● カチャン、カチャン。 コンクリートで作られたその部屋に、無機質な足音が静かに響く。 部屋の壁際にはいくつもの棚、棚、棚。 その棚にびっしりと並べ積み上げられているのは、どれもが何かしらのプラモデルの箱だった。 だが、そのどれもが――内側から何かが突き破ったかのように、穴が開いている。 部屋には窓などなく、電灯をつけなければ周囲など見えはしない。 そのはず、なのに。 この部屋の至る所から、ぼうっと赤い小さな光が浮かび上がり、その全てが部屋の入り口へと向けられていた。 まるで、この部屋にやってくる獲物を待つ獣のように。 ガチャリ……。 ふと、開かれる部屋の扉。 「一週間ぶりの我が家ってのは良いもんだな……さて、新しく買ってきたヤツでも作るとするか」 この口ぶりから、どうやら扉を開いたのはこの部屋の主のようだ。 パチンと言う音と共に部屋が蛍光灯の光によって照らし出されれば、薄暗く浮かんでいた赤い光は全てかき消されてしまったのだろう。 自分の城へと戻ってきた男は、そんな赤い光に気付くこともなく、ゆっくりとした足取りで部屋の奥のテーブルへと歩み寄っていく。 ゆっくりとしたいと考えているのだろうか、彼は棚に積まれたプラモデルの箱の全てに穴が空いている事に気付きもしない。 のみならず床に乱雑に散らばった雑誌やごみを邪魔くさそうに蹴り飛ばす辺り、かなり片付けを面倒くさがる性格のようでもあった。 パァン! そんな彼の耳に届いたのは、かすかに何かのはじける音。 そして、頬に感じる激しい痛み。 「え、な、なんだよ!? 蜂でもいるのか!?」 思わず手で痛むところをさすると、肌から噴き出した自身の赤い血がその手に纏わりついた。 これは蜂に刺された痛みなんかじゃない。 蜂に刺されたのならば、血が噴き出すことなどはないはずだ。 否、むしろこんな傷が出来る事自体がおかしい。 「一体、なんだってんだ――……」 その言葉と、『パタタタタタタ!』と部屋中から乾いた音が響くのは、ほぼ同じタイミングだった。 全身から血を流し、倒れる男。 事切れる直前にその双眸に映ったのは、彼が今まで作り上げてきたプラモデルが、独りでに動き、銃を構える姿だった――。 ● 「言うなればプラモデルの軍隊と言ったところでしょうか」 そう遠くない未来を垣間見た『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の表情は、あまりの惨劇だったためか暗く沈んでいるようだった。 いや、理由はそれだけではないらしい。 「敵は全てフェーズ1……ですが、数はおよそ1000体います」 「……は?」 続いた彼女の言葉に、誰もが耳を疑うのも仕方のない話だと言えよう。 強化されているのは、殺傷力を得た武器と、少々の事では壊れない強度を持った体だ。 武器が殺傷力を持っているとは言っても、リベリスタの攻撃を受ければ簡単に壊れるため、単体ではどうと言うことのない相手ではある。 が、そんな敵が1000体いるのだ。 「1体1体はすぐに倒すことが出来るでしょう。問題は、相手の数がそのまま火力につながっている事ですね」 少しでも早く数を減らさなければ、逆に大打撃を受けるのはリベリスタ達となる。 いかに迅速に攻撃を仕掛けることが出来るか――。 勝敗はそこに全てがかかっていると言っても過言ではない。 「そして敵は棚や床に散らばった雑誌やごみ、そして棚などに身を潜めて、一斉攻撃の機会をうかがっています」 と言った和泉ではあるが、さすがに1000体もいるのだから、半数くらいはその姿を表に晒してはいる。 しかし15cm程度の大きさであるため、攻撃を当てることは非常に難しいのも事実だ。 「ただ、部屋の主は旅行に行っているらしく、侵入することは容易です。激しく暴れても部屋がコンクリート部屋のため、外に音が漏れることもないはずです」 なので、激しく暴れても問題はない。さすがに家が壊れるようなレベルの行動は避けたほうが良いが、侵入さえ出来れば後は戦いに集中すれば良い。 「部屋に入る扉はひとつだけなので正面からぶつかる形になりますが、立ち回りひとつで勝利も敗北もあるでしょう。でも……」 そこで和泉は、言葉を区切る。 「皆さんならきっと勝てると、信じてますよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月04日(金)23:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●待ち受ける1000の兵 「プラモが勝手に動かないかなって、ガキの頃に思ったことがあったな」 静けさの支配する廊下を歩いている最中、『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)はふと幼い頃を思い出したらしい。 プラモデルや、ぬいぐるみが動き出す。 それは大半の人が小さい頃に、『そうなったら良いな』と考えた事があるのではないだろうか。 今から対峙する敵は、まさにその『動くプラモデル』なのだ。エリューションとしての攻撃性と殺傷力が無ければ、なんとも夢のある話と言えよう。 「動くのは良いんだが……1000体か、凄まじい数だな」 しかし今回の数はトリストラム・D・ライリー(BNE003053)が言うように、1000体と軽く(?)度を越してしまっている。 それがある程度の隊列を組み、リベリスタ達の眼前にある扉を開いた先で静かに来訪者を待ち受けているのだから、危険極まりない。 「言うなればプラモデルの軍隊、ですか……男性ってやはりこう言うのが好きなんですかね?」 「まあ、あるのが女の子のフィギュアでは無いようで何よりだよ」 まるで軍隊だと『双刀華』月宮 葬(BNE002293)がE・ゴーレムを評すると、まだプラモデルなのだから良いと続いたのは『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)だ。 確かに美少女フィギュアが動いていたならば、その方面の好きな人には攻撃されたとしてもパラダイスだと感じるだろう。だがそうでなければ、精神的に来るものがあったかもしれない。 「どちらにしてもこの危険なゴーレム、捨て置くことは出来ません。……軍隊なら命令する指揮者がいるのでしょうか?」 さておき、そんなエリューションを放っておけば、近い未来に確実に家主は命を落とす。 それだけは避けなければならないと言う『ミス・パーフェクト』立花・英美(BNE002207)が考える『指揮官』の存在の有無の答は、この扉の先に進めばはっきりするだろう。 「結界は張りました。準備は――良いですか?」 戦場へと続く扉を開く前に、周囲の仲間を見渡す葬。 扉1枚向こうにいるエリューション達も人の来訪を察知し、攻撃態勢を取っているはずだ。 「一体一体の力は然程ではあれど……用心するに越した事はなし、か」 トリストラムがそう言うように、わずかでも準備を整えて損をする事は無い。 「戦いは数と言いますし、如何にして相手の数の理を潰すかが勝負の決め手でしょうか」 そして勝敗を左右するのは、数に対抗する手段次第と『高嶺の鋼鉄令嬢』大御堂 彩花(BNE000609)は言う。 「待伏せが地の利の精華なら、その地ごと破壊し尽くすまでだわ。やはりガトリングは大軍相手を薙ぎ払ってこそ本懐よね」 その手段として数には弾幕で応戦しようという『戦闘用メイド』エナーシア・ガトリング(BNE000422)の考えを否定する者は、誰もいなかった。 数には、面で対抗する。 この戦場においてはそれが最も効果的な戦術だと、誰もが感じ取っているのだ。 「後はこちらの火力が上か、相手の火力が上か……だね」 そうなれば極限まで集中力を高めた『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)の言葉の通り、後はリベリスタ達の火力と、組み立てた作戦が全ての結果を左右する。 果たして、リベリスタ達は1000体もの敵を相手に、勝利をもぎ取ることが出来るのだろうか――? ●1体1体は弱くとも…… 「敵はやはり、部屋中にバラけているようですね。そして全ての視線が入り口を向いています」 扉の向こうの景色を千里眼で見通した英美が、その内容を小声で仲間達に伝える。 入り口に視線が向いているという事は、やはり相手もリベリスタ達の存在を察知しているという事か。 「時間を掛けると不利になるかもしれないな、行くぞ!」 ならば悠長に準備を整えている暇は無い。そう判断した翔太が先んじて突入すると、一斉に部屋へとなだれ込むリベリスタ達。 「スイッチはこれですねっ……!」 彼の真後ろにピタリと張り付き走る彩花が移動するついでに壁際のスイッチを押せば、明るくなった部屋の全容を誰もが知る事が出来た。 床に乱雑に散らばった雑誌やゴミ、そして壁を埋め尽くすほどに並んだ棚――。 軽く目を凝らせば、そこからひょっこり顔を出した一部のエリューションの姿がはっきりと目に映る。 「扉は閉めたよ、やっちゃって!」 最後尾から突入しつつ、握り締めたドアノブを勢いに任せて引っ張り扉を閉じたリィンがそう言うのとほぼ同時に、先手必勝の攻撃が火を噴いた。 敵の数は数えるのも面倒な程に多い。 しかし姿が見えているか見えていないかなど、リベリスタ達には関係のない話でしかないのだ。 「全ての姿が見えていなくても、どのみち全て破壊するのみ!」 「戦闘は火力、と言われる意味を見せてあげましょう」 遮蔽物に隠れているのならば遮蔽物ごと倒してしまえと仕掛ける英美に合わせ、辺り一面ところかまわずに弾丸をばら撒いていくエナーシア。 否、彼女達だけではない。 「避けようとしても無駄だよ、アタシにはその動きが――見える!」 突入直前にプロストライカーを発動して極限まで集中力を高めていた嵐子が、 「さて、この弾幕でどこまで減らせるか……!」 さらにはトリストラムが続いたその時、部屋には周囲一帯を破壊しつくす4度のハニーコムガトリングの嵐が激しく渦を巻いた。 「流石にこの弾幕では――相当な数が減らせたでしょうか?」 「まだだよ、まだ僕が残ってる!」 これだけの弾幕を前にすれば、踏み潰しても壊れるエリューション達などひとたまりもないだろう。 そう呟く葬の言葉を遮り無数の光弾を放ったリィンがその弾幕の最後を締めくくると、後には視界を軽く遮りそうな煙が部屋に充満するのみだった。 「……来ますよ!」 だがそれで終わるはずはないと、煙が晴れても警戒を解かずに防御の構えを取っていた彩花を無数の銃弾が貫いていく。 それはリベリスタ達の攻撃に対するエリューションの反撃であり、彼女と同じように最前列で盾となる役目を担った翔太や葬にも同様に襲い掛かる激しい火線。 「何とか耐えた、が――!」 そう何発も受けてはいられない。耐え切った翔太ではあったが、自身の受けた傷の深さから嫌でもそれは実感出来る。 「これは相当にきついですね……!」 一方でそう言った葬が立っているのもやっとと言えるほどボロボロになっている姿を見ると、瓦解するのは時間の問題と言えるだろう。 「わたくしこそが指揮官です、勝ちたければこの首を取りなさい!」 せめて少しでも瓦解するまでの時間を延ばそうと考え威風を放つ彩花の言葉は、当然エリューションに届きはしない。 彼等のダメージを僅かでも減らす唯一の方法は、後ろから攻撃を仕掛ける仲間達が迅速に敵の数を減らす事だけなのだから――。 「あれを見て!」 そんな折、何かに気付いたリィンがはっと声を上げる。 『ノコリ 728 ガンバレ』 彼女の言葉に視線を移せば、その先には相手を馬鹿にしたような応援の言葉と共に、残ったエリューションの数を克明に記す電卓の文字盤が見えた。 「1/4は減った、か……射線から位置は割り出せるだろう? 早めに頼むぜ」 「わかっている、もう少しだけ耐えてくれ。少々狙いにくいが──まあ、なんとかなる範囲だな。何にせよ、良い訓練になりそうだ!」 残る数は多いが、射線が見えていれば位置の特定は難しいことではない。翔太の言葉に頷くと、再びガトリングのトリガーに指をかけ、構えるトリストラム。 「壁を出すわよ、次の攻撃の準備を整えましょう!」 だがエナーシアがここでアクセスファンタズムから大きな看板を取り出し、嵐子とリィンがその影に身を隠した時点で、前衛の命運は決定付けられたのだろう。 「月宮さんは下がって、ここは私が受け持ちます! 物量戦こそ弓兵の花! 弓よ舞え! 花と散れ! 戦場に盛大に咲き乱れよ!」 それでも、次の攻撃に耐え切れそうもない葬の隣まで英美が移動し、交代を促した事で、瓦解のタイミングを僅かにずらす事は出来た。 その英美が前に出ると同時にガトリングの弾をばら撒き、 『オメデトウ、ノコリ 689』 わずかながらもその数を減らすエリューション。 「やはり弾幕が薄い――!」 『ノコリ 627』 後に続いたトリストラムが同じくガトリングの斉射を敢行したことで、さらにカリキュレーターの刻む数値は減っていく。 それでも3人も抜けた弾幕の穴は、叩き出された数値として目に見えて現れている。 「援護射撃はあまり期待できそうもないですね……」 この状況に、自身の力で耐え凌ぐ以外に道は無いと覚悟を決めたる彩花だが、それは隣に立つ翔太も同じだった。 「自分の仕事をやり抜くまでだ、俺達に出来ることはな」 例え援護が貰えなかったとしても、トリストラムやエナーシアの攻撃が無ければ敵を殲滅することは難しい。 砲撃を食らい、よろける体をなんとか立ち上がらせ、彼等はただひたすらに味方の攻撃を待つ。 肝心のエナーシアは念には念をいれようとしたのだろう、翔太達の避けた流れ弾が当たってぼろぼろになった看板の影に隠れ、意識を研ぎ澄ませている。 「く……! まだ、まだですっ!」 そして運悪く下がる直前に砲火に晒された葬が、なんとか倒れまいと運命の力を利用して持ち堪えたところで、 「さぁ、ここから反撃だね!」 「的がこんなにいっぱい……ぞくぞくする」 集中を終えた嵐子の構えたガトリングとリィンが放つスターライトシュートの光弾が、ほぼ同時に火を噴いた。 散らばったゴミや、先程破壊した残骸に隠れているエリューションも多く、敵の全ての姿が見えているわけでは決してない。 『ノコリ 590 …… ノコリ 558』 それでも弾の一発でも当たれば倒れる敵が、雑誌や残骸などの壊れやすい物を遮蔽物として扱っていた事で、見えてはいなくとも『撃っていれば当たる』ような結果をもたらしているのだ。 「いや、まだまだ減るぞ」 『ノコリ 495 スゴイスゴイ』 さらにトリストラムがさらなる弾幕を張ると、ようやくカリキュレーターのカウンターが500という数字を切る。 「歩兵が全て近づいてきたわよ!」 その時、後ろから超直視を駆使して動向を調べていたエナーシアは、砲撃小隊以外の敵が一斉に突撃する様子を見逃しはしなかった。 「減りには減ったが……っと!?」 最初に張り付いた敵を振り払った翔太に、一斉に群がるエリューション達。彼だけではない、彩花や英美、葬も同じように波となった敵に飲み込まれようとしている。 エリューションはその数を半数まで減らす中、弾をその身で受け続けていた翔太や彩花の傷も相当に深いという事実に、 好機だ。 と判断したのだろう。砲撃小隊の援護を受け、残る歩兵と小隊は陣地を増やそうと翔太達を制圧しにかかったのである。 「月宮さん! っくぅ!!」 その波に飲まれた葬はすでに倒れ、その様子を目の当たりにした英美の体にも無数のエリューションが張り付き、彼女に幾つもの傷を残していた。 「まだだ、耐えれるだけ耐えてみせる!」 「そうですわね、イマドキの令嬢は根性が違うということを教えてあげますわ!」 同じように張り付かれた翔太や彩花も、敵を引き剥がそうと気力を振り絞り立ち続ける――が。 「避けろ、砲撃が来るぞ! ……くそっ、こっちも弾切れか」 『ノコリ 434』 注意を促したトリストラムが次に目にしたのは、持ちこたえた直後に砲撃を受けて倒れる2人の姿。 せめて数を減らすことで彼等の頑張りに報いようとしてはみるものの、撃ち続けた彼のガトリングの弾には、もう1度弾幕を張れるほどの弾は残されていない。 加えて看板も壁として使えるような状態ではなくなり、前衛も崩壊という状況は、リベリスタ達が相当不利だと判断するのには十分な材料だろう。 (敵の位置はそこと、あそこと……なるほど、把握したわ。小隊が残り7、砲撃小隊が9……ってとこかしら) ここまでの状態になったところで、敵の状況をしっかりと把握したエナーシアが、ようやくガトリングのトリガーに指をかける。 再び意識を集中させた嵐子とリィン、そして彼女が残る400体を超える敵を掃討しきれるか――。 勝敗の行方は、彼女達に委ねられた。 だがエリューション達とて、決してただやられるのを待つ存在ではない。 「ちょっと、離れてよ!」 瓦解した前衛を突破した歩兵や小隊に張り付かれ、一気に大きな傷を負うリィン。 それは彼女のみならず、同じように後ろで攻撃を仕掛けていたエナーシア達や、先んじて張り付かれた英美も同様の状態だった。 「ここで僅かでも減らさなければな……!」 『ノコリ 433』 すでにガトリングの弾を撃ちつくしたトリストラムには、手にしたヘビーボウで攻撃する以外にもう道は無い。 否、誰も傷を回復する手段を持ち合わせていない者だけが残っている今、攻撃の手が遅れれば、やられるだけだろう。 「反撃、いくよ!」 「わかった!」 そんな状況が功を奏したのだろうか。同時に動いた嵐子とリィンの弾丸が、張り付いた敵や遠くに構える砲撃小隊へと放たれ、エリューション達の数が一気に減っていく。 『ノコリ 298 ……192』 しかも1度カウントした直後に、さらにそのカウンターは100に近い数字を減らしていた。 「まだまだ私には余力があるのよ」 大きく数字を減らしたエナーシアは、『ここからが本番だ』と言わんばかりに口元に軽く笑みを浮かべる。 その余裕は前衛が必死に攻撃を防いでいたから出来たものであり、それはリベリスタ達の作戦がここにきてようやく良い方向へ動いた瞬間でもあった。 「後は火力の勝負。ですが……!」 それでも最後まで攻撃を続けるエリューションの猛攻に、見えてきた勝利を目前にしながら英美がついに膝を突く。 こんなところで倒れるわけにはいかない。 「やれるだけはやりました、後はお願いします……!」 その一念で立ち上がり逆に周囲の敵を一掃した直後、飛んできたキャノンの一撃を受け崩れ落ちた英美。 『ノコリ 138 …… ノコリ 74』 「後少しだよ!」 彼女の思いを受け継いだ嵐子がガトリングに火を噴かせ、カウンターを2桁まで減らしはした。 しかし先程まで共に攻撃していたリィンが、その後に続く気配がない。はっとした嵐子がリィンの方へと目を向けると、倒れた彼女の上に群がるエリューションの姿が目に映る。 「群がってんじゃないわよ!」 吼えたエナーシアがそれをガトリングでなぎ払ったその時、 『ノコリ 0』 カウンターはようやく念願の数字を刻んだ。 「いや……まだだ」 と思いきや、トリストラムがヘビーボウから放った矢が、カリキュレーターを撃ち貫いていく。 「自分をカウントせずに、ごまかすとはな」 刻まれたカウンターはゼロ。だがカウントしていたカリキュレーター自身は、どうやらカウントされてはいなかったようだ――。 ●最後まで揺れ動いた勝利の行方 戦いが終わり、静寂を取り戻した室内。 「終わったか」 「カウンターはゼロだったし、調べても動いているのはいないね」 終わりを感じるトリストラムにそう答えた嵐子は、まさかの撃ち漏らしがないかとくまなく部屋中を調べていた。 敵は1000体もいたのだから、まさかの漏れがあったとしても不思議ではなかったが、どうやらそれは杞憂だったらしい。 「それにしても、ボロボロだな」 痛む体を抑えつつ起き上がった翔太が周囲を見れば、部屋はすでにボロボロ。それどころか、リベリスタ達も手酷い傷を受けてボロボロである。 「勝てたからよし、ですわ」 と苦笑いを浮かべながら彩花が言うものの、彼等が受けた傷は不要なものが多かったのも事実。 弾幕さえしっかりと張れていれば、まだその傷は浅かった――と言えるだろう。 「作る部分だけを楽しんで、その後片付けもせず放置する……。彼らにとって、主人は理想の作り手ではなかったのでしょうか……?」 そして先程まで戦っていたプラモデルを手に取り、ふと英美がそう口にした。 しかしプラモデルの全てがなぜエリューション化したか、彼女も仲間達もその理由を知ることなど出来はしない。 「部屋の散らかりっぷりは酷いが、箱がしっかり並んでいたところを見ると大事に仕舞ってはおいたようだけどな」 もう壊れてしまってはいるものの、部屋に備え付けられていた棚に並んだプラモデルの数は相当だったはずだ。 放置というよりは、大事に仕舞っておいたという翔太の発言が、正解という所だろうか。 「さぁ、速やかに撤退しよう。周囲の住民に見られる前にな。怪我の手当ても早いほうが良い」 そんな会話を遮ったのは、傷ついた仲間の手当てを優先しようと帰還を促すトリストラムだ。 可能ならば探索や掃除などもしておきたいところではあったが、戦闘で受けた傷は誰もが思ったよりも深いため、断る者はいなかった。 傷ついた者に肩を貸し、帰還するリベリスタ達。 この連携が戦闘中にもっとしっかり取れていれば、ここまでの苦戦もなかったかもしれない。 数日の後――。 『な、なんじゃこりゃあああ!?』 旅行から戻ってきた家主の男が部屋の惨状にこう叫んだのは、言うまでも無かった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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