●怠悪にして侵攻なる論理不全の排斥回路 面倒くさい。どうでもいい。辛い。苦しい。気持ち悪い、吐きたい、投げ出したい、くだらない。面倒くさい面倒くさい諦めたい潰れたい終わりたいくたばればいい砕ければいい消えればいいいなくなればいい失えばいい落ちぶればいい躓けばいい夢叶わねばいい努力を無に帰せばいい人生を無駄にすればいい恋敗れればいい死ねばいい。 堂々巡りの思考が嗜好が螺旋状にぐるぐる回って潰れ克てる世襲の果てにて奈落の底に沈んでいくのが実感にして時間の虚構に怨嗟する。六道廻りの流砂に塗れて伽藍堂の俯せが吐き気のひりつきと嫌悪に落ち込む羨望の苦虫に踏みつぶした交易に辟易の上より下へ堕落する。 嗚呼、面倒くさい。何もしたくない。そう考えるのすら面倒くさい。碌な論理も破綻した中で鬱々と思考の坩堝にはまっていくのも嗚呼もういいや面倒だし。あー、何もしたくない。面倒くさい。面倒くさい。 一際五月蝿く光り輝いた馬鹿が向こうの空に見えた。嗚呼面倒だ。面倒だな。畜生、こっち来るなよ。畜生、面倒だ。嗚呼、でもそうだな。面倒だから。 あれをああしてああしてみよう。 それはゆっくりと鎌首を擡げると、鬱々と毒を振りまいたまま痙攣を繰り返した。瘴気に撒き散らされ汚染された金屑共が、無理矢理の従者として忠誠を強いられる。 何もしない、何もしたくない。だったら、誰かが自分の代わりにどうにかすればいい。金屑の子鬼共が主人の代わりに金切り声をあげて、主人の代わりに世界を呪い始めた。 ●失くした鍵を探す兎は断頭台の夢を見るか カレイドシステムが静かに律動する。対シンヤへ向けた集中運用の直後、捉えられたそれは、彼女――『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がこの騒動の間もそのポイントをマークし続けていた事を示している。 「やっぱり出た。例の地点から、今回も2体」 ブリーフィングルームのモニターに映し出される。 「1つは……何だろうこれ」 眩し過ぎて良く見えない。強いて言うなら光の塊だろうか。 カレイドシステムはそれをE・エレメントであると示しているが、余りにも不必要な程に煌々と輝き過ぎており、実態的な形状が把握出来ない。 「……もう1つは、大きな虫」 くすんだ、濁った色をした大きな甲殻虫。只管横たわるだけのそれには、命の息吹が感じられない。停止している、停滞している、完了している。 良く見れば、その周囲から金属の小鬼の様な物が湧き出しでいる。 わらわらと、小さな小さな小鬼達が。生み出され、増殖し、蠢き始める。 「識別名、『傲慢』それに『怠惰』。先の調査から、この発生地点のどちらか、ないしどちらもに、何かが埋ってる事が判明した」 更に映像を変えるモニター。今までは相手を好き勝手動かせて居た為に、不鮮明であった出現地点。その位置が今回のエリューション出現を受けて確定する。 「近い内に、大規模調査をする必要がある。その為にも、今回は負けてられない」 これで計六体。そして付けられ続ける識別名。一度瞳を閉ざしたイヴが言葉を区切る。 「予知じゃなくて、これは……直感」 色の違うオッドアイがリベリスタ達を一瞥する。何処か遠くを見る様な不思議な色彩に、けれど声音は酷く静かに、底冷えのする様な危惧を滲ませ。 「多分そろそろ、タイムリミット。何か凄く嫌な予感がする。注意して。多分この2つのどちらかが、鍵を握ってる」 それが何か、分からない。けれど万華鏡の申し子たる彼女にしか、分からない事もあるのだろう。 告げて、送り出す。その最後のリベリスタがブリーフィングルームを出る瞬間、イヴの小さな呟きが聞こえた。 「あ。今回も逃がすと融合するから」 例え万華鏡の申し子でも、大事なことを言い忘れる事くらい、ある。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月28日(金)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●例えそこが火急の戦場であったとしても 失敗したとか絶望したとか落胆したとか沈没したとか失恋したとか絶滅したとか落丁したとか沈静したとか失墜したとか絶頂したとか落選したとか沈滞したとか心底心底どうでもいいから私に構わないでくれないか。 労力。と言ってしまえば大層ではあるが。行動においてその苦楽を論外に発生する代償。疲労。徒労。そう言った何がしか全てに対して介在する億劫という感情。それそのものは極自然な人間心理である。面倒。その一言の解消のために機械性は存在し、個体としての性能は便利性の優劣に直結しなくなる。と、まあ。今更に復習をしたところで今回のそれに対して如何にいった感情も緩めるものではないのだが。つまるところ、行き過ぎた精神性の発露である。これが。つまるべくはこれが。 いつもの場所、と呼んでしまってもいいだろうか。ここがどこともいうべくではないが。何にしてもここ。いつものここである。この場所においで、始原の相似において、アザーバイドの同時発生がいやに多いものだと『下策士』門真 螢衣(BNE001036)は思う。クライムミーツアクライム。大罪の結合は悲界を加速させる権化と上り詰めるのだとか。なれば、これを今ここで倒さねばなるまいと。 以前に一度、初めに一度、それは予言でなく結果として事実としてそこに存在してしまったことがある。貪欲にして暴食の化身。悪臭の三段目。ここでこれが失敗したというのなら、これらもまさしくああなるのだろう。怠惰にして傲慢の化身。強大な何か。怠慢のアバター。それだけは絶対に阻止してみせると『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は決意する。傲慢ならぬ慎重と、怠惰ならぬ積算により培われてきた力を以って。 面倒。面倒。面倒だ。それの意識よりも、それそのものが厄介で面倒くさい相手であると『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)。それが更に厄介なものへと昇華されるというのなら、なんとしても避けねばなるまい。自分だって、働くときはちゃんと働くのだ。 それを罪というカテゴリで分別するならば。幾人かは既にそれを経験している。 個人的には二体目か、と『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)は感慨耽る。以前相対したそれ。嫉妬の塊。あれは奇妙な性質であったが、今回のそれはやけに分かりやすいものだと。何もかも面倒くさい。だから誰かにそれをやらせよう。何もかも、禍福の底に落ちればいい。何もしたくない、何もしていたくない。ならば、その生からだって解き放ってやろうじゃないか。なあ、気の利いたプレゼントだろう。 『深層に眠るアストラルの猫』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)は共感する。自分もかなりの怠け者だ。もしかしたら、似たもの同士かもしれないと。それでも決定的な違いは生じるだろう。面倒事は嫌いじゃない。痛みも恋も大好きだ。消閑を毛嫌いしている。それがなくなれば、退屈に見舞われて死んでしまうと嘆くほどに。死にたくない。生きるのが好きだ。だから面倒事が好きだ。ほら、決定的に違っている。違ってしまっている。 貪欲。欲するが故に罪と落ちたそれ。倒しきる事が出来ず、災厄の前哨を生み出した過去は『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)にとって苦いものだ。あの時は悔しかった。自分の無力が情けなかった。だから、今回は負けない。負けられないのだ。 そう、けして負ける訳にはいかない。同じくして発生した大罪。暴食。食する罪。『臆病強靭』設楽 悠里(BNE001610)にしても、あんな思いをするなんて二度とごめんだ。ここで倒す。倒そう。倒さねばならない。 「七罪もこれで全部出たんかね?」 『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)が自分の言葉に気を引き締める。絶対に融合なんてさせはしない。しかし、まあ。ひとつだけ訂正するならば。これで終わりではない。この先が如何に未明であるとしても、それらが大罪に記載されたそれだというのであるならば。残っている。間違いなく残っている。激情が。激烈の激情が佇んでいる。 隠して夜は粘性の質感に伏せ、憶測は現実にかたどられていく。悪性腫瘍。過剰精神。鈍性の何かに縛られた宵闇は、深く静かに飲み込まれていった。 ●老婆の嬌声に赤子が泣き喚いたとしても 脳幹が麻痺したような錯覚。思考に費やす己すら嘲笑して無音に従事する。 通信を終えると、悠里は端末を閉じた。どうやら、向こうでも問題なく敵を発見したようだ。一息ついて、それを見やる。それ、巨大な甲虫。動く気配はない。まだこちらに気づいていないのか。それとも単に面倒がっているだけか。 理解はできないが、都合のいいことに変わりはない。打ち合わせたとおりに陣形を組み、それぞれが武器に手をかける。流石にそれを見てとってか、金屑の子鬼共が動き出した。アスファルトを駆ける音。大罪そのものはこちらに見向きもしない。 未だ嘶きのひとつも見せず。こうして死線の渦中はその猛りを現さぬままに幕を上げた。 ●直列を成した惑星に暁が瞬いたとしても 現状に甘えて未来を否定する。 空白。それは空白であった。感知できる振り幅を遥かに越えた痛みは、それそのものが与える衝撃を遮断する。理解できる現状を遙かに飛躍すれば、それへと穿つ論理思考を脳髄が断念する。よって空白。現状は空白であった。しかしそれも刹那のこと。根幹に気狂いそうな拷問を与え始めた己の肉体が、ここに至る経緯をウーニャに伝え始めた。 爆発、四散。 数多しと見て薙ぎ払った一撃は、反逆の爆裂を以って彼女に狼煙を見せつける。自爆。自縛。自分が成した以上のやり返し。過剰な復讐。痛い、痛い、叫ぶ声が掠れて途切れてひりついて枯れ果てるほどにしてもまだ足りないほど痛い。立ち上がれない、それもそのはずだ。ほら、腕も脚も半欠けじゃあないか。誰だよ笑ってるのは。笑うなよ。黙れよ。黙れ無いよ。分かってる。だってこれ、自分の声なんだもの。 眠りそうになる不甲斐なさを必死で殴りつけた。分かってる。ここで怠けてなんかいられない。それそのものを打倒する為に戦うのだから。未来を消費する。この先を犠牲に今を買い取っている。不満足に陥った四肢。その現実を否定して理想の世界を押し付けた。立ち上がる。激痛が喧しいけれど、腕も脚も残っていた。最後まで戦っていられることはないだろう。それでも、怠惰に屈するなど認めない。運命は自分で切り開かなければ、気の済むことはない。 「……挧めよ、童子。不動明王の正末の本誓願を以てし、この悪魔を挧めとれとの大誓願なり」 螢衣の呼びかけに応え、呪言の文字列が大罪の周囲に展開する。拘束。緊縛。それは怠惰を鈍重に貶めるも、しかし彼女が望むものではなかった。甲虫は一鳴きもせず、小鬼どもが顔を出す。従者レイズ。大罪の眷属は止まらない。ならばと、螢衣は己の役割を切り替えた。 「おん・きりきり・ばさら・ばさり・ぶりつ・まんだまんだ・うんぱった」 展開、発光。されど先のそれではなく、縛るものではなく、これは仲間を護るためのものだ。結ばれた印、唱えられる奏言が味方の盾となる。 金切り声をあげて、子鬼のひとつが飛び出した。だがそれは擬態の鴉に阻まれ、誰として道連れにすることなく花火に消える。その端くれに目もくれず、螢衣は傷ついた仲間の元へ駈け出した。 吸血。底の見え出したエネルギー。生命力を他者より強奪するヴァンパイアの特権行為。命は容易く銀貨に変わる。だが、それを否定されることもあるのだ。屍肉になって徘徊するのを嫌い、頭蓋を撃ちぬく青年のように。 自害。自縛。悠里の右腕はその否定によって失われていた。ぐちゃぐちゃに断面を見せた二の腕から流れる赤いそれ。夜暗に色が消えて、タールじみた血溜まりに溢れていく。古臭い電灯の明かりが、露出した骨を橙に染めた。嗚呼、人間のそれってこうなのか。場違いにもそんなことを考えて、痛覚が鎌首を擡げた。 悲鳴をあげない。あげたくない。痛い。痛い。なんて痛いんだ。それでも歯を食いしばる。奥歯が欠ける音。見開かれた眼球が飛び出してしまいそうだ。喉元まで這いあがる猛り。それを悪態に変えて、維持を通すことにした。 「こんな程度、暴食に比べたら!」 覚醒者の切り札。流れも道理も連鎖も断ち切り、生命を呼び戻していく。こんなことは認めない。今思う理想の架空を現実に塗り替えろ。飛び散った肉も、露見した骨も、一切合財を許可しない。荒い息をついて、無事な、無事になった利き腕を確かめる。頭が痛い。立っているのがやっとだ。きっとこの先は無い。それでも強がりを言おう。もうあんな思いをしたくないのだから。 「さぁ、覚悟してよね!」 「皆頑張ろうねっ!」 アリステアの歌が、従者に付けられた傷を癒していく。減力への抵抗は諦めていた。自爆に身を晒せば不健以前に多大な傷を負う。怠惰の悪意、最前線に無防備を強要するそれは凍てつきようがない。逆の意味で、回復の必要がないのだ。なれば、傷を拭うしか無いだろう。歌う、歌う。毛羽立った傷口が瘡蓋の膜を張り、皮膚の成長を打ち毅然を促していく。 裂傷の幕間。展開不順故に起こりうる攻防の一点。その針穴をアリステアは見逃さなかった。光陰が飛ぶ。身動ぎせぬ大虫に突き立った。多大なダメージ、とは言えない。致命の一打、とは言うまい。それでもひとつ。確実なひとつを最善の結末がために積み上げていく。 「ちょびっとずつでも本体にダメージを与えなきゃ!」 「そらっ、吹っ飛びなっ!」 ノックバック。宗一が打ち付けた渾身の一撃。それは金屑の従者を吹き飛ばし、大罪へと反逆を転嫁した。コンマタイム。自爆。爆裂。衝撃。破砕。火炎、豪風、陥没暴音痛打鬱血外傷空白悪意寝台怨嗟酷鳴。ピンボール。千本ノック。小鬼共を上手く対角線上に誘いこんでは打ち込み、砲弾へと変えていく。爽快だ。爽快で、痛快だ。何度でも弾き飛ばしてやろう。何度でも弾き飛ばしたって砲丸は無くならないのだから。ほらみろ、だってあいつが作ってる。生み出している。 外殻が歪み、ひしゃげていく。効いている、そうと確信で来てしまう。それでも事ここに至り、未だ大罪に動きを見せる様子はない。飽くまでも怠惰。なんて堕落。 「……ここまでやっても逃げねぇってのは、筋金入りの怠け者かね、こりゃ」 欠伸のひとつも見せず、それはそこに座している。取るに足らぬというように。下落も上天も一所において無意味だと嘆かぬように。打ちひしがれず。舞い踊らず。 ソラ・ヴァイスハイトの観察結果。戦闘中において、幾つか分かったことがある。動きまわる上に増減を繰り返しているため正確な数は分からないが、従者共のそれは少なくとも20以上。個体を潰していったのでは埒があかないだろう。獣の様に攻撃してくるが、個々の膂力は小さい。怠惰のそれと、この数を持ってしてようやっと戦闘になるくらいか。それ自身の攻撃に、大きなダメージはない。傷を負えば直ぐ様爆発するボムソルジャー。そういうふうにプログラムされているかのような行動だ。おそらく、個々の意志としての自爆ではないのだろう。逃走の気配は全くもって存在しない。ひしゃげて変形した骨格。罅割れた外装。折れた角。瀕死、とはいくまいが。少なくとも痛恨を受けていることは確かだ。その上で、ちぃとして動く気配がない。まるで嘲笑うかのように。それすらも面倒がるように。 観測によって得られた実績を、脳内で纏め上げた。フォルダを紐閉じる。変数は確定し、雑多な数列は短文の方程式に書き換えられていく。選ぶは最良の一手。唱えるは勝利への道標。雷嵐。遅れて、騒音。荒れ狂う暴風は金屑を巻き込み、刳り取り、怠惰への通線を築きあげた。構築された命令に従い、自爆する金鬼共。道は開いた。走れ戦士。 リセリアが飛び出していく。駆けろ、駆けろ。この道に、この針穴に剣を通せ。剣よ通れ。残った金屑が群がってきた。地が壁が迫り上がり、半欠けになった分だけ補充されていく。それでも、もう遅い。跳んだ。靴底は重力に別れを告げ、蒼銀が空を舞う。古臭い人工灯に照らされた刀身が、三日月のそれと重なった。斬音。鐵音。緑色をした臭い血噴を生んで、リセリアは再び弧を描く。今更に追いついた下僕が自分に襲い来るが、気になどしない。この瞬間、この連撃を逃す手があるものか。甲殻の隙間に刺し込まれた奴原が、肉を貪り命を毟り取っていく。跳んだ。飛んだ。翻り、翻って元の場所へ。剣を振り、汚らしい褒章を拭い払う。稲妻が道を開けて、また靴底が星と離れた。 小鬼の隙間を縫うて、戦槍が怠惰を貫いた。熱煙をあげる古銃に縄火を挟み、火蓋を切る。狙いをつけ、龍治は引き金を掻いた。夜暗を劈くそれ。この国では馴染みのないものだ。甲虫の複眼に突き刺さり、火薬が弾けた。悲鳴は上がらない。それだって怠けている。ならばもう一度、寸分違わず同じ場所に鉛を埋め込んでやる。肉が弾け、汚臭が突いた。それでも鳴かない。鳴くことがない。まるで怠りきった進化の果てに、そんな機能は腐り落ちてしまったかのように。 光弾の群れが従属を焼いた。その活路に味方が飛び込んでいくのが見える。もう一度。銃口に耳を寄せて、気づいた。息は乱れていない、震えてもいない。その無動作に強弱はわからず、死活の振り子も定かではない。それでも、わかる。獣の嗅覚が教えてくれる。そうだ、もうここまできたのだ。致命の寸前。タイムリミットだ。終戦は近い。 「――はてさて、一体何が見える?」 ●怨嗟激昂の十三段に踏み外したとしても 嗚呼、なんて面倒。 この期に及んで。否、やはりというべきか。 全身が罅割れ、崩れている。全身が崩折れ、響いている。気配など無用で、審美など不要。誰の目にも明らかな程、死にかけている。朽ちかけている。嗚呼それでも、それでもなおそれは動こうとしない。生きるのを放棄せず、死ぬことに踏み出さず。沼の入り口に脚だけかけて、ぬるま湯の中でまどろんでいる。こういうものなのだろう。最初から、最後まで。こういうもので終わるのだろう。 誰かが止めを刺そうとした時。時。と、きに。虚空が。割れた。 無数の腕、腕腕うでうでうでうでうでうでうでうででででででででででで。見られている。何かに見られている。ここには個々には群衆にも腕しか無いのに視線を感じて感じる誰かに誰らに見られている。軍列は大罪にしがらみ、群衆は怠惰を引きちぎり、郡体は甲虫を引きずり込んだ。何が何で何を何に何し何と心得る前にそれはそれらは強襲の強撃を以って驚嘆にも脅威した。何もない。何もなくなっている。怠惰も怠惰も怠惰も怠惰もここにはまるでいなかったかのように真っ赤に染めてそれが染め切ってしまって何もなかったかのように立ち込めている。 に、愛いた。 だから、これを幻聴だと思いたかった。 強欲に飽いた。 過食に空いた。 色欲に逢いた。 羨望に開いた。 慢心に明いた。 停滞に会いた。 耳鳴りが酷い。吐き気が辛い。頭痛がする。目眩に世界が狂いそうだ。 最早、堪え忍ぶことこれ叶わぬ。 許さぬ。許せぬ。許すことが出来ぬ。 楽死も悲生も願い得ぬ、禍罪の激情が有ると知れ。 息の詰まる怒涛が晴れて、世界が夜を取り戻していく。嗚呼、ここだ。忌まわしいこの場所だ。何もかもを恨んでいたら、何もかもを忘れていたような。淵の淵の淵から呪う、憤怒の化身に遇うたような。 言い知れぬ群青に渦巻いて、それでも明日をと。彼等は帰路についた。 続。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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