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汚れたこの身に、オシマイを。


 ――ぢゅる、ぢゅる、ぢゅる。
 暗い森の中、血を啜る音が、聞こえる。
 音の先にいたのは、一つの人影。
 それは、十代半ばほどの、長い黒髪を垂らした少女だった。
 この年頃特有の、少しめかした服装は、泥と血にまみれ、木々の枝を引っかけて摺り切れている。
 だが、真に醜いのは、それを着ていた少女自身。
 口は耳元近くまで大きく裂け、目は落ち窪み、身体は骨と皮だけのがりがりにやつれきったそれとなっており、何よりも、それが息絶えた小鳥の血を残さず吸おうとしている姿は、誰が見ても醜悪極まりないと言うだろう。
 彼女は暫く小鳥から血を吸って……それが終わった頃に、最早冷たくなったそれを、何処へなりと放り捨てる。
 その後、再び新たな血を求めて立ち上がる彼女だが――その表情は、哀しみに歪んでいる。
「……っく、ひ、っく」
 眼窩だけとなった其処から、ぽろぽろと、僅かな涙を流して、嗚咽を漏らす少女。
 それは、彼女がかつてニンゲンであったという、ほんの僅かな証明。
「違う……こんなの、私じゃない……!」

「誰か、私を……私を……!」


「……みんなは、自分がフェイトを得る前、誰かに迷惑をかける前に殺して欲しいと、願ったことはある?」
 唐突な質問に、ブリーフィングルームのリベリスタ達は驚く。
 問うた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、彼らの反応を見た後、「忘れて」とだけ言って、いつもの事務的な表情に戻る。
「今回の依頼は、とあるエリューションの討伐」
 それと同時に、イヴの傍らのモニターが映像を映す。
 其処には――正に幽鬼とでも言える、『彼女』の姿が。
 息を呑むリベリスタ達を尻目に、イヴは淡々と解説を続ける。
「……エリューションとなった彼女のフェイズは2。その能力は主に牙を使っての吸血と、長い髪を硬質化して針状に飛ばし、遠距離の対象を貫くと同時に麻痺毒を与える能力の二つ」
 更に、この少女が放つ攻撃には、対象の運気を削り取る能力もあるとのことだ。
 長期戦に成った場合、戦況がリベリスタ達の不利に成ることは想像に難くない。
「場所は、ある森の中。陽の光は割と通りにくいし、密集しているほどじゃないにしろ、木々はそれなりに乱立しているから、攻撃が当てにくく、避けにくいかもしれない」
 そうして、最後に、イヴは小さく言う。
「……エリューション化した『彼女』は、変貌した自分と、それを見た人々の蔑視によって錯乱状態に陥り、既に何名かの死者を出している。……けれど、それに対して一番傷ついたのは、他ならぬ彼女自身」
 急激に変貌した自分、その自分によって起こされる、幾度の悲劇。
 容姿は人としての原型を僅かにしか残さず、行動に至っては人間にとって災厄そのものとなってしまった少女の精神は、今では摩耗しきっている。そう、イヴは言った。
「選択は、貴方達に委ねるけれど……『彼女』に人たる死を与えたいなら、その想いを、『彼女』に与えてあげて」
 変わらぬ無表情を浮かべるフォーチュナの瞳に、如何様な感情が宿っているのかは、恐らく誰にも解らない。
 その言葉に対して、リベリスタ達は何も言えぬまま、唯、イヴに見守られながら、ブリーフィングルームを退室していった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田辺正彦  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月29日(日)23:21
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

目的:
エリューションの討伐

場所:
三高平からかなり離れた街の近くに在る、深い森の中です。
OPでも言われたとおり、木々が乱立しているために命中、回避に若干のペナルティが入り、光源もないために灯りがなければ更に動作が制限されます。

敵:
『黒髪の少女』
エリューション。タイプはノーフェイス、フェーズは2です。
戦闘能力はおしなべて低く、中の下と言ったところですが、暗闇の中でも視界が利く特殊能力を持っていると同時に、今回の戦闘場所となる森中には若干慣れているため、参加者の皆さんほど行動にペナルティはかかりません。
攻撃方法は基本的に、遠距離単体に対する射撃攻撃と、近距離単体に対する吸血攻撃の二種類。
この攻撃が命中した場合、対象のCT値が-1されるか、FB値が+1されます(累積型)。過度には受けないよう注意してください。

少女のパーソナリティについてですが、元は明るく人当たりの良い、学校によく居る「ちょっとした有名人」と言ったところ。その分、変わってしまった「自分」に対しての絶望は一層深いものとなっています。
彼女は未だ「醜い自分」を受け入れようとはしていないため錯乱状態にありますが、参加者の皆さんが『効果的な説得』を行うことで、彼女は理性を若干取り戻し、その行動にマイナス補正がかかります。(説得によって戦闘を止めるまでの効果を起こすことは出来ません)

それでは、参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
雪白 万葉(BNE000195)
ソードミラージュ
ツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)
クロスイージス
三上 伸之(BNE001089)
覇界闘士
恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)
★MVP
マグメイガス
イーゼリット・イシュター(BNE001996)
ソードミラージュ
山田・珍粘(BNE002078)
ホーリーメイガス
月杜・とら(BNE002285)
ナイトクリーク
皇 遥歌(BNE002420)


 深く、暗い森に、一条の光が差す。
 懐中電灯をともしたリベリスタ達である。彼らは件のエリューションを探そうと、この森の中、足を取られぬよう慎重に探索していた。
 彼らの表情は暗い。
 それは勿論、これより生命を賭けた戦いがあると言うことも要因なのであろうが……彼らがその胸中に抱く思いの原因は、戦闘自体ではない。
「・・・…ダリィ話っすね」
 既に拡声器による、『彼女』への呼びかけが続く探索の最中、そんな言葉を零したのは『のらりくらりと適当に』三上 伸之(BNE001089)だ。
 傍から見れば不謹慎な体だと人は言うだろうが、彼の言葉に口を挟もうとするリベリスタは一人として居ない。
 彼の言葉が――これより悲運の変転を迎えた『犠牲者』を倒すことに対するものだと、誰もが解っていたから。
「運命に選ばれたから変ってしまった彼女。そして運命に選ばれなかったから人でなくなった彼女。……それを狩る運命に選ばれた私達、ですか」
 雪白 万葉(BNE000195)の独白は、何かの本を朗読するかのように、静かに、しかしハッキリと響き渡る。
 罪もない一般人が異形となる運命、そして、それを唯、殺すことでしか救えないという運命。
 たった二文字の単語で片付けるには、この任務は余りにも重く、辛い。
(運命とはなんなのでしょうね?)
 万葉は思う。其処に明確な答えがないと、理解しつつも。
「……でも、終わらせることが出来るのはわたし達しか居ないの」
 『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)が言う。
 それは何よりも理解できる正論であり、何よりも残酷な暴論であった。
 醜い自分に苦しむ少女を救うために、少女によって壊れようとする世界を救うために。
 ――ただ、それが彼女にとって納得できる選択であるかと言えば、それは否でしか無いが。
「元に戻してあげられると良いのですけれど、私達にできるのは死なせることだけ」
 切ないですね。そう言って『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は、視線を頭上へと上げる。
 その殆どが木の葉に隠された空は黒く濁っている。雨は暫く降りそうにはないが、青空を期待していた彼女の心は、ほんの少し痛みを覚えた。
 その時、彼らの足が止まる。
 行軍と呼びかけが止まったために訪れた静寂――いや、その静けさの中に、ほんの少しだけ。かさ、かさ、と言う小さな音がする。
「……貴方、達……?」
 ひび割れた声だった。
 それは本当に女性の――いや、元人間だったものの声かと思うくらい、かすれ、低くなった声。
 声が聞こえる方に、光を向ければ……其処にいたのは、依頼説明時に聞いた容姿と全く違わぬ『彼女』の姿。
 ボロ切れになりかけた衣服に、血と泥で汚れたその身体。
 そうして漸く最後に気づく――小さく、透明な『彼女』の涙。
「君は……」
 言いかけた『七教授の弟子』ツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)は、しかしその双眸を見開き、即座にその場から跳び退さる。
 一瞬遅れて、ツヴァイフロントが先ほどまで居た位置を、『彼女』の硬質化した髪が幾本も閃き、空気を貫いた。
「……どうやら、私たちは前提を間違えていたみたいだな」
 彼女はそう言って、アクセス・ファンタズムから装備を取り出す。
 事前に言ったとおり、エリューションとしての歪んだ本能に囚われている『彼女』に対し、先ずは穏便な説得を、などと出来るわけがない。
 言葉は、戦いの中で交わすしかないのだ。
 伸之は戦闘の被害に遭いそうにない場所を選びランタンを設置。万葉は持っていた携帯電話を使い、別動班に連絡する。
「……御願いします」
 告げた言葉は、唯それだけ。
 しかし、それで十分だった。
 周囲を囲むように、別動班の者達が用意していた三台のスクーターのエンジンが掛かり、そのライトを以て戦場が照らされた。
 本来、木による遮蔽物が多い戦場で、固定型の光源を用意することはあまり役には立ちにくいのだが、それが三台とも成れば話は別だ。
 視界が確保されたリベリスタ達は即座に『彼女』を囲むような陣形を作り、先ずはその逃走経路を断つ。
「き、緊張します、けど……っ!」
 『古の血統者』皇 遥歌(BNE002420)が言葉に詰まりながらもアクセス・ファンタズムを構ええ、眼鏡を外す。
「……やるしかないからな。アタシらには」
 その次の瞬間、勇ましい口調となった彼女の瞳に、迷いは一切無い。
 全員の準備が整ったのを見計らい、『伯爵家の桜姫』恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)はその幼い身体に似合わぬ、重苦しい言葉をもって、開幕を告げた。
「……心苦しいが、人として逝ってくれ」


 動き始めた中で最も早かったのは、珍粘。
 両手に持つナイフを防御の為に構え、相手の足止めとしてその場に留まった。
「……貴女の苦しみの全てを分かってあげることは出来ないかもしれない。でも、貴女を見捨てたり嫌ったりすることだけは絶対にしないと約束する」
 わざわざ前に出てきた的を見逃すはずもなく、『彼女』は口を大きく開き、鋭利な牙を珍粘の腕に突き立てる。
 腕に突き立った牙の痛みに対しても、珍粘は何ら表情を変えない。
 この程度の痛みは、『彼女』のそれに遠く及ばないと知っているために。
「だから聞かせて欲しい、貴女の気持ちを。願いを」
「……願いなんて」
 暗く濁った瞳が、より一層激しさを増した。
「決まっているでしょう!?」
 次いで飛ぶのは、針の雨。
 苛烈とも言える猛攻を受ける珍粘ではあるが、『彼女』の身体能力は元が高くはないため、与えられるダメージは限られている。
 当然、何度も受ければ傷は深まるばかりではあるが、其処は回復役たる『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)が珍粘の傷を癒すことで、彼女の防御を維持させていた。
「もうやめよう、髪が痛んじゃうよ?」
 若いが故の、単純な、しかし純粋な言葉。
 変質した肉体に於いて唯一残った黒髪を気遣うとらに対して、『彼女』は少しだけ攻撃の手を緩める。
「折角綺麗な髪なんだもの。もっとおしゃれした方が良いと思う。何なら、今度一緒に買い物に行かない?」
「……止めて!」
 かつて『彼女』が居た世界の幸せな幻想を語るとらに、悲痛なまでの声が返される。
 感情のままに撃ち放った針状の硬質髪は、その為に狙いも随分とお粗末で、避ける必要もなくとらを外れていく。

 ――そのような世界に、どうして戻れようか。これほど醜くなった、この身体で――

「どんなに変わっても、あんたの心と体はあんた自身の物のままっすよ」
 同じように前線に立ち、牙を剣で受け流しながら、『彼女』の胸中を読み取ったかのように声をかける伸之。
 他の者ほどこうした説得が得手ではない彼は、だからこそ、短くも口にした言葉に万感の思いを込める。
 全てを本当の意味で取り戻すことは出来なくても、未だ貴方には自分という心があると。
 だからこそ、それを気づいて欲しいと、彼はそう言った。
「……っ」
 次々とかけられる言葉で、『彼女』の精神はボロボロだ。
 元より、その土台となる心の障壁が、つい最近の革醒によって変えられたばかりの脆いものだったのだ。
 一つ、また一つと温かな言葉をかけられる度、思わず大声で泣き出しそうになる。
「生きる為に他者の命を傷つけ食らうのは仕方ない事です、それは悪ではありません」
 万葉が語りかけた。
「それを自分で嫌悪するのなら、それは君が優しい子だからです」
「やさ、しい……?」
 予想だにしない言葉のようだった。
 彼らがただ言葉をかけている今現在ですら、彼女は感情のままにその牙を、硬質化した髪を振り乱し、リベリスタ達に少なからぬ傷を負わせている。
 その行為を、汚れた自分の感情を見て、なぜ彼はそんなことを言えるのか。
「……出来るから」
 一滴の水のように、小さな言葉が零れる。
 イーゼリットは、泣きそうな笑顔を浮かべながら、そっと『彼女』に近づき、その手を取った。
「泣けるなら、大丈夫だから。……貴女は『人』だから」
 本来、後衛に居るべきイーゼリットが前線に出てくることは、下手をすれば致命傷にも繋がりかねない無謀な行為だ。
 逆を言えばイーゼリットにとって、それほど『彼女』は――救いたいと思える存在であった、と言うこと。
 かさかさに乾き、冷たくなった枯れ木のような腕に、イーゼリットの暖かさが宿る。
 それがただの気休めにしか成らないことを知りながらも、それでもイーゼリットは言葉を止めない。
「友達になろう? 貴方の最後の友人。……貴方が一人で寂しく死なないように、私が見守っていてあげるから」
「……」
 攻撃が、止まった。
 本能に縛られ、標的を食らい尽くすのみであった『彼女』の手が、今この時、遂に止まったのだ。
「……このままだと、そちは肉親や友達をも手に掛ける怪物と化す。その前に人として逝ってはくれまいか?」
 それを見て、鬼子が改めて声をかける。
 説得の最中にありながら、無慈悲とも思える言葉かもしれないが、これは『彼女』に対してハッキリと言っておかなければならない部分でもあった。
「アタシらには、アンタを救うことは出来ない。けど、その心がバケモノに喰われる前に、アンタを終わらせることは出来る」
 遙歌もまた、厳しい口調ながらも精一杯、相手を慮った発言で、『彼女』に選択を迫った。
 静寂は、そう長い間のことではない。
 僅かに俯いていた表情を上げた『彼女』の大きな口は――恐らく、笑っているのだろうと思えた。
 今一度、決意を確かめるため、ツヴァイフロントが問うた。
「君は、今までの自分を否定していた。醜く歪み、穢れたその姿を、自分ではないと言い張って。
 ……故に、聞こう。今、君は何処にいる?」
 最早、敵を食らおうとする欲求は抑えきれないのだろう。
 身体中をかたかたと振るわせながら、『彼女』は精一杯の声で、叫んだ。
「私は……私は、此処に居る!」


「人としてのあんたの心がある内に……」
 伸之が言うと共に、瞬間的に具現化させた光の鎚を振り下ろす。
 重量のみ成らず、それを構成する光そのものが『彼女』の体内を衝撃として駆けめぐり、その身をふらつかせた。
 加えて、万葉がその身に術杖の巧打を幾つも打ち叩いてくる。
 地形に対する対処を比較的行っていなかったリベリスタ達の攻撃ではあるが、今はそれに対し、『彼女』が避けないようにしているため、その攻撃は殆どが命中している。
「些か難しいところではあるがの……!」
 鬼子がそう言うのは、戦闘面の事ではない。
 痛ましさに顔を歪めながらも、決して自身の役目を忘れないため、躊躇わずに風の刃を飛ばせば、それは『彼女』の肌を走り、その軌跡として夥しい量の血を迸らせる。
「あ、あァ……!!」
 恐怖の表情が、『彼女』に浮かんだ。
 自身の終わりを肯定はしたものの、実際にそれが近づく感覚を味わうのは、やはり元一般人であった者にとってはかなりの酷である。
 痛ましい悲鳴を上げた後、防衛本能の元、がむしゃらに振るった髪が尖りつつ、鞭のように伸び、後列で援護に徹するイーゼリットに突き立った。
 痛みと、それ以外の何かによって歯を食いしばるイーゼリットではあるが、そのダメージは倒れるほどのものではない。
 硬質化した髪を片手で抜きつつ、四色の光弾を『彼女』に向けて撃ち放った。
 光は一、二発が木々に阻まれながら命中するが……やはり状態異常を当てる分にしては、対策を取っていない状態での後衛射撃は辛いものがある。
「待たせてごめんね、オシマイにしよう」
 攻撃手段を捨てて回復に回るとらは、『彼女』に対して言葉をかけつつ、癒しの歌声を仲間達に聴かせる。
 『彼女』に対しては、その効果まで及ばぬものの――恐怖に塗りつぶされそうな心に対して、それは十分な助けとなっていた。
「攻撃はこっちでひきつける! 代わりに回復と攻撃、しっかりやっとくれ!」
 言うと共に、説得時から攻撃を殆ど受け続けていた珍粘が下がり、遙歌が前に出る。
 ブラックコードを張って攻撃の勢いを削ぎながらも、『彼女』の隙を見ては気糸を絡めて拘束を行う。
「君の心の選択は、君の願いの力になる」
 今が戦いの最中であることを忘れるような、優しく、柔らかな声音で、ツヴァイフロントは言う。
「心美しくあることを選択してくれて、有難う。礼を言う」
 言葉は、果たして聞こえたであろうか。
 重火器が重い音を鳴らすと共に、射線上邪魔な木を砕きつつも『彼女』の身を貫く。
「……!!」
 痛い。苦しい。殺される。
 一つ一つが『彼女』の怯えを呼び、今にも本能に従って抵抗したくなるが……それをすんでの所で抑え、平静を装った声を絞り出す。
「……私も、有難う」
 事前に教えられていたとおり、元来の戦闘能力がおしなべて低かった『彼女』に、そう高い体力があることは無い。
 『彼女』は今にも倒れんとしており、何処か、救いを求めるように、リベリスタ達へ手を伸ばしていた。
 それに対して、トドメを刺したのは――万葉。
 ゆっくりとした足取りで近づいた彼は、干涸らびた首に唇を寄せ、その命を吸い尽くす。
 死の間際、瞠目する『彼女』に対して、万葉は離別の哀しさが顔に出ないよう、精々おどけて言って見せた。
「悩む程特別ではないのですよ?」
 醜く変化した『彼女』の顔が、何故だか一瞬、元の快活な少女の、苦笑した表情を映し出すように見えた。


 遺族には出せないであろう遺体に対して嘆願の意を述べたのは、とらと鬼子。
 とらは遺髪だけでも遺族に届けると共に、鬼子は自身の人脈をあたって荼毘に付す手配をした。
 美しい黒髪を見て、少しばかり俯きつつも、涙は決して流そうとしないとらの姿を見て、鬼子は何処か親心にも似た思いで見守っている。
 傷つき、挫けそうになりながらも、立ち上がり成長するリベリスタ達の姿を見る最年長者の目は、それを称える感情が込められていた。
 既に戦闘前の性格に戻った遙歌は、静かに『彼女』の遺体に黙祷を捧げる。
「……心は綺麗なままですよ」
 そんな遙歌を慰めるように、珍粘は小さく言葉をかける。
 頷いた遙歌は、頬を伝う涙をそっとぬぐった。
「結局、私は貴方のつらさの幾分の一も分からなかったかもしれない」
 適当な木に凭れつつ、イーゼリットはそう独白していた。
「けれど――」
 ――最後の友達が出来たとき、貴方は笑ってくれたよね?
 思いは口には出さぬまま、偽善が救った何かを、彼女はそっと心に閉じこめた。
 戦闘後の小休止はもうすぐ終わり、彼らはいずれ此処から撤退する。
 そうなる前に、ツヴァイフロントは『彼女』の瞳をそっと閉ざして、一言だけ。

「願わくば、お姫様を覆う土が軽くありますように」

 ――せめて、死後の世界では幸せな夢をと、小さな祈りを捧げた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
田辺です。相談疲れ様でした。
MVPについては、「説得に最も貢献した」と考えた方に対し、贈らせていただきました。
次回以降も、皆さんの相談、プレイングに期待しております。
本シナリオのご参加、本当に有難う御座いました