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【七罪】傲慢

●神聖にして荘厳なる論理不要の統制機構
 生まれながらに選ばれた者と言うのは実在する。完全なる特異点。
 異端にして異端の存在証明。有象無象から外れたる者。王にして王。神にして神として生まれた者。

 絶対にして無比、究極にして至高、原点にして既に極点、永遠不滅にして永劫不変、
 無欠であり常勝であり無朽であり不退にして全知全能、万知万能にして最強不可侵。即ち、完全。
 生まれ出でた時から世界の全てを見通し理解し発展させ革新させ終端の終端までを遍く凌駕し支配し統制し
 破壊し創造し統合し分割し展開し進化し到達し尽した存在と言うのは果たして如何に存在すれば良いのか。
 蓋世不抜、万夫不当。存在すらが罪であり比較の不在こそが罰ですらあるのに、
 裁ける者もまた己以外に存在し得る筈も無い無類の天性。
 
 嗚呼、この世はどうしてこれほどくすんでいるのか濁っているのか穢れているのか
 落ち込んでいるのか堕落しているのか崩落し失墜し堕胎し感染し壊死し腐敗し絶滅し尽くしているのか。
 生きていると、存在していると、光っていると輝いていると価値があると不可欠であると無二であると
 確実であると最高にして最優にして最善にして最終であると言える者が己しか無いとは。
 何と言う衆愚、何と言う汚物、何と言う不運、何と言う絶望、されど絶望の内からすら
 光明、明星、妙案、天啓、奇蹟、栄光、救済、豊穣を生み出し得る者もまた己しか無い。
 故に、であれば、然るに、当然、嗚呼、世は成るべくして成る。嗚呼、余りにも崇高なる我が意志よ。
 己が救世し、統治し、浄安楽土を築く以外に他は無い。

 それは覚醒め、立ち上がる。燦々と降り注ぐ月明かり。世界が祝福する声が聞こえた。
 完成された生。奇蹟の如き命が地より産み落とされる。この三千世界遍く全てを、
 当然の様に、至極当然の様に、自明の理である様に――支配する為に。

●失くした鍵を探す兎は断頭台の夢を見るか
 カレイドシステムが静かに律動する。対シンヤへ向けた集中運用の直後、
 捉えられたそれは、彼女――『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が
 この騒動の間もそのポイントをマークし続けていた事を示している。
「やっぱり出た。例の地点から、今回も2体」
 ブリーフィングルームのモニターに映し出される。
「1つは……何だろうこれ」
 眩し過ぎて良く見えない。強いて言うなら光の塊だろうか。
 カレイドシステムはそれをE・エレメントであると示しているが、
 余りにも不必要な程に煌々と輝き過ぎており、実態的な形状が把握出来ない。
「……もう1つは、大きな虫」
 くすんだ、濁った色をした大きな甲殻虫。只管横たわるだけのそれには、
 命の息吹が感じられない。停止している、停滞している、完了している。
 良く見れば、その周囲から金属の小鬼の様な物が湧き出しでいる。
 わらわらと、小さな小さな小鬼達が。生み出され、増殖し、蠢き始める。
「識別名、『傲慢』それに『怠惰』。先の調査から、この発生地点のどちらか、
 ないしどちらもに、何かが埋ってる事が判明した」

 更に映像を変えるモニター。今までは相手を好き勝手動かせて居た為に、
 不鮮明であった出現地点。その位置が今回のエリューション出現を受けて確定する。
「近い内に、大規模調査をする必要がある。その為にも、今回は負けてられない」
 これで計六体。そして付けられ続ける識別名。一度瞳を閉ざしたイヴが言葉を区切る。
「予知じゃなくて、これは……直感」
 色の違うオッドアイがリベリスタ達を一瞥する。何処か遠くを見る様な不思議な色彩に、
 けれど声音は酷く静かに、底冷えのする様な危惧を滲ませ。
「多分そろそろ、タイムリミット。何か凄く嫌な予感がする。
 注意して。多分この2つのどちらかが、鍵を握ってる」
 それが何か、分からない。けれど万華鏡の申し子たる彼女にしか、分からない事もあるのだろう。
 告げて、送り出す。その最後のリベリスタがブリーフィングルームを出る瞬間、
 イヴの小さな呟きが聞こえた。
「あ。今回も逃がすと融合するから」
 例え万華鏡の申し子でも、大事なことを言い忘れる事くらい、ある。




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月28日(金)23:30
 39度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 本作はyakigoteSTとの連動依頼となっております。
 こちらの相手は傲慢のエリューション。以下詳細です。

●依頼成功条件
 E・エレメント『傲慢』の討伐

●傲慢
 荒廃した世界を嘆き、蹂躙された大地を愛しみ、
 世界を己が支配する以外の救いは無いと確信するに到った光のE・エレメント。
 全てを救済する為に万天万地に挑む者。永劫の求道者にして永遠の超越者。
 非常識な程の耐久力を持つ反面、初期時点では大した能力は持ちません。
 調子に乗れば乗るほど強力な個体に進化し、任務達成に失敗すれば
 もう片側のエリューションと融合することで次の段階へ進化します。

・万物は我が前に頭を垂れる:神遠全。大命中。中ダメージ【状態異常】[ショック]

・神威は統べし我に宿る:自付。大回復、【追加効果】[物理無効]

・天命は悉くに我へ下る:自付。大回復、【追加効果】[神秘無効]

・EX七罪・傲慢:P・特殊
 クリーンヒット未満の攻撃を受けた時、命中・回避上昇。

●戦闘予定地点
 三高平市郊外の廃墟。時刻は夕方。人目は無く、光源は不要。
 敵は理不尽な位に眩しく激しく輝いております。
 足場は若干不安定ながらぺナルティが発生するほどではありません。
 障害物は老朽化して割れ落ちたコンクリート壁等、多数。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ホーリーメイガス
★MVP
霧島 俊介(BNE000082)
クロスイージス
ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)
インヤンマスター
アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
プロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
デュランダル
歪崎 行方(BNE001422)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)

●支配の論理に問いはなく
「これで、六体目……か」
 サングラス越しに見る視界は平常よりやや暗い。
 けれど、それは彼女。『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016) にとっては
 それ程大きな問題では無い。力を求め戦いを欲する彼女にとってはむしろ、視界に納めたそれ。
 既に4度目の対峙となる輝ける七罪が一柱。『傲慢』の力量こそが最大の焦点である。
 『貪欲』、『姦淫』、『暴欲』、そのどれもが一筋縄で行く相手では無かった。
 であればこそ、少女の口元には人知れず笑みが浮かぶ。
「はっ、傲慢だな。しかしまあ、ここまですっきりしてんなら逆に気持ちいいとも俺は思うぜ」
 拳を握る『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)にとって、この戦いは雪辱戦である。
 彼もまたかつて、『貪欲』と対しこれに敗北した。その苦味を青臭いと断じ、
 けれどソウルはそれに殉ずる。『傲慢』の鼻を折る為に、彼は此処まで来たのだから。
「残念ながら俺様は神様とやらが大嫌いだ」
 必要悪の神託。破壊と言う名の救済を記した書を片手に、
 『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082)が吐き捨てる。神様など大嫌いだ。
 彼が孤独に震えた時、神様は何もしてくれはしなかった。彼を救ったのはあくまで人だ。
 そう、だから、だからこそ。
「今存在するこの世界を……否定などさせない」
 『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が顕現したバスタードソードを握り締める。
 瞳を細め、煌々と輝くその異物を睨む。分かっている。世界は決して、美しくも優しくも無い。
 止められない悲劇も、不条理極まりない惨劇も、今この瞬間もそこらかしこで起こっている。
 それでも、彼は信じるのだ。この世界に積み重ねられて来た人々の想いは、命は、無駄では無いと。
「此処は何人もの人々が守ろうとした世界で、俺が生きるべき場所だ」
 そう、故に、ならばこそ。
「俺がくたばってこっちが崩壊するか、」
「この身が折れる前に、貴様が墜ちるか」
「さて、狡猾さ比べといこうか」「――精々、足掻かせて貰うさ」
 彼らは何でもない人の身で、人の身だからこそ、人の罪にすら抗ってみせる。

「E・フォース、では無いのね……」
 十分な距離を取り、集中を重ねながら『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)は考える。
 それは小さな違和感である。それはほんの小さな棘である。
 人の意思が介在していない、傲慢なる傲慢。神の如きそれ。それは全く理解出来ない物ではない。
 だが、その時点で既におかしいのだ。人が理解出来る以上、人が理解出来る概念で構成されている以上、
 『傲慢』の持つその意志は、人の物である筈だ。
 思念の革醒体でないからE・フォースではないとして。疑問が残る。残らざるを得ない。
 ではこの『傲慢』に宿ったその意志。人の罪を凝縮した様なその思念は――果たして誰の物なのか?
「さてさて、けれど傲慢であるということは必要なことではあるのデス」
 サングラスを掛け直しながら、『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)が無感動に呟く。
 彼女にとって、対するそれは端から紛い物である。慢心の極みは滅びるが必定。
 けれど傲慢なるその意志を、乗りこなす人間を彼女は知っている。
 だからこそ、彼女は其を罪とは認めない。『傲慢』を罪にするのはあくまでその個人の弱さであると。
「アナタが『傲慢』が罪だと言うのなら、程度が知れていると明かして見せるデス」
 両手に持った巨大な肉斬り包丁、肉斬リと骨断チをしゃらんと鳴らす。
 集中は十分、『傲慢』は文字通り、傲慢にして尊大にも同じ位置から動かない。
「……『傲慢』の名に相応しい悪趣味な姿ね」
 箱庭を騙る檻と名付けた日傘を射し、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が指先を手繰る。
 それは号砲であり、始まりの鐘である。彼女の目的は最初から『傲慢』の討伐等にはない。
 そう――醜悪で矮小な愚か者に身の程を弁えさせる事。
 彼女もまた、十分に傲慢の子であろう。けれどそれを恥じる事無く瀟洒に飾って冷笑してみせる。
 運命はいつだって、それに抗う子達にだけ微笑むのだから。
 完成されたと同じ場所で足踏みを続ける存在など、運命狂の視界には映らない。
 翼を広げた氷璃が詠う。
「貴方の真の姿をこの場に曝して辱めて上げるわ」

 あたかもその言葉を合図とする様に、俊介が、拓真が、ソウルが、行方が、そして天乃が距離を詰める。
 
●絶対の摂理に所以はなく
「……ひれ、伏せ」
 天乃が解き放った影のオーラが光の中に突き刺さる。ふるりと震えたそれはどうにも、
 確かに直撃した筈なのに、ダメージを受けた様には見えない。
「これは……皆、物理攻撃が効かない」
 その言葉に、彩歌が頷く。であれば彼女は距離をつめなくてはならない。
 1種の属性を完全に阻む光は当然の様に攻め手を鈍らせる。
 先手に於ける皮膜の破壊が彼女の仕事であればこそ。
 近付く、けれどその直後――放たれたのは圧倒的なまでの裂光である。
“―――控えよ”
 何処かからか聞こえた声と共に、『傲慢』の光の圏内に踏み込んだ、
 前・中衛の誰もに等しく電流を通された様な痛みと痺れが襲い掛かる。
 五人の動きが目に見えて鈍り、攻撃からも回避からも精細が欠け始める。
「このっ、俺より先にくたばんなよ!」
 直ちに俊介が癒しの歌を奏で始め、ソウルが体躯の痺れを解除する。
 流石に相殺とは行かないまでも、事前に付与しておいた浄化の鎧が、『傲慢』の体力をじわじわと削る。
 狡猾を標榜するリコリスの面目躍如と言った所か。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな、ってな。傲慢、てめえは実りのねえ、ただの徒花だ」
 ソウルの切った見栄を傍目に、彩歌が放つはアデプトアクション。
 予測演算の末に至った的確な一撃が『傲慢』を射抜く。
 例え攻撃が届かずとも、守護の皮膜を貫く事は出来る。ぱきりと、『傲慢』の何かが壊れて消える。

「猿の手よ、僕の鴉をもっと速く舞わせて」
 『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)が指し示したその道を、
 符で織られた鴉が駆ける。そして突き刺さる。けれどそれを見つめる彼女の心境は複雑である。
 視界に広がるのは余りにも強い輝き。サングラス越しに見えるのは酷く小さな球体である。
 それが何かは分からない。けれどあたかも黒点の様なそれは、ただ孤独で、どこまでも一つで。
 名前も無ければ所以も分からない。これでは墓も作ってあげられない。
 けれどその様な感傷は、彼女が墓守なればこそ。武器を振るう誰もに躊躇など欠片も無い。
「目に毒だわ、さっさと落ちなさい」
 紡がれた四色の魔曲が氷璃の掌の上で踊る。突き刺さった『傲慢』がゆっくり蠕動する。
 手応えは有った。手応えは有ったが、ここに来て流石に気付く。
 恐らく、今現在『傲慢』は、麻痺している。毒にもかかり、出血もしているだろう。
 しかし、強烈な光に包まれている為相手の本体がどういう状態か分からない。
 怒りは継続しているのか、居ないのか。手応えから判ずるしかないのである。
「この光、意外と厄介デスネ」
 改めて集中を始めた行方が呟く。再び閃光が襲い掛かるまでに俊介がこれを癒す。
 畳み掛ける様に攻撃する事はせず、常に集中から確実な攻撃を。
 これが彼らの組み立てたルーチン。それは決して間違ってはいない。
 対『傲慢』に対する定石の如き一手。だが、そこには決して小さくない問題を孕んでいた。
 
「……動き出した」
 天乃の呟きに、再び放たれる閃光。物陰に隠れ、或いは射程圏外へ退き、
 集中の間も対策を取る後衛陣に対し、前衛陣は愚直なまでに動かない。
 それは癒し手の力量を信じればこそか。これを俊介が癒しソウルが立て直し、準備を終えた行方が駆ける。
「傲慢な意志のみで相手を折れると思うなら大間違いなのデスヨ?」
 交互に振るわれ肉斬リと骨断チ、叩き込まれる強烈な打ち込み。
 怒りに猛り狂う『傲慢』は己を癒す術を失くしている。直撃を受け光が一瞬弱まったか。
 されど、されど、されど。
「貴様の勝手な絶望に俺達を巻き込むな。俺達は、そんなに弱くないッ!」
 拓真の大剣が光の中央へ振り払われ、彩歌の杖が正確無比に打ち込まれる。
「絶対であるが故に、独り。そして己の過ちにも気付かない。悲しいわね」
 癒しの術は鴉が奪う。如何なる神罰の光条にも、墓守は退く事は無い。
「君の威光で僕が揺るがされる事はない。死体が風邪をひかないのと同じでね」
 論理で以って『傲慢』を追い詰める。力を震えぬ七罪には大した力は無い。
 メンバーの中で唯一、『傲慢』の発する光に対する対策をしていなかった拓真の一撃が、一度。
 若干命中にハンデを背負うアンデッタの鴉が、更に一度空を切ると言うハプニングは有った物の。
 戦いは上手く運んでいた。4手に1度の攻撃はゆっくりと、けれど確実に『傲慢』を削り取って行く。
「自身を見失う程の完全なる自己陶酔、見苦しいわ」
 ――けれど、そこには歪みが生じていた。あくまで最小限の攻撃しか行わない攻め手に対し、
 前衛が動かないが為に、癒し手は過度の負担を掛けられる。
「サポートはするが、それ以上の事はできねえからな、しっかり頼むぜ、若造」
 そしてメタルフレームであるソウルと異なり、彼の歌い手は己が魔力を蓄える術を持たない。
「――っ、」
 ――――歌声が、止んだ。
 
●完全の条理に虚実はなく
「まだ……まだ、終わってないかんな!!」
 俊介が前に出る。癒しの歌は既に無い。故に、『傲慢』は此処に君臨する。
 放たれる閃光の讃歌。ブレイクフィアーでの回復に失敗した行方の攻撃がかわされる。
 これで、三度。最前線で観察を続けていた天乃が声を上げる。
「……皆、そろそろ、外れる人は……外れそう」
 巨大な光の塊で有った物は、削れに削られ、自らを癒す事も叶わず既に初期の3分の1程度。
 だが、此処からが本当の地獄の始まりである。
 当たる確証の持てない俊介が攻めに出られない。吸血する事さえ叶えば回復に回せる。
“―――控えよ”
 しかし、その一手が鈍い。癒し手無き戦場に神罰の威光が幾度も瞬く。
「おいおい……俺の葉巻の火は、まだまだ燃え尽きちゃいねえぜ」
 がくんと膝を折ったソウルが、運命の祝福を削って身を保つ。
「悪くない……ね。その傲慢、まだ付き合ってあげる」
 光に貫かれ、倒れた天乃が大地を握り膝を立て、光の王を睨みつける。
「……ええ、勘違いも甚だしいデスネ、矜持は……それでは折れないのデス」
 そうして一手遅れ、全身を灼かれふらついた行方が肉切り包丁を握り締める。
 倒れて行く、倒れて行く。けれど、誰一人として諦めない。
 決して止めない。決して止まらない。痛みにも、苦しみにも、絶望にも。止められはしない。
 光に満ちた、世界を救済せんとした『傲慢』の様に輝きを背負っていはしない。
 だが、命を燃やして戦うその姿を、果たして誰が滑稽と嘲笑う事が出来るだろうか。
 体躯を包まれ奔る激痛、心身ともに尽き果てた俊介が――地面へと倒れる。

 倒れ、枯れ果て、傷付き、もう一歩だって歩けやしない程に疲れ切って。
「……倒されない」
 それでも彼の威勢は揺るがない。流血嫌いの臆病な吸血鬼。
 かつて弱かった霧島俊介が消えた訳ではない。今もまだ、不安定で、脆くて、傷付き易くて。
 そんな自分を、けれど噛み砕く。人は弱さを打ち消して強さを得るのではない。
 弱さを乗り越えて、強くなるのだから。痛みを、妥協を、諦観を、弱音を嚥下する。
「……負けない」
 ここで負ければ、また多くの犠牲が出る。ここで退けば、再び悪夢が降る。
 孤独を知っている。喪失を知っている。何もかも失くした彼に、差し出された手を知っている。
 此処は悪夢の最果て。その終焉と終端の大地。であればこそ。
「……護る」
 譲れない物がある。
「絶対に……止めてやる」
 その喪失と再誕に――世界は、微笑む。運命の加護は必然としてその精神までもを癒す。
「俺が癒して、俺が生かす、誰一人欠けさせなんてしない――狡猾リコリス様なめんなよ!」
 今一度、響く歌声。全てを癒す天使の歌。
 リコリスの花言葉は幾つかある。「悲しい思い出」「深い思いやり」そして――「誓い」
 彼の誓約を、世界が認めた。ならばそれは勝利の歌に他ならない。
 都市伝説の少女が双刃を振るう。墓守の鴉が光を射抜き、失踪者が硝子の瞳で気糸を手繰る。

「例え、どれだけ世界に絶望が溢れていようと――」
「貴方如きに救われないといけない程、運命は退屈な物ではないわ」
「ここで……終われ」
 そうして振り下ろされた大剣、放たれた四色の魔光、
 そして押し付けられた死の爆弾が、轟音を立てて、爆ぜる。ぱきり、と罅割れる。
 ぱきり、ぱきりと、割れていく。
 彼らに立ち塞がり続けた『傲慢』が、割れて、壊れて、朽ちていく。
“―――ひ――――か―――――――え―――――――――”
 繰り返し繰り返した、何者かの声。途切れ途切れのそれが、断たれ、穿たれ、刻まれ、消える。
 光がもう一度だけ強く明滅し、そして消失する。
 あたかも最初から何も無かったかの様に。蝋燭の火が吹き消される様に。
 周囲に突如として影が落ちる。光が、墜ちる。
 『傲慢』なるは去り際までも如何にも傲慢に、誰もの予期をすら裏切って。
 ただ静かに。ただ、静かに。
 
●故に傲慢なるは罪に啼く
「何て言うか……墓暴きみたいで気が引けるな……」
 アンデッタのぼやきに、周囲を探っていた天乃が目線を向ける。
 『傲慢』が佇んでいた場所には何も無かった。いや、酷く曖昧ではある物の何かの気配はある。
 気配はあるのだが、それはどうも地面の下である。
「もし、どちらかが鍵を握っているとすれば自ら動こうともしない怠惰ね。
 アレには負の感情、世界への呪詛が詰まっているわ」
 氷璃の予期した通り、こちら側には何も無いか。
 流石に疲れ果てた8人で地面の下など到底どうこう出来る気がしない。
 他方では拓真が自らの幻想纏い。“正義”のタロットカードに何かを話し掛けている。
 どうももう片側のチームと連絡を取っているのだろうと解釈し、天乃もまた視線を外す。
「――ッ!?」
 外した。瞬間、世界が真紅に染まった。
 夕暮れではない。夕暮れの筈が無い。時節はもうすっかり夜だ。夜空が広がっているのだ。
 なのに、なのに、なのに。天乃の目線は一つの方向を向く。それは問うまでもない。
 考えるまでも無い。『怠惰』と名付けられたそれが在った筈の方角。
「……どうも、終わりまでもう一つ。大物が居そうデスネ」
 その中でも声を出せたのは、彼女の特殊な精神性があってこそか。
 誰もが絶句する様な濃密な狂気。かつて『暴欲』と呼ばれるエリューションとの戦いで、
 一人の少女の思考を焼き切ったそれ。それが毀れ出た。溢れ出た。そう、恐らくは。
「……なんだよ、」
 赤いと、あたかも現実であるかの様な密度でそう感じた世界。その色に、俊介が顔を顰める。
 それはまるで。それは……まるで。
「……なんだよ、これ」

 万華鏡の少女の直感通りか。全ては満ちる。満ちて、満ち満ちて、溢れだす、毀れだす。
 破綻は間もなく、ならばそう。いずれ彼らは耳にするだろう。七罪の終わりを。
 その時へ向け、帰路を辿る。彼らには勝者として、明日を生きる義務がある。

 だがそう、勝者が居て、敗者が居る様に。夜が来て、いずれ朝が来る様に。
 明日を生きられなかった者達が居た。明日を奪われた者達が、居た。
 悪夢の最果ての地で、罪が啼く。怨嗟を上げて、産声を上げて、罪が――啼く。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルシナリオ『【七罪】傲慢』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

戦術的には模範解答とも言うべき選択をして頂けました。見事成功です。
ただ、細部の詰めが甘かった点等あり相応の被害が出ております。
どの辺が不足していたかは本文中に込めさせて頂きました。
MVPは執念で戦線を支え続けた霧島俊介さんへ贈らせて頂きます。

この度は御参加ありがとうございます、シリーズ【七罪】もいよいよ最終戦。
またの機会にお逢い致しましょう。