●一節 うふふ、そんなに綺麗に弾けたら――まるで宝石(ルビー)みたいでしょう? ――――『鮮血令嬢』リーゼロッテ・アーベントロート ●飽食のエリプス 「話は大体聞いていると思う」 ブリーフィングに駆けつけたリベリスタを出迎えた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉は何時もより少しだけ性急なものだった。 ジャック・ザ・リッパーによる猟奇事件、そしてその事件から発展した一連の事態は今まさに転機を迎えていた。フィクサード組織『恐山』の名代としてアークを訪れた千堂遼一からもたらされた情報は打つ手に焦れていたアークの事態を動かしたのである。 「千堂の情報からシンヤのアジトに目星をつけてカレイドシステムを集中運用した結果、幾つかの拠点にシンヤ派のフィクサードが集まってる事が分かったの。後宮シンヤの居場所は掴めなかったけど……此方から拠点を叩けばそれなりの戦果になると思う」 イヴの言葉にリベリスタは頷いた。 『世の乱れを正す』というその性質上、後手に回る事が多いリベリスタであり、アークであるが、相手が完全な敵対姿勢を取る――逸脱したフィクサードである以上、先制攻撃は理に叶っている。相手が何かをするまで待つ、という段階はとうの昔に踏み越えている。攻撃計画が立案出来ると言うならばそれは大きな好機であった。 「大規模な計画になるのか?」 「一斉攻撃である事は間違いないけど、速度を重視してる。 電撃戦だよ。まだ恐らくはきちんと組織化されていない戦力だと思うから今こちらから叩けばかなりの打撃が見込めると思うから」 イヴの言葉にリベリスタは頷いた。 『恐山』との協定が成ったのはつい先程。 程無くしてエマージェンシー、そして攻撃計画の発動という訳だ。 まさに敵を飲み込まんとする勢いは今回の作戦において最重要視されていると言える。 「『ここの話』は何処を狙ってる?」 「横浜にあるとある豪邸。詳しくは資料を見て貰うとして――ここ」 イヴが端末を操作するとモニターにはまさに彼女の言う通りの豪邸が映り込んだ。細く白い指が操作を続ければ、今度は一人の男が画面の中に映し出された。 「ターゲットは、彼。フィクサード羽根墨玄人(はねずみ・くろと)。『宝飾のエリプス』、又は『飽食のエリプス』とも呼ばれてる」 モニターの中の醜い男はずんぐりとした肥満体で上背は小さい。 成る程、その体型は一目見てそれを連想する楕円(エリプス)であった。 「この男は表向きは宝石商の顔を持っているけど、後宮シンヤの後援者の一人みたいね。千堂達フィクサード組織はその辺りはキャッチしていたけど、表立って事を構えるのを好まなかったみたい。……これ幸いと私達を使おうという事だと思うけど」 「まぁ、そういう連中だよな。で、こいつはどんな奴だ?」 「『宝飾のエリプス』羽根墨玄人は見た目と違って高い戦闘能力を持っているよ。それに私兵として常に邸内に十人のフィクサードを置いてる。敵が多い事は分かってるんだろうけど」 「具体的にはどんな力を持ってる?」 「細かい事は移動の間に資料で確認して。注意が要るのは主に玄人の能力だと思う。 玄人は宝石を食べてパワーアップするの。そういうアーティファクトを持ってる」 「……何だそれ……」 「おかしな話だけど、そのままの意味だよ。 より純度の高い宝石を食べる程、強くなる。しかも累積して強くなる。 ルビーを食べれば攻撃力が、サファイアを食べればスピードが。ダイヤモンドを食べたら全部強くなる。効果はしばらくしか続かないけど戦闘には十分だよね」 「……勝てるのか?」 「玄人は何時でも戦闘補助用に最高級の宝石を持ち歩いているけれど『出来るだけ宝石を食べないで済ませようとする』。 要するに食べてしまえばそれは大きな損になるから望みはしない。 その辺りを突いて上手くやればチャンスはあると思うよ」 イヴの言葉にリベリスタは頷いた。 面倒は面倒だが大抵の仕事は何かしらの苦労がある。今日も例外に無いだけなのだ。 それに何より―― 「――後宮シンヤには借りを返さないといけないからな!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月28日(金)00:22 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●楕円の世界 「宝石輪舞曲。 赤いの、青いの緑色――はじけて飛ぶのは、理不尽ね」 謡うように、茫洋にたゆたうように。 『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)の薄い唇が散文的な言葉達を宙に浮かべた。 人は何故、生まれた時の純白を保ち得ぬのか。 人は何故、悪徳を悪徳と知りながらその手を罪に染め得るのだろうか。 大凡、高度に発達した知能こそがもたらした『不具合』は人が人として生を受け、人為る上で獲得してしまった『善悪の知恵の実』――まさに失った楽園で齧った『原罪』の味わいそのものなのだろう。 だからこそ、罪にはきっと罰が要る。 「……ま、何処にも悪趣味なヤツは居るって事だよな」 「類は友を呼ぶって言えばそれまでだけどな」 溜息混じりに言った桐生 武臣(BNE002824)に苦笑い交じりに『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が頷いた。 「シンヤのパトロンで協力者――成金趣味も当然か?」 宙に紫煙をくゆらせた武臣は自分で言いながら半ば合点がいった、というように遠目に屋敷を眺めていた。 「下品な男なのです。品性の欠片もないのです。 さおりんと比べるのも失礼なのです。そもそもうちのさおりんは……」 『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)の憤慨の方はさて置いて…… 十四人のリベリスタが今日狙うのは――成金趣味の酷いその屋敷の主。『宝飾のエリプス』羽根墨玄人そのひとである。玄人はこの日本の平穏に敵対する後宮シンヤを後援する有力なフィクサードの一人であった。 「なんか、この前は随分と好き勝手やってくれたみてぇじゃねぇか。それもシンヤってヤツが煽ったんだろ?」 「うん。シンヤへの借り、一つ一つ返させて貰わないとね」 『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)の言葉に『臆病強靭』設楽 悠里(BNE001610)が応えた。 「可憐な小鳥の翠の翼。癒す時が暫しではまるで足りまい」 その姿、まさに威風堂々。凛と逞しいその面立ちを幾らかの歯痒さと怒りで染めた『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)が呟いた。 「……我は今、非常に機嫌が悪い。 許せぬ、斯様な兇賊達の振る舞いが。そして……あの場に居合わせる事叶わなかった我自身をも!」 卑劣な策略で盟友の少女を拉致し、弄んだシンヤは彼にとって特別な宿敵であると言えた。 「気持ちは同じようだな」 「然り。後宮シンヤとその一派には、我々の盟友が随分世話になったようだ。 神秘探求同盟の一員として、その礼をしない訳にはいかんだろうね――」 それは刃紅郎にせよ、拓真にせよ、この『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)にせよ同じ事。 結果として少女は魔女アシュレイの手引きにより後宮シンヤのアジトの脱出に成功したがアークは協力を取り付けたエージェント千堂の情報を元に後宮派の動きを突き止め、そのまま逆撃の作戦を立案したのである。 「よく考えたらアイツに恨みはないんだけどね。まぁイケナイコト沢山してるよ、たぶん」 「……ん、シンヤの仲間だから……きっと……そう」 へらりと笑って軽く言った『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)にエリス・トワイニング(BNE002382)がコクコクと首肯する。 「せっかくの奇襲、相手が戦闘態勢を整える前に畳み掛けたいですね。焦らず急ぐ!」 『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)の声に仲間達は頷いた。 かの屋敷の中の防御態勢は割れている。『宝飾のエリプス』を追い詰める為の電撃戦――その算段をパーティは共有していた。 誰の顔にも使命感と決意が燃えている。遠い以前――或いはひょっとしたらつい最近。 自分がリベリスタとして戦場に立つ事を決めたのは『こういう相手』を止める為だったのかも知れない―― 巨悪に内心が滾る。怒りに燃える。 相応しく全力を出し得る、出すべき局面は――リベリスタの本懐であると言ってもおかしくはないのだから。 賽は投げられた。拓真のかざす得物は鈍く太陽の光を無数の無形に跳ね返す。 「良し、行こう。この手に勝利を掴み取る――その為に!」 ●侵入! 今日の作戦は可及的速やかなる電撃戦である。 千里眼で邸内を確認した『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)の合図を受けてパーティは一斉に作戦へと動き出していた。 「ま、出来る限り早くってのは――仕方ねぇよな!」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が如何に強靭な結界を用意しようと真昼の住宅地で起きる戦闘は長引けば人目を避け得まい。 敵の布陣は庭玄関に二人、エントランスに二人、邸内に四人、ターゲット玄人の護衛に二人である。 庭に侵入したリベリスタ達を出迎えたのは予定通りの見張りの二人であった。 「攻め入られるだけがアークじゃないの。 ね、理不尽、振りまきましょう、飽きるほどに、食べつくすの」 ルカルカの肢体が踊る。敵の元へと滑り込む。 その細腕の振りかぶる鉄槌は不似合いに『理不尽』なまでに速く、正面のデュランダルへと肉薄した。 「ね。不条理ってどこにもあるの――」 「貴様等――!」 庭のフィクサードは二人。 一方のパーティの戦力は十四に及ぶ。 邸内までは戦力を集中、一つの集団として突撃を敢行したパーティは寡兵等では止められはしない。 「キミ達に構ってる暇、無いからね――」 「そういう事だ」 嵐子の、武臣の銃口が容赦ない火を噴いた。 真昼の住宅街に不似合いな轟音はまさに非日常の訪れと呼ぶに相応しかろう。 多勢に無勢のフィクサードはリベリスタの勢いにすぐに後退に掛かった。 元より勝てる戦力差では無いのだからそれも当然の事。しかして、パーティはそれを容易く許す程手緩くは無い。 「逃がさない……!」 悠理の長い足が風を斬る。 放たれた不可視の刃は確かに間合いの外に居た敵の肩口を深く切り裂いた。 「さあさ、一気にいきましょう」 ぐるぐの気糸が間合いを走る。 「今度はこっちの番だよなぁ。 借りはちゃんとかえさねぇと寝覚めがわりぃし、ノシつけて返してやらぁ!」 モノマの気合と共に咆哮搏撃の黒い影が荒れ狂う。 十分な速力を生かした彼の武闘は行く手を遮る誰をも許しはしまい。 「往くぞ……新城、ヴォルテール……我等の闘争を開始せよ! 先ずは馬鹿に手を貸す大馬鹿者共……楽に死ねると思うなよ!」 怒号の如き王の一喝に空気が震える。肌がひりつく。 その巨体からは想像もつかぬ程の敏捷性を見せた刃紅郎は仲間の姿さえ振り返らず強引に敵への間合いを詰めた。 「邪魔だッ!」 王の戦刃によろめく黒服を拓真が強襲する。 その両手より繰り出された一撃は戦気を帯び、重い威力で鋼の啼き声を迸らせた。 鎧袖一触とも言うべき破壊力である。 後退する暇も与えず集中攻撃で庭のフィクサードを蹴散らしたパーティは玄関の厚い戸を蹴破り勢いのまま邸内へと侵入する――! ●足止め エントランスホールでの決戦は庭でのそれとは状況が異なるものになっていた。 パーティの動きは敵襲を邸内に悟らせぬというモノではなかった。 取捨選択の下にその『可能性』よりも『速力』を重視しての突撃なのだから当然であった。 彼等は首尾良く庭を越え、最短距離を最速で駆け抜ける事で邸内への突入を果たしたが敵もさるもの。敵襲を明敏に察知した彼等は短い時間で迎撃の態勢を整えていたのである。 「全く、義理立てする相手を間違っていると思うが……これも因果か」 重装のヴァルテッラが喰らいつく黒服の炎を帯びた拳をその大盾で跳ね上げた。 威力は減衰するも無傷とはいかない。威厳のある顔つきは僅かに顰められるも――簡単に傷みを悟らせる風では無かったが。 パーティは邸内の突入後、戦力を二手に分けていた。 一つがこのヴァニテッラ、モノマ、ルカルカ、武臣、そあら、フツ、恵梨香、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)にの足止め班。彼等はエントランスを中心に防備を固め、書斎に居る玄人達と護衛達の間を分断する役割を担っている。 そしてもう一つ――ぐるぐ、拓真、悠里、刃紅郎、嵐子、エリス、の標的班は問題の標的・羽根墨玄人本人を仕留めんというチームである。 準備の無い所へ多勢に無勢で攻め入った庭での戦いに比べ、戦力を散らした分だけ邸内での抵抗は激しさを増していた。 「私の後ろには一兵たりとも通さんとも」 壁として場に立ち塞がるヴァルテッラが戒めの気糸の巣箱で敵の後衛を狙う。 「……本音を言えば、私も羽根墨君と直接戦いたかったのだけどね」 数はまだリベリスタ側に優位があったが即時の撃滅は些か厳しい。フツが守護結界を展開し、そあらが、 「予測済みだわっ!」 「言ってやったもんね!」な顔をしたニニギアが回復の手を打つ。 迎え撃たれた分だけ否が応なく先手を取られた傷みを何とか立て直している。 足止め班は足止めを目的にするとは言え、敵自体を殲滅してしまえば玄人を狙えるのは同じである。 「邪魔、しないで」 大振りの鉄槌を備えたとて、場の誰よりも速い。 「遊撃、追撃、そして継撃。 ルカは不条理を与えるもの。理不尽の鉄槌でなぎ倒す、もの」 ルカルカの一撃は重さと速さを兼ね備える――まさに痛打だ。 「血反吐、吐かせてやるぜっ!」 流れる水が如き構えより、態勢を低く敵の懐へと潜り込んだモノマが重装の黒服の胸を強か叩く。 岩さえ砕く闘気の迸りは厚い装甲さえ物ともせず確かな手応えを彼の手の中に残していた。 しかし、支援を中心としたメンバーは場を維持するには十分だが、早期に押し切るにはパンチが足りない。 ……と言うより相手側が兎に角『粘る』心算なのが問題だった。 「ああ、面倒くせぇな。コイツは……」 後方より降り注ぐ魔曲の光を辛うじてマントで払い、目を細めた武臣が呟いた。 敵の後衛――特に回復手に狙いを定めていた彼は敵方の布陣に気を払っていたが、 「回復手は壁の向こうですね。確かに効率的な防衛ではあります」 千里眼を持つ恵梨香の言葉の通り。フィクサード陣営を支えるホーリーメイガスは味方の位置を利用し、通常の斜線の通らない位置に陣取り、細かい出入りや透視を活用して回復を自陣営に届けているようであった。 ……ジリ貧には違いないが時間が稼げるのは間違いが無い。 「……成る程、考えてみりゃ向こうも同じか」 身を翻し、斜線を確保し。やられたお返しとばかりに敵のマグメイガスへと銃口を向けた武臣は口の端を歪めて呟いた。 (足止めをしたいのは向こうも同じ。 連中が残ってる限りは俺達もこの場を動き難い、合理的だ) 考える頭を持った敵は時に正面衝突しか知らぬ暴威よりも厄介な事はある。 パーティの目的は玄人の撃破、肝心の玄人が手強い敵である以上は一刻も早く追加の戦力を届けたいのは山々ではあるが……それで挟撃を受けては元も子も無い。エントランスを抑えるこの足止め班が劣勢に陥れば玄人にとって最も安全な逃走経路を一つ増やしてしまう事にもなりかねない。 この場はあくまでこのまま――優勢で無ければならないのだ。 武臣のオートマチックが敵の頭目掛けて殺意の弾丸を撃ち出した。 余りに鋭い狙いで敵の頭部に突き刺さった一撃は確かな有効打になっていたが――戦いは当然、その程度では終わらない。 ●標的・玄人 「贅を尽くした邸宅、煌びやかな宝石。まるで似合わぬ、醜い愚物め」 吐き捨てる声は刃紅郎の侮蔑。 階段を駆け上がり書斎の玄人を目指した面々も――一方で予想以上の苦戦を強いられる事になっていた。 パーティの攻め手は苛烈だが、相対する玄人も只者では無い。 「……しっかり……」 エリスの天使の歌が消耗したリベリスタを賦活する。 「……何とか……しないと……羽根墨、玄人……」 しかしリベリスタを圧倒する力と技量を持つ彼はまさに手強い敵だった。 「……幾ら食べたの? おいくら万円?」 その『理由』を問う――ぐるぐの頬を汗が伝う。 「勿体ないでしょ!」 怪盗を自認するぐるぐにとって『食べさせたくない理由』はハッキリとしている。 お宝が目の前で男の胃袋に落ちていく様は余りに悲しいものである。 ――そんなぐるぐの内心を知ってか知らずか。 「そうだなぁ」 宝石を喰らう事で力を増す肥満体――『宝飾のエリプス』は卑しい笑みをその顔に貼り付けて不敵に答えた。 「ざっと、一千万って所か。だが――命の値段と考えればそれも安い」 「直に警察が来るだろう……それまで逃げ切ればそちらの勝ちだ、損得勘定は済んだか?」 「警察は『罪の無い市民』の味方だからなぁ。しかし、あてに出来る程頼りになる訳でもない」 これ以上の『飽食』を止めんとする拓真に玄人は人の悪い笑みで応える。 エントランスホールを仲間に任せて一気に玄人の書斎を攻めたパーティの動きは素早かった。 玄人と黒服達も即座に彼等に対応したが、『作戦通りに』拓真の一撃が護衛を打ち、 「堪えない敵ってのは厄介だね……」 飛び込んだ悠里が魔氷拳を玄人へ向けた。 「……ダイヤのように輝くアタシも食べられちゃう」 「そりゃあいい。お嬢ちゃんなら歓迎だ」 嵐子の軽口に応える玄人の顔には下卑た嘲笑が浮かんでいた。 パーティが玄人に用意した戦力は六人。足止めの八人より数こそ少ないがその内訳は攻撃的なメンバーが揃っていた。 嵐子の弾幕から刃紅郎、拓真の猛撃。悠里が飛び込み、ぐるぐがその隙を伺う―― 結論から言えば――外の戦力を鎧袖一触で蹴散らし、玄人に残された護衛を早い段階で圧倒し、打ち倒し、玄人本人を追い詰めにかかったパーティは『余りにも効率的に攻めすぎた』。それは本来ならば素晴らしい連携と、素晴らしい戦闘と褒めるべき事柄だったのだろうが――命あっての物種、と意識を切り替えた玄人は彼にとっては忸怩たる痛恨と呼べる『飽食』さえ最早躊躇う理由は無かったのである。 「あー、もー!」 食らわせまいと小細工を狙った嵐子だがこれは不発。 「いいのかな? そんなに宝石を使って。今頃アークが君の口座を抑えてるっていうのに」 「くだらんブラフだ。簡単にそんな手が打てるなら最初からフィクサードの商売なぞ成り立つまい」 「君はまだシンヤを理解してないみたいだね。 宝石を食べて損害を出して……パトロンを続けることが出来なくなった役立たずをシンヤがどうするかって気付かない?」 「シンヤをわしより知っている等と良くもほざけたものだ」 悠里の言葉を玄人は一蹴する。 玄人は醜い男だが決して愚鈍なタイプではない。 リベリスタ達が何を口で言おうともそんなものは届くまい。 展開は嫌でも彼に迫りに迫った命の危険を教えてしまっているのだから。 (このままだと……まずい……) 戦いの中、唯一攻め手ではなく癒し手として玄人の威圧に相対するエリスは本能的にそれを理解していた。 『宝飾』が輝く程に余力は失せている。宝石を喰らい続ける玄人の力が何処まで肥大するのか――それを考えた時、彼女の小さな肩に加わるプレッシャーは大抵のものではなかった。 「……実業家なのに。損得計算……しないと……」 エリスの目が見開かれ、 「え、何……まだ食べる気なの……?」 ぐるぐが呆れたような声を上げた。 「おうとも。わしもまだ死にたくはないんでな」 護衛こそ倒れたが展開が予断を許さないのはとうの昔に知れていた。 次はダイヤか。最早一刻の猶予も無い。ここで倒し切れと面々は一気に動き出した。 「えーい!」 一声発したぐるぐがナイフの切っ先を向け、毒の魔弾を飛ばす。 「……ここまでかっ!」 『飽食』を食い止めるに到らないならば――と。切り替えた悠里が華麗な蹴撃を繰り出した。 その攻撃はまさに、 「今だ。望月、外すでないぞ」 「はいはい。行くよ!」 連なる一撃に期待の声を掛けた刃紅郎と、見事続いた嵐子とに挟撃と連携の形を取るそれである。 覚悟を決めたリベリスタ達の猛撃が次々と玄人を襲う。貫き、叩き、切り裂き、傷付ける。 宝石を喰らった強靭なるフィクサードの肉体を痛めつけていく。 「小僧共……!」 呼吸を粗く憎悪の声を吐き出す玄人。 「……これで……!」 最大の機会にここぞと攻めに回ったエリスのセファー・ラジエルが開かれ、光を放った。 宙空に描き出された紋様より魔力の矢が撃ち出される。表情を歪めた玄人の胸を打ち、その肥満体を仰け反らせる。 最大の機会、最後の機会に拓真が飛び込む。 「負ける訳にはいかない……! リベリスタとして──そして、何よりも……!」 何よりも、我等が盟友に涙を流させた罪は、重い。 言わぬ本音が、何時に無い拓真のエゴが――想いが繰り出された一撃にレイズした。 打撃、衝撃、それは痛撃―― ――されど。 「残念だったなぁ……!」 傷付き血を流しながらも『宝飾のエリプス』は倒れない。 崩れかかるもそのまま姿勢を持ち直し、爛々と輝く目で大振りのダイヤを飲み込んだ。 間髪入れぬ。その全身より撃ち出された『飽食の弾丸』――無数の宝石の煌きは声も無くパーティ全体を飲み込んだ。 ●結末 フィクサード羽根墨玄人の私兵はほぼ壊滅。 しかし威力を増した玄人は標的班の囲いを突破し階下へ離脱。焦れる展開で残っていた部下の援護を受けながら遁走した。 警察の到着より前にリベリスタ達は邸宅からの脱出を果たす事には成功したが――標的の完全撃破には届かなかったのだ。 作戦はこの局面において双方の痛み分けという形でその幕を下ろした。 「全く、厄介な連中だ」 咥えた煙草を吐き出し踏み消す武臣の声はきっと全員の代弁になっただろうか。 ――今は未だ、決着ならず。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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