● あのぉ、あたし、よく言われるんです。へっぽこって。何でかと言うと…… 「……ふぅ、つ、強かったぁぁ~」 ここはとある県の砂丘です。乾いた風がかさかさと肌を撫でて、ひりひりと焼付く唇をわななかせながらへたりこみそうになりました。……熱くてすぐ立ち上がりましたけど。 「全くだ。本当に強かった……」 「あぁ、厄介だった……」 「ですよねぇ~」 皆の視線が、その時ぐりんとこっちを向いたんです。 「「お前がなぁ!!」」 「ぶえぇ!?」 なな、なんで、なんであたし!! 「お前なぁ、俺達に何発フレアバースト撃ち込んだのか覚えてんのか!!」 「俺は毒を喰らった!」 「俺は敵の攻撃に合わせて一撃貰ったせいでモロに抉られた!!」 「ふ、あ、うぇぇぇ……」 ひ、ひ、ひどいよみんな! そんなに怒らなくてもいいじゃない、あたしだって頑張ってるのにぃぃ…… ……そうですよね。うん、頑張ってるじゃすまないよね……命に関わるよね…… そう、あたし、やることなすことこんな感じなんです。 魔法を撃てば味方に当たり、階段を歩けば転げ落ち、お茶を運んだらぶちまける…… ついた渾名が、「災厄(ディザスター)」「暴風(パンデモニウム)」「脅威のドジ」そして…… 「この、へっぽこ魔女!!」 「ぶぇぅ!!」 うぅぅ、悪いのはあたしだけど、意地悪だ! あんまりにもあんまりなのでめそめそ泣きながらへたり込もうとした時、仲間の1人が慌てて制止しました。 「あっ、待てバカ、迂闊に動くんじゃ……」 「ふぇ?」 ぱさ。砂に手が落ちる音。 かちん。偶然何かのスイッチが入る音。 ふいいん。奇跡的に何かが作動した音。 「ぶぇぇ……」 ひぃぃぃん、と音がして、ふわんと身体が浮き上がりました。 「あっ……」 「また……」 仲間の絶望的な声が上がります。 ……えへへ。もう、何ていうか。 「ふえぇぇぇぇぇぇ……」 どひぅん、と。あたしの泣き声だけを置き去りに。身体が高速ですっ飛びました。 もう、何ていうか。 あたしの人生って、何なんだろうなぁ…… ● 唖然とするリベリスタ達。なんというか、あんまりにもあんまりな光景に口が塞がらないのだ。 「まぁ……こんな感じ」 映像を止めた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、いつも以上に無表情だった。 「このリベリスタの名前は、セラピア・ステートス。クラスはマグメイガス、種族はフライエンジェ」 更に。 「奇跡のドジ」 ここでリベリスタ達は、はっきりと少女の無表情の意味に気付いた。 あ、イライラしてるな、この子。 「先日の事案で発生したフィクサードの乱立、その一件に対応してた……彼女、ドジを除けばなかなか強力な、そう、無駄の塊みたいな強さを持ってるの」 とんとん、と地図を出すと、そこに色々なものを書き込む。 「ところが、撃破後、そのフィクサードの持っていたアーティファクトを『偶然』起動させちゃって……目下、遠方にある都市に向かって全速前進中。アーティファクトは機械的な流線型の魔力制御・包括行使装置……平たく言えば、魔女の箒の現代版。飛行だけじゃなく、自動で色々な動作を行う優れもの」 きっとあのドジより。 「膨大なキャパシティがないと起動できないから、あの人が動かしたのは必然だったのかも。とにかく、市街地で好き勝手させるわけには行かないから。都市に入る前に、食い止めてね」 イヴは相も変わらずイライラしていた。 そのイライラの源が、ドジだけではなく、胸の方にも向けられていたのかも知れない。そう口に出来るほど蛮勇の過ぎたリベリスタは、そういなかっただろう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕陽 紅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月03日(木)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 機械仕掛けの嘶きが、迫ってくる。 ごぉ、と篭った音を吐き出しながらこちらに迫るのは、流線型の機体だ。現代版の魔女の箒にまたがってひんひんとべそをかく少女の手元、手のひらで握るのにしっくり来る程度の細さしか有しない先端に、衝撃。飛来した矢ががつんと激突したのだ。 「ひぁ?!」 衝撃に体勢を崩しかける少女、しかし箒の方が勝手に姿勢を制御し立て直す。そのまま直進。何て便利、でも誰だろう、こんな危ないこと……って危ないのはあたしだよねぇ、思わず溜息を吐いてがっくりうな垂れる、その正面に浮かんでいた狐耳の青年を発見してその溜息は少しだけ安堵に変わった。 「ひぁぁ、助けてくださぁぁい……!」 良かった、アークの人だ、そんな感じの情けない悲鳴にこちらは混じりけなしの溜息を吐き出し、『日常の中の非日常』杉原・友哉(ID:BNE002761)――今しがた矢を放った青年は突っ込んでくる暴走魔女をかわした。めんどくさい事件、だがまぁ、へっぽこなのは通じるとこがあるし助けるか……街も大変だし。心の中で呟いた色々なことを込めて、ひとつ呟く。 「さて……めんどくさいが頑張るか」 「めんどくさがらないでぇー! ……ぶぇう!?」 叫ぶ泣き声が、不意に遮られた。マギノ・クラフトの飛行を遮る形での布陣を取る『のんびりや』イスタルテ・セイジ(ID :BNE002937)が身体の前に盾のように構えた銃剣と箒の柄がぶつかったのだ。互いにくるくると回るように距離が取られる。少しずれた眼鏡を直しながら翼を振って体勢を整え、イスタルテが叫ぶ。 「セラピアさん、ひとつ聞きたいことがあります!!」 「ふぁー、なんですかぁぁぁぁ……」 眼鏡の少女が指差したのはその身体のある一点、女性としてはいかんともしがたい悩みに囚われることもある、いわば胸部装甲。それを指差し、弾劾した。 「大きいことは正義ですかッ!」 「はいー?! え、えと、えー。邪魔なことの方が多いですよぉー!」 叫び声。この場合どう認識したらいいだろう、迷うが、取り合えず片付けてから聞けばいいか。静かに頷いて、殺意はひとまず棚に上げた。そのやりとりを見ながら、到着に先んじて既に全員に翼の加護を与えていたアゼル ランカード(ID:BNE001806)は苦笑する。 「たまにいますよねー、がんばってるんだけどなんか空回りの人って」 まぁ彼女の場合失敗しないようにしないと! と考えすぎて集中力が乱れすぎてるからって気もしますけどもー。尚も考えつつ、己の魔力を集中、統御する。マナサイクルだ。生来のどじっこ属性は……個性と割り切るしかありませんが。そんな風に眼を逸らすのも忘れない。その間にくるんくるんと回る体勢を再び勝手に制御する箒に、少女が泣く。 「……このセラピアとやらは」 その様子を、遠距離の高台、浜辺に散見される侵食され湾曲を得た崖の、そこに生まれるこれも浜辺特有の切り立った道路からイーグルアイによって観察しながら、トリストラム・D・ライリー(ID :BNE003053)が呆れたように呟いた。世界の恩恵を得る代わりに運でも犠牲にしたのかだろうか。まぁ、先ずは落ちて貰わねばならない。男は観察を続ける。その間にも、集中力が研ぎ澄まされていく。今は丁度、体勢を整えたマギノ・クラフトが再度の加速を始めたのを見た所だ。丁度箒のように膨らみ、しかし幾つもの合板や噴射口で構成される尾部に魔法陣が現れ、またも加速。それを迎え撃つように、鎌風が襲った。 「いっけぇ!」 「ぎゃあぁぁぁ……」 箒が勝手に回ったのと、危うく顔に当たるところだった攻撃に恐怖の叫びが尾を引く。神代 凪(ID:BNE001401)の攻撃だ。更に『羊の皮を被った狼老年』女木島 アキツヅ(ID:BNE003054)の射撃がばちんばちんとマギノ・クラフトに襲い掛かるが、これは障壁のようなものに防がれる。ある程度の防御力も有している様子だ。へっぽこ、ねぇ。ま、武器も女も手間がかかる方が可愛いもんさ。乗ってる娘、かわいいかな? などと軽口を心に思いつつも、きちんとAFを狙った射撃であったのにも関わらず逸らされたことに舌を小さく打つ。 「おい、そこのお前! 停止ボタンとかソイツ壊すとか出来ねーのか?!」 『Alternate』オルト メイガス(ID:BNE003057)の叫び。できたらやってますぅー、と遠くから聞こえてくる。よく見ると、手の甲を覆うように魔法陣が宙に浮いていた。束縛だろう。その前進を遮るように、『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(ID:BNE002878)がふわりと宙に立ちはだかった。 「高い火力の持ち主を殲滅する……だなんて。ふふ、面白い事を言ってくれる玩具よね」 その手に魔導砲を抱え持ち、魔力が流入する。 「良いわ。なら、私とあなた。どちらが殲滅されるか競いましょう」 殲滅砲台は、伊達じゃないのよ。ぺろりと唇を舐めて、撃ち出されるのはジャスティスキャノン。白光がじりじりと障壁を穿ち、次第にぶれはじめる。 「ひぁぁ、ちょちょ?! ま、待ってぇー!」 こうなると怖いのはセラピアだ。眼前にて今にも不可視の壁を破りそうになるジャスティスキャノンに 「も、もうちょっと加減してほしいなーって……」 「どうでも良いわそんなの」 ひどい! と叫ぶ、その眼前に不意にいくつもの魔法円が生まれては消えた。軋んだ低い音が次第にひぃぃん、と甲高く吸い上げる音に変わり、危険を示す赤色と黄色が明滅する。 「えっと、えっと……」 積もり積もったリベリスタ達の攻撃、少なくとも軽く捌けぬものと見た証か。点滅が早まり、消失。 「と、とりあえずまずいっぽいですー!?」 虹色の光が、眩く照らした。 ● 急激に動きの質が変化したマギノ・クラフトがぎぅん、とUを横に倒した様な軌道で反転する。友哉の放つ弓をらせん状に動いてかわす箒の煽りを受けて魔女が悲鳴を上げる。少し身を捩りながら空中でループすると、囮役のイスタルテ、それにクリスティーナに加えて敵の正面に立つ凪とオルトを結ぶラインに陣取った。展開しかける魔法陣、しかしそれは一瞬萎み、違う形を取って再展開する。 直後、雷光が宙を奔った。よけてぇ! という叫びと共に箒の先から撃たれたチェインライトニング。始めから最後尾を狙った一撃なのか、存外馬鹿な箒ではないらしい。直前、アキツヅがオルトに肩からぶち当たって射線から外し、凪は自力でかわすが、高速の機動による死角からの電撃は3人を焼いた。容赦なく電流は体を走る。直前に放たれたイスタルテのテラーテロールにより僅か追撃を止められた為になんとか受身こそ取るが、飛ぶこともままならず地に堕ちる。クリスティーナに至ってはそこで手足に異常を来たしたらしく、悔しげに空を眺めるばかりだ。 速い。隔てるもののない空中において、敵には俊敏さでなく最高速が最大のアドバンテージとなって現れている。あっという間に豆粒のようになると、複雑な機動を描いて一団の斜め上から急降下してきた。それを、今しがた回避したばかりの凪が迎え撃つ。直接突撃せんばかりの勢いに対し、逆に空を蹴って流水のように手刀で捌き、回転しながら燃える拳を膨らんだ尾部に回るように叩き込む。びぃと嫌な排気音を漏らしながら空中で横っすべりするのを見て 「なんだろ……どじっ子なのは良くわかったんだけど、ちょっと違和感?」 凪が首を傾げる。捌く直前、明滅した黒い魔法陣が消え去ったのだ。それを見て、抵抗だけは上手くいってる、という事実に思い当たる。 ……案外、思い込みが原因だったりしてね、とセラピアに若干の評価の手直しをしながらも、箒が姿勢を立て直すのを見る。それがこちらに加速しないうちに電撃の余韻を身に残す仲間に天使の歌をかけ、そしてオルトは再び叫ぶ。 「おぉい、何か、何でもいい! 抵抗が出来てんなら操作の仕様もあんだろ!」 「はっ、そうか! 何とか止めてみます!」 言うのは、金髪の魔女。目を閉じてむむむ、と集中すると―― しゅるしゅる、と魔法陣が畳まれていく。その様子を見て何だ、やれば出来んじゃねえか。そうオルトは思った。 その評価も次の瞬間裏切られるとも知らずに。 畳まれたと思われた魔法陣。それが、急激に今度は5つか6つほど、箒の後ろに展開された。へ? とセラピアとオルトがまんまるい目で首を傾げる。手元には小さく。 『eliminate Mode:Advanced』 箒から、盛大にビープ音が鳴り響いた。 それは例えば、シューティングゲームで言えば、パワーアップアイテムを取った状態になった様子で…… 「……えっと……ご、ごめんなさい」 「ばっかやろおおおお!!!」 直後、驟雨のようにマジックミサイルがそのひとつひとつから降出す。その合間にはチェインライトニングやらも撃たれて、ひとつひとつの精度が甘くなった代わりに阿呆のように弾数が増えることと相成った。仲間の声が罵声か悲鳴かわからないまま、ある者は直撃を食らいある者は気合で避けながらも追い込まれ、ただひとつ確かなのは、セラピアはもはやわんわん泣いてごめんなさいを連呼しているということだけだ。 「て、手間のかかる人だなぁ……」 観察を続けるアゼルが冷や汗をかいて呟く。先程から研ぎ澄ませていた耳を轟音の雨に打たせながら、それでも辛抱強く聴く。甲高い音、唸るような音、ただその場にあるだけで魔力を練れるものではないらしい。それは確かに何らかの機械的な細工だ。だからこそ、聞くだにその違いは動きに直結する。 「掃射の直前、それにこちらを狙う魔法と行き場を防ぐ魔法、やはり音があります!」 それを伝えるアゼルは、仲間にタイミングを指示するべく後ろに下がった。 そしてもう一人。 戦闘が始まってからこちら、観察に徹していたトリストラムがこちらに飛来して叫ぶ。 「攻撃が激しくなった分、速度は同じでも機動が単調になっている。癖も見た。判れば指示をするぞ!」 言いながら弓を引く。精密な狙いと共に放たれた矢が動力部を狙う。これはそのものを貫くことこそ障壁に逸らされ叶わなかったが、こちらにターンする刹那の直撃であったが為に突き刺さった矢の勢いのまま空中で水平に二転三転した。 「弓兵を前に──空を飛んでいる事の恐ろしさ、教えてやろう」 冷静に、そしてやや不敵に呟く。それを裏付けるかのように、同じく弓持つ友哉が弓を引き、解析を終えつつあることを見て取ると包囲するように動く。マギノ・クラフトを上回る速度で死角を取ると 「めんどくさいが、これくらいはやらせてもらうか……」 回転する尾部に突き刺さったトリストラムの矢と交わるような一撃を放つ。回避もままならぬままそれも突き刺さり、ばぢぃと火花が夜空に浮かんだ。再びそれを振り払うかのように上昇した箒は、少女のきゃーきゃーという悲鳴も無視するかのように魔法陣を展開した。それを見て指示をくれる解析班の声に従って轟音と共に打ち出されるマジックミサイルを小刻みにかわし、大回りにフレアバーストの爆炎を抜けながら、貫いた矢をさらに深く叩き込むように凪が業炎撃を叩き込む。指示を出しながら回復を行うアゼルは爆炎をかわし損ない飲み込まれるが、同じくその炎に巻き込まれそうになったオルトはまたもアキツヅが庇った。炎の逃げ道にあった魔法の弾丸に目を見張ったのだが、襟を引っ張られ、少女と入れ替わるように宙をくるりと舞い、弾丸を半自動型防衛装甲に受けてへしゃげながらも笑う。 「あんま動きすぎんな。少しちょんと避けるのが基本。自機狙い弾と単なるバラマキの見極めが肝心だぜ」 「うっせぇ」 その指摘を三白眼で流しつつ天使の歌を歌うオルト。テレパスで障壁を開けないか訊こうと思うも、手が離れないのならどの道無駄か、と考え直す。つまり、さっさと落とすしかない。銃剣を構えた少女が叫ぶ。 「そこです!」 狙うどころか抜く手も見せない早撃ち。イスタルテの肩に担いでいた銃剣から放たれた弾丸が、魔術の雨の間を潜って直撃し、敵の動きを止める。そして仲間の援護の為に更に遠距離からの弓の狙撃、トリストラムが撃った。読まれた動きによって位置を釘付けにされながらも未だ驟雨のように魔術を撃つ。よくもまあこれだけ魔力がもつと一同は感心した。 しかし度重なるその連撃、既に飛行は覚束ない。ふらりと風に流されて横に揺れたその箒の尾、そこに突き刺さっていた矢の一本、急所に切っ先こそ向いているものの奥深くまで達していない矢に 「もう、一発ーっ!!」 ごん! と炎の拳が食い込んだ。楔のように穿たれたその一撃、鏃は今度こそ奥深く貫通し、ばぢっと火花を散らした。ひぅん、と最後の音と共に、明滅していた魔法陣が消失する。沈黙した箒は、今度こそ何も出来ない。出来ないまま、次第にその舳先が下に向き、加速する。 つまりは…… 「ぶえぇぇぇぇぇぇ……」 墜落した。 ● リベリスタ達に空中でキャッチされた後で自分が飛べることを思い出したセラピアは、早々にリリースされた。今は海岸にぺたんと座り込んで、何だか悔しいやら安心したやらでめそめそしている。 「おーい、平気かー?」 友哉が声をかける。平気じゃないですー、という声が返ってきた。ずいぶんと風に煽られたりいろいろ吸い上げられたりと、疲れ切ってもいる様子だ。その背中に、トリストラムの声が浴びせかかる。 「助かって一安心……と言う場面で申し訳ないのだがね」 その声は糾弾の形で浴びせられる。 「助かったから、良かった──という思考で居るのなら君はリベリスタを止めるべきだ。次は……こうあるか分らないのだからな」 今はそれで良いかも知れない。しかし──他人の命が彼女の為に危険に晒される事があるならば、それに耐えれるか。そう考えた彼の一言に対し、涙をべしょべしょと流しながらもセラピアは、しかし断固として言った。 「いやです」 涙にぬれた瞳、そこにある固い決意の色。何事かあるのかも知れないし、ないのかも知れない。少なくとも、その目が曖昧ではないのを見て取ったトリストラムは、一先ずここで言っても無駄かと悟り肩を竦める。その空気を和ませるかのようにセラピアにちゃらちゃら話しかけたアキツヅの襟首を掴んで引き戻し、仁王立ちのオルトがぼそっと一言。 「お前なりに戦ってたんだろ」 「……はい」 ようやく涙を引っ込めたはた迷惑な魔女に、苦笑が周りから起きる。何だかんだ、悪い人間でも無責任なわけでもないのだということが周りに伝わったのだ。それを見届けてから、凪がアークに連絡をして残骸に触れる。 もしかしたら、何かこのアーティファクトにあるかもしれない。その行動を見て、今までの負債を晴らそうというのか、何と恐ろしいことにセラピアが立ち上がったのだ。よせばいいのに。 「あっ、触ってたあたしですし、何かお手伝……きゃあ!!」 後に誰かが述懐した。そういえば、あの娘がこの事件を起こしたのもこんなタイミングだったよな、と。 つまり、依頼を終えて、皆の気が抜けている、その時―― つるんと滑って前のめりに転倒した少女の手がかちんとマギノ・クラフトの残骸に触れ。 瞬間、辺りを閃光が―― 煙を吹く残骸に目を向け、黒こげのすすだらけな全員の体に目をやり。 「「お前やっぱり辞めろ!!」」 「ぶぇぇぇーー!?」 トリストラムとオルトの怒声とセラピアの悲鳴が、同時に夜空に響き渡った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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