーを靡かせて。

●Question1 HEROとは何か

 それは胸に灯る始原の灯火である。

「我らはワルアーク! 世界の闇を総べる秘密結社よ!」
 『†影喰深淵《アビスイーター》†』斜堂・影継(BNE000955)が、黒衣をはためかせマントを翻す。
 場所は繁華街、時間は真昼。そこそこ人通りもある街道の一角である。
 ぎょっとした様に道行く人々が足を止めるが、其処に集った人々を見て一部の者は再び歩き出す。
 明らかな不審者を前に何故その対応か、否、それもその筈である。
「ワッハッハ!! お前たち全員、食べてしまうぞ!」
「たーべちゃうぞー! あ、すみませんこれからショーなのです」
 『ダンシィアオ』李 紅香(BNE002739)が子供達を追い回し、
 『フロントオペレイター』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)が赤いコーンを並べて行く。
 子供達がきゃーきゃー言いながら逃げ回る光景には何処かほのぼのとした空気が漂う。
「イーッ!」「イーッ!」
「カメラこっちっすよー、視線どうぞーっす」
 『白面の金狐』白鈴 藍(BNE003075)と『第4話:コタツとみかん』宮部・香夏子(BNE003035)
 2人が奇妙な声を上げる傍らでは、『新米倉庫管理人』ジェスター・ラスール(BNE000355)が小型カメラを設置。
 着々と安っぽい特撮ショーの準備が繰り広げられている。
 だが、此処に唯一人見て分かる程に雰囲気の違う男が居た。
 目出し帽で表情を隠す、『チープクォート』ジェイド・I・キタムラ(BNE000838)である。
 元々裏の社会を渡り歩き幾多の修羅場を潜ってきた彼には、隠しても隠し切れない何所か物騒な雰囲気がある。
 その彼が重厚な銃器を取り出せば、道行く人々の内でも敏い者は自然と身を堅くし、足を止める。
「動くな、死にてえのか」
 子供へ突き付けられるショットガン。低い声音には演技を超えた凄みが宿る。
 びくりと怯えた少年が、手に持った玩具を取り落とす。かしゃんと、車の模型が地に落ちる。
 ――その時、だった。

「あ、あれは!」
 紅香が指差したその先。スーパーマーケットの角を全力疾走するのは、
 赤いマフラーを身に着けたバッタ頭の怪人である。どうも遠目には息が切れている様に見える。
 だが、此処まで来てしまった以上はもう仕方が無い。息を整えるまでもなく戦う以外他に無い。
「来たな! 我こそは悪の総帥†アビスイーター†!」
 影継――いや、アビスイーターが大仰に名乗りを上げるも、しかして“HERO”無言である。
 正義の味方であるが故に悪の総帥と語る言葉など持たないのか、否、そうではない。
 E・フォース“HERO”まず最大の難点は、頭がバッタである事なのである。
 彼は人語が喋れない。故に盛り上げるも何も無い。前口上の一つも無い。地味である。余りに。
 事実、道行く野次馬の一部が足を止めるも、紅香が声を上げるまで誰もその存在に気付かなかった。
 雰囲気が足りない! 演出力が足りない! そして何よりヒーローらしさが足りない! 
「待ってたぞHERO! 貴様を倒すのが我々、悪の組織……そしてボスの望みなのだ!
 ここで大人しく倒れてもらおう!」
 ノリノリで口上を上げる紅香がHEROへと迫る。握り締められる小さな拳。
 放たれるは無頼の一撃。ずむ、とHEROの腹部に手首辺りまでがめり込み、
 HEROの体躯がくの字に折れる。効果は、過剰に抜群だ! HEROダウン! 動けない!
 え、っ……と場に微妙な空気が流れる。このままではまた24時間後にやり直しになる雰囲気すらが漂い始めた。
 うわあ、面倒くさい。と彼らが内心思ったとして誰がそれを批判出来るだろう。
 だが――敢えて繰り返そう、その時、だった。

 ぎゃりぎゃりと路上にタイヤのラインを引きながらドリフト走行を決めるルビーレッドのクーべ。
 愛車であるLUVWING-RSRを駆るのは『メタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)
 颯爽と降り立ちサングラスを掛け直せば、棚引くは情熱の赤いマフラー、ってワオ、被ってる!
「正義が呼ぶわ愛が呼ぶわ自分を呼ぶわぁん! 機械の体に燃えるのは、愛と正義のニトログリセリン!
 見知らぬヒーローさんにぃ、愛を込めて助太刀するは、コードネーム・ダイナマイツSよぉん!」
 前口上もばっちり決めて、カメラへ目線を向けたステイシーことダイナマイツS。
 飛ばした投げキッスがHEROに放たれるやその傷が徐々に癒されていく。
 さあ此処からが反撃である――と行きたい所では有るが、
 E・フォース“HERO”が驚くほどに背景と化している! さてこの状況を果たしてどう立て直すのか。
 昨今の子供達の目は厳しいぞ! 頑張れ! 負けるなリベリスタ!!

●Question2 HEROとは何者か

 それは見果てぬ善と言う名の夢である。

「増援とはな。だが我らの勝利は揺るがん! 行け戦闘員! まずは周りの連中からだ!」
「「「イー!」」」
 放たれたアビスイーターの一声に、藍、香夏子、そしてマリスがわらわらと駆けて行く。
 これに対するHERO、そしてダイナマイツS。構える2人に在って戦闘員の最後の一人が拳を奮わせる。
「む、どうした。何故お前は行かん」
 一旦引いた紅香が問う。其処で何かを耐える様に歯を食い縛るその男へと。
「――っす」
「ん?」
「もうあんた達のやり方にはこりごりっす!」
 ジェスター・ラスール。怪人包帯男にしか見えない彼の慟哭は如何なる所以か。
「オレは戦闘員なんかじゃない、もうあんたの言う事聞かないっす!」
 常に消耗品の如く使い棄てられる戦闘員。その熱い叫びが胸を突く。
 指差されたアビスイーターは裏切りを前にしても尚不敵に笑う。悪の総帥は揺るがない。
「……邪魔する奴は只じゃおかねえぞ?」
 その裏切りが逆鱗に触れたか、ジェイドが直ぐ様打って出る。
 ジェスターの体躯に突き刺さる、1$コインすらも射抜く精密射撃。
「ぐあああああっ!!」
 所詮戦闘員は戦闘員でしか無いのか、使い捨ての駒でしかないのか。
 悲痛な悲鳴が上がるジェスターの前へ、影が割り込む――独特な頭部のシルエット。
「何だてめえは!」
 それはバッタである。紅香の一撃で戦闘不能寸前になるほど脆いバッタの怪人である。
 だが、力無き者が助けを求める時、彼は立つ。立たざるを得ない。ジェスターを庇って立ち塞がる。
 何故なら彼は“HERO”なのだから。
「HERO! 俺も一緒に戦わせて下さいっす!」
 E・フォースがこくりと頷く。言葉は無い、だが、この場に言葉は要らなかった。

「イー!」「イー!」
「ダイナマイツビームよぉん!」
 一方、駆け出したHEROの代わりに戦線を支えるダイナマイツS。
 放った十字の光線に打ち抜かれるも、お返しにと放たれた藍の業炎撃は割と良い当たりをしている。
 一進一退を繰り返す新機軸な戦闘員戦……かと思いきや、HEROにかかって行っては
 HEROパンチのへなちょこな一撃でぼーん! と派手に吹っ飛ぶ香夏子の様な戦闘員も居る。
 あまつさえマリスに到っては「アビスイーター様ばんざーい!!」と叫びながら、
 別に何をされている訳でも無いのに吹っ飛んでいる。何と言うやっつけ具合。だがそれが良い。
 そうこうしている間に突然むくりと起き上がった香夏子もまた、
 仲間になりたそうにHEROを見ている。何とも人望の無いアビスイーターである。
「かなこは しょうきに もどった! と、言うわけで今から香夏子はHEROさんの味方です」
 洗脳が解けたのか洗脳されたのか微妙なとこながら、こうしてまた一人、
 何だか投げ遣りな感じに正義の心に目覚めたのである。
 しかしこうして気付けば人数比実に、4:4。奇しくも数の上では拮抗していた。
「く、まさか我々の中からHEROに味方する者が出るとは!」
 こと此処に到っては流石に余裕ぶって笑っている訳にもいかないか。
 悪の総帥アビスイーターがマントを翻し進み出る。
 応じて一歩踏み出すHERO。放たれるは一般の子供達から見れば十分に鋭いHEROチョップ。
 だが、アビスイーターはそれをあたかも軽々と片手で受け止めてみせる。
「どうした、その程度か!」
 がしゃりと、重厚な音がマントの下で駆動音を響かせる。取り出したのはヘビーボウ。
 悪の組織の首領にしては随分と異色の武器では有るが、大仰で無骨なその形状は十分な威圧感を滲ませる。
「その程度でしかないならば、貴様は此処で死ね――!」
 放たれた矢が地を穿つ。咄嗟に跳ねたHEROの足元に突き刺さる電撃を帯びた驚異的な威力の一撃。
 ショーと解釈するには余りと言う程のリアリティある破壊に、見ていた野次馬達が息を飲む。

「さあ、本気を出した暗黒絶頂大帝アビスイーター! 地球に未来は無いのか!?」
 そこで欠かさずマリスが合いの手を入れる。気付けば被っていたマスクも衣装も何所へ隠したやら。
 当人すっかりヒーローショーのおねえさんモード。
 大きな音に吃驚した子供達が集まり始めるも、その視線は固唾を呑んでHEROを見つめている。
「何だ、貴様らも邪魔をするのか」
「オレはあんたを倒して自由になるっす!」
 その傍らでは打ち放たれるジェイドのショットガンにジェスターが苦しめられ、
 返す刃で放った幻影の刃すらもその機械の体躯に受け止められる。
「香夏子はもう働きたくないのです!」
「貴様!! ボスへの忠誠はなんだったのだ……許さぬ!」
 道化のカードをその身に受けながらも、カウンターで放った紅香の拳がぼんやり香夏子を吹き飛ばす。
 そして、
「必殺のダイナマイツアターック!」
「うわあぁー!」
 ダイナマイツSの一撃に悲鳴を上げて吹き飛ぶ戦闘員、藍。
 けれどその向こう側に見えた光景に、最もヒーロー然とした彼女すらが声を途切れさせる。
「―――」
「フフ……貴様らの奮戦、賞賛に値する」
 観客である子供達も静まり返る。大人達も雰囲気に呑まれてか誰も声を発さない。
「だが、それもここまでよ!」
 その矢は、明らかに貧弱なバッタ怪人の体躯を貫いていた。
 博打である。博打以外の何物でもない。がくんと怪人が膝を付く。マフラーがはらりと揺れて落ちる。
 どさりと“HERO”が地面に倒れる。動かない――動けない。

●Question3 HEROとは如何在るべきか

 故にそれは、最後には必ず勝利する。

 音の無い僅かな沈黙を裂いたのは、ヒーローショーのおねえさん、マリスである。
「みんなでヒーローを応援しましょう」
 手先が震える。E・フォース“HERO”が今正に死のうとしているのが分かる。
 それは感覚的な物であれ、見ている人々も何所となく表情が堅い。迫真に過ぎるとでも言うべきか。
 これで子供達が泣き出せば全てが台無しだ。咄嗟にマイクを向けられた子供が迷った様に逡巡する。
 それは奇しくも、ジェイドにショットガンを向けられた少年であった。
 銃を向けられるジェスター、叩き伏せられた香夏子、そして唯一人立つダイナマイツSへと
 ゆっくり視線を巡らせる。そうして小さな声音でこう続けた。
「……がんばれ」
 それは、ほんの小さな呟き。マイクですら捉え切れない極小の応援。HEROは動かない。
「がんばれ」
 けれど、もう一度。それはほんの少しだけ強く。HEROの指がぴくりと動く。
「香夏子の為にも、頑張って下さい」
 地に伏せながら香夏子が告げる
「そうっすよ、あんたHEROじゃないっすか!」
 ジェスターがエールを送る。
「貴方は立つのよぉ、立って前にあるくの! 止まっちゃ、だ・め!」
 ダイナマイツSが、叫ぶ。
「がんばれ!」「がんばれヒーロー!」「ワルアークに負けんなー!」
 子供達の声がちらほらと。恥ずかしいのか声をあげない者も、視線はHEROから外さない。
 ゆっくりと、本当にゆっくりと、HEROの手が握り締められる。
 時間が無い、余りに無い、じっくり戦っている暇など無い。だが誰もがそれから視線を外さない。
 拳を握ったバッタの怪人が地面を掻いて身を起こす。身を起こし、立ち上がる。

「何……だと……!」
 正直やり過ぎたヤバい。と内心焦ったアビスイーターが、驚きの声を上げる。
 そして同時に気付く。時間がもう余り無い。まとめに、かからなくては。
「何をしている! さっさとその死に損ないに止めを刺せ!」
 言われてダイナマイツSへ向かおうとした紅香が足を掴まれ転び掛ける。
「させません」
 ぐたっと倒れた香夏子の手がけれど、紅香の足をがっちり掴む。
「このっ! 邪魔だ――!」
 ジェイドのショットガンがジェスターを射抜く。吹き飛ばされ倒れる包帯の怪人。
 けれど彼もまた諦めない。倒れながらも上げる声は切実な響きを滲ませて。
「HERO、後は任せたっす……あんたにしかこいつらは、倒せないっす……」
 すぐ様ジェイドの前にはダイナマイツSが立ち塞がる。HEROには近付けない。
 その様に業を煮やしたアビスイーターが吼える。そう、彼は悪の総帥なのである。故に――
「ええい、役立たずめ! 貴様らなどワルアークには不要だ!」
「――そんな、ボス!?」
 忠誠厚き紅香を一撃の元に貫くや、そのヘビーボウは未だにふらつくHEROではなく
 ジェイドの無防備な背中へと向けられる。
「クソッ! ふざけんな!」
 振り返り、向けられるショットガンの銃口。しかし遅い。響く重い銃声に混じる風切音。
「……チ。ざまあ――ねえ」
 どさり、とジェイドもまた地へ屑折れる。
 仲間割れによりワルアークに残されたのは、ほぼ無傷のアビスイーター唯一人。
 ダイナマイツSが身構えるも、その動きを止める様にバッタの怪人が手で遮る。

 ワルアーク総帥、暗黒絶頂大帝アビスイーターは仲間をも撃つ巨悪である。
 そうである事が此処に決まった。故に、彼はこれを討たねばならない。
 後1撃でも受ければ、否。それ所ではない。後30秒もすればE・フォース“HERO”は消滅する。
 であればこそ、誰がそれを示唆するでも無く彼はそれを決断する。
 駆ける、跳び上がる。その一撃はHEROの切り札。
 重力と力学を無視して放たれる、スタントマンでは絶対に不可能な跳躍蹴り。
 必殺――HEROキック。
「ぐぅっ!」
 だが、これをアビスイーターは、耐える。地味に真剣に痛い一撃を耐え抜く。
 展開が急過ぎて子供達が付いて来ていない。お約束を熟知した彼の美学がその一撃を耐えさせる。
「まだだ、まだ――悪は――!」
 だが、お約束を踏襲するのは彼だけではなかった。ダイナマイツSがアビスイーターへ跳び付く。
「今よHERO! 自分の屍を超えて、この運命を乗り越えて、ねぇん」
 組み付き、ボウガンで突き刺されても、ダイナマイツSは力を緩めない。
 それを見たHEROもまた、手を抜く事は無い。それが彼の――“HERO”の存在意義なのだから。
「――YES」
 罅割れた様な音。それを正確に言葉として解釈出来た者がどれ程居るだろう。
「――Ⅰ’am HERO」
 HEROが手をエックス字に重ねる。収束する光がアビスイーターへと放たれる。
「おのれ……我が――悪が、滅びるとは―――」
 ――光芒、一閃。

●You're HERO ?

「はい、カット!お疲れさまでしたっすー」
 光が消えた跡、その場に居た筈のHEROは影も形も無くなっていた。
 代わりに贈られたのは野次馬達の少なくない拍手である。
 ショーとしての完成度はともかく、迫真の演技と仕組みの分からない演出は、
 特に14歳辺りの年齢と深い関わりを持つ精神的疾患を患っている人々に非常に受けた。
 悪は滅びた、しかし第二第三の悪が云々、そんな時またHEROが云々。
 定型文的なエピローグを告げるマリスの傍ら、一生懸命に戦闘員を勤めた藍が吐気を吐く。
「ふーっ、やられ役っていうのも、大変だね」
 いや全く、本当に。けれどその結果として消失した“HERO”に再出現する兆しは無い。
 であれば、これは紛れも無く、リベリスタ達の勝利に他ならないのだろう。
「HERO、次は本物のヒーローになれるよう、祈ってる」
 空を仰ぎ小さく呟く紅香の口元には、何処か子供らしい淡い笑みが浮かび、
「ふふ、忘れないわぁん」
 アビスイーターと共に光を浴びながら、結局無傷だったダイナマイツSことステイシーが
 そっと静かに黙祷を捧げる。

 ひらりと。其処へ何所かからか落ちて来たのは何時の間にか解けていた赤いマフラー。
 HERO等と言う者は居ない。そんな存在は実在し得ない。
 けれどそれを知って尚、人々は心の何所かでHEROを望む。何所かに善き者が在れと願う。
 もしもそんな誰かの祈りを果たす事が出来たならば――それは紛れも無くHEROの所業なのである。

 YES You're HERO

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルシナリオ『I am ”HERO”』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

異色のシナリオでしたが、皆様の素敵なプレイングに
楽しんで執筆させて頂く事が出来ました。弱過ぎるのも厄介ですね。
HEROにヒーローをぶつけて来ると言うのは流石に想定外でしたが、
お陰様でHEROの孤独を少しは慰められたかもしれません。お土産をどうぞ。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。


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レアドロップ:「真紅のマフラー」
カテゴリ:アクセサリー
取得者:ステイシー・スペイシー(BNE001776)