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リベリスタならできると託す、つらい仕事


 赤い風船、白い風船。
 真っ黒な空に赤い月。
 吸い込まれるように飛んでいく。
 パレード。
 地面から起き上がり、わさわさ衣のすそを翻し。
「よくしてくれなくちゃ、悪戯するぞ」
 巨大なかぼちゃ。
 かぼちゃ?
 オレンジ色に赤のしましま。
 ……へたが赤い。
 かぼちゃには、へたが五つあるか? いや、ない。
 ざくり、ざくり。
 かぼちゃにつきたてられる万国旗。
 パレード。
 おかしなねじくれた杖を掲げて、旗を掲げて。
 調子はずれのアコーディオン、ぶかぶか吹き鳴らされるゆがんだラッパ、でたらめに打ち鳴らされる太鼓。
 パレード。
 かぼちゃに丸太を差し込んで、みんなでかついでいこう。
 おいしいヌガーを振りまきながら。


「持ってきて帰ってもらった情報から集中解析。『パレード』の具体的日時と場所が分かった」
 モニターに表示される、地方都市のハロウィンイベント。
 大規模な市民参加パレードだ。参加団体ごとに趣向を凝らした紛争をして、大通りを練り歩く。
「だから、多少おかしなのが混じっても、やらかさない限り『気合入った扮装』と思われる。やつらも何もしない。ただお菓子を配るだけ」
 嫌な予感がする。いや、もはや経験則だ。 
「パンプキン・ヌガー。すぐに食べれば害は無い。三日たって忘れた頃に爆発する。一般人は死ぬ規模」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は無表情だが、非常に怒っているのは立ち上る気配で分かる。
「配らせられるのは、アンデッドの扮装をさせられた子供のE・アンデッド」
 いかにもな衣装ではなく、季節がちぐはぐな普通の子供服に血のり。
 どす黒いうっ血。真っ青な内出血。黄膿。
 決して可愛くない、不気味さを際立たせた様子。
「言動に制限が掛けられてる。ゾンビっぽい言動しか出来ない。けど、心は生前のまま」
 イヴの表情は変わらない。
「すごく気味悪い。人からそういう反応されて傷つくたびに、ヌガーを人に渡すようプログラムされている屍人形。操っている奴らがいる」
 調子はずれのアコーディオン、ぶかぶか吹き鳴らされるゆがんだラッパ、でたらめに打ち鳴らされる太鼓。
「こいつら三人の合奏を止めれば、アンデッドはヌガーを配るのをやめる。だけど……」
 アンデッドを倒さなければならないのは同じだ。
「町中お化けだらけのイベントをやってる。戦闘もこちらもお化けの格好で行けば、そういうアトラクションなんだなとスルーされると思う」
 リベリスタ達は違和感を覚える。
 これではこの子供のアンデッドは……。
「わざとわたし達に退治させようとしている。楽団はアンデッドを盾にしてすぐに逃げる」
 イヴの無表情は変わらない。
「今回の作戦は、アンデッドの討伐。楽団はおまけ」
 イヴの無表情は変わらない。
「どうするかは、みんなに任せる」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月30日(日)23:33
田奈です。
 みんなは、僕らが嫌いなんだね。
 好悪の情に関わらず、アンデッドを狩るのがリベリスタの仕事です。
 
 E・アンデッド『パレード』×8
 *不気味な言動しか出来ないようにできてます。
 *人から気味悪がられたと感じると、悲しくなってヌガーを撒きます。
 *バルネラビリティ・彼らを見ているとイライラします。
   神近範・「怒り」付与。ダメージ0.彼らはこの能力に手番を消費しません。 
 *タフです。「楽団」をかばいます。
 *噛み付き:物近単 「麻痺」付与
 *ひっかきまくり:物近範 「毒」付与   

 フィクサード?「楽団」×3
 *アコーディオン、ラッパ、太鼓の三人組。
 *戦闘となったら、『パレード』を盾にして即逃げます。
 *「不協和音協奏曲」:深遠敵全・ダメージ0、「不吉」、「不幸」、「麻痺」付与
  三人の合体技です。おのおの手番を消費します。
 *戦闘開始後3ターンで逃走を完了します。

場所:ハロウィンパレード会場
 *夜です。あちこちに照明があるので、戦闘中、視界に不自由は感じません。
 *足元は気にしなくてかまいません。
 *人目はハロウィンを装う限り、さほど気にする必要はありません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
尾上・芽衣(BNE000171)
マグメイガス
音更 鬱穂(BNE001949)
クロスイージス
カイ・ル・リース(BNE002059)
スターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
覇界闘士
三島・五月(BNE002662)
ナイトクリーク
ジル・サニースカイ(BNE002960)
ホーリーメイガス
天船 ルカ(BNE002998)
ホーリーメイガス
ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)


 闇に浮かび上がる、オレンジ色のかぼちゃランプが、街中にぶら下げられている。
 お化けの扮装をした子供達の行進。
 パパとママと手をつないで、アーケード街を練り歩く。
 トリックオアトリート。
 商店街の店先で、配られる小さなお菓子の包み。
 お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ。
 バスケットに溢れるお菓子。
 笑顔。
 親子連れ。
「どりっぐ、おあ、どりーど」
 濁った声。
 げけっ、げけっという引きつった笑い声。
 扮装というには汚れすぎた、リアルすぎの、悪ふざけにもほどがある、ゾンビ。
 こんな格好でこんな真似させるのは一体どんな親なのかと見れば、これもふざけている。
 中世ヨーロッパの道化のような、やけにきらびやかな格好。
(こりすぎだ。どっかおかしいんじゃないか) 
 それでも、子供達にお菓子の包みを渡す。
 ぬたりとやけにぬめっていて、店主の引っ込める手がほんの少しだけ早かった。 
「……ごれ、あげづ」
 お菓子が置かれた台の上に、子供達は次々と飴を置いていく。
 小山になった飴に店主が何か言う前に、大人たちが子供達を呼んだ。
 ゾンビの格好をした子供達は、横道にそれていく。。
 机の上にはやけに陽気な包み紙の、パンプキンヌガー。
 横道の奥は、どこまでも続く暗闇。
 後を追おうと言う気分にはどうしてもなれなかった。 

 よくしてくれなきゃ、ひどい目に合わすぞ。



 狼娘、ハートの女王。ウォーキングデッドに鳥男。
 なぜか水着に二丁拳銃。片目を隠した下駄履きの子供。きわどい悪魔に大がまを携えた死神。
 調子はずれのアコーディオン。
 ラッパに太鼓。
 もつれるように歩き、げけげけと不快に笑い子供達を歩かせる。
 大通りから少し離れた空き地で、リベリスタ達はパレードさせられる子供達の向こう。
 三人きりの楽団に目を向けていた。
「アークだよ」
 のっぽのラッパが、パパラッパと吹き鳴らす。
 寸足らずのズボンから、にょっきりと足が突き出している。
「リベリスタだよ」
 ちびのアコーディオンがブンブカブと引き鳴らす。
「しゃしゃりでてきたよ」
 デブの太鼓が、ぼかぼんぼんと打ち鳴らす。
「やる気だよ」
「子供を殺すのが大好きなのさ」
「俺達のことを睨んでいるよ」
「大人を殺すのも大好きなのさ」
 勝手なことを囃し立てる楽団は、ほいほいとパレードの背中で何かしている。
 ぜんまいを。
 背中に取り付けられたぜんまいを巻いているのだ。
 カリと巻かれるたび、げっけっっと、引きつった声、びくびくと痙攣する手足。引きつる顔の筋肉。
「この戦場に安全な場所など無いわよ! 串刺しになりなさい!」
 片目を眼帯で隠した悪魔、『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960)の投げナイフが無数の刃になって放たれた。
「おーほっほっほ。穴だらけ」
 のっぽがしゃがむと、びっくりするほど小さくなり、パレードの陰にすっぽり隠れた。
「こわいこわい。子供達が穴だらけ」
 ちびはひょいとみをかがめると、パレードの中にまぎれてしまった。
「串刺し串刺し。穴だらけ」
 デブが手をたたくと、パレードはデブの前で両手を広げた。
 傷ついたのはパレードの子供だけ。
 ありふれた戦隊ヒーローのTシャツの腕に胸に腹に申し訳程度の血をにじむ。
 もう血液は流れていないのだ、この子供達は死んでいるのだ、攻撃しないわけにはいかない存在なのだと、アンデッドとの戦闘経験を持つリベリスタには分かってしまう。
(E・アンデットは倒さなければいけない敵ですが……それでも……心まで傷つけるような事は許せないです。楽団は絶対に倒したいです)
『ネガデレ少女』音更 鬱穂(BNE001949)は、アンデッドの扮装。
 それゆえに、余計に際立つ。
 パレードは死んでいる。
 鬱穂は生きている。
 編み上げられた術式から、異界の業火が召喚され、仲間を巻き込まないように、楽団を狙って撃ち込まれた。
 その楽団に覆いかぶさるようにして、炎に身をさらすパレードの子供達。
 どす黒くこげて、衣服がぼろぼろと炭と化し、皮膚が赤黒く焦げる。
 その子供達を宙に放り上げて、無傷の楽団は、楽器をケースに収め、逃げる準備をしている。
 幻視を使わず、鳥頭のまま。
『夢にみる鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)は、子供達と楽団の間に割り込んだ。
 とてもよく出来た被り物。
 きときと、きょときょとと首が動く。 
「みんなうまくお化粧してるのダ~。おじさんも鳥さんの被り物してきたのダ」
 楽団からパレードの子供達を引き離すため。
 できるだけ楽団が逃げる方向とは逆に子供達を誘導しようと心がける。
 猫背のまま、肩をすくめ、充血した目玉だけをぎょろりと動かし、子供達は、げけけっと笑う。
 ぬたりと、やけにぬるぬるした手でカイの服のすそを握った。
「おいおい、子供達」
「およそのおじちゃんじゃなくて、お前らのおじちゃんと仲良くしとくれ。お前らは俺達といなけりゃなんねえよ」
「知らない人についてっちゃなんねえ」 
 何が起こるかわかったもんじゃねえからなぁ。
 呼ばれると、カイを素通りして子供達は楽団に近づいていく。 
 楽団が笑う。
 つられて、げててっと子供も笑う。
(アンデッドの子供たちハ、いったいどこから連れて来られたのダ? 地面から起き上がり…? 墓を暴いたのカ!? 子供を操って悪巧みなんテ許せないのダ。楽団撃破狙うのダ!)
「無駄無駄無駄!」
『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)が、スクール水着で秋の夜を駆け抜ける。
(やっぱり出たか、ピエロどもー。こいつらが黒幕なのかな。まだ他にもいそうな気もする、けど……。ま、そんな詮索よりもまずは撃退だね) 
 訓練されたリベリスタであると自認する虎美にとしても、楽団をそのまま逃がすつもりはなかった。
 パレードが楽団をかばうのは分かっている。
 オートマチックとリボルバーの二丁拳銃から打ち出される無数の弾丸が、ようやく楽団の一人に届いた。
「なんだって、おいら怪我してるの?」
 あれ、おかしいなとラッパが言う。
「そりゃあ、おまえ」
「人攫いがへたくそだからさ」
 その姿を見て、アコーディオンと太鼓が笑った。
 追従して、パレードの子供もげてげて笑う。
 楽団は調子はずれな音を出し、調子はずれな歌を歌った。

 死んだ子供はいいもんさ。
 なかない、はしゃがない、わめかない。
 言うこと聞くし、盾にもなるよ。
 連れ歩くのもいいもんさ。
 作り方は簡単さ。
 さらって、お部屋に閉じ込めて。
 しばらくほおっておけばいい。
 運がいいのか悪いのか、動き出したのがいいもんさ。

 インコの目が大きく見開かれる。 
 カイが予想したものより、子供達は過酷な目にあっていた。

 かつて、いなくなったときも半ズボンだったのだろうか。
 神隠しにあった子供だった『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)は、むかむかする胸元を抑えながら、魔力循環術式を展開させる。
(楽団は、要するに一般人を人質にとって僕達に幼子を殺させたいのでしょう。苦悩する様を楽しむのが目的だとすれば、反吐が出るくらい完璧な行動ですよ)
 命じられれば、パレードの子供達は人混みに紛れ込み爪を振るい、生きた子供達に噛み付いて回るだろう。なきじゃくる手にパンプキンヌガーを握らせながら。
(パレード達への嫌悪感? そんなものよりも楽団に対する怒りの方が遥かに勝ります)
「下衆共め。その行動の全てが醜悪です、苛々します。外道には鉄槌を。潰します」
『鉄腕メイド』三島・五月(BNE002662)は、お気に入りのメイド服ではない。
 今日の彼は、楽団の命を刈る死神だ。  
 ラッパに向かって駆け込むと、広げた掌がそのわき腹から体の内部をめちゃめちゃにする掌打をくりだした。 
「いてえよ、いてえよ。おいら動けなくなっちゃった」
 ラッパが泣き言を言い出した。
「そいつぁ大変だ、兄弟」
 アコーディオンが、ラッパに投げられたナイフを防いだ子供と手をつないだ。
「なげえ付き合いだったな、兄弟」
  太鼓が、ラッパを焼こうとした炎を防いだ子供を小脇に抱えた。
「おめえの子供は、俺らが面倒見るから心配すんな」
 そう言って自分を取り巻く子供の中に混ぜてしまった。
「楽団は永遠さ。そうだろ?」
「誰かが残ってりゃ、それでいいのさ」


 ラッパ吹きに最期はなかなか訪れなかった。
 盾になってくれる子供もいなくなり、雨あられと降ってくる鉄を全部のた打ち回りながら避けなくちゃいけなかったから。
 鬱穂の正しく調律された魔曲をくらい、体から血が止まらない。
 毒で青黒く変色した肌が、パレードの子供達のもの以上に死を想起させた。
 それでも、生来の頑丈さで、未だに死ねない。
 ただひたすらに逃げようと、のた打ち回る。
「ふふ……。忘れた頃に爆発させるなんて。本当に趣味の悪いお方。この場で倒れてくださいませんこと?」
『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は、目の前で苦痛に悶える顔を見るほうがお好みだ。
 ちょうど今のラッパ吹きのように。
 今宵のハートの女王のギロチンは、魔力の矢で出来ている。
「ワォォォオオンッ!! 逃がすかぁっ!」
 人狼娘の扮装をした『犬娘咆哮中』尾上・芽衣(BNE000171)が、流れるような身のこなしで風を切り裂く蹴りで作った刃を、ラッパ吹きに叩きつける。
 ぱくりと、スイカが割れるように頭が割れた。
 ラッパ吹きは、そのまま動かなくなった。
「おお、なんてこった。兄弟」
「んだけどよ。お前の命根性が汚かったおかげで、俺らの子供達はまだみんな立ってるぜ」
「すげえ奴だぜ、尊敬するよ」
「今日の酒の一杯目は、お前のために飲むからよぉ」
「俺たちゃ、こんだぁラッパ吹きを探さなきゃ」
「今度は、もっと人攫いが上手いやつにしねえとな」
 子供達を盾にして、楽団二人は勝手なことを言いながら、ほいさかさっと背中に楽器を背負い込んだ。
「そんじゃあ、リベリスタさん。子供達をよろしくな」
「かわいそうな子らだからよぉ、精々優しくしてやってくんなぁ」
「お前ら、そのにいちゃんねえちゃんと遊ぶんだ。いいな、遊ぶんだぞぉ!?」
「ラッパ吹きにもやさしくしてやってくんなぁ」
「あばよぉ」
 すたこらさっさと去っていく。
「しまったっ!楽団がっ!!」
 芽衣が声を上げる。
「逃がさないよっ。ここで散れ!」
 虎美の精密銃撃がその背に追いすがる。
 それをパレードの子供達がかばった。
 死者すらも滅ばす一発。
 八人が、六人になった。


 薄気味悪いというのは、人の足を遠ざける。
 ティアリアの張った結界も、功を奏していた。
 普段着の子供のゾンビなんて、ハロウィンには趣がなさ過ぎる。
 楽団をかばい続けたパレードの子供達は、今にもぼろぼろと崩れだしそうだ。
「アンタ達には同情する。申し訳ないとも思うけど、それでも全員、此処で倒れてもらうわ」
 ジルは、正面から子供達を見てそう言った。
「ごにごっごぉ~、ごにごっご~」
「づがまえづぞぉ~」
 先程までと違い、近づいてくる。
 痙攣する眼球。
 げ、けっ、げっけっけっと、口の端から泡を吹きながら笑う血まみれの子供達に、どんな言葉をかけるべきなのか。
(……でもせめて、気味悪がらずに居てあげたい)
 ジルの手でばら撒かれる無数のナイフは、安らかな眠りを呼ぶためのもの。
「どりのはでをむじれ~」
 子供達は、自分達のそばにいたカイに追いすがる。
 そう感じたくないと思っているカイの腹の底に、じわじわと湧き上がってくる重苦しく熱いもの。
「でも本当はみんな、とってもかわいい子たちなんだよネ」
 優しく接したいのだ。
 カイの言葉に、子供達は鬼の首を取ったような顔をする。
「ほんどうはっで、いっだな?」
 パレードの子供達は、かわいらしい、子供らしい言動はできない。
 楽団好みの、人の揚げ足取りで、こまっしゃくれて、生意気な、人の好意を地面に叩きつけて踏みにじる、子供の嫌なところをことさら強調した言動。
「いばはかわいぐみえないどで? こで、あげる」
 硬直して回らない舌。
 ポケット一杯に詰め込まれたパンプキンヌガーをつかみ出し、カイの鼻先に突きつけながら、もう片方の変色した指先が叩きつけられる。
 夜目にも鮮やかな羽毛が飛び散った。
 芽衣の脳が真っ赤に染まる。
「ゥゥゥ……。いい加減。やられちゃえよぉおォォッ!」 
 叫んだ声に、涙が混じる。
 集中する間も我慢できずに、蹴り出された空気の断層が一人の子供を地に伏せさせた。
 小さな手から落ちるヌガーをカイの大きな手が受け取った。
 言葉もない。
 男手一つで三人の娘を育てているカイに、言葉もない。
「……それでも倒さねばならない敵なのダ……」
 禍事払いの光を発しながら、インコのくちばしが小さく動いた。
 カイや芽衣を引っ掻き回した女の子に向けて五月の拳から噴出す炎が、穿たれた銃痕から吹き上がる。
「こで、あげる」
「こで、あげるで」
 突き出されるパンプキンヌガー。
 派手に殴り飛ばして、「敵」の意識を出来るだけ自分に向けるようにするのが五月の狙いであったけれど。
 ヌガーを受け取るため、握った拳を開こうか。
 迷う刹那に、その腕に、子供達が砕けた歯でかぶりつく。
「ふふっ、大丈夫かしら?」
(……やはり、仲間とは言え苦痛に歪む顔を見ていると笑みが零れてしまいますわ。我ながら趣味が悪いですわねぇ……ふふふっ♪)
 ティアリアが召喚した福音に、ルカの福音が重ねられる。
 奇跡を起こした後は、すばやくパレードの子供達の手の届かないところへ。
 倒れることも、怒りに身を任せることも許されない癒し手達は、子供のそばによって言葉をかけることも許されない。
「ごめんね……ごめんね……私には助けてあげることはできない」
 五月に群がる子供に向かい、あらん限りの禍を束ねた魔力の花束をプレゼントするしかない。
(魔力が続く限りは……)
 魔曲・四重奏。 
 それが、鬱穂の鎮魂歌。
「ごめん。あいつ等は絶対止めるから、今は眠って」
 驚異的な集中力が、虎美の中の拳銃を扱う部分全てを、完全に目覚めさせた。
 先程の上を行く、鎮魂の弾幕。
 丈夫に、丈夫に、楽団をリベリスタから護り、最上級の嫌がらせをするために作られたパレードは、これにて完全に崩壊した。
 後方に自らを閉じ込めて至るかが、走り出した。
「大丈夫、誰も君達を嫌ってなんかいないよ。だから安心してゆっくりお休み……」
 子供の死体を抱きしめ、優しく語り掛ける。
(せめて彼等の心だけでも救えたなら、討伐ではなく救済だったのだと信じたい)
 ティアリアが、仮初めの女王が声を上げる。
「これにて、アトラクションは、見世物は終了ですわ」


 虎美は、哀れなパレードには短い黙祷をささげると、きびすを返した。
 まだ、急いでするべきことが残っていた。

 すぐに食べればおいしいよ。
 ほっといたら、忘れた頃に爆発するけど。

「アークに参加するからして、こういう依頼にも参加するのは、解っていたのに……。なぁ」
 芽衣は、パンプキンヌガーを回収しながら小さく呟く。
「……あのパレード。他でも同じことしているのかなぁ?」
 万華鏡には感知されていない。
 だが、奴らがこの悪ふざけをやめる道理はなかった。
 新しいラッパ吹きを探すといっていたのだから。

 鬱穂は、パンクロックを奏でながら、パンプキンヌガーを回収し、代わりに新しい菓子を手渡した。
 先程の戦闘は、今度公開されるゾンビ映画のアトラクション。
 パレードの子供達は、精巧に出来たお人形。
 負けたので、彼らがくばったプロモーション用お菓子は回収。
 五月のアイデアは、別働班の尽力でそれっぽく偽装された。
『このキャンディ、持ってませんか? お菓子セットと交換できます!』
 と、プラカードを持ったキャンギャル風の別働班のお姉さんがアーケード街を巡回し、チラシとお菓子を配る。
(あんなに薄気味悪かったのは、映画のキャラだからだったんだ。そりゃ、ハロウィン関係ねえよな)
 アンデッドの扮装をした鬱穂が歩き回るのを見て、小山とヌガーを詰まれた店主は頷いた。
「あ、あっちにあるよ」
 勘と鋭い目を駆使して、虎美は道路に落ちているヌガーを拾っていく。
(他に何か手掛かりとか無いかも探しておきたいね)
 カイの手には、回収されたパンプキンヌガー。
 パレードの子供達が直接カイに渡したものもまじっていた。
 カイは包み紙を解いて、口に入れる。
 かぼちゃのほっこりとした甘味、ねっとりとした舌触りが口に広がる。
「でも、出来れば苦めのコーヒーヌガ……いや深炒りビターコーヒーも欲しいのダ」
 ひとときの夢の濃厚な甘さを、現実の苦さで洗い流すために。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 ヌガー回収までしてくれるとは思わなかったです。
 戦闘で疲れてるのに。
 別働班、感激。

 皆さんのおかげで、三日後の連続爆発騒ぎは起こりません。
 楽団の人攫いも、しばらくは三分の二まで被害が軽減されるでしょう。
 パレードの子供達もゆっくり眠れます。
 ゆっくり休んで、次のお仕事がんばってくださいね。