● ほんの数年前の話。 なりたいものが有るんだ。そう言って少しの間、離ればなれになった私と、貴方。 長いように思えても、たった数年。そう言って寂しさを紛らわせて、メールや電話で連絡を取り合って、私たちの関係はずっと変わらなかった。 変わっていない、つもりだった。けど。 ――遠距離恋愛が終わった日。 私と彼は、人気のない公園で二人、お互いを見つめていた。 「……ねえ、時間って、残酷だよね」 声を出したのは、私の側からだった。 震えた声音に、白さを帯び始めた呼気が漏れる。 対面には彼の姿。少し悲しそうな顔で首を振って、僕はそうは思わない、なんて、格好をつけている。 「そんなの、嘘」 再度、言葉を吐く。声はやっぱり、震えていた。 対面の彼が、それを紛らわすように優しく笑う。自分の周囲をどろどろとした闇に包みながら。 その想いを汲んで、私も笑った。同時に頬を伝った熱い雫が刀身に滑り落ちれば、それは瞬く間に熱を失う。 時間の隔たりは、私たちを恋人同士という関係のままで居させてはくれなかった。 エリューションとリベリスタ。生きるために、守るために、互いが互いを殺し合わなければならない関係。それが今の私たち。 ――出会わなければ良かったのかなと、ぽつり、彼が呟く。 「……当たり前だよ」 独り言にすら、私は言葉を返す。 だって、そうでしょう? 何年も何年も、一緒に愛を囁きあって、これから先も一緒に居ようと思って、その幕切れがこんなひどいカタチなら、私たちは知り合うべきじゃなかった。 ――けれど、何でだろうね。 それでも、例え今日、この場で殺し合う関係でも、数年ぶりの貴方に出会えた私は、とても嬉しかったんだ。 「……始めよう。もう、これ以上は、無理だよ」 声は、聞こえたのかな。涙と嗚咽でぐずぐすになって、ろくな言葉もしゃべれなかった。 私が刀を構えて、彼も、後ろへ下がった。 声はなかった、音もなかった。何時しか星月の光すらこの場からは消えて、私たちは黒々とした空間に二人きり。 最後のデート。殺し合い。私が笑う。闇中の彼も、きっと笑っている。 刀と影が、私たちを殺そうと空を舞った。 ● 「……勝敗は?」 「女性の側はリベリスタとなって四半年にもならず、男性の側はフェーズ2のエリューション。それが結果を示している」 「……」 苦い沈黙が場を支配するブリーフィングルームにて、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は静かに瞳を閉じた。 先ほどまで見た未来映像の結末がリベリスタ達に染み込むまでを待って、イヴは再び口を開く。 「敵はフェーズ2のエリューション・ノーフェイス。影を利用して多様な能力を発動させる彼の力に、今交戦している女性は耐えることも出来ず、即座に倒れる。 彼女のフェイトの加護は極々僅か。一度倒れればそれはエリューション化すらせず、そのまま死に至る」 「……助けることが、今回の目的か?」 「違う」 改めて『目的』を問うたリベリスタに、イヴは首を振って否定した。 誰もそれを驚かなかった。依頼の目的を最初に話さなかったこの少女からするに、少なくとも一筋縄でいく内容でないことは、皆が感覚的に理解していたから。 「依頼目的は、あくまでエリューションの討伐。女性の生死は本依頼について問わないものとする。 仮に彼女の手の届かないところでエリューションを討伐したとしても、それを理由に心に傷を作り、フィクサードとなるようでは生かす意味も何もない」 「……俺たちが手を出したら、そうなると?」 「可能性の話。人の心は『万華鏡』でも全てを掴めない。この依頼の行く末は、みんながどう動くかにかかっている」 重い言葉である。この依頼では、特に。 苦笑いをする者、肩をすくめる者、そうした面々に視線を向けて、イヴは再度言い放つ。 「エリューションの討伐。それが今回の任務。 それ以上を望むなら、それはあなた達の想いと、力が全てを決める。――みんなの答えを、見せてきて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月09日(水)23:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 傍に居ても、離れていても。 沢山の時間を、過ごして。過ごして。 ねえ、私たちは、幸せだった? ● 刀が舞う。影が舞う。互いが互いを殺すために。 それを止めたのは――それぞれに『勇気』と『仲間』を意味するスペルが彫られた、双手のブレードナックル。 「、え……!?」 「……!!」 驚いたのは、女性も、男性も同じ。 「……やっぱり、何度見ても慣れないね」 視界を見通す術も持たねど、闇を恐れず踏み込んだ青年……『臆病強靭』設楽 悠里(BNE001610)に男性が焦点を定めるより早く、『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)、『第4話:コタツとみかん』宮部・香夏子(BNE003035)の二人までもが両者の間に割り込み、その距離を取らせようと各々の得物を抜き放つ。 「増援、か。最も、それはあの子の意図したモノではないみたいだけど」 「その通り、俺たちはアークのリベリスタだ」 返された言葉に応えたのは、『Small discord』神代 楓(BNE002658)。 聞き慣れた組織名を聞いた女性の表情に漸く理解が浮かぶ。 「俺らとしても、あんた達で解決するならそうさせてやりたいが……あんたが倒れる未来が見えてな。 お節介・偽善・迷惑と言われてもだ、目の前で女性が殺されるのを指を咥えて待ってられるほど、人間できてないんだよ」 「……喜ぶべきか、悲しむべきか、難しいところですね」 苦笑混じりの女性には、少なくとも悪感情のようなものは見られない。あくまで表面的には、だが。 「貴方の気持ちは察するに余りあるけれど……そのまま戦うと貴方が死ぬわ。あたし達はリベリスタとしてその運命を変えたいの」 「納得行くなら助かるが、我々にも事情がある……出来る事なら共闘……と願いたいが」 「お願い、します」 逡巡もなく、返された肯定に、エレオノーラと、『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)の両者が目を丸くする。 思い人同士の最期の『逢瀬』を邪魔する輩に対して、しかし女性は苦笑いを浮かべ、 「実際に会って解りました。やっぱり、私程度じゃ、彼には勝てません。 より高い確率で倒せる方法があるなら、それに従うのは当然だと思います」 ――感情を殺してでも。 ――私は、リベリスタなんだから。 無理をしていると誰もが気づいた。しかしてそれを直ぐ様指摘する程に容赦と関心の無い人間は、幸か不幸かリベリスタらの中には居なかった。 「……彼氏としては、此処で『妬けるね』とでも言っておくべきなのかな」 「答えかねますね。私の恋人は言葉を返した事はありませんので」 言って、ポケットに入れた煙草のパッケージを軽く見せつつ、女性との連携態勢を整えるまでの足止めに徹するのは『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)。 牽制に撃ち放つライフル弾が、男性の発する闇の中に潜っては消える。やはりこの状況で攻撃を当てるのは――人並みのそれを遙かに超すものであろうと――唯の直感だけでは心許ない。 全体にして半径20mを超えないこの戦場では、感情探査による索敵も上手く働いてはくれないが――代わりと言うほどではなくとも、彼が抱いている感情がどういうものかというのは、ある意味でもっては彼らに有用な情報だった。 (諦観……そして、希望?) それが何を意味するかは兎も角として、それを心に留め置いた彼に向けて、男性からも漆黒の牙が地中より次々と立ち上る。 「っ……!!」 視界を見通す力のない星龍と違い、男性自身は闇を無きものとして扱う瞳を持っている。 的確に位置を捉えた男性の攻撃を或いは受け、或いは掠めるのみとギリギリの線を潜る銃士への助力は、緑と銀、二色の光。 「……影カ、イイゾ、私は速いダケダゾ? 単純ナ速サハ全テヲ凌駕スル、私の世界ハ――ココニイルノニハ、ワカラナイダロウケドナ」 呟く言葉の主は、『音狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)。 空間の速さを『掴んで』移動するが如き挙動は、闇の中で衰えようとも常人からすれば尚速きに過ぎると思えるほど。 単手に握ったナイフが一条、二条と光の線を作るたびに、男性の纏う闇はぴしぴしと小さな亀裂を走らせていく。 「野良リベリスタ女を説得して、エリューション男を殺すだけ。単純な依頼ね」 簡単ではないけれど。そう言ってクスリと笑うのは、退廃的な意気をふわりと芳す『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)。 ゆるりと振るう爪をかいくぐりながらも、未だ余裕を失わない男性は再度、苦笑を零して言った。 「それじゃあ、こんな木っ端程度の諍い、直ぐに解決して貰おうか。リベリスタ」 ● 常人では至る事も叶わぬ極限の集中を自己に為しつつ、雷慈慟の表情は複雑そのものだ。 (自分に伴侶が居たとして……想像だけで身の毛が弥立つ) 互いが互いを殺さなければ成らなくなった時、それを容易に是と言い切れるか。 苦みばしった表情を隠すこともせず、彼は袖から小型のマシンガン――『P90 T型 MG』を取り出し、影の中心に向けて銃弾を叩き込む。 「しかし、やらねばならない。どう転ぼうと、実行しなければ成らないのだ」 「香夏子も……複雑ですけど、あの人を全力でサポートします」 言葉を継いだ香夏子が手を伸ばした先に、ずるりと自身の影人形が出でる。 のっぺりとした黒い矮躯に式のサポートを行わせ、気糸と黒弦を暗視の先に覗く男性に向けて這い絡ませる。 視界が見えていないにしても、それを承知の上で立てた苦肉の策はリベリスタらに奏功している。 展開された影の中心を正確に把握し、其処に向けて攻撃を撃つ事は、少なくとも『命中させる』ことに於いては中々の結果を齎していた。 闇の中に聞こえる男性の小さな苦悶を確かに聞いた楓は、その方向に向けて苦笑交じりの声をかけた。 「恋人同士で殺し合いをしなくちゃいけないなんて……全く、嫌な世界だな」 「本当、ね。知ったときこそ平然を取り繕えていたけれど、流石に事此処に至れば心が痛むよ」 自身が言葉を返すことによって更に位置が特定されるリスクも恐れず、男性も楓同様、気楽に言葉を返した。 魔力の循環効率を高めつつ、それに悲しげな笑みを浮かべる楓と男性の二人は、まるで数年ぶりの友人のようで。 「――出会わなければよかった。そうとすら、彼女に言われてしまった」 「……っ」 それを聞いて、女性の側も小さく顔を俯かせる。 傍らでそれを見守るエレオノーラは、きゅ、と胸の辺りで小さな拳を握る。自身の胸の痛みを示すように。 「……貴方はどうなの? 彼女に出会わなければよかったと、そう思ってる?」 「……それを君達が知って、何が変わると言うんだい?」 「変わらないわ。でも、そうであるならその思いを変えて欲しい。 貴方達はあたし達を憎んでも恨んでも構わない。でも、愛しているなら出会わなければよかったなんて、思わないで」 愛し合った事実を後悔なんてして欲しくない。 愛憎を生の証と声高に唱え、尊ぶ。そのエレオノーラからして、それらを捨て去る――自身の生を捨て去るに等しい行為を自身に許して欲しくない。 憎悪と怨嗟は此方が継ごう。 だから、その身には思慕と愛情を抱き、死ね。 重い言葉とは裏腹に、軽妙な動きを為して切りかかるエレオノーラに、男性は双手を交差させて急所へのダメージを避ける。 闇に舞う血飛沫、傾ぐ体勢、それをギリギリのところで留まって、男性は自身を取り囲む影を幾本もの剣に変える。 「……それを、言うべき相手は」 僕じゃあ、無い。 言いかけた言葉を飲み込んで、男性は周囲に影の剣を飛来させた。 刃、刃。声を頼りに、闇界の中心点を頼りに接近していたリベリスタらを襲うそれらに対抗できるものは少なく、彼らの身は次々と朱に染められていく。 「……任せな!」 吹き鳴らす金管に魔力の音色を乗せ、その傷を次々と治癒の力に包ませていく楓。 それとしても、敵の攻撃力は思いのほか高く、若干の傷を残した事は些かの誤算と言うべきか。 「……ああ、まったく」 これほどに化け物で、 これほどに人を傷つけておきながら、 これほどに――この心が、人間のままだなんて。 「辛いよ、本当。……君達ほどじゃあ、無いにしても」 「全く……運命とは残酷なものですね。斯くの如く、無残にも2人を引き裂くとは」 精度を高めた魔弾を撃つ星龍とて、その無表情に快い感情は微塵も無い。 感情を覗かせぬ無貌に掛けたサングラスが、その奥の瞳に見える無念の意志を僅かに映した。 「とはいえ、私たちはリベリスタ。 その運命を粛々と受け入れる人もそうでもない人も」 「望むと望まざるとに関わらず、ね」 最後の男性の言葉は、星龍に向けられたものではない。 震えながらも刀を構え、今まさに男性との剣戟を続ける彼女へのものであった。 「それでも、此処に立ったからにはその覚悟があると言う事だ」 「……私は」 「加減は、出来ない」 言って、男性が何かを持ち上げるように腕を跳ね上げる。 同時にして現れた、漆黒の巨大な顎が、後衛に立っていた者達の影ごと、その体躯に牙を突きたてた。 ● 状況は苛烈である。 時間経過によって<闇の世界>に対抗しうる能力を持ったリベリスタを特定した男性は、先にそちらを潰すべく行動を起こした。 特に、回復役と見抜かれた楓への攻撃は殊更過激なものであった。彼のダメージを受け持つカバー役が居ないこともあって、その身は既に運命を変転させている。 その男性自身も当然、リベリスタの攻撃によって傷んではいるが……視界をほぼ封じられた者達の攻撃が時々仲間に命中することもあって、前衛陣の消耗は特に激しい。 余り長く戦闘が続けば、どちらが倒れるのかは容易に想像がつく戦闘であった。 「メンドウな奴ダナ、お前」 「……此処はエリューションとしては、お礼を言っておく場面なんだろうね」 ハイバランサー、面接着。多角戦闘を補助する能力を二種も使用しながら、リュミエールは街頭を、木々を縦横無尽に飛び交い、男性に向けて目にも留まらぬ斬撃を与えていく。 集中を兼ねた堅実なスタイルに、流石の男性も抗し切る術が無い。 浅く、しかし確実に傷の数を増やすリュミエールの腕を、どうにか見切った男性が掴み、言う。 「確かに、速い……が」 「!!」 瞬間、轟音。 闇中より大きく突き立った錘状の牙にその腹部を貫かれたリュミエールが、かふ、と小さく呼気を漏らした。 「一度捉えれば、易い」 牙を引き抜いた腹部が回復する。 運命の消費、重傷と言う結果の空転。それに安堵する暇も無く、舌打ちしたリュミエールは傷を押さえつつ、回復のための後退に移った。 「……結局貴方は、貴方達は殺したいの、それとも殺されたいのかしら?」 代わって前に踏み出た真名の言葉は、二人にとって何処までも辛辣だった。 「是と言っても、否と言っても、私は変わらないけれど――」 ――それでも、伝えたい思いを伝えられぬより、伝えて死ぬ方が、幸せじゃあないかしら。 ――それが綺麗な言葉でも、汚い罵りでも。 無関心を貫く彼女が囁いた言葉は、だから、救われることを望んだ二人に掛けた『ほんの気まぐれ』で。 それでも、その言葉に彼らが心を揺り動かされたことも、また事実だった。 「……僕は、君に生き残ってもらいたい」 「……」 両者の沈黙を縫って、言葉を発したのは悠里。 自身の傷も浅くはなく、ともすれば倒れることすら有り得る状態でありながら、無理な攻撃の代償として傷ついた女性を庇うその瞳には、一切の迷いも、恐れもない。 「貴方には僕達は部外者だ。助けを拒むのも理解できる」 本来であれば、それはリベリスタの助力を拒んだ際に掛けるはずだった言葉。 それが、まるでパズルピーズのように、綺麗に今の彼女へ伝えるべき思いと繋がる。 「でも、お願いだよ。助かる事が出来る人が死ぬのは見たくないんだ」 「私は、だって……」 助けて欲しいと、私は彼らにそう願ったのだから。 だから、私はきっと生きたいのだ。 絶対に。 絶対に? 「香夏子は、貴方が一番望んでいる願いを叶えてあげることが出来ません」 次いで、自らの罪を告白するように、静かに、けれど悲壮に声を上げる少女。 「……ごめんなさい」 私はリベリスタだから。 彼はエリューションだから。 だから、殺さなきゃいけなくて。 だから、だから。 「色々な事情があるだろう。我々もそうだ、だが……!」 そうして、最後に声を掛けるのは、雷慈慟。 義務に、思いを隠さない。血を吐くかの如き苦悶の感情を女性に叩きつける姿に、彼女は。 「……生きたい……っ!!」 吐露した思いが、その場にいる全員の耳に届く。 「一緒に生きたい。死にたくない、殺したくない! どうして、どうして、こんな……!」 刀を握ることすら忘れ、唯ひたすらに嗚咽を漏らす少女。 だが……対する男性は、それを隙として捉えた。 「――――――っ!!」 傍らに立つ悠里が、それを庇うために彼女の前に立つ。 しかし。 「……ああ」 それは、紙一重で届かなかった。 リュミエールが、エレオノーラが、それぞれの短剣を彼の胸に突き立てていたから。 「……」 「おやすみ、なさい」 それらが引き抜かれると同時に、今先ほどまで周囲を囲んでいた闇もまた、雲散霧消する。 それは、つまり。 「……とは……」 男性は、死の間際に在りて、尚も笑っていた。 優しげな苦笑を浮かべ、弱々しくも自らの恋人をそっと指さして。 「……終わった、な」 閉幕は、一つの呼吸の終わりを聞き遂げた楓の言葉。 『死んだ』と呼ばなかった彼の胸中に何が渦巻くかは、きっと、誰もが察するに易いものであった。 ● 男性の遺体は、エレオノーラの嘆願もあって手厚く弔われることとなった。 遺体を運ぶ搬送車と、それを見送る女性の姿を見ながら、エレオノーラは最後に聞いた男性の言葉を思い出す。 ――あとは、お願いします。 「……いつもこの手の仕事はすっきりしないわね。いつか、無くなればいいのだけど」 託された責任の重さに、ぽつり、思わず言葉が漏れる。 悠里、楓、星龍の三人は、全てが終わった後に件の女性に対し、アークに来ないかと言う誘いをかけたが、女性はそれに対し、静かに首を横に振った。 もう少しだけ、心に整理をつける時間が欲しいと。そう言って。 「……今すぐでなくてもいいんだ。でもいつか来てくれたら嬉しい」 その言葉に、「有難う」と返した女性の心に闇がなかったことだけは、彼女の心を探った星龍にとって一つの救いだっただろう。 ――そうして、数十分の後。 別れ際、丁寧に頭を下げた女性に対して、香夏子がそっと声を掛ける。 「……香夏子は、宮部香夏子。貴方の、名前は?」 「……聞いても、つまらない名前ですよ?」 苦笑混じりに返した自身の名前を聞いて、香夏子は小さく頷いた。 今は既に過ぎた、秋を意味するその名前。その名を、また会うときまで忘れないという、決意を込めて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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