● ――ぢゅる、ぢゅる、ぢゅる。 暗い森の中、血を啜る音が、聞こえる。 音の先にいたのは、一つの人影。 それは、十代半ばほどの、長い黒髪を垂らした少女だった。 この年頃特有の、少しめかした服装は、泥と血にまみれ、木々の枝を引っかけて摺り切れている。 だが、真に醜いのは、それを着ていた少女自身。 口は耳元近くまで大きく裂け、目は落ち窪み、身体は骨と皮だけのがりがりにやつれきったそれとなっており、何よりも、それが息絶えた小鳥の血を残さず吸おうとしている姿は、誰が見ても醜悪極まりないと言うだろう。 彼女は暫く小鳥から血を吸って……それが終わった頃に、最早冷たくなったそれを、何処へなりと放り捨てる。 その後、再び新たな血を求めて立ち上がる彼女だが――その表情は、哀しみに歪んでいる。 「……っく、ひ、っく」 眼窩だけとなった其処から、ぽろぽろと、僅かな涙を流して、嗚咽を漏らす少女。 それは、彼女がかつてニンゲンであったという、ほんの僅かな証明。 「違う……こんなの、私じゃない……!」 「誰か、私を……私を……!」 ● 「……みんなは、自分がフェイトを得る前、誰かに迷惑をかける前に殺して欲しいと、願ったことはある?」 唐突な質問に、ブリーフィングルームのリベリスタ達は驚く。 問うた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、彼らの反応を見た後、「忘れて」とだけ言って、いつもの事務的な表情に戻る。 「今回の依頼は、とあるエリューションの討伐」 それと同時に、イヴの傍らのモニターが映像を映す。 其処には――正に幽鬼とでも言える、『彼女』の姿が。 息を呑むリベリスタ達を尻目に、イヴは淡々と解説を続ける。 「……エリューションとなった彼女のフェイズは2。その能力は主に牙を使っての吸血と、長い髪を硬質化して針状に飛ばし、遠距離の対象を貫くと同時に麻痺毒を与える能力の二つ」 更に、この少女が放つ攻撃には、対象の運気を削り取る能力もあるとのことだ。 長期戦に成った場合、戦況がリベリスタ達の不利に成ることは想像に難くない。 「場所は、ある森の中。陽の光は割と通りにくいし、密集しているほどじゃないにしろ、木々はそれなりに乱立しているから、攻撃が当てにくく、避けにくいかもしれない」 そうして、最後に、イヴは小さく言う。 「……エリューション化した『彼女』は、変貌した自分と、それを見た人々の蔑視によって錯乱状態に陥り、既に何名かの死者を出している。……けれど、それに対して一番傷ついたのは、他ならぬ彼女自身」 急激に変貌した自分、その自分によって起こされる、幾度の悲劇。 容姿は人としての原型を僅かにしか残さず、行動に至っては人間にとって災厄そのものとなってしまった少女の精神は、今では摩耗しきっている。そう、イヴは言った。 「選択は、貴方達に委ねるけれど……『彼女』に人たる死を与えたいなら、その想いを、『彼女』に与えてあげて」 変わらぬ無表情を浮かべるフォーチュナの瞳に、如何様な感情が宿っているのかは、恐らく誰にも解らない。 その言葉に対して、リベリスタ達は何も言えぬまま、唯、イヴに見守られながら、ブリーフィングルームを退室していった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月29日(日)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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