●誰にでも出来る簡単なお仕事です。 「仕事としては、すごく簡単。だけど、多分すごくつらい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、しばらく目を閉じていた。 これからリベリスタが受ける苦しみを、わずかでもわが身に受けようと天に祈るかのように。 これからリベリスタを過酷な現場に送り出す自分に罰を請うように。 やがて、ゆっくり目を開けると、ぺこりと頭を下げた。 「お願い。あなた達にしか頼めない」 苦しそうに訴える幼女、マジエンジェル。 だが、断る。なんて、言えるわけがなかった。 ●お仕事内容はパンプキンヌガーを食べることです。 「パンプキンヌガー」 山盛りにされた籠が、テーブルの上に出される。 「エリューションって訳じゃない。けど、多分あと24時間くらいで爆発する」 なに、そのバイオテロ。 「リベリスタなら大丈夫。というか、リベリスタ以外はそろそろ限界」 どういうことですか。 「これ、例のTCGとかアイスキャンディーとか製造してる正体不明の連中の置き土産。ハロウィンのお菓子として、きわめて大量にばら撒かれた。回収してからこっち、みんな頑張った。討伐に行ったリベリスタも食べてくれたし、市役所の職員もずっと食べてる。アーク職員は言わずもがな」 とにかく食べろ。と突き出された、パンプキンヌガー。 口に入れると、かぼちゃの風味と甘味が強烈。 ヌガー特有の歯に粘りつく食感。 もっちゅもっちゅもっちゅもっちゅもっちゅ……。 おいしいけど、すごく濃い。 喉の奥がカーッとする。 なんか、飲むもの下さい。 「分かってもらえたと思うけど、いっぺんに大量に食べるのは味と食感から無理。人海戦術で頑張ったけど、そろそろ限界。胸焼け訴えて、保健室も一杯。正確な爆発時間があいまいだから、一般人の職員は作戦から離脱させている。ここらで、最終兵器投入。リベリスタのあごの力と強靭な肉体に期待する」 結局それかよ。 「ちなみに、今回は変な味はない」 わー、それは不幸中の幸い。 「というか、この味しかない。ずっとこの味、延々とこの味。ひたすらかぼちゃ。ずっとかぼちゃ」 それって、どうなの。 「スキルは有効。口内粘膜も胃壁もバッドステータスも回復可能。だから、心配しないで」 どっちかというと、心のダメージが心配かなー。 「とにかく、普通の人が食べたら危険。それと、少し気になることがある」 来るんじゃなかったと顔にありありと描いてあるリベリスタを叱咤するように、イヴがまじめなことを言い始めた。 「何か意図的な悪意は相変わらず。負担を減らそうと、試しに小さくカットしてみたんだけど」 あ、一応考えてくれてるんだ。 「爆発した」 なんだってー!? 「調べてみたら、包装紙に何らかの加工がされてるみたい。おそらくアーティファクトによるものだろうけど、棒自体は現物ではないから対応できない」 なんだってー!? 「幸い、試みた研究員はリベリスタだったから大事には至らなかった。けど、どうやらズルはできない仕様。開けたら最後、一気に食べるしかない」 エリューションの芽が小さいうちに積むのが肝要。 「場所はアークの食堂。溶かしたのをミルクシェイクにするとか別の料理に加工すればいいんじゃないかとも思ったんだけど、やっぱり爆発した。あと二十四時間以内に、食べ尽くして」 爆発の恐怖に震えながら、むちゃむちゃソフトキャンディを口いっぱいほおばれってことですね。 「大丈夫。食堂の飲み物飲み放題」 ぶっちゃけ、1000個弱食べきるまでは帰れません。 逆に言えば、既に完全に回収したことは確認済み。 それ以上は絶対出来ないのがわかっているのだけが救いなのだ。 「戦闘にはならない。ばかばかしいと思うのもわかる。ストレスがたまると思う。でも大事な仕事」 イヴは、もう一度頭を下げた。 「お願い」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月08日(火)23:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「食べているだけで良い簡単なお仕事です。香夏子はこういうお仕事大好きです」 『第4話:コタツとみかん』宮部・香夏子(BNE003035)、新米リベリスタが陥りやすい罠。 「父と叔母が「安全だから」とにこやかに持ってきた依頼が、まさかアーク内で噂される超ブラックリスト依頼とは私は思いませんでした」 『夜明けのシューティングスター』ミーシャ・レガート・ワイズマン(BNE002999)、家族の絆を深める儀式に際して。 ● 簡単な仕事は、作業手順が「簡単」なだけであって、「楽」ではない。 「戦闘はない」が、「戦いがない」訳じゃない。 職種はさまざまだが、総じて言えることは、「死にはしないが、なにかが削れる」仕事なのだ。 ● 「つらさってのはな、つらいと思うから余計につらいんだ――」 『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)、ヌガーの包装紙を剥きながら。 「わかりました。強敵に挑むのもリベリスタとしてのお仕事ですね……」 『虚弱体質』今尾 依季瑠(BNE002391)、鼻血を拭きながら。 ● アーク食堂。 必要ないものは、皆取り払われている。 下手すると爆発する。 リベリスタ達は、ここである意味孤独な戦いに身を投じるのだ。 (この仕事で戦うべき敵は他の誰でもない自分自身の心だ。食べ続ける事で解決するのなら顎の鍛練だと思えば良い。弱音を吐くな、手を休めるな。食えば良い、食えば勝てる!) 美散さん、あなた今いいこと言いました。 「さて、それじゃあ食うか」 惜しむらくは、それが脳内演説だってことだ。 口に白湯を含みながら、包装紙をはぐと、甘ったるい匂いが立ち込める。 濃いオレンジの表面は、薄いオブラートにくるまれている。 大きく口を開かなくては、口に入らない。 入れたら最後、まともにしゃべれない。 噛まないと呼吸が出来ない。 噛んだら噛んだで、ぐぬぬぬと沈み込む歯にまとわりつくべとべと感。 歯茎から血が出るんじゃないかと心配になる重量感。 噛んだ歯を元に戻そうとすると、今度は引っこ抜けそうな抵抗にあう。 口いっぱいに広がる濃厚な甘味とかぼちゃのぽっくりとしたこくと旨味。 濃い。 カラメルの濃厚な香りが鼻腔に向ける。 むっちゃむっちゃむっちゃむっちゃ……。 美散だけではない。 リベリスタ全員が、それぞれ口に放り込んだヌガーを噛んでいる。 無言だ。 う。とか、ぐ。とか言うのも難しい。 小さい子供が食べたら、ひょっとして喉詰まらせるんじゃないか? おいしいという一点で、この菓子に含まれている悪意が巧みにごまかされている。 小さな悪意が、喉の奥に張り付くように残った。 まだ、ノルマの百分の一でしかない。 やけに喉が渇いた。 「あまーい……パンプキンヌガー……仕事中のブレイクタイムを潤してくれそうなお菓子ですね」 少女態の大学教授、『虚弱体質』今尾 依季瑠(BNE002391)は、人好きする笑みを浮かべた。 が、すぐ現実を思い出す。 山盛りの菓子鉢が思い出させる。 (これを完食しろ? 100個以上がノルマ? あの、えっと、おなかの調子が悪いんで……ダメですよね。ほら私ってリベリスタですけどそんな体強くないですし……えーと……) リベリスタである。 それだけが、この依頼における唯一絶対必要条件だ。 カップにどぼどぼとブラックコーヒーを注ぎ、次の一個を口に含む。 それがアークのリベリスタなのだから。 「うっぷ、2個目にして既に吐きそうなんだけど」 『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960)の紅玉の瞳にうっすらと涙の膜がはる。 (やっぱ、帰っていい? ダメ? そうよね……) 扉に目を走らせる。 うっかり一般職員が入ってきたら危ないから、扉はもとより、食道までの通路も封鎖されている。 (うー、まぁ、ほら。あの事件の時、終わった後フォロー人任せにしてさっさと帰っちゃったわけで……。せめてコイツの始末位手伝わないと申し訳が立たないというかなんというか……) このパンプキンヌガーがばら撒かれた事件。 ジルは、撒くように命令されていた子供アンデッド「パレード」に無数のナイフを打ち込んだ。 それは、子供達に永遠の安寧をもたらしたが、ジルには重い負担となった。 チームの一部が戦闘の後始末を手伝っていたのがわかったのは、全てが終わった後で。 せめてと、今、ヌガーに立ち向かうと決めたのだ。 むっちゃむっちゃと。 ● 「お茶会でしたらまずは準備をしなければ。ティーセットを並べて、取って置きの紅茶を淹れて……ああ、ミルクも忘れてはなりませんね」 『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)、宴の支度。 「食事。それは最後のフロンティア」 『サマータイム』雪村・有紗(BNE000537)、フードファイターの名に掛けて。 ● 「恵みに感謝を。いただきます」 胸の前で十字を切り、口いっぱいヌガーをほおばってもなぜか優雅なアーデルハイト。 「少し硬いですけれど」 吸血鬼のどこが恐ろしいか分かるかい? 力だよ、力。 純粋に吸血鬼は力持ちなのさ。 ヴァンパイアの顎にとって、このヌガーは「少し硬い」レベルなのだ。 優雅さとは、強靭な肉体に宿るものと見つけたり。 紅茶を啜り、濃厚な旨味を楽しむ余裕さえ見せる。 「問題のある出所でなければ、お店を調べてお気に入りにしてもよいくらい」 そして、果敢にヌガーに立ち向かおうとしている人間がいる。 有紗だ。 「フードファイトの作法に従うとしようかな。とはいえ、水につける邪道喰いはまさに邪道。他の人がやったら説教とかしちゃうね」 いや、水分大事だろ。 「というわけで割り喰いを行うよ。割って食べることでコンパクト&食事ペースを進行させることが出来るテクニック。それでひたすらペースを維持しつつ食べ続けるよ。黙々と」 ちょっとま……っ! さては、イヴの話、これっぽっちも聞いてなかったろ! 『負担を減らそうと、試しに小さくカットしてみたんだけど』 リベリスタの脳裏にブリーフィングルームのイヴがプレイバック。 割る。それって、小さくカットってことじゃないか? 『爆発した』 爆発した。 ばくはつした。 ちゅっど~ん!! 食堂のテーブルが吹っ飛んだ。 金属の骨組みが天井に跳ね上がり、一部が刺さったまま落ちてこない。 破片が四方八方に飛び散る。 椅子も吹っ飛んだ。 蛍光灯も幾つか割れ、ガラスの雨が降る。 有紗も焦げた。 焦げただけだった。 「リベリスタなら、簡単」 その言葉に含まれている意味を体で知ることになった。 有紗は無言で体勢を整えなおすと、口の中にヌガーを放り込んだ。 (さあ始めよう、存分に味わおう。それが生きるってことなのさ。ただヌガーは粘着力強いので皆は銀歯に気をつけようね。私はないけど) 人の話を聞いていなかったという点では、『弓引く者』桐月院・七海(BNE00125)も似たようなものだ。 集合前にカツとじ定食を食べてきていた。 『簡単な仕事』を本当に簡単だと思い込んでいるプラシーボ効果はたいしたもので、ほいほいと16個クリア。 だがしかし、そのときにはもう七海の胸には熱い塊がこみ上げていたのだ。 人、それを胸焼けという。 七海は、やれ面倒とばかりに一気に口に二個含む。 つんとしたものを、鼻腔の奥に感じた。 鼻粘膜が充血に耐え切れず、切れた。 ぶっちゃけ、鼻血だ。 「すみません……どうやら私はここまでのようです……自分帰ったらかりんとうの変り種食うんだ……ふふっあはは」 出血のショックに笑いが止まらない。 白い合板テーブルを赤く染めながら、七海、轟沈。 末期の気力充填は、近くにいたミーシャに行われた。 ● 「おかしいな、アタシ、エリューションシバくためにここにきたんじゃなかったっけ?」 伊佐・睦(BNE003107)、大量のヌガーと破れた包装紙を前に。 「だれかー、硫酸持って来て―。これブチ込んで捨てるから」 ジル、目のにごり50%突破。アーク職員が手を握ってくれる十秒前。 ● 「ずっと同じものを食べてると飽きてきますよね。でもお茶が引き立つこの甘さ。あ、そろそろ定時なので退社させていただきますねー……残業ですか? はい、大丈夫です」 お茶飲みながら、マイペースでむちゃむちゃ食べるローティーン、心のオアシス。 ニコニコしていたミーシャの表情が徐々に曇ってくる。 ちらちらと時計を見る。貧乏ゆすりをする。 三高平市のケーブルテレビばかりを流しているモニターを見る。 「あの、晩ご飯の時間までに終りますか?」 終んないと思うなぁ。 アーデルハイトは、今の内に仮眠って、お布団しいて寝てるし。 「パパが作ってくれるご飯とデザートが食べたい……今日の夕食はカルボナーラと南瓜プリン……」 今日お仕事で、夕ご飯に間に合わないって分かってるのに、今夜の献立とか言うんだよ、パパ!? 普通のリベリスタならまだしも、簡単なお仕事経験済みだろう!? 「えーっと……どうしても見たい番組があるのでそろそろ帰りたいのですが……うちの部隊内で流行っているアニメの続きを、父とじっくりねっとり鑑賞して実況中継するという楽しみが!!」 娘とのリアル充実生活満喫してるっぽい27歳親父をここに呼べ。 かわいそうなので、用意される小型テレビ。 口は動かしてね! 画面に見入ってちゃだめだよ! 小学生が、もちゅもちゅおかし食べながらテレビ見てる横で、やっぱりもちゅもちゅお菓子食べる睦。 アークに来て最初のお仕事がこれである。 (ま、まぁいいや。最初のうちは細かい仕事からよね。コツコツやってればいつか大きい仕事も出来るようになるってもんだわ。そう、今回の仕事はまさにそれね) 素敵に前向きだ。 (一個ずつ食べるって行為は山にしてみれば小さいものだけど、ふと振り返ってみるとこんな高みにまで上っていたんだなって実感できるような。終ってから達成感を感じられる、そんな仕事) 睦さん、あなた今いいことを言いました。 咀嚼音にかき消されているのが残念です! (……とか自分を励まさないとやってらんないわコレ正直! 近場にD・ホールとか開いて叩き込めないかなー、無理かなー) そんな他次元侵攻、ダメだゾっ? (本部内にそんなもん開いたら速攻で叩き壊されるか、トホホ) 涙が止まらないのは、『カボチャとトリのビーストハーフ』カイ・ル・リース(BNE002059)も同様だ。 (この甘味……思い出すのダ。あの時の事ヲ) カイもジルと一緒に「パレード」に対峙したのだ。 (あの子達、お腹空いてただろウ怖かっただろウ。アンデッドにされる前にどうしテ助けてやれなかったのカ? 両親は何も知らずニ、子供達を探しているかもしれないのダ) あの時と同じ菓子の甘みに、カイのあちこちから水っぽいものが滴り落ちる。 「食べるのが辛くテ泣いてる訳じゃないのダ!」 ぐすっぐすっ。 「まだ食べるのダ」 悲しみを振り払うように、もちゅもちゅと動く鳥のくちばし。 しかし、闇雲に口に詰め込まれたヌガーがとろけて、カイの呼吸を止めてしまいそうだ。 「ヌガーは出してないのダ。クチバシもげても吐かないの……ダ」 このままでは、体の前に心が壊れる。 「人攫い楽団許さないのダ!」 カイは、ぐすぐすと泣きながら、テーブルの上に頭を乗せ、動かなくなった。 ● 睦がトイレから戻ってきた。 胃を締め付けるボンデージを脱ぎにいっていたのだ。 「もうだめだ……死ぬ……ヌガーにころされる……」 依季瑠がうめく。 血染めのティッシュペーパーが山のように盛られている。 ずっしりと胃に、かぼちゃと味をごまかすための塩辛い漬物の発酵臭が居座っている。 「思えば数奇な一生でした……」 依季瑠先生、走馬灯ってる!? 「……ちょっと歯ごたえが足りないですね。おおかみで、わいるどで、あうとろーな香夏子的にはお肉の弾力が恋しくなったりします」 余裕こいてた香夏子も、60を過ぎるとどよんとしてきた。 任務成功への意気込みを見せる『間食する』って書いたバンダナがずれている。 「さすがにちょっと飽きが来る頃合いです」 『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)が、テーブルの影からぴょこんと顔を出した。 「お漬物を冷蔵庫から強奪してきたよっ! 香夏子ちゃんも福神漬けどうぞ♪」 甘ったるいヌガーばかりでは死んでしまう。 しょっぱいもの、しょっぱいもの。 「では、いただきまーす☆」 しかし、ヌガーの合間のちょっとしょっぱいものは、汁粉の塩と同じである。 甘みが引き立てられるのだ。 より強烈に感じられる甘みに、とら悶絶。 その様子を見ていた香夏子は、クールに言った。 「しかし香夏子は対策バッチリです。持参したこのカレーをかければ、あら不思議。かつてない斬新な味になって、まだまだいけます」 香夏子は、たっぷりカレー粉を振りかけたヌガーを無造作に口の中に放り込んだ。 どろどろに溶けたヌガーと辛味成分が唾液を蒸発させ、喉の奥の粘膜をダブルで刺激し、激烈な灼熱感が食道から胃にかけてドウドウと流れていく。 思わず、香夏子を凝視するリベリスタ。 ごっくん。 飲み込んだ香夏子は、ハイテンションに叫んだ。 「さすがカレー! ビバカレー! です。良かったら他の皆さんもどうですか? いらないですか? いらないようなら香夏子一人で味わいます」 (粘り付く触感も喉を焼く味も食えるレベルなら良いじゃないか) それを横目で見ながら、白湯とお茶とヌガーを規則正しく口にしていた美散がついに横に手を出した。 壜の中身は、ジャムにピーナツバター。 (塩や辛味で甘さを引き立てるより、甘いままの方が良さそうだ) 他のリベリスタの状況から考えてそれもありかと一瞬思わせたが、ピーナツバターは更に灼熱感倍率ドン、油脂分で胸焼け更に倍。 ぎりりと噛み締める奥歯もヌガーでまた甘い。 (馬鹿馬鹿しい嫌がらせの裏には何かしらの意図がある筈だ。ストレスはコレをばら撒いた連中にでもぶつけてやれば良いさ。容赦無く叩き潰せる連中が原因なら、今はコレを片付けるだけだ) こうして、「楽団」討つべしと誓うリベリスタが、また一人。 悶絶していたとらも、がんばんなきゃなあと次なる策を実行に移す。 「とらは女優だから、獲物を貪る野獣を自分にインストール」 内臓うめぇ……って感じで、ヌガー食べればいいよね! 「切り札のサラミソーセージを挟んで食べます♪」 二つのヌガーでサンドイッチ。 (あーん……って、でかっ。 でも、頑張れば、ねじ込めなくもないかな?) むぐ、むぐ、むご、もご、むぐ。 ……。 とらの小麦色の肌が、いい感じに黒ずんできた。 いっぺんに二つはやばい。 担架に運ばれているとらの口元から、サラミがはみ出していた。 だけど。 とらは気絶しても、ヌガーを吐き出したりしませんでした。 ● 「もむもむもむもむもむもむもむもむもむ……」 「……残りは何個だ?」 「150? 200? 問題ない」 「食べても食べてもなくならないんです」 「問題ない!」 「これからどうやって生きていこうかと……」 「ハラペコ狼の本領発揮ですよ? がおー」 「私は欧州貴族」 「何故ならば甘いものは別腹って言うよね」 「もうおうちに帰してぇ! ママぁ!」 「頭の中で誰かが『死ねば楽になるのに』ってさっきから五月蝿い…」 「顎つりそう……」 「これ終わったらしばらく流動食しか食べない…今決めたわ、絶対そうする…」 「つまり、腹と別腹、二層式で挑めるってことなのさ!」 「お茶会で無様を晒したとあっては恥」 「……砂糖が勝手に入るタイプのコーヒじゃなきゃいいなぁ」 「1分が1時間に感じます」 「もうパパなんて知らないっ!」 「貰えるなら喜んで食べに行きます」 「なんだって~!?」 「私は食べ物を裏切らないのさ」 「撤退は許されない撤退は許されない撤退は許され……」 「そして食べたヌガー達のことも忘れない」 「涙と鼻血が止まりません」 「あなた無口で平べったいね。どうして返事してくれないの?」 ● 最後のヌガーが、リベリスタの腹の中に納まった。 睦は返事しない壁をべしべし叩いている。 「うふふ、海……。お日様まぶしい……」 ジルの目はすっかり濁り、ここではないところを見ていた。 二人は、がらがらとストレッチャーで医務室に運ばれていく。 美散は、包装紙に楽団の手がかりがないかためつすがめつ調べまくっていた。 彼もストレッチャーに乗せるべきか、一瞬医務班は悩んだが、いつものことかと引き返していく。 「任務完了です」 香夏子は、お水でおなかがたぽたぽと言いつつ、ジャンプしている。 持ち込んだカレー粉は食べきったらしい。 有紗は、食べ物に敬意を表し、丁寧に頭を下げた。 「ありがとう。ご馳走様でした。うっぷ」 依季瑠はずっと自分のひざを見つめている。 やけに穏やかな瞳だ。 「限界突破。もうな もこわく い」 ミーシャは静かに怒っている。 「終わった……帰ったら私、パパと口きくのやめます」 アーデルハイトは、優雅に口元を拭くと、にっこり笑った。 「おつかれさまでした。何かございましたら、また呼んでくださいな」 え、いいの? ……ほんとに? |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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