● 人ではないモノのうなり声が聞こえる。 数は恐らく十前後。自身の周囲を取り囲み、見えた餌を早く食らいたいと言う欲求を顕わにしながら、しかし奴らは自分に襲いかからない。 理由は解っていた。双手に握る長剣。ささやかな抵抗の証。それらが本能的な欲求に対して本能的な警戒心という壁を作り、奴らが襲いかかるのをギリギリのところで堪えさせている。 だが、それが長くないことを奴らは知っていて――自分もまた、それを知っていた。 ――かかって来いよ。 小さく呟いた。同時に、柄にギリギリと言う音が鳴る。否、それは自分の歯ぎしりから聞こえた音か。 奴らのうなり声は、かつての記憶を鮮明に蘇らせてくれた。 叫び声、何かがちぎられ、滴る音。ごきごきと骨は容易く砕けたことを示す異音に、慌てて自分が部屋に向かえば、在ったのは両親の死体と、逃げ去っていく奴らの後ろ姿。 それが、目の前に在る。 止める者もなく、故に邪魔だてもない。鞘を払った双剣が合図となれば、襲いかかる奴らに対し、自分は唇を小さく歪めて、 「……父さん、母さん」 小さな祈りの言葉を、呟いた。 ――そうして、数分後に聞こえた咆哮が、全ての終幕を告げるのである。 ● 「エリューションの討伐をお願いしたい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉はいつも通り、平坦である。 対面するリベリスタらも、流石に一年近くの付き合いともなると慣れたもので、素っ気もない口調に対して「敵は?」と聞き返した。 「対象は犬のエリューション。フェーズは2。数が多く、連携が取れている。 能力は噛みつくか、咆哮を響かせて複数対象を怯ませるかの二つ。能動スキルがそれだけしかない分、自然、フィジカル面の能力の高さは言うまでもない。 それと、今回の依頼はあまり長く相談期間を設けられない。一般人の被害と敵の増加が余りにも早いため、迅速な解決が求められているの」 「……それは」 些か、否、かなり厳しいところである。 莫大に能力の高い一個体と、些か劣っても連携の取れた複数体との戦いはどちらが厳しいか――言うまでもなく、それは今までリベリスタらが積み上げてきた実績が解答となっている。 単純故に相手がしづらい。一同がどうすべきかと思案を巡らせるよりも早く、更に少女は言葉を継げる。 「それと、もう一つ。今回の戦いにはあるアーティファクト使いが参戦している」 「……何だって?」 「対象は十代半ばの少年。今回のエリューション達に家族を喰われた被害者の一人で、その恨みからエリューション達を殺すべく向かっていった。 彼の持つ武器は二つの長剣。名は『擬式付与・コラーダ』『同型・ティソーン』。これらを手に入れたかは不明だけど、偽物ながらに強力なその武器によって、少年はどうにか持ちこたえている……って状態」 ただ、とイヴは一言を置き、 「……知っての通り、アーティファクトは所持する一般人をエリューション化させる。 みんなが介入して勝利しても、この戦いが終わる頃、少年はアーティファクトの力によって革醒させられる。その過程か、結末をどうするかは……みんなに任せる」 其処で、瞑目。 努めて表情を動かさないように、イヴは訥々と、しかしハッキリと、最後の言葉を発した。 「……ハッピーエンドって、難しいね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月04日(金)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 薙いだ剣は、何時から空を裂くのみで終わっただろうか。 「――――――っ」 肉に喰らいつく牙の痛みも、最早鈍く感じる。 獣達が動き回り、その度に朱が舞う視界は茫洋なものとして捉えつつあり、思考の停滞は自己の身を操り人形のごとく、単純かつ緩慢な動作しか行わせない。 それでも、彼は折れない。 折れることを許さない。彼の心が、彼の身体に。 力が及ばなくても、技が到らなくても、 それでも、叩き付けたい、思いが有るのだと。 ――だから、そう。 今にもふらつき、倒れそうなその身体に向けられた牙が。 「加勢させて貰うョ……!」 『彼ら』によって防がれた事は、きっと、その意志に運命が報いた、と言うことなのだろう。 ● 登場は唐突だった。 出でたリベリスタは合計で八人。『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)が突出して両の手に握る得物を振り回せば、その軌跡にエリューションらの赤が滲む。 「何だ、アンタら……っ!?」 「まずは野犬駆除よ。纏めて相手してあげる!」 少年が驚嘆と怒気を滲ませた叫びを言い終えるより早く、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が闘いの『号砲』を撃ち放つ。 つい先ほどまで少年一人を狙うために固まっていたエリューション達は、纏めてそれを喰らう形となる。これではたまったものではない。 一旦、距離をとって体勢を整えるとともに、突如として現れた新手に警戒心を抱いたエリューションらを、彼女は覚めた心地で見ていた。 唐突に現れた、加勢。少年からすれば、自身の獲物を横取りする邪魔者、と言ったところか。 その怒りをやんわりと受け流しつつ、『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)が、何処か悲しげな笑みを見せた。 「気持ちは判るぜ。望む力を得ちまったら使うしかねえもんな……」 でもよ。そう言って、彼女は手挟んだ数枚の符を高々と頭上に掲げる。 符より出だされる燐光が閃光に変わり、それが周囲に拡散される。護法の異界が形成されたと同時、飛び出す影が言葉を継いだ。 「最初に一つ、お伝えしておかなければなりません。その剣は持ち続けると貴方をアレと同じものに変えてしまいます」 「……!」 「我々の仕事はそれを止める事と、アレを始末することです」 『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(BNE000681)。 自身の身体を餌として敵の只中に飛び込んだ巨漢に多数のエリューションが群がるものの、耐久性に長けた彼には爪も牙も易々とは通らない。 「……家族の仇を討とうと思うのは至極当然のことです」 それに気を取られている隙に、接近して刀を振りかぶるのは『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)。 眇める瞳は何処までも澄んでいて、意志の濁りを感じさせない。 世界を害するものを許さないと言う、唯一つの信念の下に。 (ですが、少年がノーフェイスになるとなれば見過ごせません。それによって、彼が仇を討てなくなろうとも) それが、彼女の正義だから。 「……貴方の気持ちはわかります。許されるのであればその手で終わらせてあげたい、とも。 ですが、それが破滅と等しい意味を成すのであれば――」 言葉の途中、自身にも飛び掛ってきたエリューションを盾で受け止めつつ、『不屈』神谷・要(BNE002861)は言葉を漏らした。 「――看過するわけには、参りません」 矜持のために、任務成功のために、少年自身のために。 抱く思いは人により様々でありはしたが、その行為は集約していた。 理由等、語るまでも無い。 彼らは、リベリスタだから。 ● 彼らの態勢は前のめりである。 構成上仕方がないといえばそれまでだが、美峰とミュゼーヌを除く全員が前線に突き進んで囮役、攻撃、少年自身のガードを務める者等、殆どが一個に固まってエリューションの群に飛び込むことで、戦場は一気に苛烈さを剥き出しにした。 (復讐、っすか) 飛び掛るエリューションの後肢をすれ違いざまに切り裂きながら、『新米倉庫管理人』ジェスター・ラスール(BNE000355)の胸中は――彼には珍しく――戦いの最中に於いて、其処に向いてはいなかった。 (オレもあの時の記憶があったら、同じように誰かに復讐しようと思ったんすかねー。 相手倒しても、戻らないのは分かってても) ジェスターにはナイトメア・ダウン以前の記憶が無い。 仮に、その記憶が戻ったとして――其処に大切な者の死が有ったとしたら、彼はそれを起こした元凶を恨むであろうか。 答えは出ない。少なくとも、今焦って出そうとは、彼は思わない。 意を決めた彼が為すのは、刃と虎爪の多角攻撃。読めぬ方向から次々と繰り出される『Lesath』の攻撃は、瞬く間にその毛皮をびたびたと血に濡らしていく。 「……っ」 先の自分のやり様とは違う、戦いなれた者達の動きに思わず息を止めている少年。 その傍らに立つ少女――『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)が、眼前のエリューション達の動きを確認しつつ、問うた。 「憎いでありますか」 「……何?」 「家族を奪った物が、憎いでありますか」 大前提とすら言える問いに、少年はかっと怒りを露にした。 「当たり前だろ!? アンタは悔しくないのか! 仮に親が、友達が殺されたら……!」 明確な素性を表そうとすらせぬリベリスタらに対する疑問は、少なくとも今は横に置いたらしい。 少年が発した疑問の怒声を、ラインハルトはゆるゆると首を振ることで否定した。 (――けれど) その慟哭を、痛みを、何故正しき方向に向けて、正しき力と為さないのかと、ラインハルトは思う。 解っている。リベリスタとして、剛き軍人の子としてその意志を継いだ彼女自身と、この少年には決定的な差がある事は。 それでも、それでも、それでも、と。 少女の祈りは、断ち切れない。 「……フェーズ2にしては、個体の能力は低いですが」 戦闘は続く。 死にかけたエリューションの口腔に刀身を突き刺し、刃を上へ捌く事で頭蓋を砕く。 淡々と呟く要の細い身体には確かに傷が無いが、代わりに浮かぶ汗の多さが、その疲労がどれほどかを表している。 「やはり、数が多いのが問題ですね」 冴に至っては、その色が更に濃く現れている。 疲れの重さに緩んだ動きを縫われ、肉を食いちぎられた腕の痛みが激しい。美峰の癒術が助けになることで保てては居るが、その回復量をもっても完全に癒しきる事は出来ていなかった。 前衛と後衛で、近接攻撃と後方からの咆哮による撹乱。仮に前衛側で深く傷ついた個体が居たとしたら、後衛側とスイッチして役割を交代することで再び戦線を維持する。 個体ごとの能力がすべて同等であるからこその方法であり、何より彼らの交代のタイミングが絶妙であるため、ダメージコントロールとしての役割はかなり果たされている。 それでも、彼らは着実に敵の数を減らしていった。 ミュゼーヌの散弾と美峰の術符による氷雨が辛うじで立っていた後列のエリューションを次々と絶命させ、残る前衛のエリューションらも、後方からの援護をなくした状態ではその精度が確実に落ちている。 ならばと後衛側に行こうと思えば、それを迎撃する形で正道が鉄腕を打ち込んでくるため、具体的な対処の方法が見つからない。 「とっとと……」 未だしぶとく生き残る道を探し続けるエリューション達の近くに立った少年が、その手の双剣を払う。 「くたばれ!」 血飛沫、次いで業火。 巻き込まれたエリューションの大半は死に、残る数は半数を切るか切らないかと言ったところ。 横槍が入った事は業腹ながらも、この状況にまで追い込むことが出来た少年は、それに気勢を得て更に剣を振りかぶるが―― 「……何の、真似だよ」 其処で、止まる。 振り返りもせずに、少年が声をかけた対象――彼に銃口を向けたミュゼーヌは、何も語らない。 代わりに言ったのは、正道だった。 「剣の弊害については話しましたな? そろそろタイムリミットです」 「知るかよ、俺はコイツらを殺したいだけだ!」 「復讐が終わった後、どうするつもりっすか? その剣を持っていたら、いずれこの犬達と同じ化け物になってきっと誰かを傷つける。君のせいで、君と同じ境遇の人が出ても、本当に構わないんすか?」 「最後まで貴方自身の手で、本懐を遂げさせたくはあるわ。 でも、そうしたら貴方はもう戻れなくなる。そうさせない為に……復讐劇から退場なさい!」 変貌の意味を教えるために獣化した腕を見せたジェスターが、銃口を定めたミュゼーヌが、それぞれ声をかけた。 叶うことなら、出来る事なら、貴方には人として留まってほしいと、願いを込めて。 ――戦場の只中。喧騒に満ちている状況にて、少年は、寧ろ静かに、笑った。 「自分の意志を押し付けるなよ。戻れなくたって、俺は構わない」 ● 予想外なのは、敵方の行動であった。 「っ、エリューションが……!」 未だ四体とある程度の数が残りながらも、誰も倒れていないと言う状況にこれは勝てないと踏んだのか、生き残ることを優先し始めた。 「易々とは、逃がさないっすよ……!」 あらかじめそれを見越していたジェスターが動き回りつつ、ソードエアリアルによって対象の思考を混乱させることである程度の均衡は保てるが、少年を止めるためにパーティを分断したこの状況では中々つらいものがある。 半数を切った段階でと言うタイミングは、リベリスタらが少年に行動を起こす時であったのと同時に、敵方の逃亡の機でもあったのだ。 それでも、今更向けた切っ先を戻す事は出来ない。 少年を相手にする三人、ミュゼーヌ、正道、ラインハルトはそれぞれ彼と対峙して武器を構える。 狙うはあくまで、彼の武器――身体能力を格段に上昇させると言う誉れの剣、コラーダ。 それを奪えば、身体能力を大きく減じられた彼から残る片方を奪う事は容易と見て、彼らは行動を開始した。 金貨撃ちの精撃が飛ぶ、気糸の罠網が舞う。 少年を捉えるために、その行動に制限をかけるためにと放ったそれらは、しかしギリギリのところで彼を掠めるのみで終わる。 「舐めんな――!」 接近しようとした彼に立ちはだかる、白の鉄壁。 視界を埋め尽くす業炎に全身を焼かれ、残り火に痛みを繋げられつつも、ラインハルトはその眼光を少しも弱めない。 「力無き人の憎悪と絶望。確かに、私はそれを知らない」 「……っ」 ともすれば傲慢にすら聞こえる呟きを平然と呟く、金髪の少女。 けれど、けれども。そう言葉を置いて、彼女は言葉を続ける。 「貴方のしている事は遠回しな自殺であります。 亡くした貴方がこれほど嘆く貴方の家族が、貴方の死を望むとは、私にはどうしても思えないのでありますよ」 戦場の最中に流れる、秒に満たぬ沈黙。 後に、少年は。 「――望まないさ」 「!」 通じたのかと喜色を浮かべかけたラインハルトに向けられた、視線。 それは、何処までも冷たく、鋭い――およそ彼女が望んだそれとは大きく違うもの。 「望めない。望みようが無い。もう死んだんだから。 そんな単純なことを唱える権利すら、思う権利すら、アイツらに奪われたんだ」 「――だから、俺のような弱っちい奴は、その権利を奪った代償を叩きつけるために、こうするしか出来なかったんだ」 血染めの身すら省みず、彼は、幾度の業炎を叩きつける。 アーティファクトに補助された少年の攻撃力は、決して微弱なものではない。寧ろ個人の能力としてはかなり高い部分に入る。 群体であるエリューションらの行動に撹乱されていた為に奏功しなかったのみで、こと少数に対して発動した場合の威力は決して侮れない。 神秘の炎に焼かれたラインハルトの視界が、緩やかに暗転をはじめた。 少年は、それを泣き笑いのような表情で見続け、血で凝った片手でその頭を優しく撫でる。 「化け物になってもいい。殺してくれて構わない。 最後なんだ。これが俺が真実やりたいと思う、最後のことなんだ。 だから――邪魔、しないでくれよ」 彼女が聞いた声は、其処で途切れた。 「――――――っ」 咆哮で眩んだ要の身体に、牙が突きたった。 空を汚す血の飛沫。消費した運命が倒れる定めを空回りさせる。 それでも、浮かぶ表情に苦味は無い。 群体に対する作戦と実力での圧し潰しに加え、逃亡時の対策まで企てていたリベリスタらにエリューションが生き残れる可能性は、最早何処にもなかったのだ。 彼女が思うのは、自らの痛みではなく、唯。 「貴方達は彼の英雄である『闘将』が剣なのでしょう。であれば、主君への忠義と騎士の栄誉と共に振るわれるべき剣であるはずです! 復讐の為に振るわれ、その上持ち手を破滅させるなんて結果は望んでなどいないでしょう。もしそれを望むような剣であるならば、私は貴方達を彼の英雄の剣であるとは認めません! 少年を、仲間達を護りたいという私の想いにどうか応えて下さい…!」 叫ぶ。少年にではなく、それが担う剣へと。 かつて何よりも忠義に尽くした騎士。それが賜った二振りの長剣に向けて、主の誇りを思い出して欲しい、と。 それが届いたかは、またも飛びかかるエリューションの咆哮に塗りつぶされて、解らなかったけれど。 (本当は、私も行きたかった所だが――) 背後に聞こえる喧騒を。少年の叫びを受けつつ、美峰は笑う。 「解ってるよ。適材適所だ」 符を介して鬼気を宿した腕が、更なる術に拍車をかける。 降り注いだ氷雨が、流れた剣が、エリューションらを次々と穿ち、切り裂き、また何体かを血の海に沈めていく。 「アンタら……っ!」 残りは、二体。 残る獲物を全て奪われるより早く、壁の無くなった少年がエリューション達の側へ向かうが…… 「例え、恨まれようと、望まれなかろうと」 「!」 「私は私の正義の為に、貴方を救います」 その眼前に現れた、セーラー服姿の少女が、少年に向けて剣を振るった。 ぎぃんと硬質な音が響いて、両者の得物を、身を震わせる。 その最中、冴は少年の双手に担う剣を見て、小さく語りかけた。 「誉れの剣。その模倣。私の道に誉れはありません。それでも正義を貫くのが私の誇りであり存在理由。その私の剣になることを望みますか?」 剣に、応えはなかった。 否、応えられなかったのか。 一瞬の鍔迫り合い。動作の停止の隙を縫い、再度飛来した正道のトラップネストが少年を絡めとり―― ぎ、ぱきん。 ミュゼーヌの銃弾が、その刀身を根元から砕き折ったが、為に。 がくんと、全身の力を抜かれたように体勢を崩した少年に接近した正道が、即座にもう片方を掴むその腕から、腕ずくでアーティファクトを奪い去る。 直後、犬の悲鳴が、少年を遮る冴の向こうで響く。 要とジェスターが、残る二体をそれぞれ倒し終えた合図であった。 「……ああ、」 その光景を唯見ながら、少年が、呟く。 「終わっちゃったのか。全部」 ● 「……別に、良かったんだ」 覚えず、声が漏れた。 俯き呟く自分の脳裏に思い出すのは、かつての常風景。 小言ばかり言いながら、家事をきちんとこなして、美味しい料理を作ってくれる母さんと、 家ではだらしない癖に、一度外に出ると社会人として誰に対しても生真面目に振る舞う、ギャップが可笑しかった父。 今の俺を形作ってくれた大切な二人。それを無惨に切り裂いた化け物に、無駄と知って怒りを覚えた俺を、アイツらは笑うだろうか。 笑わないだろう。そう思う。 けれど、 「自己満足だよ。解ってるんだ。それでもそうしなかったら俺は狂って死にでもしていたろうさ。 化け物に成っても構わなかった。殺されても構わなかった」 ――その思いを、アンタ達が壊した。 言おうとした、言えなかった。それが無駄だと解っていたから。 代わりに、無駄な問いを一つ、投げかける。 「なあ、聞きたいんだ」 頭を上げる。 その拍子に、涙が零れた。 「命を賭けてでも叶えたいという願いを、唯生きて欲しいって身勝手な偽善で潰すのは、正しいことなのか?」 返答はない。当然だ。此処はもう、あの戦場ではなく、只の病院の一室だったから。 惜悔の涙で滲んだ視界をこれ以上捉えまいと、俺は静かに瞼を閉じた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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