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<シンヤ逆撃>実験の果てに

●過去
 ――しかしだねぇ、これは危険なんじゃないかい?

 うるさい黙れ。お前たちに何が分かる。
 企画書をちゃんと読んだのか? 安全だと、何度も確認の上書いているではないか。

 ――安全だとしてもねぇ……やっぱりその、人を使った実験ってのはちょっとねぇ……

 希望制だ。何の問題がある。
 大体この実験は安全だと何度言えばお前らはっ……

 ――まっ、今回はなんだね。縁が無かったと言う事で……

 ふざけるなよ貴様。安全だと言ったろう。何かあっても責任は私が取ると言ったろう。
 話を聞けッ。初めから貴様、私の話を聞く気が無いだろう! 人体実験という単語だけに過剰反応しおってからに! 中身は安全だと何度言えば分かる! 何度言えば理解しようとするっ!
 ああ駄目だ。やはりどれだけ配慮してもここでは駄目だ。
 ならばどうする。許可を取らずに違法的にやるか? 駄目だ、警察辺りに直ぐにばれて終わりだ。
 どうするどうするどうすればいい……! 私は実験がしたいだけなのに、何故理解されない!
 安全を求められるのなら、安全性を確立してやる!
 結果を求めるなら、成功させてやる!
 だから私に実験をさせなさいっ! 私は……

「研究者なのよ……クソ野郎っ……!」

●現在
「おや、起きられましたか恵理子さん?」
 助手の声が聞こえる。――のは良いのだが、何やら頭痛が酷く、体を起こそうとすれば全身に激痛が走った。まずいまずいまずい、何この痛み。
「ええっと……ここはどこかしらぁ?」
「別のアジトですよ。以前の実験場はリベリスタ達に見つかっちゃいましたからね……破棄せざるをえませんでした。ああ、実験体は隣の部屋で大人しくしていますよ」
 ……ああそうか思い出した――あの後からまさかずっと気絶していたと言うのか。
 先の闘いをそう思い出しながら、戸田・恵理子はベッドから起き上がる。先程視ていた夢、あれは。
「全く、懐かしい夢を見たもんだわ。まさか過去の事とはねぇ……」
「なんですか恵理子さん。過去に思いふけって……おばさんみたいですよ」
 無言で、遠距離スキルの気糸を助手にマジ撃ちしながら恵理子は先程の夢を思い返す。
 あれはまだ恵理子が真っ当な人生を歩んでいたころの話だ。ある医学系の大学で己の研究を行っていた彼女は、その過程において人を対象にしたデータが必要な事案にぶち当たる。
 故、そのデータ取得の為に実験を行おうとしたのだが、ここで一つ問題が発生した。
 ――これは人体実験では無いかね?
 教授だったか誰だったか。とにかく誰かがそれを言葉にしたのだ。
 確かに、人を介した実験をやるつもりではあったが、さほど危険な物では無い。なにせ市販に出回っている安全性の高い薬を投与しての実験なのだ。どのような内容の実験だったのか長くなるので省くが、とにかく安全性はあった。
 だと言うのに人の噂は恐ろしい。放っていた結果、いつの間にか自分に“人体実験をしている研究者”等と言う御触れが付きまとっていた。
 一番厄介だったのはそれを本気で信じる者が多かった事だ。何度弁明しても無駄。あの時ほど人の思い込みが恐ろしいと思った事は無い。
「そんな時の私を拾ってくれたのがシンヤちゃんだったのよねぇ……」
 ああ、あの時の出会いは本当に感謝している。
 周囲からは腫れ物扱いされていたあの時、道を指し示してくれたのが彼だった。その道は決して明るい物とは言えず、むしろ引きずり込まれただけなのかもしれないが、
「それでも私は今、充実しているしねぇ。感謝してるわ本当に」
 だからこそ、
「――ほら助手! 虫の改良に行くわよ、なに寝てんの!」
「……あの、私は貴方にボコボコにされて……いや何でもないですけど。え、傷も癒えて無いのにまた実験ですか?」
 傷は確かに癒えていない。助手も、恵理子も重症を負って居る身だ。幸いにして動く程度には問題ないレベルではあるが、完治では無い。本来なら大人しくしておくのが最善なのだが。
「馬鹿ね。絶対リベリスタ達はまた来るわよ。多分、ここにも遠からず来るでしょうね」
「しかしここのアジトの位置がそう簡単に割れるとも思えませんが……?」
 助手の言う事はもっともだ。如何にアークと言えど、秘匿されてきたこの位置を調べ上げることなど困難な筈だ。少なくとも時間は掛る。
 その推測自体は間違いではない。――ただし、つい少し前まではの話だ。
 今やアークは恐山会から受け取った情報を元にしてカレイド・システムをフル稼働させている。このアジトの位置が知られるのも時間の問題だった。そうなれば重傷者二名のこんなアジトなど直ぐに陥落してしまう。まぁそんな事、彼らは情報として習得していない為その考えに至らないのは仕方の無い事だ。
「でもね、嫌な予感がするのよ……だから万一にそなえて虫に無理してもらおうかと思ってねー」
「だから改良ですか? まぁそうまで言われるなら付き合いますけどね……はぁ……」
 嫌そうな助手を引き連れて、恵理子は己が“実験成果”の元へと向かう。
 充実だ。充実している。昔と比べれば明らかにタガの外れた実験をしているが、それでもああ――自分は今、満足している。
 だからこそ、来なさいよリベリスタ。貴方達が来て私の実験は初めて始まるのだから。
 さぁ、それでは楽しい楽しい実験を始めましょう――?

●現在・別場所
「面倒くさい事が判明しました」
 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を目の前に、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は困った表情の顔を見せながら言葉を紡ぐ。
「ひとまず、現在のアークの状況は皆さん知っての通りだと思いますが……千堂 遼一らの情報を元に、後宮シンヤの所有する各地のアジトを現在特定中です。皆さんにはその中で特定に成功した一つのアジト、山中の別荘に向かってもらいます」
 緊張した様子のリベリスタ達。
 面倒くさい、と言ったその意味に身構えているのだろう。和泉はどう上手く説明した物かと思考しつつも、言葉は止めない。
「それで、面倒くさいと言った事なのですが……まず一つ目。敵のエリューションが強いです。正直どうしてあんなに強いのか分かりませんが、とにかく強いです。洒落になってません」
「そ、そんなに強いのか?」
「ええ。主犯たるフィクサード二名を足して×2したとしても、エリューションの方が強いです。まぁ詳細なデータは後で配りますのでそちらを見てください」
 ここで一息。彼女はこれを一つ目、と言った。
 ならば必ず二つ目が存在するのは必然で、
「そしてもう一つ。これがある意味最大限に面倒くさいのですが……エリューションを倒すと、別荘が自爆します」
「……はっ?」
 いえ、言葉の通りです。と続ける和泉。
「どうもエリューションの心臓と別荘の各地に仕掛けた爆発物が連携しているみたいで。エリューションを倒すと別荘が爆発します」
「……猶予は?」
「10秒……と、言った所でしょうか。倒し方によっては……20秒。脱出できるかはギリギリですね」
「なんでそんな物向こうは仕掛けてんだよっ……! 死なばもろともってか!?」
 和泉は答えられない。
 そんな事、分かる訳が無いのだ。狂人の思考など、常人には理解できないのだから。
「理由はなんであろうともこの絶好の機会、無為にする訳にはいきません。皆さん、どうかご無事で……そして勝利を掴み取ってください……!」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:茶零四  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月28日(金)00:18
 このシナリオは【<Blood Blood>死蝶】からの登場人物を流用しています。
 敵自体は一緒なのに、前回よりも状況が面倒くさい事に……頑張ってください。

【戦場】
 森の中の別荘。恵理子達は別荘の中心に位置する部屋に居ます。正面玄関から“15秒で部屋まで”辿りつけます。敵への接近などによって部屋の中にさらに踏み込むと脱出の際不便になります。
 部屋自体はそれなりに広い為、戦闘する事に支障はありません。
 ただし、別荘内は後述する鱗粉が既に散布されています。さらに各地には爆発物が仕掛けられており、エリューションの死亡から10秒後に爆発します。
 爆発する前に“一歩でも別荘から出れればダメージは無しとします”。ちなみに、巻き込まれた場合ダメージはそれなりにあるので気を付けてください。
 一応、爆弾は簡易的な物なので専門知識が無くとも解除可能です。しかしやたら数が多いので全部解除しようとすると相当時間が掛ります。

【敵】
戸田・恵理子
 実験を潰され、迫害に近い扱いを受けた所をシンヤに誘われフィクサードの道へ。結果、狂気のマッドサイエンティスとして彼女はシンヤの協力者となった。もう実験だけ出来れば良い。実験出来れば幸せ。狂気万歳。
 戦闘においてはプロアデプトの中級スキルまで使う。が、前回の戦闘の影響でHPが低い。
 戦闘中、実験体に対し的確な指示を出したりもする為それなりに厄介。

助手
 相変わらず本名不詳。インヤンマスターとクロスイージスの初級スキルを使う。
 前回の戦闘の影響でHPがかなり低め。全体的にステータスも下がっている。

実験体
 前回と違い、最初から成虫状態。ただし、その姿はドス黒い赤色の蝶と成り果てている。
 恵理子達により再強化された為、ステータスがさらに上昇している。特にHPが増大しているため、非常に打たれ強い。戦闘の際、壁のように前衛として布陣。
・強化鱗粉散布:神・全。実験体のターンが来たと同時に自動発動。【毒・猛毒・ショック・麻痺・魅了】の一つを高確率で付与する。さらにダメージも与える。ただし今回はさほど密閉空間では無い為、距離によって効果がまちまち。
・強化暴風:物・全。強化された暴風は、刃の様に襲いかかります。【ノックB・出血】の性質あり。
・シメントリー・プログラム:神・全。場に居る全ての敵からHPを吸収。【呪縛】のBSを低確率で付与。だが威力はさほどでもない。
・EX DMMM:神・全。【必殺・混乱】を必ず付与。Danse Macabre・Memento Mori。危機が迫ると一度だけ発動する。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
クロスイージス
鈴懸 躑躅子(BNE000133)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
スターサジタリー
坂東・仁太(BNE002354)
覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
クロスイージス
セルマ・グリーン(BNE002556)
デュランダル
結城・宗一(BNE002873)
■サポート参加者 2人■
ソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)

●邂逅
 始まりは割れる音だった。
 ガラスが破砕されている。森の中に佇む別荘の窓が次々とその形を失って行くに従って、進む影がいくつもあった。
「よっし、これで鱗粉の密度を下げれそうだな」
 廊下を走り抜けながら各地の窓を破壊しているのは『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)だ。
 別荘内に満ちている鱗粉。それらを少しでも外へ逃がそうという目的なのだが、
 ……おいおいやばすぎだろこの鱗粉……!
 ガスマスクを着用の上に、まだ目的の部屋からは遠いと言うのに、猛は僅かに鱗粉の影響下にあった。幸いな事に体の体調に変化は無いようだが、ダメージが僅かにある。
「こいつはやばいみたいやな。……はよう向こうに着かんと不利になるだけやで」
「なら早々に走り抜けましょうか」
 言って、速度を上げる『へたれ』坂東・仁太(BNE002354)と『錆びない心《ステンレス》』鈴懸 躑躅子(BNE000133)の両名。無論、それでも窓を破壊して行く事は忘れない。手当たり次第に破壊して、外の空気を入れながら目的地へと進んで行けば――
「いやー何と言うか……中に入んなくてもここだって分かるなぁ」
 辿りついた。
 中央の部屋へと通じる扉の前、『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)は嫌な予感を既に感じ取っている。
 間違い無くいるのだ。この先に、恐るべき化け物と成り果てたモノが。
 しかし退かぬ、退けぬ、退く訳が無い。彼らは確固とした意思を持ってここに来たのだから、
「それじゃあ行きましょうか。ここで、私達の手で終わらせましょう」
 闘気を全身に満たした『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)の言葉と共に――突入した。
 勢い良く扉を開けば、中に充満していた鱗粉が溢れだす。その濃度はまさしく異常。部屋の周囲にちらほらと展開していた鱗粉とは比べ物にならない。
「来たわねぇ。ようこそリベリスタちゃ~ん。それじゃ――」
 そんな部屋の奥から陽気な声がリベリスタ達の耳に届いた。
 恵理子だろう。彼女の声色はどこか嬉々としていて、まさしく狂人のソレである。知り合いに交わす挨拶の様に言葉を送れば、
「さようならぁ」
 続く言葉は別れだった。それと同時に襲いかかって来た物がある――風だ。
 いや、それを風と表現するには生易しいか。圧縮された無数の風はもはや刃。二か三か四か五か、それとも十か。
 風であるが故に視認の難しい刃風が、一つ残らずリベリスタ達に飛来した。

●激突
 襲い来る風。
 無数にして一撃。一撃にして全てを薙ぐ攻撃に、最初に真っ向から踏み込んだのは『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)と躑躅子の二人だった。
 臆さず、身を低くして前へ進む。背筋を狂気の風が掠るが構わない。二人の目的はとにかく実験体を押さえつける事。
「大した攻撃だな。でも、ビビってる暇も、止まってる暇も俺には無い……!」
 風を抜けた。
 右脚に力を入れて、快がその身を起き上がらせる。そして、実験体の真正面に布陣した二人は同じ動作を行った。
 己が体を光り輝くオーラで包んだのだ。それは護りの力を宿した物。ブロックを目的としている事を鑑みれば、的確なスキルしようと言えるだろう。さらに、
「――雷音さん!」
「ああ、承ったッ!」
 躑躅子の呼びかけに呼応して、後方で風を凌いだ『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が印を結ぶ。一瞬で行われたその動作の意味は即座に目に見える形で現れた。
 守護の結界だ。躑躅子達には守護の力を上乗せするように、そしてそれ以外の者にも同様に護りの力を与える。
「んじゃあ後ろの連中は任せな。キッチリ撃破してくるぜ!」
 次いで蝶の横をすり抜けて行くのは声を張り上げる猛と宗一、そして『畝の後ろを歩くもの』セルマ・グリーン(BNE002556)の三人だった。
 先の二人がブロックするならば、彼ら三人がやるべきことはフィクサード達の撃破だ。
 故、突撃する。最初の狙いは恵理子では無く補助スキルを保有する助手で、
「さぁてそれじゃあ年貢の納め時って奴だ。覚悟、してもらおうか!」
 まず先駆けたのは宗一だ。突撃する勢いと共に己が大剣に雷を纏わせ、袈裟切りの形で助手へと一閃。
 躊躇いなど無い。恨みも無いが、逆に全力を出すに値する理由など山の様にある。だから、と言う様に彼は効き足をさらに踏み込んで全力の一撃を加えた。
「ぐぅ、おのれぇ!」
 対する助手は、その身に剣撃を受けつつも流石に一撃では倒れない。
 印を結び、雷音が先程展開した守護結界をあちらも張った。迎撃するよりも援護した方が良いと踏んだのだろう。
「こんなモノが『研究』の『成果』だと言うのか……!」
 声はセルマ。彼女は背後の蝶の存在を肌で感じながら、同じ研究者として恵理子の事を認められなかった。
「嘗て持っていた筈の理想と信念は何処です、戸田恵理子! 目的を失って実験を重ねるなど、貴方はもはや狂人です! 研究者などでは――断じて無いッ!」
 激しい口調。糾弾するようにセルマの声は恵理子へと浴びせかけられる。
 ――認めない。
 絶対に、認めない。あんなモノは私が叩いて潰すと言わんばかりに、
「やかましいわね! 研究者ってのは狂人なのよ“そうであるべき”なのよ! 理想、信念? ちゃんちゃらおかしいわ! 狂人である事を受け入れられない半端者なんて――消えなさい!」
 さりとて恵理子もセルマの事を認めない。
 狂人であることこそが研究者の条件である、と言い放ち、彼女は思考の奔流を圧力に変える。
 いわゆるJ・エクスプロージョン。狂気の思考の塊が、前衛のリベリスタ達に炸裂した。
「……ん……大丈夫……エリスが……いるよ……」
 風が吹き、声が響く。
 エリス・トワイニング(BNE002382)の回復詠唱だ。それは攻撃を受けたリベリスタ達を覆い、彼らの傷を癒して行く。
「そんでもってここが俺の出番――!」
『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)がさらに行った。
 蝶を超え、恵理子と助手の双方に攻勢を掛けるべく、残影を生み出せば一気に薙ぐ。
「これで終わり、ね」
「本命はお前らや無いんや。決めさせてもらうで!」
 こじりと仁太の二人が同時に攻撃を仕掛けた。
 弓矢型の砲弾と、蜂が襲撃するが如き攻撃が纏めて助手達を襲う。着弾し、爆発が生じれば重症の身であった助手の身は塵の様に吹き飛んだ。
「助手が、チッ――虫! 前衛を薙ぎ払いなさい!」
 焦りを得た恵理子の指示が実験体へと飛ぶ。
 同時、粉が走った。悪意の鱗粉、それが瞬く間に部屋を、別荘を覆って行く。
 その上で蝶は恵理子の指示に応えるべく翅を羽ばたかせた。結果として生じるは先程と同じ風の刃。
「ぐぅッ――! 流石にこいつは避けれないか……!」
 その影響を最も強く受けたのは、蝶の最前線に立っていた快だ。
 風に押され、その身を後方へと払われるが、諦めない。体勢を立て直せば即座に前進。再びブロック出来る位置へと立てば、恵理子に対して十字の光を叩き込んだ。
「鱗粉に関しては私に任せてください!」
「來來氷雨、この実験が凍結するように……降りしきれ!」
 自らの身に浸食してきた鱗粉の毒を払う様に、躑躅子は邪気を払う光を放つ。
 そして光の効果が全員に満ちたのを確認して、雷音は部屋に雨を降らせる。呪力を用いた――凍結の雨だ。
「ぐ、ぁああ! まだ、まだよ! こんな程度で倒れる訳には――」
「いいやここで終わりだ! 行くぞ、砕けちまいな!」
「貴方の研究など私達が必ず潰します、潰して――みせます!」
 猛とセルマ、双方の技が恵理子に対して穿たれる。
 内部から破壊する気を猛はぶち込み、セルマは全身の膂力を己が祭器に込めて、降り抜いた。集中や構えによる準備を重ねたその攻撃は前回の戦闘影響により負傷していた恵理子の体に見事直撃する。
「こんな……く、くそうぅ……!」
 歯ぎしりする恵理子の体にはもう、立つだけの力は無い。
 膝から崩れ落ちるのをリベリスタ達が確認すれば――向き直るは実験体。現状における最大の障害にして凶悪な意志の下に生み出された怪物。
 そう、ここからが本番なのだ。ブリーフィングでも彼女は言っていた。
 フィクサード二名を足して×2したとしても、エリューションの方が強い――と。

●本番
「躑躅子! 場所、代わるぜ!」
 宗一が駆ける。フィクサード達を倒した事によって攻撃を集中させる事が可能になったのだ。故に、隊列を変更する為に彼は駆けた。
 接近し、大剣を肩に構えて大上段から振り下ろす。後方からの一撃は見事蝶の背を切り裂――
「な、んだとぉ!?」
 ――かない。
 効いていない訳では無い。だが、蝶の耐久力が高すぎる為に一撃では何ともないのだ。蝶は受けた攻撃に身じろぎ一つすらしていない。
 ……何かしたか? と言わんばかりの態度である。
「そんなら堕ちるまで撃ち込めば良い話や!」
 換気を良くする目的で全体を攻撃していた仁太が狙いを変える。新たな目標は蝶の喉。
 DMMM――蝶の最高攻撃力を誇るその一撃の阻害が出来ないかと考えたのだ。どうなるか今はともかく、正確な狙いは喉へと一直線。直撃する。
「認めない……! お前も、お前を生み出した者も、弄繰り回した者も、私は認めない……潰えて消えろッ、害虫!」
「今日の私は才媛テイストなサイエンティストなのよ――実験菜園場を再演出来ない様に力学で破壊するわ」
 神聖な力を込めて祭器を振り下ろすセルマに、後衛から前衛へと移って蝶に連続攻撃を加えるこじり。
 いずれも強力な一撃だ。それら全て、蝶の体に到達し強烈な衝撃をその身に発生させる。
 しかし、
「まずい、こじりさん!」
 快が咄嗟に動いた。複数いる前衛の中、こじりを快が庇ったのは攻撃力が最も高かった人物だからである。
 直後に訪れるは鱗粉。皮膚を焦がすかのような錯覚に陥るそれは、相も変わらず脅威だった。ガスマスクもさほどの役に立たぬとは、もしかすると皮膚からも浸食して来ているのかもしれない。されど真の脅威はそちらでは無く、
「おいおいマジかよ冗談じゃねぇぞ!」
 風の刃が事ここに至って驚異的な冴えを見せている。
 終の感じた風の数。最初は十前後だったそれが今や――二十か、三十か。
「これは、キツイな……! だが、攻撃は任せたぞ皆!」
「鱗粉だけは必ず私達がなんとかします! だから皆さん……!」
 ダメージを受けた前衛に癒しの符を張る雷音に、鱗粉の副作用効果光を持って打ち消す躑躅子。敵の攻撃に関して言えばなんとか防げている状態だった。
 とはいえ、いつまでもそのサイクルが持つか不明だ。特にブレイクフィアーを使える人材が居なくなった場合は致命的。時間の問題となってしまうだろう。
 だから、ああ、だから――
「早くぶちのめさないとな……毒浴びようが何だろうが関係ねぇ! 俺は――」
 猛が突撃した。
 拳を振り被り、跳躍するように蝶へと接近すれば、
「そもそもテメェらをブッ飛ばさないと気が済まねぇんだよ――!」
 言葉と共に剛拳を振り下ろした。
「止まるな、行くぞ!」
「うぉお――! 攻めの一手や、ひゃっぱつひゃくちゅう行くけぇの――!」
 続いて宗一が、仁太が、怒涛の攻めを展開する。
 ああ長期戦が不利など分かっているのだ。だから行く。速効だ。
 どれだけ耐久力が高かろうが不死身では無い。故に攻める。故に止まらない。自分達はまだ立っているのだから諦めるなど論外だ。
「――」
 気迫迫る勢いに、蝶の顔が歪む。流石に体力を削れて来たのだろう。
 良い傾向だ。実験体を倒せる道筋が見え始めている。

 ――正に、その瞬間だった。

「――っ、ぅ?」
 雷音の背筋に悪寒が走る。
 来る。そうだ、間違い無い。アレが来る。直観力に長けた彼女に感じられたその感覚は絶対。
 やばいやばいやばい駄目だ駄目だ駄目だ逃げろ逃げろ逃げろ――!
「来、るっ、ぞ……! 構えろぉ――!」
 圧倒的な重圧に喉が枯れそうに成りながらも仲間へと警告を発する。
 間に合ったか間に合わなかったか、その瀬戸際の中に置いて聞こえたモノは、

「――Danse Macabre――」

 絶大な破滅の音を纏いながら、

「――Memento Mori――」

 リベリスタ達の魂を直に揺さぶった。

「づ、ぅぅぁああああ――!!」
 誰の声か、叫びが聞こえる。
 実験体の発する音に込められた死の密度は異常を通り越してもはや地獄だ。リベリスタ全てを呑みこみ、伝えてくる言葉がある。
 ――死ね、踊れ踊れ、お前らは死ぬのだ、さぁ踊れ死者の踊りを見せるが良い――
 嘲笑が聞こえる。実験体が、蝶が笑っているのだ。
 さぁ死ねと。見せろ踊りをと。伝えに来たぞ貴様らの死をと。
 ――笑笑笑笑、笑笑笑笑、笑笑笑笑笑笑――!

「……あぁ……」
 そんな死を告げる足音が響き続ける中で、
「死の舞踊、死を忘れるな、か」
 唯一人だけ、己が声を響かせた者が居る。
「そんなもの――いつも近くに有るようなものだっ!」
 ――瞬間、全ての死を撃ち払う光が満ちた。
 雷音だ。
 全てを殺し、全てを惑わす声に彼女が無事だった理由は単純明快。
「っぅ……! どうやら……なんとか間に合ったみたいね……!」
 こじりに庇われたからだ。警告を聞いた瞬間に彼女は雷音を庇う行動に出ていた。
 その結果として皆に付与された混乱の悪意が打ち消される事となる。全体的なダメージは壊滅的なまでに負っているが、
「まぁ、もうちょいは行けるよな……!」
「コイツを逃したら、また犠牲者が出る。それは絶対許さない!」
 宗一が、快が、重傷と言える傷を負ってもまだなお立ちあがり、さらには。
「喧嘩はよ、ビビッタ奴の負けなんだよ――!」
「あと一撃打てれば良し。無理は承知の上……! 打と意地を以って、押し通す!」
 猛とセルマも立ちあがり、実験体に果敢に攻め込んで行く。
 ――馬鹿な、何故だ? 何故貴様ら生きている?
 蝶の疑念は恐れとなって、その翅を広げる動作を生み出した。
 シメントリー・プログラム。左右対称の陣を取って死を誘う翅から相手の生命力を奪い取り、さらには呪縛の呪いも付加する技だが、
「もう無駄です! 私達は、負けません!」
 回復役のエリスを庇う動作に出ていた躑躅子が、再びブレイクフィアーの光を輝かせた。
 峠は越えた。もはやBSなど怖くは無い。
「死ぬ時はワシがワシで決める。他人の好きにはさせん!」
 部屋の外に出てギリギリ重傷を免れた仁太が攻勢を仕掛ける。
 蝶の羽が崩れ落ちる。死を伝え、驚異の耐久力を誇った実験体の体は――今や限界を迎えていた。
「Carpe diem――明日なんて知らないけれど……」
 皆で明日を掴みたいから、
「私はただ『今』此処にあるモノを摘む為に居るのよ」
 言葉と共に打ち出される弓矢型の弾丸。
 電撃を纏いしその一撃は何よりも早く、何よりも強く蝶の体に穴を開ける。
 ――穿った。
「ooohhhh――!?」
 蝶の絶叫が聞こえる。
 強く、頑強で、一人の科学者の研究の末に生み出されたエリューションは今――その命を失ったのだ。

●後は――逃げろッ!
 闘いは終わった。蝶は消え、科学者は倒れ伏した。
 しかしもう一つだけ終わっていない事柄がある。それは、
「逃げろぉ――!」
 猛の一言より皆の意識が脱出へと向かう。
 そう。この別荘には爆弾が仕掛けられている。時間が無い、故に直ぐ逃げねばならぬ。
「ああもう畜生、面倒な物仕掛けやがって――!」
 愚痴を言いながらも快は脱出する。終の行動によって入り口付近へと運ばれていた科学者を連れて。
「な、にをぉ……!」
「黙ってください――死にたいんですか!?」
 何をしているのだと、そう抗議の声を上げる恵理子を問答無用で運ぶのは躑躅子。
 死なせない。如何な理由があろうとも、彼女はそのつもりだ。狂った科学者の信念にも負けぬ硬い意思を持って、彼女は二人とも助けようと。
「急ぎや! もうすぐ爆発するで――!」
 仁太の声が飛ぶ。周囲からは爆弾のカウントダウンだろうか、不吉な電子音が演奏の様に重複した音が聞こえる。
「間に合――った!」
 こじりの身が別荘から出た、瞬間。
「爆発……する!」
 割った窓から脱出したセルマが10秒の経過を感じ取った。
 直後に響くは、別荘全体で響き渡る爆発音とそれに見合う強烈な衝撃波。
「づっぉぉあああ――!」
 爆発の勢いに乗じて転がり出てきたのは宗一だ。
 多少巻き込まれたのか、火傷を負っているが致命傷では無いのが幸いと言った所か。
「アンタラぁ……何をぉ……」
 むしろ息も絶え絶えなのは恵理子達の方だ。
 なぜ助けたと、そういう視線をリベリスタに向ければ。
「仕方ないだろ、体が勝手に動いちゃったんだよ……!」
 その問いに、答えたのは快だ。
 護りに特化している彼の性は、例え敵であっても死なせたくは無かったのか。あるいは全く別の理由でもあるのか。何にせよ、体が勝手に動いたと言うのは嘘ではないだろう。
 そして、フィクサードも含め全ての無事を確認した雷音は安堵の吐息と共に己の養父へとメールを送る。
 狂うほど何かに打ち込む事は幸せかもしれないと。
 そしてなにより、無事を伝える内容を。

 今ここに蝶は散った。
 リベリスタ達は死の誘い手に苦戦ながらも見事――打ち勝ったのだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
【<シンヤ逆撃>実験の果てに】これにて終了です。依頼成功おめでとうございます!
 実験体が強い強い。壊滅的なダメージを負った~というのは間違いでは無く、本当にDMMMで壊滅に近い事になっています。フェイト使用の覚悟が無ければこの時点で負けていたかもしれません。あと鱗粉もブレイクフィアーなどの耐性が無ければ強力すぎるスキルだったのですが、お見事です。最後まで防ぎ切りました。

 何はともあれ、結果は成功。
 恵理子達は捕えられ、少なくとも彼女らが実験を再開する事は無いでしょう。
 狂気の科学者は皆様の努力で、潰えたのです。